説明

車両用変速機

【課題】撹撹拌抵抗低減と潤滑確保とを良好に両立させることが可能な車両用変速機を提供する。
【解決手段】自動変速機10は、デファレンシャル機能13のファイナルギヤ31が配置されたデファレンシャル機構室53と、デファレンシャル機構室53と隔壁41dを介して水平方向に隣接して配置され、オイルを貯留するオイルパン室54と、デファレンシャル機構室53の底部に溜りファイナルギヤ31の回転により掻き揚げられたオイルをオイルパン室54に戻すためにオイルパン室54の上部に設けられた戻し口41eと、隔壁41dに設けられ、デファレンシャル機構室53とオイルパン室54とを連通する第1の連通路41fと、隔壁41dに第1の連通路41fより上方に設けられ、デファレンシャル機構室53とオイルパン室54とを連通する第2の連通路41gとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機、特に車両用変速機のオイル潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機は、変速機構やデファレンシャル機構などが変速機ケース内に収容されてなる。自動変速機は、内燃機関などの駆動源から入力される出力を変速機構で変速してデファレンシャル機構のファイナルギヤから出力する。変速機ケースの下部には、潤滑や制御に供されるオイルを貯留するオイルパンが取り付けられている。
【0003】
変速機構やデファレンシャル機構の潤滑は、オイルポンプによる強制潤滑の他、デファレンシャル機構のファイナルギヤ(デファレンシャルギヤ)の回転によって掻き揚げられて飛散したオイルによって行われる。潤滑に供されたオイルはオイルパン室(オイル室)に戻る。
【0004】
ファイナルギヤが配置されたデファレンシャル機構室は、オイルパン室と水平方向に隣接して配置されている。オイルパン室に貯留されたオイルがデファレンシャル機構室に供給され、デファレンシャル機構室の底部に溜ったオイルがファイナルギヤの回転によって掻き揚げられて潤滑に供される。
【0005】
例えば、特許文献1には、変速機構に供給されたオイルをオイルパン室に戻すための開口部(戻し口)がオイルパン室の上面に形成され、デファレンシャル機構室とオイルパン室とを区画する隔壁に1本の油路(連通路)が形成された車両用変速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4279885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された車両用変速機では、オイルパン室からデファレンシャル機構室に供給されるオイル量は油路の断面積で定まる。
【0008】
そのため、潤滑に供されるオイル量が多い状態に合わせて油路の断面積を大きく設定して、オイルパン室からデファレンシャル機構室に供給されるオイルを多くすると、潤滑に供されるオイルが少ない状態では、デファレンシャル機構室の底部に多量のオイルが溜る。そのため、オイルの粘性に伴うファイナルギヤによるオイルの連れ廻り量が増加し、ファイナルギヤの撹拌抵抗が増大するので、燃費が悪化するという問題が生じる。
【0009】
一方、潤滑に供されるオイルが少ない状態に合わせて油路の断面積を小さく設定して、オイルパン室からデファレンシャル機構室に供給されるオイルを少なくすると、デファレンシャル機構室の底部に溜るオイルは減少する。しかし、潤滑に供されるオイルが多い状態では、デファレンシャル機構室の底部に溜るオイルが不足して、十分な潤滑を行うことができなくなるという問題が生じる。
【0010】
以上のように、特許文献1に開示された車両用変速機では、撹拌抵抗低減と潤滑確保とが良好に両立するように油路を設けることは困難であるという課題がある。
【0011】
本発明は、以上の点に鑑み、撹拌抵抗低減と潤滑確保とを良好に両立させることが可能な車両用変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、変速機構から動力が伝達されて回転するデファレンシャルギヤと、前記デファレンシャルギヤが配置されたデファレンシャル機構室と、前記デファレンシャル機構室と隔壁を介して水平方向に隣接して配置され、オイルを貯留するオイル室と、前記デファレンシャル機構室の底部に溜まり前記デファレンシャルギヤの回転により掻き揚げられたオイルを前記オイル室に戻すために前記オイル室の上部に設けられた戻し口と、前記隔壁に設けられ、前記デファレンシャル機構室と前記オイル室とを連通する第1の連通路と、前記隔壁に前記第1の連通路より上方に設けられ、前記デファレンシャル機構室と前記オイル室とを連通する第2の連通路とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、デファレンシャルギヤが低速回転し掻き揚げられるオイルが少ないときなど、オイル室に戻るオイルが少ない場合には、オイル室に貯留されるオイルの油面が低くなるので、オイル室からデファレンシャル機構室に第1の連通路のみを介してオイルが供給される。
【0014】
従って、デファレンシャル機構室の底部には必要量を大きく超えるオイルが溜らないので、オイルの粘性に伴うデファレンシャルギヤによるオイルの連れ廻り量が減少して、デファレンシャルギヤの攪拌抵抗が減少し、攪拌損失が抑制される。よって、燃費が向上する。
【0015】
一方、デファレンシャルギヤが高速回転し掻き揚げられるオイルが多いときなど、オイル室に戻るオイルが多い場合には、オイル室に貯留されるオイルの油面が高くなり、第1の連通路だけでなく第2の連通路を介してもオイル室からデファレンシャル機構室にオイルが供給される。
【0016】
従って、デファレンシャル機構室に供給されるオイルが多くなり、デファレンシャル機構室の底部に溜るオイルが不足するおそれがない。これにより、デファレンシャルギヤのオイル掻き揚げによって潤滑される各部の潤滑不足を確実に防止することができる。
【0017】
このように、本発明によれば、デファレンシャル機構室の底部に必要最低限のオイル量を常に確保することが可能となるとともに、デファレンシャルギヤの撹拌抵抗を低減させることが可能となる。
【0018】
また、本発明において、前記デファレンシャル機構室に溜まり前記デファレンシャルギヤにより掻き揚げられたオイルを前記戻し口に導く導入路を備えることが好ましい。
【0019】
この場合、デファレンシャルギヤで掻き揚げられ自動変速機内の各部で潤滑に供されたオイルを、導入路によって戻り口を介してオイル室内に早く戻すことができる。従って、オイル室内のオイルが不足するおそれを低減することが可能となる。
【0020】
なお、本発明において、第2の連通路が高過ぎる位置に設けられた場合には、デファレンシャルギヤの底部に溜るオイルが不足するおそれが生じる。
【0021】
そこで、前記第2の連通路は、前記デファレンシャルギヤの回転が停止しているときに前記デファレンシャル機構室の底部に溜るオイルの油面高さ以下の高さに設けられることが好ましい。
【0022】
また、本発明において、前記デファレンシャルギヤが低速回転から高速回転するに伴い、前記戻し口から前記オイル室に戻るオイル量が、前記第1の連通路を介して前記オイル室から前記デファレンシャル機構室に供給されるオイル量より少ない状態から多い状態に移り変ることが好ましい。
【0023】
この場合、デファレンシャルギヤのある回転数において、戻し口からオイル室に戻るオイル量が、第1の連通路を介してオイル室からデファレンシャル機構室に供給されるオイル量より少ない状態から多い状態に移り変ることになる。
【0024】
これにより、デファレンシャルギヤが前記ある回転数より低速で回転する場合には、第1の連通路のみを介してオイル室からデファレンシャル機構室にオイルが供給され、デファレンシャル機構室の底部には必要量を大きく超えるオイルが溜らないので、デファレンシャルギヤの攪拌抵抗が減少し、燃費が向上する。
【0025】
一方、デファレンシャルギヤが前記ある回転数より高速で回転する場合には、第1の連通路だけでなく第2の連通路を介してもオイル室からデファレンシャル機構室にオイルが供給され、デファレンシャル機構室に供給されるオイルが多くなるので、デファレンシャルギヤのオイル掻き揚げによって潤滑される各部の潤滑不足を確実に防止することができる。
【0026】
なお、前記ある回転数は、変速機構及びデファレンシャル機構の構成や材質、第1及び第2の連通路の高さ位置や断面積、オイル粘度、オイル温度などによって定まるものであり、一定の所定値ではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る自動変速機を示す模式側面図。
【図2】自動変速機を説明するための概念断面図。
【図3】バッフルプレートを取り付けたメインケースをトルクコンバータ側から見た状態を示す概略斜視図。
【図4】バッフルプレートを取り付けたメインケースを変速機構側から見た状態を示す概略断面斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る自動変速機10について図面を参照して説明する。
【0029】
図1に模式的に示すように、自動変速機10は、トルクコンバータ11、変速機構12及びデファレンシャル機構13が、変速機ケース14内に収容されてなるものである。自動変速機10は、図示しないが、車両に搭載され、内燃機関(エンジン)などの駆動源の出力を変速して左右の駆動輪に伝達する。
【0030】
図2に示すように、変速機構12は、ベルト式の無段変速機(Continuous Variable Transmission、CVT)からなる。変速機構12は、互いに平行に設けられた入力軸21と駆動プーリ軸22、被動プーリ軸23、及びアイドル軸24を備えている。
【0031】
駆動プーリ軸22と被動プーリ軸23との間には、Vベルト機構25が設けられている。Vベルト機構25は、駆動プーリ軸22に設けられた駆動プーリ26と、被動プーリ軸23に設けられた被動プーリ27と、これらプーリ26,27の間に巻き掛けられた金属製のVベルト28とから構成されている。
【0032】
入力軸21からトルクコンバータ11(図1参照)を介して入力される前記駆動源からの出力は、Vベルト機構25を介して無段階の変速比(レシオ)で変速されて、被動プーリ軸23を車両前進方向、又は車両後進方向に回転させる。
【0033】
デファレンシャル機構13は、変速機ケース14に回転自在に支持された中空状の図示しないデファレンシャルケースと、このデファレンシャルケースに一体に取り付けられたファイナルギヤ(デファレンシャルギヤ)31とを備えている。ファイナルギヤ31と被動プーリ軸23に設けられたギヤ29とが噛合することにより、変速機構12の出力軸である被動プーリ軸23がデファレンシャル機構13に接続されている。デファレンシャル機構13は、変速機構12より下方に配置されている。
【0034】
図1に示すように、変速機ケース14は、変速機構12を収容するメインケース41と、トルクコンバータ11を収容するコンバータケース42とからなる。そして、メインケース41の下面には、オイルパン43が取り付けられている。オイルパン43は、板金を受け皿形状に形成したものである。オイルパン43には、ATF(Automatic Transmission Fluid)と呼ばれるオイルが貯留される。
【0035】
図1及び図2に示すように、変速機ケース14は、トルクコンバータ11を収容するコンバータ室51、変速機構12を収容する変速機構室52、デファレンシャル機構13を収容するデファレンシャル機構室53、及びオイルパン室(オイル室)(制御室)54が、その内部に区画されている。
【0036】
メインケース41は、周方向に連続する略筒状の外周壁41aと、変速機構室52とデファレンシャル機構室53とを区画する中間壁41b(図4参照)と、外周壁41a内を変速機構室52及びデファレンシャル機構室53側とオイルパン室54側と区画する隔壁41c,41dとが一体形成されている。コンバータケース42は、周方向に連続する筒状の外周壁42aを有している。
【0037】
隔壁41cは、略水平に形成されて、変速機構室52とオイルパン室54とを区画する。隔壁41cは、オイルパン室54の上面壁となっている。隔壁41cには、変速機構室52からオイルをオイルパン室54内に戻すための戻し口(開口)41eが上下方向に貫通して形成されている。
【0038】
隔壁41dは、デファレンシャル機構13の下部に沿った外周壁41aの端部から連続して略円弧状に上方に延びて、隔壁41cの端部と接続するように形成され、デファレンシャル機構室53とオイルパン室54とを区画する。隔壁41dは、オイルパン室54のデファレンシャル機構室53側の側壁となっている。外周壁41aの最下部は、隔壁41dの下端部より下方に位置している。
【0039】
隔壁41dには、2つ連通路41f,41gが形成されている。これらの連通路41f,41gは、隔壁41dを水平方向に貫通する小孔からなり、デファレンシャル機構室53とオイルパン室54とを連通し、オイルが自由に通過できるように構成されている。
【0040】
2つ連通路41f,41gは上下に間隔を隔てて形成されており、第1の連通路41fは第2の連通路41gよりも下方に位置している。第2の連通路41gは、車両が水平で、ファイナルギヤ31の回転が停止しているときにデファレンシャル機構室53の底部に溜るオイルの油面高さとほぼ等しいかそれ以下の高さに形成されている。
【0041】
メインケース41とコンバータケース42とは、互いの合せ面を突き合わせた状態で図示しないボルトで締結されることにより、結合されている。この結合によって、デファレンシャル機構13が収容され、ファイナルギヤ31が配置されるデファレンシャル機構室53が形成される。メインケース41の底面、隔壁41c及びコンバータケース42の底面は、ファイナルギヤ31の側周面との間に隙間を隔てて位置している。
【0042】
変速機構室52とデファレンシャル機構室53とは、入力軸21の軸方向に直交する平面内で隣り合い、互いに連通している。デファレンシャル機構室53の底部は、変速機構室52の底部よりも低い位置に形成されている。
【0043】
メインケース41の下部にオイルパン43が図示しないボルトで締結されることにより取り付けられている。この取り付けによって、デファレンシャル機構室53の前方にオイルパン室54が形成される。オイルパン室54には、バルブボディ61及びオイルストレーナ62が収容されている。
【0044】
バルブボディ61には、オイルパン室54内のオイルを自動変速機10の各部に供給する際の油圧を制御する油圧制御バルブが内蔵されている。オイルストレーナ62は、オイルパン室54からバルブボディ61に供給されるオイルに含まれる異物を除去する。
【0045】
変速機構室52には、オイルポンプ63が配置されている。オイルポンプ63は、入力軸21からチェーン駆動されて回転し、オイルパン室54内のオイルをオイルストレーナ62を介して汲み上げ、自動変速機10の各部に供給する。
【0046】
図3及び図4に示すように、被動プーリ軸23とデファレンシャル機構13のファイナルギヤ31の付近には、バッフルプレート64が配置されている。バッフルプレート64は、デファレンシャル機構室53の底部に溜り、ファイナルギヤ31が回転することによって掻き揚げられて飛散したオイルを整流する。なお、図3では、斜線部分はメインケース41の合せ面であり、ボルト締結穴などは省略されている。図2では、白抜き矢印は車両前進時のファイナルギヤ31の回転方向を示している。
【0047】
以下の説明では、バッフルプレート64の表面側はトルクコンバータ11側を、裏面側は変速機構12側をそれぞれ意味する。また、バッフルプレート64の上下は、バッフルプレート64を自動変速機10に組み付けたときの重力方向における上下を意味する。
【0048】
バッフルプレート64は、被動プーリ軸23が挿通され、被動プーリ軸23の略上半分の側面を覆う短い略半円筒状の小覆部64aと、ファイナルギヤ31の軸部が挿通され、ファイナルギヤ31の略上半分の表面及び側面を微小な隙間を隔てて覆う短い略半筒状のギヤ覆部64bとが連続して一体形成されている。
【0049】
小覆部64aの側面には切り欠き64cが形成されている。小覆部64aとギヤ覆部64bと結合部には、円弧状の切り込み64dが形成されている。
【0050】
また、バッフルプレート64の裏面側には、全体としてバッフルプレート64を斜めに横切るように延び、小覆部64a及びギヤ覆部64bと一体に形成されたスロープ64eが突出している。詳細には、スロープ64eは、小覆部64aの側方で円弧状に延びて被動プーリ27の側面を微小な隙間を隔てて覆い、切り欠き64c及び切り込み64dの下方を通り、ファイナルギヤ31の軸部の上方を円弧状に延びて、ギヤ覆部64bの端部まで延びている。
【0051】
さらに、ギヤ覆部64bの側面には、スロープ64eより少し下方に切り欠き64fが形成されている。
【0052】
以下、本発明の実施形態に係る自動変速機10におけるオイル潤滑について説明する。
【0053】
バルブボディ61やオイルポンプ63が予め設定された運転条件に従って作動することにより、オイルパン室54内のオイルが自動変速機10内の各部の潤滑に供される。各部の潤滑に供されたオイルは、メインケース41の内壁面やバッフルプレート64等に沿って流れ落ちるなどして、オイルパン室54内に戻される。
【0054】
詳細には、ファイナルギヤ31で掻き揚げられたオイルは、バッフルプレート64で受けられ、矢印で示すように、切り欠き64fを通ってデファレンシャル機構13の軸部に送られ、ファイナルギヤ31のベアリングなどの潤滑に供される。
【0055】
また、ギヤ覆部64bの側面を覆う部分によって飛散を妨げられたオイルは、切り欠き64cを通って裏面側に流れ、被動プーリ27の軸部に送られ、被動プーリ27のベアリングなどの潤滑に供される。
【0056】
また、切り込み64dを通って裏面側に流れたオイルや、被動プーリ27のベアリングなど変速機構12の各部の潤滑に供されたオイルは、スロープ64eやバッフルプレート64の裏面に沿って流れ、戻し口41eを介してオイルパン室54内に戻る。なお、本実施形態ではスロープ64eに沿って戻り口41eに流れるオイルの経路Aが、本発明の導入路に相当する。
【0057】
このように、ファイナルギヤ31で掻き揚げられて飛散したオイルは、バッフルプレート64によってオイルパン室54内に早く戻すことができる。よって、オイルパン室54内のオイルが不足するおそれを低減することが可能となる。
【0058】
ファイナルギヤ31の停止が長時間持続した状態では、デファレンシャル機構室53内のオイルの油面高さは、第2の連通路41gの高さと略同じである。このとき、デファレンシャル機構室53とオイルパン室54とは第1の連通路41fで連通されているので、デファレンシャル機構室53内のオイルとオイルパン室54とオイルとの油面高さは等しくなっている。
【0059】
そして、ファイナルギヤ31の回転速度が上昇するに従って、ファイナルギヤ31で掻き揚げられて飛散し、デファレンシャル機構13及び変速機構12などの各部の潤滑に供されるオイルは多くなる。これら潤滑に供されたオイルは、戻し口41eを介してオイルパン室54内に戻り、集積される。
【0060】
このように、ファイナルギヤ31の回転速度が上昇するに従って、デファレンシャル機構室53内の油面高さが低下して、オイルに浸漬するファイナルギヤ31の下端部分が減少する。そのため、オイルの粘性に伴うファイナルギヤ31によるオイルの連れ廻り量が減少して、ファイナルギヤ31の攪拌抵抗が減少するので、攪拌損失が抑制される。よって、燃費が向上する。
【0061】
ファイナルギヤ31が低速回転する状態では、ファイナルギヤ31で掻き揚げられ飛散するオイルは少なく、潤滑に供されてオイルパン室54に戻るオイルも少ないので、オイルパン室54内の油面高さも低下する。しかし、第1の連通路41fより低いオイルはデファレンシャル機構室53に供給されないので、オイルパン室54内の油面高さは、常に第1の連通路41fより高く、第1の連通路41fと第2の連通路41gとの高さの間に位置する。これにより、オイルパン室54からデファレンシャル機構室53に第1の連通路41fを介して常にオイルが供給される。
【0062】
従って、デファレンシャル機構室53の底部に常に必要最低限のオイル量が確保され、ファイナルギヤ31で掻き揚げられるオイルが不足するおそれがない。これにより、ファイナルギヤ31のオイル掻き揚げによって潤滑される各部の潤滑不足を確実に防止することができる。
【0063】
なお、第1の連通路41fより低い位置に存在するオイルパン室54内のオイルだけで、オイルポンプ63で必要な最小限なオイル量を満たすように、第1の連通路41fの高さは設定されている。なお、オイルポンプ入口につながる吸込路(図示せず)は、第1の連通路41fより低い位置に配置される。
【0064】
ファイナルギヤ31が高速回転する状態では、ファイナルギヤ31で掻き揚げられ飛散するオイルは多く、潤滑に供されてオイルパン室54に戻るオイルも多くなり、オイルパン室54内の油面高さが高くなる。オイルパン室54内の油面高さが、第2の連通路41gより高くなると、第1の連通路41fだけでなく、第2の連通路41gを介しても、オイルパン室54からデファレンシャル機構室53にオイルが供給される。
【0065】
そのため、デファレンシャル機構室53に供給されるオイルが多くなり、デファレンシャル機構室53の底部に溜るオイルが不足するおそれがない。これにより、ファイナルギヤ31のオイル掻き揚げによって潤滑される各部の潤滑不足を確実に防止することができる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態に係る自動変速機10によれば、デファレンシャル機構室53の底部に必要最低限のオイルが確保されるとともに、ファイナルギヤ31の撹拌抵抗を低減させ、燃費を向上させることが可能となる。
【0067】
なお、ファイナルギヤ31のある回転数Nにおいて、戻し口41eからオイルパン室54に戻るオイル量が、第1の連通路41fを介してオイルパン室54からデファレンシャル機構室53に供給されるオイル量より少ない状態から多い状態に移り変り、前述した低速回転と高速回転との切り替わり点となる。このような回転数Nは、変速機構12及びデファレンシャル機構13の構成や材質、第1及び第2の連通路41f,41gの高さ位置や断面積、オイル粘度、オイル温度などによって定まるものであり、一定の所定値ではない。
【0068】
そして、2つの連通路41f,41gを介して流れるオイルの量は、連通路41f,41gの断面積を適宜変えることによって調整することができ、これに伴い回転数Nも変化する。これらの設定値は、設計者が適宜定めるものであり、特に限定されない。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、自動変速機10がベルト式の無段式変速機である場合について説明したが、本発明に係る車両用変速機は、ベルト式以外の無段式自動変速機、有段式自動変速機、手動式変速機であってもよい。
【0070】
また、隔壁41dに2つの連通路41f,41gを設ける場合について説明したが、隔壁41dに3つ以上の連通路を設けてもよい。さらに、メインケース41の隔壁41dに2つの孔を形成して2つの連通路41f,41gを設ける場合について説明したが、例えば、隔壁41dに孔を形成して1つの連通路を設け、他の連通路を隔壁41dとオイルパン43との隙間からなるものとしてよい。
【符号の説明】
【0071】
10…自動変速機、 11…トルクコンバータ、 12…変速機構、 13…デファレンシャル機構、 14…変速機ケース、 21…入力軸、 22…駆動プーリ軸、 23…被動プーリ軸、 25…Vベルト機構、 26…駆動プーリ、 27…被動プーリ、31…ファイナルギヤ(デファレンシャルギヤ)、 41…メインケース、 41a…外周壁、 41b…中間壁、 41c…隔壁、 41d…隔壁、 41e…戻し口、 41f…第1の連通路、 41g…第2の連通路、 42…コンバータケース、 43…オイルパン、 51…コンバータ室、 52…変速機構室、 53…デファレンシャル機構室、 54…オイルパン室(オイル室)、 61…バルブボディ、 62…オイルストレーナ、 63…オイルポンプ、 64…バッフルプレート、 64a…小覆部、 64b…ギヤ覆部、 64c…切り欠き、 64d…切り込み、 64e…スロープ、 64f…切り欠き、 A…経路(導入路)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機構から動力が伝達されて回転するデファレンシャルギヤと、
前記デファレンシャルギヤが配置されたデファレンシャル機構室と、
前記デファレンシャル機構室と隔壁を介して水平方向に隣接して配置され、オイルを貯留するオイル室と、
前記デファレンシャル機構室の底部に溜まり前記デファレンシャルギヤの回転により掻き揚げられたオイルを前記オイル室に戻すために前記オイル室の上部に設けられた戻し口と、
前記隔壁に設けられ、前記デファレンシャル機構室と前記オイル室とを連通する第1の連通路と、
前記隔壁に前記第1の連通路より上方に設けられ、前記デファレンシャル機構室と前記オイル室とを連通する第2の連通路とを備えたことを特徴とする車両用変速機。
【請求項2】
前記デファレンシャル機構室に溜まり前記デファレンシャルギヤの回転により掻き揚げられたオイルを前記戻し口に導く導入路を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両用変速機。
【請求項3】
前記第2の連通路は、前記デファレンシャルギヤの回転が停止しているときに前記デファレンシャル機構室の底部に溜るオイルの油面高さ以下の高さに設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用変速機。
【請求項4】
前記デファレンシャルギヤが低速回転から高速回転するに伴い、前記戻し口から前記オイル室に戻るオイル量が、前記第1の連通路を介して前記オイル室から前記デファレンシャル機構室に供給されるオイル量より少ない状態から多い状態に移り変ることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両用変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−113303(P2013−113303A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256856(P2011−256856)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】