説明

車両用制動装置

【課題】 車両を適切に制動し、制動に伴って発生する熱エネルギーを効率よく回収する車両用制動装置を提供すること。
【解決手段】 車両用制動装置Sは車輪Wと一体的に回転するディスクロータ11とブレーキキャリパ12とからなる制動部10を備えている。また、車両用制動装置Sは、ブレーキロータ11の摩擦摺動部に設けられた伝熱部材13に接触するベアリング21と、このベアリング21を介することにより、ブレーキロータ11の回転が伝達されることなく車体側に設けられた熱電変換部22とを有する電力回収部20を備えている。そして、熱電変換部22は、伝熱部材13およびベアリング21を介して摩擦摺動部にて発生した摩擦熱(熱エネルギー)を回収し、この回収した摩擦熱(熱エネルギー)を回生電力(電気エネルギー)に変換する。このように変換された回生電力(電気エネルギー)は、変圧回路25を介してバッテリ26に蓄電される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用制動装置に関し、特に、車両の車輪を制動することに加えてこの制動に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の走行により発生する運動エネルギーを熱エネルギーとして回収し、この回収した熱エネルギーを、例えば、電気エネルギーに変換して利用することが盛んに研究されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、車軸の回転に同期して回転するディスクロータと車軸の回転に同期することなくディスクロータに押し付けられるブレーキパッドとの摩擦により生じた熱を利用して発電する熱電変換素子をディスクロータに取り付けた発電機構が示されている。この発電機構においては、回転するディスクロータに熱電変換素子が取り付けられるため、制動により生じた摩擦熱がディスクロータを介して熱電変換素子の高温部に伝達される一方で熱電変換素子の低温部が空冷されて、熱電変換素子は高温部と低温部との間の温度差により電力を発電するようになっている。
【0004】
また、下記特許文献2には、回転部にブレーキパッドを圧着してブレーキをかけるブレーキキャリパと、ブレーキキャリパに接続するヒートパイプと、ヒートパイプの放熱側端に接続する熱電変換素子と、熱電変換素子の冷却側面に接続する放熱器と、熱電変換素子に接続する蓄電池とを備えた回生ブレーキ装置が示されている。この回生ブレーキ装置においては、制動により生じた摩擦熱がヒートパイプを介して熱電変換素子の加熱面に伝達される一方で熱電変換素子の冷却面が放熱器によって冷却されるため、熱電変換素子は加熱面側と冷却面側との間の温度差により電力を発生することができる。したがって、制動により運動エネルギーを熱エネルギー(摩擦熱)として回収して電気エネルギーに変換できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−269469号公報
【特許文献2】特開平11−220804号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、上記特許文献1に記載された発電機構や上記特許文献2に記載された回生ブレーキ装置においては、ディスクロータ(回転部)とブレーキキャリパに組み付けられたブレーキパッドとの摩擦によって制動力を発生する。この場合、摩擦によって発生する摩擦熱(熱エネルギー)は、大まかに、ディスクロータ(回転部)とブレーキキャリパとに伝熱する。
【0007】
この点に関し、上記特許文献1に記載された発電機構においては、ディスクロータに熱電変換素子が取り付けられるため、熱電変換素子はディスクロータに伝熱した摩擦熱(熱エネルギー)を効率よく回収できる。しかし、熱電変換素子は、ディスクロータと一体的に回転するため、その機械的な耐久性を確保する必要がある。一方、上記特許文献2に記載された回生ブレーキ装置においては、車両の制動に伴って発生する摩擦熱(熱エネルギー)をブレーキキャリパに接続されたヒートパイプを介して回収する。すなわち、上記特許文献2に記載された回生ブレーキ装置では、回転部(ディスクロータ)に伝熱した摩擦熱(熱エネルギー)は回収できず、例えば、回転体(ディスクロータ)を介して周囲の大気中に放熱している。
【0008】
このように、従来から、特に、ディスクロータとブレーキキャリパとを有するブレーキ装置(車両用制動装置)においては、制動に伴ってディスクロータが有する熱エネルギーを回収して利用することなく無駄に廃棄している場合があり、エネルギーの有効利用の観点から、熱エネルギーの回収効率を向上させることが重要である。また、継続的に熱エネルギーの回収効率を向上させるためには、熱電変換素子の機械的な耐久性を十分に確保しなければならない。
【0009】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、車両を適切に制動するとともに、制動に伴って発生する熱エネルギーを効率よく回収する車両用制動装置を提供することにある。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車両の車輪と一体的に回転するディスクロータとこのディスクロータにブレーキパッドを圧着させるブレーキキャリパとを有し、車両の前記車輪に対して前記ディスクロータと前記ブレーキパッドとの摩擦による制動力を付与するとともにこの制動力の付与に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置において、車両の車体側に設けられ、前記ブレーキパッドが圧着されて摺動する前記ディスクロータの摩擦摺動部にて摩擦により発生した熱エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する電力回収手段と、前記摩擦摺動部と前記電力回収手段とを接続し、前記ディスクロータの回転を伝達しない転動手段とを備えたことにある。この場合、前記転動手段として、例えば、玉軸受けまたはころ軸受けを採用するとよい。
【0011】
また、この場合、前記転動手段は、例えば、前記ディスクロータの前記摩擦摺動部に設けられて、前記摩擦摺動部にて摩擦により発生した熱エネルギーを伝熱する伝熱手段に接触し、前記ディスクロータの回転を伝達することなく、前記摩擦摺動部と前記電力回収手段とを接続するとよい。
【0012】
また、この場合、前記転動手段は、例えば、前記摩擦摺動部を形成して前記ディスクロータの前記ブレーキパッドとの摩擦摺動面に接触し、前記ディスクロータの回転を伝達することなく、前記摩擦摺動部と前記電力回収手段とを接続するとよい。
【0013】
また、この場合、前記電力回収手段は、一面側が前記転動手段を介して前記ディスクロータの摩擦摺動部から伝熱された熱エネルギーによって加熱されるとともに他面側が冷却されて、前記一面側と前記他面側との温度差に応じて前記熱エネルギーを前記電気エネルギーに変換する熱電変換手段を備えるとよい。
【0014】
さらに、前記電力回収手段は、前記熱エネルギーから変換した前記電気エネルギーを電力として蓄電する蓄電手段を備えるとよい。
【0015】
これらによれば、電力回収手段は、ディスクロータの摩擦摺動部に接触する転動手段(例えば、玉軸受やころ軸受など)を介して、ディスクロータ11の回転が伝達されることなく車体側に組み付けられる。これにより、回転する車輪に制動力が付与されることによって発生する熱エネルギーは、伝熱手段および転動手段を介してまたは転動手段により直接的に速やかに電力回収手段、より具体的には、熱電変換手段に伝熱される。このため、電力回収手段(より具体的には、熱電変換手段)は、熱エネルギーを極めて効率よく回収することができ、効率よく回収した熱エネルギーを効率よく電気エネルギーに変換することができる。したがって、本発明に係る車両用制動装置は、制動に伴って車両の運動エネルギーを熱エネルギーとして効率よく回収して利用することができ、例えば、燃費を向上させることができる。
【0016】
また、電力回収手段を転動手段を介してディスクロータの摩擦摺動部の近傍に配置することができるため、発生する熱エネルギーを回収することにより、ディスクロータの温度上昇を適切に抑制することができる。これにより、例えば、ディスクロータおよびブレーキキャリパに組み付けられるブレーキパッドの温度が上昇して摩擦係数が低下する現象、所謂、フェード現象が発生することを効果的に防止することができ、制動性能を良好に確保することができる。
【0017】
また、電力回収手段は、転動手段を介して回転するディスクロータの摩擦摺動部から熱エネルギーを回収することができる。これにより、熱回収手段には、ディスクロータの回転が伝達されることがなく、その結果、例えば、電力回収手段を構成する熱電変換手段の機械的な耐久性が劣る場合であっても採用することができるとともに、電力回収手段を構成する熱電変換手段と蓄電手段とを電気的に接続するハーネスなどの取り回しが極めて容易となる。
【0018】
また、玉軸受やころ軸受などのように、転動体を備える転動手段を採用することによって、ディスクロータの回転に対する摺動抵抗を極めて小さくすることができる。これにより、運転者のブレーキ操作に対するフィーリングが悪化することを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用制動装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
【図2】図1の電力回収部を具体的に示す概略図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る車両用制動装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
【図4】図3の電力回収部を具体的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
a.第1実施形態
以下、本発明の実施形態に係る車両用制動装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、第1実施形態に係る車両用制動装置Sのシステム構成を概略的に示している。この車両用制動装置Sは、車両を制動することに加えて、制動に伴って発生する運動エネルギーを熱エネルギーとして回収し、さらに、この回収した熱エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電するものである。
【0021】
このため、車両用制動装置Sは、図1に示すように、車輪Wに対して制動力を付与する制動部10と、この制動部10による制動に伴って発生する熱エネルギーを回収するとともに回収された熱エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電する電力回収手段としての電力回収部20とを備えている。なお、図1においては、1輪に車両用制動装置Sを設けた場合を図示するが、例えば、車両の左右前輪側に車両用制動装置Sを設けたり、車両の左右後輪側や全輪に車両用制動装置Sを設けて実施可能であることはいうまでもない。
【0022】
制動部10は、ディスクロータ11とブレーキキャリパ12とを備えたディスクブレーキユニットである。ディスクロータ11は、図示しないサスペンション装置を構成する車体側部材としてのナックルNの内周面側にハブベアリングBを介して回転可能に支持されたハブHに対してナットにより組み付けられていて、車輪Wと一体的に回転するものである。そして、ディスクロータ11は、図1および図2に示すように、2枚のディスクから形成されており、この2枚のディスク間には、伝熱特性に優れた材料(例えば、銅など)から形成された円盤状の伝熱部材13が挟持(充填)されている。なお、この場合、ブレーキキャリパ12によるブレーキパッドの押圧(圧着)に対してディスクロータ11の回転軸方向への剛性を確保するために2枚のディスク同士の対向面にはフィン11aが形成されている。
【0023】
ブレーキキャリパ12は、2枚一対のブレーキパッドを収容しており、ブレーキパッドを回転するディスクロータ11に対して押し付けて(圧着させて)、ブレーキパッドが摺動するディスクロータ11の摩擦摺動部に摩擦力を発生させるものである。なお、ディスクブレーキユニットの詳細な構造および作動については、周知のディスクブレーキユニットと同様であり、また、本発明の直接関係しないため、その説明を省略する。
【0024】
このように構成された制動部10においては、運転者によって図示しないブレーキペダルが操作されると、ブレーキキャリパ12にブレーキ液圧が供給される。これにより、ブレーキキャリパ12は、供給されるブレーキ液圧の増加に伴ってブレーキパッドをディスクロータ11の摩擦摺動部(より詳しくは、摩擦摺動面)に対して圧着させる。これにより、車輪Wと一体的に回転するディスクロータ11の摩擦摺動部に摩擦力が発生し、この摩擦力が車輪Wの回転を制動する制動力として付与される。したがって、制動部10は、車両の制動に伴って運動エネルギーを摩擦によって熱エネルギー(摩擦熱)に変換することにより、回転する車輪Wを制動する。
【0025】
ところで、ディスクブレーキユニットにおいては、制動に伴って摩擦熱(熱エネルギー)が発生すると、発生した摩擦熱(熱エネルギー)のうちの大部分がディスクロータ11に伝熱される。このため、電力回収部20は、ディスクロータ11に伝熱した摩擦熱(熱エネルギー)を回収し、この回収した摩擦熱(熱エネルギー)を電気エネルギー(電力)に変換する。以下、この電力回収部20を詳細に説明する。
【0026】
電力回収部20は、図1および図2に示すように、ディスクロータ11の摩擦摺動部(より詳しくは、摩擦摺動部に組み付けられた伝熱部材13の内周面)に対して接触する転動手段としてのベアリング21と、このベアリング21を介してディスクロータ11の回転が伝達されることなく車体側に設けられた熱電変換手段としての熱電変換部22とを備えている。
【0027】
ベアリング21は、伝熱特性に優れた材料(例えば、金属材料など)から形成された所謂シールド型のころ軸受であり、図1および図2に示すように、伝熱部材13の内周面に対して一体的に固着された外輪21aと、熱電変換部22に対して密着する内輪21bと、外輪21aと内輪21bとの間に配置されて外輪21aの回転によって転動する転動体21cとから構成されている。ここで、本実施形態におけるベアリング21は、外輪21aの内周面および内輪21bの内周面との接触面積が大きくなる円柱状のころを転動体21cとするころ軸受として実施するが、転動体21cとして断面テーパ状の針状ころや転動体21cが玉(ボール)の玉軸受を採用して実施することも可能である。
【0028】
熱電変換部22は、物質(具体的には、半導体)が有する周知のゼーベック効果を利用して熱エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。そして、熱電変換部22は、図1および図2に示すように、内周側がナックルNの外周面上に一体的に固定された円盤状の固定部材23の外周面にて、固定部材23の周方向に沿って複数保持されている。固定部材23は、絶縁特性に優れ、かつ、熱容量の小さな材料(例えば、樹脂材料や金属材料など)から形成されており、図2に示すように、熱電変換部22をベアリング21の内輪21bに対して密着させる。また、固定部材23は、複数(図2においては4か所)の開口部23aを備えている。そして、固定部材23の開口部23aの各内周面には、複数の冷却フィン24が組み付けられている。
【0029】
ここで、電力回収部20の熱電変換部22による熱エネルギーから電気エネルギーへの変換について説明しておく。熱電変換部22においては、図2に示すように、一面側すなわち加熱面22aがディスクロータ11の摩擦摺動部(より詳しくは伝熱部材13)からベアリング21を介して伝熱された摩擦熱(熱エネルギー)によって加熱され、他面側すなわち冷却面22bが固定部材23を介して開口部23aに組み付けられた冷却フィン24によって冷却される。これにより、熱電変換部22は、周知のゼーベック効果によって加熱面22aと冷却面22bとの温度差に応じた起電力(以下、この起電力を回生電力という)を発生する。すなわち、熱電変換部22は、制動部10の制動動作に伴って発生した摩擦熱(熱エネルギー)を回収し、この回収した摩擦熱(熱エネルギー)を電気エネルギー(回生電力)に変換することができる。
【0030】
このように、熱電変換部22によって熱エネルギー(摩擦熱)から変換された電気エネルギー(回生電力)は、図1に示すように、変圧回路25を介して蓄電手段としてのバッテリ26に供給される。変圧回路25は、例えば、DC−DCコンバータやコンデンサを主要構成部品とする電気回路であり、熱電変換部22から出力された回生電力を変圧してバッテリ26に出力するものである。バッテリ26は、変圧されて出力された回生電力を蓄電するものである。
【0031】
次に、上記のように構成した車両用制動装置Sの作動について説明する。運転者によって図示しないブレーキペダルが操作されると、制動部10が車輪Wの回転に対して制動力を付与する。すなわち、制動部10においては、上述したように、ブレーキペダルの操作に応じたブレーキ液圧がブレーキキャリパ12に供給される。そして、ブレーキキャリパ12は、供給されたブレーキ液圧により、車輪Wと一体的に回転するディスクロータ11の摩擦摺動部にブレーキパッドを圧着させる。これにより、ディスクロータ11の摩擦摺動部とブレーキパッドとの間に摩擦力が発生し、この摩擦力が制動力として回転する車輪Wに付与される。
【0032】
一方、摩擦力による制動に伴って摩擦摺動部に発生する摩擦熱(熱エネルギー)は、電力回収部20によって回収されて回生電力(電気エネルギー)に変換される。以下、摩擦熱(熱エネルギー)の回収と回生電力(電気エネルギー)の発電について、具体的に説明する。
【0033】
まず、摩擦熱(熱エネルギー)の回収(伝熱)から詳しく説明すると、ベアリング21の外輪21aは、ディスクロータ11、より詳しくは、伝熱部材13と一体的に回転し、この外輪21aの回転に伴って転動体21cが内輪21bに対して転動する。このため、制動に伴ってディスクロータ11の摩擦摺動部に発生した摩擦熱(熱エネルギー)は、2枚のディスクから伝熱部材13に対して伝熱され、さらに、伝熱部材13に一体的に固着されたベアリング21の外輪21aに伝熱される。そして、外輪21aに伝熱された摩擦熱(熱エネルギー)は、外輪21aに接触している転動体21cに伝熱され、さらに、転動体21cから内輪21bに伝熱される。
【0034】
一方、熱電変換部22においては、加熱面22aが固定部材23によってベアリング21の内輪21bに密着している。このため、ディスクロータ11の摩擦摺動部からベアリング21の内輪21bに伝熱された摩擦熱(熱エネルギー)は、熱電変換部22の加熱面22aを加熱する。すなわち、熱電変換部22は、ディスクロータ11の摩擦摺動部にて制動により発生した摩擦熱(熱エネルギー)を回収することができる。
【0035】
次に、熱電変換部22による回生電力の発電について詳しく説明する。熱電変換部22の加熱面22aは、上述したように、ベアリング21を介して伝熱された(回収した)摩擦熱(熱エネルギー)によって加熱される。一方、熱電変換部22の冷却面22bは、図2に示したように、固定部材23に形成された開口部23aに近接しており、開口部23aに組み付けられた冷却フィン24によって冷却される。すなわち、固定部材23は、熱容量の小さな材料から形成されている。このため、冷却フィン24が、例えば、車両の走行風との間で熱交換することによって開口部23aの周囲が速やかに冷却され、その結果、熱電変換部22の冷却面22bは冷却される。
【0036】
これにより、熱電変換部22においては、加熱面22aがディスクロータ11の摩擦摺動部からベアリング21を介して回収した摩擦熱(熱エネルギー)によって加熱され、冷却面22bが冷却フィン24によって冷却される。したがって、熱電変換部22は、加熱面22aと冷却面22bとの間の温度差に応じて、周知のゼーベック効果により、効率よく熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、回生電力を発電することができる。そして、発電された回生電力は、変圧回路25によって変圧され、バッテリ26に蓄電される。このように、バッテリ26に蓄電された回生電力は、車両に搭載された他の機器で利用することができるため、例えば、エンジンの負荷を低減して燃費を向上させることができる。
【0037】
以上の説明からも理解できるように、この第1実施形態によれば、電力回収部20は、ディスクロータ11の摩擦摺動部に接触するベアリング21を介して回転不能に組み付けられる。これにより、制動部10が回転する車輪Wに制動力を付与することによって発生する摩擦熱(熱エネルギー)は伝熱部材13およびベアリング21を介して速やかに熱電変換部22に伝熱されるため、摩擦熱(熱エネルギー)を極めて効率よく回収することができる。そして、熱電変換部21は、効率よく回収した摩擦熱(熱エネルギー)を効率よく電気エネルギーに変換し、回生電力を発電することができる。したがって、車両用制動装置Sは、制動に伴って車両の運動エネルギーを熱エネルギーとして効率よく回収して利用することができ、例えば、燃費を向上させることができる。
【0038】
また、熱電変換部22をベアリング21を介してディスクロータ11の摩擦摺動部の近傍に配置することができるため、発生する摩擦熱(熱エネルギー)を回収することにより、ディスクロータ11の温度上昇を適切に抑制することができる。これにより、例えば、ディスクロータ11およびブレーキキャリパ12のブレーキパッドの温度が上昇して摩擦係数が低下する現象、所謂、フェード現象が発生することを効果的に防止することができ、制動部10による制動性能を良好に確保することができる。
【0039】
また、熱電変換部22は、ベアリング21を介して回転するディスクロータ11の摩擦摺動部から摩擦熱(熱エネルギー)を回収することができる。これにより、熱電変換部22には、ディスクロータ11の回転が伝達されることがなく、その結果、例えば、熱電変換部22の機械的な耐久性が劣る場合であっても採用することができるとともに、熱電変換部22とバッテリ26とを電気的に接続するハーネスなどの取り回しが極めて容易となる。
【0040】
また、転動体21cを備えるベアリング21を採用することによって、ディスクロータ11の回転に対する摺動抵抗を極めて小さくすることができる。これにより、運転者のブレーキ操作に対するフィーリングが悪化することを効果的に防止することができる。さらに、ベアリング21と熱電変換部22とは一体化されていないため、例えば、メンテナンス等により、ディスクロータ11を取り外す場合には、ディスクロータ11およびベアリング21のみを取り外すことができる。したがって、ハーネスなどが接続された熱電変換部22を取り外す必要がないため、メンテナンスの作業性を大幅に向上させることもできる。
【0041】
b.第2実施形態
上記第1実施形態においては、ディスクロータ11を形成する2枚のディスク間に伝熱部材13を設けるとともに、この伝熱部材13と一体的に回転する外輪21aを有するベアリング21を設けるようにした。そして、制動によって発生した摩擦熱(熱エネルギー)を、伝熱部材13を介して外輪21aに伝熱し、さらにベアリング21を構成する転動体21cおよび内輪21bを介して伝熱して、熱電変換部22の加熱面22aを加熱するように実施した。
【0042】
この場合、転動手段としてのベアリングを構成する転動体を直接ディスクロータの摩擦摺動部に接触させてディスクロータ11の回転に伴って転動させ、摩擦摺動部に発生した摩擦熱(熱エネルギー)を回収するように実施することも可能である。以下、この第2実施形態を詳細に説明するが、上記第1実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
この第2実施形態においても、図3に示すように、制動部10は、ディスクロータ11とブレーキキャリパ12とを備えたディスクブレーキユニットである。ただし、この第2実施形態においては、ディスクロータ11が1枚のソリッドディスクから形成されており、上記第1実施形態で採用した伝熱部材13が省略されている点で異なる。
【0044】
そして、この第2実施形態においては、図3および図4に示すように、電力回収部30が設けられている。この第2実施形態における電力回収部30は、ディスクロータ11の摩擦摺動部(より詳しくは、摩擦摺動面)に対して接触するように組み付けられた転動手段としてのベアリング31と、このベアリング31を介してディスクロータ11の回転が伝達されることなく車体側に設けられた熱電変換部32を備えている。
【0045】
ベアリング31は、伝熱特性に優れた材料(例えば、金属材料など)から形成された玉軸受であり、図3および図4に示すように、外側ケース31aと内側ケース31bと転動体31cとを備えている。外側ケース31aは断面略コの字状に形成されており、内側ケース31bおよび転動体31cを収容している。内側ケース31bは、転動体31cの一部をディスクロータ11に向けて突出させるとともに、図4にて破線で示すように転動体31cの転動軌道が形成されている。
【0046】
転動体31cは、例えば、玉(ボール)であり、ディスクロータ11の摩擦摺動部を形成するブレーキパッドとの摩擦摺動面に接触して、ディスクロータ11の回転に伴って内側ケース31bに形成された転動軌道に沿って転動するようになっている。ここで、ベアリング31は、図4に示すように、制動部10のディスクロータ11の摩擦摺動部(摩擦摺動面)に沿って円弧状に形成される部分と、ブレーキキャリパ12を避けるようにディスクロータ11の摩擦摺動部(摩擦摺動面)から離間して略扁平状に形成される部分とを有する。そして、ベアリング31においては、内周面がナックルNの外周面上に一体的に固定された円盤状の固定部材33と外側ケース31aとが一体的に固着されている。
【0047】
熱電変換部32は、上記第1実施形態の熱電変換部22と同様に、物質(具体的には、半導体)が有する周知のゼーベック効果を利用して熱エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。そして、この第2実施形態における電力回収部30も、複数の熱電変換部32を備えており、各熱電変換部32は、図3および図4に示すように、一面側にてベアリング31の外側ケース31aに組み付けられており、他面側には冷却フィン34が組み付けられている。
【0048】
ここで、この第2実施形態における電力回収部30の熱電変換部32による熱エネルギーから電気エネルギーへの変換について説明しておく。熱電変換部32においては、一面側すなわち加熱面32aがディスクロータ11の摩擦摺動部(より詳しくは、摩擦摺動面)からベアリング31(外側ケース31a)を介して伝熱された摩擦熱(熱エネルギー)によって加熱され、他面側すなわち冷却面32bが冷却フィン34によって冷却される。これにより、熱電変換部32は、周知のゼーベック効果によって加熱面32aと冷却面32bとの温度差に応じた回生電力を発生する。すなわち、熱電変換部32も、上記第1実施形態における熱電変換部22と同様に、制動部10の制動動作に伴って発生した摩擦熱(熱エネルギー)を回収し、この回収した摩擦熱(熱エネルギー)を電気エネルギー(回生電力)に変換することができる。
【0049】
また、この第2実施形態においても、上記第1実施形態における変圧回路25およびバッテリ26に相当する変圧回路35およびバッテリ36を備えている。これにより、熱電変換部32によって熱エネルギー(摩擦熱)から変換された電気エネルギー(回生電力)は、変圧回路35を介してバッテリ36に供給されるようになっている。
【0050】
次に、上記のように構成した第2実施形態に係る車両用制動装置Sの作動について説明する。この第2実施形態に係る車両用制動装置Sにおいても、運転者によるブレーキペダルの操作に応じて、ブレーキキャリパ12は車輪Wと一体的に回転するディスクロータ11の摩擦摺動部にブレーキパッドを圧着させる。これにより、ディスクロータ11の摩擦摺動部とブレーキパッドとの間に摩擦力が発生し、この摩擦力が制動力として回転する車輪Wに付与される。
【0051】
そして、摩擦力による制動に伴って摩擦摺動部に発生する摩擦熱(熱エネルギー)は、電力回収部30によって回収されて回生電力(電気エネルギー)に変換される。以下、摩擦熱(熱エネルギー)の回収と回生電力(電気エネルギー)の発電について、具体的に説明する。
【0052】
まず、摩擦熱(熱エネルギー)の回収(伝熱)から詳しく説明すると、ベアリング31の転動体31cは、ディスクロータ11の摩擦摺動部を形成する摩擦摺動面に接触しており、ディスクロータ11の回転に伴って内側ケース31bに形成された転動軌道に沿って転動する。このため、制動に伴ってディスクロータ11の摩擦摺動部に発生した摩擦熱(熱エネルギー)は、転動体31c対して伝熱され、さらに、転動体31cを収容するベアリング31の外側ケース31aに伝熱される。そして、外側ケース31aに伝熱された摩擦熱(熱エネルギー)は、外側ケース31aに組み付けられた熱電変換部32の加熱面32aを加熱する。すなわち、熱電変換部32は、ディスクロータ11の摩擦摺動部にて制動により発生した摩擦熱(熱エネルギー)を回収することができる。
【0053】
次に、熱電変換部32による回生電力の発電について詳しく説明する。熱電変換部32の加熱面32aは、上述したように、ベアリング31を介して伝熱された(回収した)摩擦熱(熱エネルギー)によって加熱される。一方、熱電変換部32の冷却面32bには冷却フィン24が組み付けられている。このため、熱電変換部32の冷却面32bは、冷却フィン24が、例えば、車両の走行風との間で熱交換することによって冷却される。
【0054】
これにより、熱電変換部32においては、加熱面32aがディスクロータ11の摩擦摺動部からベアリング31を介して回収した摩擦熱(熱エネルギー)によって加熱され、冷却面32bが冷却フィン34によって冷却される。したがって、熱電変換部32は、加熱面32aと冷却面32bとの間の温度差に応じて、周知のゼーベック効果により、効率よく熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、回生電力を発電することができる。そして、発電された回生電力は、変圧回路35によって変圧され、バッテリ36に蓄電される。このように、バッテリ36に蓄電された回生電力は、上記第1実施形態と同様に、車両に搭載された他の機器で利用することができるため、例えば、エンジンの負荷を低減して燃費を向上させることができる。
【0055】
以上の説明からも理解できるように、この第2実施形態においては、ベアリング31の転動体31cがディスクロータ11の摩擦摺動部に直接接触し、制動によって発生した摩擦熱(熱エネルギー)を熱電変換部32に伝熱することができる。したがって、この第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0056】
本発明の実施にあたっては、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、上記第1実施形態においては、熱電変換部22を固定部材23の外周面上に複数設けて実施した。また、上記第2実施形態においては、熱電変換部32をベアリング31の外側ケース31a上に複数設けて実施した。この場合、熱電変換部22,32を、例えば、周状に形成しておき、固定部材23またはベアリング31の外周面上に組み付けて実施することも可能である。
【0058】
また、上記各実施形態においては、車体側部材としてのナックルNに対して固定部材23,33を組み付け、熱電変換部材22,32をディスクロータ11と一体的に回転しないように実施した。しかし、この場合、車体側部材としてはナックルNに限定されるものではなく、ベアリング21,31を介して、回転するディスクロータ11の摩擦摺動部と接続できれば、いかなる車体側部材を用いて実施してもよい。
【0059】
また、上記各実施形態においては、熱電変換部22,32の冷却面22b,32bを冷却するために冷却フィン24,34を採用して実施した。しかしながら、冷却面22b,32bの冷却に関してはこれに限定されるものではなく、冷却面22b,32bを冷却できるものであれば、いかなるものを採用して実施してもよい。
【0060】
さらに、上記各実施形態においては、ディスクブレーキユニットとして、浮動式のブレーキキャリパ12を有するディスクブレーキユニットを採用して実施した。しかし、ディスクブレーキユニットとして、例えば、固定式のブレーキキャリパを有するディスクブレーキユニットを採用して実施可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0061】
10…制動部、11…ディスクロータ、12…ブレーキキャリパ、20,30…電力回収部、21,31…ベアリング、22,32…熱電変換部、22a,32a…加熱面、22b,32b…冷却面、23,33…固定部材、24,34…冷却フィン、35…変圧回路、36…バッテリS…車両用制動装置、W…車輪、H…ハブ、N…ナックル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪と一体的に回転するディスクロータとこのディスクロータにブレーキパッドを圧着させるブレーキキャリパとを有し、車両の前記車輪に対して前記ディスクロータと前記ブレーキパッドとの摩擦による制動力を付与するとともにこの制動力の付与に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置において、
車両の車体側に設けられ、前記ブレーキパッドが圧着されて摺動する前記ディスクロータの摩擦摺動部にて摩擦により発生した熱エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する電力回収手段と、
前記摩擦摺動部と前記電力回収手段とを接続し、前記ディスクロータの回転を伝達しない転動手段とを備えたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用制動装置において、
前記転動手段は、
前記ディスクロータの前記摩擦摺動部に設けられて、前記摩擦摺動部にて摩擦により発生した熱エネルギーを伝熱する伝熱手段に接触し、
前記ディスクロータの回転を伝達することなく、前記摩擦摺動部と前記電力回収手段とを接続することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項3】
請求項1に記載した車両用制動装置において、
前記転動手段は、
前記摩擦摺動部を形成して前記ディスクロータの前記ブレーキパッドとの摩擦摺動面に接触し、
前記ディスクロータの回転を伝達することなく、前記摩擦摺動部と前記電力回収手段とを接続することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項4】
請求項1に記載した車両用制動装置において、
前記電力回収手段は、
一面側が前記転動手段を介して前記ディスクロータの摩擦摺動部から伝熱された熱エネルギーによって加熱されるとともに他面側が冷却されて、前記一面側と前記他面側との温度差に応じて前記熱エネルギーを前記電気エネルギーに変換する熱電変換手段を備えたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項5】
請求項1に記載した車両用制動装置において、
前記電力回収手段は、
前記熱エネルギーから変換した前記電気エネルギーを電力として蓄電する蓄電手段を備えたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項6】
請求項1に記載した車両用制動装置において、
前記転動手段は、
玉軸受けまたはころ軸受けであることを特徴とする車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−211766(P2011−211766A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74111(P2010−74111)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】