説明

車両用液圧マスタシリンダのリザーバ

【課題】軽量化を図りながら剛性やシール性を確保したキャップを備えた車両用液圧マスタシリンダのリザーバを提供する。
【解決手段】リザーバ本体3bの上部開口縁3cと、リザーバ本体3bに被着されるキャップ7の外縁部7aとの間に、ダイヤフラム8のフランジ部8aを挟み、フランジ部8aと外縁部7aとに挿通した止めねじ10,10をリザーバ本体3bの上部開口縁cに螺着してキャップ7とダイヤフラム8とをリザーバ本体3aに被着する。キャップ7を樹脂で形成し、キャップ7の外縁部7aに反リザーバ本体側に肉盛りした厚肉部7b,7bを形成し、該厚肉部7b,7bに止めねじ10,10を挿通するねじ挿通孔7c,7cを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用液圧マスタシリンダのリザーバに関し、詳しくは、リザーバ本体の上部開口縁にダイヤフラムを介してキャップを被着した車両用液圧マスタシリンダのリザーバに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車等の車両にあっては、ブレーキ用或いはクラッチ用液圧マスタシリンダにリザーバが併設され、リザーバ内に貯留されるブレーキ液やクラッチ液等の作動液を、液圧マスタシリンダへ随時補給したり、或いは液圧マスタシリンダから還流できるようにしている。
【0003】
このリザーバとしては、シリンダボディと一体に成形される鋳鉄やアルミニウム合金等の金属製のリザーバ本体と、リザーバ本体と同様に鋳鉄やアルミニウム合金等の金属製のキャップと、合成ゴム製のダイヤフラムとを備え、リザーバ本体の上部開口縁と、キャップ外周のダイヤフラム押圧面との間に、ダイヤフラムのフランジ部を挟み、該フランジ部とダイヤフラム押圧面とに挿通した2本の止めねじをリザーバ本体の上部開口縁に螺着して、キャップとダイヤフラムとをリザーバ本体に被着したものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−51031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、リザーバの軽量化を図るために、キャップを樹脂で形成した場合、特許文献1に記載されたような金属製のキャップと同一の厚さとすると剛性が不足していた。また、剛性を確保するために、全体を厚肉に形成すると、成形時にひけが生じ易く、キャップのシール性が低下する虞があった。
【0006】
そこで本発明は、軽量化を図りながら剛性やシール性を確保したキャップを備えた車両用液圧マスタシリンダのリザーバを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用液圧マスタシリンダのリザーバは、リザーバ本体の上部開口縁と、該リザーバ本体に被着されるキャップの外縁部下面との間に、ダイヤフラムのフランジ部を挟み、該フランジ部と前記外縁部とに挿通した止めねじを前記リザーバ本体に螺着して前記キャップとダイヤフラムとをリザーバ本体に被着する液圧マスタシリンダのリザーバにおいて、前記キャップを樹脂で形成し、前記外縁部の一部に反リザーバ本体側に肉盛りした厚肉部を形成するとともに、該厚肉部に前記止めねじを挿通するねじ挿通孔を形成したことを特徴としている。また、前記リザーバ本体を直方体状に形成し、前記キャップは、平面形状が前記リザーバ本体の上部開口縁と同一の長方形状に形成され、一方の対角線上で対向する隅部に前記厚肉部をそれぞれ形成しても良い。さらに、前記キャップは、厚肉部よりも内側に、前記リザーバ本体内外に大気を連通させる大気連通部を備えたもの、また、キャップの下面の外縁近傍で前記厚肉部に対応しない位置に、ガイドリブを突設したものであっても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用液圧マスタシリンダのリザーバによれば、キャップを樹脂で形成することにより、リザーバの軽量化を図りながら、ねじ挿通孔の周囲を厚肉に形成することにより、剛性を確保することができる。また、負荷の掛かるねじ挿通孔の周囲のみを厚肉に形成することから、ヒケの発生を抑制できコストの削減を図ることができる。さらに、厚肉部により、キャップの浮き上がりが抑えられシール性の向上を図ることができる。
【0009】
また、キャップの平面形状を、リザーバ本体の上部開口縁と同一の長方形状に形成し、一方の対角線上で対向する隅部に厚肉部をそれぞれ形成したことにより、成形時の湯周り性を良好にすることができ、生産性の向上を図ることができる。
【0010】
さらに、キャップの厚肉部よりも内側に、リザーバ本体内外に大気を連通させる大気連通部を設けたことにより、大気連通部がキャップの上面から大きく突出しない。また、キャップの下面の外縁近傍で前記厚肉部に対応しない位置に、ガイドリブを突設したことにより、該ガイドリブでダイヤフラムをガイドできると共に、キャップのねじれ剛性の向上と、シール性の向上とを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一形態例を示すリザーバのキャップとカバー体の分解斜視図である。
【図2】同じくリザーバのキャップの平面図である。
【図3】図2のIII-III断面図である。
【図4】同じくリザーバのキャップの底面図である。
【図5】図6のV-V断面図である。
【図6】リザーバ及び液圧マスタシリンダを車体に組み付けた状態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図6は本発明の車両用液圧マスタシリンダのリザーバの一形態例を示すもので、本形態例の車両用液圧マスタシリンダ1は、バーハンドル車両のフロントブレーキ用で、シリンダボディ2の上部にリザーバ3が設けられている。シリンダボディ2は、一端を開口した有底のシリンダ孔2aが設けられ、該シリンダ孔2aにはピストン4が移動可能に内挿され、ピストン作動子5によってピストン4をシリンダ孔2aの底部方向へ押動し、液圧室6に液圧を発生させるようにしている。
【0013】
リザーバ3は、貯液室3aに作動液を貯留するリザーバ本体3bと、該リザーバ本体3bに被着されるキャップ7と、リザーバ本体3bの上部開口縁3cとキャップ7の外縁部7aとの間に介装されるダイヤフラム8と、前記キャップ7の上面に装着されるカバー体9とを備えている。
【0014】
シリンダボディ2とリザーバ本体3bとは、鋳鉄やアルミニウム合金等によって一体に成形されており、シリンダ孔2aと貯液室3aとをリリーフポート3dとサプライポート3eとで連通し、貯液室3a内の作動液をシリンダ孔2aへ随時補給したり、シリンダ孔2a内の作動液を貯液室3aへ還流できるようになっている。リザーバ本体3bは、直方体状に形成され、上部開口縁3cの一方の対角線上で対向する隅部に、ダイヤフラム8とキャップ7とを取り付ける止めねじ10,10を螺着させる雌ねじ孔3f,3fが形成されている。
【0015】
キャップ7は、硬質の樹脂で形成され、平面形状がリザーバ本体3bの上面と同一の長方形状に形成されている。キャップ7の外縁部7aの一方の対角線上で対向する隅部には、反リザーバ本体側(キャップ上方側)に向けて厚肉に形成された厚肉部7b,7bが設けられ、厚肉部7b,7bに、止めねじ10,10をキャップ上面と直交方向に挿通させるねじ挿通孔7c,7cが前記雌ねじ孔3f,3fと同軸に形成されている。また、キャップ7は、下面の外縁近傍で前記厚肉部7b,7bに対応しない位置にガイドリブ7dが、上面の中央部には矩形の防油リブ7eがそれぞれ突設されている。キャップ7の略中心位置で、前記防油リブ7eの内側には、キャップ7の内外に貫通する連通孔7fが形成されると共に、該連通孔7fの近傍には、カバー体9に設けた突部9aを係止する係止孔7gと、液溜めとなる凹部7hとが、前記連通孔7fを挟んで対称位置にそれぞれ形成され、係止孔7gは、下面に向けて漸次小径となる円錐状に形成されている。
【0016】
カバー体9は、キャップ7と同様の樹脂で形成され、防油リブ7eの上面を覆う天井部9bと、防油リブ7eの外側に嵌合する側壁9cとを備え、天井部9bには、前記係止孔7gに係合する突部9aが突設され、側壁9cの下面には、カバー体9の内外に連通する複数の溝から成る大気連通路9dが形成されている。突部9aは中心部にスリット(図示せず)が形成されると共に、カバー体9をキャップ7に装着した時に、キャップ7の係止孔7gよりもキャップ7の下方に突出する係合部9eを備えている。係合部9eは先端側が縮径した円錐状に形成され、係止孔7gを通過する際はスリットにより縮径し、係止孔7gを通過した後には拡径して基端面がキャップ7の内面に当接し、カバー体9がキャップ7に係止される。また、カバー体9をキャップ7に係止した状態で、連通孔7f,防油リブ7e,大気連通路9d,キャップ9とにより、リザーバ本体内外に大気を連通させる大気連通部11が形成される。
【0017】
ダイヤフラム8は、合成ゴム等の可撓性材料によって形成され、リザーバ本体3bの上部開口縁3cに載置される外端のフランジ部8aと、該フランジ部8aの内側に設けられる蛇腹部8bと、該蛇腹部中央の下端内側に延設され、作動液の液面の変化に追従する平面部8cとを備えている。また、フランジ部8aには、止めねじ10,10を挿通させる通孔8d,8dが前記ねじ挿通孔7c,7cと同軸に形成されている。
【0018】
上述のように形成されたリザーバ3のリザーバ本体3bへのキャップ7の取り付けは、まず、キャップ7の係止孔7gにカバー体9の突部9aを挿入すると共に、防油リブ7eの長辺とカバー体9の長辺側の側壁9cとを嵌合し、突部9aの係合部9eをキャップ内側に突出させ、基端面をキャップ7の内面に対向させて、カバー体9をキャップ7に取り付け、キャップ7とカバー体9とを一体化する。
【0019】
次いで、ダイヤフラム8のフランジ部8aを上部開口縁3cに載置し、その上に、キャップ7の外縁部7bを載置し、ガイドリブ7dを貯液室3a内に挿入すると共に、止めねじ10,10をねじ挿通孔7c,7cと通孔8d,8dとに挿入し、雌ねじ孔3f,3fに螺着して、ダイヤフラム8のフランジ部8aをキャップ7の外縁部下面とリザーバ本体3bの上部開口縁3cとの間に挟着する。この取り付けにより、キャップ7に形成した連通孔7fの周囲がカバー体9で覆われると共に、カバー体9に形成した大気連通路9dによって、カバー体9とキャップ7との間に形成される空間部E1と大気とが連通し、さらに、連通孔7fにより、空間部E1とダイヤフラム8の上部空間部E2とが連通することにより、上部空間部E2と大気とが連通し、前記大気連通部11が形成される。
【0020】
このように形成されたリザーバ3は、キャップ7やカバー体9を樹脂で形成することにより軽量化を図ることができる。また、キャップ7に形成されるねじ挿通孔7c,7cの周囲が厚肉に形成されることにより、剛性を確保することができると共に、負荷の掛かるねじ挿通孔7c,7cの周囲のみを厚肉に形成することから、成形時にヒケが発生することを抑制し、また、コストの削減を図ることができる。さらに、厚肉部7b,7bにより、キャップ7の浮き上がりが抑えられ、シール性の向上を図ることができる。また、キャップ7を長方形状に形成し、厚肉部7b,7bを一方の対角線上で対向する隅部にそれぞれ設けることにより、成形時の湯周り性を良好にすることができ、生産性の向上を図ることができる。さらに、キ
ャップ7の厚肉部7b,7bよりも内側に、リザーバ本体内外に大気を連通させる大気連通部11を設けたことにより、大気連通部11がキャップの上面から大きく突出しない。また、キャップ7の厚肉部7b,7bよりも内側の下面に、ガイドリブ7dを突設したことにより、該ガイドリブ7dでダイヤフラム8をガイドできると共に、キャップ7のねじれ剛性の向上と、シール性の向上とを図ることができる。
【0021】
尚、本発明のリザーバは直方体状に形成されるものに限らず円筒状でも良く、キャップの形状はリザーバ本体の上部開口縁の形状に応じた各種形状に形成することもでき、厚肉部やねじ挿通孔も適宜形成すればよい。さらに、液圧マスシリンダは、上述の形態例に限らず、タンデムタイプのものでも良く、シリンダボディの上部に別体のリザーバを設けたものや、リザーバ本体が樹脂で形成されたものでも良い。
【符号の説明】
【0022】
1…車両用液圧マスタシリンダ、2…シリンダボディ、2a…シリンダ孔、3…リザーバ、3a…貯液室、3b…リザーバ本体、3c…上部開口縁、3d…リリーフポート、3e…サプライポート、3f…雌ねじ孔、4…ピストン、5…ピストン作動子、6…液圧室、7…キャップ、7a…外縁部、7b…厚肉部、7c…ねじ挿通孔、7d…ガイドリブ、7e…防油リブ、7f…連通孔、7g…係止孔、7h…凹部、8…ダイヤフラム、8a…フランジ部、8b…蛇腹部、8c…平面部、8d…通孔、9…カバー体、9a…突部、9b…天井部、9c…側壁、9d…大気連通路、9e…係合部、10…止めねじ、11…大気連通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザーバ本体の上部開口縁と、該リザーバ本体に被着されるキャップの外縁部下面との間に、ダイヤフラムのフランジ部を挟み、該フランジ部と前記外縁部とに挿通した止めねじを前記リザーバ本体に螺着して前記キャップとダイヤフラムとをリザーバ本体に被着する液圧マスタシリンダのリザーバにおいて、前記キャップを樹脂で形成し、前記キャップの外縁部の一部に反リザーバ本体側に肉盛りした厚肉部を形成するとともに、該厚肉部に前記止めねじを挿通するねじ挿通孔を形成したことを特徴とする車両用液圧マスタシリンダのリザーバ。
【請求項2】
前記リザーバ本体が直方体状に形成され、前記キャップは、平面形状が前記リザーバ本体の上部開口縁と同一の長方形状に形成され、一方の対角線上で対向する隅部に前記厚肉部をそれぞれ形成したことを特徴とする請求項1記載の車両用液圧マスタシリンダのリザーバ。
【請求項3】
前記キャップは、前記厚肉部よりも内側に、前記リザーバ本体内外に大気を連通させる大気連通部を備えていることを特徴とする請求項2記載の車両用液圧マスタシリンダのリザーバ。
【請求項4】
前記キャップは、下面の外縁近傍で前記厚肉部に対応しない位置にガイドリブを突設したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用液圧マスタシリンダのリザーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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