説明

車両用ディスクブレーキのキャリパボディ

【課題】ブリッジ部の剛性と放熱性とを確保すると共に、鋳造時の湯流れ性を悪化させることなくキャリパボディを小型化することができるモノコック構造ピストン対向型の車両用ディスクブレーキのキャリパボディを提供する。
【解決手段】第1天井開口部9と第2天井開口部10の、キャリパボディ3のディスク回転方向両端側の4つの開口隅部9a,9a,10a,10aを円弧状に形成する。開口隅部9a,9a,10a,10aに連続する2つのディスク軸方向面9b,10bを、キャリパボディ3のディスク回転方向両端側に設けられる外側トルク受け面3k,3mよりも天井開口部9,10の中央側に突出させ、ディスク軸方向面9b,10bの外側トルク受け面側に補強部9c,10cを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクロータを挟んで対向配置する一対の作用部をディスクロータの外周を跨ぐブリッジ部で一体に連結したモノコック構造ピストン対向型の車両用ディスクブレーキのキャリパボディに係り、詳しくは、ブリッジ部に天井開口部を備えたキャリパボディの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モノコック構造ピストン対向型のキャリパボディでは、制動熱を外部に開放させたり、キャリパボディの軽量化を図るためにブリッジ部に天井開口部が形成されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−213502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このようなモノコック構造ピストン対向型のキャリパボディを小型化する際に、放熱性を考慮して天井開口部の大きさをできるだけ確保しようとすると、ブリッジ部の剛性の低下や、鋳造時の湯流れ性の悪化に繋がる虞があった。
【0005】
そこで本発明は、ブリッジ部の剛性と放熱性とを確保すると共に、鋳造時の湯流れ性を悪化させることなくキャリパボディを小型化することができるモノコック構造ピストン対向型の車両用ディスクブレーキのキャリパボディを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキのキャリパボディは、ディスクロータを挟んで対向配置する一対の作用部をディスクロータの外周を跨ぐブリッジ部で一体に連結し、該ブリッジ部に略矩形の天井開口部を形成し、該天井開口部のディスク回転方向両側に形成されるディスク軸方向面のディスク半径方向内側に、ディスクロータの両側部に配置した摩擦パッドからの制動トルクを受けるトルク受け面を備えたモノコック構造ピストン対向型の車両用ディスクブレーキのキャリパボディにおいて、前記天井開口部は、キャリパボディのディスク回転方向両端側の4つの開口隅部を円弧状に形成すると共に、該開口隅部に連続する2つのディスク軸方向面を、前記キャリパボディのディスク回転方向両端側に設けられる外側トルク受け面よりも天井開口部の中央側に突出させ、前記ディスク軸方向面の外側トルク受け面側に補強部を形成したことを特徴とし、前記一対の作用部の一方に、一対の車体取付ボルトを挿通するディスク半径方向の2つのボルト挿通孔を設け、各ボルト挿通孔は前記開口隅部の近傍にそれぞれ形成することもでき、また、前記キャリパボディを、鋳造によって一体的に形成することもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両用ディスクブレーキのキャリパボディによれば、天井開口部の開口隅部を円弧状に形成すると共に、該開口隅部に連続するディスク軸方向面の外側トルク受け面側に補強部を設けたことにより、天井開口部周辺の肉厚を充分に確保することができ、摩擦パッドや天井開口部の大きさを維持したまま、キャリパボディを小型化しても、キャリパボディの剛性と放熱性とを保つことができる。
【0008】
また、一方の作用部のディスク半径方向に、車体取付ボルトのボルト挿通孔を備えたラジアルマウントタイプのキャリパボディにあっても、ボルト挿通孔を天井開口部の開口隅部の近傍に位置させれば、ボルト挿通孔と天井開口部との間の肉厚を確保することができ、必要な剛性を維持しながらキャリパボディの小型化を図ることができる。さらに、キャリパボディを鋳造によって一体的に形成するものでは、鋳造時の湯流れ性の悪化を極力防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一形態例を示す車両用ディスクブレーキの平面図である。
【図2】図1のII-II断面図である。
【図3】図2のIII-III断面図である。
【図4】同じくキャリパボディの平面図である。
【図5】図4のV-V断面図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1乃至図6は本発明の車両用ディスクブレーキのキャリパボディの一形態例を示すもので、矢印Aは車両前進時に前輪と一体に回転するディスクロータの回転方向であり、以下で述べるディスク回出側及びディスク回入側とは車両前進時におけるものとする。
【0011】
車両用ディスクブレーキ1は、第1,第2ブレーキ操作子の何れの操作によっても前輪の制動が可能な2系統の液圧式ディスクブレーキで、前輪と一体に回転するディスクロータ2と、該ディスクロータ2を跨いで配置されるキャリパボディ3と、該キャリパボディ3の作用部3a,3a間に、ディスクロータ2を挟んで対向配置される第1摩擦パッド4,4と第2摩擦パッド5,5とを備えている。
【0012】
キャリパボディ3は、鋳造により形成されるもので、一対の作用部3a,3aを、ディスクロータ2の外周側を跨ぐディスク回出側と回入側のブリッジ部3b,3cと中央部のブリッジ部3dとで一体に連結したモノコック構造の6ポットピストン対向型に形成され、作用部3a,3aには、ディスク周方向中央部に大径シリンダ孔3eが、ディスク回出側と回入側とに小径シリンダ孔3f,3gが対向してそれぞれ形成され、ディスク回出側の小径シリンダ孔3fには小径の第1ピストン6が収容され、ディスク回入側の小径シリンダ孔3gには小径の第2ピストン7が、中央の大径シリンダ孔3eには大径の第3ピストン8がそれぞれ収容されている。第1ピストン6は、第1ユニオン孔3hから供給される液圧で作動し、第1ユニオン孔3hには、後輪と共に前輪が制動される連動式ブレーキ系統の液圧配管が接続される。第2ピストン7と第3ピストン8とは、第2ユニオン孔3iから供給される液圧で作動し、第2ユニオン孔3iには前輪が単独で制動される単独式ブレーキ系統の液圧配管が接続される。
【0013】
前記第1ピストン6とディスクロータ2との間には前記第1摩擦パッド4が配置され、前記第2ピストン7及び第3ピストン8とディスクロータ2との間には、前記第2摩擦パッド5が配置される。各作用部3a,3aの大径シリンダ孔3eとディスク回出側の小径シリンダ孔3fとの間には、ディスク中心方向にトルク受部3jがそれぞれ突設され、該トルク受部3jに前記第1摩擦パット4のディスク回入側面と第2摩擦パッド5のディスク回出側面とがそれぞれ当接すると共に、キャリパボディ3のディスク回出側とディスク回入側とには、第1外側トルク受け面3kと第2外側トルク受け面3mとがそれぞれ設けられ、第1外側トルク受け面3kに第1摩擦パッド4のディスク回出側面が、第2外側トルク受け面3mに第2摩擦パッド5のディスク回入側面がそれぞれ当接する。また、ディスク回出側と回入側のブリッジ部3b,3cと、中央のブリッジ部3dとの間には、ディスク回出側と回入側とに、略矩形の第1天井開口部9と第2天井開口部10とが形成されている。
【0014】
第1天井開口部9と第2天井開口部10とは、キャリパボディ3のディスク回転方向両端側となる、第1天井開口部9のディスク回出側の2つの開口隅部9a,9aと、第2天井開口部10のディスク回入側の2つの開口隅部10a,10aとを円弧状にそれぞれ形成し、さらに、開口隅部9a,9aに連続する第1ディスク軸方向面9bと、開口隅部10a,10aに連続する第2ディスク軸方向面10bとは、第1ディスク軸方向面9bを前記第1外側トルク受け面3kよりも第1天井開口部9の中央側に、第2ディスク軸方向面10bを前記第2外側トルク受け面3mよりも第2天井開口部10の中央側にそれぞれ突出させ、第1ディスク軸方向面の第1外側トルク受け面3k側、及び、第2ディスク軸方向面10bの第2外側トルク受け面3m側には、補強部9c,10cがそれぞれ形成されている。
【0015】
また、ディスク回出側のブリッジ部3bには、第1ディスク軸方向面9bのディスク軸方向中央部に、ディスク回出方向のパッドスプリング係止溝3nが形成され、さらに、ディスク回入側のブリッジ部3cには、第2ディスク軸方向面10bと対向する第2天井開口部10の第3ディスク軸方向面10dのディスク軸方向両端部に、ディスク軸方向のパッドスプリング係止溝3p,3pが形成されている。
【0016】
さらに、車体外側に配置される一方の作用部3aのディスク回出側とディスク回入側にはディスク半径方向の取付ボス部3q,3qが形成され、各取付ボス部3qにはディスク半径方向のボルト挿通孔3rがそれぞれ形成されている。また、ディスク回出側のボルト挿通孔3rは、前記開口隅部9aの近傍で、且つ、開口隅部9aよりもディスク回出側に、ディスク回入側のボルト挿通孔3rは、前記開口隅部10aの近傍で、且つ、開口隅部10aよりもディスク回入側にそれぞれ位置し、これら各ボルト挿通孔3rに挿通した取付ボルトを車体側に設けたキャリパ取付部にねじ込むことにより、キャリパボディ3が車体に取り付けられている。
【0017】
第1摩擦パッド4は、第1ピストン6に対応する大きさに形成され、ディスクロータ2の側面に摺接するライニング4aと、該ライニング4aを貼着した金属製の裏板4bとからなっている。裏板4bの上部中央には吊下げ片4cが延設され、該吊下げ片4cに第1ハンガーピン11が挿通される。該第1ハンガーピン11は第1天井開口部9を通して双方の作用部3a,3aにディスク軸方向に架設され、第1摩擦パッド4は、各吊下げ片4cに前記第1ハンガーピン11を挿通し、ディスクロータ2の両側部にディスク軸方向へ移動可能に吊持される。また、各第1摩擦パッド4のディスク半径方向外側には、第1パッドスプリング12が係止片12aを前記パッドスプリング係止溝3nに係止させて設けられている。
【0018】
第2摩擦パッド5は、小径の第2ピストン7と大径の第3ピストン8の2つに対応する大きさに形成され、ディスクロータ2の側面に摺接し、第2ピストン7と第3ピストン8との前面にそれぞれ設けられる2枚のライニング5a,5bと、該ライニング5a,5bを貼着した金属製の1枚の裏板5cとからなっている。裏板5cの上部中央には吊下げ片5dが延設され、該吊下げ片5dに第2ハンガーピン13が挿通される。該第2ハンガーピン13は第2天井開口部10を通して双方の作用部3a,3aにディスク軸方向に架設され、第2摩擦パッド5,5は、各吊下げ片5d,5dに前記第2ハンガーピン13を挿通し、ディスクロータ2の両側部にディスク軸方向へ移動可能に吊持される。また、各第2摩擦パッド5のディスクロータ半径方向外側には、第2パッドスプリング14が係止片14aを前記パッドスプリング係止溝3p,3pに係止させて設けられている。
【0019】
本形態例は上述のように、第1天井開口部9及び第2天井開口部10の各開口隅部9a,9a,10a,10aを円弧状に形成すると共に、ディスク軸方向面9b,10bの外側トルク受け面側に補強部9c,10cを設けたことにより、第1天井開口部9及び第2天井開口部10の強度を充分に確保することができ、摩擦パッド4,5や天井開口部9,10の大きさを維持したまま、キャリパボディ3を小型化しても、キャリパボディ3の剛性や放熱性を保つことができ、また、鋳造時の湯流れ性の悪化を極力防止することができる。さらに、ボルト挿通孔3r,3rを開口隅部9a,10aの近傍に位置させることにより、ボルト挿通孔3r,3rと天井開口部9,10との間に肉厚を確保することができ、必要な剛性を維持しながらキャリパボディの小型化を図ることができる。
【0020】
なお、本発明は上述の形態例のように、6ポット対向型のキャリパボディに限るものではなく2ポットや4ポットの対向型のキャリパボディにも適用でき、天井開口部を1つ形成したキャリパボディにも適用できる。また、2系統式のものに限らず、どのようなタイプのモノコック構造ピストン対向型のキャリパボディを備えたディスクブレーキにも適用できる。さらに、摩擦パッドも分割タイプに限らず、一対の摩擦パッドを備えたものでも良い。また、キャリパボディは、鋳造によって一体的に成形するものに限らず、削り出しによって一体的に形成するものでも良い。
【符号の説明】
【0021】
1…車両用ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパボディ、3a…作用部、3b,3c,3d…ブリッジ部、3e…大径シリンダ孔、3f、3g…小径シリンダ孔、3h…第1ユニオン孔、3i…第2ユニオン孔、3j…トルク受部、3k…第1外側トルク受け面、3m…第2外側トルク受け面、3n,3p…パッドスプリング係止溝、3q…取付ボス部、3r…ボルト挿通孔、4…第1摩擦パッド、5…第2摩擦パッド、4a,5a,5b…ライニング、4b,5c…裏板、4c,5d…吊下げ片、6…第1ピストン、7…第2ピストン、8…第3ピストン、9…第1天井開口部、9a…開口隅部、9b…第1ディスク軸方向面、9c…補強部、10…第2天井開口部、10a…開口隅部、10b…第2ディスク軸方向面、10c…補強部、10d…第3ディスク軸方向面、11…第1ハンガーピン、12…第1パッドスプリング、13…第2ハンガーピン、14…第2パッドスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータを挟んで対向配置する一対の作用部をディスクロータの外周を跨ぐブリッジ部で一体に連結し、該ブリッジ部に略矩形の天井開口部を形成し、該天井開口部のディスク回転方向両側に形成されるディスク軸方向面のディスク半径方向内側に、ディスクロータの両側部に配置した摩擦パッドからの制動トルクを受けるトルク受け面を備えたモノコック構造ピストン対向型の車両用ディスクブレーキのキャリパボディにおいて、前記天井開口部は、キャリパボディのディスク回転方向両端側の4つの開口隅部を円弧状に形成すると共に、該開口隅部に連続する2つのディスク軸方向面を、前記キャリパボディのディスク回転方向両端側に設けられる外側トルク受け面よりも天井開口部の中央側に突出させ、前記ディスク軸方向面の外側トルク受け面側に補強部を形成したことを特徴とする車両用ディスクブレーキのキャリパボディ。
【請求項2】
前記一対の作用部の一方に、一対の車体取付ボルトを挿通するディスク半径方向の2つのボルト挿通孔を設け、各ボルト挿通孔は前記開口隅部の近傍にそれぞれ形成されることを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキのキャリパボディ。
【請求項3】
前記キャリパボディは、鋳造によって一体的に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ディスクブレーキのキャリパボディ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−68331(P2013−68331A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−10818(P2013−10818)
【出願日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【分割の表示】特願2009−96764(P2009−96764)の分割
【原出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】