説明

車両用フェンダ

【課題】 車両用フェンダを上昇させることによって整備用開口の側方近傍外へ退避させることで、場積の制約のある場所での整備を可能にするとともに、操作性を向上させることを課題とする。
【解決手段】 車両用フェンダ10は、上部フェンダ11と、下部フェンダ12とを有している。上部フェンダ11と車体101との間には、上部フェンダ11を車体101に対して第1の回動支点13a回りに上げ下げ自在に連結する第1の連結部材13が設けられている。下部フェンダ12と上部フェンダ11との間には、下部フェンダ12を上部フェンダに対して第2の回動支点14a回りに、上部フェンダ11の内側に折り曲げ自在に連結する第2の連結部材14が設けられている。そして、第1の回動支点13aと第2の回動支点13aとを結ぶ線分を、平行リンク20を構成する1つのリンク21とする平行リンク機構20が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダなどの作業車両に好適な車両用フェンダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1(a)に示すように、ホイールローダ100の車体101の側面には、エレメント類などの点検、交換などの整備作業が行われる整備用開口102が設けられている。整備用開口102は、サイドパネル(整備用開閉扉)103によって開閉自在に覆われている。サイドパネル103の側方近傍には、車輪(後側駆動輪)104を覆う車両用フェンダ(リアフェンダ)200が設けられている。車両用フェンダ200は、走行に伴う車体101への泥はねや周囲環境への泥の飛散を防止するために設けられている。
【0003】
整備作業を行うためには、車両用フェンダ200を整備用開口102の側方近傍外に退避させて、サイドパネル103を開くする必要がある。
【0004】
そこで、従来より、図1(b)に上面図にて示すように、車体101の横方向に開く構造の車両用フェンダ200が既に実機において採用されている。
【0005】
しかし、車両用フェンダ200を車体101に対して横開きの構造とすると、車体101の側方に余裕のある広大なスペースが必要とされ、場積に制約のある場所では、車両用フェンダ200を横開きにして整備作業を行うことが困難若しくは不可能となる。
【0006】
そこで、図1(c)に示すように、車両用フェンダ200を上方に回動して退避させる構造のものが既に実機で採用されている。車両用フェンダ200を上方に退避させる構造とすればホイールローダ100の車幅内で整備作業を行うことができるため、場積に制約のある場所でも容易に整備作業を行うことができる。
【0007】
たとえば、図1(d)に斜視図にて示すように、サイドパネル103に車両用フェンダ200を取り付けた上で、サイドパネル103と共に車両用フェンダ200を、整備用開口102の上方に退避させるというガルウイング構造のものが既に実機で採用されている。
【0008】
しかし、作業者がサイドパネル103を上昇させる際若しくは作業者が整備を行っているときには、車両用フェンダ200が作業者の上方に位置することになる。このため車両用フェンダ200の内側に付着した泥等が作業者に降りかかったり、エアエレメントなどの泥等の異物を付着させることが望ましくない部品に、泥等の異物が付着するという問題が発生し、整備性に悪影響を与える。
【0009】
また、下記特許文献1には、図2に示すように、車両用フェンダ200を持ち上げる際の労力を軽減させることを目的として、車両用フェンダ200を、2つの部材201、202とからなる中折れ構造となして、車両用フェンダ200を折り曲げつつ整備用開口102の上方へ退避させるという発明が記載されている。
【0010】
すなわち、車両用フェンダ200は、上部フェンダ201と、下部フェンダ202とを有している。上部フェンダ201は、車体101に対して回動支点203回りに上げ下げ自在に連結されている。下部フェンダ202は、上部フェンダ201に対して回動支点204回りに、上部フェンダ201の内側に折り曲げられるように連結されている。
【0011】
上部フェンダ201には、テンションバー205の一端205aが揺動自在に取り付けられている。下部フェンダ202の長孔206には、テンションバー205の他端205bが係合されている。
【0012】
下部フェンダ202には、取手207が取り付けられている。上部フェンダ201には、上部フェンダ201を上げ方向に付勢するガススプリングが取り付けられている。
【0013】
作業者が取手207を把持して、下部フェンダ202を持ち上げると、ガススプリングの付勢力により、上部フェンダ201が持ち上がる。
【0014】
上部フェンダ201が上昇すると、これに応じてテンションバー205の他端205bは長孔206内を移動して、下部フェンダ202が上部フェンダ201の内側に折り曲がる。
【0015】
ここで、車両用フェンダ200が車輪104を覆う通常位置にあるときの上部フェンダ201に対して下部フェンダ202がなす角度をA゜とする。車両用フェンダ200が上昇することによって、テンションバー205の他端205bが長孔206内を移動する。そして、この長孔206内の移動距離に応じた角度α゜だけ下部フェンダ202が折れ曲がることになり、車両用フェンダ200が上昇して整備位置にあるときの上部フェンダ201に対して下部フェンダ202が成す角度は、A゜−α゜となる。
【特許文献1】実開平3−130775号のマイクロフィルム
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1記載の発明は、テンションバー205の他端205bが長孔206内を移動した距離に応じた角度αだけしか下部フェンダ202が折れ曲がらない構造となっており、下部フェンダ202は上部フェンダ201の内側には大きく移動しない。
【0017】
このため作業者が車両用フェンダ200を持ち上げる際若しくは作業者が整備を行っているときに、下部フェンダ202の内側が作業者の上方に位置することになる。このため下部フェンダ202の内側に付着した泥等が作業者に降りかかったり、エアエレメントなど、泥等の異物を付着させることが望ましくない部品に、泥等の異物が付着するという問題が発生し、整備性に悪影響を与えかねない。
【0018】
また、通常位置にあるときの取手207の姿勢に対して、整備位置にあるときの取手207の姿勢が大きく変化するため、取手207を把持する作業者に無理な体の姿勢変化を強いることになり、操作性が悪いという問題がある。たとえば、車両用フェンダ200を整備位置まで持ち上げる際には取手207の把持する部分は、作業者に対して横向きであるのに対して、車両用フェンダ200を通常位置まで下降させる際には取手207の把持する部分は、作業者に対して上向きであり、作業者としては車両用フェンダ200を持ち上げるときと下げるときで、手の向きや体の姿勢を大きく変えなければならず、作業者に大きな負担を課すことになる。
【0019】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであり、車両用フェンダを上昇させることによって整備用開口の側方近傍外へ退避させることで、場積の制約のある場所での整備を可能にするとともに、車両用フェンダを持ち上げる際または整備位置まで上昇した状態のときに下部フェンダの内側を作業者の上方に位置させないようにすることで、下部フェンダ内側の付着物の落下を防止し、さらに、車両用フェンダを上昇させる過程または下降させる過程で常に下部フェンダの把持部の姿勢を一定の姿勢に保持させることで、操作性を向上させることを解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1発明は、
車体の側面の整備用開閉扉の側方近傍に設けられ、車輪を覆う車両用フェンダであって、
車両用フェンダは、上部フェンダと、下部フェンダとを有し、
上部フェンダを車体に対して第1の回動支点回りに上げ下げ自在に連結する第1の連結部材と、
下部フェンダを上部フェンダに対して第2の回動支点回りに、上部フェンダの内側に折り曲げ自在に連結する第2の連結部材と、
第1の回動支点と第2の回動支点とを結ぶ線分を、平行リンクを構成する1つのリンクとする平行リンク機構であって、上部フェンダが上げ方向に回動するに応じて下部フェンダを上部フェンダの内側方向に折り曲げるように回動させる平行リンク機構と
を備えたことを特徴とする。
【0021】
第2発明は、第1発明において、
下部フェンダの外側には、把持部が設けられており、
平行リンク機構は、車両用フェンダの昇降中に、把持部の姿勢を略一定の姿勢に保持するように、動作する機構であること
を特徴とする。
【0022】
第3発明は、第1発明において、
上部フェンダには、当該上部フェンダを、上げ方向に付勢するスプリングが取り付けられていること
を特徴とする。
【0023】
第4発明は、第1発明において、
車体側面には、車体側面と上部フェンダおよび下部フェンダとのすきまを埋める大きさの補助フェンダ部材が取り付けられていること
を特徴とする。
【0024】
本発明を図を用いて説明すると、図3に示すように、車体101の側面の整備用開閉扉103の側方近傍には、車輪104を覆う車両用フェンダ10が設けられている。
【0025】
図5に示すように、車両用フェンダ10は、上部フェンダ11と、下部フェンダ12とを有している。上部フェンダ11と車体101との間には、上部フェンダ11を車体101に対して第1の回動支点13a回りに上げ下げ自在に連結する第1の連結部材13が設けられている。
【0026】
下部フェンダ12と上部フェンダ11との間には、下部フェンダ12を上部フェンダに対して第2の回動支点14a回りに、上部フェンダ11の内側に折り曲げ自在に連結する第2の連結部材14が設けられている。
【0027】
そして、第1の回動支点13aと第2の回動支点13aとを結ぶ線分を、平行リンク20を構成する1つのリンク21とする平行リンク機構20が設けられている。この平行リンク機構20は、上部フェンダ11が上げ方向Uに回動するに応じて下部フェンダ12を上部フェンダ11の内側方向INに折り曲げるように回動させる(第1発明)。
【0028】
ここで、下部フェンダ12の外側には、把持部15が設けられている。平行リンク機構20は、車両用フェンダ10の昇降中に、把持部15の姿勢を略一定の姿勢に保持するように、動作する(第2発明)。
【0029】
図4(a)に示すように、上部フェンダ11には、当該上部フェンダ11を、上げ方向に付勢するスプリング16が取り付けられている(第3発明)。
【0030】
そこで、図5に示すように、作業者が把持部15を把持して、下部フェンダ12を持ち上げると、スプリング16の付勢力により、上部フェンダ11が持ち上がる。スプリング16は、車両用フェンダ10が倒れないように上部フェンダ11を付勢する。
【0031】
上部フェンダ11が上げ方向Uに回動すると、平行リンク機構20によって、下部フェンダ12が上部フェンダ11の内側方向INに折り曲げるように回動する。
【0032】
車両用フェンダ10が車輪104を覆う通常位置にあるときの上部フェンダ11に対して下部フェンダ12がなす角度をA゜とする。車両用フェンダ10が整備位置まで上昇すると、下部フェンダ12が大きい角度β゜をもって折れ曲がる。車両用フェンダ10が上昇して整備位置にあるときの上部フェンダ11に対して下部フェンダ12が成す角度は、A゜−β゜となる。この角度A゜−β゜は、特許文献1記載の発明による角度A゜−α゜よりも十分に小さい。すなわち、特許文献1記載の従来技術のように、折れ曲がり角度が小さい角度α゜に規制されることなく、下部フェンダ12が上部フェンダ11の内側に大きく移動することになる。
【0033】
また、車両用フェンダ10の上昇中あるいは下降中に、下部フェンダ12は、車輪104を覆う通常位置にあるときと略同じ姿勢を常に保持する。
【0034】
このため作業者が車両用フェンダ10を持ち上げる際あるいは下降させる際、下部フェンダ11の内側は常に作業者に対して外向きであり作業者の頭上に位置することがない。このため下部フェンダ12の内側に付着した泥等が作業者に降りかかったり、エアエレメントなどの泥等の異物を付着させることが望ましくない部品に、泥等の異物が付着するような問題は発生しない。このため本発明によれば整備性が向上する。
【0035】
また、車両用フェンダ10の上昇中あるいは下降中に、把持部15は、車輪104を覆う通常位置にあるときと略同じ姿勢を常に保持する。通常位置から整備位置に至るまで把持部15の姿勢が殆ど変化することがないため、把持部15を把持する作業者は、ほぼ同じ姿勢で操作を行うことができ、従来のように無理な体の姿勢変化を強いることがない。たとえば、車両用フェンダ10を整備位置まで持ち上げるときの把持部15の向きと、車両用フェンダ10を通常位置まで下降させるときの把持部15の向きは、作業者に対してほぼ同じ横向きであり、作業者としては車両用フェンダ10を持ち上げるときと下げるときで、同じ手の向き、同じ体の姿勢のままで、操作を行うことができる。
【0036】
以上のように本発明によれば、車両用フェンダ10を上方へ移動させることによって整備用開口102の側方近傍外へ退避させるようにしたので、場積の制約のある場所での整備が可能になる。
【0037】
本発明によれば、車両用フェンダ10を持ち上げる際(あるいは下降させる際)または整備位置まで上昇したとき、下部フェンダ12の内側は作業者に対して外向きであり作業者の上方に位置することがない。このため下部フェンダ12内側の付着物の落下が防止され、整備性が向上する。
本発明によれば、車両用フェンダ10を上昇させる過程または下降させる過程で常に下部フェンダ12の把持部15の姿勢が一定の姿勢に保持される。このため操作性が向上する。
【0038】
また、図3に示すように、車体101の側面に、車体101の側面と上部フェンダ11および下部フェンダ12とのすきまを埋める大きさの補助フェンダ部材30を取り付けてもよい(第4発明)。
【0039】
ここで、仮に車体101の側面と上部フェンダ11および下部フェンダ12との間にすきまがあるとすると、車輪104によって跳ね上げられた泥などが、すきまを通って、車体101に設けられた空気取入れ口105に付着するなどして、ラジエータなどの機能に悪影響を与えかねない。本発明によれば、補助フェンダ部材30によって、このような悪影響を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、図面を参照して本発明に係る車両用フェンダの実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、車両としてホイールローダを想定して説明する。ただし、ホイールローダは、本発明の車両用フェンダが適用される車両の一例であり、同様な構造をもつ車両であれば任意の車両に本発明を適用することができる。
【0041】
図3は実施例のホイールローダ100の後部を斜視図にて示している。
【0042】
同図3に示すように、ホイールローダ100の車体101の側面には、エレメント類などの点検、交換などの整備作業が行われる整備用開口102が設けられている。整備用開口102は、サイドパネル(整備用開閉扉)103によって開閉自在に覆われている。サイドパネル103の側方近傍には、車輪(後側駆動輪)104を覆う車両用フェンダ(リアフェンダ)10が設けられている。また車体101の後部側面には、空気取り入れ口105が設けられている。
【0043】
車両用フェンダ10は、走行に伴う車体101への泥はねや周囲環境への泥の飛散を防止するために設けられている。本実施例の車両用フェンダ10は昇降自在に構成されている。図3(a)に示すように、車両用フェンダ10が車輪104を覆っているときの位置を、通常位置と呼び、図3(b)、(c)に示すように、サイドパネル103を開くことができるまで車両用フェンダ10が持ち上げられた位置を、整備位置と呼ぶ。
【0044】
以下、図4と図5を併せ参照して車両用フェンダ10の構成について説明する。
【0045】
図4(a)は、車両用フェンダ10の内側を示した斜視図であり、図4(b)は、車両用フェンダ10を外側を示した斜視図である。図5は、車両用フェンダ10の側面を示す図で、車両用フェンダ10が上昇若しくは下降するときの姿勢変化を示した図である。
【0046】
これら図4、図5に示すように、車両用フェンダ10は、上部フェンダ11と、下部フェンダ12とを有している。上部フェンダ11と車体101との間には、上部フェンダ11を車体101に対して第1の回動支点13a回りに上げ下げ自在に連結する第1の連結部材としてのヒンジ13が設けられている。
【0047】
下部フェンダ12と上部フェンダ11との間には、下部フェンダ12を上部フェンダ11に対して第2の回動支点14a回りに、上部フェンダ11の内側に折り曲げ自在に連結する第2の連結部材としてのヒンジ14が設けられている。
【0048】
そして、第1の回動支点13aと第2の回動支点14aとを結ぶ線分を、平行リンク20を構成する1つのリンク21とする平行リンク機構20が設けられている。リンク21は、平行リンク機構20の長手側リンクを構成している。
【0049】
上部フェンダ11と下部フェンダ12とは、ロッド22によって連結されている。ロッド22の一端は、ヒンジ13側に位置されている。ロッド22の一端は、車体101に対してピン23(第3の回動支点)回りに回動自在に、車体101に連結されている。ロッド22の他端は、ヒンジ14側に位置されている。ロッド22の他端は、下部フェンダ12に対してピン24(第4の回動支点)回りに回動自在に、下部フェンダ12に連結されている。ロッド22は、平行リンク機構20の長手側リンクを構成している。
【0050】
以上のように、第1の回動支点13a、第2の回動支点14a、第3の回動支点23、第4の回動支点24を4節点とし、互いに平行な長手側リンク21、22(ロッド)を有した平行リンク機構20が構成される。
【0051】
この平行リンク機構20は、上部フェンダ11が上げ方向Uに回動するに応じて下部フェンダ12を上部フェンダ11の内側方向INに折り曲げるように回動させるように調整されている。
【0052】
下部フェンダ12の外側には、把持部としての取手15が設けられている。なお、把持部としては、取手15のように、下部フェンダ12とは別部材で構成してもよく、また、下部フェンダ12に形成された凹部のように、下部フェンダ12の一部分であってもよい。
【0053】
平行リンク機構20は、車両用フェンダ10の昇降中に、下部フェンダ12の姿勢を略一定の姿勢に保持して、取手15の姿勢を略一定の姿勢に保持するように、調整されている。
【0054】
上部フェンダ11には、この上部フェンダ11を、上げ方向に付勢するガススプリング16が取り付けられている。また、上部フェンダ11には、上げ方向Uへの回動のストロークエンドである整備位置での上部フェンダ11の姿勢を規定するオープンストッパ17が取り付けられている。
【0055】
上部フェンダ11と下部フェンダ12の外側には、上部フェンダ11と下部フェンダ12とを固定するロック機構41、42が設けられている。また、下部フェンダ12の外側には、下部フェンダ12と車体101とを固定するロック機構43、44が設けられている。
【0056】
サイドパネル103には、サイドパネル103と上部フェンダ11および下部フェンダ12とのすきまを埋める大きさの補助フェンダ部材30が取り付けられている。
【0057】
補助フェンダ部材30は、上部フェンダ側泥除け部材31と、下部フェンダ側泥除け部材32と、上部フェンダ側取付パネル33と、下部フェンダ側取付パネル34とからなる。
【0058】
上部フェンダ側泥除け部材31は、上部フェンダ側取付パネル33を介してサイドパネル103に取り付けられている。下部フェンダ側泥除け部材32は、下部フェンダ側取付パネル34を介してサイドパネル103に取り付けられている。
【0059】
上部フェンダ側泥除け部材31、下部フェンダ側泥除け部材32はそれぞれ、車両用フェンダ10が通常位置にあるときに、上部フェンダ11、下部フェンダ12の下面に近接させ上下にオーバーラップさせることで、サイドパネル103と上部フェンダ11および下部フェンダ12との間に、車両用フェンダ10の上面からみてすきまが生じないように、取り付けられている。
【0060】
以下、さらに図6を併せ参照して、車両用フェンダ10を通常位置から整備位置まで上昇させるときの動きについて説明する。
【0061】
図6(a)、(b)、(c)は、車両用フェンダ10を車体101の側方からみた図で、車両用フェンダ10が上昇するときの姿勢変化を時間経過に応じて示した図である。
【0062】
図6(d)、(e)、(f)は、車両用フェンダ10を車体101の後方からみた斜視図で、図6(a)、(b)、(c)に対応させて、車両用フェンダ10が上昇するときの姿勢変化を時間経過に応じて示した図である。
【0063】
図3(a)に示すように、作業者は、ロック機構41、42、43、44を操作して、上部フェンダ11と下部フェンダ12との間のロック状態を解除するとともに、下部フェンダ12と車体101との間のロック状態を解除する。
【0064】
つぎに、図4(b)あるいは図5に示すように、作業者は、取手15を把持して、下部フェンダ12を矢印Tに示す方向に力をかけて持ち上げる。これに応じてガススプリング16の付勢力により、上部フェンダ11が持ち上がる。ガススプリング16は、通常位置から整備位置に至るまで車両用フェンダ10が倒れないように上部フェンダ11を付勢する。
【0065】
図5に示すように、上部フェンダ11は、上げ方向Uに回動する。すると平行リンク機構20によって、下部フェンダ12が上部フェンダ11の内側方向INに折り曲げるように回動する。下部フェンダ12は、ロッド22によって規制されているため、上部フェンダ11の上げ方向Uの回動に応じて、自動的に上部フェンダ11の内側方向INに動く。
【0066】
通常位置から整備位置まで車両用フェンダ10の姿勢は、図6(a)、(b)、(c)あるいは図6(d)、(e)、(f)のごとく変化する。
【0067】
こうして図3(b)に示すように車両用フェンダ10は、整備位置まで移動する。作業者が取手15から手を離してもガススプリング16の付勢力によって、車両用フェンダ10は折り曲がった姿勢を保持する。
【0068】
しかる後、作業者はサイドパネル103を開き、整備用開口102を通して整備作業を行う。
【0069】
整備作業が終了すると、作業者は、取手15を把持して、押し下げる方向Lに力をかける。すると、上部フェンダ11、下部フェンダ12は、図5に示すように、平行リンク機構20によって、上昇時とは逆方向に回動して、元の通常位置に復帰する。しかる後、ロック機構41〜44を操作して元のロック状態にすれば、ホイールローダ100を安全に走行させることができる。
【0070】
つぎに本実施例による効果について説明する。
【0071】
図5に示すように、通常位置にあるときの上部フェンダ11に対して下部フェンダ12がなす角度をA゜とする。車両用フェンダ10が整備位置まで上昇すると、下部フェンダ12が大きい角度β゜をもって折れ曲がる。車両用フェンダ10が上昇して整備位置にあるときの上部フェンダ11に対して下部フェンダ12が成す角度は、A゜−β゜となる。この角度A゜−β゜は、特許文献1記載の発明による角度A゜−α゜よりも十分に小さい。すなわち、特許文献1記載の従来技術のように、折れ曲がり角度が小さい角度α゜に規制されることなく、下部フェンダ12が上部フェンダ11の内側に大きく移動することになる。
【0072】
また、車両用フェンダ10の上昇中あるいは下降中に、下部フェンダ12は、車輪104を覆う通常位置にあるときと略同じ姿勢を常に保持する。
【0073】
このため作業者が車両用フェンダ10を持ち上げる際あるいは下降させる際、下部フェンダ11の内側は、常に作業者に対して外向きであり作業者の頭上に位置することがない(図3(a)、(b)参照)。
【0074】
図3(c)は、整備位置で車両用フェンダ10の内側に泥等が内包された状態を模式的に示している。
【0075】
整備中には、大きく折り曲げられた車両用フェンダ10の内側に泥等が内包されているため、下部フェンダ12の内側に付着した泥等が作業者に降りかかったり、エアエレメントなどの泥等の異物を付着させることが望ましくない部品に、泥等の異物が付着するような問題は発生しない。このため本実施例によれば、整備性が向上するという効果が得られる。
【0076】
また、図5に示すように、車両用フェンダ10の上昇中あるいは下降中に、取手15は、車輪104を覆う通常位置にあるときと略同じ姿勢を常に保持する。通常位置から整備位置に至るまで取手15の姿勢が殆ど変化することがないため、取手15を把持する作業者は、ほぼ同じ姿勢で操作を行うことができ、従来のように無理な体の姿勢変化を強いることがない。たとえば、車両用フェンダ10を整備位置まで持ち上げるときの取手15の向きと、車両用フェンダ10を通常位置まで下降させるときの取手15の向きは、作業者に対してほぼ同じ横向きであり、作業者としては車両用フェンダ10を持ち上げるときと下げるときで、同じ手の向き、同じ体の姿勢のままで、操作を行うことができる。
【0077】
以上のように本実施例によれば、車両用フェンダ10を上方へ移動させることによって整備用開口102の側方近傍外へ退避させるようにしたので、場積の制約のある場所での整備が可能になる。
【0078】
本実施例によれば、車両用フェンダ10を持ち上げる際(あるいは下降させる際)または整備位置まで上昇したとき、下部フェンダ12の内側は作業者に対して常に外向きであり作業者の上方に位置することがない。このため下部フェンダ12内側の付着物の落下が防止され、整備性が向上する。
本実施例によれば、車両用フェンダ10を上昇させる過程または下降させる過程で常に下部フェンダ12の取手15の姿勢が一定の姿勢に保持される。このため操作性が向上する。
【0079】
また、本実施例では、図3に示すように、サイドパネル103に補助フェンダ部材30が、サイドパネル103と上部フェンダ11および下部フェンダ12との間に、車両用フェンダ10の上面からみて、すきまが生じないように取り付けられている。
【0080】
ここで、仮にサイドパネル103と上部フェンダ11および下部フェンダ12との間にすきまがあるとすると、車輪104によって跳ね上げられた泥などが、すきまを通って、空気取入れ口105に付着するなどして、ラジエータなどの機能に悪影響を与えかねない。本実施例によれば、補助フェンダ部材30によって、このような悪影響を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ、実機として採用されている従来技術を説明するために用いた図である。
【図2】図2は、特許文献に記載された従来技術を説明するために用いた図である。
【図3】図3(a)は、車両用フェンダが通常位置にあるときの車体後部の斜視図であり、図3(b)、(c)はそれぞれ、車両用フェンダが整備位置にあるときの車体後部の斜視図、側面図である。
【図4】図4(a)は車両用フェンダの内側の構成図で、図4(b)は車両用フェンダの外側の構成図である。
【図5】図5は、車両用フェンダの側面図で、車両用フェンダの上昇時あるいは下降時の姿勢変化を示した図である。
【図6】図6(a)、(b)、(c)は、車両用フェンダを車体の側方からみた図で、車両用フェンダが上昇するときの姿勢変化を時間経過に応じて示した図で、図6(d)、(e)、(f)は、車両用フェンダを車体の後方からみた斜視図で、図6(a)、(b)、(c)に対応させて、車両用フェンダが上昇するときの姿勢変化を時間経過に応じて示した図である。
【符号の説明】
【0082】
10 車両用フェンダ 11 上部フェンダ 12 下部フェンダ 20 平行リンク機構 13 第1の連結部材(ヒンジ) 13a 第1の回動支点 14 第2の連結部材(ヒンジ) 14a 第2の回動支点 15 把持部(取手) 16 ガススプリング 20 平行リンク機構 21 リンク 30 補助フェンダ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側面の整備用開閉扉の側方近傍に設けられ、車輪を覆う車両用フェンダであって、
車両用フェンダは、上部フェンダと、下部フェンダとを有し、
上部フェンダを車体に対して第1の回動支点回りに上げ下げ自在に連結する第1の連結部材と、
下部フェンダを上部フェンダに対して第2の回動支点回りに、上部フェンダの内側に折り曲げ自在に連結する第2の連結部材と、
第1の回動支点と第2の回動支点とを結ぶ線分を、平行リンクを構成する1つのリンクとする平行リンク機構であって、上部フェンダが上げ方向に回動するに応じて下部フェンダを上部フェンダの内側方向に折り曲げるように回動させる平行リンク機構と
を備えたことを特徴とする車両用フェンダ。
【請求項2】
下部フェンダの外側には、把持部が設けられており、
平行リンク機構は、車両用フェンダの昇降中に、把持部の姿勢を略一定の姿勢に保持するように、動作する機構であること
を特徴とする請求項1記載の車両用フェンダ。
【請求項3】
上部フェンダには、当該上部フェンダを、上げ方向に付勢するスプリングが取り付けられていること
を特徴とする請求項1記載の車両用フェンダ。
【請求項4】
車体側面には、車体側面と上部フェンダおよび下部フェンダとのすきまを埋める大きさの補助フェンダ部材が取り付けられていること
を特徴とする請求項1記載の車両用フェンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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