説明

車両用ポップアップフード装置

【課題】フード後部側の持ち上げ量を増加させることができると共に、車体側構成部材に作用する車体上方側への荷重を抑制することができる車両用ポップアップフード装置を得る。
【解決手段】本車両用ポップアップフード装置では、フードヒンジのヒンジベース20が、ナット付リテーナ50を介してカウルトップサイド24に固定されている。このナット付リテーナ50には、ヒンジベース20に固定されたヒンジ側固定部50Bと、カウルトップサイド24に固定された前後一対の車体側固定部50Aとの間に、それぞれ余長部50Cが設けられている。これらの余長部50Cは、ヒンジベース20に対して車体上方側へ向いた荷重が作用した際に伸張される。これにより、カウルトップサイド24に対するヒンジベース20の車体上方側への相対変位が許容される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ポップアップフード装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に示された車両用フード装置では、フードの後部がリンク機構を備えたヒンジ手段を介して車体フレームに連結されている。そして、車両が障害物に衝突した際には、アクチュエータによってフードの後部を持ち上げると共に、当該持ち上げに伴ってリンク機構を伸張させる。これにより、フード後部の持ち上げ量を増加させてフードの変形量を確保し、衝撃吸収量を増加させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−029368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記構成の車両用フード装置では、アクチュエータによるフード後部の持ち上げに伴ってリンク機構が完全に伸張すると、このリンク機構と車体フレームとを連結した下部ブラケット(ヒンジベース)を介して車体フレームに車体上方側へ向いた荷重が作用する。このため、この荷重によって車体フレームが変形する虞があるが、車体フレーム(車体側構成部材)が永久変形してしまうと、車体の修理にコストがかかる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、フード後部側の持ち上げ量を増加させることができると共に、車体側構成部材に作用する車体上方側への荷重を抑制することができる車両用ポップアップフード装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置は、車体側構成部材に固定されたヒンジベースを介してフードの後部側を車体側に開閉可能に支持したフードヒンジと、前記フードの後部側を車体上方側へ持ち上げるアクチュエータと、前記ヒンジベースと前記車体側構成部材との間に設けられ、前記持ち上げ時に前記ヒンジベースが前記車体側構成部材に対して車体上方側へ相対変位することを許容する相対変位許容手段と、を備えている。
【0007】
請求項1に記載の車両用ポップアップフード装置では、フードの後部側がアクチュエータによって車体上方側へ持ち上げられると、ヒンジベースには車体上方側へ向いた荷重が入力される。このとき、相対変位許容手段が車体側構成部材に対するヒンジベースの車体上方側への相対変位を許容する。これにより、フード後部側の持ち上げ量を増加させることができる。しかも、ヒンジベースと車体側構成部材との間に設けられた相対変位許容手段によってヒンジベースの車体側構成部材に対する相対変位が許容されるため、車体側構成部材に作用する車体上方側への荷重を抑制することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置は、請求項1に記載の車両用ポップアップフード装置において、前記相対変位許容手段は、前記ヒンジベース及び前記車体側構成部材に固定されると共に、前記持ち上げ時に変形する変形可能部を備えたヒンジ固定用部材とされていることを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の車両用ポップアップフード装置では、フード後部側の持ち上げに伴ってヒンジベースに車体上方側へ向いた荷重が入力されると、ヒンジベースと車体側構成部材との間に設けられて両者に固定されたヒンジ固定用部材の変形可能部が変形する。これにより、ヒンジベースを車体上方側へ変位させることができると共に、車体側構成部材に作用する車体上方側への荷重を抑制することができる。したがって、相対変位許容手段を簡単な構成にすることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置は、請求項2に記載の車両用ポップアップフード装置において、前記変形可能部は、前記ヒンジ固定用部材の一部が膨出することで形成され、前記持ち上げ時に当該持ち上げ方向へ伸ばされる余長部とされていることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置では、フード後部側の持ち上げに伴って、ヒンジベースを介してヒンジ固定用部材に車体上方側へ向いた荷重が入力されると、ヒンジ固定用部材に設けられた余長部が伸ばされる。これにより、ヒンジベースを車体側構成部材に対して車体上方側へ相対変位させることができるので、ヒンジ固定用部材の変形可能部を簡単な構成にすることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置は、請求項3に記載の車両用ポップアップフード装置において、前記ヒンジ固定用部材には、前記車体側構成部材に固定された一対の車体側固定部が両端側に設けられると共に、前記ヒンジベースに固定されたヒンジ側固定部が中央部に設けられ、前記一対の車体側固定部と前記ヒンジ側固定部との間に前記余長部がそれぞれ設けられていることを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載の車両用ポップアップフード装置では、フード後部側の持ち上げに伴って、ヒンジベースを介してヒンジ固定用部材のヒンジ側固定部に車体上方側へ向いた荷重が入力されると、ヒンジ固定用部材のヒンジ側固定部と一対の車体側固定部との間に設けられた一対の余長部が伸ばされる。これにより、ヒンジ側固定部がヒンジベースと共に一対の車体側固定部(すなわち車体側構成部材)に対して車体上方側へ相対変位する。このように、ヒンジ側固定部と一対の車体側固定部との間(すなわちヒンジ側固定部の両端側)に設けられた一対の余長部が伸ばされることによりヒンジベースが車体側構成部材に対して相対変位するため、相対変位時及び相対変位後のヒンジベースの姿勢を安定させることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置は、請求項2〜請求項4の何れか1項に記載の車両用ポップアップフード装置において、前記車体側構成部材は、開口が形成された上壁を有し、前記ヒンジ固定用部材は、前記開口の一側から他側に掛け渡されていることを特徴としている。
【0015】
請求項5に記載の車両用ポップアップフード装置では、車体側構成部材の上壁に形成された開口の一側から他側にヒンジ固定用部材が掛け渡されている。これにより、車体側構成部材の上壁と同等の高さにヒンジ固定用部材を配置させることができるため、ヒンジベースの配置が不要に高くなることを回避できる。したがって、ヒンジベースの配置が高くなることにより車体の意匠に制約が生じること等を回避できる。
【0016】
請求項6に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置は、請求項2〜請求項5の何れか1項に記載の車両用ポップアップフード装置において、前記車体側構成部材は、上壁を有する本体と、前記上壁の下方側に配置されて前記本体に取り付けられた補助部材とを有し、前記補助部材と前記ヒンジ固定用部材との間に前記上壁が挟まされた状態で前記ヒンジ固定用部材と前記補助部材とが締結されていることを特徴としている。
【0017】
請求項6に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置では、車体側構成部材の本体に接合された補助部材とヒンジ固定用部材との間に、車体側構成部材の本体の上壁が挟まれた状態でヒンジ固定用部材と補助部材とが締結されている。これにより、ヒンジ固定用部材の締結部において車体側構成部材の本体の上壁が補助部材により補強されるため、ヒンジ固定用部材を介して入力される車体上方側への荷重によって車体側構成部材の本体の上壁が変形することを抑制できる。
【0018】
請求項7に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置は、請求項2〜請求項6の何れか1項に記載の車両用ポップアップフード装置において、前記車体側構成部材は、前記ヒンジ固定用部材を側方から支持する支持部を有することを特徴としている。
【0019】
請求項7に記載の車両用ポップアップフード装置では、車体側構成部材に設けられた支持部によってヒンジ固定用部材が側方から支持されるため、ヒンジ固定用部材及びヒンジベース等を介して車体側構成部材に支持されるフード後部側の通常時の支持剛性を良好にすることができる。
【0020】
請求項8に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置は、請求項7に記載の車両用ポップアップフード装置において、前記ヒンジ固定用部材の側部には、前記支持部が嵌合する嵌合部が設けられていることを特徴としている。
【0021】
請求項8に記載の車両用ポップアップフード装置では、ヒンジ固定用部材の側部に設けられた嵌合部に、車体側構成部材の支持部を嵌合させることにより、車体側構成部材に対してヒンジ固定用部材を位置決めすることができる。これにより、ヒンジ固定用部材にヒンジベースが固定されるフードヒンジや、当該フードヒンジを介して車体側に支持されるフードなどを、車体に対して良好に位置決めすることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、請求項1に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置では、フード後部側の持ち上げ量を増加させることができると共に、車体側構成部材に作用する車体上方側への荷重を抑制することができる。
【0023】
請求項2に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置では、相対変位許容手段を簡単な構成にすることができる。
【0024】
請求項3に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置では、ヒンジ固定用部材の変形可能部を簡単な構成にすることができる。
【0025】
請求項4に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置では、車体側構成部材に対する相対変位時及び相対変位後のヒンジベースの姿勢を安定させることができる。
【0026】
請求項5に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置では、ヒンジベースの配置が不要に高くなることを回避でき、車体の意匠に制約が生じること等を回避できる。
【0027】
請求項6に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置では、ヒンジ固定用部材を介して入力される車体上方側への荷重によって車体側構成部材の本体の上壁が変形することを抑制できる。
【0028】
請求項7に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置では、ヒンジ固定用部材及びヒンジベースを介して車体側構成部材に支持されるフード後部側の通常時の支持剛性を良好にすることができる。
【0029】
請求項8に記載の発明に係る車両用ポップアップフード装置では、ヒンジベースやフードなどを、車体に対して良好に位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用ポップアップフード装置を含む車体前部の部分的な構成を車体左側から見た状態で示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用ポップアップフード装置の構成部材であるヒンジベース、ナット付リテーナ、及びカウルトップサイドの構成を示す分解斜視図である。
【図3】図2の3−3線に沿って切断した切断面を示す縦断面図である。
【図4】図2の4−4線に沿って切断した切断面を示す縦断面図である。
【図5】図2に対応した縦断面図であり、ナット付リテーナの余長部が伸ばされてヒンジベースがカウルトップサイドに対して車体上方側へ相対変位した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図1〜図5を用いて、本発明の実施形態に係る車両用ポップアップフード装置10について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車体前方側を示し、矢印UPは車体上方側を示し、矢印INは車体幅方向内側を示している。
【0032】
図1(A)及び図1(B)には、本実施形態に係る車両用ポップアップフード装置10を含む車体前部の部分的な構成が車体左側から見た概略図にて示されている。本車両用ポップアップフード装置10は、エンジンルームを開閉するフード12の後部側に配設されたポップアップ機構部14を主要部として構成されている。なお、ポップアップ機構部14は、フード12の後部側の両サイドにそれぞれ配設されているが、図1(A)及び図1(B)では説明の都合上、車体右側に配置されたポップアップ機構部14のみが図示されている。
【0033】
ポップアップ機構部14は、フード12を開閉可能に支持するフードヒンジ16と、歩行者等の衝突体が車両に衝突した際などに作動するアクチュエータ18とによって構成されている。フードヒンジ16は、フード12の後部側の下方側に配置されており、ヒンジベース20及びヒンジアーム22を備えている。
【0034】
ヒンジベース20は、図2及び図3に示されるように、車体前後方向視で略L字状に形成されており、車体前後方向に沿って延在する狭幅板状の取付部20Aと、取付部20Aの車幅方向内側の端部から車体上方側へ屈曲されかつ側面視で略二等辺三角形状に形成された連結部20Bとによって構成されている。取付部20Aは、フード12の後端側とウインドシールドガラスの下端部との間に車幅方向に沿って延在するカウルの両サイドに設けられた車体側構成部材であるカウルトップサイド24に、後述するナット付リテーナ50(ヒンジ固定用部材)を介して固定されている。
【0035】
一方、図1(A)及び図1(B)に示されるように、ヒンジアーム22は、車体前後方向に沿って延在する長尺状の部材であり、ヒンジアーム22の後端部は、ヒンジピン26によってヒンジベース20の連結部20Bの上端側にヒンジ結合されている。したがって、ヒンジアーム22は、ヒンジピン26を回転中心として車体上下方向へ回動可能とされている。このヒンジアーム22の長手方向中間部には、脆弱部22Aが設けられている。この脆弱部22Aには、例えば切欠などが形成されており、脆弱部22Aは、ヒンジアーム22の他の部位よりも脆弱に形成されている。
【0036】
また、ヒンジアーム22の前端部は、フード12の後端部に図示しないボルト及びナットによって締結されている。これにより、フード12の後端側がフードヒンジ16及び後述するナット付リテーナ50を介してカウルトップサイド24に回動可能に連結されており、フード12は、図1(A)に実線で示される閉位置と、図1(A)に二点鎖線で示される開位置との間で車体に対して回動可能とされている。
【0037】
なお、フード12が上記閉位置に配置された状態では、フード12の前端部に取り付けられたストライカ28が、ラジエータサポート30の上端側に取り付けられたフードロック装置32に係止されることにより、フード12が閉位置に拘束される。
【0038】
一方、アクチュエータ18は、フードヒンジ16の車体前方側に配置されている。このアクチュエータ18は、図示しないブラケットを介してカウルトップサイド24の側部(図2及び図3に示される車幅方向内側壁38B)に固定されたハウジング34を備えている。ハウジング34の内部には、ガス発生剤で構成されたガス発生手段と、ガス発生剤を燃焼させてハウジング34内にガスを発生させる点火装置と、ハウジング34内に発生したガスの圧力によってハウジング34の上端部から車体上方側へ向けて突出するロッド36とが設けられている。
【0039】
ロッド36の先端部は、フード12が閉じ位置に配置された状態で、ヒンジアーム22の前端部の下面に対向するように配置されており、上述の如くロッド36がハウジング34の上端部から車体上方側へ突出することにより、ヒンジアーム22の前端部すなわちフード12の後端側がロッド36によって車体上方側へ持ち上げられるようになっている。
【0040】
上記アクチュエータ18を作動させる点火装置は、コンソールボックスの下方等に配設された図示しないECU(制御手段)と接続されている。ECUは、フロントバンパ等に配設されて歩行者等の衝突体との衝突を検知又は予知する衝突検出センサ(衝突検出手段)と接続されている。
【0041】
なお、上記アクチュエータ18の代わりに、高圧ガス封入タイプのアクチュエータを採用することもできる。この場合、点火装置が作動することにより隔壁が破断等されることにより所定量のガスがハウジング34内に発生する。また、プリクラッシュセンサを搭載している場合には、前面衝突が予知された段階で上記の作動となる。
【0042】
一方、図2及び図3に示されるように、前述したカウルトップサイド24は、カウルトップサイド本体38と、パッチ40(補助部材)とによって構成されている。カウルトップサイド本体38は、上壁38A、車幅方向内側壁38B、及び車幅方向外側壁38Cを備え、車体前後方向視で車体下方側が開口した開断面形状(断面コ字状)に形成されている。また、パッチ40は、カウルトップサイド本体38の上壁38Aの下方側で車幅方向内側壁38Bと車幅方向外側壁38Cとの間に配置されている。このパッチ40は、車体前後方向に沿って延在する左右一対の前後延在部40Aと、左右一対の前後延在部40Aの前端部及び後端部を車幅方向に連結した前後一対の左右延在部40Bとを備えており、略枠状に形成されている。
【0043】
左右一対の前後延在部40Aの長手方向中央部には、それぞれ接合部40Cが設けられている。右側(車幅方向外側)の前後延在部40Aに設けられた接合部40Cは、車幅方向外側へ向けて突出すると共に、先端側が車体下方側へ屈曲されてカウルトップサイド本体38の車幅方向外側壁38Cにスポット溶接により接合されている。また、左側(車幅方向内側)の前後延在部40Aに設けられた接合部40Cは、車幅方向内側へ向けて突出すると共に、先端側が車体下方側へ屈曲されてカウルトップサイド本体38の車幅方向内側壁38Bにスポット溶接により接合されている。
【0044】
さらに、左右一対の前後延在部40Aの長手方向中央部には、各接合部40Cと反対側において、それぞれ支持部40Dが設けられている。右側の前後延在部40Aに設けられた支持部40Dは、車幅方向内側へ向けて突出しており、左側の前後延在部40Aに設けられた支持部40Dは、車幅方向外側へ向けて突出している。これらの支持部40Dは、先端側が車体上方側へ向けて屈曲されており、互いに車幅方向に対向している。
【0045】
一方、前後一対の左右延在部40Bは、各中央部が車体上方側へ断面コ字状に膨出しており、これらの膨出部分の頂壁部は、締結部40B1とされている。前側の締結部40B1は、車体前方側へ延出されており、後側の締結部40B1は、車体後方側へ延出されている。これらの締結部40B1は、図4に示されるように、各上面がカウルトップサイド本体38の上壁38Aの下面に当接しており、各締結部40B1の各下面には、それぞれウェルドナット42が溶着されている。各ウェルドナット42の内周部は、各締結部40B1に形成された円孔44及びカウルトップサイド本体38の上壁38Aに形成された前後一対の円孔46と同心状に配置されている。
【0046】
これらの円孔46の間において、カウルトップサイド本体38の上壁38Aには、開口48が形成されている。この開口48は、長手方向が車体前後方向に沿った長尺矩形状に形成されており、ヒンジ固定用部材としてのナット付リテーナ50に対応している。
【0047】
ナット付リテーナ50は、板金材料によって長尺状に形成されたものであり、長手方向が車体前後方向に沿う状態で配置されている。このナット付リテーナ50の長手方向両端部は、車体側固定部50Aとされている。前側の車体側固定部50Aは、開口48の車体前方側で上壁38Aの上面に当接しており、後側の車体側固定部50Aは、開口48の車体後方側で上壁38Aの上面に当接している。
【0048】
各車体側固定部50Aには、それぞれ円孔52が形成されており、これらの円孔52及び前述した円孔44、46を貫通した前後一対のボルト54が各締結部40B1のウェルドナット42に螺合している。これにより、ナット付リテーナ50は、車体側固定部50Aとパッチ40の締結部40B1との間にカウルトップサイド本体38の上壁38Aを挟んだ状態で、パッチ40の締結部40B1に締結されており、開口48の前側から後側に掛け渡されている。
【0049】
開口48に対向して(跨って)配置されたナット付リテーナ50の長手方向中央部には、ヒンジ側固定部50Bが設けられている。ヒンジ側固定部50Bの下面には、前後一対のウェルドナット56が溶着されている。これらのウェルドナット56の内周部は、ヒンジ側固定部50Bに形成された前後一対の円孔58と同心状に配置されている。
【0050】
ヒンジ側固定部50Bの上面には、前述したヒンジベース20の取付部20Aの下面が当接しており、当該取付部20Aに形成された前後一対の円孔21及び上記各円孔58を貫通した前後一対のボルト60がヒンジ側固定部50Bの各ウェルドナット56に螺合することによって取付部20Aがヒンジ側固定部50Bに締結(固定)されている。これにより、ヒンジベース20がナット付リテーナ50を介してカウルトップサイド本体38に固定されている。
【0051】
ヒンジ側固定部50Bの車幅方向両端部(両側部)からは、車体下方側へ向けて側壁部50B1が延出されている。車幅方向外側の側壁部50B1は、下端側が車幅方向内側へ向けて略水平に屈曲されており、これらの略水平部分の車体前後方向中央部には、それぞれ切欠62が形成されている。これらの切欠62には、前述したパッチ40の左右一対の支持部40Dが嵌合しており、これにより、ナット付リテーナ50が各支持部40Dによって左右から(側方から)支持されている。
【0052】
さらに、このナット付リテーナ50では、前後一対の車体側固定部50Aとヒンジ側固定部50Bとの間において、前後一対の余長部50C(変形可能部)が設けられている。これらの余長部50Cは、ナット付リテーナ50の一部が車体下方側へ断面略U字状に膨出することにより形成されたものであり、図4に示されるように、開口48を介してカウルトップサイド本体38の内側へ突出している。
【0053】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0054】
図1(A)に実線で示される状態が車両用ポップアップフード装置10の非作動状態である。この状態のときには、アクチュエータ18が非作動状態にあるため、ロッド36はアクチュエータ18のハウジング34内に収容された状態にある。この状態から、車両が歩行者等の衝突体と前面衝突すると、図示しない衝突検知手段によって衝突体と前面衝突したことが検知され、図示しないECUに衝突信号が出力される。
【0055】
ECUでは、入力された衝突信号に基づいて車両用ポップアップフード装置10を作動させるべきか否かを判断し、車両用ポップアップフード装置10を作動させるべきと判断すると、アクチュエータ18に作動信号が出力される。これにより、アクチュエータ18が作動すると、図1(B)に示されるように、ハウジング34の上端部からロッド36が突出し、ヒンジアーム22の前端部すなわちフード12の後部側がロッド36によって車体上方側へ持ち上げられる。これにより、フード12からエンジンルーム内に収容されたエンジン等の機器(図示省略)までの距離が大きくなり、フード12が下向きに変形するためのスペースが拡大される。したがって、この状態でフード12に対し上方側から衝突体が衝突すると、フード12が下向きに大きく変形することにより、衝突体の衝突エネルギーが吸収され、衝突体への入力荷重(反力)が低減される。
【0056】
ここで、上述の如くフード12の後部側が持ち上げられる際には、通常のフード開閉時には発生しない荷重が発生する。つまり、(1)ヒンジアーム22が脆弱部22Aにおいて折れ曲がり、(2)フードロック装置32を介してラジエータサポート30に車体後方側へ向いた荷重が入力され、(3)ヒンジアーム22を介してヒンジベース20に車体上方側へ向いた荷重が入力される。
【0057】
このとき、本実施形態では、フードヒンジ16とカウルトップサイド24との間に設けられたナット付リテーナ50の余長部50Cが、上記(3)の荷重(図5の矢印F参照)によって車体上方側(フード12の持ち上げ方向)へ伸ばされることにより、フードヒンジ16がカウルトップサイド24に対して相対的に車体上方側へ変位する(図5図示状態)。これにより、フード12の後部側を持ち上げる際の抵抗が低減すると共に、フード12の後部側の持ち上げ量(ポップアップ量)が増加する。これにより、フード12が下向きに変形するためのスペースを更に拡大することができるので、衝撃エネルギーの吸収量を増加させることができ、衝突体保護性能を更に向上させることができる。
【0058】
しかも、本実施形態では、アクチュエータの作動時にヒンジベース20に入力される車体上方側への荷重によってナット付リテーナ50を積極的に変形させることにより、ヒンジベース20をカウルトップサイド24に対して車体上方側へ相対変位させるため、ヒンジベース20を介してカウルトップサイド24に作用する車体上方側への荷重を大幅に低減することができる。これにより、カウルトップサイド24の変形を抑制することができるため、カウルトップサイド24が永久変形する防止できる。したがって、カウルトップサイド24が永久変形することにより車体の修理コストが増加することを回避できる。
【0059】
また、単なる余長部50C(変形可能部)が設けられたナット付リテーナ50をヒンジベース20とカウルトップサイド24との間に介在させるだけでよいため、極めて簡単な構成でカウルトップサイド24に対するフードヒンジ16の相対変位を許容することができる。したがって、車両の製造コストが増加することを抑制できる。
【0060】
さらに、本実施形態では、ヒンジ側固定部50Bと一対の車体側固定部50Aとの間、すなわちヒンジ側固定部50Bの両端側に設けられた一対の余長部50Cが伸ばされることによりヒンジベース20がカウルトップサイド24に対して相対変位するため、相対変位時及び相対変位後のフードヒンジ16の姿勢を安定させることができる。
【0061】
また、本実施形態では、カウルトップサイド本体38に接合されたパッチ40と、ナット付リテーナ50の車体側固定部50Aと間に、カウルトップサイド本体38の上壁38Aが挟まれた状態でナット付リテーナ50とパッチ40とが締結されている。これにより、当該締結部においてカウルトップサイド本体38の上壁38Aがパッチ40により補強されるため、ナット付リテーナ50を介して入力される車体上方側への荷重Fによってカウルトップサイド本体38の上壁38Aが変形することを一層良好に抑制できる。
【0062】
また、本実施形態では、ナット付リテーナ50がカウルトップサイド24の上壁38Aに形成された開口48の前側から後側に掛け渡されており、カウルトップサイド24の上壁38Aと同等の高さにナット付リテーナ50が配置されている。したがって、ナット付リテーナ50に固定されたヒンジベース20の配置が高くなることにより車体の意匠に制約が生じること等を回避できる。
【0063】
また、本実施形態では、カウルトップサイド24が左右一対の支持部40Dを備えており、これらの支持部40Dによってナット付リテーナ50が左右両側から支持されている。したがって、ナット付リテーナ50及びフードヒンジ16を介してカウルトップサイド24に支持されるフード12の後部側の通常時の支持剛性を良好にすることができる。
【0064】
さらに、本実施形態では、車両の製造時には、ナット付リテーナ50の側部に設けられた切欠62に、パッチ40の支持部40Dを嵌合させることにより、カウルトップサイド24に対してナット付リテーナ50を位置決めすることができる。これにより、ナット付リテーナ50にヒンジベース20が固定されるフードヒンジ16や、当該フードヒンジ16を介してカウルトップサイド24に連結されるフード12を、車体に対して良好に位置決めすることができる。
【0065】
なお、上記実施形態では、ナット付リテーナ50の側部に形成された切欠62(嵌合部)に、パッチ40に設けられた支持部40Dを嵌合させる構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、例えば、ナット付リテーナ50の側部にスリット状の長孔(嵌合部)を形成し、この長孔に支持部40Dを嵌合させる構成にしてもよい。また、嵌合部が省略された構成にしてもよい。
【0066】
さらに、上記実施形態では、カウルトップサイド24のパッチ40が支持部40Dを備えた構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、支持部40Dが省略された構成にしてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、カウルトップサイド24がパッチ40を備えた構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、パッチ40が省略された構成にしてもよい。この場合、カウルトップサイド本体38に直接ウェルドナット42を溶着することや、カウルトップサイド本体38に支持部40Dを設けることができる。
【0068】
さらに、上記実施形態では、カウルトップサイド24の上壁38Aに開口48が形成された構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、開口48が省略された構成にしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、ナット付リテーナ50(ヒンジ固定用部材)が、一対の車体側固定部50A、一対の余長部50C、及びヒンジ側固定部を備えた構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、ヒンジ固定用部材の構成は適宜変更することができる。
【0070】
さらに、上記実施形態では、一対の余長部50C(変形可能部)を備えたナット付リテーナ50(ヒンジ固定用部材)によって、カウルトップサイド24(車体側構成部材)に対するヒンジベース20の相対変位が許容される構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、例えば、車体側構成部材とヒンジベースとがスライド機構を介して相対変位可能に連結された構成にしてもよい。この場合、通常時は車体側構成部材に対するヒンジベースの相対変位を規制する規制手段(例えば、シェアピン等)を設け、ヒンジベースに対して車体上方側への荷重が作用した際には、上記規制手段による規制を解除する(例えば、上記シェアピンを破断させる)ことにより、車体側構成部材に対するヒンジベースの相対変位を許容することができる。
【0071】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0072】
10 車両用ポップアップフード装置
12 フード
16 フードヒンジ
18 アクチュエータ
20 ヒンジベース
24 カウルトップサイド(車体側構成部材)
38 カウルトップサイド本体(本体)
38A 上壁
40 パッチ(補助部材)
40D 支持部
48 開口
50 ナット付リテーナ(ヒンジ固定用部材、相対変位許容手段)
50A 車体側固定部
50B ヒンジ側固定部
50C 余長部(変形可能部)
62 切欠(嵌合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側構成部材に固定されたヒンジベースを介してフードの後部側を車体側に開閉可能に支持したフードヒンジと、
前記フードの後部側を車体上方側へ持ち上げるアクチュエータと、
前記ヒンジベースと前記車体側構成部材との間に設けられ、前記持ち上げ時に前記ヒンジベースが前記車体側構成部材に対して車体上方側へ相対変位することを許容する相対変位許容手段と、
を備えた車両用ポップアップフード装置。
【請求項2】
前記相対変位許容手段は、前記ヒンジベース及び前記車体側構成部材に固定されると共に、前記持ち上げ時に変形する変形可能部を備えたヒンジ固定用部材とされていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ポップアップフード装置。
【請求項3】
前記変形可能部は、前記ヒンジ固定用部材の一部が膨出することで形成され、前記持ち上げ時に当該持ち上げ方向へ伸ばされる余長部とされていることを特徴とする請求項2に記載の車両用ポップアップフード装置。
【請求項4】
前記ヒンジ固定用部材には、前記車体側構成部材に固定された一対の車体側固定部が両端側に設けられると共に、前記ヒンジベースに固定されたヒンジ側固定部が中央部に設けられ、前記一対の車体側固定部と前記ヒンジ側固定部との間に前記余長部がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項3に記載の車両用ポップアップフード装置。
【請求項5】
前記車体側構成部材は、開口が形成された上壁を有し、前記ヒンジ固定用部材は、前記開口の一側から他側に掛け渡されていることを特徴とする請求項2〜請求項4の何れか1項に記載の車両用ポップアップフード装置。
【請求項6】
前記車体側構成部材は、上壁を有する本体と、前記上壁の下方側に配置されて前記本体に取り付けられた補助部材とを有し、前記補助部材と前記ヒンジ固定用部材との間に前記上壁が挟まされた状態で前記ヒンジ固定用部材と前記補助部材とが締結されていることを特徴とする請求項2〜請求項5の何れか1項に記載の車両用ポップアップフード装置。
【請求項7】
前記車体側構成部材は、前記ヒンジ固定用部材を側方から支持する支持部を有することを特徴とする請求項2〜請求項6の何れか1項に記載の車両用ポップアップフード装置。
【請求項8】
前記ヒンジ固定用部材の側部には、前記支持部が嵌合する嵌合部が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の車両用ポップアップフード装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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