説明

車両用情報表示装置

【課題】 インストルメントパネル上に表示される情報よりもフロントウインドシールド上に表示される情報に対して、運転者の視線を優先的に誘導する。
【解決手段】 フロントウインドシールド16上へのヘッドアップディスプレイ装置による情報17Aの表示から0.2秒経過前にマルチインフォメーションディスプレイ15への情報17Bの表示が開始されないようにし、フロントウインドシールド16への運転者の視線誘導が遅れるのを防止する。またヘッドアップディスプレイ装置による情報17Aの表示から0.6秒経過後にマルチインフォメーションディスプレイ15への情報17Bの表示が開始されないようにして、一旦フロントウインドシールド16の表示に移動した運転者の視線がマルチインフォメーションディスプレイ15の表示に奪われるのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントウインドシールド上に虚像で情報を表示するヘッドアップディスプレイ装置と、インストルメントパネル上に輝度変化により情報を表示する表示手段と、前記ヘッドアップディスプレイ装置および前記表示手段を並行して作動させる制御手段とを備える車両用情報表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インストルメントパネルに設けたメータパネルのマルチインフォメーションディスプレイに種々の情報を表示するための車両用情報表示装置において、乗員に報知すべき緊急の報知情報が複数発生した場合に、それらを優先順位に応じて一覧可能に多重表示するものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−217030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、メータパネルのマルチインフォメーションディスプレイにLEDや液晶パネルで表示される情報は、高輝度で表示可能であるために乗員の視線を引き付けて確実に報知できる利点があるが、逆に乗員の視線がマルチインフォメーションディスプレイに表示される情報に強く引き付けられ過ぎると、視線の方向が下がってフロントウインドシールドを通しての前方視界の確認が疎かになる可能性がある。
【0005】
またフロントウインドシールドに虚像で情報を表示するヘッドアップディスプレイ装置が知られており、このヘッドアップディスプレイ装置を用いれば、乗員はフロントウインドシールドを通して前方視界を確認しながら、同じフロントウインドシールド上に表示された情報を同時に認識することができる。
【0006】
ところで、例えば先行車との車間距離が過小になったときに追突を防止すべく運転者にブレーキ操作を促す情報は、法規によって音および表示によって報知することが義務付けられているが、フロントウインドシールド上の表示では必ず見えることが保証できないため、並行してインストルメントパネル上にも情報を表示することが必要である。この情報を、インストルメントパネル上の表示と並行してヘッドアップディスプレイ装置によりフロントウインドシールド上に表示した場合、乗員の視線がインストルメントパネル上の表示に引き付けられてしまうと、ヘッドアップディスプレイ上の表示から視線が外れてフロントウインドシールドを通しての前方視界の確認が不充分になる可能性がある。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、インストルメントパネル上に表示される情報よりもフロントウインドシールド上に表示される情報に対して、運転者の視線を優先的に誘導することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、フロントウインドシールド上に虚像で情報を表示するヘッドアップディスプレイ装置と、インストルメントパネル上に輝度変化により情報を表示する表示手段と、前記ヘッドアップディスプレイ装置および前記表示手段を並行して作動させる制御手段とを備える車両用情報表示装置において、前記ヘッドアップディスプレイ装置による表示に乗員の視線誘導を促す場合には、前記制御手段は、前記ヘッドアップディスプレイ装置による表示の開始から第1の所定時間経過後かつ第2の所定時間経過前に前記表示手段による表示を開始することを特徴とする車両用情報表示装置が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記第1の所定時間は約0.2秒であり、前記第2の所定時間は約0.6秒であることを特徴とする車両用情報表示装置が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記表示手段は、メータパネル内に設けられたマルチインフォメーションディスプレイ、あるいはナビゲーションシステムのディスプレイであることを特徴とする車両用情報表示装置が提案される。
【0011】
尚、実施の形態のマルチインフォメーションディスプレイ15は本発明の表示手段に対応し、実施例の電子制御ユニットUは本発明の制御手段に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、フロントウインドシールド上に虚像で情報を表示するヘッドアップディスプレイ装置と、インストルメントパネル上に輝度変化により情報を表示する表示手段とのうち、ヘッドアップディスプレイ装置による表示に乗員の視線誘導を促す場合に、ヘッドアップディスプレイ装置による表示の開始から第1の所定時間経過後かつ第2の所定時間経過前に表示手段による表示を開始する。これにより、ヘッドアップディスプレイ装置による表示の開始から第1の所定時間経過前に表示手段による表示が開始されないようにし、ヘッドアップディスプレイ装置による表示への運転者の視線誘導が遅れるのを防止するとともに、ヘッドアップディスプレイ装置による表示の開始から第2の所定時間経過後に表示手段による表示が開始されないようにし、一旦ヘッドアップディスプレイ装置の表示に移動した運転者の視線が表示手段の表示に奪われるのを防止して、運転者の視線をヘッドアップディスプレイ装置の表示に確実に誘導することができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、第1の所定時間を約0.2秒とし、第2の所定時間を約0.6秒としたので、インストルメントパネル上の表示手段による表示が、ヘッドアップディスプレイ装置による表示への運転者の視線誘導を阻害するのを確実に阻止することができる。
【0014】
また請求項3の構成によれば、メータパネル内に設けられたマルチインフォメーションディスプレイ、あるいはナビゲーションシステムのディスプレイで表示手段を構成することで、インストルメントパネル上に表示を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】運転者から見たフロントウインドシールド上の表示およびマルチインフォメーションディスプレイ上の表示を示す図。
【図2】ヘッドアップディスプレイの構造を示す図。
【図3】サッケード抑制期間の説明図。
【図4】視線誘導刺激および妨害刺激の効果を測定する実験装置の説明図。
【図5】妨害刺激が無効になる期間の説明図。
【図6】サッケード潜時の説明図。
【図7】被験者の年齢によるサッケード潜時の変化を示す図。
【図8】視線の回転角に応じたサッケード期間の変化を示す図。
【図9】マルチインフォメーションディスプレイ上に情報を表示するタイミングを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図9に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1に示すように、運転者の前方のインストルメントパネル11に配置されたメータパネル12には、スピードメータ13およびタコメータ14以外に、オッドメータ、トリップメータ、水温計、気温計、各種の情報等を表示するマルチインフォメーションディスプレイ15が設けられる。インストルメントパネル11の上方に連なるフロントウインドシールド16には、後述するヘッドアップディスプレイ装置により情報が表示される。図において表示されている情報17A,17Bは、衝突被害軽減ブレーキ装置が作動していることを乗員に報知するものである。フロントウインドシールド16に情報17Aが表示されるとき、マルチインフォメーションディスプレイ15には同じ情報17Bが表示される。
【0018】
図2に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置18は、インストルメントパネル11の内部に配置された映像出力手段19と反射鏡20とを備えており、映像出力手段19が出力した映像が反射鏡20に反射した後に、フロントウインドシールド16のハーフミラー部に反射することで、運転者は情報17Aをフロントウインドシールド16の前方にある虚像として視認することができる。
【0019】
メータパネル12およびヘッドアップディスプレイ装置18の作動を制御する電子制御ユニットUは、フロントウインドシールド16による情報17Aの表示およびマルチインフォメーションディスプレイ15による情報17Bの表示を異なるタイミングで開始する。その理由は、運転者の視線がマルチインフォメーションディスプレイ15による情報17Bに誘導されることなく、ヘッドアップディスプレイ装置18によるフロントウインドシールド16上の情報17Aに優先的に誘導されるようにし、フロントウインドシールド16を通して見える前方の視界をヘッドアップディスプレイ装置18による情報17Aと同時に認識できるようにするためである。
【0020】
次に、フロントウインドシールド16の情報17Aの表示およびマルチインフォメーションディスプレイ15の情報17Bの表示を開始するタイミングを決めるサッケード抑制について説明する。
【0021】
サッケード(跳躍性眼球運動)とは、周辺視野で視覚刺激が呈示された場合に、その呈示された視覚刺激の方向に視線が移動する現象を言い、そのサッケードによって一時的に視覚が途絶えて見えなくなることがサッケード抑制である。図3において、網かけを施した期間がサッケード期間であり、そのサッケード期間の所定時間前(通常、40msec程度)から所定時間後(通常、60msec程度)までが、視覚が抑制されて何も見えなくなるサッケード抑制期間となる。
【0022】
図4は、視線を目標の方向に誘導する誘導刺激の効果と、それを妨害する妨害刺激の効果とを調べる実験の手法を示すものである。前記誘導刺激は、運転者の視線をフロントウインドシールド16に誘導するヘッドアップディスプレイ装置18の情報17Aに対応し、前記妨害刺激は運転者の視線をフロントウインドシールド16から奪うマルチインフォメーションディスプレイ15の情報17Bに対応する。
【0023】
「+」で示す注視点の両側に「8」字状の図形が左右対称に表示されており、その左右一方の図形が、その下方で発光による視線誘導刺激が発生すると同時に「8」字状から「E」字状に変化する。注視点に視線を合わせた被験者が、右側の図形が変化したときには右側の矢印キーを押し、左側の図形が変化したときには左側の矢印キーを押すことで、視線誘導刺激が発生して図形が変化した時点から矢印キーを押すまでの反応時間を測定する。図5に示すように、視線誘導刺激だけを発生させた場合の反応時間は、平均で650msecである。
【0024】
次に、視線誘導刺激が発生して図形が変化した時点から所定時間遅れて変化しない方の図形の下方で発光による視線誘導刺激を発生させ、上述したのと同様に視線誘導刺激が発生して図形が変化した時点から被験者が矢印キーを押すまでの反応時間を測定する。図5に示すように、視線誘導刺激が発生して図形が変化してから妨害刺激が発生するまでの時間が200msecまでの領域では、妨害刺激の影響で反応時間が妨害刺激が無い場合の平均値である650msecよりも長くなる。しかしながら、視線誘導刺激が発生して図形が変化してから妨害刺激が発生するまでの時間が200msecを超える領域では、妨害刺激の影響は殆ど無くなり、反応時間が妨害刺激が無い場合の平均値である650msecに近くなる。
【0025】
従って、フロントウインドシールド16に情報17A(視線誘導刺激)を表示してから200msec以内にマルチインフォメーションディスプレイ15に情報17B(妨害刺激)を表示すると、運転者のフロントウインドシールド16への視線誘導が阻害されることが分かる。
【0026】
図6に示すように、視線誘導刺激の呈示からサッケード(跳躍性眼球運動)が開始するまでの遅れ時間がサッケード潜時と定義される。図7に示すように、サッケード潜時は年齢の増加に伴い増加する傾向にあるが、最大値で350msec程度であることが知られている。
【0027】
図8に示すように、サッケードの開始から終了までの期間であるサッケード期間は、眼球の回転角、つまり視線の回転角の増加に応じて増加する。自動車を運転する際の運転者の視線の回転角は±60°程度であり、その場合のサッケード期間は200msec程度である。
【0028】
サッケード潜時の350msecと、サッケード期間は200msecと、サッケードが終了してから視覚が回復するまでの期間の60msec(図3および図6参照)とを加算すると610msecとなる。即ち、フロントウインドシールド16に情報17A(視線誘導刺激)を表示してから約600msec以内にマルチインフォメーションディスプレイ15に情報17B(妨害刺激)を表示すれば、その妨害刺激は視認されないため、視線誘導刺激による視線誘導が阻害されることが防止される。
【0029】
図9は以上のことを纏めたものであり、フロントウインドシールド16に情報17Aを表示してから200msec以内は、マルチインフォメーションディスプレイ15に情報17Bを表示しないことで、その情報17Bによりフロントウインドシールド16の情報17Aへの運転者の視線誘導が遅れるのを阻止することができる。またフロントウインドシールド16に情報17Aを表示してから600msec以上が経過した後にマルチインフォメーションディスプレイ15に情報17Bを表示しないことで、一旦フロントウインドシールド16の情報17Aに誘導された運転者の視線がマルチインフォメーションディスプレイ15の情報17Bに奪われるのを阻止することができる。
【0030】
つまり、フロントウインドシールド16に情報17Aを表示してから200msec以上、かつ600msec未満の期間にマルチインフォメーションディスプレイ15に情報17Bを表示すれば、マルチインフォメーションディスプレイ15の情報17Bの影響を受けずに、フロントウインドシールド16に運転者の視線を確実に誘導することができる。これにより、運転者はフロントウインドシールド16の情報17Aと自車前方の状況の両方を同時に認識することができ、先行車に対する異常接近や障害物との接触を効果的に防止することができる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0032】
例えば、本発明の表示手段は、メータパネル12内に設けられたマルチインフォメーションディスプレイ15に限定されず、インストルメントパネル11に設けられたナビゲーションシステムのディスプレイや、インストルメントパネル11に設けられた発光可能なスイッチ類であっても良い。
【符号の説明】
【0033】
11 インストルメントパネル
15 マルチインフォメーションディスプレイ(表示手段)
16 フロントウインドシールド
18 ヘッドアップディスプレイ装置
U 電子制御ユニット(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウインドシールド(16)上に虚像で情報を表示するヘッドアップディスプレイ装置(18)と、インストルメントパネル(11)上に輝度変化により情報を表示する表示手段(15)と、前記ヘッドアップディスプレイ装置(18)および前記表示手段(15)を並行して作動させる制御手段(U)とを備える車両用情報表示装置において、
前記ヘッドアップディスプレイ装置(18)による表示に乗員の視線誘導を促す場合には、前記制御手段は、前記ヘッドアップディスプレイ装置(18)による表示の開始から第1の所定時間経過後かつ第2の所定時間経過前に前記表示手段(15)による表示を開始することを特徴とする車両用情報表示装置。
【請求項2】
前記第1の所定時間は約0.2秒であり、前記第2の所定時間は約0.6秒であることを特徴とする、請求項1に記載の車両用情報表示装置。
【請求項3】
前記表示手段は、メータパネル(12)内に設けられたマルチインフォメーションディスプレイ(15)、あるいはナビゲーションシステムのディスプレイであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用情報表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−221730(P2010−221730A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67958(P2009−67958)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】