説明

車両用シート

【課題】シートカバーの裏側に面状のヒータ装置が配された車両用シートにおいて、ヒータ装置に対してシートカバーが位置ずれしてしまうことを抑制する。
【解決手段】シートカバー3と、このシートカバー3の裏側に配された面状のヒータ装置2と、を備えた車両用シートであって、前記シートカバー3の裏面には、シートカバー3を構成する少なくとも一部の繊維同士を固着させるバッキング層30が形成されており、このバッキング層30には、前記ヒータ装置2側に突出した複数の突起31が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材として立体編物を用いた面状のヒータ装置を備える車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、通気性を有する基材に、発熱線が縫製によって固定された面状のヒータ装置が記載されている。このような面状のヒータ装置は、車両用シートなどに好適に用いられる。車両用シートでは、背部や臀部といった乗員のシートに接触する部位を温めるため、シートカバーの裏側に面状のヒータ装置が配される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−297532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような面状のヒータ装置を車両用シートに用いると、乗員の動作などにより、ヒータ装置(基材)に対してシートカバーが相対的に動いてしまい(以下、このような状態となることを単に「位置ずれ」と称する)、シートカバーに皺が発生してしまうなどといった問題があった。シートカバーとヒータ装置を接着させれば当該問題は解消されるが、接着層が断熱材となり、ヒータ付シートとしての機能が低下してしまう。
【0005】
上記実情に鑑みて、本発明が解決しようとする課題は、シートカバーの裏側に面状のヒータ装置が配された車両用シートにおいて、ヒータ装置に対してシートカバーが位置ずれしてしまうことを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明にかかる車両用シートは、シートカバーと、
このシートカバーの裏側に配された面状のヒータ装置と、を備えた車両用シートであって、前記シートカバーの裏面には、シートカバーを構成する少なくとも一部の繊維同士を固着させるバッキング層が形成されており、このバッキング層には、前記ヒータ装置側に突出した複数の突起が形成されていることを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、バッキング層に形成された突起によってシートカバーとヒータ装置の間に生ずる摩擦力が大きくなるから、ヒータ装置に対してシートカバーが位置ずれしにくい。つまり、シートカバーに形成されるバッキング層を位置ずれ防止要素としても巧みに利用したものである。これにより、乗員の動作などによってシートカバーに皺が発生してしまうことを防止できる。
【0008】
また、前記ヒータ装置は、複数の孔が形成された表層およびこの表層の裏側に設けられた立体層を有する立体編物に、通電されることによって発熱する発熱線が取り付けられたものであって、前記バッキング層に形成された複数の突起の少なくとも一部が、前記表層に形成された複数の孔の少なくとも一部に入り込んでいればよい。
【0009】
このように、基材である立体編物に形成された複数の孔の少なくとも一部に、バッキング層に形成された複数の突起の少なくとも一部が入り込む構成とすれば、ヒータ装置に対してシートカバーがさらに位置ずれしにくくなる。すなわち、立体編物の表層には、通気性を高めるのために孔が形成されることがあるから、この場合には当該孔を利用して位置ずれ防止効果をさらに高めることができる。
【0010】
またこの場合、前記バッキング層に形成された突起は、その先端部分が前記表層に形成された孔よりも小さく、その根元部分が前記表層に形成された孔と同じかまたは孔よりも大きいテーパ状に形成されていればよい。
【0011】
このようにした場合、立体編物の表層に形成された孔に、バッキング層に形成された突起が入り込みやすい。また、突起の根元まで孔に入り込むと突起が孔に圧入されたような状態となる。つまり、より多くの突起が表層に形成された孔に入り込み、この入り込んだ突起は孔に圧入されたような状態となるから、ヒータ装置に対するシートカバーの位置ずれ防止効果をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる車両用シートによれば、バッキング層に形成された突起によってシートカバーとヒータ装置の間に生ずる摩擦力が大きくなるから、ヒータ装置に対してシートカバーが位置ずれしにくい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は本発明の実施形態にかかる車両用シートの外観斜視図であり、図1(b)は図1(a)のA−A線断面を模式的に示した図である。
【図2】第一の実施形態にかかる車両用シートにおけるシートカバーとヒータ装置の断面を模式的に示した図である。
【図3】第二の実施形態にかかる車両用シートのヒータ装置に用いられる立体編物の外観斜視図である。
【図4】第二の実施形態にかかる車両用シートにおけるシートカバーとヒータ装置の断面を模式的に示した図である。
【図5】バッキング層に形成される突起の形状(好適な形状の一例)を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、単に上下方向(厚み方向)とは、図2、4、5の上下方向(基材20の厚み方向)をいう。
【0015】
第一の実施形態にかかる車両用シート1は、シートカバー3(表皮)およびヒータ装置2を備える。ヒータ装置2は、シートカバー3とクッション材であるシートパッド4との間に設けられている。シートパッド4やシートの骨格であるシートフレーム(図示せず)などの構成は公知の構成が適用できるから、詳細な説明は省略する。また、以下で詳細に説明するヒータ装置2が設置される箇所は特に限定されない。シートの背もたれ部(シートバック)や着座部(シートクッション)など、どのような場所においても適用することができる。
【0016】
ヒータ装置2は、布帛で構成される基材20(ベース)およびこの基材20に取り付けられる発熱線24を有する。発熱線24は、ニクロム線などの通電によって発熱する金属材料によって構成される。この発熱線24は、所定の位置に所定の形状で基材20に縫い付けられている。この位置および形状は特に限定されない。かかるヒータ装置2は、車両に設けられる図示されない給電手段によって発熱線24に通電されると発熱線24が発熱する面状のヒータである。
【0017】
シートカバー3は、少なくともシートの表面を覆う布材である。このシートカバー3の裏面にはバッキング層30が形成されている。バッキング層30は、シートカバー3を構成する繊維がほつれてしまわないように、シートカバー3の本体部分32を構成する少なくとも一部の繊維同士を固着させる(繊維を固める)ものである。バッキング層30の材質としては、アクリル樹脂などが例示できる。このバッキング層30には、ヒータ装置2側に向かって突出する複数の突起31が形成されている。この突起31の形成方法は特定の方法に限定されるものではないが、ローラを用いた方法、マスクを用いた方法、などが考えられる。
【0018】
ローラを用いた方法としては、バッキング層30を構成する材料をシートカバー3の本体部分32の裏面に塗布した後、この塗布された材料を複数の凹部が形成されたローラで押し固めていく方法が例示できる。このようにすれば、ローラに形成された凹部の部分が突起31として形成される。マスクを用いた方法としては、バッキング層30を構成する材料をシートカバー3の本体部分32の裏面に塗布し、ローラ等で平坦にした後、突起31を形成しない部分をマスクで覆い(マスキングし)、そのマスクで覆われた状態で再度材料を塗布する方法が例示できる。このようにすれば、二回目の材料の塗布により、マスクで覆われていない部分が突起31として形成される。なお、マスキングの手法(手順)は、これ以外にも種々の手法が考えられる。
【0019】
上記ヒータ装置2は、シートカバー3の裏側に配されるから、バッキング層30に形成された複数の突起31に接する。そのため、このバッキング層30に形成された突起31により、ヒータ装置2とバッキング層30との間に生ずる摩擦力が大きくなる。その結果、ヒータ装置2に対してシートカバー3が位置ずれしにくい車両用シート1となる。
【0020】
次に、第二の実施形態にかかる車両用シート1aについて、上記第一の実施形態にかかる車両用シート1と異なる点を中心に説明する。
【0021】
本実施形態では、ヒータ装置2aの基材20として立体編物20aを用いている。立体編物20aは、表層21a、立体層23a、および裏層22aを有する。表層21aおよび裏層22aは、薄い布材である。このうち、少なくとも表層21aには、良好な通気性を確保するための複数の孔21(以下、通気孔211aと称することもある)が形成されている。すなわち、少なくとも表層21aはメッシュ素材で構成されている。この複数の通気孔211aは等間隔に形成されていることが好ましい。一方、裏層22aはどのような構成であってもよい。例えば、表層21aと同じメッシュ素材で構成してもよい。
【0022】
立体層23aは、表層21aと裏層22aを繋ぐ連結層である。すなわち、表層21aと裏層22aを繋ぐ略上下方向に延びる連結糸231aで構成される層である。この立体層23a(連結糸231a)の構造は、クロス構造(連結糸231a同士がクロスするもの)や、トラス構造(連結糸231aによって「V」が連続した形状をなすもの)等、周知の構造が適用可能である。立体編物20aは、この立体層23aの存在により、所定の厚みを有する三次元的な形状の編物となっている。この立体層23aを構成する連結糸231aの材質は、特定の材質に限定されるものではないが、シートのクッション性を高めるといった観点から、弾性を有する材料で形成されていることが好ましい。
【0023】
一方、シートカバー3のバッキング層30に形成される各突起31は、通気孔211aに入り込むことができるような形状とされる。
【0024】
このような立体編物20aを基材20として用いたヒータ装置2aとすれば、シートカバー3のバッキング層30に形成された複数の突起31の少なくとも一部は、シートカバー3の裏側に位置する立体編物20aの表層21aに形成された複数の通気孔211aの少なくとも一部に入り込む。このように突起31が通気孔211aに入り込んだ状態となれば、ヒータ装置2aに対するシートカバー3の位置ずれ防止効果がさらに高まる。つまり、本実施形態にかかる車両用シート1aは、良好な通気性を確保する目的で立体編物20aの表層21aに形成された複数の孔を、シートカバー3の位置ずれを防止するための要素として巧みに利用したものである。
【0025】
本実施形態において、バッキング層30に形成される突起31は、図5に示すように、その先端部分311が表層21aに形成された通気孔211aよりも小さく、その根元部分312が表層21aに形成された通気孔211aと同じかまたは通気孔211aよりも大きいテーパ状に形成されていることが望ましい。突起31の先端部分311が通気孔211aよりも小さければ、突起31が通気孔211aに入り込みやすくなるため、より多くの突起31が通気孔211aに入り込んだ状態となる。また、突起31の根元部分312が通気孔211aと同じかまたは通気孔211aよりも大きければ、突起31はその根元部分312によって通気孔211aを押し拡げるように入り込む。つまり、突起31が通気孔211aに圧入されたような状態となる。
【0026】
このように、突起31を図5に示すような形状に設定すれば、より多くの突起31が通気孔211aに入り込み、かつ、これらの突起31が通気孔211aに圧入された状態となるから、ヒータ装置2aに対するシートカバー3の位置ずれ防止効果をさらに高めることができる。
【0027】
また、上記構成において、立体編物20aの表層21aを伸縮性のある材料で形成するとよい。かかる構成とすれば、通気孔211aを押し拡げるように圧入された突起31が、表層21aの収縮力によって締め付けられるから、シートカバー3の位置ずれ防止効果がさらに向上する。
【0028】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0029】
1,1a 車両用シート
2,2a ヒータ装置
20 基材
20a 立体編物
21a 表層
211a 孔(通気孔)
23a 立体層
24 発熱線
3 シートカバー
30 バッキング層
31 突起
311 突起の先端部分
312 突起の根元部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートカバーと、
このシートカバーの裏側に配された面状のヒータ装置と、を備えた車両用シートであって、
前記シートカバーの裏面には、シートカバーを構成する少なくとも一部の繊維同士を固着させるバッキング層が形成されており、
このバッキング層には、前記ヒータ装置側に突出した複数の突起が形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記ヒータ装置は、複数の孔が形成された表層およびこの表層の裏側に設けられた立体層を有する立体編物に、通電されることによって発熱する発熱線が取り付けられたものであって、
前記バッキング層に形成された複数の突起の少なくとも一部が、前記表層に形成された複数の孔の少なくとも一部に入り込んでいることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記バッキング層に形成された突起は、その先端部分が前記表層に形成された孔よりも小さく、その根元部分が前記表層に形成された孔と同じかまたは孔よりも大きいテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−95348(P2013−95348A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242064(P2011−242064)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】