説明

車両用添加剤タンクの配置構造

【課題】走行中の跳ね石や衝突時の破損などからの保護のさらなる向上を実現できる車両用添加剤タンクの配置構造を提供することにある。
【解決手段】ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中の微粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと、前記パティキュレートフィルタで捕集された微粒子状物質の燃焼温度を低減する添加剤を貯蔵する添加剤タンク15とを備えた車両用添加剤タンクの配置構造であって、添加剤タンク15が、車体骨格をなす左右のサイドメンバ21a,21bに固定されるフロアパネル22と、左右のサイドメンバ21a,21bに架設されるクロスメンバ11との間に配置されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用添加剤タンクの配置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどからの排気ガスを排出する排気管には、排気ガス中の煤などのパティキュレートマター(Particulate Matter;以下、微粒子状物質と称す)を捕集するパティキュレートフィルタ(Diesel particulate filter;以下、フィルタと称す)が設けられている。フィルタで捕集した微粒子状物質を、排気ガスの熱を利用して燃焼除去している。
【0003】
上述したフィルタにおける微粒子状物質の燃焼温度は550℃と高温である。ところが、運転開始直後や低速走行時などにおいては排気ガスの温度(排気温度)が550℃よりも低温である。そこで、フィルタ上に、またはフィルタの排気ガス流通方向上流側に、未燃燃料により酸化反応し、この反応で発熱する酸化触媒を設け、排気ガスが低温である場合には、ポスト噴射(排気行程噴射)を行って未燃燃料(HC)を排気ガスに供給し、酸化触媒で酸化反応を生じさせて、排気ガスを昇温するようにしている。しかし、前記ポスト噴射は、走行のためではなくフィルタでの微粒子状物質の処理にて燃料を消費することになるため、燃費を悪化させる要因となっている。
【0004】
一方、燃料中に酸化セリウム(CeO)などの添加剤(触媒)を添加することにより、フィルタでの微粒子状物質の燃焼温度を450℃まで下げる技術が開発されている。このような技術を用いることにより、上記のポスト噴射での燃料の噴射量を低減したりポスト噴射の回数を低減したりすることができ、燃費の悪化の抑制に有効である。
【0005】
上述した添加剤は添加剤タンクに貯蔵される。添加剤タンクは、例えばフロアパネルの下面側などに配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−193427号公報(例えば、明細書の段落[0014]など参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引火性の溶媒を含む添加剤タンクをフロアパネルの下面側に配置した場合には、前記添加剤タンクを走行中の跳ね石や衝突時の破損などから保護する必要があり、添加剤タンクを保護することができるレイアウトまたはプロテクタなどを取り付けるなどの対策が必要となる。これにより添加剤タンクを保護することができるものの、添加剤タンクの保護のさらなる向上が求められていた。
【0008】
以上のことから、本発明は上述したような問題を解決するために為されたものであって、走行中の跳ね石や衝突時の破損などからの保護のさらなる向上を実現できる車両用添加剤タンクの配置構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決する本発明に係る車両用添加剤タンクの配置構造は、ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中の微粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと、前記パティキュレートフィルタで捕集された微粒子状物質の燃焼温度を低減する添加剤を貯蔵する添加剤タンクとを備えた車両用添加剤タンクの配置構造であって、前記添加剤タンクが、車体骨格をなす左右のサイドメンバに固定されるフロアパネルと、前記左右のサイドメンバに架設されるクロスメンバとの間に配置されることを特徴とする。
【0010】
前述した課題を解決する本発明に係る車両用添加剤タンクの配置構造は、上述した車両用添加剤タンクの配置構造であって、前記クロスメンバが、車幅方向に延在する前横部と、前記前横部よりも車両後方側に且つ前記前横部よりも下方側に配置され車幅方向に延在する後横部と、前記前横部と前記後横部に連結され車両前後方向に延在する左右の連結部とで井形状をなしていることを特徴とする。
【0011】
前述した課題を解決する本発明に係る車両用添加剤タンクの配置構造は、上述した車両用添加剤タンクの配置構造であって、前記添加剤タンクが車幅方向略中央に配置されることを特徴とする。
【0012】
前述した課題を解決する本発明に係る車両用添加剤タンクの配置構造は、上述した車両用添加剤タンクの配置構造であって、前記添加剤タンクが前記フロアパネルの下面部に固定され、かつ路面に対して前記クロスメンバの上方に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車両用添加剤タンクの配置構造によれば、添加剤タンクが路面に対してクロスメンバの上方に配置されることとなり、走行中の跳ね石や衝突時の破損などからの添加剤タンクの保護のさらなる向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施例に係る車両用添加剤タンクの配置構造の下面図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る車両用添加剤タンクの配置構造の後面図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る車両用添加剤タンクの配置構造の断面図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係る車両用添加剤タンクの配置構造における添加剤タンクの説明図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る車両用添加剤タンクの配置構造の説明図であって、図5(a)にフロアパネルを配置した状態を示し、図5(b)にフロアパネルを外した状態を示す。
【図6】本発明の第1の実施例に係る車両用添加剤タンクの配置構造の衝突シミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る車両用添加剤タンクの配置構造を実施するための形態について、実施例にて説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の第1の実施例に係る車両用添加剤タンクの配置構造について、図1〜図6に基づいて具体的に説明する。
【0017】
図1〜図5に示すように、車幅方向の両側には、車体骨格をなし車両前後方向に延在する左右のサイドメンバ21a,21bが設けられる。左右のサイドメンバ21a,21bにフロアパネル(リアフロアパネル)22が固定される。フロアパネル22下部前方の車幅方向略中央には、ディーゼルエンジンと変速機で構成される駆動装置(図示せず)と、駆動装置から後方に延在するプロペラシャフト23が配置される。プロペラシャフト23はリアディファレンシャル24に連結されておりリアディファレンシャル24およびリアドライブシャフト26を介して後輪(図示せず)を駆動する。リアディファレンシャル24の近傍に、ディーゼルエンジンの燃料を貯蔵する燃料タンク27が配置される。燃料タンク27は、プロペラシャフト23に隣接する位置にて、車体下方側へ膨出する膨出部27a,27bを備える。
【0018】
フロアパネル22下部の車幅方向略中央には、プロペラシャフト23に隣接して、前記ディーゼルエンジンの排気マニホールド(図示せず)に接続される排気管28が設けられる。排気管28は、車両後方側へ延在しており、後端部がメインマフラ29に接続されている。排気管28におけるメインマフラ29の排気ガス流通方向上流側には、排気ガス中の微粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタ、未燃燃料により酸化反応する酸化触媒を備える排気浄化装置25が配置される。
【0019】
上述したリアディファレンシャル24近傍には、リアサスペンションクロスメンバ11が配置される。リアサスペンションクロスメンバ11は、井形状をなしており、前横部11a、後横部11b、左連結部11c、右連結部11dを備える。前横部11aと後横部11bは車幅方向に延在する部位であって、それぞれが略平行に配置される。後横部11bは、前横部11aよりも車両後方側に且つ前横部11aよりも下方側に配置される。前横部11aと後横部11bが左連結部11cおよび右連結部11dで連結される。前横部11aには左前延在部11eおよび右前延在部11fが設けられており、左前延在部11eおよび右前延在部11fがサイドメンバ21a,21bにそれぞれ固定される。後横部11bには左後延在部11gおよび右後延在部11hが設けられており、左後延在部11gおよび右後延在部11hがサイドメンバ21a,21bにそれぞれ固定される。すなわち、リアサスペンションクロスメンバ11はサイドメンバ21a,21bに架設される。前横部11aは取付部11i,11jを備える。
【0020】
リアサスペンションクロスメンバ11の取付部11i,11jにて、車両前後方向に延在するトレーリングアーム(図示せず)が取り付けられる。トレーリングアームの車両前方側には、軸方向が車幅方向に配置されたブッシュ(図示せず)が設けられており、トレーリングアームはブッシュを介してサイドメンバ21a,21bに取り付けられる。リアサスペンションクロスメンバ11の後横部11bには、ロアアーム13が取り付けられる。ロアアーム13がトレーリングアームに上下方向に揺動自在に軸支される。トレーリングアームの後端部に図示しないアスクルおよびハブを介して後輪が回転自在に支持される。
【0021】
なお、リアサスペンションクロスメンバ11の左右両部間にてスタビライザロッド12が架設される。
【0022】
上述したフロアパネル22とリアサスペンションクロスメンバ11の間に、添加剤を貯蔵する添加剤タンク15が配置される。具体的には、添加剤タンク15は、フロアパネル22の下部における、リアサスペンションクロスメンバ11の後横部11bの上方に空間を設けて配置される。添加剤タンク15は、サスペンションクロスメンバ11の後横部11bの車両前後方向の大きさより若干大きく、車幅方向へ延在する形状をなしている。添加剤タンク15は車幅方向に設けたブラケット17,18を介してフロアパネル22の下面部(ボデー)にボルト19で固定される。よって、添加剤タンク15の大部分は、リアサスペンションクロスメンバ11の後横部11bにより路面に対して覆われた形態にて配置されることになる。すなわち、添加剤タンク15は、路面に対して露出した部位が少ない位置に配置されることになる。添加剤タンク15は排出部15aを備える。添加剤タンク15の排出部15aには添加剤送給管16が連結される。添加剤送球管16の他方の端部は燃料タンク27と連結される。これにより、添加剤タンク15内の添加剤を燃料タンク27へ送給可能になっている。
【0023】
添加剤は、燃料タンク27内の燃料に供給しておくことで、パティキュレートフィルタで捕集した微粒子状物質の燃焼温度を550℃から450℃に低減する触媒である。添加剤としては、例えば、溶媒の主成分が酸化セリウムであり、溶媒がイソパラフィンであり、引火物として扱う必要がある触媒が挙げられる。
【0024】
ここで、上述した車両用添加剤タンクの配置構造に対し、車両後方から後部全体に対して衝撃が加わったときのシミュレーション解析結果、すなわち、フルラップ後突時のシミュレーション解析結果について、図6を参照して説明する。図6において、実線がフロアパネルおよびメインマフラおよびリアディファレンシャルおよび添加剤タンクの初期位置を示し、1点鎖線が20ms時におけるフロアパネルおよびメインマフラおよびリアディファレンシャルおよび添加剤タンクの位置を示し、2点鎖線が50ms時におけるフロアパネルおよびメインマフラおよびリアディファレンシャルおよび添加剤タンクの位置を示す。Xは車両前端からの距離を示す。
【0025】
図6に示すように、20ms時においては、フロアパネル31およびメインマフラ32およびリアディファレンシャル33とともに添加剤タンク34も初期位置から移動し、添加剤タンク34がボデーに追従するため、リアディファレンシャル33とすれ違い、メインマフラ32から遠ざかる位置に在ることが分かる。50ms時においても、20ms時の場合と同様、フロアパネル31およびメインマフラ32およびリアディファレンシャル33とともに添加剤タンク34も初期位置から移動し、添加剤タンク34がボデーに追従し、リアディファレンシャル33とすれ違い、メインマフラ32から遠ざかる位置に在ることが分かる。すなわち、フロアパネル22の下面部に固定され、かつリアサスペンションクロスメンバ11の後横部11bの上方に空間を設けて添加剤タンク15を配置することが、添加剤タンク15の保護のさらなる向上を実現することにとって、有効であることが確認された。
【0026】
したがって、本実施例に係る車両用添加剤タンクの配置構造によれば、添加剤タンク15がフロアパネル22とリアサスペンションクロスメンバ11との間に配置されることにより、添加剤タンク15が路面に対してリアサスペンションクロスメンバ11の上方に配置されることになる。これにより、添加剤タンク15における路面に対して露出する部位が減る。その結果、走行中の跳石などが添加剤タンクに直接的に接触すること防ぐことができる。また、添加剤タンク15がサイドメンバ21a,21bに固定されるリアサスペンションクロスメンバ11の上方に配置されることにより、衝突時の衝撃が添加剤タンク15に直接的に入力されることを防ぐことができる。すなわち、フロアパネルの下方に添加剤タンクを単純に配置する場合と比べて、添加剤タンク15の保護のさらなる向上を実現できる。さらに、車両後方から後部全体に対して衝撃が加わったときにおいて、添加剤タンク15が移動するものの、その周囲にあるリアディファレンシャル24やマフラ29などと接触することがないため、添加剤タンク15の保護のさらなる向上を実現できる。
【0027】
リアサスペンションクロスメンバ11は、前横部11aと後横部11bと連結部11c,11dとで井形状をなし、後横部11bが前横部11aよりも下方側に配置されていることで、リアサスペンションクロスメンバ11をサイドメンバ21a,21bに組み付けたときに、後横部11bとフロアパネル22との間にスペースを確保でき、当該スペースに添加剤タンク15を配置することができる。よって、走行中の跳ね石や衝突時の破損などからの添加剤タンク15の保護のさらなる向上を実現できる。
【0028】
添加剤タンク15が車幅方向略中央に配置されることにより、リアサスペンションクロスメンバ11の後横部11bの略中央の位置に配置されることになる。これにより、添加剤タンク15を後横部11bとフロアパネル22との間のスペースに位置づけられる。その結果、添加剤タンク15が路面に対してリアサスペンションクロスメンバ11の上方に配置されることになる。よって、走行中の跳ね石や衝突時の破損などからの添加剤タンク15の保護のさらなる向上を実現できる。
【0029】
添加剤タンク15がフロアパネル22の下面部(ボデー)に固定され、かつ路面に対してリアサスペンションクロスメンバ11の上方に配置されることにより、車両後方から後部全体に対して衝撃が加わった場合に、添加剤タンク34がボデーに追従するため、リアディファレンシャル33とすれ違い、メインマフラ32から遠ざかる位置に移動することで、添加剤タンク15の保護のさらなる向上を実現することができる。
【0030】
なお、本発明は、上記実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、リアサスペンションクロスメンバの形状を変更することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る車両用添加剤タンクの配置構造は、走行中の跳ね石や衝突時の破損などからの保護のさらなる向上を実現できるので、自動車産業などにおいて、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
11 リアサスペンションクロスメンバ
11a 前横部
11b 後横部
11c 左連結部
11d 右連結部
11e 左前延在部
11f 右前延在部
11g 左後延在部
11h 右後延在部
11i,11j 取付部
12 スタビライザロッド
13 ロアアーム
14 ブッシュ
15 添加剤タンク(アディティブタンク)
15a 排出部
16 添加剤送給管
17,18 ブラケット
19 ボルト
21a,21b サイドメンバ
22 フロアパネル(リアフロアパネル)
23 プロペラシャフト
24 リアディファレンシャル
25 排気浄化装置
26 ドライブシャフト
27 燃料タンク
28 排気管
29 メインマフラ
31 フロアパネル
32 メインマフラ
33 リアディファレンシャル
34 添加剤タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中の微粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと、前記パティキュレートフィルタで捕集された微粒子状物質の燃焼温度を低減する添加剤を貯蔵する添加剤タンクとを備えた車両用添加剤タンクの配置構造であって、
前記添加剤タンクは、車体骨格をなす左右のサイドメンバに固定されるフロアパネルと、前記左右のサイドメンバに架設されるクロスメンバとの間に配置される
ことを特徴とする車両用添加剤タンクの配置構造。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用添加剤タンクの配置構造であって、
前記クロスメンバは、車幅方向に延在する前横部と、前記前横部よりも車両後方側に且つ前記前横部よりも下方側に配置され車幅方向に延在する後横部と、前記前横部と前記後横部に連結され車両前後方向に延在する左右の連結部とで井形状をなしている
ことを特徴とする車両用添加剤タンクの配置構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された車両用添加剤タンクの配置構造であって、
前記添加剤タンクが車幅方向略中央に配置される
ことを特徴とする車両用添加剤タンクの配置構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載された車両用添加剤タンクの配置構造であって、
前記添加剤タンクが前記フロアパネルの下面部に固定され、かつ路面に対して前記クロスメンバの上方に配置される
ことを特徴とする車両用添加剤タンクの配置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−236502(P2012−236502A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106794(P2011−106794)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】