説明

車両用ディスクブレーキ

【課題】簡単な構造で、制動熱によって摩擦パッドが大きく膨張しても、制動時に摩擦パッドのディスク回入側が浮き上がることを防止できると共に、摩擦パッドの摺動性を確保することができる車両用ディスクブレーキを提供する。
【解決手段】摩擦パッド4のディスク回出側と回入側とに、ディスク半径方向外側に突出する突出部4dを形成する。キャリパボディ3に、制動時に突出部4dのディスク半径方向外側面4fが当接する当接部3eを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ディスクブレーキに関し、詳しくは、作用部に複数のシリンダ孔を備えると共に、ディスクロータを跨いでディスク軸方向に懸架されるハンガーピンで一対の摩擦パッドを吊持した車両用ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作用部に複数のシリンダ孔を備えると共に、ディスクロータを跨いでディスク軸方向に懸架されるハンガーピンで一対の摩擦パッドを吊持した車両用ディスクブレーキでは、制動時に、摩擦パッドがディスクロータに引き摺られて、裏板のディスク回出側面がトルク受部に押圧され、回転モーメントによって、ディスク回入側が浮き上がろうとするため、ブリッジ部と摩擦パッドとの間にパッドスプリングを装着し、この浮き上がりの抑制を図ったものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−222225号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車両の性能アップにより、ディスクブレーキに用いられるピストンの数が増加し、制動時に掛かる負荷も増大して制動熱が上昇する傾向にある。このため、制動熱よって摩擦パッドが大きく膨張し、常温時と高温時の摩擦パッドの幅寸法の差が大きくなることから、摩擦パッドとキャリパボディに設けるトルク受部とのクリアランスを広く設定するようにしている。このため、制動時に、摩擦パッドのディスク回入側が浮き上がり易くなり、摩擦パッドが適切な状態でトルク受部に当接し難くなることがあった。また、摩擦パッドのディスク回入側が浮き上がった状態で熱膨張すると、摩擦パッドの摺動に支障を来す虞があった。
【0005】
上述の特許文献1のものでは、パッドスプリングは、摩擦パッドが高温となった際にもスプリング力を確保しなければならないことから、耐熱性の向上を図らなければならず、また、形状も複雑であることから、コストが嵩んでいた。
【0006】
そこで本発明は、簡単な構造で、制動熱によって摩擦パッドが大きく膨張しても、制動時に摩擦パッドのディスク回入側が浮き上がることを防止できると共に、摩擦パッドの摺動性を確保することができる車両用ディスクブレーキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキは、ディスクロータ側に開口する複数のシリンダ孔を備えた一対の作用部を、前記ディスクロータの外周を跨ぐブリッジ部にて連結してキャリパボディを形成し、前記ディスクロータと前記作用部との間で、且つ、車両前進時におけるディスク回入側のトルク受部とディスク回出側のトルク受部との間に一対の摩擦パッドを配置し、各摩擦パッドのディスク周方向中央部に突設した吊下げ片を、前記キャリパボディにディスクロータを跨いでディスク軸方向に懸架されるハンガーピンによりディスク軸方向へ移動可能に吊持した車両用ディスクブレーキにおいて、前記摩擦パッドのディスク回出側と回入側とに、ディスク半径方向外側に突出する突出部を形成すると共に、前記キャリパボディに、制動時に前記突出部のディスク半径方向外側面が当接する当接部を設けたことを特徴としている。
【0008】
また、前記当接部は前記ブリッジ部に設けられていると好ましい。さらに、前記キャリパボディのトルク受部からディスク半径方向内側面に亘るリテーナを、前記キャリパボディのディスク半径方向内側面に、取付ボルトにて取り付けると良く、前記リテーナは、前記取付ボルトの径方向及び軸方向に対して移動可能な状態で前記ディスク半径方向内側面に取り付けられると好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用ディスクブレーキによれば、簡単な構造で、パッドスプリングを用いることなく、また、常温時と高温時における摩擦パッドの幅寸法に拘わらず、制動時に摩擦パッドのディスク回入側が浮き上がることを防止することができる。さらに、当接部をブリッジ部に形成することにより、当接部を簡単に形成することができると共に、摩擦パッドの浮き上がりを確実に防止することができ、コストの低減化を図ることができる。
【0010】
また、キャリパボディのトルク受部からディスク半径方向内側面に亘ってリテーナを敷設することにより、摩擦パッドの摺動性を向上させながらトルク受部の摩耗を防止することができ、さらに、リテーナは、キャリパボディのディスク半径方向内側面に、取付ボルトにて取り付けられることから、リテーナをキャリパボディのディスク半径方向内側から簡単に装着させることができる。
【0011】
さらに、リテーナは、取付ボルトの径方向及び軸方向に対して移動可能な状態で、キャリパボディのディスク半径方向内側面に取り付けられることから、摩擦パッドが制動時に、ディスクロータに引き摺られて、裏板のディスク回出側面がトルク受部に押圧される際に、裏板から掛かる負荷に応じてリテーナが僅かに移動しながら、負荷を分散させることができ、安定した制動力を得ることができる。さらに、リテーナの、取付ボルトを挿通させる挿通孔の周囲に応力が集中することを抑制し、挿通孔の周囲が損傷することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図3のI-I断面図である。
【図2】本発明の一形態例を示す車両用ディスクブレーキの要部拡大断面図である。
【図3】同じく車両用ディスクブレーキの底面図である。
【図4】同じく車両用ディスクブレーキの断面平面図である。
【図5】リテーナの一形態例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1乃至図5は本発明の車両用ディスクブレーキの一形態例を示す図で、図中の矢印Aは、車両前進走行時のディスクロータの回転方向を示し、以下の説明で用いるディスク回入側と回出側とは、車両前進走行時の場合とする。
【0014】
この車両用ディスクブレーキ1は、車輪と一体に回転するディスクロータ2と、該ディスクロータ2の一側部で車体に取り付けられるキャリパボディ3と、ディスクロータ2の両側部に配設されるキャリパボディ3の作用部3a,3a間に、ディスクロータ2を挟んで対向配置される摩擦パッド4,4とを備えている。
【0015】
キャリパボディ3は、ディスクロータ2の両側部に配設される作用部3a,3aをブリッジ部3bで連結して形成される。双方の作用部3a,3aには、3つのシリンダ孔5がそれぞれ対向して設けられ、各シリンダ孔5には、ピストン6がピストンシール7を介してそれぞれ内挿されている。ブリッジ部3bの中央には、ディスクロータ半径方向内外に貫通する略矩形の天井開口部3cが形成され、キャリパボディ3のディスク回入側とディスク回出側とには、ディスクロータ2を挟んで、トルク受部3d,3dが連設されている。トルク受部3d,3dには、リテーナ8,8が敷設され、車両前進又は後退時に、ディスクロータ2との摺接によって摩擦パッド4に発生した制動トルクを、リテーナ8,8を介してトルク受部3d,3dで支承するようになっている。
【0016】
各摩擦パッド4は、ディスクロータ2の側面に摺接するライニング4aを、金属製の裏板4bに貼着して形成される。裏板4bは、ディスク外周側の中央部に、天井開口部3c方向へ突出する吊下げ片4cが設けられると共に、ディスク回出側と回入側とに、ディスク半径方向外側、及び、吊下げ片側に突出する突出部4d,4dが設けられる。各吊下げ片4cには、ハンガーピン挿通孔4eがそれぞれ形成されており、各摩擦パッド4は、前記天井開口部3cを貫通して両作用部3a,3aに架け渡される1本のハンガーピン9を前記ハンガーピン挿通孔4eに挿通することにより、トルク受部3d,3d間に、ディスク軸方向へ移動可能に吊持されている。また、トルク受部3d,3dのディスク半径方向外側には、天井開口部内側に向けて突出し、摩擦パッド4の突出部4dのディスク半径方向外側面4fにそれぞれ対向する当接部3e,3eが設けられている。
【0017】
リテーナ8は、ディスクロータ両側のトルク受部3d,3dに敷設される一対のリテーナ部8a,8aと、ディスクロータ2の外周を跨いで前記一対のリテーナ部8a,8aを繋ぐ連結片8bと、リテーナ部8a,8aのディスク半径方向内側をキャリパボディ3のディスク半径方向内側面3f方向にそれぞれ折曲して形成した取付片8c,8cとを備えている。各取付片8cには、取付ボルト10の挿通孔8dがそれぞれ穿設され、挿通孔8dの径は、取付ボルト10の外径よりも大径に形成され、取付ボルト10と挿通孔8dとの間には所定のクリアランスC1が設けられる。また、リテーナ8は、キャリパボディ3のディスク半径方向内側面3fに取付ボルト10で取り付けられる際に、取付ボルト10の軸方向にも所定のクリアランスC2を有した状態で取り付けられ、リテーナ部8a,8aは、トルク受部3d,3dに対して、取付ボルト10の軸方向及び径方向に僅かに移動可能に取り付けられる。
【0018】
上述の車両用ディスクブレーキ1は、6ポット対向型であり、ポットの数の少ないものに比べて制動時に掛かる負荷が大きい。このため、制動熱により摩擦パッド4,4が大きく膨張し、常温時と高温時の摩擦パッドの幅寸法の差が大きくなることから、摩擦パッド4,4とトルク受部3d,3dとのクリアランスを大きく設定している。制動時には、摩擦パッドがディスクロータに引き摺られて、裏板4bのディスク回出側面がトルク受部3dに押圧され、回転モーメントによって、ディスク回入側が浮き上がろうとし、特に、摩擦パッド4,4とトルク受部3d,3dとのクリアランスを大きくしていることから、回転モーメントによる影響を受けやすくなっているが、裏板4bに設けられたディスク回入側の突出部4dのディスク半径方向外側面4fが、天井開口部3cのディスク回入側面に設けられた当接部3eに当接することにより、摩擦パッド4のディスク回入側が浮き上がることを抑制することができる。また、リテーナ8は、取付ボルト10の径方向及び軸方向に対してクリアランスC1,C2を有した状態で、キャリパボディ3のディスク半径方向内側面3fに取り付けられることから、制動時に、摩擦パッド4がディスクロータ2に引き摺られて、裏板4bのディスク回出側面4gがトルク受部3dに押圧される際に、裏板4bから掛かる負荷に応じてリテーナ8のリテーナ部8aが僅かに移動しながら、負荷をトルク受部3dに略均一に掛けることができ、安定した制動力を得ることができる。さらに、リテーナ8は、クリアランスC1によって、取付片8cの挿通孔8dの周囲に応力が集中することが抑制され、挿通孔8dの周囲が損傷することを防止できる。また、リテーナ8は、キャリパボディ3のディスク半径方向内側面3fに、取付ボルト10で取り付けられることから、着脱が容易で、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0019】
尚、本発明は上述の形態例に限るものではなく、シリンダ孔の数やハンガーピンの本数は任意である。また、リテーナの形状も任意であり、連結片でリテーナ部を連結したものでなくても良い。
【符号の説明】
【0020】
1…車両用ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパボディ、3a…作用部、3b…ブリッジ部、3c…天井開口部、3d…トルク受部、3e…当接部、3f…ディスク半径方向内側面、4…摩擦パッド、4a…ライニング、4b…裏板、4c…吊下げ片、4d…突出部、4e…ハンガーピン挿通孔、4f…ディスク半径方向外側面、4g…ディスク回出側面、5…シリンダ孔、6…ピストン、7…ピストンシール、8…リテーナ、8a…リテーナ部、8b…連結片、8c…取付片、9…ハンガーピン、10…取付ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータ側に開口する複数のシリンダ孔を備えた一対の作用部を、前記ディスクロータの外周を跨ぐブリッジ部にて連結してキャリパボディを形成し、前記ディスクロータと前記作用部との間で、且つ、車両前進時におけるディスク回入側のトルク受部とディスク回出側のトルク受部との間に一対の摩擦パッドを配置し、各摩擦パッドのディスク周方向中央部に突設した吊下げ片を、前記キャリパボディにディスクロータを跨いでディスク軸方向に懸架されるハンガーピンによりディスク軸方向へ移動可能に吊持した車両用ディスクブレーキにおいて、前記摩擦パッドのディスク回出側と回入側とに、ディスク半径方向外側に突出する突出部を形成すると共に、前記キャリパボディに、制動時に前記突出部のディスク半径方向外側面が当接する当接部を設けたことを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記当接部は前記ブリッジ部に設けられていることを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記キャリパボディのトルク受部からディスク半径方向内側面に亘るリテーナを、前記キャリパボディのディスク半径方向内側面に、取付ボルトにて取り付けたことを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記リテーナは、前記取付ボルトの径方向及び軸方向に対して移動可能な状態で前記ディスク半径方向内側面に取り付けられることを特徴とする請求項3記載の車両用ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−50161(P2013−50161A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188126(P2011−188126)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】