説明

車両用シリンダ錠装置

【課題】オフ位置およびロック位置間の回動にあたってはプッシュ操作が要求されるようにしてインナシリンダがシリンダ孔に挿入される車両用シリンダ錠装置において、インナシリンダが長くなることを回避するとともにオフ位置およびロック位置間でインナシリンダが軸方向に移動することを可能としつつキーの種類を容易に増やすことができるようにする。
【解決手段】インナシリンダ18の前端面に対向するロックボディ39が、シリンダ孔21に軸方向移動を可能としつつ軸線まわりの回動を不能として挿入され、ロックボディ39をインナシリンダ18の前端面との間に挟むとともに該インナシリンダ18に相対回動不能に係合されるロータ42に、マグネットキー19を嵌合し得る嵌合孔43が設けられ、インナシリンダ18の前端部およびロックボディ39間に、嵌合孔43へのマグネットキー19の位置決め嵌合に応じて解錠作動するマグネット錠20が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ孔を有するシリンダボディと、前記シリンダ孔の軸線まわりに間隔をあけて設定されたロック位置およびオン位置間での回動を可能とするとともに前記ロック位置および前記オン位置間に設定されたオフ位置および前記ロック位置間の回動にあたってはプッシュ操作が要求されるようにして前記シリンダ孔に挿入されるインナシリンダとを備える車両用シリンダ錠装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車両用シリンダ錠装置では、インナシリンダの軸線方向に間隔をあけた複数個所に、シリンダボディに係合する方向に付勢されたタンブラーが設けられ、インナシリンダに設けられたキー孔に正規のメカニカルキーを挿入することで前記各タンブラーのシリンダボディとの係合を解除するようにしたものが一般的であるが、キーの種類を増やそうとすると、タンブラーの個数を増やす必要が生じ、それによってインナシリンダが長くなってしまい、シリンダ錠装置全体が長くなることによって車体への取付けレイアウトに制約を受けることになる。
【0003】
一方、特許文献1および特許文献2で開示されるように、インナシリンダの回動を許容する解錠状態と、インナシリンダの回動を不能とする施錠状態とを、マグネットキーを用いたマグネット錠で切換えるようにしたものがあり、このようなものでは、シリンダ錠装置全体が長くなることを回避しつつキーの種類を増やすことが可能である。
【特許文献1】特開2001−82018号公報
【特許文献2】特開2001−182411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1および特許文献2で開示されたものでは、シリンダボディに固定されたロック部材と、シリンダボディに回動可能に挿入されたインナシリンダに設けられて前記ロックボディに対向する円板部との間にマグネット錠が設けられており、インナシリンダがシリンダボディ内で軸方向に移動することは不可能である。しかるに自動二輪車等の車両用のシリンダ錠装置では、エンジン等に電力を供給するオン位置ならびに電力の供給を遮断するオフ位置に加えて、たとえば操向ハンドルをロックするためのロック位置が設定されており、操作位置を明確化するためにオフ位置およびロック位置間でインナシリンダを回動操作する際にはプッシュ操作を必要とするように構成されており、上記特許文献1および特許文献2で開示されたものでは、インナシリンダがシリンダボディ内で軸方向に移動することが不可能であるので、車両用シリンダ錠装置として適用することができない。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、インナシリンダが長くなることを回避するとともにオフ位置およびロック位置間でインナシリンダが軸方向に移動することを可能としつつ、キーの種類を容易に増やすことができるようにした車両用シリンダ錠装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、シリンダ孔を有するシリンダボディと、前記シリンダ孔の軸線まわりに間隔をあけて設定されたロック位置およびオン位置間での回動を可能とするとともに前記ロック位置および前記オン位置間に設定されたオフ位置および前記ロック位置間の回動にあたってはプッシュ操作が要求されるようにして前記シリンダ孔に挿入されるインナシリンダとを備える車両用シリンダ錠装置において、前記インナシリンダの前端面に対向するロックボディが、前記シリンダ孔に軸方向移動を可能としつつ軸線まわりの回動を不能として挿入され、前記ロックボディを前記インナシリンダの前端面との間に挟むとともに該インナシリンダに相対回動不能に係合されるロータに、マグネットキーを嵌合し得る嵌合孔が設けられ、前記インナシリンダの前端部および前記ロックボディ間に、ロックボディに係合する方向に弾発付勢されて前記インナシリンダに摺動可能に嵌合される複数のマグネットを有するとともに前記嵌合孔への前記マグネットキーの位置決め嵌合に応じて前記各マグネットの前記ロックボディへの係合を解除するように解錠作動するマグネット錠が、その解錠時に前記インナシリンダの回動を許容するようにして設けられることを特徴とする。
【0007】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記ロックボディを挟んだ状態にある前記インナシリンダの前端部および前記ロータが、軸方向相対位置を不変とするとともに前記ロックボディに対する相対回動を許容するようにして保持部材で保持されることを特徴とする。
【0008】
なお実施例のカラー47が本発明の保持部材に対応する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、シリンダ孔の軸線まわりの回動を不能としつつ軸線方向の移動を可能としてシリンダ孔に挿入されるロックボディが、インナシリンダの前端面と、マグネットキーを嵌合する嵌合孔を有してインナシリンダに相対回動不能に係合されるロータとの間に挟まれており、インナシリンダの前端部およびロックボディ間に、前記嵌合孔への位置決め嵌合によって解錠作動するマグネット錠が設けられるので、インナシリンダが長くなることを回避するとともにオフ位置およびロック位置間でインナシリンダが軸方向に移動することを可能としつつ、キーの種類を容易に増やすことができる。
【0010】
また請求項2記載の発明によれば、インナシリンダの前端部に、ロックボディおよびロータを、インナシリンダの前端部およびロックボディ間に設けられるマグネット錠を含んで小組状態に組付けることができ、シリンダ錠装置の組付け作業が容易となる。しかもインナシリンダ、ロックボディおよびロータが軸方向に移動しても、インナシリンダおよびロックボディ間のマグネット錠における各部寸法を一定に保持して確実な施・解錠作動を保証することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
【0012】
図1〜図11は本発明の一実施例を示すものであり、図1はシリンダ錠装置およびマグネットキーの縦断側面図、図2はシリンダ錠装置およびマグネットキーの分解斜視図、図3はマグネットキーをオフ位置で嵌合孔に嵌合した状態での図1の3−3線矢視図、図4はロックボディの一部切欠き側面図、図5は図4の5矢視図、図6はロータの一部切欠き側面図、図7は図6の7矢視図、図8はインナシリンダとの間にロックボディを挟んだロータにマグネットキーを差し込んだ状態でのシリンダボディおよびカバーを省略した斜視図、図9はカラーの一部切欠き側面図、図10はマグネットキーでオン位置に回動操作した状態での図3に対応した図、図11はマグネットキーでロック位置に回動操作した状態での図3に対応した図である。
【0013】
先ず図1および図2において、車両たとえば自動二輪車用のシリンダ錠装置は、操向ハンドル(図示せず)の操向操作を不能とするステアリングロック機構15の施・解錠操作ならびにイグニッションスイッチ16のスイッチング態様の切換操作を可能とするものであり、車体フレームのヘッドパイプ(図示せず)に取付けられるシリンダボディ17と、マグネットキー19を用いたマグネット錠20の解錠状態での回動操作による回動ならびに所定回動位置でのプッシュ操作による軸方向移動を可能としてシリンダボディ17に挿入、支持されるインナシリンダ18とを備える。
【0014】
前記シリンダボディ17には、該シリンダボディ17の前端(図1の右端)に開口するシリンダ孔21と、該シリンダ孔21の後端を開口せしめて前記ヘッドパイプとは反対側に開放する凹部22とが設けられ、該凹部22の開口端を覆うカバー板23がシリンダボディ17に取付けられ、シリンダボディ17およびカバー板23で収容室24が形成される。またシリンダボディ17の後端部(図1の左端部)には、前記インナシリンダ18の回動動作に応じてスイッチング態様を変化させるイグニッションスイッチ16が取り付けられるものであり、該イグニッションスイッチ16が備えるコンタクトホルダ25を回動可能に嵌合せしめるスイッチ収容孔26がシリンダボディ17の後端部に設けられ、該スイッチ収容孔26および前記収容室24間を隔てるようにしてシリンダボディ17に設けられた隔壁17aに、前記シリンダ孔21と同軸である貫通孔27が前記収容室24およびスイッチ収容孔26間を結ぶようにして設けられる。
【0015】
前記シリンダボディ17の前端部は、該シリンダボディ17の前端部を嵌合せしめる筒部28aと、該筒部28aの前端から内方に張り出す鍔部28bとを一体に有するカバー28で覆われるものであり、該カバー28は、たとえば一対のねじ部材29,29で前記シリンダボディ17に締結される。
【0016】
前記シリンダ孔21は、前端を開放した大径孔部21aと、前方に臨む環状の段部21cを前記大径孔部21aとの間に形成して大径孔部21aの後端に同軸に連なる小径孔部21bとから成る。前記シリンダ孔21の周囲には、ロック位置およびオン位置と、ロック位置およびオン位置間に配置されるオフ位置とが、シリンダ孔21の軸線まわりに間隔をあけて設定されており、インナシリンダ18は、ロック位置およびオン位置間で回動することが可能である。而して前記カバー28における鍔部28bの前端には、図3で示すように、ロック位置に対応した「LOCK」、オフ位置に対応した「OFF」、オン位置に対応した「ON」がそれぞれ表示される。而してロック位置およびオフ位置間の角度αがたとえば90度に設定され、オフ位置およびオン位置間の角度βがたとえば45度に設定される。
【0017】
インナシリンダ18は、前記シリンダ孔21の小径孔部21bに回動可能に嵌合されるロータ部18aと、該ロータ部18aに連なってクランク状に形成されるとともに前記収容室24に収容されるカム部18bと、前記ロータ部18aと同軸にして前記カム部18bに連なる軸部18cと、非円形形状を有して前記軸部18cに連なるスイッチ連結軸部18dとを一体に有する。前記軸部18cは貫通孔27に回動可能かつ軸方向の移動を可能として挿通され、前記スイッチ連結軸部18dは、イグニッションスイッチ16の前記コンタクトホルダ25に、軸方向の相対移動を可能としつつ軸線まわりの相対回動を阻止するようにして嵌合、連結される。しかもインナシリンダ18の軸部18cおよび前記スイッチ連結軸部18d間に形成された段部18eに当接されたばね受け板30およびコンタクトホルダ25間には戻しばね31が縮設されており、この戻しばね31のばね力によりインナシリンダ18は前方側(図1の右方側)に弾発付勢される。
【0018】
前記インナシリンダ18のロータ部18aにおける前端には、シリンダ孔21の大径孔部21aに挿入される円板部18fが一体に連設される。ところで、インナシリンダ18は、そのロック位置、オフ位置およびオン位置では、図1で示すように、前記戻しばね31が発揮する弾発力によって前記円板部18fが前記段部21cから前方に離隔した前進位置に在るのであるが、オフ位置およびロック位置間での回動時にはその回動操作に先立って前記戻しばね31の弾発力に抗したプッシュ操作が要求される。
【0019】
ステアリングロック機構15は、前記インナシリンダ18のカム部18bと、インナシリンダ18の軸線と直交する平面内でスライド作動することを可能としてシリンダボディ17に支承されるロックピン32と、前記インナシリンダ18を貫通せしめて前記ロックピン32に固定される連結部材33とで構成される。前記ロックピン32は、前記インナシリンダ18の回動に応じて転舵操作の許容および阻止を切換えるようにしてシリンダボディ17に設けられた摺動孔34にスライド可能に支承され、収容室24内で前記連結部材33にインナシリンダ18のカム部18bが連結される。すなわち連結部材33には、前記カム部18bを挿通せしめる連結孔35が設けられるものであり、カム部18bがクランク状に形成されていることにより、インナシリンダ18が回動するのに伴ってロックピン32がスライド駆動される。
【0020】
而してインナシリンダ18のオフ位置では、ロックピン32はその先端部を摺動孔34の外端開口部に対応させた位置に在り、インナシリンダ18のオン位置では、ロックピン32はその先端部を前記摺動孔34内に引き込んだ位置まで後退し、インナシリンダ18のロック位置では、転舵操作を阻止すべくシリンダボディ17から先端部を突出させた位置となる。
【0021】
前記インナシリンダ18の前端面すなわち円板部18fの前面には環状凹部38が設けられており、前記シリンダ孔21の大径孔部21aには、前記円板部18fの前面に対向するロックボディ39が、軸方向移動を可能としつつ軸線まわりの回動を不能として挿入される。
【0022】
図4および図5を併せて参照して、前記ロックボディ39は、前記円板部18fの前面のうち前記環状凹部38で囲まれる部分に対向する円板状の壁部39aと、前記環状凹部38に嵌合するようにして前記壁部39aの外周に連なるとともに内周を段付きとした円筒状の嵌合筒部39bと、嵌合筒部39bとは反対側に延びるようにして前記壁部39aの外周に連なる短円筒部39cと、前記壁部39aの外周の複数個所たとえば2個所から半径方向外方に突出する係合腕部39d,39dとを一体に有するものであり、前記嵌合筒部39bは、インナシリンダ18の前端の円板部18fとの間にOリング40を介在せしめるようにして前記環状凹部38に嵌合される。
【0023】
また前記両係合腕部39d…は、前記円板部18fの外周よりも外側方に突出するものであり、シリンダ孔21における大径孔部21aの内周に設けられて軸方向に延びる係合溝41,41に前記係合腕部39d…が係合される。これにより、ロックボディ39は、シリンダ孔21の軸線に沿う方向の移動を可能とするものの、軸線まわりの回動を不能として前記大径孔部21aに挿入されることになる。
【0024】
前記ロックボディ39は、インナシリンダ18の前端面すなわち前記円板部18fと、ロータ42との間に挟まれるものであり、このロータ42は、嵌合孔43を中央部に有してリング状に形成される。
【0025】
図6および図7を併せて参照して、前記ロータ42の前記ロックボディ39側の端面には、前記ロックボディ39の短円筒部39cを嵌合する環状凹部44と、該環状凹部44の一直径線上に延びて環状凹部44に連なる一対の係合凹部45,45とが設けられており、インナシリンダ18の前端の円板部18fの外周の2箇所に連設されてロータ42側に延びる一対の係合突部46,46が前記両係合凹部45…に係合される。これにより、ロックボディ39をインナシリンダ18の前端の円板部18fとの間に挟むロータ42がインナシリンダ18に相対回動不能に係合されることになる。また前記ロータ42の外周には前記インナシリンダ18とは反対側に臨む環状の係止段部42aが形成される。
【0026】
図8で示すように、インナシリンダ18の円板部18fおよびロータ42で挟まれたロックボディ39が備える一対の係合腕部39d…は、前記円板部18fおよび前記ロータ42の外周から外側方に突出するものであり、ロックボディ39に対してインナシリンダ18およびロータ42が回動する範囲は、前記係合腕部39d…に前記係合突部46…が当接することで180度未満に規制されるが、その範囲は、シリンダボディ17に対してインナシリンダ18が回動する角度(α+β)、この実施例では135度以上に設定される。
【0027】
前記ロックボディ39を挟んだ状態にある前記インナシリンダ18の円板部18fおよび前記ロータ42は、軸方向相対位置を不変とするとともにロックボディ39に対する相対回動を許容するようにして保持部材であるカラー47で保持される。
【0028】
図9において、前記カラー47は、前記インナシリンダ18の円板部18f、前記ロックボディ39および前記ロータ42を囲んで基本的に円筒状に形成されるものであり、その前端には、前記ロータ42の係止段部42aに係合する係合鍔部47aが半径方向内方に張り出すようにして一体に設けられる。
【0029】
また前記カラー47の後部側の周方向に等間隔をあけた4個所にはスリット48,48…がインナシリンダ18側に開放するようにして設けられており、各スリット48…相互間の中央部でカラー47の後端部には、前記インナシリンダ18の円板部18fに後方側すなわちロータ42とは反対側から係合する係合爪49,49…が一体に設けられる。而して、前記ロックボディ39を相互間に挟んだ前記円板部18fおよび前記ロータ42を、前記カラー47にその後部側から挿入し、前記ロータ42をカラー47の係合鍔部47aに当接せしめ、前記係合爪49…を前記円板部18fに係合すべく折り曲げることで、ロックボディ39を挟んだ状態にある前記インナシリンダ18の円板部18fおよび前記ロータ42が、軸方向相対位置を不変とするとともにロックボディ39に対する相対回動を許容するようにしてカラー47で保持されることになる。
【0030】
而してシリンダボディ17の前端部を覆うカバー28が備える鍔部28bは、前記カラー47の前端の係合鍔部47aに当接して該カラー47の前進位置を規制することになり、カラー47で保持された前記円板部18f,ロックボディ39およびロータ42は、シリンダボディ17に設けられた環状の段部21cにカラー47の係合爪49…を当接させる後退位置と、カバー28の鍔部28bに前記カラー47の前端の係合鍔部47aを当接させる前進位置との間で軸方向に移動することができる。
【0031】
前記インナシリンダ18の前端部の円板部18fおよび前記ロックボディ39間には、インナシリンダ18の回動作動を阻止する施錠状態ならびにインナシリンダ18の回動作動を許容する解錠状態を切換えるマグネット錠20が設けられており、このマグネット錠20は、ロックボディ39に係合する方向に弾発付勢されて前記インナシリンダ18に摺動可能に嵌合される複数個たとえば5個のピン状のマグネット50…を有し、ロータ42が有する嵌合孔43へのマグネットキー19の位置決め嵌合に応じて前記各マグネット50…の前記ロックボディ39への係合を解除するように解錠作動する。
【0032】
前記環状凹部38で囲まれた部分で前記円板部18fには、複数個たとえば8個の摺動凹部51,51…が、ロックボディ39の前記壁部39a側に開口するようにして設けられており、各摺動凹部51…のうち選択された複数個たとえば5個の摺動凹部51…に、前記ロックボディ39の壁部39a側の磁極配置が適宜の組み合わせとなるようにして前記マグネット50…がそれぞれ摺動可能に嵌合され、5個の前記摺動凹部51…の底部および各マグネット50…間には、各マグネット50…を円板部18fの前面から突出させる側にばね付勢するばね52…がそれぞれ介設される。
【0033】
一方、ロックボディ39の前記壁部39aには、図5で明示するように、前記円板部18f側に開放した複数個たとえば8個の係合凹部53…が、前記円板部18fに設けられる摺動凹部51…と同一の配置で設けられており、それらの係合凹部53…のうちの5個に前記マグネット50…の一部がそれぞれ係合している状態では、インナシリンダ18の回動作動が阻止されることになる。
【0034】
マグネットキー19は、合成樹脂から成るホルダ54に前記円板部18fに配設されるマグネット50…と同一個数のマグネット55…が配設されて成るものであり、ホルダ54は、横断面形状を略直角四辺形状とした嵌合部54aと、該嵌合部54aの後端から外側方に張り出す鍔部54bとを一体に有して合成樹脂により形成される。しかもホルダ54の背面部中央部には一直線状に延びる支持部54cが一体に設けられており、該支持部54cに連結ピン58を介して摘まみ58が連結される。
【0035】
前記ホルダ54の嵌合部54aには、前記ロックボディ39の壁部39aに設けられる係合凹部53…に対応した位置に配置される複数個たとえば8個の収容凹部56…が前記壁部39a側に開口するようにして設けられ、各収容凹部56…のうちの5つには棒状のマグネット55…がそれぞれ収容される。また各収容凹部56…の開口端は、ホルダ54に固定される非磁性材料製の閉塞板57で閉じられる。
【0036】
マグネットキー19に配設される各マグネット55…は、円板部18f側の各マグネット50…の前記壁部39a側の磁極と同一の磁極が壁部39a側に配置されるようにして収容凹部56…に収容されるものであり、正規のマグネットキー19がロータ42の嵌合孔43に嵌合されたときには、同一磁極の反発力によって、インナシリンダ18の円板部18f側のマグネット50…はばね52…のばね力に抗して係合凹部53…から離脱するように摺動凹部51…に押し込まれ、これによりロータ42およびインナシリンダ18の回動作動が許容されることになる。
【0037】
ところで前記ロータ42の嵌合孔43は、図6および図7で示すように、マグネットキー19におけるホルダ54の前記嵌合部54aを相対回転不能に嵌合せしめる第1嵌合孔部43aと、前記鍔部54bを嵌合せしめる第2嵌合孔部43bとが、前記鍔部54bを当接せしめる環状段部43cを第1および第2嵌合孔部43a,43b間に介在せしめるように形成される。
【0038】
しかも前記ホルダ54における鍔部54bの外周には、図3で示すように、周方向に順番に並ぶ第1〜第4凹部61〜64が相互間に等間隔をあけて設けられており、第1および第2凹部61,62は同一形状に形成され、第3および第4凹部63,64は、第1および第2凹部61,62よりも大きく凹むようにして同一形状に形成される。
【0039】
一方、シリンダボディ17の前端部を覆うカバー28がその前端に有する鍔部28bの内周には、第1および第2凹部61,62に嵌合し得る第1突部65と、第3および第4凹部63,64に嵌合し得る第2突部66とが相互間に180度の間隔をあけた位置で半径方向内方に突出するようにして突設される。而してインナシリンダ18がオフ位置にある状態では、図3で示すように、支持部54cをオフ位置に合わせるようにしてマグネットキー19をロータ42の嵌合孔43に嵌合せしめるときには、第1突部56を第1凹部61に嵌合せしめ、第2突部66を第3凹部63に嵌合せしめるようにして、マグネットキー19を前記嵌合孔43に位置決め嵌合することができる。またマグネットキー19によってインナシリンダ18をオン位置に回動すると、図10で示すように、マグネットキー19のホルダ54は、第1凹部61および第4凹部64間で鍔部54bに第1突部65を係合させ、第2凹部62および第3凹部63間で前記鍔部28bに第2突部66を係合させる位置に回動するので、マグネットキー19を取り出すことができない。さらに図11で示すように、マグネットキー19をロック位置に回動したときには、マグネットキー19のホルダ54は、第2凹部62を第1突部65に対応させ、第4凹部64を第2突部66に対応させる位置に回動するので、マグネットキー19を取り出すことができる。
【0040】
すなわちホルダ54の外周に設けられる第1〜第4凹部61〜64の配置と、カバー28における係合鍔部28bの内周に突設される第1および第2突部65,66とによって、オフ位置およびロック位置でマグネットキー19のホルダ54をロータ42の嵌合孔43に位置決め嵌合することを可能とするとともに、オン位置ではマグネットキー19が嵌合孔43から抜け出さないようにすることができる。
【0041】
次にこの実施例の作用について説明すると、インナシリンダ18の前端に設けられる円板部18fの前端面に対向するロックボディ39が、シリンダボディ17に設けられるシリンダ孔21に軸方向移動を可能としつつ軸線まわりの回動を不能として挿入され、前記ロックボディ39を前記円板部18fの前端面との間に挟むとともに該インナシリンダ18に相対回動不能に係合されるロータ42に、マグネットキー19のホルダ54を嵌合し得る嵌合孔43が設けられ、前記円板部18fおよびロックボディ39間に、ロックボディ39に係合する方向に弾発付勢されて前記円板部18fに摺動可能に嵌合される複数のマグネット50…を有するとともに嵌合孔43へのマグネットキー19の位置決め嵌合およびマグネット50…の極性に応じて前記各マグネット50…のロックボディ39への係合を解除するように解錠作動するマグネット錠20が、その解錠時にインナシリンダ18の回動を許容するようにして設けられている。
【0042】
したがってインナシリンダ18が長くなることを回避するとともにオフ位置およびロック位置間でインナシリンダ18が軸方向に移動することを可能としつつ、キーの種類を容易に増やすことができる。
【0043】
またロックボディ39を挟んだ状態にある前記円板部18fおよび前記ロータ42が、軸方向相対位置を不変とするとともに前記ロックボディ39に対する相対回動を許容するようにしてカラー47で保持されるので、インナシリンダ18の前端部の円板部18fに、ロックボディ39およびロータ42を、円板部18fおよびロックボディ39間に設けられるマグネット錠20を含んで小組状態に組付けることができ、シリンダ錠装置の組付け作業が容易となる。しかもインナシリンダ18、ロックボディ39およびロータ42が軸方向に移動しても、インナシリンダ18およびロックボディ39間のマグネット錠20における各部寸法を一定に保持して確実な施・解錠作動を保証することができる。
【0044】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】シリンダ錠装置およびマグネットキーの縦断側面図である。
【図2】シリンダ錠装置およびマグネットキーの分解斜視図である。
【図3】マグネットキーをオフ位置で嵌合孔に嵌合した状態での図1の3−3線矢視図である。
【図4】ロックボディの一部切欠き側面図である。
【図5】図4の5矢視図である。
【図6】ロータの一部切欠き側面図である。
【図7】図6の7矢視図である。
【図8】インナシリンダとの間にロックボディを挟んだロータにマグネットキーを差し込んだ状態でのシリンダボディおよびカバーを省略した斜視図である。
【図9】カラーの一部切欠き側面図である。
【図10】マグネットキーでオン位置に回動操作した状態での図3に対応した図である。
【図11】マグネットキーでロック位置に回動操作した状態での図3に対応した図である。
【符号の説明】
【0046】
17・・・シリンダボディ
18・・・インナシリンダ
19・・・マグネットキー
20・・・マグネット錠
21・・・シリンダ孔
39・・・ロックボディ
42・・・ロータ
43・・・嵌合孔
47・・・保持部材であるカラー
50・・・マグネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ孔(21)を有するシリンダボディ(17)と、前記シリンダ孔(21)の軸線まわりに間隔をあけて設定されたロック位置およびオン位置間での回動を可能とするとともに前記ロック位置および前記オン位置間に設定されたオフ位置および前記ロック位置間の回動にあたってはプッシュ操作が要求されるようにして前記シリンダ孔(21)に挿入されるインナシリンダ(18)とを備える車両用シリンダ錠装置において、前記インナシリンダ(18)の前端面に対向するロックボディ(39)が、前記シリンダ孔(21)に軸方向移動を可能としつつ軸線まわりの回動を不能として挿入され、前記ロックボディ(39)を前記インナシリンダ(18)の前端面との間に挟むとともに該インナシリンダ(18)に相対回動不能に係合されるロータ(42)に、マグネットキー(19)を嵌合し得る嵌合孔(43)が設けられ、前記インナシリンダ(18)の前端部および前記ロックボディ(39)間に、ロックボディ(39)に係合する方向に弾発付勢されて前記インナシリンダ(18)に摺動可能に嵌合される複数のマグネット(50)を有するとともに前記嵌合孔(43)への前記マグネットキー(19)の位置決め嵌合に応じて前記各マグネット(50)の前記ロックボディ(39)への係合を解除するように解錠作動するマグネット錠(20)が、その解錠時に前記インナシリンダ(18)の回動を許容するようにして設けられることを特徴とする車両用シリンダ錠装置。
【請求項2】
前記ロックボディ(39)を挟んだ状態にある前記インナシリンダ(18)の前端部および前記ロータ(42)が、軸方向相対位置を不変とするとともに前記ロックボディ(39)に対する相対回動を許容するようにして保持部材(47)で保持されることを特徴とする請求項1記載の車両用シリンダ錠装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−197422(P2009−197422A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38145(P2008−38145)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000155067)株式会社ホンダロック (164)
【Fターム(参考)】