説明

車両用前照灯

【課題】通常配光パターンでの遠方視認性の向上と雨天配光パターンでの路面反射による対向車グレア防止を達成しながら、灯具ユニットのコスト低減とレイアウト自由度の向上を図ることができる車両用前照灯を提供すること。
【解決手段】車両用前照灯は、光源としての白色LED5と、該白色LED5からの光を前方へ照射する光学リフレクタ6と、光学リフレクタ6の前方に設けられたプロジェクタレンズ8と、を有する灯具ユニット3を備えている。そして、灯具ユニット3に、車両前方路面に照射する光軸方向を上下に切り換えるレベライザ10が設けられる。さらに、灯具ユニット3は、レベライザ10により光軸方向を、通常配光パターンを得る方向から雨天配光パターンを得る方向に切り換えるだけで、車両前方路面の近距離領域への光照射量を抑える構成とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前方路面への配光パターンとして、少なくとも通常配光パターンと雨天配光パターンを実現する灯具ユニットを備えた車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
道路状況や走行状況、天候条件等に応じて前照灯の配光を自由に変化させる可変型AFSシステム(AFS:Adaptive Front-lighting Systemの略)は、その走行環境に応じ、クラスC(通常)、クラスV(市街地)、クラスE(高速道路)、クラスW(降雨時)に分類され、各々のクラスで異なる配光が必要となる。例えば、雨天時のクラスW配光では、クラスC(通常)配光に対して、路面反射による対向車グレア防止のため、車両前方路面の近距離領域の光量を抑え、かつ、ドライバーの視認性向上のため車両遠方領域の光量を増加させることが求められる。
【0003】
これに対し、従来の可変型AFSシステムによる車両用前照灯では、このクラスW(降雨時)への前照灯配光パターンの変更を、灯具ユニットの内部部品(シェード、反射鏡等)の機械的な可動制御およびレベライザによる光軸調整により行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−327187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両用前照灯にあっては、シェードを可動制御させ、車両前方路面の近距離領域の光照射量を制御する方式となっていたため、灯具ユニット内にシェード可動専用駆動機構を配置すると共に、複雑な制御が必要となり、灯具ユニット全体のコストが増大する、という問題があった。
【0005】
さらに、シェードを可動制御させ、車両前方路面の近距離領域の光照射量を制御する方式による従来の車両用前照灯では、通常設定してある部品に加え、灯具ユニット内に手前光をカットする専用のカット専用シェード、および、カット専用シェードを可動する専用駆動機構を配置するという構成になっていたため、灯具ユニット内により多くのスペースが必要となる、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、通常配光パターンでの遠方視認性の向上と雨天配光パターンでの路面反射による対向車グレア防止を達成しながら、灯具ユニットのコスト低減とレイアウト自由度の向上を図ることができる車両用前照灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用前照灯は、光源と、該光源からの光を前方へ照射する光学リフレクタと、光学リフレクタの前方に設けられたレンズと、を有する灯具ユニットを備えている。そして、前記灯具ユニットに、車両前方路面に照射する光軸方向を上下に切り換えるレベライザが設けられる。さらに、前記灯具ユニットは、前記レベライザにより光軸方向を、通常配光パターンを得る方向から雨天配光パターンを得る方向に切り換えるだけで、車両前方路面の近距離領域への光照射量を抑える構成とされる。
【発明の効果】
【0008】
よって、本発明の車両用前照灯にあっては、レベライザにより灯具ユニットの光軸方向を、通常配光パターンを得る方向から雨天配光パターンを得る方向に切り換えるだけで、車両前方路面の近距離領域への光照射量を抑えることができる。
したがって、通常配光パターンにおいて、車両前方路面の近距離領域への光照射量を抑えることで、相対的に遠方視認性が向上する。そして、雨天配光パターンにおいて、車両前方路面の近距離領域への光照射量を抑えることで、路面反射による対向車グレア(路面反射幻惑)を防止できる。
また、レベライザにより灯具ユニットの光軸方向を、通常配光パターンを得る方向から雨天配光パターンを得る方向に切り換えるだけの方式である。つまり、シェードを可動制御させる機構や制御を用いないため、灯具ユニット全体のコスト低減になるし、カット専用シェードやシェード可動機構の設置スペースや可動領域の余裕スペースが必要無くなり、灯具ユニットのレイアウト自由度が向上する。
この結果、通常配光パターンでの遠方視認性の向上と雨天配光パターンでの路面反射による対向車グレア防止を達成しながら、灯具ユニットのコスト低減とレイアウト自由度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の車両用前照灯を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例5に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のレベライザによる灯具ユニットの光軸調整のみで配光パターンを変化させる車両用前照灯を示す断面図である。図2は、実施例1の車両用前照灯の灯具ユニットに設定されている遠方遮光部とシェード遮光部を有するシェードを示す正面図である。図3は、実施例1の車両用前照灯の前方位置に配置された鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示すイメージ図である。図4は、実施例1の車両用前照灯の前方位置に配置された鉛直スクリーン上で車両前方路面の近距離領域の範囲を示す図である。
【0011】
実施例1の車両用前照灯は、図1に示すように、ユニットハウジング1と透明カバー2により囲まれる内部空間に灯具ユニット3を配置し、前記ユニットハウジング1に灯具制御回路4を配置している。
【0012】
前記前照灯具ユニット3は、図1に示すように、白色LED5(光源)と、光学リフレクタ6と、シェード7と、プロジェクタレンズ8(レンズ)と、バルブコネクタ9と、レベライザ10と、を有する。そして、前記レベライザ10により光軸方向を、通常配光パターンを得る方向から雨天配光パターンを得る方向に切り換えるだけで、車両前方路面の近距離領域への光照射量を抑える構成とされている。
【0013】
前記光学リフレクタ6は、図1に示すように、白色LED5からの光を前方へ照射するための拡散放物面による反射面6aを有する。
【0014】
前記シェード7は、図1に示すように、前記光学リフレクタ6と前記プロジェクタレンズ8の間の位置に設けられ、所望の配光パターンを得る遠方遮光部7aと光透過部7bを有する。
【0015】
前記プロジェクタレンズ8は、図1に示すように、前記光学リフレクタ6および前記シェード7の前方に設けられ、白色LED5から光学リフレクタ6およびシェード7を経過して入射される光を集光する。このプロジェクタレンズ8は、表面8aが球面状であり、裏面8bが平面である。
【0016】
前記バルブコネクタ9は、図1に示すように、白色LED5の後部位置に設けられ、そのリード線9aは灯具制御回路4に接続され、灯具制御回路4により点灯と消灯の切り換え制御が行われる。
【0017】
前記レベライザ10は、図1に示すように、前記シェード7の下部位置に配置され、車両前方路面に照射する光軸方向を上下方向に切り換える。つまり、レベライザ10の光軸調整機構10bは、前記シェード7に接続され、レベライザ10の光軸調整アクチュエータ10cはユニットハウジング1に固定される。そして、光軸調整時、灯具制御回路4からリード線10aを介して光軸調整指令を受けた光軸調整アクチュエータ10cの動作により、シェード7を図面の上下方向に回動させる。なお、図1において、LA1は通常配光パターンを得る光軸であり、LA2は雨天配光パターンを得る光軸である。
【0018】
前記灯具ユニット3は、白色LED5からプロジェクタレンズ8を経過して光を出射するまでの光路上のうち、雨天配光パターンにて車両前方路面の近距離領域となる光路部分に、通過光量を抑える光量抑制部を設定している。
【0019】
前記光量抑制部は、図2に示すように、前記シェード7の光透過部7bに設定され、前記光学リフレクタ6からの反射光の一部を遮断する方形形状のシェード遮光部7cとしている。
【0020】
前記方形形状のシェード遮光部7cは、図3に示すように、車両前方路面の遠距離領域を大光量領域HEとし、中距離領域を中光量領域MEとし、近距離領域を小光量領域LEとする通常配光パターンを得る設定とされる。なお、図3のHLは地平線で、WL,WLは白線である。そして、前記方形形状のシェード遮光部7cは、図4に示すように、車両前方路面の方形状近距離領域SEを遮光する雨天配光パターンを得る設定とされる。
【0021】
次に、作用を説明する。
降雨時の路面反射光の対向車グレア防止のために、車両前方路面の近距離領域の光照射を抑える従来の前照灯は、図5に示すように、レベライザで灯具ユニットを上方に回転させ、かつ、灯具ユニット内のシェードあるいは光学リフレクタの一部を状況に応じて可動制御させ、光源からの光を遮断する方式であった。
【0022】
しかし、このような構成の灯具ユニットは、通常、灯具ユニットに設定してある部品に加え、新たにシェードや光学リフレクタ、それらを可動するための駆動機構が必要となり、灯具アセンブリ内のレイアウト性が問題となる。また、状況に応じてレベライザを回転させ、かつ、シェード等の部品を駆動機構により可動させるため、複雑な制御が必要であり、部品点数増加の問題と合わせ、灯具ユニットのコストが高いという問題がある。
【0023】
これに対し、本発明では、レベライザ10による光軸アップのみで、雨天配光パターンを対向車への路面反射幻惑を抑えるパターンとするように、通常配光パターンにおいて、予め車両前方路面の近距離領域の光照射を抑えるパターンとする構成を採用した。
ここで、車両前方路面の近距離領域とは、おおよそ車両から20m先までの領域をいい、言い換えると灯具ユニット3の白色LED5の水平線(H線)に対して、下方2°以下の領域をいう(図4)。
【0024】
具体的に、灯具ユニット3は、白色LED5からプロジェクタレンズ8を経過して光を出射するまでの光路上のうち、雨天配光パターンにて車両前方路面の近距離領域となる光路部分に、通過光量を抑える光量抑制部を設定した。図6は、実施例1の車両用前照灯の灯具ユニットにおいて車両前方路面の近距離領域を照射する光が通過する光路を示す図である。この図6から明らかなように、灯具ユニット3の白色LED5(光源)の位置P1と、光学リフレクタ6の反射面6aの位置P2と、シェード7の位置P3と、プロジェクタレンズ8の裏面8bの位置P4と、プロジェクタレンズ8の表面8aの位置P5と、のいずれか、もしくは、組み合わせ位置に光量抑制部を設定することができる。
【0025】
実施例1では、シェード7の光透過部7bに、光学リフレクタ6からの反射光の一部を遮断する方形形状のシェード遮光部7cを設定する構成を採用することで、例えば、車両が雨滴センサやワイパー駆動により雨天を検知した際に、レベライザ10により灯具ユニット3を上方向に回動させることのみで、図7に示すように、車両前方路面の方形状近距離領域SEを遮光する雨天配光パターンを得ることができる。
【0026】
したがって、通常配光パターンにおいて、車両前方路面の近距離領域への光照射量を抑えることで、相対的に遠方視認性が向上する。そして、雨天配光パターンにおいて、車両前方路面の遠距離領域FEを照射し方形状近距離領域SEを遮光することで、路面反射による対向車グレア(路面反射幻惑)を防止できる。
【0027】
加えて、レベライザ10により灯具ユニット3の光軸方向を、通常配光パターンを得る方向から雨天配光パターンを得る方向に切り換えるだけの方式である。つまり、従来の車両用前照灯のように、シェードを可動制御させる機構や制御を用いないため、灯具ユニット3のコスト低減になるし、カット専用シェードやシェード可動機構の設置スペースや可動領域の余裕スペースが必要無くなり、灯具ユニット3のレイアウト自由度が向上する。
【0028】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用前照灯にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0029】
(1) 光源(白色LED5)と、該光源からの光を前方へ照射する光学リフレクタ6と、光学リフレクタ6の前方に設けられたレンズ(プロジェクタレンズ8)と、を有する灯具ユニット3を備えた車両用前照灯において、前記灯具ユニット3に、車両前方路面に照射する光軸方向を上下に切り換えるレベライザ10が設けられ、前記灯具ユニット3は、前記レベライザ10により光軸方向を、通常配光パターンを得る方向から雨天配光パターンを得る方向に切り換えるだけで、車両前方路面の近距離領域への光照射量を抑える構成とした。このため、通常配光パターンでの遠方視認性の向上と雨天配光パターンでの路面反射による対向車グレア防止を達成しながら、灯具ユニット3のコスト低減とレイアウト自由度の向上を図ることができる。
【0030】
(2) 前記灯具ユニット3は、光源(白色LED5)からレンズ(プロジェクタレンズ8)を経過して光を出射するまでの光路上のうち、雨天配光パターンにて車両前方路面の近距離領域となる光路部分に、通過光量を抑える光量抑制部(シェード遮光部7c)を設定した。このため、灯具ユニット3を構成する既存の構成要素に対する追加設定により、容易に車両前方路面の近距離領域への光照射量を抑えることができる。
【0031】
(3) 前記灯具ユニット3は、前記光学リフレクタ6と前記レンズ(プロジェクタレンズ8)の間の位置に、所望の配光パターンを得る遠方遮光部7aと光透過部7bを有するシェード7が設けられ、前記光量抑制部は、前記シェード7の光透過部7bに設定され、前記光学リフレクタ6からの反射光の一部を遮断するシェード遮光部7cである。このため、シェード7の光透過部7bにシェード遮光部7cを追加設定するという簡単な構成としながら、雨天配光パターンにおいて、シェード遮光部7cの形状に応じた車両前方路面の近距離領域を遮光することができる。
【0032】
(4) 前記シェード遮光部7cは、車両前方路面の方形状近距離領域SEを遮光する雨天配光パターンを得る方形形状である。このため、雨天配光パターンにおいて、車両前方路面の方形状近距離領域SEを、対向車グレア防止を達成するべく遮光することができる。
【実施例2】
【0033】
実施例2は、光量抑制部として、光学リフレクタの拡散放物面に方形状の光学リフレクタ減光部を設定した例である。
【0034】
まず、構成を説明する。
図8は、実施例2の車両用前照灯の灯具ユニットにおける光学リフレクタを示す正面図である。図9は、実施例2の車両用前照灯の灯具ユニットにおける光学リフレクタを示す縦断側面図である。図10は、実施例2の車両用前照灯の灯具ユニットにおける光学リフレクタの光学リフレクタ減光部を示す図9のA部拡大図である。
【0035】
実施例2の車両用前照灯の灯具ユニット3における光学リフレクタ6は、図8および図9に示すように、白色LED5からの光を反射する拡散放物面による反射面6aを有する。そして、前記光量抑制部を、前記光学リフレクタ6の反射面6aに設定され、前記光源からの光の一部を拡散した反射光とする光学リフレクタ減光部6bとしている。この光学リフレクタ減光部6bは、車両前方路面の方形状近距離領域SEを減光する雨天配光パターンを得る方形形状である。また、光学リフレクタ減光部6bは、図10に示すように、シボ加工により形成されていて、例えば、シボピッチ50μm、深さ寸法50μmレベルの凹凸形状としている。なお、実施例2の車両用前照灯の全体構成は、実施例1の図1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0036】
次に、作用を説明する。
実施例1のように、車両前方路面の方形状近距離領域SEを遮光する雨天配光パターンを得る場合、方形状近距離領域SEとそれ以外の領域の明暗差が大きくなり、暗い部分(方形状近距離領域SE)が目立つし、方形状近距離領域SEとそれ以外の領域の境界部分に目がいってしまうというように、ドライバーにとって遠距離領域の視認性が低下する。
【0037】
これに対し、実施例2では、図11に示すように、車両前方路面の方形状近距離領域SEを減光する雨天配光パターンが得られる。このため、路面反射による対向車グレア防止を確保しながら、ドライバーにとって遠距離領域FEの視認性を向上させることができる。なお、他の作用は、実施例1と同様である。
【0038】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用前照灯にあっては、実施例1の(1),(2)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
【0039】
(5) 前記光学リフレクタ6は、前記光源(白色LED5)からの光を反射する拡散放物面による反射面6aを有し、前記光量抑制部は、前記光学リフレクタ6の反射面6aに設定され、前記光源(白色LED5)からの光の一部を拡散した反射光とする光学リフレクタ減光部6bである。このため、光学リフレクタ6の一部に凹凸を施すという簡単な構成としながら、路面反射による対向車グレア防止を確保しながら、ドライバーにとって遠距離領域FEの視認性を向上させることができる。
【0040】
(6) 前記光学リフレクタ減光部6bは、車両前方路面の方形状近距離領域NEを減光する雨天配光パターンを得る方形形状である。このため、雨天配光パターンにおいて、車両前方路面の方形状近距離領域SEを、対向車グレア防止とドライバー視認性との両立を達成するべく減光することができる。
【実施例3】
【0041】
実施例3は、光量抑制部として、光学リフレクタの拡散放物面に三角形状の光学リフレクタ減光部を設定した例である。
【0042】
まず、構成を説明する。
図12は、実施例3の車両用前照灯の灯具ユニットにおける光学リフレクタを示す正面図である。
【0043】
前記光量抑制部を、前記光学リフレクタ6の反射面6aに設定され、前記光源からの光の一部を拡散した反射光とする光学リフレクタ減光部6cとしている。この光学リフレクタ減光部6cは、車両前方路面の三角形状近距離領域TEを減光する雨天配光パターンを得る三角形状である。なお、他の構成は、実施例2と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0044】
次に、作用を説明すると、実施例3では、図13に示すように、車両前方路面の三角形状近距離領域TEを減光する雨天配光パターンが得られる。このため、減光領域の形状が実施例2と異なるものの、路面反射による対向車グレア防止を確保しながら、ドライバーにとって遠距離領域FEの視認性を向上させることができる。なお、他の作用は、実施例2と同様である。
【0045】
次に、効果を説明する。
実施例3の車両用前照灯にあっては、実施例1の(1),(2)の効果、実施例2の(5)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
【0046】
(7) 前記光学リフレクタ減光部6cは、車両前方路面の三角形状近距離領域TEを減光する雨天配光パターンを得る三角形状である。このため、雨天配光パターンにおいて、車両前方路面の三角形状近距離領域TEを、対向車グレア防止とドライバー視認性との両立を達成するべく減光することができる。
【実施例4】
【0047】
実施例4は、光量抑制部として、プロジェクタレンズの裏面にレンズ減光部を設定した例である。
【0048】
まず、構成を説明する。
図14は、実施例4の車両用前照灯の灯具ユニットにおけるプロジェクタレンズを示す裏面図である。図15は、実施例4の車両用前照灯の灯具ユニットにおけるプロジェクタレンズを示す縦断側面図である。図16は、実施例4の車両用前照灯の灯具ユニットにおけるプロジェクタレンズのレンズ減光部を示す図15のB部拡大図である。
【0049】
前記灯具ユニット3のレンズとして、表面8aが球状面で裏面8bが平面によるプロジェクタレンズ8を用いている。そして、実施例4での光量抑制部は、図14および図15に示すように、前記プロジェクタレンズ8の裏面8bに設定され、光源である白色LED5から、光学リフレクタ6の反射面6aおよびシェード7の光透過部7bを経過して入射される入射光の一部を拡散するレンズ減光部8cとしている。レンズ減光部8cは、図14に示すように、車両前方路面の近距離領域を減光する雨天配光パターンを得る円弧と弦により囲まれた半月形状としている。また、レンズ減光部8cは、図16に示すように、光を乱反射する球状の細粒を多数接着固定することで形成している。なお、実施例4の車両用前照灯の全体構成は、実施例1の図1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0050】
次に、作用を説明すると、実施例4では、車両前方路面のレンズ減光部8cの形状により規定される近距離領域を減光する雨天配光パターンが得られる。このため、減光領域の形状が実施例2,3と異なるものの、路面反射による対向車グレア防止を確保しながら、ドライバーにとって遠距離領域FEの視認性を向上させることができる。なお、他の作用は、実施例2と同様である。
【0051】
次に、効果を説明する。
実施例4の車両用前照灯にあっては、実施例1の(1),(2)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
【0052】
(8) 前記レンズは、表面8aが球状面で裏面8bが平面によるプロジェクタレンズ8であり、前記光量抑制部は、前記プロジェクタレンズ8の裏面8bに設定され、前記光源(白色LED5)からの入射光の一部を拡散するレンズ減光部8cである。このため、プロジェクタレンズ8の裏面8bの一部に凹凸を施すという簡単な構成としながら、路面反射による対向車グレア防止を確保しながら、ドライバーにとって遠距離領域FEの視認性を向上させることができる。
【0053】
(9) 前記レンズ減光部8cは、車両前方路面の近距離領域を減光する雨天配光パターンを得る円弧と弦により囲まれた半月形状である。このため、雨天配光パターンにおいて、レンズ減光部8cの半月形状により規定される車両前方路面の近距離領域を、対向車グレア防止とドライバー視認性との両立を達成するべく減光することができる。
【実施例5】
【0054】
実施例5は、光量抑制部として、シェードの光透過部に多数の小孔を有するシェード減光部を設定した例である。
【0055】
まず、構成を説明する。
図17は、実施例5の車両用前照灯の灯具ユニットに設定されている遠方遮光部とシェード減光部を有するシェードを示す正面図である。
【0056】
前記灯具ユニット3は、前記光学リフレクタ6と前記プロジェクタレンズ8の間の位置に、所望の配光パターンを得る遠方遮光部7aと光透過部7bを有するシェード7が設けられる(図1参照)。そして、実施例5での光量抑制部は、図17に示すように、前記シェード7の光透過部7bに設定され、前記光学リフレクタ6からの反射光の一部を遮断しつつ、一部の反射光を洩らす多数の小孔7dを有するシェード減光部7eとしている。なお、全体構成は、実施例1の図1と同様である。
【0057】
次に、作用を説明すると、実施例5では、図11に示す実施例2と同様に、車両前方路面の方形状近距離領域SEを減光する雨天配光パターンが得られる。このため、路面反射による対向車グレア防止を確保しながら、ドライバーにとって遠距離領域FEの視認性を向上させることができる。なお、他の作用は、実施例1と同様である。
【0058】
次に、効果を説明する。
実施例5の車両用前照灯にあっては、実施例1の(1),(2)の効果および実施例2の(6)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
【0059】
(10) 前記灯具ユニット3は、前記光学リフレクタ6と前記プロジェクタレンズ8の間の位置に、所望の配光パターンを得る遠方遮光部7aと光透過部7bを有するシェード7が設けられ、前記光量抑制部は、前記シェード7の光透過部7bに設定され、前記光学リフレクタ6からの反射光の一部を遮断しつつ、遮断部分の反射光の一部を洩らす多数の小孔7dを有するシェード減光部7eである。このため、シェード7の光透過部7bにシェード減光部7eを追加設定するという簡単な構成としながら、雨天配光パターンにおいて、シェード減光部7eの形状に応じた車両前方路面の近距離領域を減光することができる。
【0060】
以上、本発明の車両用前照灯を実施例1〜実施例5に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0061】
実施例1,5では、光量抑制部として、図6に示すシェード7の位置P3にシェード遮光部7c,シェード減光部7eを設定する例を示した。実施例2,3では、光量抑制部として、図6に示す光学リフレクタ6の反射面6aの位置P2に光学リフレクタ減光部6b,6cを設定する例を示した。実施例4では、光量抑制部として、図6に示すプロジェクタレンズ8の裏面8bの位置P4にレンズ減光部8cを設定する例を示した。しかし、光量抑制部の設定位置としては、実施例1〜5に示す位置に限られるものではなく、例えば、図6に示す灯具ユニット3の白色LED5(光源)の位置P1やプロジェクタレンズ8の表面8aの位置P5に、減光や遮光による光量抑制部を設定することができるし、また、図6の位置P1〜P5の組み合わせ位置に減光や遮光による光量抑制部を設定することができる。例えば、光源として複数のLEDを用いた光源とした場合、あえて車両前方路面の近距離領域を照射しない配光とするよう個々のLEDユニットを配置することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
実施例1〜5では、シェードを有する灯具ユニットを備えた車両用前照灯に対する適用例を示した。しかし、シェードの無い灯具ユニットを備えた車両用前照灯に対しても適用することができる。要するに、少なくとも光源と光学リフレクタとレンズを有する灯具ユニットを備えた車両用前照灯であれば適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1のレベライザによる灯具ユニットの光軸調整のみで配光パターンを変化させる車両用前照灯を示す断面図である。
【図2】実施例1の車両用前照灯の灯具ユニットに設定されている遠方遮光部とシェード遮光部を有するシェードを示す正面図である。
【図3】実施例1の車両用前照灯の前方位置に配置された鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示すイメージ図である。
【図4】実施例1の車両用前照灯の前方位置に配置された鉛直スクリーン上で車両前方路面の近距離領域の範囲を示す図である。
【図5】従来例の灯具ユニットに有するシェードの可動制御とレベライザによる灯具ユニットの光軸調整により配光パターンを変化させる車両用前照灯を示す断面図である。
【図6】実施例1の車両用前照灯の灯具ユニットにおいて車両前方路面の近距離領域を照射する光が通過する光路を示す図である。
【図7】実施例1の車両用前照灯の灯具ユニットでの降雨走行時における雨天配光パターンを示す鳥瞰図である。
【図8】実施例2の車両用前照灯の灯具ユニットにおける光学リフレクタを示す正面図である。
【図9】実施例2の車両用前照灯の灯具ユニットにおける光学リフレクタを示す縦断側面図である。
【図10】実施例2の車両用前照灯の灯具ユニットにおける光学リフレクタの光学リフレクタ減光部を示す図9のA部拡大図である。
【図11】実施例2の車両用前照灯の灯具ユニットでの降雨走行時における雨天配光パターンを示す鳥瞰図である。
【図12】実施例3の車両用前照灯の灯具ユニットにおける光学リフレクタを示す正面図である。
【図13】実施例3の車両用前照灯の灯具ユニットでの降雨走行時における雨天配光パターンを示す鳥瞰図である。
【図14】実施例4の車両用前照灯の灯具ユニットにおけるプロジェクタレンズを示す裏面図である。
【図15】実施例4の車両用前照灯の灯具ユニットにおけるプロジェクタレンズを示す縦断側面図である。
【図16】実施例4の車両用前照灯の灯具ユニットにおけるプロジェクタレンズのレンズ減光部を示す図15のB部拡大図である。
【図17】実施例5の車両用前照灯の灯具ユニットに設定されている遠方遮光部とシェード減光部を有するシェードを示す正面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 ユニットハウジング
2 透明カバー
3 灯具ユニット
4 灯具制御回路
5 白色LED(光源)
6 光学リフレクタ
6a 反射面
6b 光学リフレクタ減光部(光量抑制部)
6c 光学リフレクタ減光部(光量抑制部)
7 シェード
7a 遠方遮光部
7b 光透過部
7c シェード遮光部(光量抑制部)
7d 小孔
7e シェード減光部(光量抑制部)
8 プロジェクタレンズ(レンズ)
8a 表面
8b 裏面
8c レンズ減光部(光量抑制部)
9 バルブコネクタ
9a リード線
10 レベライザ
10a リード線
10b 光軸調整機構
10c 光軸調整アクチュエータ
LA1 通常配光パターンを得る光軸
LA2 雨天配光パターンを得る光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、該光源からの光を前方へ照射する光学リフレクタと、光学リフレクタの前方に設けられたレンズと、を有する灯具ユニットを備えた車両用前照灯において、
前記灯具ユニットに、車両前方路面に照射する光軸方向を上下に切り換えるレベライザが設けられ、
前記灯具ユニットは、前記レベライザにより光軸方向を、通常配光パターンを得る方向から雨天配光パターンを得る方向に切り換えるだけで、車両前方路面の近距離領域への光照射量を抑える構成としたことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用前照灯において、
前記灯具ユニットは、光源からレンズを経過して光を出射するまでの光路上のうち、雨天配光パターンにて車両前方路面の近距離領域となる光路部分に、通過光量を抑える光量抑制部を設定したことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項3】
請求項2に記載された車両用前照灯において、
前記灯具ユニットは、前記光学リフレクタと前記レンズの間の位置に、所望の配光パターンを得る遠方遮光部と光透過部を有するシェードが設けられ、
前記光量抑制部は、前記シェードの光透過部に設定され、前記光学リフレクタからの反射光の一部を遮断するシェード遮光部であることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項4】
請求項3に記載された車両用前照灯において、
前記シェード遮光部は、車両前方路面の方形状近距離領域を遮光する雨天配光パターンを得る方形形状であることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項5】
請求項2に記載された車両用前照灯において、
前記光学リフレクタは、前記光源からの光を反射する拡散放物面による反射面を有し、
前記光量抑制部は、前記光学リフレクタの反射面に設定され、前記光源からの光の一部を拡散した反射光とする光学リフレクタ減光部であることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項6】
請求項5に記載された車両用前照灯において、
前記光学リフレクタ減光部は、車両前方路面の方形状近距離領域を減光する雨天配光パターンを得る方形形状であることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項7】
請求項5に記載された車両用前照灯において、
前記光学リフレクタ減光部は、車両前方路面の三角形状近距離領域を減光する雨天配光パターンを得る三角形状であることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項8】
請求項2に記載された車両用前照灯において、
前記レンズは、表面が球状面で裏面が平面によるプロジェクタレンズであり、
前記光量抑制部は、前記プロジェクタレンズの裏面に設定され、前記光源からの入射光の一部を拡散するレンズ減光部であることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項9】
請求項8に記載された車両用前照灯において、
前記レンズ減光部は、車両前方路面の近距離領域を減光する雨天配光パターンを得る円弧と弦により囲まれた半月形状であることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項10】
請求項2に記載された車両用前照灯において、
前記灯具ユニットは、前記光学リフレクタと前記レンズの間の位置に、所望の配光パターンを得る遠方遮光部と光透過部を有するシェードが設けられ、
前記光量抑制部は、前記シェードの光透過部に設定され、前記光学リフレクタからの反射光の一部を遮断しつつ、遮断部分の反射光の一部を洩らす多数の小孔を有するシェード減光部であることを特徴とする車両用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−211852(P2009−211852A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51585(P2008−51585)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】