説明

車両用冷却システム

【課題】暖機性能の確保と空調性能向上の両立を図る車両用冷却システムを提供する。
【解決手段】車両用冷却システム1は、エンジン40を冷却する冷却水が循環する第1冷却水回路2と、第1冷却水回路2の冷却水よりも低温となる低温冷却水が循環する第2冷却水回路20と、循環する冷媒の状態を制御して車室内の空調を行う冷凍サイクル30と、を備える。さらに当該システムは、冷凍サイクル30における高圧側通路の一部に冷媒熱交換流路32aを有し、冷媒熱交換流路32aを流通する冷媒との間で熱交換される冷却水が流れる水熱交換流路32bを有する水・冷媒熱交換器32と、第1冷却水回路2の冷却水および第2冷却水回路20の低温冷却水のいずれかを水熱交換流路32bに流入させるように、水熱交換流路32bに接続する回路を切り替える切替弁9と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン冷却水と車室内空調用冷凍サイクルの冷媒との間で熱交換を行う車両用冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用冷却システムとして、エンジンを通過した冷却水をラジエータで冷却し、再度エンジンに戻す単一の冷却水回路と、空調用の冷凍サイクルと、冷却水回路の水流路と冷凍サイクルの冷媒流路との間で熱交換を行う2重管熱交換器と、備えたシステムが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の従来のシステムは、圧縮機から吐出された高圧冷媒を2重管熱交換器に流して冷却水を加熱する暖機モードと、高圧冷媒を2重管熱交換器に流して冷却水に冷媒の熱を放出することにより冷媒が冷却される冷房モードと、を実行することができる。このようなモードを有することにより、例えば、暖機時に暖機モードを行うと、高圧冷媒の熱によって冷却水を加熱して暖機運転を実施することができ、暖機運転を必要しない通常走行時に冷房モードを行うと、高圧冷媒を冷却することができる。
【特許文献1】特開2005−96563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の技術では、冷媒との間で熱交換される流体がエンジンを流通する高温の冷却水であるため、高温の冷媒を十分に冷却する吸熱効果が得られず、冷凍サイクルの効率を高めることができない。したがって、空調性能の向上しろはすくなく、十分な効果が得られず、さらに冷却システム全体としての性能向上が図れないという問題があった。
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、暖機性能の確保と空調性能向上の両立を図る車両用冷却システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。請求項1に記載の車両用冷却システムの発明は、車両のエンジン(40)に接続されてエンジンを冷却する冷却水が循環する第1冷却水回路(2)と、第1冷却水回路に設けられ、冷却水と熱交換する空気が通過する第1空気流路を有して冷却水を冷却する第1ラジエータ(7)と、第1冷却水回路の冷却水よりも低温となる低温冷却水が循環する第2冷却水回路(20)と、第2冷却水回路に設けられ、低温冷却水と熱交換する空気が通過する第2空気流路を有して低温冷却水を冷却する第2ラジエータ(21)と、循環する冷媒の状態を制御して車室内の空調を行う冷凍サイクル(30)と、冷凍サイクルにおける高圧側通路の一部に冷媒熱交換流路(32a)を有し、冷媒熱交換流路を流通する冷媒との間で熱交換される冷却水が流れる水熱交換流路(32b)を有する水・冷媒熱交換器(32)と、第1冷却水回路の冷却水および第2冷却水回路の低温冷却水のいずれかを水熱交換流路に流入させるように、水熱交換流路に接続する回路を切り替える流路切替手段(9)と、を備えることを特徴とする。
【0006】
この発明によれば、流路切替手段によって、水・冷媒熱交換器の水熱交換流路に流入させる冷却水の回路を切り替えることが可能なため、第1冷却水回路の冷却水を加熱する必要がある場合には冷凍サイクルの高圧側冷媒の熱を吸熱して水温を上昇させることができる。一方、当該冷却水を加熱する必要がない場合には、当該高圧側冷媒の熱を第2冷却水回路の低温冷却水によって放熱させることができるので、より低温の冷却水を用いて、冷凍サイクルの高圧側冷媒の冷却を実施できる。これにより、従来の車両用冷却システムによる冷媒の冷却技術に対して、顕著な冷却効果が得られるので、暖機性能の確保に加え、さらに空調性能の向上が図れる車両用冷却システムを提供できる。また、高圧側冷媒の効果的な冷却により、凝縮器での放熱を十分に助けることができるため、冷凍サイクルの効率が向上するとともに、凝縮器の小型化が実施できる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明では、流路切替手段は、暖機運転を必要としない車両走行時には、第2冷却水回路の低温冷却水を水熱交換流路に流入させるように回路を切り替えることが好ましい。この発明によれば、暖機運転が不要な走行時には第1冷却水回路の冷却水を加熱せず、冷凍サイクルの高圧側冷媒の熱を第2冷却水回路の低温冷却水によって放熱させ、高圧側冷媒を冷却する。これにより、より低温の冷却水を用いた高圧冷媒の冷却が実施されるため、走行負荷が小さい状態での空調性能を一層高めることができる。
【0008】
また、請求項3に記載の車両用冷却システムは、車両の排ガスの熱を使用して第1冷却水回路の冷却水を加熱する排熱回収装置(41)を備えることを特徴とする。この発明によれば、排ガスの回収熱を第1冷却水回路の冷却水に与えることにより、冷凍サイクルの冷媒熱に加えてさらに冷却水を加熱することができ、加熱実施時間を低減できる。
【0009】
また、請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の車両用冷却システムにおいて、流路切替手段は、暖機時には第1冷却水回路の冷却水を前記水熱交換流路に流入させるように回路を切り替え、さらに排熱回収装置によって第1冷却水回路の冷却水を加熱することを特徴とする。この発明によれば、早期の暖機運転(暖機時間の短縮化)が可能になり、暖機性能を一層向上できるシステムが得られる。
【0010】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0012】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態である第1実施形態の車両用冷却システム1について説明する。図1は、本実施形態の車両用冷却システム1を模式的に示す構成図であり、破線矢印は暖機時の冷却水の流れ(図の太線)を示し、実線矢印は冷媒の流れを示している。図2は、車両用冷却システム1における制御の構成を示すブロック図である。図3は、車両用冷却システム1について通常走行時の冷却水の流れ(図の太線)を示した図である。
【0013】
図1に示すように、車両用冷却システム1は、内燃系のエンジンによって駆動される自動車に搭載される冷却システムの一例である。車両用冷却システム1は、エンジン40を冷却する冷却水(例えば、エチレングリコールを含有する冷却水)が流通する第1冷却水回路2と、第1冷却水回路2を流通する冷却水よりも低温の冷却水が流れる第2冷却水回路20と、循環する冷媒の状態を制御して車室内の空調を行う冷凍サイクル30と、を備えている。冷凍サイクル30は、流動する冷媒と冷却水との間で熱交換する水・冷媒熱交換器32を備えている。第1冷却水回路2には、冷却水と熱交換する空気が通過する第1空気流路を有する第1ラジエータ7と、エンジン40に接続されるヒータコア8と、が設けられる。
【0014】
エンジン40は、水冷式の内燃機関であり、ポンプ5によりエンジン40のウォータジャケットへ送られる冷却水によって冷却される。第1冷却水回路2は、エンジン40のウォータジャケットを流れる高温の冷却水が循環する高温水回路であり、第1ラジエータ7とエンジン40を接続するラジエータ側通路3と、ヒータコア8とエンジン40を接続するヒータ側通路4と、を備えている。第1ラジエータ7は、高温の冷却水を冷却する高温側ラジエータであり、ポンプ5によってラジエータ側通路3を流れる冷却水を外気との熱交換により冷却する。
【0015】
ラジエータ側通路3にはサーモスタット6が設けられている。サーモスタット6は、エンジン40を流出した冷却水が第1ラジエータ7を迂回してエンジン40に戻ってくる流れと、冷却水が第1ラジエータ7を通ってエンジン40に戻ってくる流れとを切り替えることができる。またサーモスタット6は、第1ラジエータ7を流通する冷却水量と第1ラジエータ7を流通しない冷却水量とを調節することができるようになっている。特に暖機時においては、第1ラジエータ7を流通しない流れを形成したり、第1ラジエータ7を迂回する冷却水量を増加させたりして、暖機が促進されることになる。つまり、第1ラジエータ7による冷却水の過冷却が防止されることになる。例えば、ラジエータ側通路3を構成する配管は、他の通路を構成する配管よりもその管内径が大きくなっており、多量の冷却水が流れることになる。
【0016】
ラジエータ側通路3と連通しているヒータ側通路4には、ポンプ5によって冷却水が循環される。ヒータコア8は、第1冷却水回路2の冷却水が流通する冷却水通路と空気通路とを備えており、車両用空調装置の空調ユニットケース(図示せず)内に配設され、送風機(図示せず)によって送風される空調空気を冷却水との熱交換により加熱する。
【0017】
第2冷却水回路20は、第1冷却水回路2の冷却水よりも低温となる低温冷却水が循環する低温水回路であり、この低温水回路を流れる冷却水を冷却するための第2ラジエータ21と、車両駆動のために使用される車両駆動用流体が流れる流路を有し、車両駆動用流体と第2冷却水回路20を流通する冷却水とを熱交換する熱交換手段と、を備える。この熱交換手段は、車両駆動用流体を温調することができる熱交換器であり、本実施形態では熱交換器の一例として、水冷インタークーラ23を備えている。さらに第2冷却水回路20には、冷却水が水冷インタークーラ23側に逆流することを防止する逆止弁24が設けられている。
【0018】
水冷インタークーラは、過給器で過給された空気を冷却する装置であり、吸気温度の上昇による酸素不足を改善して、内燃機関の効率を高めて燃費の悪化および内燃機関の出力低下を抑制することができる。本実施形態の水冷インタークーラ23は、冷却水が流れる低温水通路と、低温水通路に隣接して配置され、冷却水と熱交換される過給空気が流れるクーラ流入通路と、を備えている。この構成により、クーラ流入通路を流れる過給空気は、低温水通路と流れる冷却水と熱交換して冷却されるようになっている。
【0019】
車両駆動用流体は、車両を駆動させるために使用される各種流体であるオイル、空気等であり、例えば、EGRガス(排気再循環ガス)、ターボチャージャー、スーパーチャージャー等の過給器で吸入された空気、燃料、ATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)、エンジンオイルといった各種オイル等である。
【0020】
第2ラジエータ21は、第1空気流路の上流側に位置する第2空気流路を有し、空気が第2空気流路を通った後、第1空気流路を流れるように設けられている。すなわち、第2ラジエータ21を通過する空気流れは、第2空気流路、第1空気流路の順に流れ、第2ラジエータ21、第1ラジエータ7の順に各ラジエータを流れる冷却水を冷却する。第2ラジエータ21は、低温冷却水を冷却する低温側ラジエータであり、第1ラジエータ7よりも低い温度で作動し、ポンプ22によって第2冷却水回路20を循環する冷却水を外気との熱交換により冷却する。また、第2ラジエータ21、第1ラジエータ7は、この順に車両前部(例えば、エンジンルームの前部)に並んで配置されており、第2ラジエータ21の前方には、車両用空調に使用される冷凍サイクルの構成部品の一つである凝縮器34を配置してもよい。
【0021】
冷凍サイクル30は、本発明の冷凍サイクルの一例であり、圧縮機31と、電子制御式膨張弁33と、凝縮器34と、減圧装置である膨張弁36と、蒸発器37と、アキュムレータ38と、を備え、これらを環状に接続した冷媒回路により構成されている。さらに、凝縮器34の出口側と膨張弁36の入口側との間の流路には切替弁35が設けられている。切替弁35は、凝縮器34を流出した冷媒を、膨張弁36および蒸発器37を迂回してアキュムレータ38に流入させるように流路を切り替えることが可能である。
【0022】
水・冷媒熱交換器32は、その配置場所を特に限定するものではないが、圧縮機31の吐出側流路であって冷凍サイクル30の高圧側通路の一部に冷媒熱交換流路32aを有し、第2冷却水回路20の一部である水熱交換流路32bを有しており、冷媒熱交換流路32aおよび水熱交換流路32bを流れる流体間で熱交換が行われる構成である。本実施形態では、水・冷媒熱交換器32の冷媒熱交換流路32aは、圧縮機31出口と電子制御式膨張弁33入口との間に設けられている。
【0023】
車両用冷却システム1は、第1冷却水回路2の冷却水および第2冷却水回路20の低温冷却水のいずれかを水・冷媒熱交換器32の水熱交換流路32bに流入させるように、水熱交換流路32bに接続する回路を切り替える流路切替手段を備えている。本実施形態のシステムでは、流路切替手段として切替弁9を備えている。切替弁9は、水熱交換流路32bに連絡するように設けられた連絡通路10と第1冷却水回路2との接続を許容することによって水熱交換流路32bに第1冷却水回路を接続することができ、当該接続を切断することによって水熱交換流路32bに第2冷却水回路20を接続することができる。切替弁9は、このようにして水熱交換流路32bに接続する回路を切り替える。切替弁9による回路接続の切替えは、冷却水の温度に基づいて制御される。切替弁9を通過する冷却水の温度は、第1冷却水回路2に設けられた温度センサ11によって検出される。
【0024】
そして、切替弁9によって水熱交換流路32bに第1冷却水回路2が接続された場合は、サーモスタット6は冷却水が第1ラジエータ7を通らない流れを形成し、冷却水は、サーモスタット6、ポンプ5、エンジン40のウォータジャケット、切替弁9、水熱交換流路32b、ヒータコア8を接続して構成される回路(以下、暖機運転回路ともいう)を循環し(図1に示す破線矢印参照)、冷凍サイクル30の高圧冷媒の熱を吸熱して加熱される。
【0025】
一方、切替弁9によって水熱交換流路32bに第2冷却水回路20が接続された場合は、連絡通路10と第1冷却水回路2との接続は切断され、冷却水は、ポンプ22、第2ラジエータ21、水冷インタークーラ23、水熱交換流路32bを接続して構成される第2冷却水回路20(以下、走行時回路ともいう)を循環し(図3に示す破線矢印参照)、冷凍サイクル30の高圧側通路の冷媒から吸熱し、冷媒を冷却する。
【0026】
制御装置50は、例えば、車室内の空調を制御する機能に加え、第2冷却水回路20を冷媒によって加熱する制御を司る電子制御ユニットである。制御装置50は、マイクロコンピュータと、エンジン40の起動信号、車室内前面に設けられた操作パネル12上の各種スイッチからの信号、温度センサ11等からのセンサ信号等が入力される入力回路と、各種アクチュエータに出力信号を送る出力回路と、を備えている。マイクロコンピュータは、ROM(読み込み専用記憶装置)、RAM(読み込み書き込み可能記憶装置)等のメモリおよびCPU(中央演算装置)等から構成されており、操作パネル12等から送信された運転命令に基づいた演算に使用される各種プログラムを有している。制御装置50は、各種プログラムにより演算された結果に基づいて、切替弁9、ポンプ22、圧縮機31、電子制御式膨張弁33、切替弁35の各作動を制御する。
【0027】
また、制御装置50が車室内の空調を制御する機能に備える場合には、制御装置50はエアコン環境情報、エアコン運転条件情報、および車両環境情報を受信してこれらを演算し、圧縮機31の設定すべき容量を算出する。そして、制御装置50はエアコン制御のアンプでもあり、算出された容量に適合する容量制御信号を電流として容量制御弁に出力し、圧縮機31の容量を制御する。
【0028】
乗員が操作パネル12を操作して空調装置の運転・停止および設定温度などの操作信号等が制御装置50に入力され、各種センサの検出信号が入力されると、制御装置50は、各種プログラムにより各機器の作動状態を決定する演算を行い、これに応じて圧縮機31、電子制御式膨張弁33、送風機、内外気切替ドア、エアミックスドア等の各機器の運転を制御する。
【0029】
上記構成における車両用冷却システム1の作動について説明する。まず、第1冷却水回路2における冷却水の基本的な流れについて説明する。冷却水の流れ方は、その温度によって変わるものである。エンジン40の始動直後等の冷却水温度が比較的低い、いわゆる暖機時には、サーモスタット6は第1ラジエータ7側の通路を閉じるため、ポンプ5の吸い込みによりエンジン40から流れ出た冷却水は、第1ラジエータ7には流れずにヒータ側通路4を通ってヒータコア8に流れた後エンジン40に戻る。一方、冷却水温度が比較的高温になる車両走行時では、サーモスタット6は開いて、エンジン40から流れ出た冷却水は、第1ラジエータ7に流れて冷却された後、エンジン40に戻る。例えば、サーモスタット6は、水温が予め定めた温度を超えると流路を開くように構成されており、例えば80℃を超えると流路を開き、85℃以上で全開になる。
【0030】
次に、第2冷却水回路20の低温冷却水の流れと第1冷却水回路2の冷却水の流れとの関係について図4にしたがって説明する。図4は、車両用冷却システム1において行われる制御の流れを示すフローチャートである。図4に示す制御は、制御装置50により実行される。
【0031】
まず、エンジン40が起動すると、制御装置50は、冷寒条件が成立しているか否かを判定する(ステップ10)。冷寒条件が成立する場合とは、冷却水が所定温度未満の低温状態であり、エンジン40の暖機を必要としている状態である。冷寒条件は、例えば、第1冷却水回路2の冷却水が予め定められた、機能を十分に発揮できる下限温度よりも低温であることであり、この下限温度は、エンジン40の特性に応じて適宜決定される。本制御フローのステップ10では、例えば温度センサ11によって検出された冷却水温が予め定められた温度(所定温度)未満であるか否かが判定される。
【0032】
ステップ10で所定温度未満であると判定された場合は、暖機時であり暖機運転を実行する。具体的には、ステップ20で圧縮機31を起動し、高圧冷媒を水・冷媒熱交換器32の冷媒熱交換流路32aに送るとともに、ステップ30で電子制御式膨張弁33の開度を制御して冷媒を減圧し、バイパス通路39を通り蒸発器37を迂回する冷媒流れを形成するように切替弁35を制御する。さらに、ステップ40で、水熱交換流路32bと第1冷却水回路2を接続し、冷却水が第1ラジエータ7を通らない前述の暖機運転回路を形成するように、切替弁9とサーモスタット6を制御するとともに、ステップ50でポンプ5を起動する。さらにこのとき、第2冷却水回路20のポンプ22は停止している。
【0033】
これらの処理により、高圧冷媒が水・冷媒熱交換器32で放熱し、第1冷却水回路2の冷却水は水・冷媒熱交換器32で高圧冷媒から吸熱して加熱される。そして、第1冷却水回路2の冷却水は、第1ラジエータ7で冷却されないため、加熱手段による加熱効果を損失することなく、暖機運転回路を循環しながら、水・冷媒熱交換器32で暖められて温度上昇する。このように、冷却水が高圧冷媒から熱をもらう暖機運転が行われる。
【0034】
このように冷却水の加熱を実施するときは、冷凍サイクル30は切換弁35の切り替えにより、蒸発器37を迂回する冷媒流れを形成するため(図1に示す実線矢印参照)、車室内に冷房風を提供しない。すなわち、圧縮機31で吸入、圧縮された冷媒は、高圧冷媒となって水・冷媒熱交換器32で第1冷却水回路2を流れる冷却水に対して放熱して凝縮される。そして、水・冷媒熱交換器32を流出した冷媒は電子制御式膨張弁33の開度が制御されることにより減圧された後、凝縮器34に流入して蒸発し周囲空気から吸熱する。凝縮器34を流出した冷媒は、蒸発器37を迂回してアキュムレータ38に流入する。アキュムレータ38では、気相冷媒と液相冷媒に分離され、気相冷媒は圧縮機31に吸入される。このように、水・冷媒熱交換器32は通常の凝縮器の働きをし、凝縮器34は通常の蒸発器の働きをする。
【0035】
この冷却水の加熱する暖機運転は、ステップ60の終了条件が成立するまで継続される。終了条件が成立する場合とは、暖機対象である機械の各構成部品の働きが円滑になり、機械が本来の性能を発揮できる状態に水温上昇した場合であり、暖機を必要としない状態である。終了条件は、例えば、上記冷寒条件で用いた下限温度以上に回復することであってもよい。ステップ60の終了条件が成立したと判定されると、冷却水を加熱する暖機運転を停止し、冷却水が通常の第1ラジエータ7を流れる回路となるように各部の作動を制御し、本制御を終了する。
【0036】
ステップ10で、冷却水の温度が所定温度未満であると判定された場合は、暖機運転を必要としない状態であり、通常の車両走行時等に実施する運転であり、冷媒を冷却する冷媒冷却運転を実行する。具体的には、ステップ70で圧縮機31を起動し、高圧冷媒を水・冷媒熱交換器32の冷媒熱交換流路32aに送るとともに、ステップ72で電子制御式膨張弁33を全開に制御し、膨張弁36で減圧された冷媒を蒸発器37に流入させる冷媒流れを形成するように切替弁35を制御する。さらに、ステップ74で、水熱交換流路32bと第2冷却水回路20を接続する前述の走行時回路を形成するように、切替弁9を制御するとともに、ステップ60でポンプ22を起動し、走行時の冷却運転が実行される。車両の状態が走行時の冷却運転を実行しない状態になると、本制御を終了する。
【0037】
これらの処理により、高圧冷媒が水・冷媒熱交換器32で第2冷却水回路20の低温冷却水によって吸熱され、冷却されることになる。そして、冷凍サイクル30の高圧側冷媒は、低温冷却水による冷却によって冷媒の放熱が促進され、凝縮器34で放熱が軽減される。このように、高圧側冷媒が低温冷却水から熱を奪われる走行時の冷却運転が行われる。
【0038】
このように走行時の冷却運転を行うときは、通常の空調運転が実施される。冷凍サイクル30は通常の冷媒流れを形成し、車室内に空調風を提供する。第2冷却水回路20の低温冷却水は、第2ラジエータ21を流れて冷却されるため、冷媒から奪った熱は第2ラジエータ21で放熱される。このとき、圧縮機31で吸入、圧縮された高圧冷媒は、水・冷媒熱交換器32の冷媒熱交換流路32aで放熱して冷やされ、さらに全開状態の電子制御式膨張弁33を通過し、凝縮器34で凝縮され周囲空気に放熱し冷却される。そして、蒸発器37の入口側流路を開放するように制御された切替弁35を通過し、膨張弁36で減圧された後、蒸発器37に流入して蒸発して周囲空気から吸熱する。蒸発器37は、車両用空調装置の空調ユニットケース内に配設されるため、送風機によって送風される空調空気を冷却し、冷却空気が車室内に向けて送風される。さらに蒸発器37を流出した冷媒は、アキュムレータ38で気相冷媒と液相冷媒に分離される。気相冷媒は圧縮機31に吸入される。
【0039】
以下に、本実施形態の車両用冷却システム1がもたらす作用効果を述べる。車両用冷却システム1は、エンジン40を冷却する冷却水が循環する第1冷却水回路2と、第1冷却水回路2の冷却水よりも低温となる低温冷却水が循環する第2冷却水回路20と、循環する冷媒の状態を制御して車室内の空調を行う冷凍サイクル30と、を備える。さらに当該システムは、冷凍サイクル30における高圧側通路の一部に冷媒熱交換流路32aを有し、冷媒熱交換流路32aを流通する冷媒との間で熱交換される冷却水が流れる水熱交換流路32bを有する水・冷媒熱交換器32と、第1冷却水回路2の冷却水および第2冷却水回路20の低温冷却水のいずれかを水熱交換流路32bに流入させるように、水熱交換流路32bに接続する回路を切り替える切替弁9と、を備える。
【0040】
この構成によれば、切替弁9によって水熱交換流路32bに接される回路が切り替え可能であることにより、第1冷却水回路2の冷却水を加熱する必要がある、例えば暖機時には冷凍サイクル30の高圧側冷媒の熱を活用して冷却水温を早く上昇させることができる。例えば、通常の走行時等の当該冷却水を加熱する必要がない場合には、逆に第2冷却水回路20の低温冷却水を活用して、高温の高圧側冷媒を冷却することができるので、冷凍サイクル30の効率を高め、空調性能を向上させることができる。したがって、暖機性能を確保すること、および空調性能を一層高めることの両方をなし得るシステムが得られる。また、低温冷却水を利用することにより、水・冷媒熱交換器32で冷媒の冷却が促進されるので、凝縮器34での放熱を十分に助け冷凍サイクル30の効率が向上できるとともに、凝縮器34について放熱量を抑制する設計ができるので、凝縮器34の小型化を助長できる。
【0041】
また、暖機運転を必要としない通常走行時に、低温冷却水を用いて高圧冷媒の冷却を実施することにより、走行負荷が小さい状態での空調性能を一層高めることができる。
【0042】
(第2実施形態)
第2実施形態では、第1実施形態の車両用冷却システム1の変形例である車両用冷却システム1Aについて図5にしたがって説明する。図5は車両用冷却システム1Aを模式的に示す構成図であり、破線矢印は暖機時の冷却水の流れ(図の太線)を示し、実線矢印は冷媒の流れを示している。図5において図1と同一符号を付した構成部品やステップは、第1実施形態と同一であり、同様の作用効果を奏する。
【0043】
図5に示すように、車両用冷却システム1Aは、車両用冷却システム1に対して、第1冷却水回路2Aを流通する冷却水が排熱回収装置41で加熱される構成であることが異なっている。排熱回収装置41は、暖機時に、第1冷却水回路2Aの一部を構成する高温水側通路を流れる冷却水を排ガスの排熱を使用して加熱する構成を有する。また、車両用冷却システム1Aについて通常走行時の冷却水の流れおよび各部の作動は、第1実施形態と同様である。
【0044】
車両用冷却システム1Aにおいては、エンジン40において燃料が燃焼した後の排ガスは、エンジン40と連通する排気管内を通り、排熱回収装置41で排ガスの排熱が回収されるとともに、触媒コンバータ(図示せず)などにより浄化されて屋外に排出される。排熱回収装置41は、封入された作動液を蒸発部のパイプ部内で沸騰させ、凝縮部で凝縮させて冷却水に熱回収する構成であり、ヒートパイプ式沸騰熱伝達を用いた熱回収方式を採用している。排気管内の排ガス通路には排熱回収装置41のパイプ部が設けられており、パイプ部と排ガス通路によって作動液が蒸発する蒸発部を構成している。蒸発部を構成するパイプ部は、蒸発した作動液が凝縮される凝縮部と連通しており、蒸発部と凝縮部が連通することによって閉回路(ループ状)のヒートパイプ式熱回収装置が構成される。凝縮部で凝縮された作動液は、凝縮部に隣接された冷却水通路を流れる冷却水と熱交換することにより、作動液の熱が第1冷却水回路2を流通する冷却水に回収される。
【0045】
蒸発部のパイプ部と凝縮部とを連絡する通路には、凝縮部から蒸発部に流入する作動液の流入量を調節するバルブが設けられている。このバルブは、暖機運転時には、開状態に制御されて閉回路内で蒸発および凝縮が進行し、排熱回収が行われる。通常の走行時には、バルブは閉状態に制御されて作動液の蒸発部への流入が遮断されるため蒸発および凝縮の連鎖が断ち切られ、排熱回収は行われない。バルブは、例えば、作動液の圧力に応じて開閉作動する内圧作動式バルブで構成する。作動液は、例えば、水、アルコール、フロロカーボン、フロン、各種オイル等である。
【0046】
以下に、本実施形態の車両用冷却システム1Aがもたらす作用効果を述べる。車両用冷却システム1Aは、車両用冷却システム1に対してさらに、車両の排ガスの熱を使用して第1冷却水回路2Aの冷却水を加熱する排熱回収装置41を備える。
【0047】
この構成によれば、例えば暖機時に、第1冷却水回路2Aを排ガスの熱で加熱することにより、暖機が迅速に行われ、車両用冷却システム1に対して暖機性能を一層高めることができる。したがって、冷却性能の確保と暖機性能向上の両立を図る車両用冷却システム1Aを提供できる。
【0048】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0049】
例えば、上記実施形態では、第1ラジエータ7の第1空気流路と第2ラジエータ21の第2空気流路とは、同一の空気流れ上に配置され、第2空気流路が第1空気流路よりも上流に配置される構成であるが、これに限定するものではない。すなわち、第1ラジエータ7と第2ラジエータ21は、空気流れ方向に前後する位置ではなく、別々の空気流れが形成されるように横並びに配置されたり、大きく離間した場所に配置されたりしてもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、第2冷却水回路20に設けられる熱交換手段として、水冷インタークーラ23を採用しているが、熱交換器はこれに限定されるものではなく、ATFクーラ、EGRクーラ、その他の冷却水により熱交換可能な車両駆動用流体が流通する熱交換器を採用できることはいうまでもない。
【0051】
また、上記実施形態における車両用冷却システムは、ガソリン内燃機関、ディーゼル内燃機関等を有する車両、ハイブリッド自動車、または電気自動車に適用することができる。
【0052】
また、上記実施形態の冷媒は、R404Aや、フロン系冷媒、HC系冷媒、二酸化炭素冷媒等を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1実施形態の車両用冷却システム1を模式的に示す構成図であり、暖機時の冷却水の流れを示している。
【図2】車両用冷却システム1における制御の構成を示すブロック図である。
【図3】車両用冷却システム1について、通常走行時の冷却水の流れを示した図である。
【図4】車両用冷却システム1において行われる制御の流れを示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態の車両用冷却システム1Aを模式的に示す構成図であり、暖機時の冷却水の流れを示している。
【符号の説明】
【0054】
2…第1冷却水回路
7…第1ラジエータ
9…切替弁(流路切替手段)
21…第2ラジエータ
20…第2冷却水回路
30…冷凍サイクル
32…水・冷媒熱交換器
32a…冷媒熱交換流路
32b…水熱交換流路
40…エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジン(40)に接続されて前記エンジンを冷却する冷却水が循環する第1冷却水回路(2)と、
前記第1冷却水回路に設けられ、前記冷却水と熱交換する空気が通過する第1空気流路を有して前記冷却水を冷却する第1ラジエータ(7)と、
前記第1冷却水回路の冷却水よりも低温となる低温冷却水が循環する第2冷却水回路(20)と、
前記第2冷却水回路に設けられ、前記低温冷却水と熱交換する空気が通過する第2空気流路を有して前記低温冷却水を冷却する第2ラジエータ(21)と、
循環する冷媒の状態を制御して車室内の空調を行う冷凍サイクル(30)と、
前記冷凍サイクルにおける高圧側通路の一部に冷媒熱交換流路(32a)を有し、前記冷媒熱交換流路を流通する冷媒との間で熱交換される冷却水が流れる水熱交換流路(32b)を有する水・冷媒熱交換器(32)と、
前記第1冷却水回路の冷却水および前記第2冷却水回路の低温冷却水のいずれかを前記水熱交換流路に流入させるように、前記水熱交換流路に接続する回路を切り替える流路切替手段(9)と、
を備えることを特徴とする車両用冷却システム。
【請求項2】
前記流路切替手段は、暖機運転を必要としない車両走行時には、前記第2冷却水回路の低温冷却水を前記水熱交換流路に流入させるように、回路を切り替えることを特徴とする請求項1に記載の車両用冷却システム。
【請求項3】
前記車両の排ガスの熱を使用して前記第1冷却水回路(2A)の冷却水を加熱する排熱回収装置(41)を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用冷却システム。
【請求項4】
前記流路切替手段は、暖機時には前記第1冷却水回路の冷却水を前記水熱交換流路に流入させるように回路を切り替え、
さらに前記排熱回収装置によって前記第1冷却水回路の冷却水を加熱することを特徴とする請求項3に記載の車両用冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−64527(P2010−64527A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230251(P2008−230251)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】