説明

車両用操舵装置

【課題】転舵反力によって転舵軸に負荷されるラジアル荷重の影響を抑制することができ耐久性に優れた車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】操舵に伴って路面からの転舵反力として転舵軸18の第1の端部181に後方Y2へのラジアル荷重R1が付与される。第1の後輪の接地点における上方への接地反力によって、第1のナックルおよび第1のキングピンを介して、アクスルビーム26の第1の端部261がねじり中心C1の回りに、左方から見て右回り(ねじりモーメントM1を参照)にねじられる。連結部材43が前方Y1に移動し、転舵軸18の第1の端部181に前方Y1への反対荷重F1を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤからステアリング・ナックルを介してラックに伝達されるラジアル荷重とスラスト荷重を弾性体を介して伝達するステアリング制御装置が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
また、電動モータによってボールナットを回転駆動し、そのボールナットの回転をボールねじロッドの軸方向移動に変換し、ボールねじロッドの両端に連結されたナックルを介して転舵輪を駆動する電動パワーステアリング装置が提案されている(例えば特許文献2,3を参照)。
【0003】
また、車体に支持可能なビーム部と、上記ビーム部の長手方向両端に固着される、キングピンを支持するためのボス部とを有し、上記ビーム部の内部に、前後上下が取り囲まれた空間が形成されたアクスルビームが提案されている(例えば特許文献4を参照。)
また、パワーステアリングモータによってボールねじ機構を介して軸方向に駆動されるシャフトの端部の動きを、リンク(タイロッド)および継手(ナックル)を介して、駆動する電動アクチュエータが提案されている(例えば特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3−56944号公報〔図6(a)〜(c)、第14頁第28欄第9行〜第16頁第32欄第42行〕
【特許文献2】特開平7−237549号号公報(図9、要約)
【特許文献3】特開平10−226340号公報(要約)
【特許文献4】特開2004−338872号公報(要約)
【特許文献5】特表2007−531489号公報(図2、図12、第54段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
産業車両や福祉車両においては、後輪を転舵するタイプの車両が多く、そのような車両では、所要の操舵角を確保するためには、転舵輪としての後輪を大きな転舵角で転舵する必要がある。このため、転舵軸が、路面からの転舵反力による多大なラジアル荷重を受ける傾向にある。例えば、ステアバイワイヤ式の車両では、転舵軸に設けられたボールねじ機構やこれを駆動するアクチュエータが多大なラジアル荷重を受けて、耐久性が低下する。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、転舵反力によって転舵軸に負荷されるラジアル荷重の影響を抑制することができ耐久性に優れた車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、中央位置で車体に固定されたアクスルビーム(26)の中央部近傍に固定された筒状のハウジング(23)と、上記ハウジングから突出する第1および第2の端部(181,182)を有し、操舵部材(13)の操作に伴って軸方向に駆動される転舵軸(18)と、上記アクスルビームの上記第1および第2の端部にそれぞれ固定された第1および第2のキングピン(27L,27R)回りに揺動可能に支持され、転舵輪としての第1および第2の後輪(6L,6R)をそれぞれ回転可能に支持する第1および第2のナックル(25L,25R)と、上記転舵軸の上記第1および第2の端部を上記第1および第2のナックルにそれぞれ連結する第1および第2のタイロッド(24L,24R)と、路面からの転舵反力として第1の後輪、第1のナックルおよび第1のタイロッドを介して転舵軸の第1の端部に伝達される前後方向のラジアル荷重(R1)に抗する反対荷重(F1)を、転舵軸の第1の端部に付与する第1の反対荷重付与機構(41)と、路面から転舵反力として第2の後輪、第2のナックルおよび第2のタイロッドを介して転舵軸の第2の端部に伝達される前後方向のラジアル荷重(R2)に抗する反対荷重(F2)を、転舵軸の第2の端部に付与する第2の反対荷重付与機構(42)と、を備え、各反対荷重付与機構は、対応する後輪の接地反力によって対応するナックルおよび対応するキングピンを介してアクスルビームの対応する端部がねじられるねじり運動を、上記転舵軸の対応する端部の前後方向の運動に変換する運動変換機構を含む、車両用操舵装置(9)を提供する(請求項1)。
【0008】
本発明では、路面からの転舵反力として各後輪からタイロッドを介して例えば後方へのラジアル荷重が付与されるときに、反対荷重付与機構によって、上記ラジアル荷重に抗する例えば前方への反対荷重を付与することができる。したがって、転舵反力によるラジアル荷重の少なくとも一部を相殺して、転舵軸のラジアル負荷を軽減することができ、耐久性を向上することができる。各後輪の接地反力がキングピンを介してアクスルビームの対応する端部をねじるねじり運動を転舵軸の端部の前後方向の運動に変換する運動変換機構を用いて反対荷重を付与するので、構造が簡単であり、また、応答遅れもない。
【0009】
具体的には、各タイロッドは、上記転舵軸の対応する端部に連結された第1の端部(24L1,24R1)と、対応するナックルの端部に連結された第2の端部(24L2,24R2)と、を含み、上記タイロッドの上記第1の端部が上記タイロッドの上記第2の端部よりも後方(Y2)に配置されるときに、対応する後輪の接地点が、対応するキングピンよりも前方(Y1)に配置されるようにしてある場合がある(請求項2)。
【0010】
これにより、上記ねじり運動の方向を転舵反力の方向に関連付けることができ、転舵反力によるラジアル荷重とは反対の方向に、反対荷重を付与することが可能となる。例えば、転舵軸が左方に移動したときの転舵軸の第1の端部(例えば左の端部)に連結された第1のタイロッドの第1の端部よりも、第1のナックルに連結されたタイロッドの第2の端部が前方に位置するので、転舵軸の第1の端部(例えば左の端部)に後方へのラジアル荷重が働く。このとき、第1の(例えば左の)後輪の接地点が、第1のキングピンよりも前方に位置しているので、第1の(例えば左の)後輪の接地反力によって、第1のナックルおよび第2キングピンを介してアクスルビームの第1の(例えば左の)端部が、転舵軸を第1の方向(例えば左方)から見たときに第1の方向(例えば右回り)にねじられる。このようにアクスルビームの第1の端部(例えば左の端部)がねじられるねじり運動が、運動変換機構によって転舵軸の第1の(例えば左の)端部の前方への運動に変換される。
【0011】
また、各運動変換機構は、前後方向に移動可能に支持され、上記アクスルビームの上記対応する端部と上記転舵軸の上記対応する端部とを連結する連結部材(43)を含み、上記連結部材は、上記アクスルビームの上記対応する端部に連結された第1の連結部(46)と、上記転舵軸の上記対応する端部を上記軸方向に移動可能に支持する軸受(48)を介して上記転舵軸の上記対応する端部に連結された第2の連結部(47)と、を含む場合がある(請求項3)。
【0012】
この場合、連結部材を用いた簡単な構造で、アクスルビームがねじられたときに、転舵軸の対応する端部に対して、前方または後方への反対荷重を付与することができる。また、連結部材の第2の連結部が軸受を介して、転舵軸を軸方向に移動可能に支持しているので、連結部材が、転舵軸の軸方向移動を規制することがない。
また、上記アクスルビームの上記対応する端部および上記連結部材の上記第1の連結部の何れか一方に設けられた連結軸(50)が、他方に設けられた連結孔(51)に嵌合しており、上記連結孔は、上下方向に長い長孔を含む場合がある(請求項4)。この場合、アクスルビームがねじられたときに、連結軸および連結孔の上下方向の相対移動を許容することができるので、連結部材をスムーズに前後方向に移動させることができる。
【0013】
また、各運動変換機構は、上記連結部材を前後方向に移動可能に支持する支持部材(44)を含み、上記支持部材は、上記ハウジングに固定されている場合がある(請求項5)。この場合、連結部材を前後方向にスムーズに移動させることができる。
なお、上記において、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る車両用操舵装置が適用されたフォークリフトの概略構成を示す模式的側面図である。
【図2】転舵機構の一部破断概略斜視図である。
【図3】アクスルビームの平面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】(a)は図3のVa−Va線に沿う断面図であり、(b)は図3のVb−Vb線に沿う断面図である。
【図6】直進走行時の転舵機構の一部破断平面図である。
【図7】図6の状態の転舵機構の概略断面図である。
【図8】転舵角を増大させているときの転舵機構の一部破断平面図である。
【図9】図8の状態の転舵機構の概略断面図である。
【図10】転舵角を減少させているときの転舵機構の一部破断平面図である。
【図11】図10の状態の転舵機構の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好ましい実施の形態の添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施の形態の車両用操舵装置が適用された荷役車両としてのフォークリフトの概略構成を示す模式的側面図である。図1を参照して、フォークリフト1は、車体2と、その車体2の前部に設けられた荷役装置3と、車体2の後部に設けられたカウンタウェイト4と、車体2を支持する駆動輪としての前輪5と、車体2を支持する転舵輪としての第1および第2の後輪6L,6Rと、例えばエンジンを含む車両の駆動源7と、油圧源としての油圧ポンプ8と、後輪6を転舵するための車両用操舵装置9とを備えている。
【0016】
図示していないが、エンジン等の駆動源7の動力は、トルクコンバータを経て、前後進切替および変速動作を行うトランスミッションに伝達され、さらに、デファレンシャルを経て左右の前輪5(駆動輪)に伝達されるようになっている。トランスミッションには、前進クラッチおよび後進クラッチが内蔵されている。
荷役装置3は、車体2によって昇降可能に且つチルト可能に支持された荷物積載部としてのフォーク10と、フォーク10を昇降させるための昇降シリンダ11と、フォーク10を傾動させるチルトシンリダ12とを備える公知の構成である。
【0017】
車両用操舵装置9は、手回しハンドルである操舵部材13と転舵輪である後輪6L,6Rとの間の機械的な連結が断たれた、いわゆるステアバイワイヤ式の車両用操舵装置として構成されている。操舵部材13は、傾斜状のステアリングシャフト14の上端に同伴回転可能に連結されている。また、操舵部材13には、当該操舵部材13を操作するためのノブ15が、回転可能に取り付けられている。
【0018】
車両用操舵装置9は、操舵部材13の操作に応じて転舵輪としての後輪6L,6Rを転舵する転舵アクチュエータ16と、操舵部材13に反力(操舵反力)を付与する反力アクチュエータ17とを備えている。
操舵部材13の回転操作に応じて駆動される転舵アクチュエータ16の動作を、車体2に支持された転舵軸18の車幅方向(紙面とは直交する方向)の直線運動に変換し、この転舵軸18の直線運動を転舵輪としての第1および第2の(左右の)後輪6L,6Rの転舵運動に変換することにより、転舵が達成されるようになっている。
【0019】
本実施の形態では、転舵アクチュエータ16および反力アクチュエータ17は、それぞれ電動モータからなり、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)からなる制御装置19よって駆動制御される。
制御装置19には、操舵部材13の操舵角を検出する操舵角センサ20と、転舵輪としての後輪6L,6Rの転舵角を検出する転舵角センサ21と、車速Vを検出する車速センサ22と、車両の横加速度を検出する横加速度センサ(図示せず)、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ(図示せず)とが接続されている。
【0020】
制御装置19は、操舵角センサ20によって入力検出された操舵角θh および車速センサ22によって検出された車速Vに基づいて、目標転舵角を設定し、この目標転舵角と転舵角センサ21によって検出された転舵角δW との偏差に基づいて、転舵アクチュエータ16を駆動制御(転舵制御)する。
一方、制御装置19は、センサ類20,21,…が出力する検出信号に基づいて、操舵部材13の操舵方向と逆方向の適当な反力が発生されるように、駆動回路(図示せず)を介して、反力アクチュエータ17を駆動制御(反力制御)する。
【0021】
転舵機構A1の概略斜視図である図2を参照して、転舵軸18は、転舵アクチュエータ16を内蔵するハウジング23を挿通している。ハウジング23内には、転舵アクチュエータ16としての電動モータのロータの回転力を、転舵軸18の軸方向移動に変換するボールねじ機構(図示せず)が収容されている。図示していないが、ボールねじ機構は、転舵軸18の一部に設けられたねじ軸と、ねじ軸とボールを介して螺合し、上記ロータと一体回転する軸方向移動不能なボールナットとを有する公知の構成である。
【0022】
転舵軸18は、車幅方向W1に延び、ハウジング23から左右に突出する第1の端部181(左端部に相当)および第2の端部182(右端部に相当)を有している。
転舵輪としての第1の(左の)後輪6Lは、転舵軸18の第1の端部181に、第1のタイロッド24Lおよび第1のナックル25Lを介して連結されている。一方、転舵輪としての第2の(右の)後輪5Rは、転舵軸18の第2の端部182に、第2のタイロッド24Rおよび第2のナックル25Rを介して連結されている。
【0023】
第1のナックル25Lは、アクスルビーム26の第1の端部261(左端部)に固定された鉛直な第1のキングピン27Lの回りに回転可能に支持されている。第1のナックル25Lは、第1の後輪6Lを回転可能に支持している。一方、第2のナックル25Rは、アクスルビーム26の第2の端部262(右端部)に固定された第2のキングピン27Rの回りに回転可能に支持されている。第2のナックル25Rは、第2の後輪6Rを回転可能に支持している。
【0024】
図3はアクスルビーム26の平面図であり、図4は図3のIV−IV線に沿う断面図である。図5(a)は、図3のVa−Va線に沿う断面図であり、図5(b)は図3のVb−Vb線に沿う断面図である。図3および図4に示すように、アクスルビーム26は、車幅方向W1に長く延びている。アクスルビーム26は、台形形状をなす上板28および下板29と、上板28および下板29間を連結する前板30と、上板28および下板29間を連結する後板31とを有している。図4に示すように、アクスルビーム26の中央部の断面は、閉じた矩形をなしている。
【0025】
また、図5(a)、図5(b)に示すように、アクスルビーム26の端部261,262から所定距離の間の部分の断面は、後方に開く溝形をなしている。このため、アクスルビーム26の第1および第2の端部261,262は、アクスルビーム26の中央部分と比較して、ねじれを生じ易くなっている。
アクスルビーム26の長手方向の中央部において、前板30および後板31には、図示しないボルトを介して車体に固定するたのブラケット32,33が固定されている。すなわち、アクスルビーム26は、その中央位置で車体2に固定されている。また、アクスルビーム26の第1および第2の端部261,262には、キングピン挿通孔34,35が形成されている。
【0026】
再び、図2を参照して、転舵軸18を支持するハウジング23は、アクスルビーム26の前板30の後面30aに、例えば左右一対の取付ブラケット36,37を介して固定されている。一対のブラケット36,37の間の距離は十分に確保されている。したがって、ハウジング23は実質的に剛体として機能する。
転舵アクチュエータ16の駆動力は、転舵軸18に関連して設けられたボールねじ機構により、転舵軸18の軸方向Xの直線運動に変換される。この転舵軸18の直線運動は、転舵軸18の両端から突出して設けられた第1および第2のタイロッド24L,24Rに伝達され、第1および第2のナックル25L,25Rの揺動を引き起こす。これにより、対応するナックル25L,25Rに支持された転舵輪6L,6Rの転舵が達成される。 転舵軸6、第1および第2のタイロッド24L,24R、第1および第2のナックル25L,25R並びにボールねじ機構などにより、転舵輪6L,6Rを転舵するための転舵機構A1が構成されている。
【0027】
本実施の形態の主に特徴とするところは、車両用操舵装置9が、第1の反対荷重付与機構41および第2の反対荷重付与機構42を備えている点にある。
第1の反対荷重付与機構41は、路面からの転舵反力として第1の後輪6L、第1のナックル25Lおよび第1のタイロッド24Lを介して転舵軸18の第1の端部181に伝達される前後方向のラジアル荷重R1に抗する反対荷重F1を、転舵軸18の第1の端部181に付与するように機能する。
【0028】
また、第2の反対荷重付与機構42は、路面から転舵反力として第2の後輪6R、第2のナックル25Rおよび第2のタイロッド24Rを介して転舵軸18の第2の端部182に伝達される前後方向のラジアル荷重R2に抗する反対荷重F2を、転舵軸18の第2の端部182に付与するように機能する。
第1の反対荷重付与機構41は、第1の後輪6Lの接地点P1における接地反力Q1によって第1のナックル25Lおよび第1のキングピン27Lを介してアクスルビーム26の第1の端部261が、アクスルビーム26のねじり中心C1の回りにねじられるねじり運動(ねじり中心C1回りのねじりモーメントM1を参照)を、転舵軸18の第1の端部181の前後方向の運動に変換する運動変換機構を構成している。
【0029】
第2の反対荷重付与機構42は、第2の後輪6Rの接地点P2における接地反力Q2によって第2のナックル25Rおよび第2のキングピン27Rを介してアクスルビーム26の第1の端部262が、ねじられるねじり運動(ねじり中心C2回りのねじりモーメントM2を参照)を、転舵軸18の第2の端部182の前後方向の運動に変換する運動変換機構を構成している。
【0030】
第1のタイロッド24Lは、転舵軸18の第1の端部181に連結された第1の端部24L1と、第1のナックル25Lの端部に連結された第2の端部24L2とを有している。図8に示すように、第1のタイロッド24Lの第1の端部24L1が、第2の端部24L2よりも後方に配置されるときに、第1の後輪6Lの接地点P1が、第1のキングピン27Lよりも前方Y1に配置されるようにしてある。
【0031】
同じく、第2のタイロッド24Rは、転舵軸18の第2の端部182に連結された第1の端部24R1と、第2のナックル25Rの端部に連結された第2の端部24R2とを有している。第2のタイロッド24Rの第1の端部24R1が、第2の端部24R2よりも所定量以上、後方Y2に配置されるときに、第2の後輪6Rの接地点P2が、第2のキングピン27Rよりも後方Y2に配置されるようにしてある。
【0032】
第1の反対荷重付与機構41および第2の反対荷重付与機構42をそれぞれ構成する運動変換機構は、左右対称の構成であるので、第1の反対荷重付与機構41の構成に則して説明する。
図6および図7に示すように、第1の反対荷重付与機構41としての運動変換機構は、アクスルビーム26の第1の端部261および転舵軸18の第1の端部181を連結する連結部材43と、ハウジング23の端面に固定され、連結部材43を前後に移動可能に支持する支持部材44とを備えている。
【0033】
連結部材43は、前後方向に延びる主体部45と、主体部45の前端に設けられ、アクスルビーム26の第1の端部261に連結された第1の連結部46と、主体部45の後半部に固定された下向き溝形をなす第2の連結部47とを備えている。
第2の連結部47は、転舵軸18の第1の端部181を軸方向Xに移動可能に支持する軸受48を介して、転舵軸18の第1の端部181に連結されている。軸受48としては、転舵軸18を挟んで対向する一対の針状ころ軸受を用いることができる。軸受48として、転舵軸18の周囲を取り囲む環状のブッシュその他の公知の直線運動軸受を用いるようにしてもよい。
【0034】
アクスルビーム26の前板30に形成された挿通溝49に、連結部材43の第1の連結部46が挿通されている。挿通溝49の壁面に支持された連結軸50が、連結部材43の第1の連結部46に設けられた連結孔51に遊嵌されている。連結孔51は、上下方向に長い長孔からなっている。これにより、連結部材43の第1の連結部46が、アクスルビーム26の前板30に揺動可能に支持されている。
【0035】
また、連結軸5の位置は、アクスルビーム26のねじり中心C1よりも下方に配置されている。これにより、アクスルビーム26がねじられたときに、連結部材43を前後移動させて、第2の連結部47を介して、転舵軸18の第1の端部181に前後方向の反対荷重F1を付与できるようになっている。
支持部材44は、連結部材43の主体部45を挿通させる挿通孔を有しており、該挿通孔に保持した図示しないすべり軸受等を介して、主体部45を前後方向に移動可能に支持する。
【0036】
本実施の形態によれば、例えば操舵部材13が左方向に操舵されて、転舵軸18が左方X1に移動すると、この移動に伴って、図8に示すように、路面からの転舵反力として第1の後輪6Lから第1のタイロッド24Lを介して例えば後方Y2へのラジアル荷重R1が付与される。後方Y2へのラジアル荷重R1が負荷されるのは、第1の後輪6Lの転舵角が増大しているときに、転舵軸18の第1の端部181に連結された第1のタイロッド24Lの第1の端部24L1が、第1のナックル25Lに連結された第2の端部24Lよりも後方Y2に配置されていることによる。リンク機構としての第1のタイロッド24Lは軸力のみを伝達するからである。
【0037】
ここで、第1の後輪6Lの接地点P1が、第1のキングピン27Lよりも前方Y1に位置している。したがって、第1の後輪6Lの接地点P1における上方への接地反力Q1(図2を参照)によって、第1のナックル25Lおよび第1のキングピン27Lを介して、アクスルビーム26の第1の端部261が、図9に示すように、アクスルビーム26のねじり中心C1の回りに、左方から見て右回り(ねじりモーメントM1を参照)にねじられる。
【0038】
これにより、アクスルビーム26は、ねじり中心C1よりも下方にある部分が前方Y1に移動するので、ねじり中心C1よりも下方位置で、アクスルビーム26に連結された連結部材43も前方Y1に移動する。したがって、連結部材43は、第2の連結部47を介して、転舵軸18の第1の端部181に前方Y1への反対荷重F1を付与することができる。
【0039】
一方、図8の状態から、操舵部材13が右方向に操舵されて、図10に示すように、転舵軸18が右方X2へ移動しようとすると、路面からの転舵反力として第1の後輪6Lから第1のタイロッド24Lを介して、図10および図11に示すように、前方Y1へのラジアル荷重R1が付与される。また、このとき、図11に示すように、アクスルビーム26がねじり戻されることから、連結部材43が後方Y2へ移動し、第2の連結部47を介して、転舵軸18の第1の端部181に、後方Y2への反対荷重F1を付与することができる。
【0040】
このように、第1の反対荷重付与機構41によって、ラジアル荷重R1に抗する反対荷重F1を転舵軸18の第1の端部181に付与することができる。したがって、転舵反力によるラジアル荷重R1の少なくとも一部を相殺して、転舵軸18の第1の端部181のラジアル負荷を軽減することができる。同様に、第2の反対荷重付与機構42についても、転舵軸18の第2の端部182のラジアル負荷を軽減することができる。ラジアル負荷の軽減により、車両用操舵装置9の耐久性を向上することができる。
【0041】
第1および第2の後輪6L,6Rの接地反力Q1,Q2が、対応するキングピン27L,27Rを介してアクスルビームの26の対応する端部261,262をねじるねじり運動を、転舵軸18の対応する端部181,182の前後方向の運動に変換する運動変換機構を用いて反対荷重を付与するので、構造が簡単であり、また、応答遅れもない。
また、各反対荷重付与機構41,42の運動変換機構が、前後方向に移動可能に支持された連結部材43を含み、連結部材43の第1の端部46がアクスルビーム26に連結され、連結部材43の第2の連結部47が転舵軸18の対応する端部181,182に連結されている。したがって、連結部材43を用いた簡単な構造で、アクスルビーム26がねじられたときに、転舵軸18の対応する端部181,182に対して、前方Y1または後方Y2への反対荷重F1を付与することができる。また、連結部材43の第2の連結部48が軸受48を介して、転舵軸18を軸方向Xに移動可能に支持しているので、連結部材43が、転舵軸18の軸方向移動を規制することがない。
【0042】
また、アクスルビーム26の各端部261,262に設けられた連結軸50が、連結部材43の第1の連結部46に設けられた連結孔51に嵌合しており、連結孔51が、上下方向に長い長孔とされている。したがって、アクスルビーム26がねじられたときに、連結軸50および連結孔51の上下方向の相対移動を許容することができるので、連結部材43をスムーズに前方Y1または後方Y2へ移動させることができる。
【0043】
また、各反対荷重付与機構41,42の運動変換機構が、連結部材43を前後方向に移動可能に支持する支持部材44を含んでいるので、連結部材43を前方Y1または後方Y2へスムーズに移動させることができる。
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、アクスルビーム26に上下方向に長い長孔からなる連結孔を設け、連結部材43の第1の連結部46に上記連結孔に嵌合する連結軸を設けるようにしてもよい。その他、本発明の請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0044】
1…フォークリフト(荷役車両)、2…車体、3…荷役装置、6L…第1の後輪(転舵輪)、6R…第2の後輪(転舵輪)、9…車両用操舵装置、13…操舵部材、16…転舵アクチュエータ、17…反力アクチュエータ、19…制御装置、23…ハウジング、24L…第1のタイロッド、24R…第2のタイロッド、24L1,24R1…第1の端部、24L2,24R2…第2の端部、25L…第1のナックル、25R…第2のナックル、26…アクスルビーム、261…第1の端部、262…第2の端部、27L…第1のキングピン、27R…第2のキングピン、30…前板、32,33…ブラケット、36,37…ブラケット、41…第1の反対荷重付与機構(運動変換機構)、42…第2の反対荷重付与機構(運動変換機構)、43…連結部材、44…支持部材、45…主体部、46…第1の連結部、47…第2の連結部、48…軸受、49…挿通溝、50…連結軸、51…連結孔、C1…ねじり中心、M1,M2…ねじりモーメント、X…軸方向、X1…左方、X2…右方、Y1…前方、Y2…後方、P1,P2…接地点、Q1,Q2…接地反力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央位置で車体に固定されたアクスルビームの中央部近傍に固定された筒状のハウジングと、
上記ハウジングから突出する第1および第2の端部を有し、操舵部材の操作に伴って軸方向に駆動される転舵軸と、
上記アクスルビームの上記第1および第2の端部にそれぞれ固定された第1および第2のキングピン回りに揺動可能に支持され、転舵輪としての第1および第2の後輪をそれぞれ回転可能に支持する第1および第2のナックルと、
上記転舵軸の上記第1および第2の端部を上記第1および第2のナックルにそれぞれ連結する第1および第2のタイロッドと、
路面からの転舵反力として第1の後輪、第1のナックルおよび第1のタイロッドを介して転舵軸の第1の端部に伝達される前後方向のラジアル荷重に抗する反対荷重を、転舵軸の第1の端部に付与する第1の反対荷重付与機構と、
路面から転舵反力として第2の後輪、第2のナックルおよび第2のタイロッドを介して転舵軸の第2の端部に伝達される前後方向のラジアル荷重に抗する反対荷重を、転舵軸の第2の端部に付与する第2の反対荷重付与機構と、を備え、
各反対荷重付与機構は、対応する後輪の接地反力によって対応するナックルおよび対応するキングピンを介してアクスルビームの対応する端部がねじられるねじり運動を、上記転舵軸の対応する端部の前後方向の運動に変換する運動変換機構を含む、車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、各タイロッドは、上記転舵軸の対応する端部に連結された第1の端部と、対応するナックルの端部に連結された第2の端部と、を含み、
上記タイロッドの上記第1の端部が上記タイロッドの上記第2の端部よりも後方に配置されるときに、対応する後輪の接地点が、対応するキングピンよりも前方に配置されるようにしてある車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項2において、各運動変換機構は、前後方向に移動可能に支持され、上記アクスルビームの上記対応する端部と上記転舵軸の上記対応する端部とを連結する連結部材を含み、
上記連結部材は、上記アクスルビームの上記対応する端部に連結された第1の連結部と、上記転舵軸の上記対応する端部を上記軸方向に移動可能に支持する軸受を介して上記転舵軸の上記対応する端部に連結された第2の連結部と、を含む車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項3において、上記アクスルビームの上記対応する端部および上記連結部材の上記第1の連結部の何れか一方に設けられた連結軸が、他方に設けられた連結孔に嵌合しており、
上記連結孔は、上下方向に長い長孔を含む車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項3において、各運動変換機構は、上記連結部材を前後方向に移動可能に支持する支持部材を含み、
上記支持部材は、上記ハウジングに固定されている車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−56410(P2012−56410A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200469(P2010−200469)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】