説明

車両用ブレーキ装置

【課題】マスタピストンの背面を臨ませる倍力液圧室に、ブレーキ操作入力に応じて作動する調圧弁手段によって液圧発生源の出力液圧を調圧して作用せしめるようにした車両用ブレーキ装置において、肉厚の厚いハウジングが用いられる高圧アキュムレータを使用せずに車体へのレイアウト性を高めつつ、昇圧レスポンスの低下を回避する。
【解決手段】液圧発生源がポンプ6だけで構成され、少なくともポンプ6の非作動時には該ポンプ6側へのブレーキ液の流れを阻止する弁78を介してポンプ6にアキュムレータ59が接続され、倍力液圧室9およびアキュムレータ59間に、アキュムレータ59側の液圧が倍力液圧室9側の液圧よりも設定差圧を超えて高くなるのに応じて開弁するとともにブレーキ操作初期にブレーキ操作部材5から機械的に作用する押圧力で開弁する入口弁66が介設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倍力液圧室に背面を臨ませたマスタピストンがケーシングに摺動可能に収容されるマスタシリンダと、リザーバと、該リザーバからくみ上げたブレーキ液を吐出するポンプを少なくとも含む液圧発生源と、ブレーキ操作部材からのブレーキ操作入力に応じて前記液圧発生源の出力液圧を調圧して前記倍力液圧室に作用せしめる調圧弁手段とを備え、前記マスタシリンダが車輪ブレーキに接続される車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車両用ブレーキ装置は、たとえば特許文献1等により既に知られている。
【特許文献1】特開2002−264795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記特許文献1で開示された車両用ブレーキ装置において、液圧発生源は、ポンプと、該ポンプに接続される高圧アキュムレータとを備えるものであり、高圧アキュムレータは高圧に耐えるためハウジングの肉厚が厚くなって大重量であるので液圧発生源が重くなり、車体取付け時のレイアウト性もよくない。そこで高圧アキュムレータを省略し、ポンプだけで液圧発生源を構成することが考えられるが、ポンプの昇圧のみに依存すると、ブレーキ操作初期の昇圧レスポンスが低下する。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、肉厚の厚いハウジングが用いられる高圧アキュムレータを使用せずに車体へのレイアウト性を高めつつ、昇圧レスポンスの低下を回避し得るようにした車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、倍力液圧室に背面を臨ませたマスタピストンがケーシングに摺動可能に収容されるマスタシリンダと、リザーバと、該リザーバからくみ上げたブレーキ液を吐出するポンプを少なくとも含む液圧発生源と、ブレーキ操作部材からのブレーキ操作入力に応じて前記液圧発生源の出力液圧を調圧して前記倍力液圧室に作用せしめる調圧弁手段とを備え、前記マスタシリンダが車輪ブレーキに接続される車両用ブレーキ装置において、前記液圧発生源が前記ポンプだけで構成され、少なくとも前記ポンプの非作動時には該ポンプ側へのブレーキ液の流れを阻止する弁を介して前記ポンプにアキュムレータが接続され、前記倍力液圧室および前記アキュムレータ間に、アキュムレータ側の液圧が倍力液圧室側の液圧よりも設定差圧を超えて高くなるのに応じて開弁するとともにブレーキ操作初期に前記ブレーキ操作部材から機械的に作用する押圧力で開弁する入口弁が介設されることを特徴とする。
【0006】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記ポンプがオリフィスを介して前記アキュムレータに接続されることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明の構成に加えて、前記ポンプおよび前記アキュムレータ間に、ブレーキ操作初期を除くブレーキ操作状態で開弁する開閉弁が介設されることを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記調圧弁手段が、前記ポンプ側からのブレーキ液の流通だけを許容して前記ポンプおよび前記倍力液圧室間に設けられる一方向弁と、前記倍力液圧室および前記リザーバ間に介設されるリニアソレノイド弁とで構成され、車両運転者の任意操作に応じて開弁する解放弁が前記リニアソレノイド弁と並列に前記倍力液圧室および前記リザーバ間に設けられることを特徴とする。
【0009】
さらに請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の構成に加えて、前記リニアソレノイド弁が常閉型であり、前記解放弁が常閉型電磁弁であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、液圧発生源はポンプだけで構成され、肉厚の厚いハウジングが用いられる高圧アキュムレータは使用しなくても良くなるので、車体へのレイアウト性を高めることができる。しかもブレーキ作動後の非ブレーキ操作時には倍力液圧室の液圧低下によって、入口弁はアキュムレータに設定差圧以下の液圧を蓄圧した状態で閉弁しており、ブレーキ操作初期には、入口弁がブレーキ操作部材から機械的に作用する押圧力で開弁することにより、前記アキュムレータからの前記設定差圧以下の液圧が入口弁の開弁に応じて倍力液圧室に作用することになる。そこでアキュムレータの容量ならびにアキュムレータの保持圧である前記前記差圧をマスタシリンダを初期作動せしめるのに充分な程度に小さく設定しておくことにより、車体へのレイアウト性を高める程度にアキュムレータの容量および重量を小さくしつつ、昇圧レスポンスの低下を回避することができる。
【0011】
また請求項2記載の発明によれば、アキュムレータにポンプから作用する液圧に脈動が生じないようにすることができる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、ブレーキ操作初期を除く通常のブレーキ作動時にポンプの吐出圧をアキュムレータに導いておき、ブレーキ操作終了後に倍力液圧室の液圧低下に応じて入口弁が開弁後に閉弁することで、アキュムレータに液圧を蓄圧せしめることができる。
【0013】
請求項4記載の発明によれば、調圧弁手段を一方向弁およびリニアソレノイド弁で間単に構成することができるとともに、調圧弁手段の不調時に倍力液圧室の液圧がロック状態となることを簡単な構成で回避することができる。
【0014】
さらに請求項5記載の発明によれば、通常のブレーキ作動時にあっては常閉型のリニアソレノイド弁を励磁、開弁して倍力液圧室の液圧を減圧すればよく、また解放弁は消磁、閉弁状態を維持すればよいので、消費電力を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
【0016】
図1〜図3は本発明の一実施例を示すものであり、図1は車両用ブレーキ装置の全体構成を示すブレーキ液圧系統図、図2は液圧モジュレータの構成を示す液圧回路図、図3は図1の要部拡大図である。
【0017】
先ず図1において、四輪車両のブレーキ装置は、タンデム型であるマスタシリンダMと、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル5から入力されるブレーキ操作力に応じて液圧発生源であるポンプ6の液圧を調圧して前記マスタシリンダMに作用せしめる調圧弁手段7と、前記ブレーキペダル5の操作ストロークをシミュレートするストロークシミュレータ8とを備える。
【0018】
前記マスタシリンダMは、倍力液圧室9に背面を臨ませるとともに後方側にばね付勢される後部マスタピストン10と、後方側にばね付勢されつつ後部マスタピストン10の前方に配置される前部マスタピストン11とを備え、後部マスタピストン10および前部マスタピストン11は第1のケーシング12に摺動自在に嵌合される。
【0019】
前記第1のケーシング12には、端壁12aで前端が閉じられた第1シリンダ孔13が設けられる。前部マスタピストン11は、前端を開放した有底円筒状に形成されており、前記端壁12aとの間に前部出力液圧室14を形成して第1シリンダ孔13に摺動可能に嵌合される。また後部マスタピストン10は、前記前部マスタピストン11との間に後部出力液圧室15を形成して第1シリンダ孔13に摺動可能に嵌合される。しかも後部マスタピストン10には、後部出力液圧室13側を開放した第1凹部16と、倍力液圧室9側を開放した第2凹部17とが、相互間に隔壁10aを介在させて同軸に設けられる。
【0020】
前部出力液圧室14には、有底円筒状である前記前部マスタピストン11の閉塞端および前記端壁12a間に縮設される前部戻しばね18が、前部マスタピストン11を後方側に付勢するばね力を発揮するようにして収容され、後部出力液圧室13には、後部マスタピストン10の隔壁10aおよび前部マスタピストン11間に縮設される後部戻しばね19が、後部マスタピストン10を後方側に付勢するようにして収容される。
【0021】
第1シリンダ孔13の内周には、後部マスタピストン10の外周に摺接する後部リップシール22と、該後部リップシール22よりも後方で後部マスタピストン10の外周に摺接する環状シール部材23とが装着されており、後部リップシール22および前記環状シール部材23間で、第1のケーシング12および後部マスタピストン10間に通じる後部解放ポート24が第1のケーシング12に設けられる。前記後部解放ポート24は、リザーバRの第2液溜め室26に接続されており、後部リップシール22は、後部出力液圧室15の液圧が、後部リップシール22および前記環状シール部材23間で後部マスタピストン10および第1のケーシング12間に生じる間隙の液圧すなわち第2液溜め室26の液圧よりも低下したときには第2液溜め室26から後部出力液圧室15側へのブレーキ液の流通を許容する。また後部マスタピストン10には、その後退限位置(図1で示す位置)で前記後部解放ポート24を後部出力液圧室15に通じさせるリリーフ孔28が設けられる。
【0022】
第1シリンダ孔13の内周には、前部マスタピストン11の外周に摺接する前部リップシール29と、該前部リップシール29よりも後方で前部マスタピストン11の外周に摺接する環状シール部材30とが軸方向に間隔をあけて装着されており、前部リップシール29および前記環状シール部材30間で第1シリンダ孔13の内周および前部マスタピストン11の外周間に生じる間隙に通じる前部解放ポート31が第1のケーシング12に設けられ、この前部解放ポート31はリザーバRの第1液溜め室25に接続される。而して前部リップシール29は、前部出力液圧室14の液圧が、前部リップシール29および前記環状シール部材30間で前部マスタピストン11および第1のケーシング12間に生じる間隙の液圧すなわち第1液溜め室25の液圧よりも低下したときには第1液溜め室25から前部出力液圧室14側へのブレーキ液の流通を許容する。また前部マスタピストン11には、その後退限で前記前部解放ポート31を前部出力液圧室14に通じさせるリリーフ孔32が設けられる。
【0023】
第1のケーシング12には、後部マスタピストン10の前進作動に応じて高圧となる後部出力液圧室15の液圧を出力する後部出力ポート33と、前部マスタピストン11の前進作動に応じて高圧となる前部出力液圧室14の液圧を出力する前部出力ポート34とが設けられる。しかも後部出力ポート33は液圧モジュレータ35を介して右前輪および左後輪用車輪ブレーキBA,BBに接続され、前部出力ポート34は前記液圧モジュレータ35を介して左前輪および右後輪用車輪ブレーキBC,BDに接続される。また前部出力ポート34には液圧センサ36が接続される。
【0024】
図2において、液圧モジュレータ35は、後部出力ポート33および右前輪用車輪ブレーキBA間に介設される常開型電磁弁37Aと、後部出力ポート33および左後輪用車輪ブレーキBB間に介設される常開型電磁弁37Bと、後部出力ポート33側へのブレーキ液の流通を許容して前記両常開型電磁弁37A,37Bにそれぞれ並列に接続される一方向弁38A,38Bと、右前輪用車輪ブレーキBAおよび第1リザーバ40A間に介設される常閉型電磁弁39Aと、左後輪用車輪ブレーキBBおよび第1リザーバ40A間に介設される常閉型電磁弁39Bと、前部出力ポート34および左前輪用車輪ブレーキBC間に介設される常開型電磁弁37Cと、前部出力ポート34および右後輪用車輪ブレーキBD間に介設される常開型電磁弁37Dと、前部出力ポート34側へのブレーキ液の流通を許容して前記両常開型電磁弁37C,37Dにそれぞれ並列に接続される一方向弁38C,38Dと、左前輪用車輪ブレーキBCおよび第2リザーバ40B間に介設される常閉型電磁弁39Cと、右後輪用車輪ブレーキBDおよび第2リザーバ40B間に介設される常閉型電磁弁39Dと、第1リザーバ40Aの液圧をくみ上げて後部出力ポート33側に戻す第1ポンプ41Aと、第2リザーバ40Bの液圧をくみ上げて前部出力ポート34側に戻す第2ポンプ41Bと、第1および第2ポンプ41A,41Bを共通に駆動する電動モータ42と、第1ポンプ41Aおよび後部出力ポート33間に介設される第1オリフィス43Aと、第2ポンプ41Bおよび前部出力ポート34間に介設される第2オリフィス43Bとを備える。
【0025】
このような液圧モジュレータ35によれば、後部および前部出力ポート33,34から出力されるブレーキ液圧を自在に調圧することができ、ブレーキ操作時のアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0026】
再び図1において、ストロークシミュレータ8は、第1シリンダ孔13と同軸であって第1シリンダ孔13よりも大径の第2シリンダ孔47を有して第1のケーシング12の後部に液密にかつ同軸に結合される第2のケーシング48と、前記マスタシリンダMにおける後部マスタピストン10の後部を臨ませる前記倍力液圧室9を第1のケーシング12の後端との間に形成して第2シリンダ孔47に摺動可能に嵌合されるバックアップピストン49と、第2のケーシング48が後端に備える内向き鍔部48aに前方から当接する外向き鍔部50aを軸方向中間部に有してバックアップピストン49内に前半部を嵌合させる円筒状のスリーブ50と、該スリーブ50内に摺動可能に嵌合されるシミュレータピストン51と、シミュレータピストン51に相対摺動可能に嵌合される入力ピストン52と、該入力ピストン52および前記シミュレータピストン51間に介装される弾性体53と、第1のケーシング12および前記バックアップピストン49間に縮設されるばね54とを備える。
【0027】
バックアップピストン49は、前記スリーブ50の前半部を嵌合せしめるようにして後方に開放した第1摺動孔55を有しており、第2のケーシング48の後端の内向き鍔部48aに前記スリーブ50の外向き鍔部50aを介して当接することで後退限位置が規制されるようにして第2シリンダ孔47に摺動可能に嵌合される。このバックアップピストン49の前端には当接突部49aが同軸に突設されており、該当接突部49aは、前記マスタシリンダMにおける後部マスタピストン10に設けられる第2凹部17に、第2凹部17の閉塞端すなわち隔壁10aに先端を当接させることを可能として挿入される。
【0028】
また前記バックアップピストン49の外周には、第2シリンダ孔47の内周に摺接する一対の環状シール部材56,57が軸方向に間隔をあけて装着されており、両環状シール部材56,57間で第2シリンダ孔47の内面に開口する連通孔58が第2のケーシング48に設けられ、この連通孔58はアキュムレータ59のアキュムレータ室61に連通される。
【0029】
アキュムレータ59は、両端を閉じた円筒状のハウジング60と、該ハウジング60の一端との間にアキュムレータ室61を形成して該ハウジング60に摺動可能に嵌合される有底円筒状のアキュムレータピストン62と、該アキュムレータピストン62を前記アキュムレータ室61の容積を減少する側に付勢するばね力を発揮してハウジング60の他端およびアキュムレータピストン62間に縮設されるアキュムレータばね63とを備え、比較的小型に構成される。
【0030】
而して前記倍力液圧室9および前記アキュムレータ59間には入口弁66が介設されるものであり、この入口弁66はバックアップピストン49の前部に内蔵される。
【0031】
図3において、バックアップピストン49には、シミュレータピストン51の前端に設けられる嵌合突部51aを液密にかつ相対摺動可能に嵌合せしめる第2摺動孔67が、第1摺動孔55よりも小径にして第1摺動孔55の前端に同軸に連なるようにして設けられ、前記嵌合突部51aの前端を当接させ得るようにして後方に臨む環状段部68を第2摺動孔67の前端との間に形成する弁孔69と、該弁孔69の前端に通じる弁室70と、該弁室70を前記弁孔69との間に挟んで弁孔69と同軸に延びる連通孔71とが、バックアップピストン49の前部から当接突部49aにかけて設けられ、連通孔71の前端は倍力液圧室9に常時通じるようにして前記当接突部49aの前端に開口する。
【0032】
入口弁66は、前記弁孔69の前端周縁部に形成される弁座72に着座して弁孔69を閉鎖し得るようにして弁室70に収容される弁体73と、弁体73を弁座72に着座させるように付勢するばね力を発揮して当接突部49aおよび弁体73間に縮設される弁ばね74と、前記弁体73に連設されて弁孔69に同軸に挿通される開弁ロッド75とを備えるものであり、開弁ロッド75の後端は、シミュレータピストン51における嵌合突部51aの前端に当接される。
【0033】
而して前記嵌合突部51aの前端および前記環状段部68間でバックアップピストン49内には液室76が形成されており、この液室76を前記連通孔58に連通させる連通路77がバックアップピストン49に設けられる。
【0034】
前記液室76にはアキュムレータ59の保持圧が作用し、閉弁位置にある前記弁体73には前記液室76の液圧による液圧力が開弁方向に作用する。一方、前記閉弁位置にある弁体73には、連通孔71を介して倍力液圧室9に連通している弁室70の液圧による液圧力および弁ばね74のばね力が閉弁方向に作用しており、入口弁66は、液室76すなわちアキュムレータ59の液圧から前記弁室70すなわち倍力液圧室9の液圧を減算した液圧による開弁方向の液圧力が前記弁ばね74のばね力に打ち勝ったときに開弁する。
【0035】
またブレーキペダル5によるブレーキ操作初期には、入力ピストン52から弾性体53を介してシミュレータピストン51にはバックアップピストン49に対して前進する方向の力が作用するものであり、そのシミュレータピストン55および嵌合突部51aのバックアップピストン49に対する前進作動によって開弁ロッド75が押圧され、それによっても入口弁66が開弁する。
【0036】
すなわち入口弁66は、アキュムレータ59側の液圧が倍力液圧室9側の液圧よりも前記弁ばね74のばね荷重に対応した設定差圧を超えて高くなるのに応じて開弁するとともに、ブレーキ操作初期にブレーキペダル5から機械的に作用する押圧力によっても開弁する。
【0037】
再び図1において、液圧発生源であるポンプ6はリザーバRの第3液溜め室27からブレーキ液をくみ上げるものであり、このポンプ6の吐出口は、少なくともポンプ6の非作動時には該ポンプ6側へのブレーキ液の流れを阻止する弁である第1一方向弁78と、第3オリフィス79と、ブレーキ操作初期を除くブレーキ操作状態で開弁する開閉弁である常開型電磁弁80とを介して、アキュムレータ59のアキュムレータ室61に接続される。
【0038】
また第2のケーシング48には、倍力液圧室9に通じる供給ポート81が設けられており、この供給ポート81に液圧路82が接続される。而して調圧弁手段7は、前記ポンプ6からのブレーキ液の流通だけを許容するようにして前記ポンプ6および前記液圧路82間に設けられる第2一方向弁83と、前記液圧路82および前記リザーバRの第3液溜め室27間に設けられるリニアソレノイド弁84とで構成されており、前記液圧路82には、倍力液圧室9の液圧を検出する液圧センサ109が接続される。
【0039】
また車両運転者の任意操作に応じて開弁する解放弁103が、前記倍力液圧室9に通じる液圧路82と、前記リザーバRの第3液溜め室27との間に、リニアソレノイド弁7と並列にして設けられており、該解放弁103は常閉型電磁弁である。
【0040】
シミュレータピストン51には、後方側に開放した有底の第3摺動孔85が同軸に設けられており、第3摺動孔85の内周に摺接する環状シール部材86が外周に装着されている前記入力ピストン52は第3摺動孔85に摺動可能に嵌合され、ブレーキペダル5に連なる入力ロッド87の前端部が入力ピストン52に首振り可能に連接される。すなわち入力ピストン52には、ブレーキペダル5の操作に応じたブレーキ操作力が入力ロッド87を介して入力され、そのブレーキ操作力の入力に応じて入力ピストン52は前進作動する。
【0041】
弾性体53は、外力の作用しない自然な状態では第3摺動孔85の内径よりも小径の外径を有するようにしてゴム等の弾性材料によって円筒状に形成されるものであり、弾性体53を貫通するガイド軸88の前端がシミュレータピストン51における第3摺動孔85の前端壁に嵌合される。また入力ピストン52には、前端を開放した有底の第4摺動孔89が設けられており、前記ガイド軸88の後部は第4摺動孔89に摺動可能に嵌合される。
【0042】
ところで前記弾性体53の外周および第3摺動孔85の内周間には環状液室90が形成されており、この環状液室90に通じる連通孔91がシミュレータピストン51に設けられる。しかもシミュレータピストン51の外周には、前記連通孔91を軸方向両側から挟むようにして一対の環状のシール部材92,93がスリーブ50の内周に摺接するようにして装着され、シミュレータピストン51の軸方向移動にかかわらずそれらのシール部材92,93間でスリーブ50の内面に内端を開口するとともに外端を外向き鍔部50aの外周に開口する連通孔94が、スリーブ50に設けられる。
【0043】
またスリーブ50における外向き鍔部50aの外周には、前記連通孔94を両側から挟む環状シール部材95,96が第2シリンダ孔47の内周に摺接するようにして装着され、第2のケーシング48には、前記連通孔94に通じる解放ポート97が設けられる。またバックアップピストン49の後部に装着される環状シール部材57と、前記外向き鍔部50aの外周に装着されている一対の環状シール部材95,96のうち前方側の環状シール部材95との間で、第2シリンダ孔47の内面に開口する解放孔98が第2のケーシング48に設けられており、この解放孔98は、バックアップピストン49と、スリーブ50およびシミュレータピストン51との間に生じる空間を常時外部に連通させている。
【0044】
前記リザーバRの第3液溜め室27と前記解放ポート97との間には、前記アキュムレータ60のアキュムレータ室61に第4オリフィス99を介して接続されるパイロット室100を有するパイロット作動型の開閉弁101が介設される。この開閉弁101は、パイロット室100の液圧が充分に高いときには、前記解放ポート97を第3液溜め室27に連通させるように開弁するものの、液圧発生源であるポンプ6が不調となってパイロット室100の液圧が低下したときには閉弁して前記解放ポート97および第3液溜め室27間を遮断し、ストロークシミュレータ8における環状液室90を液圧ロック状態に保持するものである。また前記開閉弁101には、前記環状液室90の液圧を検出する液圧センサ102が付設される。
【0045】
ところで調圧弁手段7におけるリニアソレノイド弁84の作動は、ブレーキペダル5のブレーキ操作量に応じて制御されるものであり、ブレーキ操作量を検出する検出手段104は、たとえば前記入力ピストン52に取付けられたブラシ105と、前記入力ピストン52の軸方向移動に応じて前記ブラシ105の摺接位置を変化させるようにして入力ピストン52の軸方向と平行に延びる一対の電気導体106…とを備え、該電気導体106…は、第2のケーシング48の後端に取付けられる支持部材107に取付けられる。
【0046】
次にこの実施例の作用について説明すると、非ブレーキ操作状態では、常開型電磁弁80は開弁状態にあり、アキュムレータ59は、入口弁66を開弁させるのに必要な設定差圧以下の液圧を保持した状態にある。この状態で、ブレーキペダル5を踏み込んでブレーキ操作すると、ポンプ6の作動が開始されるとともに、入力ピストン52が弾性体53を圧縮しつつ前進し、入口弁66がブレーキペダル5の踏み込み操作に伴う機械的な押圧力がシミュレータピストン51から作用するのに応じて開弁する。それにより、倍力液圧室9に液圧が作用してマスタシリンダMのブレーキ作動が開始されることになる。
【0047】
ところで、前記入力ピストン52の前進によって弾性体53の周囲の環状液室90の容積が減少するが、開閉弁101がアキュムレータ59からの液圧作用に応じて開弁しているので、環状液室90内の圧力が増大することはなく、ブレーキペダル5の踏み込み初期に該ブレーキペダル5に作用する反力は弾性体53からの弾発力だけである。
【0048】
而してポンプ6の作動に伴ってポンプ6の吐出圧が倍力液圧室9に作用することになり、ブレーキペダル5によるブレーキ操作量が検出手段104で検出されると、調圧弁手段7のリニアソレノイド弁84が、倍力液圧室9の液圧をブレーキ操作量に応じた液圧に調圧するように作動する。この際、常開型電磁弁80は開弁され、倍力液圧室9の液圧増加に伴って入口弁66は閉弁する。
【0049】
倍力液圧室9の液圧増大に応じてタンデム型のマスタシリンダMでは、後部および前部マスタピストン10,11が後部および前部戻しばね19,18のばね力に抗して前進し、後部および前部出力液圧室15,14で生じた液圧が後部および前部出力ポート33,34から出力される。すなわちマスタシリンダMの後部および前部マスタピストン10,11を倍力作動せしめ、倍力されたブレーキ液圧を各車輪ブレーキBA〜BDに作用せしめることができる。
【0050】
しかも液圧発生源はポンプ6だけで構成され、肉厚の厚いハウジングが用いられるアキュムレータは使用しなくても良くなるので、車体へのレイアウト性を高めることができる。またポンプ6の非作動時には該ポンプ6側へのブレーキ液の流れを阻止する第1一方向弁78を介してポンプ6にアキュムレータ59が接続され、倍力液圧室9およびアキュムレータ59間に、アキュムレータ59側の液圧が倍力液圧室9側の液圧よりも設定差圧を超えて高くなるのに応じて開弁するとともにブレーキ操作初期にブレーキペダル5から機械的に作用する押圧力で開弁する入口弁66が介設されるので、ブレーキ作動後の非ブレーキ操作時には倍力液圧室9の液圧低下によって、入口弁66はアキュムレータ59に設定差圧以下の液圧を蓄圧した状態で閉弁しており、ブレーキ操作初期には、入口弁66がブレーキ操作部材から機械的に作用する押圧力で開弁することにより、前記アキュムレータ59からの前記設定差圧以下の液圧が入口弁66の開弁に応じて倍力液圧室9に作用することになる。そこでアキュムレータ59の容量ならびにアキュムレータ59の保持圧である前記前記差圧をマスタシリンダを初期作動せしめるのに充分な程度に小さく設定しておくことにより、車体へのレイアウト性を高める程度にアキュムレータ59の容量および重量を小さくしつつ、昇圧レスポンスの低下を回避することができる。
【0051】
またポンプ6が第3オリフィス79を介してアキュムレータ59に接続されるので、アキュムレータ59にポンプ6から作用する液圧に脈動が生じないようにすることができる。しかもポンプ6およびアキュムレータ59間に、ブレーキ操作初期を除くブレーキ操作状態で開弁する常開型電磁弁80が介設されるので、ブレーキ操作初期を除く通常のブレーキ作動時にポンプ6の吐出圧をアキュムレータ59に導いておき、ブレーキ操作終了後に倍力液圧室9の液圧低下に応じて入口弁66が開弁後に閉弁することで、アキュムレータ59に液圧を蓄圧せしめることができる。この際、ポンプ6から作用する液圧は第1一方向弁78およびオリフィス79を介してアキュムレータ59に蓄圧されることにより、第2一方向弁83を介して倍力液圧室9に優先的にブレーキ液を供給することができる。
【0052】
さらに調圧弁手段7が、ポンプ6側からのブレーキ液の流通だけを許容してポンプ6および倍力液圧室9間に設けられる第2一方向弁83と、倍力液圧室9およびリザーバRの第3液溜め室27間に介設されるリニアソレノイド弁84とで構成され、車両運転者の任意操作に応じて開弁する解放弁103がリニアソレノイド弁84と並列に倍力液圧室9およびリザーバR間に設けられるので、調圧弁手段7を第2一方向弁83およびリニアソレノイド弁84で間単に構成することができるとともに、調圧弁手段7の不調時に倍力液圧室9の液圧がロック状態となることを簡単な構成で回避することができる。
【0053】
さらにリニアソレノイド弁84が常閉型であり、前記解放弁103が常閉型電磁弁であることにより、通常のブレーキ作動時にあっては常閉型のリニアソレノイド弁84を励磁、開弁して倍力液圧室9の液圧を減圧すればよく、また解放弁103は消磁、閉弁状態を維持すればよいので、消費電力を抑えることができる。
【0054】
ところで、前記ポンプ6の不調時には、開閉弁101が閉弁し、弾性体53の周囲の環状液室90は液圧ロック状態となる。このためストロークシミュレータ8では、ブレーキペダル5の踏み込み操作に応じて、バックアップピストン49が入力ピストン52とともにばね54のばね力に抗して前進し、バックアップピストン49の先端の嵌合突部49aが後部マスタピストン10に当接して該後部マスタピストン10を前進方向に押圧することになり、ポンプ6の不調時にもブレーキペダル5の踏み込み操作に応じてマスタシリンダMを作動せしめることができる。
【0055】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0056】
たとえば上記実施例では、ブレーキ操作量を検出する検出手段104が、入力ピストン52のストローク量を検出するように構成されているが、荷重センサ等による操作力の検出であってもよい。またマスタシリンダMがタンデム型に構成されたが、単一のピストンがケーシングに摺動自在に嵌合されるタイプのマスタシリンダとしてもよい。
【0057】
また解放弁103を、常閉型電磁弁に代えて、手動操作型のブリーダや、機械式のリリーフ弁としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】車両用ブレーキ装置の全体構成を示すブレーキ液圧系統図である。
【図2】液圧モジュレータの構成を示す液圧回路図である。
【図3】図1の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0059】
6・・・ポンプ
7・・・調圧弁手段
9・・・倍力液圧室
10・・・マスタピストン
12・・・ケーシング
59・・・アキュムレータ
66・・・入口弁
78・・・弁である一方向弁
79・・・オリフィス
80・・・開閉弁である常開型電磁弁
83・・・一方向弁
84・・・リニアソレノイド弁
103・・・解放弁
BA,BB,BC,BD・・・車輪ブレーキ
M・・・マスタシリンダ
R・・・リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
倍力液圧室(9)に背面を臨ませたマスタピストン(10)がケーシング(12)に摺動可能に収容されるマスタシリンダ(M)と、リザーバ(R)と、該リザーバ(R)からくみ上げたブレーキ液を吐出するポンプ(6)を少なくとも含む液圧発生源と、ブレーキ操作部材(5)からのブレーキ操作入力に応じて前記液圧発生源の出力液圧を調圧して前記倍力液圧室(9)に作用せしめる調圧弁手段(7)とを備え、前記マスタシリンダ(M)が車輪ブレーキ(BA,BB,BC,BD)に接続される車両用ブレーキ装置において、前記液圧発生源が前記ポンプ(6)だけで構成され、少なくとも前記ポンプ(6)の非作動時には該ポンプ(6)側へのブレーキ液の流れを阻止する弁(78)を介して前記ポンプ(6)にアキュムレータ(59)が接続され、前記倍力液圧室(9)および前記アキュムレータ(59)間に、アキュムレータ(59)側の液圧が倍力液圧室(9)側の液圧よりも設定差圧を超えて高くなるのに応じて開弁するとともにブレーキ操作初期に前記ブレーキ操作部材(5)から機械的に作用する押圧力で開弁する入口弁(66)が介設されることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記ポンプ(6)がオリフィス(79)を介して前記アキュムレータ(59)に接続されることを特徴とする請求項1記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記ポンプ(6)および前記アキュムレータ(59)間に、ブレーキ操作初期を除くブレーキ操作状態で開弁する開閉弁(80)が介設されることを特徴とする請求項1または2記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記調圧弁手段(7)が、前記ポンプ(6)側からのブレーキ液の流通だけを許容して前記ポンプ(6)および前記倍力液圧室(9)間に設けられる一方向弁(83)と、前記倍力液圧室(9)および前記リザーバ(R)間に介設されるリニアソレノイド弁(84)とで構成され、車両運転者の任意操作に応じて開弁する解放弁(103)が前記リニアソレノイド弁(84)と並列に前記倍力液圧室(9)および前記リザーバ(R)間に設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記リニアソレノイド弁(84)が常閉型であり、前記解放弁(103)が常閉型電磁弁であることを特徴とする請求項4記載の車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−254464(P2008−254464A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95594(P2007−95594)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】