説明

車両用暖房装置

【課題】暖房性能を維持しながら、エンジン停止による燃料消費低減などの効果を促進する。
【解決手段】電動温水ポンプ205の送水能力が車両エンジン20アイドル時の機械式温水ポンプ201の送水能力よりも小さくしている。
これによれば、電動温水ポンプ(205)での送水能力を、機械式温水ポンプの送水能力よりも小さく制限したので、暖房能力の低下を抑えながら、温水温度の急激な低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房用熱交換器に温水を循環させる手段として機械式温水ポンプと電動温水ポンプとを備え、車両エンジンのアイドルストップ時には電動温水ポンプにて温水を循環させる車両用暖房装置に関するものであり、例えば、ハイブリッド車やエコラン車などの車両用暖房装置に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1においては、車両走行駆動源としてエンジンと電動モータとの両方を備えるハイブリッド車において、エンジン運転時にはエンジン駆動の機械式温水ポンプによりエンジンの温水(冷却水)を暖房用熱交換器に循環し、エンジン停止時には電動温水ポンプによりエンジンの温水を暖房用熱交換器に循環する温水回路を持つ車両用空調装置が記載されている。
【特許文献1】特開2003−34126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来では車両エンジンがアイドルストップした時の電動温水ポンプの送水能力を、車両エンジンアイドル時の機械式温水ポンプの送水能力相当としていた。このため、車両エンジンが停止してから、温水の温度が急激に低下し、暖房能力が急激に失われるという問題点があった。
【0004】
また、温水の温度の低下は、車両エンジンの燃焼状態にも影響を与えるため、温水温度を所定温度以上に維持するために、車両エンジンを再始動することが求められる場合があった。例えば、車両のエンジン制御装置に、温水温度が過度に低下すると、アイドルストップ制御を中断して、車両エンジンを再始動する機能が付加されることがあった。係る場合には、アイドルストップによる燃料消費の低減効果や、排気ガス低減効果が損なわれることになるという問題点があった。
【0005】
また、電動温水ポンプの送水能力を確保するために電動温水ポンプの体格が大きくなり、コストが高くなり作動音が大きくなるなどの問題点を有している。
【0006】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目して成されたものであり、その目的は、暖房性能を維持しながら、エンジン停止による燃料消費低減などの効果を促進することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、車両エンジン停止時の暖房能力の低下を許容範囲内に抑えながら、エンジン冷却水の温度の急速な低下を抑えて温水温度回復のためのエンジン始動を回避することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、電動温水ポンプを小型化することのできる車両用暖房装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、車両エンジン(20)の運転時に車両エンジン(20)により駆動され、車両エンジン(20)の温水を温水回路(200)に循環させる機械式温水ポンプ(201)と、
温水回路(200)に設けられ、車室内へ吹き出す空気を前記温水によって加熱する暖房用熱交換器(21)と、
車両エンジン(20)のアイドルストップ時に車両エンジン(20)の温水を暖房用熱交換器(21)に循環させる電動温水ポンプ(205)とを備えた車両用暖房装置において、
電動温水ポンプ(205)の送水能力が車両エンジン(20)アイドル時の機械式温水ポンプ(201)の送水能力よりも小さいことを特徴としている。
【0010】
ハイブリッド車やエコラン車のアイドルストップは殆どが信号待ちや踏み切り待ちである。発明者らの検討によると、待ち時間として見込めばよいのは約120秒であり、これは自動車やその部品の設計で用いている慣用的な閾値とも符合する値である。
【0011】
一方発明者らは、上記従来技術の問題を解決するために、エンジン停止時に暖房用熱交換器への温水流量を変化させて暖房性能の継続時間を確認した。図4は、運転席側での電動温水ポンプの流量に対する吹出温度が下限温度(35℃)に下がるまでの到達時間を示すグラプであり、図5は、助手席側での電動温水ポンプの流量に対する吹出温度が下限温度(35℃)に下がるまでの到達時間を示すグラプである。機械式温水ポンプのエンジンアイドル時の送水能力は6L/min.程度であるが、上記の調査の結果と確認試験の結果とにより、図4、図5に示すように、エンジンアイドル時の機械式温水ポンプの送水能力より小さくても暖房性能を満足できることが判明した。
【0012】
この請求項1に記載の発明によれば、電動温水ポンプ(205)での送水能力を、機械式温水ポンプの送水能力よりも小さく制限したので、暖房能力の低下を抑えながら、温水温度の急激な低下を抑制することができる。
【0013】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の車両用暖房装置において、電動温水ポンプ(205)の送水能力を車両エンジン(20)のアイドルストップ時に提供することを特徴としている。
【0014】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の車両用暖房装置において、電動温水ポンプ(205)の送水能力は調節可能であることを特徴としている。この請求項3に記載の発明によれば、実際のアイドルストップ時間のデータやそのときの暖房状態のデータなどから、より最適な電動温水ポンプ(205)の送水能力に可変するようにしても良い。
【0015】
なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について添付した図1ないし図5を用いて詳細に説明する。図1は、本発明を適用した一実施形態の車両用空調装置の全体システム構成図である。最初に、車室内へ向かって空気が送風される通風系の概要を説明すると、空調ケース10は車室内へ向かって送風される空気の通風路を形成するものであり、通風路の最上流部には内外気切替箱11が配置されている。
【0017】
この内外気切替箱11内の内外気切替ドア12により、外気導入口13と内気導入口14とを切替開閉する。これにより、内外気切替箱11内に外気(車室外空気)または内気(車室内空気)が切替導入される。内外気切替ドア12は、サーボモータなどの電気駆動装置12aにより駆動される。
【0018】
内外気切替箱11の下流側には送風機15が配置され、この送風機15により空気が空調ケース10内を通して車室内へ向かって送風される。送風機15には、遠心式多翼ファン16と駆動用モータ17とが備えられている。駆動用モータ17への印加電圧(ブロワ電圧)をモータ駆動回路17aにより調整して送風機15の回転数(風量)を制御するようになっている。
【0019】
空調ケース10内で送風機11の下流側には、冷房用熱交換器を成す冷媒蒸発器18が配置されている。冷媒蒸発器18は周知のように、冷凍サイクルの図示しない減圧手段によって減圧された低圧冷媒が、空調ケース10内の空気から吸熱して蒸発することによって空気を冷却する。
【0020】
空調ケース10内で、冷媒蒸発器18の下流側にはエアミックスドア19が配置されている。このエアミックスドア19の下流側には、車両エンジン20の温水(冷却水)を熱源として空気を加熱する温水式のヒータコア(暖房用熱交換器)21が設置されている。このヒータコア21の側方(上方部)には、ヒータコア21をバイパスして空気を流すバイパス通路22が形成されている。
【0021】
エアミックスドア19は回動可能な板状ドアであり、サーボモータなどの電気駆動装置19aにより駆動される。エアミックスドア19は、ヒータコア21を通過して温風になる風量とバイパス通路22を通過する冷風の風量との風量割合を調節するものであり、この冷温風の風量割合の調節によって車室内への吹出空気温度を調節している。
【0022】
すなわち、ヒータコア21の下流側空間において、ヒータコア21通過後の温風とバイパス通路22からの冷風とが混合して所望温度の空気を作り出すことができる。従って、本例においては、エアミックスドア19により車室内への吹出空気の温度調節手段が構成されている。
【0023】
さらに、空調ケース10内の通風路の最下流部に、吹出モード切替部が構成されている。すなわち、空調ケース10の上面部には、車両フロントガラス23の内面に空気を吹き出すデフロスタ開口部24が形成され、このデフロスタ開口部24は回動自在な板状のデフロスタドア25によって開閉される。また、空調ケース10の上面部で、デフロスタ開口部24より車両後方側の部位に、車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出すフェイス開口部26が形成され、このフェイス開口部26は回動自在な板状のフェイスドア27によって開閉される。
【0024】
また、空調ケース10において、フェイス開口部26の下方側部位には車室内乗員の足元に向けて空気を吹き出すフット開口部28が形成され、このフット開口部28は回動自在な板状のフットドア29によって開閉される。これらの吹出モードドアとしてのドア25、27、29は、共通の図示しないリンク機構で連結され、このリンク機構を介してサーボモータなどの電気駆動装置30によって駆動される。
【0025】
次に、ハイブリッド車における車両エンジン20の温水回路200について説明する。車両エンジン20は、図示しない走行用電動モータとともに、ハイブリッド車の走行駆動源を構成するもので、車両エンジン20によって機械式温水ポンプ201が駆動されている。これにより、エンジン冷却水(温水)が温水回路200を循環するようになっている。
【0026】
機械式温水ポンプ201は、温水回路200の全体にエンジン冷却水を流すことができる位置に設けられている。機械式温水ポンプ201は、ラジエータ202を経由する温水通路と、ヒータコア21を通る温水通路とが重複している位置に設けられ、それらの両方へ温水を流す。
【0027】
機械式温水ポンプ201は、車両エンジン20のクランクシャフトなどに歯車などを介して連結されている。この結果、機械式温水ポンプ201は、車両エンジン20が運転されているときにだけポンプとして作動することができる。温水回路200にはラジエータ202、モータジェネレータ203、およびヒータコア21の三者が並列に接続されている。
【0028】
モータジェネレータ203は、車両エンジン20の始動用スタータの機能(モータ機能)と、車両エンジン20の始動後には車両エンジン20により駆動されて発電機の機能を果たすものである。モータジェネレータ203への温水の循環により、モータジェネレータ203の冷却作用と、モータジェネレータ203からの廃熱回収による暖房熱源の増大とを図っている。
【0029】
サーモスタット204は、温水の低温時にはラジエータ202への温水の循環を阻止して、温水温度の立ち上がりを促進する温度応答弁である。車両エンジン20とヒータコア21とを含む温水回路には、電動温水ポンプ205が直列に設けられている。電動温水ポンプ205は、車両エンジン20からヒータコア21へ向かう温水通路に設けられている。
【0030】
電動温水ポンプ205は、車両エンジン20の運転、停止に関係なく、車載バッテリからの通電を受けてポンプとして作動することができる。電動温水ポンプ205は、車両エンジン20(機械式温水ポンプ201)のアイドルストップ時に図示しない車載バッテリから通電されて作動し、モータジェネレータ203およびヒータコア21に温水を循環させるものである。
【0031】
電動温水ポンプ205は、通電されて所定の送水能力を発揮する。その電動温水ポンプ205の送水能力は、エンジンがアイドル運転時の機械式温水ポンプ201の送水能力よりも小さい。しかも、電動温水ポンプ205の送水能力は、エンジンがアイドル運転時の機械式温水ポンプ201の送水能力に対して、およそ1/3に抑えられている。
【0032】
この電動温水ポンプ205は、比較的小型のモータと、比較的小流量の非容積型ポンプとを備えている。電動温水ポンプ205は、車両の電源電圧が印加された際の送水能力が、エンジンがアイドル運転時の機械式温水ポンプ201の送水能力よりも小さい。
【0033】
次に、本実施形態における電気制御部の概要を説明する。空調用制御装置31は、CPU、ROM、RAMなどからなる周知のマイクロコンピュータと、その周辺回路にて構成されるものである。空調用制御装置31には、センサ群32〜36からのセンサ信号、および空調制御パネル37の操作スイッチ38〜42の操作信号が入力される。
【0034】
センサ群には、内気温Tr、外気温Tam、日射量Ts、温水温度Tw、蒸発器吹出温度Teなどを検出する周知のセンサ32〜36が備えられている。温水温度Twを検出する水温センサ35は、車両エンジン20の温水回路200において、車両エンジン20の温水出口部に配置される。また、蒸発器吹出温度Teを検出する蒸発器温度センサ36は、空調ケース10内で冷媒蒸発器18の空気吹出直後の部位に配置されている。
【0035】
空調制御パネル37は、車室内計器盤近傍に設置され、操作スイッチ38〜42は乗員により手動操作される。この操作スイッチ38〜42として、具体的には、温度設定信号Tsetを発生する温度設定スイッチ38、風量切替信号を発生する風量スイッチ39、吹出モード信号を発生する吹出モードスイッチ40、内外気切替信号を発生する内外気切替スイッチ41、図示しない空調用の冷媒圧縮機のオンオフ信号を発生するエアコンスイッチ42などが設けられている。
【0036】
次に、上記の構成における本実施形態の作動を説明する。図2のフローチャートは、空調用制御装置31のマイクロコンピュータにより実行される制御処理の概要を示し、図2の制御ルーチンは、車両エンジン20のイグニッションスイッチがオンされて空調用制御装置31に電源が供給されるとスタートする。
【0037】
まずステップS1では、フラグやタイマーなどの初期化が成され、次のステップS2では、空調制御パネル37の操作スイッチ38〜42の操作信号を読み込む。次のステップS3では、センサ32〜36から車両環境状態の検出信号を読み込む。続いて、ステップS4では、車室内へ吹き出される空気の目標吹出温度TAOを算出する。この目標吹出温度TAOは、車室内を温度設定スイッチ38の設定温度Tsetに維持するために必要な吹出温度であり、下記数式1に基づいて算出される。
【0038】
(数1)TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×
Ts+C
但し、Tr:内気センサ32によって検出される内気温度
Tam:外気センサ33によって検出される外気温度
Ts:日射センサ34によって検出される日射量
Kset、Kr、Kam、Ks:制御ゲイン
C:補正用の定数
【0039】
次にステップS5では、送風機15によって送風される空気の目標送風量、具体的には送風機15(実質的には駆動用モータ17)の印加電圧であるブロワ電圧Veを上記TAOに基づいて決定する。このブロワ電圧Veの決定方法は周知であり、上記TAOの高温側(最大暖房側)および低温側(最大冷房側)でブロワ電圧(目標風量)Veを大きくし、上記TAOの中間温度域でブロワ電圧(目標風量)Veを小さくするものである。
【0040】
次にステップS6では、内外気モードを決定する。この内外気モードは、例えば上記TAOが低温側から高温側へ上昇するにつれて、全内気モード→内外気混入モード→全外気モードと切替設定する。あるいは、設定温度Tsetに対して内気温Trが所定温度以上に高いとき(冷房高負荷時)に内気モードとし、その他の時は外気モードとするようにしても良い。なお、内外気切替スイッチ41により内外気モードがマニュアル設定されているときには、そのマニュアル設定の内外気モードを選択する。
【0041】
次にステップS7では、上記TAOに応じて吹出モードを決定する。この吹出モードは周知の如く、TAOが低温側から高温側へ上昇するにつれてフェイスモード→バイレベルモード→フットモードと切替設定される。なお、吹出モードスイッチ40によって吹出モードがマニュアル設定されているときは、そのマニュアル設定の吹出モードを選択する。次にステップS8では、エアミックスドア19の目標開度SWを上記TAO、蒸発器吹出温度Te、および温水温度Twに基づいて次の数式2により算出する。
【0042】
(数2)SW=〔(TAO−Te)/(Tw−Te)〕×100(%)
ここで、エアミックスドア19の目標開度SWは、エアミックスドア19の最大冷房位置(図1の実線位置)を0%とし、エアミックスドア19の最大暖房位置(図1の一点鎖線位置)を100%とする百分率で表される。
【0043】
次のステップS9では、電動温水ポンプ205の作動制御を行う。このステップS9のポンプ制御の詳細は、図3により後述する。次のステップS10では、圧縮機作動の断続(ON−OFF)を決定する。すなわち、目標蒸発器温度TEOと温度センサ36によって検出される蒸発器吹出温度Teとを比較して冷媒圧縮機の図示しない電磁クラッチへの印加電圧を決定し、圧縮機作動の断続(ON−OFF)を決定するものである。
【0044】
次のステップS11では、上記ステップS5〜S10で決定された制御状態が得られるように、各種アクチュエータ部(12a、17,19a、30、205)に制御信号が出力される。そして、次のステップS12では制御周期τの経過を判定し、制御周期τだけ経過したらステップS2に戻るものである。
【0045】
図3は、図2のフローチャートにおける電動温水ポンプの作動制御(ステップS9)の内容を示すフローチャートである。まずステップS91では、車両エンジン20がアイドルストップしている状態か否かを判定する。この判定結果がYESで、車両エンジン20がアイドルストップしている場合は電動温水ポンプ205を稼動させる可能性が有るということでステップS92の次の判定へと進む。また、ステップS91での判定結果がNOで車両エンジン20が稼動中の場合は、機械式温水ポンプ201が駆動されて温水の循環が行われているため、ステップS93へ進んで電動温水ポンプ205は停止(OFF)状態とするものである。
【0046】
次のステップS92では、車両エンジン20がアイドルストップしているとしても、送風機15が作動しているか否かを判定する。この判定結果がYESで、送風機15が作動している場合は電動温水ポンプ205を稼動させる可能性が有るということでステップS94の次の判定へと進む。また、ステップS92での判定結果がNOで送風機15が停止中、すなわち空調装置が停止中の場合はヒータコア21への温水循環が不要であるため、ステップS93へ進んで電動温水ポンプ205は停止(OFF)状態とするものである。
【0047】
次のステップS94では、空調装置が運転しているとしても、温風を必要とする空調モードであるか否かを判定する。つまり、ヒータコア21での空気の加熱が必要でヒータコア21への温水の循環が必要な空調モードであるか否かを判定するものである。これば例えば、エアミックスドア19開度が所定値よりも最大暖房位置側であるか否かを判定することでしても良い。
【0048】
より具体的に、この判定はステップS8で算出されるエアミックスドア目標開度SWに基づいて行うことができる。また、ポテンショメータなどの位置検出手段を用いて、エアミックスドア19の実際の開度を検出し、その検出開度に基づいてステップS94の判定を行うようにしても良い。
【0049】
この判定結果がYESで、温風を必要とする空調モードである場合はステップS95へと進んで電動温水ポンプ205を稼動させるものである。また、ステップS94での判定結果がNOで温風を必要としない空調モードである場合はヒータコア21への温水循環が不要であるため、ステップS93へ進んで電動温水ポンプ205は停止(OFF)状態とするものである。
【0050】
以上のように、本実施形態では、車両エンジン20がアイドルストップし、且つ空調装置が運転されており、且つ温風を必要とする空調モードである場合に電動温水ポンプ205を作動させるようになっている。
【0051】
図4は、運転席側での電動温水ポンプの流量に対する吹出温度が下限温度(35℃)に下がるまでの到達時間を示すグラプであり、図5は、助手席側での電動温水ポンプの流量に対する吹出温度が下限温度(35℃)に下がるまでの到達時間を示すグラプである。
【0052】
機械式温水ポンプ201のエンジンアイドル時の送水能力は6L/min.程度であり、従来の電動温水ポンプはこれと同等の送水能力に設定していたが、図4、図5の確認試験の結果から分かるように、エンジンアイドル時の機械式温水ポンプの送水能力より小さくても暖房性能を充分に満足できることが判明した。
【0053】
図4、図5によると、最小風量Loから最大風量Hiの範囲にわたって、1L/min.程度の温水流量があれば、少なくとも120秒は、吹き出し温度を35℃以上に持続できている。このことから、最低限1L/min.の温水流量があれば、信号待ちなどの一時的なエンジン停止期間にわたって、暖房状態を持続できることがわかる。
【0054】
また、車両の大きさの違い、外気温度の違い、エンジン冷却水容積の違いなどを考慮しても、1L/min.以上、あるいは2L/min.以上の流量を確保すれば、暖房能力の過剰な減少を抑えることができる。しかして本実施形態では電動温水ポンプ205の送水能力を、図4、図5の確認試験の結果に対して余裕をみて約2倍の2L/min.に設定している。
【0055】
一方、電動温水ポンプ205の送水能力は、エンジン20がアイドル運転時の機械式温水ポンプ201の送水能力以下に抑えられている。好適な態様の一つであるこの実施形態では、電動温水ポンプ205の送水能力は、エンジン20がアイドル運転時の機械式温水ポンプ201の送水能力に対して、2/3以下の1/3に抑えられている。
【0056】
この結果、エンジン20が停止した後に、6L/min.程度の流量で温水を循環させた場合に比べて、温水の温度低下を緩やかにできる。この結果、アイドルストップ制御の目的である燃料消費低減、排気ガス低減といった効果を確保できる。また、エンジン20が再始動された際の温水温度を比較的高く維持できるので、再始動後の燃焼状態を良好にし易いという効果も期待される。
【0057】
次に、本実施形態での特徴と、その効果について述べる。まず、電動温水ポンプ205の送水能力を、車両エンジン20アイドル時の機械式温水ポンプ201の送水能力よりも小さくしている。これによれば、電動温水ポンプ205での送水能力を、暖房性能を満足することのできる値に低減できることより、電動温水ポンプ205の体格を小型化することができる。
【0058】
また、電動温水ポンプ205の小型化により、車両への搭載がやり易くなる。また、電動温水ポンプ205の小型化は軽量化にもなり、電動温水ポンプ205を車両へ取り付けるブラケットも小型かつ簡易的かつ低コストなものとできる。また、電動温水ポンプ205の小型化に伴い、モータや素材費などのコストも低減可能となる。また、電動温水ポンプ205の小型化に伴い作動音や流水音も減らすことができる。
【0059】
また、従来のアイドルストップ車はエンジン水温が低下し過ぎたら暖房性能が悪化するため、エンジン水温が所定値よりも低下したらエンジンを再起動する制御となっていることがある。このため、エンジン20停止中に大量の温水がヒータコア21に送られ、温水温度が低下すると、エンジン20が再始動され、燃料消費低減効果が損なわれることがあった。しかし、電動温水ポンプ205の流量を低くしたことでエンジン水温の低下も遅くなる。このため、エンジン停止時間も長くすることができ、車両の燃費も向上させることができる。
【0060】
(その他の実施形態)
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では電動温水ポンプ205の送水能力を、図4、図5の確認試験の結果に対して余裕をみて約2倍の2L/min.に設定しているが、この電動温水ポンプ205の送水能力を予め設定された一定値とせず、実際のアイドルストップ時間のデータやそのときの暖房状態のデータなどから、より最適、最少な電動温水ポンプ205の送水能力に可変するようにしても良い。例えば、電動温水ポンプ205のモータの回転数を調節可能に構成することができる。例えば、モータへの印加電圧、モータの駆動周波数を調節可能に構成することができる。
【0061】
また、電動温水ポンプ205として、機械式温水ポンプと同等、またはそれを上回る能力を持つ大型のものを用いても良い。係る場合には、エンジン20が停止されているときに、電動温水ポンプ205の送水能力が、エンジン20がアイドル運転時の機械式温水ポンプ201の送水能力よりも小さく制限される。例えば、電動温水ポンプ205のモータの回転数を最大能力時よりも低く制限する。電動温水ポンプ205の送水能力は、エンジンがアイドル運転時の機械式温水ポンプ201の送水能力に対して、1/2程度あるいは2/3程度に設定されても良い。
【0062】
また、上述した実施形態では、ヒータコア21を通過する温風とバイパス通路22を通過する冷風との風量割合をエアミックスドア19により調節して、この冷温風の風量割合の調節により車室内への吹出空気温度を調節するようにしているが、ヒータコア21を循環する温水流量、または温水温度を調節する温水弁を設け、この温水弁の開度調節により車室内への吹出空気温度を調節する車両用暖房装置に対しても本発明は適用できる。
【0063】
また、上述した実施形態では、エンジン駆動の機械式温水ポンプ201と電動温水ポンプ205とを切替使用してヒータコア21に温水を循環しているが、電動温水ポンプ205によって常時ヒータコア21に温水を循環させるものにおいて、電動温水ポンプ205の送水能力を本発明の考えに従って設定しても良い。また、ハイブリッド車用の空調装置に限らず、アイドリングストップを行うエコラン車用の空調装置などにも本発明を同様に適用できることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明を適用した一実施形態の車両用空調装置の全体システム構成図である。
【図2】図1の車両用空調装置における空調制御の概要を示すフローチャートである。
【図3】図2のフローチャートにおける電動温水ポンプの作動制御(ステップS9)の内容を示すフローチャートである。
【図4】運転席側での電動温水ポンプの流量に対する吹出温度が下限温度(35℃)に下がるまでの到達時間を示すグラプである。
【図5】助手席側での電動温水ポンプの流量に対する吹出温度が下限温度(35℃)に下がるまでの到達時間を示すグラプである。
【符号の説明】
【0065】
20…車両エンジン
21…ヒータコア(暖房用熱交換器)
200…温水回路
201…機械式温水ポンプ
205…電動温水ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両エンジン(20)の運転時に前記車両エンジン(20)により駆動され、前記車両エンジン(20)の温水を温水回路(200)に循環させる機械式温水ポンプ(201)と、
前記温水回路(200)に設けられ、車室内へ吹き出す空気を前記温水によって加熱する暖房用熱交換器(21)と、
前記車両エンジン(20)のアイドルストップ時に前記車両エンジン(20)の温水を前記暖房用熱交換器(21)に循環させる電動温水ポンプ(205)とを備えた車両用暖房装置において、
前記電動温水ポンプ(205)の送水能力が前記車両エンジン(20)アイドル時の前記機械式温水ポンプ(201)の送水能力よりも小さいことを特徴とする車両用暖房装置。
【請求項2】
前記電動温水ポンプ(205)の送水能力を前記車両エンジン(20)のアイドルストップ時に提供することを特徴とする請求項1に記載の車両用暖房装置。
【請求項3】
前記電動温水ポンプ(205)の送水能力は調節可能であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用暖房装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−120297(P2008−120297A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308143(P2006−308143)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】