説明

車両用放熱器の冷却装置

【課題】フロントバンパに主として放熱器の下側部分に走行風を導入する開口部を形成した冷却装置において、フロントバンパの開口部を大幅に拡大することなく、放熱器の冷却性能を向上させる。
【解決手段】フロントバンパ2の後方に放熱器15をフロントバンパ2と互いに接近する状態で配設し、フロントバンパ2の鉛直方向で放熱器15の下側部分に臨む位置に走行風を導入する開口部19を形成した車両用放熱器15の冷却装置において、フロントバンパ2の裏側に鉛直方向で開口部の上縁部から放熱器の上端部まで延びるとともに、放熱器側に膨出する下側円弧部23とフロントバンパの裏側に膨出する上側円弧部24とを備える縦断面がS字状のガイド壁20を設け、上側円弧部24の鉛直方向の長さを下側円弧部23の鉛直方向の長さより長くした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両用放熱器の冷却装置に係り、特に、フロントバンパに形成した開口部を拡大することなく、放熱器の冷却性能を向上させることができる車両用放熱器の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図7に示すように、車両101においては、フロントバンパ102の後方にフロントバンパ102と互いに接近する状態で配設した放熱器103(空調用コンデンサ104やラジエータ105等)を冷却するために、冷却装置106を設けている。冷却装置106には、車両101の空気抵抗上の理由やフロントバンパ102のデザインの制約上の理由によって、フロントバンパ102の前端面に開口する開口部107の形状や大きさが制限されて、フロントバンパ102の下部に走行風を導入する開口部107を設けたものがあった。
そして、冷却装置106において、前記のようにフロントバンパ102の後方に放熱器103が配置されて、フロントバンパ102の下部に開口部107を設ける構造では、フロントバンパ102で覆われた放熱器103の上側部分に走行風が当たらず、走行風が放熱器103の下側部分のみに吹きかけられて、放熱器103への走行風の導入が不均一となり、放熱器103の冷却性能が低下する問題があった。
【0003】
そこで、従来の車両用放熱器の冷却装置には、特許文献1の図4〜図6に記載されるように、フロントバンパの開口部の上端部から車両後方上側の放熱器の上端部に向けて、曲率が小さく湾曲するガイド壁を形成したものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−158442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1に記載のようなガイド壁を備えたフロントバンパでは、車両前方から導入される走行風がガイド壁の表面に沿って流れて、走行風が放熱器の上端部のみに偏って集中してしまい、放熱器の中で走行風が当たる領域にムラができるという虞があった。
また、フロントバンパの後方に放熱器をフロントバンパと近接する状態で配置した場合、フロントバンパの裏側から放熱器までの距離が短くなるため、前記特許文献1に記載のようなガイド壁は開口部の上縁部から放熱器の上端部に向けて急角度を形成した状態で略鉛直方向に立ち上がる構造となる。このような構造では、車両前方から開口部に導入される走行風は、ガイド壁に沿って上方に流れることがなくなり、車両前方から流れて込んで、そのまま車両後方の放熱器ヘと流れ込むことになる。
これによって、前記特許文献1に記載の冷却装置は、放熱器の上側部分と下側部分とで走行風が当たる風量の差が大きくなり、放熱器の冷却が不均一となり、放熱器の冷却性能を低下させるという問題があった。
【0006】
この発明は、フロントバンパに主として放熱器の下側部分に走行風を導入する開口部を形成した冷却装置において、フロントバンパの開口部を大幅に拡大することなく、放熱器の冷却性能を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、フロントバンパの後方に放熱器をフロントバンパと互いに接近する状態で配設し、前記フロントバンパの鉛直方向で前記放熱器の下側部分に臨む位置に走行風を導入する開口部を形成した車両用放熱器の冷却装置において、前記フロントバンパの裏側に鉛直方向で前記開口部の上縁部から前記放熱器の上端部まで延びるとともに、前記放熱器側に膨出する下側円弧部と前記フロントバンパの裏側に膨出する上側円弧部とを備える縦断面がS字状のガイド壁を設け、前記上側円弧部の鉛直方向の長さを前記下側円弧部の鉛直方向の長さより長くしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明の車両用放熱器の冷却装置は、S字状のガイド壁のフロントバンパ裏側に膨出する上側円弧部の鉛直方向の長さを、放熱器側に膨出する下側円弧部の鉛直方向の長さよりも長くしたため、上側円弧部の曲率に比べて下側円弧の曲率を大きく設定でき、下側円弧部と放熱器との間に形成される空間を狭く設けることができる。そして、曲率が大きい下側円弧部の形状で、フロントバンパの開口部から導入された走行風が下側円弧部の表面形状に沿って上方に抜けやすくなるとともに、下側円弧部と放熱器との間の狭く形成される空間とで、フロントバンパの開口部から導入されて上方に抜けようとする走行風の流速を速めることができる。
さらに、この発明の車両用放熱器の冷却装置は、下側円弧部と放熱器との間に形成される空間から上側円弧部と放熱器との間に形成される空間にかけて通過する走行風の通路面積を急に拡大したことで、下側円弧部と放熱器との間に形成される空間で流速を早められた走行風の流速を、急に拡大した通路面積によって急激に落とし、下側円弧部の表面から剥離することができる。よって、流速を落とした一部の走行風を放熱器側に流し込むことができるとともに、その他の上昇した走行風を上側円弧部の表面に沿って反転させて車両後方の放熱器へと流し込むことができる。
したがって、この発明の車両用放熱器の冷却装置は、縦断面がS字状のガイド壁で、フロントバンパの裏側に位置する放熱器に走行風を均等に(ムラなく)流し込むことができ、放熱器への走行風の導入を平均化でき、放熱器の冷却性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は図4のX−X線による縦断面図である。(実施例1)
【図2】図2は図4に示す冷却装置部分の拡大断面図である。(実施例1)
【図3】図3は車両の正面図である。(実施例1)
【図4】図4は車両のエンジンルームの平面図である。(実施例1)
【図5】図5は図4のX−X線による縦断面図である。(実施例2)
【図6】図6は図5に示す冷却装置部分の拡大断面図である。(実施例2)
【図7】図7は従来の車両用放熱器の冷却装置部分の断面図である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0011】
図1〜図4は、この発明の実施例1を示すものである。図3・図4において、1は車両、2はフロントバンパ、3は右ヘッドランプ、4は左ヘッドランプ、5は右フェンダパネル、6は左フェンダパネル、7はダッシュパネル、8は右サイドメンバ、9は左サイドメンバ、10はフロントフード、11はエンジンルーム、12はエンジン、13は右前輪、14は左前輪である。車両1は、前部のエンジンルーム11にエンジン12を横置きに搭載している。
車両1は、図1に示すように、エンジン12前方のフロントバンパ2との間に放熱器15を配設している。放熱器15は、例えば、車両1の空調用コンデンサ16やエンジン12のラジエータ17等からなり、フロントバンパ2の後方にこのフロントバンパ2と互いに接近する状態で配設している。車両1は、放熱器15を冷却するための冷却装置18として、フロントバンパ2の鉛直方向で放熱器15の下側部分に臨む位置に、走行風を導入する開口部19を形成している。冷却装置18は、開口部19から導入する走行風を放熱器15に当てて、放熱器15を冷却する。
冷却装置18は、図2に示すように、フロントバンパ2の裏側にガイド壁20を設けている。ガイド壁20は、鉛直方向で開口部19の上縁部21から放熱器15である空調用コンデンサ16の上端部22まで延びる長さを有して形成される。ガイド壁20は、縦断面が放熱器15側に向かって膨出する円弧状の下側円弧部23と、縦断面がフロントバンパ2の裏側に向かって膨出する円弧状の上側円弧部24とを備え、下側円弧部23と上側円弧部24とを連結部25で連結することで、縦断面がS字状に形成される。ガイド壁20は、上側円弧部24の上端部26と放熱器15である空調用コンデンサ16の上端部22との間を、閉鎖部材27により閉鎖している。
ガイド壁20は、下側円弧部23と上側円弧部24との連結部25から、下側円弧部23の鉛直方向下端までの長さをL1、上側円弧部24の鉛直方向上端までの長さをL2とした場合、上側円弧部24の鉛直方向の長さL2を下側円弧部23の鉛直方向の長さL1よりも長くして形成している。また、ガイド壁20は、上側円弧部24の曲率を下側円弧部23の曲率よりも小さくして形成している。
【0012】
放熱器15の冷却装置18は、図1・図2に矢印で示すように、フロントバンパ2の開口部19から導入された走行風を、ガイド壁20の下側円弧部23と放熱器15である空調用コンデンサ16との間の空間S1(隙間)に導き、曲率が大きい下側円弧部23に沿って表面から剥離することなく上昇流へ変更する。曲率が大きい下側円弧部23は、上昇流となった走行風を、下側円弧部23の途中の膨出先端部分(空調用コンデンサ16に際接近する部分)から剥離させる。
下側円弧部23の上部に連結する上側円弧部24は、下側円弧部23に対して放熱器15である空調用コンデンサ16との間の空間S2(隙間)の容積が大きく、通路が急拡大するため、走行風が狭い空間S1から広い空間S2へと流れ込んだことで、一部の走行風の流速が低下して、後方の放熱器15側へと流れる。
ガイド壁20の上側円弧部24の上端部26と放熱器15の上端部27との間は、閉鎖部材28により閉鎖しているので、上側円弧部24の空間S2に流れ込んだ上昇流は、空間S2から抜けることなく、上側円弧部24の表面に沿って前方(フロントバンパ2側)から下方へ反転した後、後方へ導かれて放熱器15側へ流れ込む。
【0013】
このように、放熱器15の冷却装置18は、S字状のガイド壁20のフロントバンパ2裏側に膨出する上側円弧部24の鉛直方向の長さL2を、放熱器15側に膨出する下側円弧部23の鉛直方向の長さよりも長くしたため、上側円弧部24の曲率に比べて下側円弧部23の曲率を大きく設定でき、下側円弧部23と放熱器15との間に形成される空間S1を狭く設けることができる。
そして、冷却装置18は、曲率が大きい下側円弧部24の形状で、フロントバンパ2の開口部19から導入された走行風が、下側円弧部23の表面形状に沿って上方に抜けやすくなるとともに、下側円弧部23と放熱器15との間の狭く形成される空間S1とで、フロントバンパ2の開口部19から導入されて上方に抜けようとする走行風の流速を速めることができる。
さらに、冷却装置18は、下側円弧部23と放熱器15との間に形成される空間S1から上側円弧部24と放熱器15との間に形成される空間S2にかけて通過する走行風の通路面積を急に拡大したことで、下側円弧部23と放熱器15との間に形成される空間Sで流速が早められた走行風の流速を急激に落とし、下側円弧部23の表面から剥離させることができる。
よって、冷却装置18は、流速を落とした一部の走行風を放熱器15側に流し込むことができるとともに、その他の上昇した走行風を上側円弧部24の表面に沿って、上昇から前方、前方から下方へと反転させた後に後方へ導き、放熱器15へと流し込むことができる。
したがって、放熱器15の冷却装置18は、縦断面がS字状のガイド壁20で、フロントバンパ2の裏側に位置する放熱器15に走行風を均等に(ムラなく)流し込むことができ、放熱器15への走行風の導入を平均化でき、放熱器15の冷却性能を向上させることができる。
【実施例2】
【0014】
図5・図6は、この発明の実施例2を示すものである。実施例2の冷却装置18は、実施例1と同様に、フロントバンパ2の裏側に鉛直方向で開口部19の上縁部21から放熱器15の上端部22まで延びるとともに、放熱器15側に膨出する下側円弧部23とフロントバンパ2の裏側に膨出する上側円弧部24とを備える縦断面がS字状のガイド壁20を設け、上側円弧部24の鉛直方向の長さL2を下側円弧部23の鉛直方向の長さL1より長くしている。
さらに、実施例2の冷却装置18は、フロントバンパ2の鉛直方向で下側円弧部23と上側円弧部24との連結部25と対向する位置に、走行風を導入する他の開口部28を備えている。また、実施例2の冷却装置18は、ガイド壁20の下側円弧部23と上側円弧部24との連結部25に、前記フロントバンパ2の他の開口部29と対向する導入口29を備えている。
【0015】
実施例2の冷却装置18は、下側円弧部23と上側円弧部24とを備えた縦断面がS字状のガイド壁20を設け、上側円弧部24の鉛直方向の長さL2を下側円弧部23の鉛直方向の長さよりも長くしたことで、実施例1と同様に、フロントバンパ2の裏側に位置する放熱器15に走行風を均等に(ムラなく)流し込むことができ、放熱器15への走行風の導入を平均化でき、放熱器15の冷却性能を向上させることができる。
そして、実施例2の冷却装置18は、フロントバンパ2は、鉛直方向で下側円弧部23と上側円弧部24との連結部25に走行風を導入する他の開口部28を備えているので、他の開口部29からガイド壁20の連結部25に設けた導入口29に導入される走行風を下側円弧部23の表面に沿って上方に流れる走行風に当てて、下側円弧部23の表面から上方に流れる走行風を確実に剥離させることができるとともに、上昇しようとする走行風の一部を放熱器15側へ流し込むことができる。
さらに、冷却装置18は、上側円弧部24と放熱器15との間の空間S2に導入口29から多量の走行風を導入できるため、放熱器15の上側部分に、より多くの走行風を通過させることができ、放熱器15の冷却性能を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
この発明は、車両の放熱器に走行風を導入するフロントバンパの開口部を、大幅に拡大することなく放熱器の冷却性能を向上することができるものであり、放熱器にかぎらず、エンジンルーム内において走行風を導入する機器(例えば、エアクリーナ)についても、利用することが可能である。
【符号の説明】
【0017】
1 車両
2 フロントバンパ
11 エンジンルーム
12 エンジン
15 放熱器
18 冷却装置
19 開口部
20 ガイド壁
23 下側円弧部
24 上側円弧部
25 連結部
27 閉鎖部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントバンパの後方に放熱器をフロントバンパと互いに接近する状態で配設し、
前記フロントバンパの鉛直方向で前記放熱器の下側部分に臨む位置に走行風を導入する開口部を形成した車両用放熱器の冷却装置において、
前記フロントバンパの裏側に鉛直方向で前記開口部の上縁部から前記放熱器の上端部まで延びるとともに、前記放熱器側に膨出する下側円弧部と前記フロントバンパの裏側に膨出する上側円弧部とを備える縦断面がS字状のガイド壁を設け、
前記上側円弧部の鉛直方向の長さを前記下側円弧部の鉛直方向の長さより長くしたことを特徴とする車両用放熱器の冷却装置。
【請求項2】
前記フロントバンパは、鉛直方向で前記下側円弧部と前記上側円弧部との連結部に走行風を導入する他の開口部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両用放熱器の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−17025(P2012−17025A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155756(P2010−155756)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】