説明

車両用ブレーキ液圧制御装置

【課題】装置全体を小型化するとともに、リザーバの組み付け工数および製造コストを低減することができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】車両用ブレーキ液圧制御装置Uであって、内部にブレーキ液路が形成され、有底のリザーバ穴11が前面10aに形成された基体10と、リザーバ穴11に摺動自在に挿入されたリザーバピストン41と、リザーバピストン41をリザーバ穴11の底面11a側に付勢するリザーバばね42と、基体10の前面10aに取り付けられたハウジング31を有する制御部30と、を備え、リザーバばね42の前端部42aは、ハウジング31に支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキ液圧制御装置としては、ブレーキ液路が形成された基体と、この基体の内部に形成されたリザーバからブレーキ液を吸引するポンプを作動させるためのモータと、基体に取り付けられた電磁弁およびモータの作動を制御する制御部と、を備えているものがある。
【0003】
基体に形成されたリザーバは、車両用ブレーキ液圧制御装置によるブレーキ制御に応じてブレーキ液を一時的に貯溜する部位である。従来のリザーバ400は、図5に示すように、基体10の前面10aに形成された有底のリザーバ穴11にリザーバピストン41が摺動自在に挿入されており、このリザーバピストン41をリザーバ穴11の底面11a側に付勢するリザーバばね42が設けられている。また、リザーバばね42の一端部は、リザーバ穴11の開口部側に取り付けられた受け部材50に支持されている。なお、基体10の前面10aには制御部30のハウジング31が取り付けられている。
【0004】
このような従来のリザーバ400を備えた車両用ブレーキ液圧制御装置100では、受け部材50とハウジング31とが干渉するのを防ぐための隙間や、リザーバばね42を支持する受け部材50の底部の肉厚を考慮して、リザーバ400を配置する空間を確保しているため、リザーバ400を配置する空間が前後方向に大きくなっている。
【0005】
また、従来の車両用ブレーキ液圧制御装置では、前後に分割された基体の接合部にリザーバが設けられているものがある。この構成では、一方の基体の接合面にリザーバ穴が形成されており、他方の基体の接合面にリザーバばねの一端部を支持させている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−216852号公報(段落0011、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したように、分割した基体の接合部にリザーバを設けた構成では、リザーバばねを支持する受け部材がなくなるため、リザーバを配置するための空間は小さくなるが、基体全体が大きくなるとともに、基体の加工コストが高くなるという問題がある。また、各種部品の組み付け作業が煩雑になるとともに、分割された基体を溶接によって接合する必要があり、組み付け工数が多くなるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、装置全体を小型化するとともに、リザーバの組み付け工数および製造コストを低減することができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、車両用ブレーキ液圧制御装置であって、内部にブレーキ液路が形成され、有底のリザーバ穴が一面に形成された基体と、前記リザーバ穴に摺動自在に挿入されたリザーバピストンと、前記リザーバピストンを前記リザーバ穴の底面側に付勢するリザーバばねと、前記基体の一面に取り付けられたハウジングを有する制御部と、を備え、前記リザーバばねの一端部は、前記ハウジングに支持されていることを特徴としている。
【0010】
この構成では、制御部を構成しているハウジングを利用してリザーバばねが支持されているため、リザーバばねを支持するための専用の部品を別途設ける必要がない。したがって、本発明では、リザーバの部品点数を低減するとともに、リザーバを配置するための空間を小さくすることができるため、装置全体を小型化するとともに、リザーバの組み付け工数および製造コストを低減することができる。
【0011】
前記した車両用ブレーキ液圧制御装置において、前記ハウジングには、前記基体に向けて突出させた支持部が形成されており、前記支持部に前記リザーバばねの一端部を支持させることができる。
【0012】
この構成では、支持部を基体に向けて突出させることで、リザーバを配置するための空間を更に小さくすることができ、装置全体をより小型化することができる。
【0013】
前記した車両用ブレーキ液圧制御装置では、前記支持部において、前記リザーバばねが当接する部位には、前記支持部よりも高強度な補強部材が設けられていることが望ましい。
【0014】
この構成では、リザーバばねの一端部が当接する支持部の強度を大きくすることで、リザーバばねから受ける荷重によってハウジングに座屈やへたりが生じるのを防ぐことができる。
【0015】
前記した車両用ブレーキ液圧制御装置において、前記リザーバ穴の内周面には、前記リザーバピストンが開口部側に摺動したときに当接するストッパが設けられており、前記リザーバピストンが、前記リザーバ穴の底面と前記ストッパとの間で摺動自在であるように構成することができる。
【0016】
ここで、従来のリザーバでは、リザーバばねを支持する受け部材にリザーバピストンを当接させることで、リザーバピストンのストロークを設定している。これに対して、前記した構成では、受け部材を用いなくてもリザーバピストンのストロークを設定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両用ブレーキ液圧制御装置では、リザーバの部品点数を低減するとともに、リザーバを配置するための空間を小さくすることができるため、装置全体を小型化するとともに、リザーバの組み付け工数および製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の車両用ブレーキ液圧制御装置を示した側面図である。
【図2】本実施形態のリザーバを示した側断面図である。
【図3】本実施形態のリザーバを示した分解斜視図である。
【図4】他の実施形態のリザーバを示した側断面図である。
【図5】従来のリザーバを示した側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
以下の説明における各方向は、車両用ブレーキ液圧制御装置の構成を分かり易く説明するために便宜上設定したものであり、装置の構成を限定するものではない。そして、基体の前面は特許請求の範囲における「一面」に対応している。
【0020】
図1に示す本実施形態の車両用ブレーキ液圧制御装置Uは、車輪ブレーキに装着されたホイールシリンダに付与するブレーキ液圧を適宜制御することで、ホイールシリンダのアンチロックブレーキ制御が可能になっている。
【0021】
車両用ブレーキ液圧制御装置Uは、内部にブレーキ液路(図示せず)が形成された基体10と、基体10の後面10bに一体的に固着されたモータ20と、基体10の前面10aに一体的に固着された制御部30と、を主に備えている。
【0022】
基体10は、略直方体の金属部品であり、前面10a、後面10b、左右の側面10c、上面10dおよび下面10eが形成され、内部にはブレーキ液路(図示せず)が形成されている。
基体10の後面10bには、モータ20の出力軸が挿入される軸受穴(図示せず)が開口し、基体10の前面10aには、電磁弁が挿入される電磁弁装着穴(図示せず)が複数開口している。
【0023】
また、図3に示すように、基体10の前面10aには、リザーバ40を構成する部品が挿入されるリザーバ穴11が開口している。リザーバ穴11は、基体10の前面10aの下隅部に突設された円筒状の突起部12の前面から基体10の内部に形成された有底の円形断面の穴部であり、底面11aにはブレーキ液路(図示せず)に通じる流入路Aが開口している。
【0024】
図1に示すモータ20は、基体10の内部に形成されたリザーバ40からブレーキ液を吸引するプランジャポンプ(図示せず)を作動させるための電動部品である。
【0025】
図1に示す制御部30は、車輪速度センサからの出力に基づいて、基体10に取り付けられた電磁弁(図示せず)やモータ20の作動を制御することで、ブレーキ液路(図示せず)内のブレーキ液圧を変動させるものである。
【0026】
制御部30は、制御基板34(図2参照)が収容されるハウジング31を備えている。ハウジング31は、基体10の前面10aから突出した電磁弁やリザーバ40などを覆った状態で、基体10の前面10aに一体的に固着される箱体である。ハウジング31の後側の開口縁部には、基体10の前面10aの外周縁部に当接するフランジ部32が形成されている。
【0027】
図2に示すように、ハウジング31の内部空間は、仕切壁部33によって前側と後側に分割されており、後側(図2の左側)の空間には電磁弁やリザーバ40などが収容され、前側(図2の右側)の空間には制御基板34が収容されている。
仕切壁部33の後面には、基体10のリザーバ穴11に向けて後方に突出させた支持部33aが形成されている。この支持部33aは、後記するリザーバばね42の前端部42aを支持する部位であり、支持部33aの後面はリザーバばね42の前端部42aが当接する支持面33bとなっており、支持面33bの縁部には、リザーバばね42の前端部42aが支持面33bからずれるのを防ぐために、壁部33cが全周に亘って形成されている。
【0028】
図1に示すリザーバ40は、車両用ブレーキ液圧制御装置Uによるブレーキ制御に応じてブレーキ液を一時的に貯溜する部位である。
リザーバ40は、図2に示すように、リザーバ穴11に摺動自在に挿入されたリザーバピストン41と、リザーバピストン41をリザーバ穴11の底面11a側に付勢するリザーバばね42と、を備えている。
【0029】
リザーバピストン41は、図2に示すように、ハウジング31側(前側)に開口する有底円筒状の部品であり、リザーバ穴11の底面11aに対峙する円板状のピストン底部41aと、リザーバ穴11の内周面11bに対峙する筒状のピストン周壁部41bとが形成されており(図3参照)、リザーバ穴11内で前後方向に摺動自在となっている。
【0030】
ピストン周壁部41bの外周面には、周方向に環状のシール溝41cが形成されており、このシール溝41cには環状のシール部材41dが嵌め込まれている。そして、シール部材41dがリザーバ穴11の内周面11bに接することで、リザーバ穴11内においてリザーバピストン41の後側から前側にブレーキ液が浸入するのを防いでいる。
【0031】
また、リザーバ穴11の開口部近傍の内周面には、C形状のクリップであるストッパ13が取り付けられている。このストッパ13は、リザーバピストン41が開口部側に摺動したときに開口縁部に当接することで、リザーバピストン41の移動を制限するものである。したがって、リザーバピストン41は、リザーバ穴11の底面11aとストッパ13との間で移動するようにストロークが設定されている。
【0032】
図3に示すリザーバばね42は、リザーバピストン41をリザーバ穴11の底面11a側に付勢するコイルばねである。図2に示すように、リザーバばね42の後端部42bは、リザーバピストン41のピストン周壁部41b内に挿入され、ピストン底部41aの前面(内面)に当接している。
また、リザーバばね42の前端部42aは、リザーバピストン41のピストン周壁部41bの開口部から前方に突出しており、ハウジング31の支持部33aの支持面33bに当接している。
なお、本実施形態では、リザーバばね42はコイルばねによって形成されているが、ばねの種類や形態は限定されるものではない。
【0033】
前記した本実施形態のリザーバ40では、図2に示すリザーバ穴11の底面11aに開口した流入路Aからリザーバ穴11の底部にブレーキ液が流入すると、リザーバピストン41はブレーキ液の液圧によってハウジング31側(前側)に押される。そして、リザーバばね42の弾性力に抗して、リザーバピストン41がハウジング31側に移動することで、リザーバ穴11の底面11aとリザーバピストン41の後端面との間にブレーキ液を貯溜する空間が形成される。
【0034】
以上のように構成された車両用ブレーキ液圧制御装置Uでは、図2に示すように、制御部30を構成しているハウジング31を利用してリザーバばね42を支持しているため、リザーバばね42を支持するための専用の部品を別途設ける必要がない。これにより、リザーバ40の部品点数を低減するとともに、従来のリザーバ400(図5参照)のように、受け部材とハウジング31とが干渉するのを防ぐための隙間や受け部材の底部の肉厚を考慮する必要がなくなり、リザーバ40を配置するための空間を小さくすることができる。したがって、本実施形態の車両用ブレーキ液圧制御装置Uでは、装置全体を小型化するとともに、リザーバ40の組み付け工数および製造コストを低減することができる。
【0035】
また、本実施形態の車両用ブレーキ液圧制御装置Uでは、リザーバばね42の前端部42aを支持するための支持部33aを基体10に向けて突出させることで、リザーバ40を配置するための空間を更に小さくすることができ、装置全体をより小型化することができる。
【0036】
また、本実施形態の車両用ブレーキ液圧制御装置Uでは、リザーバピストン41が開口部側に摺動したときに当接するストッパ13がリザーバ穴11の内周面11bに設けられているため、従来のリザーバ400(図5参照)のように、受け部材を用いなくてもリザーバピストン41のストロークを設定することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
例えば、図4に示すリザーバ40Aのように、ハウジング31の支持部33aにおいて、リザーバばね42の前端部が当接する支持面33bに、樹脂製の支持部33aよりも高強度な金属材料や硬質樹脂材料を用いた板状の補強部材33dを設けてもよい。この構成では、リザーバばね42の前端部42aが当接する支持部33aの強度が大きくなるため、リザーバばね42から受ける荷重によってハウジング31に座屈やへたりなどが生じるのを防ぐことができる。
【0038】
また、前記実施形態では、支持部33aをハウジング31の仕切壁部33の後面から突出させているが、仕切壁部33の後面と同一平面上に支持部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 基体
10a 前面(一面)
11 リザーバ穴
13 ストッパ
20 モータ
30 制御部
31 ハウジング
33 仕切壁部
33a 支持部
33b 支持面
33d 補強部材
34 制御基板
40 リザーバ
41 リザーバピストン
41a ピストン底部
41b ピストン周壁部
41c シール溝
41d シール部材
A 流入路
U 車両用ブレーキ液圧制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にブレーキ液路が形成され、有底のリザーバ穴が一面に形成された基体と、
前記リザーバ穴に摺動自在に挿入されたリザーバピストンと、
前記リザーバピストンを前記リザーバ穴の底面側に付勢するリザーバばねと、
前記基体の一面に取り付けられたハウジングを有する制御部と、を備え、
前記リザーバばねの一端部は、前記ハウジングに支持されていることを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記ハウジングには、前記基体に向けて突出させた支持部が形成されており、
前記支持部に前記リザーバばねの一端部が支持されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記支持部において、前記リザーバばねが当接する部位には、前記支持部よりも高強度な補強部材が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
前記リザーバ穴の内周面には、前記リザーバピストンが開口部側に摺動したときに当接するストッパが設けられており、
前記リザーバピストンは、前記リザーバ穴の底面と前記ストッパとの間で摺動自在であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−37320(P2011−37320A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184338(P2009−184338)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】