説明

車両用ブレーキ装置

【課題】車両用ブレーキ装置における電磁弁の切り替え時の作動音を低減化する。
【解決手段】ブレーキペダルが操作されてペダルストロークが所定値Sp1になったら閉弁駆動電圧をVc1にし、その後ストロークがSp2になるまでストロークの上昇に応じて電圧をVc2まで漸増する。駆動電圧を一気に印加するのではなく、徐々に変化させる状態を含めて印加することから、弁体の着座による作動音の大きさを低減することができる。開弁時も、電圧をVc2からVc1まで徐々に低減し、その後0Vにすることから、一気に閉弁状態に戻ることがないので、弁体の作動音を低減し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ装置に関し、特にブレーキ・バイ・ワイヤによりブレーキ力を発生させる車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車では、駆動輪の駆動軸に電動モータを連結し、そのモータを制動時には発電機として使用してエネルギー回生を行うようにしているものがある。このような車両では、モータの定格やバッテリの残量等により、回生ブレーキだけで全ての制動力を実現することが困難である場合があり、電子制御により、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤで駆動される油圧ブレーキと上記回生ブレーキとの協調制御を行うようにしたものがある。
【0003】
ブレーキ・バイ・ワイヤでは、ブレーキペダルのストロークに応じて電動モータにより液圧発生シリンダのピストンを駆動する等しており、ブレーキペダルと液圧発生シリンダとが機械的に連結されていない。一方、フェイルセーフとして、操作部材としてのブレーキペダルとマスターシリンダとを機械的に連結して、通常はマスターシリンダとホイールシリンダとの間に設けた遮断弁によりマスターシリンダとホイールシリンダとを遮断しているものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−29294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したブレーキ装置のような油圧回路における遮断弁には電磁弁を用いることが適しているが、ブレーキペダルの踏み込み時にその電磁弁を閉じ、その踏み込み解除時に電磁弁を開くように制御する場合に、電磁弁の開弁から閉弁及び閉弁から開弁に切り替わる度に弁体が弁座またはストッパに衝当する作動音が発生する。特に、車両用の装置では、様々な環境条件において安定して動作させる必要があるため、電磁弁では駆動電圧を高目に設定することにより上記作動音が大きくなり易く、静音化の遮音対策にコストが高騰化するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決して、電磁弁の切り替え時の作動音を低減化し得る車両用ブレーキ装置を実現するために、本発明に於いては、操作部材(11)に機械的に連結され、液圧を発生するマスターシリンダ(15)と、前記マスターシリンダに油路(42a・42b)を介して接続されたホイールシリンダ(2b・3b)と、前記油路上に設けられた常時開の電磁弁(24a・24b)と、前記操作部材の操作量を検出する操作量検出手段(11a)と、前記油路の前記電磁弁と前記ホイールシリンダとの間に接続され、前記操作量に応じて前記油路にブレーキ液圧を供給する液圧発生手段(13)と、前記操作量に応じて前記電磁弁及び前記液圧発生手段を制御する制御手段(6)とを有する車両用ブレーキ装置であって、前記制御手段は、前記液圧を発生させる向きの前記操作量が検出された場合には前記電磁弁を全閉にし、前記液圧を消失させるに至る前記操作量が検出された場合には前記電磁弁を全開にすると共に、前記電磁弁を全開または全閉にする場合に前記電磁弁の駆動電圧を徐々に変化させる状態を含めて変化させるものとした。
【0007】
これによれば、操作部材としての例えばブレーキペダルを操作して、液圧発生手段としての例えばモータアクチュエータを用いたモータ駆動シリンダによりホイールシリンダに対するブレーキ液圧を発生する場合に、操作部材に連結されていることにより液圧を発生するマスターシリンダとホイールシリンダとを遮断するべく電磁弁を全閉にする際に、その駆動電圧を一気に印加するのではなく、徐々に変化させる状態を含めて印加することから、弁体の着座による作動音の大きさを低減することができる。
【0008】
特に、前記制御手段(6)は、前記電磁弁(24a・24b)への通電制御値を、前記操作量が所定値以上になりかつ前記液圧発生手段によるブレーキ液圧が所定値以上になった場合に前記電磁弁が閉弁状態を維持し得る値に低減すると良い。これによれば、液圧発生手段側のブレーキ液圧が所定値以上になることにより、電磁弁におけるマスターシリンダ側との差圧が小さくなるため電磁弁の閉弁状態を保持し得るように消費電力を低減し得る。
【0009】
また、前記制御手段(6)は、前記電磁弁(24a・24b)への通電制御値を、前記操作量が所定値以上になった場合には前記操作量及び前記液圧発生手段の作動量に基づいて制御すると良い。これによれば、操作部材の操作量が所定値以上で上記と同様に電磁弁の閉弁状態が確保されることにより、その後は電磁弁への通電を操作量及びそれに応じた液圧発生手段の作動量に基づいて電磁弁の閉弁状態を保持し得るように制御することにより消費電力を低減し得る。
【0010】
また、前記制御手段(6)は、前記操作量が所定値以上になった場合の前記電磁弁(24a・24b)への通電制御値を最大値より低い一定値にすると良い。これによれば、操作部材の操作量が所定値以上で上記と同様に電磁弁の閉弁状態が確保されることにより、その後は電磁弁への通電制御値を最大値より低い一定値にすることにより消費電力を低減し得る。
【0011】
また、前記電磁弁(24a・24b)が複数設けられ、前記制御手段(6)は、複数の前記電磁弁への各通電のタイミングを異ならせると良い。これによれば、複数の電磁弁の各作動音の発生タイミングが分散されることから、複数の作動音が同時発生することが回避され、複数の電磁弁全体の作動音を低減し得る。
【0012】
また、前記制御手段(6)は、前記電磁弁(24a・24b)への通電制御値を、前記操作量が所定値を下回った場合に時間経過に応じて低減すると良い。これによれば、電磁弁の全閉状態から全開にする場合にも駆動電圧を一気に消滅するのではなく、徐々に変化させる状態を含めて低減することから、弁体の衝当による作動音を低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、操作部材の操作量に応じて液圧を発生するマスターシリンダとホイールシリンダとを遮断するべく電磁弁を全閉にする場合に、その駆動電圧を一気に印加するのではなく、徐々に変化させる状態を含めて印加することから、弁体の着座による作動音の大きさを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用された自動車のブレーキ系の要部系統図である。
【図2】本発明が適用された自動車のブレーキ装置を模式的に示す油圧回路図である。
【図3】本発明に基づく制御要領を示すフロー図である。
【図4】(a)は閉弁時の駆動電圧変化を示し、(b)は開弁時の駆動電圧変化を示す図である。
【図5】閉弁時の駆動電圧変化の第2の例を示す図4(a)に対応する図である。
【図6】本発明に基づく制御要領を示す要部回路ブロック図である。
【図7】本発明に基づくタイムチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明が適用された電気自動車またはハイブリッド自動車のブレーキ系の要部系統図である。
【0016】
図1に示される自動車は、車両1の前側に配設された左右一対の前輪2と、車両1の後側に配設された左右一対の後輪3とを有する。左右の前輪2に連結された前輪車軸4にはモータ・ジェネレータ5がトルク伝達関係で連結されている。なお、前輪車軸4に設けられる差動機構は図示省略する。
【0017】
モータ・ジェネレータ5と電源としての二次電池であるバッテリ7とはインバータ10を介して接続されている。バッテリ7の電力がモータ・ジェネレータ5に供給されると共に、モータ・ジェネレータ5による発電電力がバッテリ7に対して電力供給(充電)されるように、インバータ10により制御される。これにより、モータ・ジェネレータ5は、車両走行用の電動機と回生用の発電機とを兼ね、減速時には減速エネルギを電力に変換して回生制動力を発生する制動力発生手段として機能する。
【0018】
また、車両の各種制御を行うと共に制動力配分制御を行う制御手段としての制御ユニット(ECU)6が設けられている。制御ユニット6は、CPUを用いた制御回路を備え、上記インバータ10と電気的に接続されている。なお、電気自動車の場合にはこの構成のまま、または後輪3を駆動する後輪用モータ・ジェネレータを設けても良いが、ハイブリッド自動車の場合には前輪車軸4には図の二点鎖線で示されるエンジン(内燃機関)Eの出力軸が連結される。図のエンジンEの場合には前輪駆動の例であるが、四輪駆動とすることもできる。
【0019】
前輪2及び後輪3の各車輪には、摩擦制動を行う摩擦制動手段として、車輪(前輪2・後輪3)と一体のディスク2a・3a及びホイールシリンダ2b・3bを備えるキャリパにより構成される公知のディスクブレーキが設けられている。ホイールシリンダ2b・3bには、油路としての公知のブレーキ配管を介して制動力発生手段を構成するブレーキ液圧発生装置8が接続されている。ブレーキ液圧発生装置8は、後で詳述するが、各車輪別にブレーキ圧を増減させて配分可能な油圧回路で構成されている。
【0020】
また、前輪2及び後輪3には各車輪速を検出する各車輪速センサ9が設けられており、ブレーキペダル11には運転者による踏み込み量であるブレーキ操作量を検出する操作量検出手段としての変位センサ11aが設けられている。各車輪速センサ9と変位センサ11aとの各検出信号は制御ユニット6に入力する。
【0021】
制御ユニット6は、ブレーキペダル11の変位センサ11aの出力信号が0より大きい場合に制動の指令が発生したと判断し、制動力を発生させる制御を行う。本図示例では、回生制動と油圧制動とを組み合わせた回生協調制御を行うことができる。
【0022】
次に、図2を参照してブレーキ液圧発生装置8について説明する。本実施形態の制動システムは、ブレーキペダル11の操作量(ペダル変位量)を変位センサ11aにより検出し、その検出値に基づいて液圧発生手段としてのモータ駆動シリンダ13を駆動してブレーキ液圧を発生させる。モータ駆動シリンダ13には、電動サーボモータ12と、電動サーボモータ12に連結されたギアボックス18とが一体的に設けられていると共に、ギアボックス18にボールねじ機構を介してトルク伝達されることにより軸線方向変位するねじ溝付きロッド19と、ねじ溝付きロッド19と同軸かつ互いに直列的に配設された第1ピストン21a及び第2ピストン21bとが設けられている。
【0023】
これにより、ブレーキペダル11の操作量に応じて電動サーボモータ12が回転し、その回転力がギアボックス18を介してねじ溝付きロッド19の軸力に変換され、第1ピストン21aが直線運動する。このようにして、制動操作部材としてのブレーキペダル11の操作を機械的にブレーキ液圧発生シリンダに伝達してブレーキ液圧を発生させるのではなく、ブレーキペダル11の踏み込み量に応じてモータ駆動シリンダ13によりブレーキ液圧を発生させる、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤが構成されている。
【0024】
また、ブレーキペダル11のアームの一端が車体に回動自在に支持されていると共に、そのブレーキペダル11の円弧運動を略直線運動に変換するロッド14の一端がブレーキペダル11のアームの中間部に連結されており、ロッド14の他端は、直列的に配設されたマスターシリンダ15の第1ピストン15aを押し込むように係合している。マスターシリンダ15には第1ピストン15aに対してロッド14とは相反する側に直列的に第2ピストン15bが配設されており、各ピストン15a・15bは戻しばね41a・41bによりそれぞれロッド14側にばね付勢されている。なお、ブレーキペダル11は、図示されない戻しばねにより図1の状態である待機位置に戻す向きにばね付勢され、かつ待機位置で図示されないストッパにより止められている。
【0025】
マスターシリンダ15には、各ピストン15a・15bの変位に応じてブレーキ液をやり取りするためのリザーバタンク16が設けられている。なお、各ピストン15a・15bには、リザーバタンク16と連通する各油路16a・16bとの間をシールするための公知構造のシール部材が各適所に設けられている。そして、マスターシリンダ15の筒内には、第1ピストン15aと第2ピストン15bとの間に第1液室17aが形成され、第2ピストン15bの第1ピストンとは相反する側に第2液室17bが形成されている。
【0026】
上記したモータ駆動シリンダ13において、第2ピストン21bに一端部が固設された連結部材27が第1ピストン21a側に延出して、連結部材20の延出方向他端部が第1ピストン21aに対して相対的に軸線方向に所定量変位可能に支持されている。これにより、第1ピストン21aは前進(第2ピストン21b側変位)時に第2ピストン21bに対して相対的に所定量だけ変位可能であるが、第1ピストン21aの前進状態から図2の初期状態に戻る後退時には、連結部材20を介して第2ピストン21bも初期位置まで引き戻されるようになっている。なお、各ピストン21a・21bは、それぞれに対応して設けられた各戻しばね27a・27bによりロッド19側にばね付勢されている。
【0027】
また、モータ駆動シリンダ13には、上記リザーバタンク16に連通路22を介してそれぞれ連通する各油路22a・22bが設けられている。各ピストン21a・21bには、各油路22a・22bとの間をシールするための公知構造のシール部材が各適所に設けられている。モータ駆動シリンダ13の筒内には、第1ピストン21aと第2ピストン21bとの間に第1液圧発生室23aが形成され、第2ピストン21bの第1ピストン21aとは相反する側に第2液圧発生室23bが形成されている。
【0028】
マスターシリンダ15の第1液室17aは油路としての配管42aを介して第1液圧発生室23aと接続され、マスターシリンダ15の第2液室17bは油路としての配管42bを介して第2液圧発生室23bと接続されている。配管42a上には遮断弁としての常時開型の電磁弁24aが設けられ、配管42b上にも遮断弁としての常時開型の電磁弁24bが設けられている。このように配管されていることにより、第1液圧発生室23aには、常時開状態の電磁弁24aを介してマスターシリンダ15の第1液室17aが連通し、第2液圧発生室23bには、常時開型の電磁弁24bを介してマスターシリンダ15の第2液室17bが連通する。なお、第1液室17aと電磁弁24aとの間にはマスターシリンダ側ブレーキ圧センサ25aが接続され、電磁弁24bと第2液圧発生室23bとの間にはモータ駆動シリンダ側ブレーキ圧センサ25bが接続されている。
【0029】
また、第2液室17bと電磁弁24bとの間には、常時閉型の電磁弁24cを介してシリンダ型のシミュレータ28が接続されている。シミュレータ28には、そのシリンダ内を分断するピストン28aが設けられ、ピストン28aの電磁弁24c側に貯液室28bが形成され、ピストン28aの貯液室28a側とは相反する側には圧縮コイルばね28cが受容されている。両電磁弁24a・24bが閉じかつ電磁弁24cが開くことにより、第2液室17bと貯液室28bとが連通し、その状態でブレーキペダル11を踏み込むと、第2液室17b内のブレーキ液が貯液室28bに入り込む。それにより圧縮される圧縮コイルばね28cの付勢力がブレーキペダル11に伝達されるため、公知のマスターシリンダとホイールシリンダとが直結されているブレーキ装置と同様の踏み込みに対する反力が得られる。
【0030】
さらに、モータ駆動シリンダ13の第1液圧発生室23aと第2液圧発生室23bとは、それぞれ配管42a・42b及び本実施形態における例えばVSA装置26を介して複数(図示例では4つ)の各ホイールシリンダ2b・3bと連通するように配管されている。なお、VSA装置26は、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS、加速時などの車輪空転を防ぐTCS(トラクションコントロールシステム)に、旋回時の横すべり抑制を加え、3つの機能をトータルにコントロールする車両挙動安定化制御システムとして公知のものであって良く、その説明を省略する。なおVSA装置26には、前輪の各ホイールシリンダ2bに対応する第1系統と、後輪の各ホイールシリンダ3bに対応する第2系統とをそれぞれ構成する各種の油圧素子を用いた各ブレーキアクチュエータ26bと、それらを制御するVSA制御ユニット26aとにより構成されている。
【0031】
このようにして構成されたブレーキ液圧発生装置8は、上記制御ユニット6により総合的に制御される。制御ユニット6には、ストロークセンサ11aと各ブレーキ圧センサ25a・25bとの各検出信号が入力し、また車両の挙動を検出するための各種センサ(図示せず)からの検出信号が入力し、さらに電動サーボモータ12のモータ回転角信号も入力している。
【0032】
制御ユニット6は、ストロークセンサ11aからの検出信号に基づき、かつ上記各種センサからの検出信号から判断した走行状況等に応じて、モータ駆動シリンダ13により発生するブレーキ液圧を制御する。さらに、本実施形態の対象車両となるハイブリッド車(または電気自動車)の場合には、モータ・ジェネレータによる回生制御を行うようにしており、制御ユニット6では、回生制御を行う場合の回生の大きさに対するモータ駆動シリンダ13によるブレーキ液圧の大きさの配分制御も行う。
【0033】
次に、本発明に基づく制御要領を図3のフローを参照して説明する。この制御は制御ユニット6のCPUを用いたプログラム処理であって良い。図に示されるように、先ずステップST1で、ブレーキペダル11がリリースされたか否かを判別し、リリースされていないと判定された場合にはステップST2に進む。なお、リリースされていない場合とはブレーキペダル11を踏み込んでいる場合であり、リリースされた場合とはブレーキペダル11を開放した場合であり、例えば待機位置に戻った状態であって良い。
【0034】
ステップST2ではタイマ(図示せず)をリセットし、次のステップST3では、閉弁駆動電圧Vcの算出を行う。この閉弁駆動電圧Vcは、図4(a)に示されるようにペダルストロークSpに関連付けたマップにより求めるものであって良い。図のマップによる閉弁駆動電圧Vcは、ペダルストロークSpが0からSp1に達するまでは0であり、Sp1でVc1となり、ペダルストロークがSp1からSp2に増大する領域では比例してVc1からVc2に増大し、ペダルストロークがSp2以上ではVc2の一定となる。なお、ペダルストロークSp1は、リザーバタンク16と連通する油路16aの第1液室17aに開口するポート16cを第1ピストン15aが閉じる位置に対応し、Sp2は油路16bの第2液室17bに開口するポート16dを第2ピストン15bが閉じる位置に対応する。このペダルストロークSp2がブレーキ圧の昇圧開始に相当するストロークである。また、電圧Vc2は電磁弁24a・24bを高温でも閉弁可能な電圧であり、電圧Vc1は常温(例えば20℃)で閉弁可能な電圧である。なお、マスターシリンダ15の液圧が電磁弁24a・24bの開弁方向に作用する場合、ペダルストロークSp1〜Sp2間でのマスターシリンダ15の液圧が立ち上がるようにするのが好ましい。これにより、電磁弁24a・24bが閉弁する場合にマスターシリンダ15の液圧が開弁方向に作用するため、電磁弁24a・24bの閉弁方向移動速度が減速され、着座時の消音効果が大となる。
【0035】
一方、ステップST1でブレーキペダル11がリリースされたと判定された場合にはステップST4に進む。ステップST4ではタイマを起動して経過時間の算出を行い、次のステップST5では、開弁駆動電圧Voの算出を行う。この開弁駆動電圧Voは、図4(b)に示されるようにタイマの経過時間に関連づけたマップにより求めるものであって良い。図のマップによる開弁駆動電圧Voは、タイマが開始時から時間T1までの間ではVc2で一定であり、時間T1から時間T2に至る間では時間経過に比例してVc2からVc1に減少し、時間T2以降では0となる。
【0036】
上記ステップST3またはステップST5の次にはステップST6に進み、そこで閉弁駆動電圧Vcが開弁駆動電圧Vo以上であるか否かを判別する。ステップST2・ST3に進んだ場合には、タイマリセットにより開弁駆動電圧VoがVc2であり、ペダルストロークSpの増大に伴って閉弁駆動電圧Vcが開弁駆動電圧Vo(=Vc2)未満ではステップST7に進む。一方、ステップST4・ST5に進んだ場合には、ペダルストロークSpがSp2以上から減少するが、タイマの算出開始時にはVcがVoより大きく、
ステップST8に進む。なお、ブレーキペダル11が戻しばねにより待機位置まで戻る時間よりもタイマの時間T1の方を長く設定しておくことにより、タイマの経過に応じて図4(b)から求まる開弁駆動電圧Voが閉弁駆動電圧Vc(=0)より大きくなるため、ステップST8を続行し得る。
【0037】
ステップST7では、弁駆動電圧Veを閉弁駆動電圧VcとしてステップST9に進む。またステップST8では弁駆動電圧Veを開弁駆動電圧VoとしてステップST9に進む。ステップST9では、弁駆動電圧Veにより電磁弁24a・24bを駆動制御し、本フローを終了する。
【0038】
マスターシリンダ15とホイールシリンダ2b・3b側とを遮断する電磁弁24a・24bの閉弁制御において、従来の弁駆動電圧は、図4(a)の二点鎖線で示されるように2値(0、Vc2)で階段状に変化させており、弁体の着座音が大きく、ノイズとなっていた。
【0039】
それに対して、ブレーキペダル11を踏み込んだ時に電磁弁24a・24bを開弁状態から閉弁する閉弁駆動電圧Vcが、ペダルストロークSpの増大に応じて上記した図4(a)のように0Vから一気に最大値の電圧Vc2に上昇するのではなく、中間の電圧Vc1から漸増して電圧Vc2に至るするように変化するため、弁体の弁座への着座音を低減し得るため、静音化できる。なお、電圧Vc1は例えば室温で閉弁可能な電圧に設定し、また電圧Vc2は高温(車両の使用範囲での想定温度)でも閉弁可能な電圧に設定すると良い。
【0040】
また、図4(b)に示されるように、ブレーキペダル11を踏み込み状態からリリースした時に電磁弁24a・24bを閉弁状態から開弁する開弁駆動電圧Voが、タイマの計時による時刻T1で二点鎖線で示されるように最大値の電圧Vc2から一気に0Vに減少するのではなく、時刻T1から減少して時刻T2で中間の電圧Vc1になるように漸減し、そして0Vになるように変化する。この時、モータ駆動シリンダ13のストロークを開弁方向電圧Voの減少に同期させて漸減するように構成してもよい。モータ駆動シリンダ13の液圧が閉弁方向に作用するので、開弁時の音を低減できる。
【0041】
この場合も、電磁弁24a・24bの開弁制御において、従来制御では、図4(b)の二点鎖線で示されるように弁駆動電圧をVc2から0Vへ一気に変化させており、戻しばねによる弁体の開弁位置側ストッパへの衝当音が大きく、作動音がノイズとなっていた。それに対して本発明によれば、開弁駆動電圧Voを上記したようにVc2からVc1まで時間経過(T1〜T2)に伴って漸減してから0Vにすることから、衝当音を低減することができ、それにより作動音を低減し得る。なお図の一点鎖線で示されるように、開弁駆動電圧Voを、時刻T1でVc1まで低下して、その後時刻T2に至るまで徐々に0Vまで漸減させるようにしても良い。
【0042】
また、上記各開閉弁駆動制御では各電磁弁24a・24bを同時に駆動する場合について示したが、それぞれを別々に制御するようにしても良い。例えば閉弁駆動電圧Vcの場合の例を、図4(a)に対応する図5を参照して説明する。なお、開弁制御の場合も同様に行うことができ、その説明は省略する。
【0043】
図5では、上記図4(a)と同じ実線で示されたものとは別に、閉弁駆動電圧Vcが、ペダルストロークSpがSp1とSp2との間のSp3になったらVc1となり、ペダルストロークSpがSp2より大きいSp4に至るまで上記と同じ変化率で増大してVc2に至り、それ以降はVc2となるように、一点鎖線で示された電圧変化のマップを設けている。この場合、両電磁弁24a・24bの駆動電圧供給において、いずれか一方を実線で、他方を一点鎖線で上記と同様に制御することができる。この場合のSp1とSp3とのずれは上記したように第1ピストン15aと第2ピストン15bとが各油路16a・16bの開口ポート16c・16dを閉じ始めるストロークの違いに対応し、Sp2とSp4とのずれは各ポート16c・16dを完全に閉じるストロークの違いに対応するとよい。
【0044】
このようにすることにより、複数の電磁弁(図示例では2つ)を駆動する場合に同時に駆動するのではなく、タイミングをずらして駆動することから、作動音を分散させることができ、より一層静音化を向上し得る。
【0045】
また、本発明に基づく弁制御回路の一例を図6のブロック図を参照して説明する。図6の回路は制御ユニット6に設けられて良く、またプログラムと組み合わせて処理されるものであって良い。
【0046】
図において、ストロークセンサ11aによるブレーキペダル11の検出値であるストロークSpが最大値判別部31に入力し、最大値判別部31では、ストロークSpが最大値Spfを超えている(Sp>Spf)か否かを判別する。なお、ブレーキペダル11が踏み込まれて、両電磁弁24a・24bが閉じた状態でシミュレータ28のピストン28aが底突きすると、マスターシリンダ15とシミュレータ28との間にブレーキ液が封止され、その状態ではストロークSpが制御の最大値Spfを超えた限界値(Spf+ΔSp)に達する。
【0047】
ストロークSpが制御の最大値Spfを超えていた場合には最大値判別部31から限界値(Spf+ΔSp)が定数出力部32に出力される。ストロークSpの限界では、モータ駆動シリンダ13側の液圧(ブレーキ圧センサ25bの圧力)は回生協調制動をしていなければ一定となるが、マスターシリンダ15側のブレーキ圧(ブレーキ圧センサ25aの圧力)はブレーキペダル11の踏力の増大に応じて増大するため、ストロークSpからマスターシリンダ15側のブレーキ圧は推定できない。定数出力部32は、その場合に電磁弁24a・24bの液圧封止性能を確保するのに十分な値である所定値Idを出力する。定数出力部32から出力される所定値Idはオア回路33の2入力の一方に入力する。
【0048】
ストロークSpが最大値Spf以下の場合には、ストロークセンサ11aで検出された値(ストロークSp)が開弁電流設定部34に入力する。開弁電流設定部34では、ストロークSpの大きさに対応して電磁弁24a・24bの開弁方向電流Ioを求める。例えば、ストロークSpに対して開弁方向電流Ioが比例変化(Io=a×Sp:aは係数)するストローク−開弁電流変換マップを用いることができる。この開弁電流設定部34の出力(開弁方向電流Io)は減算器35に減算値として入力する。
【0049】
一方、電動サーボモータ12のモータ回転角θ信号がモータ駆動シリンダストローク設定部36に入力しており、モータ駆動シリンダストローク設定部36では、モータ回転角θの大きさに対応してモータ駆動シリンダ13のシリンダストローク量Smを求める。このシリンダストローク量Smの設定には、上記と同様に、モータ回転角θに対してシリンダストローク量Smが比例変化(Sm=b×θ:bは係数)するモータ回転角−ストローク変換マップを用いることができる。このモータ駆動シリンダストローク設定部36の出力(シリンダストローク量Sm)は閉弁電流設定部37に入力する。
【0050】
閉弁電流設定部37では、シリンダストローク量Smの大きさに対応して電磁弁24a・24bの閉弁方向電流Icを求める。上記と同様に、シリンダストローク量Smに対して閉弁方向電流Icが比例変化(Ic=c×Sm:cは係数)するストローク−閉弁電流変換マップを用いることができる。この閉弁電流設定部37の出力(閉弁方向電流Ic)は上記した減算器35に加算値として入力する。なお、閉弁方向電流Icは、同様の閉弁力を電磁弁24a・24bで発生する場合の対応量である。
【0051】
減算器35では、開弁方向電流Ioから閉弁方向電流Icを減算した偏差ΔI(=Io−Ic)を閉弁維持補助電流設定部38に出力する。閉弁維持補助電流設定部38では、偏差ΔIに基づいて電磁弁24a・24bの閉弁状態を維持する補助力に相当する推力電流となる閉弁維持補助電流Isを求める。その閉弁維持補助電流Isは、偏差ΔIに対して比例変化(Is=d×ΔdI:dは係数)するが、偏差ΔIが小さい場合には一定の下限値となり、偏差ΔIが大きい場合には一定の上限値となるように設定された偏差−推力電流変換マップを用いて求める。閉弁維持補助電流設定部38の出力(閉弁維持補助電流Is)は上記オア回路33の2入力の他方に入力する。
【0052】
オア回路33の出力は、閉弁維持補助電流Isと定数出力部32の所定値Idとの大きい方が減算値として減算器39に入力する。その減算器39には、電源出力Wbが制限ゲイン回路40を介して設定された閉弁維持電流Ikが加算値として入力している。減算器39による結果が電磁弁24a・24bへの電流印加量の制御値Siとして電磁弁24a・24bを駆動制御する図示されない弁ドライブ回路に出力される。
【0053】
図7に本発明に基づく制御結果の一例を示す。図7の1段目に示されるようにブレーキペダル11の踏み込みが行われると、上記図4(a)に示されるように閉弁駆動電圧Vcが印加される。それにより図の3段目に示されるように電磁弁24a・24bを閉弁方向に駆動する弁駆動電流が漸増する。上記したように閉弁駆動電圧Vcを2段階に増大することから、弁駆動電流も一気に流れることはなく、閉弁時の弁体着座音による作動音が減少し、ノイズが抑制される。
【0054】
閉弁駆動電圧Vcの最大値Vc2に対応する最大電流Ic2になったら電磁弁24a・24bは全閉し、さらにペダルストロークSpの増大に応じて、図7の2段目に示されるようにマスターシリンダ15のブレーキ圧が上昇すると共に、図7の4段目に示されるようにモータ駆動シリンダ13のストロークが増大する。
【0055】
なお、電磁弁24a・24bが完全に閉弁した後の弁駆動電流は閉弁状態を維持し得る維持電流Ic1(<Ic2)を流すようにしてよく、図7の3段目では時刻T1から維持電流Ic1に低減している。また、例えば時刻T2から回生協調制御により回生制動が行われた場合には、図7の4段目に示されるようにモータ駆動シリンダ13のストロークを回生制動分に応じて低減する。
【0056】
そして、制動力を解除する場合には、ブレーキペダル11をリリースすることにより、戻しばねによりブレーキペダル11が待機位置に戻る。この場合には、マスターシリンダ15のブレーキ圧が十分低減するまでマスターシリンダ15側のブレーキ圧がホイールシリンダ2b・3bに加わらないように電磁弁24a・24bを確実に閉弁状態にするべく一旦弁駆動電流を最大値Ic2(駆動電圧Vc2)にし、その後弁駆動電流を低減する。この時、上記したように開弁駆動電圧Voを2段階に低減することから、弁駆動電流も一気に消失することはなく、開弁時の弁体衝当音による作動音が減少し、ノイズが抑制される。
【符号の説明】
【0057】
2b・3b ホイールシリンダ
6 制御ユニット(制御手段)
11 ブレーキペダル(操作部材)
11a 変位センサ(操作量検出手段)
13 モータ駆動シリンダ(液圧発生手段)
15 マスターシリンダ
24a・24b 電磁弁
42a・42b 配管(油路)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部材に機械的に連結され、液圧を発生するマスターシリンダと、
前記マスターシリンダに油路を介して接続されたホイールシリンダと、
前記油路上に設けられた常時開の電磁弁と、
前記操作部材の操作量を検出する操作量検出手段と、
前記油路の前記電磁弁と前記ホイールシリンダとの間に接続され、前記操作量に応じて前記油路にブレーキ液圧を供給する液圧発生手段と、
前記操作量に応じて前記電磁弁及び前記液圧発生手段を制御する制御手段とを有する車両用ブレーキ装置であって、
前記制御手段は、前記液圧を発生させる向きの前記操作量が検出された場合には前記電磁弁を全閉にし、前記液圧を消失させるに至る前記操作量が検出された場合には前記電磁弁を全開にすると共に、前記電磁弁を全開または全閉にする場合に前記電磁弁の駆動電圧を徐々に変化させる状態を含めて変化させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電磁弁への通電制御値を、前記操作量が所定値以上になりかつ前記液圧発生手段によるブレーキ液圧が所定値以上になった場合に前記電磁弁が閉弁状態を維持し得る値に低減することを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記電磁弁への通電制御値を、前記操作量が所定値以上になった場合には前記操作量及び前記液圧発生手段の作動量に基づいて制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記操作量が所定値以上になった場合の前記電磁弁への通電制御値を最大値より低い一定値にすることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記電磁弁が複数設けられ、
前記制御手段は、複数の前記電磁弁への各通電のタイミングを異ならせることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記電磁弁への通電制御値を、前記操作量が所定値を下回った場合に時間経過に応じて低減することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−206571(P2012−206571A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72895(P2011−72895)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】