説明

車両用シート

【課題】追突後もヘッドレストの前方移動状態を保持して、頭部のむち打ちを防止する。
【解決手段】ヘッドレスト4を上端部に有する衝撃受圧フレーム6がシートバックフレーム5に回動部材7まわりに前後方向に回動自在に枢着され、衝撃受圧フレーム6の回動部材7中心点より下部に被押圧部8が設けられる。衝撃受圧フレーム6の下端部とシートバックフレーム5の下部との間に弾性体9が配置され、この弾性体9の作用線9Aが、平常時において回動部材7中心点より前側に位置しているときはヘッドレスト4を後方向へ移動させるトルクを衝撃受圧フレーム6に作用させている。追突時の衝撃で乗員の背中により被押圧部8が押されたときは前記作用線9Aが回動部材7中心点より後側へ移動することによりヘッドレスト4のトルクは反転して前方向に作用し、前方移動状態のヘッドレスト4で乗員Dの頭部の後方移動を支え続け、むち打ち運動を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに係り、詳しくは、自動車等が追突された際にヘッドレストにより乗員のむち打ち傷害(頸部捻挫)を有効に防止する機能を備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両用シートとして、たとえば、図5に示すような自動車用シートがある(例えば、特許文献1参照。)。この自動車用シートは、シートバックフレーム20を芯材とするシートバック21と、シートバック21の上部に取付けられたヘッドレスト22とを備える。シートバック21には乗員Dの上半身の後方移動を受け止める衝撃受圧フレーム23を配設し、追突時の強い衝撃を受けた際に乗員Dの上半身の後方移動に伴って衝撃受圧フレーム23が移動し、この衝撃受圧フレーム23の移動に伴って、衝撃受圧フレーム23に連繋されたヘッドレスト22が乗員Dの頭部に近づくように移動するように構成してある。そして、ヘッドレスト22が上端部に取付けられたヘッドレスト支持フレーム24を備え、ヘッドレスト支持フレーム24がその中間部においてシートバックフレーム20に回動部材25を介して回動可能に支持され、その支持部より下方に前記衝撃受圧フレーム23を設けている。衝撃受圧フレーム23とシートバックフレーム20との間に、強い衝撃を受けた際に変形して折れ曲がる低剛性部26が設けられている。
このような車両用シートによれば、追突を受けると、その衝撃により乗員Dの上半身が後方に移動するのに伴って衝撃受圧フレーム23が移動し、それに伴ってヘッドレスト22が乗員Dの頭部に近づくように前方移動するため、頭部の後方移動を至近距離で支え、むち打ち傷害を防止する、というものである。
【0003】
【特許文献1】特開平10−262776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、追突により強い衝撃が加えられたとき衝撃受圧フレーム23が低剛性部26の変形により折れ曲がって、その衝撃受圧フレーム23の上端部が後方移動することによりヘッドレスト22を頭部に近づくよう前方移動するようにした上記自動車用シートでは、追突後、つまりヘッドレスト22の前方移動後において、そのヘッドレスト22の前方移動状態を保持することができないため、頭部のむち打ち運動を十分に抑えることができない。また、低剛性部26から折れ曲がった衝撃受圧フレーム23は再使用不可能であり、その取り換えが必要となる。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、上記のような、追突時の強い衝撃を受けた際に乗員の上半身の後方移動によって衝撃受圧フレームが移動し、この移動に伴ってヘッドレストが乗員の頭部に近づくように自動的に前方へ移動するようにした車両用シートにおいて、追突後もヘッドレストの前方への移動状態を保持できて頭部のむち打ち運動をよく抑え、効果的にむち打ち傷害を防止でき、また追突事故後も衝撃受圧フレームの使用を可能にする車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、請求項1に記載のように、その発明の内容を理解し易くする為に図1〜図4に付した符号を参照して説明すると、シートバック3の内部に配備されたシートバックフレーム5と、ヘッドレスト4が上端部に取付けられた衝撃受圧フレーム6とを備える車両用シートにおいて、衝撃受圧フレーム6の上下方向中間部がシートバックフレーム5の上部に回動部材7まわりに前後方向に回動自在に枢着され、衝撃受圧フレーム6の回動部材7の中心点より下部に、追突時に乗員の背中により後方へ押圧される被押圧部8が設けられており、衝撃受圧フレーム6の下端部とシートバックフレーム5の下部との間に弾性体9が配置され、この弾性体9の、衝撃受圧フレーム6の下端部側に支持される上部支点10Aとシートバックフレーム5の下部側に支持される下部支点11Aとを結ぶ作用線9Aが、平常時において回動部材7の中心点より前側に位置しているときはヘッドレスト4を後方向へ移動させるトルクを衝撃受圧フレーム6に作用させ、他方、前記作用線9Aが、回動部材7の中心点と前記下部支点11Aとを結ぶ線C上を越えて回動部材7の中心点より後側へ移動したときはヘッドレスト4を前方向へ移動させるトルクを衝撃受圧フレーム6に作用させるようにしていることに特徴を有するものである。
【0007】
このような構成によれば、追突時には、その衝撃で乗員がシートバック3に押し付けられ、その際乗員の背中によって衝撃受圧フレーム6の被押圧部8が後方へ押圧される。被押圧部8が後方へ押圧されることによって、ヘッドレスト4は弾性体9の作用線9Aによる後方向へのトルクに逆らって前方向へ移動する。このヘッドレスト4の前方向への移動に伴って、弾性体9の作用線9Aが回動部材7の中心点と弾性体9の下部支点11Aとを結ぶ線C上に一致させる思案点の状態を超えて、回動部材7の中心点より後側に移動する。この作用線9Aの移動によりヘッドレスト4のトルクは反転して前方向に作用するため、ヘッドレスト4の前方移動状態を保持し得て乗員の頭部の後方移動を支え続け、むち打ち運動をよく抑える。
このように弾性体9により作用するヘッドレスト4の前方向へのトルクが、追突後もヘッドレスト4の前方移動状態を保持し続ける。したがって、追突後もヘッドレスト4による頭部支え状態は持続されるので、効果的にむち打ち傷害を防止できる。また、ヘッドレスト4が前方移動するときの弾性体9によるトルクによって頭部にかかる衝撃を緩和することもでき、この点でもむち打ち傷害を効果的に防止できる。
【0008】
請求項1記載の車両用シートは、請求項2に記載のように、前記弾性体は圧縮コイルばねで構成することができる。
請求項1又は2記載の車両用シートは、請求項3に記載のように、前記弾性体9が衝撃受圧フレーム6の下端部とシートバックフレーム5の下部との間において互いに伸縮可能に差し込み結合された雌雄型弾性体収納ケース13,12に収納されたものとすることができる。これによれば、弾性体9が雌雄型弾性体収納ケース13,12内で安定かつ確実に動作することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、追突後もヘッドレストの前方への移動状態を保持できて頭部のむち打ち運動をよく抑え、効果的にむち打ち傷害を防止でき、また追突事故後も衝撃受圧フレームの使用を可能にするという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好適な実施形態を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施例を示す車両用シートの正面図、図2は同車両用シートの通常状態の縦断側面図、図3は同車両用シートの追突時における動作途中の状態を示す縦断側面図、図4は同車両用シートの追突時における動作後の状態を示す縦断側面図である。
【0011】
図1、図2において、本発明の車両用シート1は、シートクッション2の後方にシートバック3が背凭れ角度調整可能に取付けられ、このシートバック3の上部にヘッドレスト4が取付けられた構成となっている。
【0012】
シートバック3の内部には、全体が正面視において門形状に形成されて左右フレーム5a,5bとこの左右フレーム5a,5bの上端同士をつなぐ上部フレーム5cとを有するシートバックフレーム5が配備される。シートバックフレーム5の上部フレーム5cには、ヘッドレスト支持兼用の衝撃受圧フレーム6の上下方向中間部が回動部材7を介して前後方向に回動自在に枢着される。衝撃受圧フレーム6は2本の左右フレーム61,62によって構成され、この左右フレーム61,62の各上端部がシートバック3の上方へ突出されてヘッドレスト4を支持している。左右フレーム61,62の各上下方向中間部に前記回動部材7が固定され、該回動部材7がシートバックフレーム5の上部フレーム5cに回動可能に嵌合されている。
【0013】
衝撃受圧フレーム6の左右フレーム61,62は、図2に示すように、側面から見てシートバックフレーム5の後側に位置しヘッドレスト4が上端部に取付けられるとともに回動部材7が中間部に固定されたフレーム上部61a、62aと、このフレーム上部61a,62aの各下端からシートバックフレーム5の前側へ突出するよう下り傾斜状に屈曲したフレーム中間部61b,62b、およびシートバックフレーム5の前側においてフレーム中間部61b,62bの各下端から下向きに屈曲したフレーム下部61c,62cとを有する形に形成されて、フレーム下部61c,62c及びフレーム下部61c,62cのフレーム中間部61b,62bとの屈曲連接部付近を、追突時に乗員の背中により後方へ押圧される被押圧部8となしている。この被押圧部8は衝撃受圧フレーム6の回動部材7の中心点より下部に偏して位置するように設けられる。
【0014】
衝撃受圧フレーム6の下端部とシートバックフレーム5の下部との間には圧縮コイルばね等の弾性体9が配置される。その際、衝撃受圧フレーム6の左右フレーム61,62の下端部同士間に弾性体上側支持部材10を、シートバック3の左右フレーム5a,5bの下端部同士間に弾性体下側支持部材11をそれぞれ取付ける。そして、弾性体上側支持部材10に弾性体9を収納する雄型弾性体収納ケース12を、弾性体下側支持部材11に、雄型弾性体収納ケース12に伸縮可能に差し込み結合される雌型弾性体収納ケース13をそれぞれ回動可能に枢着する。
【0015】
弾性体9の、衝撃受圧フレーム6の下端部側に支持される上部支点10Aとシートバックフレーム5の下部側に支持される下部支点11Aとを結ぶ作用線9Aは、衝撃受圧フレーム6の回動部材7回りの回動に伴って、その回動部材7の中心点を前後に移動するようになっている。すなわち、弾性体9の作用線9Aは、平常時において図2に示すごとく衝撃受圧フレーム6の回動部材7の中心点より前側に位置しているときはヘッドレスト4を後方向(矢印A方向)へ移動させるトルクを衝撃受圧フレーム6に作用させ、図3に示すごとく回動部材7の中心点と弾性体9の下部支点11Aとを結ぶ線C上を越えて図4に示すごとく回動部材7の中心点より後側へ移動したときはヘッドレスト4を前方向(矢印B方向)へ移動させるトルクを衝撃受圧フレーム6に作用させるようにしている。
【0016】
次に、上記構成の車両シート1における追突時の動作を図2〜図4を参照して説明する。
【0017】
図2は平常時の状態を示し、この時、弾性体9の作用線9Aは、衝撃受圧フレーム6の回動部材7の中心点より前側に位置し、ヘッドレスト4は弾性体9の力によって後方向(矢印A方向)に移動させられるトルクが発生したままの状態で保持されている。したがって、ヘッドレスト4は不測に移動せず、乗員Dの頭部の自由な動きを妨げることがない。
【0018】
いま、追突を受けると、乗員Dはその上半身が後方に振られる衝撃を受けるので、図3のように乗員Dの背中によってシートバック3の前面から衝撃受圧フレーム6の被押圧部8が後方へ押圧される。被押圧部8が後方へ押圧されることによって、ヘッドレスト4は弾性体9による後方向(矢印A方向)へのトルクに逆らって、前方向(矢印B方向)に移動する。このヘッドレスト4の前方向への移動に伴って、図3のように弾性体9の作用線9Aが回動部材7の中心点と弾性体9の下部支点11Aとを結ぶ線C上に一致させる思案点の状態(衝撃受圧フレーム6及びヘッドレスト4にはトルクが作用しない状態)を超えて、図4のように回動部材7の中心点より後側に移動する。この作用線9Aの移動によりヘッドレスト4のトルクは反転して前方向(矢印B方向)に作用し、ヘッドレスト4の前方移動状態を保持して乗員Dの頭部の後方移動を支え続け、むち打ち運動をよく抑える。
ヘッドレスト4による頭部支え状態は追突後も弾性体9の作用によるヘッドレスト4の前方向へのトルクにより保持されるので、効果的にむち打ち傷害を防止できる。また、ヘッドレスト4が前方へ移動するときは弾性体9によるトルクによって頭部にかかる衝撃を緩和することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例を示す車両用シートの正面図である。
【図2】同車両用シートの通常状態の縦断側面図である。
【図3】同車両用シートの追突時における動作途中の状態を示す縦断側面図である。
【図4】同車両用シートの追突時における動作後の状態を示す縦断側面図である。
【図5】従来例の自動車用シートを示し、(a)は通常時の状態の側面図、(b)は追突時の状態の側面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 車両用シート
3 シートバック
4 ヘッドレスト
5 シートバックフレーム
6 衝撃受圧フレーム
7 回動部材
8 被押圧部
9 弾性体
9A 作用線
10A 上部支点
11A 下部支点
12 雄型弾性体収納ケース
13 雌型弾性体収納ケース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックの内部に配備されたシートバックフレームと、ヘッドレストが上端部に取付けられた衝撃受圧フレームとを備える車両用シートにおいて、
前記衝撃受圧フレームの上下方向中間部が前記シートバックフレームの上部に回動部材まわりに前後方向に回動自在に枢着され、前記衝撃受圧フレームの回動部材中心より下部に、追突時に乗員の背中により後方へ押圧される被押圧部が設けられており、
前記衝撃受圧フレームの下端部と前記シートバックフレームの下部との間に弾性体が配置され、この弾性体の、前記衝撃受圧フレームの下端部側に支持される上部支点と前記シートバックフレームの下部側に支持される下部支点とを結ぶ作用線が、平常時において前記回動部材中心点より前側に位置しているときは前記ヘッドレストを後方向へ移動させるトルクを前記衝撃受圧フレームに作用させ、他方、前記作用線が、前記回動部材中心点と前記下部支点とを結ぶ線上を越えて前記回動部材中心点より後側へ移動したときは前記ヘッドレストを前方向へ移動させるトルクを前記衝撃受圧フレームに作用させるようにしていることを特徴とする、車両用シート。
【請求項2】
前記弾性体が圧縮コイルばねである、請求項1記載の車両用シート。
【請求項3】
前記弾性体が前記衝撃受圧フレームの下端部と前記シートバックフレームの下部との間において互いに伸縮可能に差し込み結合された雌雄型弾性体収納ケースに収納されている、請求項1又は2記載の車両用シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−253843(P2007−253843A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82218(P2006−82218)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(592264101)下西技研工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】