説明

車両用ブレーキ装置

【課題】運転技術が低いドライバによるブレーキ操作によって生じる減速中の違和感をより低減することを可能にする。
【解決手段】ストロークセンサ6で逐次検出したブレーキペダル2のストローク量をもとに、ブレーキ操作開始時点において車速センサ5で検出した自車両の速度であるブレーキ開始時自車速度からの速度低下分の目標値を逐次演算する低下速度演算部11と、ブレーキ開始時自車速度と速度低下分の目標値との差分である目標速度と、車速センサ5で逐次検出した現在の自車両の速度である現在自車速度とをもとに、目標速度を実現するために必要な減速度である要求減速度を逐次演算する要求減速度演算部13と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、減速度を発生させて車両を減速させるブレーキ装置が知られている。例えば、一般に車両に用いられているブレーキ装置は、ブレーキオイルの油圧等を利用してブレーキペダルと車輪ブレーキとを接続する油圧ブレーキ装置であり、ブレーキペダルから車輪ブレーキへの信号伝達を機械的に行うことによってブレーキペダルのペダル位置に応じた減速度を発生させて車両を減速させる。
【0003】
また、近年では、ブレーキペダルと車輪ブレーキとの接続の一部あるいは全部を機械的ではなく電気的に行うことによって、ブレーキペダルから車輪ブレーキへの信号伝達の一部あるいは全部を電気信号によって行い、ドライバが操作したブレーキペダルのペダルストロークやペダル反力を入力情報として制動力あるいは減速度を発生させるブレーキバイワイヤ式のブレーキ装置が知られてきている。
【0004】
ブレーキバイワイヤ式のブレーキ装置では、ブレーキペダルから車輪ブレーキへの信号伝達の一部あるいは全部を電気信号によって行うため、電子制御によって自由な制動力や減速度を発生できるという特徴がある。しかしながら、従来のブレーキバイワイヤ式のブレーキ装置は、油圧ブレーキ装置と同様のフィーリングを維持することを目的としており、自由な制動力を発生できるというこの特徴を活かしきれていなかった。
【0005】
これに対して、例えば特許文献1には、ペダルの踏力と車両出力あるいは車両出力指令との関係に無効踏力およびヒステリシスを設け、踏み動作および放し動作における踏力と車両出力あるいは車両出力指令との関係を異なるものにするとともに、保持動作においても踏力に対する車両出力あるいは車両出力指令に一定の勾配を持たせることによって、踏力の変動特性を考慮した減速度あるいは制動力を発生可能とする技術が開示されている。
【0006】
また、例えば特許文献2には、ペダルの操作量に基づく演算踏力を演算し、ペダルの踏力を検出する踏力検出器で検出された踏力が演算踏力以上の場合には、検出された踏力に基づき制動力を決定し、踏力検出器で検出された踏力が演算踏力より小さい場合には、演算踏力に基づき制動力を決定することによって、ペダル操作のタイミングや速度等が変化した場合であっても安定した制動力を発生することを可能にする技術が開示されている。
【0007】
さらに、例えば特許文献3には、ドライバがペダルを最大の力で踏むことをためらうパニック的制動状況において、ブレーキ圧ブースターを電子工学的に調整して倍力作用を増大させることにより、通常のブレーキペダル踏力においてホイールシリンダに加えられるホイールシリンダ圧よりも大きなホイールシリンダ圧を実現して、高減速度を確保する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−281810号公報
【特許文献2】特開2008−222027号公報
【特許文献3】特開平7−89432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
運転技術の低いドライバによるブレーキ操作では、車両停止直前の速度変化が急すぎて車輪の回転が停止したときに車体がピッチングを起こす所謂カックンブレーキ等の運転者や同乗者に違和感を与える速度変化となってしまうことが多い。これに対して、特許文献1に開示の技術は、ペダルの踏力の変動特性を考慮した車両出力を出力することを目的とするものであって、電子制御によって、ペダルの踏力に応じた減速度の発生ゲインを変えているに過ぎない。また、特許文献2に開示の技術は、ペダル操作のタイミングや速度等が変化した場合であっても安定した制動力を発生することを目的とするものであって、ペダルの踏力と操作量との関係を示すグラフ(マップ)により減速度を決定しているに過ぎない。さらに、特許文献3に開示の技術は、パニック的制動状況において高減速度を確保することを目的とするものであって、一定のブレーキペダル踏力が発揮されている場合に、ブレーキ圧ブースターの倍力作用を電子制御によって増大させているに過ぎない。
【0010】
このように、従来の技術は、運転技術が低いドライバによるブレーキ操作によって生じる違和感を低減することを想定したものではないため、運転技術の低いドライバによるブレーキ操作によって生じる減速中の違和感を低減することが難しいという問題点を有していた。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、運転技術が低いドライバによるブレーキ操作によって生じる減速中の違和感をより低減することを可能にするブレーキバイワイヤ式のブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の車両用ブレーキ装置によれば、ブレーキペダルのストローク量およびブレーキペダルに対する踏力のいずれかをもとに、ブレーキ操作開始時点の車両の速度(つまり、ブレーキ開始時自車速度)からの速度低下分の目標値を演算する。そして、ブレーキ開始時自車速度と当該速度低下分の目標値との差分である目標速度を得ることができるので、目標速度に基づく減速制御が可能となる。
【0013】
なお、運転技術の高いドライバは、目標の速度に減速する場合に、滑らかに減速するためにはどのような減速度を発生させればよいかをイメージし、イメージした減速度に比例させるようにブレーキ操作を行うため、目標の速度に滑らかに減速を行うことができる。一方、運転技術の低いドライバは、目標の速度に減速する場合に、目標の速度に達するまで一定のブレーキ操作を行って目標の速度に達したところでブレーキペダルを戻したり、目標の速度に達するまで徐々にブレーキ操作量を増やしていって目標の速度に達したところでブレーキペダルを戻したりするため、目標の速度に滑らかに減速を行うことができない。
【0014】
請求項1の構成によれば、目標速度を逐次求めているので、現在自車速度を目標とする速度に合わせるために必要な減速度である要求減速度も逐次求めることが可能となる。そして、請求項1の構成によれば、この要求減速度に従った減速度で逐次減速を行うことも可能になるので、ドライバがブレーキペダルの微妙な操作をしなくても、ドライバが目標とする速度に滑らかに減速することが可能となる。よって、請求項1の構成によれば、運転技術が低いドライバであっても目標の速度に滑らかに減速を行うことが可能となる。従って、請求項1の構成によれば、運転技術が低いドライバによるブレーキ操作によって生じる減速中の違和感をより低減することが可能になる。
【0015】
また、請求項2の車両用ブレーキ装置によれば、現在自車速度を目標速度に合わせるために必要な要求減速度を求めることができるので、この要求減速度に従った減速をブレーキバイワイヤで行わせることが可能となり、ドライバがブレーキペダルの微妙な操作をしなくても、ドライバが目標とする速度に滑らかに減速することが可能となる。
【0016】
さらに、請求項2の構成によれば、ドライバが一旦操作したブレーキペダルのストローク量、或いはブレーキペダルに対する踏力のいずれかをもとにして決まる目標速度を実現するために必要な要求減速度を出力するので、路面勾配が下りに向けて急に、或いは緩やかに変化した場合であっても、目標とする速度を維持し続けることができる。詳しくは、路面勾配が下りに向けて変化して加速度が生じ、目標速度を車速が越える場合にも、目標速度を実現するために必要な要求減速度に従った減速をブレーキバイワイヤで行わせるので、目標とする速度を維持し続けることができる。
【0017】
よって、以上の構成によれば、ドライバが路面勾配に応じてブレーキペダルの踏み増しや踏み戻しを行って減速度の増減を調整しなくても、容易に目標速度を維持し続けることが可能となる。例えば、以上の構成によれば、ブレーキペダルの操作量を一定に保ったままで平坦路から下り勾配に突入しても、平坦路での目標速度を維持できるという効果が得られる。
【0018】
また、請求項3の車両用ブレーキ装置によれば、ブレーキペダルから車輪ブレーキへの信号伝達の一部を電気信号によって行うとともに、信号伝達の一部をブレーキペダルに対する踏力に応じた液圧により減速度を発生させる液圧ユニットを介して行うので、要求減速度に従った減速をブレーキバイワイヤで行わせることが可能である。従って、請求項3の構成によっても、運転技術が低いドライバによるブレーキ操作によって生じる減速中の違和感をより低減することが可能になる。
【0019】
また、請求項4の車両用ブレーキ装置によれば、ブレーキペダルの初期位置より所定のストロークまでは液圧ユニットの作動を禁止するので、ブレーキペダルから車輪ブレーキへの信号伝達は電気信号によって行うこととなり、少なくともブレーキペダルの初期位置より所定のストロークまでは請求項3の構成と同様の作用効果が期待できる。
【0020】
さらに、請求項4の構成によれば、緊急時においてドライバがブレーキペダルを強く踏み込むことでブレーキペダルが所定のストローク以降のストローク領域となれば、ブレーキペダルの踏力に応じた液圧により減速度を発生させる液圧ユニットによって緊急制動が可能となる。
【0021】
また、ドライバがブレーキペダルを初期位置より連続的に踏み込んでいくときには、初期位置より所定のストロークまでから所定のストローク以降のストローク領域に移行することになる。このときに、請求項4の構成によれば、所定のストローク以降は、ブレーキペダルに対する踏力に応じた液圧により発生する減速度よりも要求減速度が大きかった場合に要求減速度を出力し、ブレーキペダルに対する踏力に応じた液圧により発生する減速度よりも要求減速度が大きくなかった場合には当該液圧により発生する減速度で減速を行うことになるので、所定のストローク位置での減速度の不連続は発生せず、連続的な減速度の増加が可能となる。
【0022】
また、請求項5の車両用ブレーキ装置によれば、液圧ユニット制限手段は、所定のストローク以降のブレーキペダルに対する踏力を機械的に液圧ユニットに伝達可能となるように液圧ユニットに直列に設けられているので、ブレーキペダルから車輪ブレーキへの信号伝達を電気信号によって行う機構に故障や誤作動があった場合でも、ドライバがブレーキペダルを所定のストローク以上踏み込むことにより、ブレーキペダルは所定のストローク以降のストローク領域となり、ブレーキペダルに対する踏力を機械的に液圧ユニットに伝達することが可能となる。よって、請求項5の構成によれば、ブレーキペダルから車輪ブレーキへの信号伝達を電気信号によって行う機構に故障や誤作動があった場合でも、液圧ユニットによって車両の制動を行うことができ、安全性がさらに向上する。
【0023】
また、請求項6の車両用ブレーキ装置によれば、要求減速度演算手段から出力される要求減速度の値がブレーキペダルに対する踏力に応じた液圧ユニットでの液圧により発生する減速度よりも大きくなる場合には、ブレーキペダルから車輪ブレーキへの信号伝達は電気信号によって行うこととなる。よって、以上の構成によれば、少なくとも要求減速度演算手段から出力される要求減速度の値がブレーキペダルに対する踏力に応じた液圧ユニットでの液圧により発生する減速度よりも大きくなる場合には、運転技術が低いドライバによるブレーキ操作によって生じる減速中の違和感をより低減する効果が期待できる。
【0024】
一方、緊急時においてドライバがブレーキペダルを強く踏み込むことで、ブレーキペダルに対する踏力に応じた液圧ユニットでの液圧により発生する減速度が要求減速度演算手段から出力される要求減速度よりも大きくなる場合には、ブレーキペダルの踏力に応じた液圧により減速度を発生させる液圧ユニットによって緊急制動が可能となる。
【0025】
また、請求項7の車両用ブレーキ装置によれば、現在自車速を目標とする速度に合わせるために必要な要求減速度を求めるための簡単な数式((1)式)で要求減速度の演算が可能であるので、運転技術が低いドライバによるブレーキ操作によって生じる減速中の違和感をより低減することを可能にするブレーキバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置をより容易に実現することができる。
【0026】
【数1】

【0027】
また、請求項8の車両用ブレーキ装置によれば、現在自車速をt秒後に速度低下分の目標値に達する目標速度に合わせるために必要な要求減速度を求めるための簡単な数式((2)式)で要求減速度の演算が可能であるので、運転技術が低いドライバによるブレーキ操作によって生じる減速中の違和感をより低減することを可能にするブレーキバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置をより容易に実現することができる。
【0028】
【数2】

【0029】
さらに、請求項9の構成によれば、目標速度が負の値となる場合には、目標速度を0として、(2)式に示した数式で要求減速度の演算を行うので、目標速度と現在自車速度との差により出力される要求減速度は0に収束することになる。よって、以上の構成によれば、停止時には車速0に向かって滑らかに減速が行われることになり、停止時のカックンブレーキが良好に解消される。
【0030】
また、請求項10の車両用ブレーキ装置によれば、ドライバがブレーキペダルを完全に戻してストロークが初期位置に戻ったときには、要求減速度演算手段からの要求減速度の出力を中止するので、油圧ブレーキ装置と同様のフィーリングをドライバが得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】車両用ブレーキ装置100の概略的な構成の一例を示すブロック図である。
【図2】制御装置1の概略的な構成の一例を示すブロック図である。
【図3】(a)〜(c)は、作動制限機構を説明する図である。
【図4】運転技術の高いドライバのブレーキ操作と運転技術の低いドライバのブレーキ操作との違いの一例を説明する図である。
【図5】運転技術の低いドライバのブレーキ操作の一例を説明する図である。
【図6】運転技術の高いドライバのブレーキ操作の一例を説明する図である。
【図7】ブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、要求減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。
【図8】ブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、要求減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。
【図9】目標速度の決定の方法の一例を説明する図である。
【図10】ブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、要求減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。
【図11】(a)〜(c)は、変形例1におけるブレーキペダル2と液圧ユニット3との関係を説明する図である。
【図12】ブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。
【図13】ブレーキペダル2の踏み増しがあった場合のブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。
【図14】ブレーキペダル2の踏み増しがあった場合のブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。
【図15】ブレーキペダル2の踏み戻しがあった場合のブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。
【図16】ブレーキペダル2の踏み戻しがあった場合のブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。
【図17】ブレーキペダル2の踏み増し操作や踏み戻し操作があった場合の目標速度の決定の方法の一例を説明する図である。
【図18】車両が停止する場合のブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。
【図19】電動機の発電時の回転抵抗を車両の制動力として利用する場合の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明が適用された車両用ブレーキ装置100の概略的な構成の一例を示すブロック図である。図1に示す車両用ブレーキ装置100は、車両に搭載されるものであり、ブレーキペダル2、液圧ユニット3、車輪ブレーキ4、車速センサ5、ストロークセンサ6、ブレーキアクチュエータ7、および制御装置1を備えている。なお、車両用ブレーキ装置100を搭載している車両を以降では自車両と呼ぶ。
【0033】
ブレーキペダル2は、ブレーキ操作時にユーザが踏み込むペダルである。また、液圧ユニット3は、ブレーキペダル2に対する踏力を油圧等の液圧に変換して車輪ブレーキ4に伝えるものである。例えば、液圧ユニット3は、ブースター(倍力装置)31およびマスタシリンダ32を備え、ブレーキペダル2に対する踏力をブースター31で増幅してマスタシリンダ32に伝え、伝えられた踏力に応じた液圧をマスタシリンダ32のブレーキフルードに発生させ、車輪ブレーキ4に伝える。
【0034】
また、本実施形態では、車両用ブレーキ装置100は、ブレーキペダル2の初期位置より所定のストロークまでは液圧ユニット3の作動が行われないようにする機構(以下、作動制限機構と呼ぶ)を備えているものとする。なお、作動制限機構の詳細については後述する。
【0035】
車輪ブレーキ4は、ディスクブレーキやドラムブレーキ等の自車両の車輪に設けられるブレーキであって、自車両の制動を行うものである。例えば、車輪ブレーキ4がディスクブレーキである場合には、液圧ユニット3から伝えられた液圧によってディスクキャリパーに組み込まれたブレーキパッドを車輪と一緒に回転するディスクロータに押し付けることによって自車両の制動を行う。また、車輪ブレーキ4がドラムブレーキである場合には、液圧ユニット3から伝えられた液圧によってブレーキシューを車輪と一緒に回転する円筒形ドラムの内側に押し付けることによって自車両の制動を行う。
【0036】
さらに、車輪ブレーキ4は、後述するブレーキアクチュエータ7の働きによっても制動を行うことができる。なお、ブレーキアクチュエータ7の働きによって制動を行う構成としては、ブレーキアクチュエータ7のポンプモータからの液圧によりディスクキャリパーやブレーキシューを作動させて制動を行う構成であってもよいし、ブレーキアクチュエータ7によってモータを駆動することによってディスクキャリパーやブレーキシューを作動させて制動を行う構成であってもよい。
【0037】
車速センサ5は、自車両の車輪の回転速度に対応した信号を検出することで自車両の速度を逐次検出するセンサである。よって、車速センサ5は請求項の車速検出手段に相当する。また、ストロークセンサ6は、ブレーキペダル2のストローク位置を検出することによって、自車両のドライバによるブレーキペダル2の踏み込み量を検出するセンサである。よって、ストロークセンサ6は、請求項のペダル関連量検出手段に相当する。なお、本実施形態では、ブレーキペダル2の踏み込み量を検出するセンサとしてストロークセンサ6を用いる構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、ブレーキペダル2の踏み込み量を検出するセンサとして、ブレーキペダル2と床との距離を検出してブレーキペダル2の踏み込み量を検出する光学センサ等のストロークセンサ6以外のセンサを用いる構成としてもよい。
【0038】
ブレーキアクチュエータ7は、制御装置1からの指示に従って車輪ブレーキ4での制動を行わせるものである。ブレーキアクチュエータ7は、ポンプモータを備えることにより、前述したようにポンプモータからの液圧によって車輪ブレーキ4での制動を行わせるものであってもよいし、モータを駆動することによって車輪ブレーキ4での制動を行わせるものであってもよい。
【0039】
制御装置1は通常のコンピュータとして構成されており、内部には周知のCPU、ROM、RAM、I/O及びこれらの構成を接続するバスライン(いずれも図示せず)が備えられている。制御装置1は、車速センサ5、ストロークセンサ6から入力された各種信号(つまり、各種情報)に基づき、自車両の減速に関連する処理等を実行する。
【0040】
次に、図2を用いて、制御装置1の概略的な構成について説明を行う。図2は、制御装置1の概略的な構成の一例を示すブロック図である。図2に示すように制御装置1は、低下速度演算部11、目標速度演算部12、要求減速度演算部13、出力判定部14、および減速制御部15を備えている。
【0041】
低下速度演算部11は、ストロークセンサ6から入力されるセンサ信号と車速センサ5から入力されるセンサ信号とをもとに、ブレーキ操作開始時点の自車両の速度(以下、ブレーキ開始時自車速度)からの現在の速度低下分の目標値を逐次演算する。よって、低下速度演算部11は、請求項の低下速度演算手段に相当する。詳しくは、ストロークセンサ6で検出したストローク量と車速センサ5で検出したブレーキ開始時自車速度とをもとに、ストローク量と速度低下分の値とが線形関係を満たすような所定の数式を演算するなどして、ストローク量に対応したブレーキペダル2のストローク量に応じたブレーキ開始時自車速度からの速度低下分の目標値を算出する。なお、ブレーキ操作開始時点の判断については、例えばストロークセンサ6で0よりも大きいストローク量の検出が開始された時点をブレーキ操作開始時点として低下速度演算部11が判断する構成とすればよい。そして、このブレーキ操作開始時点に車速センサ5で検出された自車両の速度をブレーキ開始時自車速度として低下速度演算部11が扱う構成とすればよい。また、例えばストローク量と速度低下分の値とが対応付けられたマップやテーブル等を用いるなどして、ストローク量に対応したブレーキペダル2のストローク量に応じたブレーキ開始時自車速度からの速度低下分の目標値を算出する構成としてもよい。
【0042】
なお、本実施形態では、ストロークセンサ6で検出したストローク量と車速センサ5で検出したブレーキ開始時自車速度とをもとに、ブレーキペダル2のストローク量に応じたブレーキ開始時自車速度からの速度低下分の目標値を算出する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、ドライバからのブレーキペダル2に対する踏力を検出する踏力センサで検出した踏力と車速センサ5で検出したブレーキ開始時自車速度とをもとに、ブレーキペダル2に対する踏力に応じたブレーキ開始時自車速度からの速度低下分の目標値を算出する構成としてもよい。この場合、踏力センサが請求項のペダル関連量検出手段に相当する。
【0043】
また、本実施形態では、ストローク量や踏力とブレーキ開始時自車速度とをもとに、ブレーキ開始時自車速度からの速度低下分の目標値を算出する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、ストローク量や踏力をもとに、単なる変化量としての速度低下分の目標値を算出することによって、ブレーキ開始時自車速度からの速度低下分の目標値を算出する構成としてもよい。この場合には、車速センサ5からのセンサ信号は、低下速度演算部11でなく目標速度演算部12に入力され、ブレーキ操作開始時点に車速センサ5で検出された自車両の速度をブレーキ開始時自車速度として後述の目標速度演算部12が扱う構成とすればよい。
【0044】
目標速度演算部12は、低下速度演算部11での処理に用いたブレーキ開始時自車速度と低下速度演算部11で算出した速度低下分の目標値との差分を演算し、当該差分を目標速度として逐次算出する。要求減速度演算部13は、目標速度演算部12で算出された目標速度と車速センサ5によって検出された現在の自車両の速度(以下、現在自車速度と呼ぶ)とをもとに、目標速度を実現するために必要な減速度(以下、要求減速度と呼ぶ)を以下の(1)式から逐次算出する。よって、要求減速度演算部13は請求項の要求減速度演算手段に相当する。なお、(1)式において、定数Taは、目標速度と現在自車速度との差分を要求減速度に変換するための除数であり、適宜、設定されるものである。なお、ここでは、定数をTaとして表しているがTdと表しても構わない。また、(1)式において、現在の速度低下分の目標値はVt、ブレーキ開始時自車速度はVs、現在自車速度はVs0、要求減速度はGと表している。なお、Vt=f(ブレーキペダル2のストローク量)、つまり、Vtはブレーキペダル2のストローク量に応じて変わる変数である。また、ストローク量でなく踏力をもとに現在の速度低下分の目標値を算出する構成とした場合には、Vt=f(ブレーキペダル2に対する踏力)となる。
【0045】
【数1】

【0046】
なお、本実施形態では、要求減速度演算部13において、目標速度演算部12で算出した目標速度から現在自車速度を減算し、定数Taで除算することによって要求減速度を算出する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、目標速度演算部12を備えず、要求減速度演算部13において、低下速度演算部11での処理に用いたブレーキ開始時自車速度から車速センサ5によって検出された現在自車速度を減算した後、低下速度演算部11で算出した現在の速度低下分の目標値をさらに減算し、定数Taで除算することによって要求減速度を算出する構成としてもよい。
【0047】
出力判定部14は、ストロークセンサ6のセンサ信号をもとに、ブレーキペダル2のストローク位置がブレーキペダル2の初期位置より所定のストロークまでのストローク領域にあるか、所定のストローク以降のストローク領域にあるかを判定する。そして、ストローク位置がブレーキペダル2の初期位置より所定のストロークまでのストローク領域にあると判定した場合には、要求減速度演算部13で算出した要求減速度を減速制御部15に出力する。
【0048】
一方、ストローク位置が所定のストローク以降のストローク領域にあると判定した場合は、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生した減速度(つまり、ブレーキペダルに対する踏力に応じた液圧により発生する減速度)を出力判定部14が推定し、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度と要求減速度演算部13で算出した要求減速度とを比較する。そして、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度よりも要求減速度の方が大きかった場合(つまり、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度の絶対値よりも要求減速度の絶対値の方が大きかった場合)に、要求減速度演算部13で算出された要求減速度を減速制御部15に出力する。よって、出力判定部14は、請求項の出力判定手段に相当する。また、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度よりも要求減速度の方が大きくなかった場合には、要求減速度演算部13で算出された要求減速度を減速制御部15に出力しない。なお、ストローク位置が所定のストローク以降であって、要求減速度演算部13で算出された要求減速度を減速制御部15に出力しない場合には、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度によって自車両の減速が行われることになる。
【0049】
なお、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度の出力判定部14での推定については、例えばストローク量や踏力と液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度とを予め対応付けたマップを用いるなどして行う構成とすればよい。
【0050】
減速制御部15は、要求減速度演算部13から出力された要求減速度に従った減速度を生じさせる駆動を行わせる制御信号をブレーキアクチュエータ7に送る。そして、この制御信号に従ってブレーキアクチュエータ7が駆動することによって要求減速度演算部13で算出された要求減速度に対応する制動力が発生し、この制動力に応じた減速度が生じ、目標速度にまで自車両の減速が行われることになる。
【0051】
なお、ストローク位置がブレーキペダル2の初期位置より所定のストロークまでのストローク領域にあるときは、前述したように作動制限機構によって液圧ユニット3の作動が行われないよう制限されているので、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による減速度は発生せず、要求減速度演算部13で算出した要求減速度に従った減速が減速制御部15を介して行われることになる。
【0052】
ここで、図3(a)〜図3(c)を用いて、作動制限機構についての説明を行う。図3(a)〜図3(c)は、作動制限機構を説明する図である。ブレーキペダル2には、ブレーキペダル2を初期位置に復帰させる引っ張りばね91が設けられている。また、図3(a)に示すように、ブースター(倍力装置)31およびマスタシリンダ32からなる液圧ユニット3とブレーキペダル2との間には、プッシュロッド92が備えられている。プッシュロッド92は、軸方向で2つに分割されており、分割された一方がブレーキペダル2に接続されているとともに、分割されたもう一方が液圧ユニット3のブースター31に接するように配置されている。また、プッシュロッド92には、2つに分割された各部材の互いに向かい合う端部にそれぞれストッパ93が設けられている。さらに、プッシュロッド92は、ブレーキペダル2が初期位置にあるときに、図3(a)に示すように、前述の各部材のストッパ93同士の間に所定の間隔が空くよう設けられている。また、この所定の間隔は、ブレーキペダル2に対してユーザがブレーキ操作を行ってストローク位置が所定のストロークに達したときに、図3(b)に示すように前述の各部材の端部に設けられた向かい合うストッパ93同士が係合するよう調整されている。なお、ここで言うところの所定のストロークとは、任意に設定可能な値である。
【0053】
そして、ストローク位置が所定のストローク以降となった後は、図3(c)に示すように、前述の各部材の端部に設けられた向かい合うストッパ93同士が係合し続け、ブレーキペダル2に対する踏力を、プッシュロッド92を介して液圧ユニット3のブースター31に伝えることが可能となるので、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による減速度を発生させることが可能となる。このように、プッシュロッド92およびストッパ93が、ブレーキペダル2の初期位置より所定のストロークまでは液圧ユニット3の作動を禁止するとともに、所定のストローク以降は液圧ユニット3の作動を許可する作動制限機構として働いている。よって、プッシュロッド92およびストッパ93が請求項の液圧ユニット制限手段に相当する。
【0054】
なお、作動制限機構は、所定のストローク以降のブレーキペダル2に対する踏力を機械的に液圧ユニット3に伝達可能となるように、図3(a)〜図3(c)に示したように、ブレーキペダル2と液圧ユニット3と直列に並ぶように配置することが好ましい。これによれば、ブレーキペダル2から車輪ブレーキ4への信号伝達を電気信号によって行う機構に故障や誤作動があった場合でも、ドライバがブレーキペダル2を所定のストローク以上踏み込むことにより、ブレーキペダル2は所定のストローク以降のストローク領域となり、ブレーキペダル2に対する踏力を機械的に液圧ユニット3に伝達することが可能となる。よって、以上の構成によれば、ブレーキペダル2から車輪ブレーキ4への信号伝達を電気信号によって行う機構に故障や誤作動があった場合でも、液圧ユニット3によって自車両の制動を行うことができ、安全性がさらに向上する。
【0055】
なお、本実施形態では、ブレーキペダル2に一般的に設けられている引っ張りばね91を利用して、ブレーキペダル2が初期位置にあるときに前述の各部材のストッパ93同士の間に所定の間隔が空くようにする構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、前述の各部材のストッパ93同士の間にばねを設けることによって、前述の各部材のストッパ93同士の間に所定の間隔が空くようにする構成としてもよい。
【0056】
本実施形態の車両用ブレーキ装置100の構成によれば、ブレーキペダル2のストローク量およびブレーキペダル2に対する踏力のいずれかをもとに、ブレーキ操作開始時点の自車両の速度(つまり、ブレーキ開始時自車速度)からの速度低下分の目標値を演算する。そして、ブレーキ開始時自車速度と当該速度低下分の目標値との差分である目標速度を得て、現在自車速度を目標速度に合わせるために必要な減速度(つまり、要求減速度)を求めることができるので、この要求減速度に従った減速をブレーキバイワイヤで行わせることによって、目標とする速度にブレーキペダル2の微妙な操作をしなくても合わせることが可能になる。
【0057】
また、以上の構成によれば、現在自車速度を目標とする速度に合わせるために必要な減速度である要求減速度に従った減速度で逐次減速を行うことが可能になるので、ドライバがブレーキペダル2の微妙な操作をしなくても、ドライバが目標とする速度に滑らかに減速することが可能となる。よって、以上の構成によれば、運転技術が低いドライバであっても目標の速度に滑らかに減速を行うことが可能となる。従って、以上の構成によれば、運転技術が低いドライバによるブレーキ操作によって生じる減速中の違和感をより低減することが可能になる。
【0058】
さらに、以上の構成によれば、ドライバが一旦操作したブレーキペダル2のストローク量、或いはブレーキペダル2に対する踏力のいずれかをもとにして決まる目標速度を実現するために必要な要求減速度を出力するので、路面勾配が下りに向けて急に、或いは緩やかに変化した場合であっても、目標とする速度を維持し続けることができる。詳しくは、路面勾配が下りに向けて変化して加速度が生じ、目標速度を車速が越える場合にも、目標速度を実現するために必要な要求減速度に従った減速をブレーキバイワイヤで行わせるので、目標とする速度を維持し続けることができる。
【0059】
よって、以上の構成によれば、ドライバが路面勾配に応じてブレーキペダルの踏み増しや踏み戻しを行って減速度の増減を調整しなくても、容易に目標速度を維持し続けることが可能となり、例えば、ブレーキペダル2の操作量を一定に保ったままで平坦路から下り勾配に突入しても、平坦路での目標速度を維持できるという効果が得られる。
【0060】
また、以上の構成によれば、(1)式に示した現在自車速を目標とする速度に合わせるために必要な要求減速度を求めるための簡単な数式で要求減速度の演算が可能であるので、運転技術が低いドライバによるブレーキ操作によって生じる減速中の違和感をより低減することを可能にするブレーキバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置をより容易に実現することができる。
【0061】
さらに、以上の構成によれば、ブレーキペダル2の初期位置より所定のストロークまでは液圧ユニット3の作動を禁止するので、ブレーキペダル2から車輪ブレーキ4への信号伝達は電気信号によって行うこととなり、少なくともブレーキペダル2の初期位置より所定のストロークまでは、運転技術の低いドライバであっても、運転技術の高いドライバと同様にして滑らかに減速を行うことができるという作用効果が期待できる。
【0062】
また、以上の構成によれば、所定のストローク以降は、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度よりも要求減速度が大きかった場合に要求減速度を出力し、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度よりも要求減速度が大きくなかった場合には当該液圧により発生する減速度で減速を行うことになるので、所定のストローク位置での減速度の不連続は発生せず、連続的な減速度の増加が可能となる。
【0063】
ここで、本発明における作用効果について、具体的に図4〜図8を用いて説明を行う。図4は、運転技術の高いドライバのブレーキ操作と運転技術の低いドライバのブレーキ操作との違いの一例を説明する図である。また、図5は、運転技術の低いドライバのブレーキ操作の一例を説明する図であって、図6は、運転技術の高いドライバのブレーキ操作の一例を説明する図である。なお、図4〜図6中のAのグラフはストローク量の時間変化、Bのグラフは現在自車速度の時間変化、Cのグラフは減速度の時間変化を表している。また、Aのグラフの縦軸がストローク量を表しており、Bのグラフの縦軸が速度を表しており、Cのグラフの縦軸が減速度を表している。さらに、A〜Cのグラフの横軸が時間を表している。また、図4中のA〜Cのグラフの実線が、運転技術の高いドライバのブレーキ操作における変化量、太破線が運転技術の低いドライバのブレーキ操作における変化量を表している。
【0064】
なお、車両が停止する場合における運転技術の低いドライバのブレーキ操作および車両が停止する場合における運転技術の高いドライバのブレーキ操作も、図5および図6に示した例と同様になる。
【0065】
また、図7および図8は、ブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、要求減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。なお、図7中のDのグラフおよび図8中のGのグラフはストローク量の時間変化、図7中のEのグラフおよび図8中のHのグラフは目標速度および現在自車速度の時間変化、図7中のFのグラフおよび図8中のIのグラフは要求減速度の時間変化を表している。また、DのグラフおよびGのグラフの縦軸がストローク量を表しており、EのグラフおよびHのグラフの縦軸が速度を表しており、FのグラフおよびIのグラフの縦軸が減速度を表している。さらに、D〜Iのグラフの横軸が時間を表している。なお、Eのグラフの実線が目標速度、一点鎖線が現在自車速度を表している。また、Gのグラフの太実線がパニックブレーキ時の目標速度、一点鎖線がパニックブレーキ時の現在自車速度を表しており、Gのグラフの細実線が通常運転時の目標速度、細破線が通常運転時の現在自車速度を表している。
【0066】
運転技術の高いドライバは、目標の速度に減速する場合に、滑らかに減速するためにはどのような減速度を発生させればよいかをイメージし、イメージした減速度に比例させるようにブレーキ操作を行うため、図4および図6中のグラフBに示すように、目標の速度に滑らかに減速を行うことができる。一方、運転技術の低いドライバは、目標の速度に減速する場合に、目標の速度に達するまで一定のブレーキ操作を行って目標の速度に達したところでブレーキペダル2を戻したり、図4および図5中のグラフAに示すように、目標の速度に達するまで徐々にブレーキ操作量を増やしていって目標の速度に達したところでブレーキペダル2を戻したりするため、図4および図5中のグラフBに示すように、目標の速度に滑らかに減速を行うことができず、所謂カックンブレーキとなってしまう。詳しくは、運転技術の低いドライバは、目標の速度に減速するための減速度の変化ではなくて速度の変化しかイメージできないため、勾配等の路面の外乱に合わせた柔軟なブレーキ操作を行うことができず、目標の速度に滑らかに減速して合わせることができない。
【0067】
これに対して、本実施形態の車両用ブレーキ装置100の構成によれば、運転技術の低いドライバが、図7中のDのグラフに示すように、目標の速度に達するまで徐々にブレーキ操作量を増やしてブレーキ操作を行った場合であっても、制御装置1がブレーキアクチュエータ7を電子制御することによって車輪ブレーキ4での制動力を調整し、目標速度になるように減速度を自動的に調整する。詳しくは、(1)式に示した数式に従って、目標速度よりも現在自車速度が大きくなるほど(目標速度よりも現在自車速度が速くなるほど)要求減速度を大きくすることによって自車両を減速させ、目標速度に現在自車速度が近づくように調整する。従って、車両用ブレーキ装置100の構成によれば、運転技術の低いドライバのブレーキ操作であっても、図7中のFのグラフに示すように、運転技術の高いドライバのブレーキ操作における減速度の時間変化と同様の減速度の変化を実現して、図7中のEのグラフに示すように、運転技術の高いドライバのブレーキ操作における現在自車速度の時間変化と同様の自車両の速度の変化を実現することができる。よって、車両用ブレーキ装置100の構成によれば、運転技術の低いドライバであっても、運転技術の高いドライバと同様にして滑らかに減速を行うことができる。
【0068】
また、制御装置1がブレーキアクチュエータ7を電子制御することによって車輪ブレーキ4での制動力を調整し、目標速度になるように減速度を自動的に調整する場合であっても、パニックブレーキによってブレーキペダル2が短時間で大きく踏み込まれ、目標速度が0km/h以下となったときには、図8中のグラフHに示すように、現在自車速度が0km/hとなった時点で自車両は停止する。よって、車両用ブレーキ装置100の構成によれば、パニックブレーキ時のように緊急に停止が必要な場合には、図8中のグラフHのおよびグラフIに示すように、通常時に比べ、滑らかな減速よりも緊急の停止が優先され、安全性を確保することができる。
【0069】
なお、前述の実施形態では、要求減速度演算部13において(1)式から要求減速度を算出する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、要求減速度演算部13において、以下に述べる(2)式から要求減速度を算出する構成としてもよい。なお、(2)式において、定数Taは、現在から所定の時間後であるt秒後の目標速度と現在自車速度との差分を要求減速度に変換するための除数であり、適宜、設定されるものである。なお、ここでは、一例として定数をTaとして表しているがTdと表しても構わない。また、ここで言うところのt秒後の目標速度とは、現在からt秒後に速度低下分の目標値に達する目標速度を示している。また、(2)式において、現在からt秒後の目標速度はVt(t)、現在自車速度はVs0、要求減速度はGと表している。なお、Vt(t)はブレーキペダル2のストローク量に応じて変わる変数である。また、ストローク量でなく踏力をもとに現在の速度低下分の目標値を算出する構成とした場合には、Vt(t)はブレーキペダル2に対する踏力に応じて変わる変数となる。なお、t秒後とは、任意に設定可能な値であって、例えば3秒とすればよい。
【0070】
【数2】

【0071】
なお、t秒後の目標速度については、要求減速度演算部13において推定して演算する構成とすればよい。ここで、図9を用いて、上記目標速度の決定の方法についての説明を行う。図9は、目標速度の決定の方法の一例を説明する図である。なお、図9のMのグラフはストローク量と速度低下分の目標値との関係を表しており、Nのグラフは目標速度の時間変化を表している。また、MおよびNのグラフの縦軸が速度を表しており、Mのグラフの横軸がブレーキペダル2のストローク量(S)を表しており、Nのグラフの横軸が時間を表している。
【0072】
例えば、低下速度演算部11では、ストローク量が増えるほど速度低下分の目標値がリニアに小さくなる(つまり、速度低下分がリニアに大きくなる)ように定められた数式やマップ等を用いることによって、図9のMのグラフに示すように、ブレーキペダル2のストローク量にリニアに応じた速度低下分の目標値が算出される。
【0073】
そして、要求減速度演算部13では、低下速度演算部11で演算された速度低下分の目標値をもとに、現在からt秒後に当該速度低下分の目標値に達する目標速度を決定する。例えば、図9のNのグラフに示すように、現在からt秒間かけて現在自車速(図9の例ではブレーキ開始時自車速度)から速度低下分の目標値にリニアに変化しながら達するような目標速度を、数式やマップ等を用いることによって決定する。具体例として、例えば(3)式から目標速度を算出する構成としてもよい。なお、(3)式において、目標速度はVt(t)、現在自車速度はVs0、ブレーキ開始時自車速度はVs、速度低下分の目標値はVtと表している。また、この(3)式によって、経過時間ごとの目標速度が算出される。なお、移行時間tは、任意の値を設定することが可能であり、例えば3秒などの数秒程度の値を設定する構成とすればよい。
【0074】
【数3】

【0075】
なお、ここでは、現在からt秒間かけて現在自車速から速度低下分の目標値にリニアに変化しながら達するような目標速度を決定する構成を一例として示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、現在からt秒間かけて現在自車速から速度低下分の目標値に曲線的に変化しながら達するような目標速度を決定する構成であってもよいし、階段状に変化しながら達するような目標速度を決定する構成であってもよい。この場合にも、それぞれに対応した数式やマップ等を用いることによって実現する構成とすればよい。なお、以降の説明における目標速度についても同様であるものとする。
【0076】
また、t秒後の目標速度として、ブレーキ開始時自車速度と現在から所定の時間後であるt秒後の速度低下分の目標値との差分である現在からt秒後の目標速度を用いる構成としてもよい。この場合には、要求減速度演算部13において、例えば、現在の目標速度に予め定められた係数を積算したり、一定の速度を減算したりするなどして、現在からt秒後の目標速度を推定して演算する構成としてもよい。また、低下速度演算部11で推定して演算したt秒後の低下速度分の目標値をブレーキ開始時自車速度から減算することによってt秒後の目標速度を推定して演算する構成としてもよい。この場合、低下速度演算部11において、ストローク量をもとに、ストローク量とt秒後の予測される低下速度分の目標値とを対応付けたテーブルやマップを用いることによって、t秒後の低下速度分の目標値を推定して演算する構成としてもよいし、ストローク量をもとに、ストローク量とt秒後の予測される速度低下分の値とが線形関係を満たすような所定の数式を演算することによって、t秒後の低下速度分の目標値を推定して演算する構成としてもよい。(1)式から要求減速度を算出する構成がリアルタイムの目標速度を用いて演算を行うのに対して、この構成は、推定した現在からt秒後の目標速度を用いる点が異なっていることを除けば同様の構成である。
【0077】
ここで、以上の構成による効果について、図10を用いて説明を行う。図10は、ブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、要求減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。なお、図10中のJのグラフはストローク量の時間変化、図10中のKのグラフは現在からt秒後の目標速度および現在自車速度の時間変化、図10中のLのグラフは要求減速度の時間変化を表している。また、Jのグラフの縦軸がストローク量を表しており、Kのグラフの縦軸が速度を表しており、Lのグラフの縦軸が減速度を表している。さらに、J〜Lのグラフの横軸が時間を表している。なお、Kのグラフの実線が現在からt秒後の目標速度、一点鎖線が現在自車速度を表している。
【0078】
運転技術の低いドライバが、図10中のJのグラフに示すように、目標の速度に達するまで徐々にブレーキ操作量を増やしてブレーキ操作を行った場合であっても、以上の構成によれば、(2)式に示した数式に従って、現在からt秒後の目標速度よりも現在自車速度が大きくなるほど(現在からt秒後の目標速度よりも現在自車速度が速くなるほど)要求減速度を大きくすることによって自車両を減速させ、現在からt秒後の目標速度に現在自車速度が近づくように調整する。従って、以上の構成によれば、運転技術の低いドライバのブレーキ操作であっても、図10中のLのグラフに示すように、運転技術の高いドライバのブレーキ操作における減速度の時間変化と同様の減速度の変化を実現して、図10中のKのグラフに示すように、運転技術の高いドライバのブレーキ操作における現在自車速度の時間変化と同様の自車両の速度の変化を実現することができる。よって、以上の構成によっても、運転技術の低いドライバが、運転技術の高いドライバと同様にして滑らかに減速を行うことができる。
【0079】
なお、前述の実施形態では、前述の作動制限機構を設けることによって、ブレーキペダル2の初期位置より所定のストロークまでは、要求減速度演算部13から出力される要求減速度を減速制御部15に出力するとともに、所定のストローク以降は、ブレーキペダル2に対する踏力に応じた液圧により発生する減速度よりも要求減速度演算部13で演算された要求減速度が大きかった場合に、当該要求減速度を減速制御部15に出力する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、前述の作動制限機構を設けず、要求減速度演算部13から出力される要求減速度と液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生した減速度(つまり、ブレーキペダルに対する踏力に応じた液圧により発生する減速度)とを比較し、値がより大きい方の減速度を減速制御部15に出力する構成(以下、変形例1)としてもよい。以下では、この変形例1について図を用いて説明を行う。なお、説明の便宜上、前述の実施形態の説明に用いた図に示した部材と同様の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0080】
まず、図11(a)〜図11(c)を用いて、変形例1におけるブレーキペダル2と液圧ユニット3との関係について説明を行う。なお、図11(a)〜図11(c)は、ブレーキペダル2と液圧ユニット3との関係を説明する図である。また、図11(a)は、ブレーキペダル2が初期位置にある場合の例を示しており、図11(c)は、ブレーキペダル2を踏みきった状態にある場合の例を示している。そして、図11(b)は、ブレーキペダル2が図11(a)の状態と図11(c)の状態の間にある場合の例を示している。また、図11中のプッシュロッド92は、前述の実施形態とは異なって軸方向に分割されておらず、ブレーキペダル2に対する踏力を直接に液圧ユニット3に伝えられるようになっている。さらに、ロータリエンコーダ式のストロークセンサ6は、液圧ユニット3に並列に設けられている。
【0081】
変形例1では、前述の実施形態とは異なり、図10(a)〜図10(c)に示すように、ブレーキペダル2の初期位置以降において、ブレーキペダル2に対する踏力がプッシュロッド92によって液圧ユニット3に伝えられるようになっている。
【0082】
続いて、制御装置1での処理について説明を行う。なお、ここでは、要求減速度演算部13が、低下速度演算部11で算出した速度低下分の目標値をもとに、t秒後にこの速度低下分の目標値となるような目標速度(前述のt秒後の目標速度)を決定するものとする。なお、上記目標速度の決定の方法については、前述したのと同様であるものとする。
【0083】
そして、要求減速度演算部13は、上記目標速度が0以上の値となった場合には、当該目標速度と現在自車速度とをもとに、(2)式から要求減速度を演算する。また、上記目標速度が0よりも小さい値となった場合には、目標速度を0として、目標速度と現在自車速度とをもとに、(2)式から要求減速度を演算する。そして、得られた要求減速度を出力判定部14に出力する。
【0084】
【数2】

【0085】
続いて、変形例1の出力判定部14では、ブレーキペダル2のストローク位置に関わらず、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度と要求減速度演算部13で算出した要求減速度とを比較する。なお、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生した減速度(つまり、ブレーキペダルに対する踏力に応じた液圧により発生する減速度)については、前述の実施形態と同様に、出力判定部14が推定するものとする。
【0086】
そして、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度よりも要求減速度の方が大きかった場合には、要求減速度演算部13で算出した要求減速度を減速制御部15に出力する。一方、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度よりも要求減速度の方が大きくなかった場合には、要求減速度演算部13で算出された要求減速度を減速制御部15に出力しない。なお、要求減速度演算部13で算出された要求減速度を減速制御部15に出力しない場合には、液圧ユニット3を介した車輪ブレーキ4による制動で発生する減速度によって自車両の減速が行われることになる。
【0087】
以上の構成によれば、要求減速度演算部13から出力される要求減速度の値がブレーキペダル2に対する踏力に応じた液圧ユニット3での液圧により発生する減速度よりも大きくなる場合には、ブレーキペダル2から車輪ブレーキ4への信号伝達は電気信号によって行うこととなる。よって、以上の構成によれば、少なくとも要求減速度演算部13から出力される要求減速度の値がブレーキペダル2に対する踏力に応じた液圧ユニット3での液圧により発生する減速度よりも大きくなる場合には、運転技術が低いドライバによるブレーキ操作によって生じる減速中の違和感をより低減する効果が期待できる。
【0088】
一方、緊急時においてドライバがブレーキペダル2を強く踏み込むことで、ブレーキペダル2に対する踏力に応じた液圧ユニット3での液圧により発生する減速度が要求減速度演算部13から出力される要求減速度よりも大きくなる場合には、ブレーキペダル2の踏力に応じた液圧により減速度を発生させる液圧ユニット3によって緊急制動が可能となる。
【0089】
ここで、変形例1の車両用ブレーキ装置100の構成による作用効果について、具体的に図12を用いて説明を行う。図12は、ブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。なお、図12中のDのグラフはストローク量の時間変化、図12中のEのグラフは目標速度および現在自車速度の時間変化、図12中のOのグラフは、要求減速度演算部13から出力される要求減速度の値(図中のG_cont)、液圧ユニット3での液圧により発生する減速度(図中のG_dri)、実際の車両の減速度(図中のG_out)の時間変化を表している。また、Dのグラフの縦軸がストローク量を表しており、Eのグラフの縦軸が速度を表しており、Oのグラフの縦軸が減速度を表している。さらに、D、E、Oのグラフの横軸が時間を表している。なお、Eのグラフの実線が目標速度、一点鎖線が現在自車速度を表しており、Oのグラフの太実線がG_out、細実線がG_cont、一点鎖線がG_outを表している。
【0090】
変形例1の車両用ブレーキ装置100の構成によれば、運転技術の低いドライバが、図12中のDのグラフに示すように、目標の速度に向けて一度にブレーキ操作量を増やしてブレーキ操作を行った場合であっても、制御装置1がブレーキアクチュエータ7を電子制御することによって車輪ブレーキ4での制動力を調整し、所定の時間であるt秒間かけて目標速度になるように減速度を自動的に調整する。詳しくは、G_contの値がG_driの値よりも大きくなる場合においては、(2)式に示した数式に従って、目標速度よりも現在自車速度が大きくなるほど要求減速度を大きくすることによって自車両を減速させ、目標速度に現在自車速度が近づくように調整する。従って、変形例1の車両用ブレーキ装置100の構成によれば、運転技術の低いドライバのブレーキ操作であっても、図12中のOのグラフに示すように、運転技術の高いドライバのブレーキ操作における減速度の時間変化と同様の減速度の変化を実現して、図12中のEのグラフに示すように、運転技術の高いドライバのブレーキ操作における現在自車速度の時間変化(図6参照)と類似した自車両の速度の変化を実現することができる。よって、変形例1の車両用ブレーキ装置100の構成によれば、運転技術の低いドライバであっても、運転技術の高いドライバと同様にして滑らかに減速を行うことができる。
【0091】
なお、図12では、ストローク量を徐々に変化させる図5の例とは異なり、ストローク量を一度に変化させる例を示したが、図5の例と同様にストローク量を徐々に変化させた場合であっても、変形例1の車両用ブレーキ装置100の構成によって同様の効果を奏する。
【0092】
また、ブレーキペダル2の踏み増し操作や踏み戻し操作があった場合について、図13〜図17を用いて説明を行う。なお、図13および図14は、ブレーキペダル2の踏み増し操作があった場合のブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。また、図15および図16は、ブレーキペダル2の踏み戻し操作があった場合のブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。さらに、図17は、ブレーキペダル2の踏み増し操作や踏み戻し操作があった場合の目標速度の決定の方法の一例を説明する図である。
【0093】
なお、図13〜図16中のDのグラフはストローク量の時間変化、図13および図15中のPのグラフは目標速度の時間変化、図14および図16中のQのグラフは目標速度および現在自車速度の時間変化を表している。また、図13および図15中のRのグラフは、要求減速度演算部13から出力される要求減速度の値(図中のG_cont1、G_cont2、G_cont3)、液圧ユニット3での液圧により発生する減速度(図中のG_dri)の時間変化を表している。さらに、図14および図16中のTのグラフは、実際の車両の減速度(図中のG_out)の時間変化を表している。また、図17のMのグラフはストローク量と速度低下分の目標値との関係を表しており、Nのグラフは目標速度の時間変化を表している。
【0094】
また、Dのグラフの縦軸がストローク量を表しており、PおよびQのグラフの縦軸が速度を表しており、RおよびTのグラフの縦軸が減速度を表している。さらに、D、P〜R、Tのグラフの横軸が時間を表している。また、MおよびNのグラフの縦軸が速度を表しており、Mのグラフの横軸がブレーキペダル2のストローク量(S)を表しており、Nのグラフの横軸が時間を表している。
【0095】
なお、Pのグラフの実線が最初のブレーキ操作に対しての目標速度(図中のVt(t)1)、点線が踏み増し操作や踏み戻し操作に対しての目標速度(図13中のVt(t)2、図15中のVt(t)3)を表しており、Qのグラフの実線が目標速度、一点鎖線が現在自車速度を表している。また、Rのグラフの細実線がG_cont1、点線がG_cont2またはG_cont3、一点鎖線がG_outを表しており、Tのグラフの太実線がG_outを表している。さらに、MのグラフのA点がブレーキ操作開始前のストローク量、B点が最初のブレーキ操作時のストローク量、C点が踏み増し操作時のストローク量、D点が踏み戻し操作時のストローク量を表している。また、Nのグラフの実線が最初のブレーキ操作に対しての目標速度(Vt(t)1)、点線が踏み増し操作に対しての目標速度(Vt(t)2)、破線が踏み戻し操作に対しての目標速度(Vt(t)3)を表している。さらに、NのグラフのX点がブレーキ操作量の変更があった時点を表している。
【0096】
まず、最初のブレーキ操作時のストローク量(図17中のB点参照)をもとに、低下速度演算部11で速度低下分の目標値(図13〜図16中のVt1)を算出する。続いて、ブレーキ開始時自車速度からt秒かけてVt1に達する目標速度(Vt(t)1)を決定する。そして、G_cont1の値がG_driの値よりも大きくなる場合においては、(2)式に示した数式に従って、目標速度(Vt(t)1)よりも現在自車速度が大きくなるほど要求減速度G_cont1を大きくすることによって自車両を減速させ、目標速度(Vt(t)1)に現在自車速度が近づくように調整し続けることになる。
【0097】
ここで、速度低下分の目標値(Vt1)に達する前の時点(図17中のX点参照)でブレーキペダル2の踏み増し操作があった場合には、新たなストローク量(図17中の点C参照)をもとにして低下速度演算部11で新たな速度低下分の目標値(図13および図14中のVt2)が算出される。そして、ブレーキペダル2の踏み増し操作時点の現在自車速からt秒かけてVt2に達する目標速度(Vt(t)2)を決定する(図17中のNのグラフ参照)。
【0098】
以上の構成によれば、ブレーキペダル2の踏み増し操作があった後も、G_cont2の値がG_driの値よりも大きくなる場合においては、(2)式に示した数式に従って、新たな目標速度(Vt(t)2)よりも現在自車速度が大きくなるほど要求減速度G_cont2を大きくすることによって自車両を減速させ、目標速度(Vt(t)2)に現在自車速度が近づくように調整することになる。よって、ブレーキペダル2の踏み増し操作があった後も、図14中のTのグラフに示すように、運転技術の高いドライバのブレーキ操作における現在自車速度の時間変化と類似した自車両の速度の変化を実現することができる。
【0099】
また、速度低下分の目標値(Vt1)に達する前の時点(図17中のX点参照)でブレーキペダル2の踏み戻し操作があった場合にも、新たなストローク量(図17中の点D参照)をもとにして低下速度演算部11で新たな速度低下分の目標値(図15および図16中のVt3)が算出される。そして、ブレーキペダル2の踏み戻し操作時点の現在自車速からt秒かけてVt3に達する目標速度(Vt(t)3)を決定する。
【0100】
以上の構成によれば、ブレーキペダル2の踏み戻し操作があった後も、G_cont3の値がG_driの値よりも大きくなる場合においては、(2)式に示した数式に従って、新たな目標速度(Vt(t)3)よりも現在自車速度が大きくなるほど要求減速度G_cont3を大きくすることによって自車両を減速させ、目標速度(Vt(t)3)に現在自車速度が近づくように調整することになる。よって、ブレーキペダル2の踏み戻し操作があった後も、図16中のTのグラフに示すように、運転技術の高いドライバのブレーキ操作における現在自車速度の時間変化と類似した自車両の速度の変化を実現することができる。
【0101】
以上のように、本発明によれば、ドライバによってブレーキペダル2の踏み増し操作や踏み戻し操作が行われてブレーキ操作量の変更があった場合にも、ドライバの意図する速度への滑らかな減速が可能となる。
【0102】
続いて、車両が停止する場合について、図18を用いて説明を行う。なお、図18は、車両が停止する場合のブレーキペダル2のストローク量と、現在自車速度および目標速度の時間変化と、減速度の時間変化との関係の一例を示す図である。なお、図18中のDのグラフはストローク量の時間変化、Uのグラフは目標速度および現在自車速度の時間変化を表している。また、図18中のOのグラフは要求減速度演算部13から出力される要求減速度の値(図中のG_cont)、液圧ユニット3での液圧により発生する減速度(図中のG_dri)、実際の車両の減速度(図中のG_out)の時間変化を表している。
【0103】
さらに、Dのグラフの縦軸がストローク量を表しており、Uのグラフの縦軸が速度を表しており、Oのグラフの縦軸が減速度を表している。さらに、D、U、Oのグラフの横軸が時間を表している。なお、Eのグラフの実線が目標速度の出力値、破線が目標速度の演算値、一点鎖線が現在自車速度を表している。また、Oのグラフの太実線がG_out、細実線がG_cont、一点鎖線がG_outを表している。
【0104】
車両用ブレーキ装置100では、ブレーキ操作時のストローク量をもとに低下速度演算部11で速度低下分の目標値が算出されるので、算出される速度低下分の目標値が、ブレーキ開始時自車速度から車速0までの速度低下分の値よりも大きくなる場合が存在する。ここで、目標速度は、ブレーキ開始時自車速度からt秒かけて速度低下分の目標値に達するように決定されるので、目標速度の演算値としては、図18のUのグラフで破線の楕円で囲った部分に示すように、0よりも小さい値をとる場合が存在する。しかしながら、変形例1の車両用ブレーキ装置100では、目標速度が0よりも小さい値となった場合には、目標速度を0として、(2)式から要求減速度を演算するので、目標速度と現在自車速度との差により出力される要求減速度は0に収束することになる。よって、以上の構成によれば、図18のOのグラフに示すように、停止時には車速0に向かって滑らかに減速が行われることになり、停止時においても図5のCのグラフに示すようなカックンブレーキが良好に解消される。
【0105】
また、車両用ブレーキ装置100は、ブレーキペダル2のストロークが初期位置に戻ったときに、要求減速度演算部13からの要求減速度の減速制御部15への出力を中止する構成としてもよい。この場合には、例えば要求減速度演算部13で演算された要求減速度を、出力判定部14が減速制御部15に出力しないことによって中止する構成とすればよい。よって、出力判定部14は、請求項の要求減速度出力中止手段に相当する。
【0106】
以上の構成によれば、ドライバがブレーキペダル2を完全に戻してストロークが初期位置に戻ったときには、要求減速度演算部13からの要求減速度の減速制御部15への出力を中止するので、油圧ブレーキ装置と同様のフィーリングをドライバが得ることが可能になる。
【0107】
なお、前述の実施形態では、車両用ブレーキ装置100が、内燃機関を駆動力源とする車両に搭載される構成を示したが、必ずしもこれに限らず、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)のように電動機(モータ)を駆動力源として用いる車両に車両用ブレーキ装置100を搭載する構成としてもよい。
【0108】
また、電動機を駆動力源として用いる車両に車両用ブレーキ装置100を搭載する場合には、電動機の発電時の回転抵抗を車両の制動力として利用する構成としてもよい。以下では、この実施形態について図面を用いて説明を行う。図19は、電動機の発電時の回転抵抗を車両の制動力として利用する場合の構成の一例を示す図である。なお、説明の便宜上、前述の実施形態の説明に用いた図に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、ここでは、HVに適用した場合の一例を示す。また、ここでは、液圧ユニット3も、ブレーキアクチュエータ7を介して車輪ブレーキ4での制動を行わせるものとする。
【0109】
電動機40は、車両の駆動力源として用いられる電動機である。バッテリ41は、例えばニッケル水素バッテリやリチウムイオンバッテリであり、電動機40は、インバータ42を介してバッテリ41に接続されている。
【0110】
インバータ42は、バッテリ41の電力を電動機40に供給して電動機40に駆動力を発生させる。また、インバータ42は、電動機40で電力を発生させ、発生させた電力をバッテリ41に充電する。電動機40で電力を発生させる場合には、例えば駆動輪の回転動力によって電動機40を回転させる。駆動輪の回転動力によって電動機40を回転させる場合には、発電する電力に応じた制動力が発生する。
【0111】
ハイブリッドECU43は、ドライバによってアクセルペダルに入力される操作量および車速と、予め記憶されている動力配分比決定マップとを用いて、エンジンと電動機40との動力配分比を決定する。また、ハイブリッドECU43は、インバータ42に指令を行って回生制動を行わせたり、電動機40の回転速度やインバータ42の入力電圧等をもとに回生制動による減速度を算出したりする。
【0112】
また、ブレーキECU44は制御装置1を備えているものとする。ブレーキECU44では、電動機40の発電時の回転抵抗を車両の制動力に利用できる場合であって、制御装置1の要求減速度算出部13で算出された要求減速度が減速制御部15に出力される場合には、要求減速度算出部13で算出された要求減速度からハイブリッドECU43で算出した回生制動による減速度を差し引いて減速制御部15に出力する調停を行う。なお、例えば出力判定部14において、要求減速度算出部13で算出された要求減速度からハイブリッドECU43で算出した回生制動による減速度を差し引いて減速制御部15に出力する構成とすればよい。
【0113】
そして、調停によって得られた減速度に応じた制御信号を減速制御部15がブレーキアクチュエータ7へ送り、調停によって得られた減速度に応じた制動力を発生させる。以上の構成によれば、電動機40の発電時の回転抵抗を車両の制動力に利用できるEVやHV等の車両においても、運転者に違和感を与えずにスムーズに減速を行うことが可能となる。
【0114】
また、ここでは、制御装置1をブレーキECU44に備える構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、制御装置1の機能をブレーキECU44とハイブリッドECU43とのそれぞれに分けて備える構成としてもよい。
【0115】
なお、ここでは、EVやHV等の車両の駆動力源として用いられる電動機を電動機40とする構成を示したが、必ずしもこれに限らず、内燃機関を駆動力源とする車両のオルタネーターを電動機40として用いる構成としてもよい。
【0116】
また、前述の実施形態では、ブレーキペダル2から車輪ブレーキ4への信号伝達の一部を制御装置1およびブレーキアクチュエータ7を介して電気信号によって行うとともに、ブレーキペダル2から車輪ブレーキ4への信号伝達をブレーキペダル2に対する踏力に応じた液圧を発生させる液圧ユニット3を介して行う構成(つまり、ブレーキペダル2から車輪ブレーキ4への信号伝達を電気信号によって行う場合とブレーキペダル2から車輪ブレーキ4への信号伝達をブレーキペダル2に対する踏力に応じた液圧を発生させる液圧ユニット3を介して行う場合とが選択可能な構成)を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、ブレーキペダル2から車輪ブレーキ4への信号伝達を、液圧ユニット3を用いずに行う構成としてもよいし、ブレーキペダル2から車輪ブレーキ4への信号伝達の全部を電気信号によって行う構成としてもよい。つまり、ブレーキペダル2から車輪ブレーキ4への信号伝達を電気信号によって行うことができる構成でありさえすればよい。
【0117】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0118】
1 制御装置、2 ブレーキペダル、3 液圧ユニット、4 車輪ブレーキ、5 車速センサ(車速検出手段)、6 ストロークセンサ(ペダル関連量検出手段)、7 ブレーキアクチュエータ、11 低下速度演算部(低下速度演算手段)、12 目標速度演算部、13 要求減速度演算部(要求減速度演算手段)、14 出力判定部(出力判定手段)、15 減速制御部、31 ブースター、32 マスタシリンダ、40 電動機、41 バッテリ、42 インバータ、43 ハイブリッドECU、44 ブレーキECU、91 引っ張りばね、92 プッシュロッド(液圧ユニット制限手段)、93 ストッパ(液圧ユニット制限手段)、100 車両用ブレーキ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、ブレーキペダルから車輪ブレーキへの信号伝達の少なくとも一部を電気信号によって行うブレーキバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置であって、
前記ブレーキペダルのストローク量および前記ブレーキペダルに対する踏力のいずれかを検出するペダル関連量検出手段と、
前記車両の速度を逐次検出する車速検出手段と、
前記ペダル関連量検出手段で逐次検出した前記ストローク量および前記踏力のいずれかを入力とし、当該入力をもとに、ブレーキ操作開始時点の前記車両の速度であるブレーキ開始時自車速度からの速度低下分の目標値を逐次演算する低下速度演算手段と、を備え、
前記ブレーキ開始時自車速度と前記速度低下分の目標値とをもとに目標速度を逐次求めることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1において、
逐次求めた前記目標速度と、前記車速検出手段で逐次検出した現在の前記車両の速度である現在自車速度とをもとに、前記目標速度を実現するために必要な減速度である要求減速度を逐次演算する要求減速度演算手段をさらに備えることを特徴とする。
【請求項3】
請求項2において、
ブレーキペダルから車輪ブレーキへの信号伝達の一部を電気信号によって行うとともに、前記信号伝達を前記ブレーキペダルに対する踏力に応じた液圧を発生させる液圧ユニットを介して行うことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記ブレーキペダルの初期位置より所定のストロークまでは前記液圧ユニットの作動を禁止するとともに、前記所定のストローク以降は前記液圧ユニットの作動を許可する液圧ユニット制限手段と、
前記ブレーキペダルの初期位置より所定のストロークまでは、前記要求減速度演算手段から出力される要求減速度を出力するとともに、前記所定のストローク以降は、ブレーキペダルに対する踏力に応じた液圧により発生する減速度よりも前記要求減速度演算手段で演算された要求減速度が大きかった場合に、前記要求減速度演算手段で演算された要求減速度を出力する出力判定手段と、をさらに備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記液圧ユニット制限手段は、前記所定のストローク以降のブレーキペダルに対する踏力を機械的に前記液圧ユニットに伝達可能となるように前記液圧ユニットに直列に設けられていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項3において、
前記要求減速度演算手段から出力される要求減速度と前記ブレーキペダルに対する踏力に応じた前記液圧ユニットでの液圧により発生する減速度とを比較し、値がより大きい方の減速度を出力する出力判定手段をさらに備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1項において、
前記目標速度は、前記ブレーキ開始時自車速度と現在の前記速度低下分の目標値との差分である現在の目標速度であって、
前記要求減速度演算手段は、(1)式から前記要求減速度を演算することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【数1】

Vt:現在の速度低下分の目標値[m/s]
Vs:ブレーキ開始時自車速度[m/s]
Vs0:現在自車速度[m/s]
G:要求減速度(≦0)
Ta:現在の目標速度と現在自車速度との差分を要求減速度に変換するための除数
【請求項8】
請求項2〜6のいずれか1項において、
前記要求減速度演算手段は、前記低下速度演算手段で逐次演算された前記速度低下分の目標値をもとに、現在からt秒後に当該速度低下分の目標値に達する目標速度を逐次求め、当該目標速度と前記現在自車速度とをもとに、(2)式から前記要求減速度を演算することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【数2】

Vt(t):現在からt秒後に速度低下分の目標値に達する目標速度[m/s]
Vs0:現在自車速度[m/s]
G:要求減速度(≦0)
Ta:現在からt秒後に速度低下分の目標値に達する目標速度と現在自車速度との差分を要求減速度に変換するための除数
【請求項9】
請求項8において、
前記要求減速度演算手段は、
前記目標速度が0以上の値となる場合には、当該目標速度と前記現在自車速度とをもとに、前記(2)式から前記要求減速度を演算し、
前記目標速度が0よりも小さい値となる場合には、前記目標速度を0として、前記目標速度と前記現在自車速度とをもとに、前記(2)式から前記要求減速度を演算することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項2〜9において、
前記ブレーキペダルのストロークが初期位置に戻ったときに、前記要求減速度演算手段からの要求減速度の出力を中止する要求減速度出力中止手段をさらに備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−73664(P2011−73664A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265815(P2009−265815)
【出願日】平成21年11月23日(2009.11.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】