説明

車両用ディスクブレーキのキャリパボディ及びその製造方法

【課題】ボルト挿通孔に車体取付ボルトを適正な状態で挿通させ、キャリパボディをブラケットにガタつきなく固設することができると共に、ボルト挿通孔の加工に掛かる時間を短縮化することができる車両用ディスクブレーキのキャリパボディ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】キャリパボディ2の一方の作用部2aのディスク回転方向両側部に、車体取付ボルト5を挿通するディスク半径方向のボルト挿通孔8を貫通形成する。ボルト挿通孔8は、車体取付ボルト5の軸径に対応する小径孔8aと、該小径孔8aよりも大径に形成される大径孔8bとを連続して備えた段付き孔であり、小径孔8aは、車体取付ボルト5の軸径に対して適正なボルトクリアランスを備えた内径D1に精密に加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ディスクブレーキのキャリパボディ及びその製造方法に係り、詳しくは、ディスクロータを挟んで一対の作用部を対向配置するピストン対向型ラジアルマウント式のキャリパボディ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストン対向型ラジアルマウント式のキャリパボディでは、ディスクロータを挟んで一対の作用部が対向配置され、一方の作用部のディスク回転方向両側部に、ディスク半径方向のボルト挿通孔が貫通形成され、該ボルト挿通孔に挿通した車体取付ボルトを車体に固設したブラケットに締結することにより、キャリパボディを車体に取り付けていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−232397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のキャリパボディに形成されるボルト挿通孔は、キャリパボディをブラケットに固設したときにガタ付きが生じないように、適正なボルトクリアランスを備えた状態に加工しなければならないことから、加工に高い精度を要し、時間や手間が掛かっていた。
【0005】
そこで本発明は、ボルト挿通孔に車体取付ボルトを適正な状態で挿通させ、キャリパボディをブラケットにガタつきなく固設することができると共に、ボルト挿通孔の加工に掛かる時間を短縮化することができる車両用ディスクブレーキのキャリパボディ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキのキャリパボディは、ディスクロータの両側部にそれぞれ配設され、ピストンを挿通するシリンダ孔をそれぞれ備えた一対の作用部を、前記ディスクロータの外周を跨ぐブリッジ部で連結すると共に、一方の作用部のディスク回転方向両側部に、車体取付ボルトを挿通するディスク半径方向のボルト挿通孔を貫通形成した車両用ディスクブレーキのキャリパボディにおいて、前記ボルト挿通孔は、前記取付ボルトの軸径に対してボルトクリアランスを備えた内径に精密に加工される小径孔と、該小径孔よりも大径に形成される大径孔とを連続して備えた段付き孔であることを特徴としている。
【0007】
また、前記ボルト挿通孔は、前記車体取付ボルトの座面側に前記小径孔が開口し、車体側に前記大径孔が開口するものでも良く、車体側に前記小径孔が開口し、前記車体取付ボルトの座面側に前記大径孔が開口するものでも良い。さらに、前記小径孔の軸方向の長さ寸法が、前記大径孔の軸方向の長さ寸法よりも長く形成されていると好適である。
【0008】
本発明の車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法は、前記大径孔を加工した後に、前記小径孔を加工することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用ディスクブレーキのキャリパボディによれば、車体取付ボルトは、ボルト挿通孔の小径孔に適正な状態で挿通されることから、キャリパボディをブラケットにガタつきなく固設することができると共に、ボルト挿通孔の大径孔の加工には、高い精度が求められないことから、ボルト挿通孔の加工に掛かる時間を短縮でき、コストの低減化を図ることができる。
【0010】
また、ボルト挿通孔は、ボルト座面側に小径孔が、車体側に大径孔がそれぞれ開口し、或いは、車体側に小径孔が、ボルト座面側に大径孔がそれぞれ開口すると共に、小径孔の軸方向の長さ寸法を、大径孔の軸方向の長さ寸法よりも長く形成していることから、キャリパボディをブラケットに確実に固設することができ、ガタ付く虞がない。
【0011】
本発明の車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法によれば、高い精度を求めない大径孔を加工した後に、小径孔を精密に加工することから、ボルト挿通孔の加工に掛かる時間を短縮でき、コストの低減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1形態例を示す車両用ディスクブレーキの断面正面図である。
【図2】同じく車両用ディスクブレーキの平面である。
【図3】図1のIII-III断面図である。
【図4】本発明の第2形態例を示す車両用ディスクブレーキの断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1乃至図3は本発明の車両用ディスクブレーキのキャリパボディの第1形態例を示す図で、矢印Aは車両前進時に車輪と一体に回転するディスクロータの回転方向である。
【0014】
本形態例の車両用ディスクブレーキ1に用いられるキャリパボディ2は、車輪と共に矢印A方向に回転するディスクロータ3を挟んで対向配置される一対の作用部2a,2aを、ディスクロータ3の外周を跨ぐブリッジ部2bと共に一体成形したモノコック構造を有しており、車体に固設されたブラケット4に形成されるキャリパ取付け用ボス部4a,4aに、車体取付ボルト5,5を用いて取り付けられている。
【0015】
各作用部2a,2aには、シリンダ孔2cが2個ずつ対向してそれぞれ設けられ、各シリンダ孔2c内には、ピストン6が液密かつ移動可能な状態でそれぞれ収容され、4ポットのピストン対向型に形成されている。シリンダ孔2cの開口側には、ディスクロータ3を挟むようにしてライニング7aと裏板7bとからなる摩擦パッド7がそれぞれ対向配置されている。
【0016】
一方の作用部2aのディスク回転方向における回出側と回入側の両側部には、ディスク半径方向のボルト挿通孔8,8が貫通形成されている。前記作用部2aの各ボルト挿通孔8のディスク半径方向外側の周縁には、ボルト挿通凹部2dが形成され、該ボルト挿通凹部2dに車体取付ボルト5の頭部5aが当接するボルト座面2eがそれぞれ形成されている。
【0017】
各ボルト挿通孔8は、同軸の小径孔8aと大径孔8bとを連続して備えた段付き孔に形成され、ボルト座面2e側に、車体取付ボルト5の軸径に対して適正なボルトクリアランスを備えた内径D1の小径孔8aが、ブラケット側(車体側)に小径孔8aよりも大きな内径D2を備えた大径孔8bがそれぞれ形成され、小径孔8aの軸方向の長さ寸法L1は、大径孔8bの軸方向の長さ寸法L2よりも長く形成されている。また、大径孔8bのブラケット側端面には、大径孔8bの開口部外周にボス部嵌着凹部8cが周設されている。
【0018】
このボルト挿通孔8は、まず、ブラケット側から大径孔8bが切削加工されると共に、該大径孔8bのブラケット側端面にボス部嵌着凹部8cが加工される。次いで、小径孔8aが加工され、該小径孔8aのみが、車体取付ボルト5の軸径に対して適正なボルトクリアランスを備えた内径D1に精密に仕上げ加工される。
【0019】
ブラケット4に形成したキャリパ取付け用ボス部4aは、各ボルト挿通孔8に対応してブラケット4に突出形成され、各キャリパ取付け用ボス部4aには、対向するボルト通孔8と同軸の雌ねじ部4bがそれぞれ形成されている。また、各キャリパ取付け用ボス部4aのキャリパボディ側面には、雌ねじ部4bの周囲で前記ボス部嵌着凹部8cに対応する位置に、前記ボス部嵌着凹部8cに挿入可能な突部4cがそれぞれ形成されている。車体取付ボルト5は、頭部5aと軸部5bとを備え、軸部5bの先端側には、前記キャリパ取付け用ボス部4aの雌ねじ部4bに螺着される雄ねじ部5cが形成されている。
【0020】
このように形成されたキャリパボディ2は、各キャリパ取付け用ボス部4aの突部4cに、ボルト挿通孔8のブラケット側端面に形成したボス部嵌着凹部8cをそれぞれ嵌着し、ボルト挿通孔8と雌ねじ部4bとの位置を合わせる。次いで、ボルト挿通孔8のボルト座面2e側から、車体取付けボルト5の軸部5bをそれぞれ挿通し、先端側の雄ねじ部5cをそれぞれ雌ねじ部4bにねじ込むことによって、キャリパ取付け用ボス部4aにキャリパボディ2が連結される。車体取付ボルト5は、小径孔8aとの間に適正なボルトクリアランスを備えた状態で挿通され、さらに、小径孔8aの軸方向の長さ寸法L1が、大径孔8bの軸方向の長さ寸法L2よりも長く形成されていることにより、ボルト挿通孔8内でガタ付く虞がなく、キャリパボディ2をブラケット4にガタ付きなく固設することができる。また、ボルト挿通孔8の大径孔8bの加工には、精度が要求されないことから、仕上げ加工の工程を省略でき、加工に掛かる時間を短縮化することができ、コストの削減を図ることができる。
【0021】
図4は本発明の第2形態例を示すもので、第1形態例と同様の構成要素を示すものには、同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。本形態例の各ボルト挿通孔9は、ボルト座面2e側に大径孔9aが、ブラケット側(車体側)に小径孔9bがそれぞれ開口し、小径孔9bのブラケット側端面には、小径孔9bの外周に連続してボス部嵌着凹部9cが周設されている。また、大径孔9aの軸方向の長さ寸法L3は、小径孔9bの軸方向の長さ寸法L4よりも長く形成されている。これにより、精密な加工が必要な小径孔9bの軸方向の長さ寸法L4よりも、大径孔9aの軸方向の長さ寸法L3を長く形成していることから、ボルト挿通孔9の加工に掛かる時間をより短縮させることができる。
【0022】
尚、本発明は上述の各形態例のように、ボルト挿通孔を大径孔と小径孔との2段に加工としたものに限らず、大径孔を複数段に加工しても良く、また、複数の大径孔の中間部に小径孔を形成することもできる。
【符号の説明】
【0023】
1…車両用ディスクブレーキ、2…キャリパボディ、2a…作用部、2b…ブリッジ部、2c…シリンダ孔、2d…ボルト挿通凹部、2e…ボルト座面、3…ディスクロータ、4…ブラケット、4aキャリパ取付け用ボス部…、4b…雌ねじ部、4c…突部、5…車体取付ボルト、5a…頭部、5b…軸部、5c…雄ねじ部、6…ピストン、7…摩擦パッド、7a…ライニング、7b…裏板、8…ボルト挿通孔、8a…小径孔、8b…大径孔、8c…ボス部嵌着凹部、9…ボルト挿通孔、9a…大径孔、9b…小径孔、9c…ボス部嵌着凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータの両側部にそれぞれ配設され、ピストンを挿通するシリンダ孔をそれぞれ備えた一対の作用部を、前記ディスクロータの外周を跨ぐブリッジ部で連結すると共に、一方の作用部のディスク回転方向両側部に、車体取付ボルトを挿通するディスク半径方向のボルト挿通孔を貫通形成した車両用ディスクブレーキのキャリパボディにおいて、前記ボルト挿通孔は、前記取付ボルトの軸径に対してボルトクリアランスを備えた内径に精密に加工される小径孔と、該小径孔よりも大径に形成される大径孔とを連続して備えた段付き孔であることを特徴とする車両用ディスクブレーキのキャリパボディ。
【請求項2】
前記ボルト挿通孔は、前記車体取付ボルトの座面側に前記小径孔が開口し、車体側に前記大径孔が開口することを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキのキャリパボディ。
【請求項3】
前記ボルト挿通孔は、車体側に前記小径孔が開口し、前記車体取付ボルトの座面側に前記大径孔が開口することを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキのキャリパボディ。
【請求項4】
前記小径孔の軸方向の長さ寸法が、前記大径孔の軸方向の長さ寸法よりも長く形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキのキャリパボディ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法において、前記大径孔を加工した後に、前記小径孔を加工することを特徴とする車両用ディスクブレーキのキャリパボディ製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−252544(P2011−252544A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126778(P2010−126778)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】