説明

車両用燃料電池システムのアイドル停止方法

【課題】簡単な工程で、MEAの劣化を可及的に抑制することができ、燃料電池スタック全体の耐久性を向上させるとともに、異音の発生を低減させることを可能にする。
【解決手段】燃料電池システム10は、複数の燃料電池30が積層された燃料電池スタック12を備える。燃料電池システム10のアイドル停止方法では、燃料電池30が発電中で且つ走行用モータ24の電気的負荷が所定時間所定値以下であることが検出された際、アイドル状態であると判断する第1の工程と、前記アイドル状態であると判断された際、アノード側に燃料ガスを流通させながら、走行可能な電力が得られる通常発電時に供給される酸化剤ガス量未満の所定量の酸化剤ガスをカソード側に供給して発電するとともに、発電電流をディスチャージする第2の工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を有する燃料電池を備え、前記燃料電池のカソード側に供給される酸化剤ガス及び前記燃料電池のアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電するとともに、発電電力を走行用モータに供給して走行する車両用燃料電池システムのアイドル停止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード電極及びカソード電極を設けた電解質膜・電極構造体(MEA)を、一対のセパレータによって挟持している。一方のセパレータと電解質膜・電極構造体との間には、アノード電極に燃料ガスを供給するための燃料ガス流路が形成されるとともに、他方のセパレータと前記電解質膜・電極構造体との間には、カソード電極に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成されている。
【0003】
燃料電池は、通常、複数積層されて燃料電池スタックを構成するとともに、定置用の他、車載用として燃料電池車両に組み込まれることにより、車載用燃料電池システムとして使用されている。
【0004】
この種の車載用燃料電池システムでは、起動から停止までの間において、すなわち、イグニッションスイッチがオンされた状態において、アイドル状態に移行する場合がある。アイドル状態とは、例えば、走行用モータの電気的負荷が所定時間所定値以下である状態をいう。
【0005】
そして、アイドル状態からアイドル停止に移行する際には、燃料電池の劣化を防止するために、燃料電池スタックの起電力を劣化電位以下に抑える必要がある。このため、アイドル停止時に、燃料電池スタックから電流を取り出してディスチャージを行うことが知られている。
【0006】
例えば、特許文献1に開示されている燃料電池システムでは、燃料電池スタックに供給される燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電が行われ、燃料ガスと酸化剤ガスの供給を停止した後、前記燃料電池スタックから電流を取り出し、前記燃料電池スタックのカソード電極に残留する酸化剤ガスを消費して前記燃料電池スタックのスタック電圧を低下された後、前記燃料電池スタックの発電を停止する燃料電池システムにおいて、前記燃料電池スタックから電流を取り出す際に、電流の取り出し開始時から取り出し終了時にかけて取り出し電流の電流値を低下させることを特徴としている。
【0007】
これにより、電流の取り出しを終了するタイミングをより精度よく判定することが可能となり、燃料電池スタックの劣化や酸化剤ガスの過剰消費を抑制することに加えて、発電停止に移行するまでの時間を短縮することができ、燃料電池スタックの性能低下を防止することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−294304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献1では、燃料電池スタックのディスチャージ時に、燃料ガスと酸化剤ガスの供給が停止されているため、燃料電池のMEAに劣化が惹起されるという問題がある。具体的には、図8に示すように、燃料電池1において、MEA2を挟んでカソード流路3及びアノード流路4が設けられており、前記カソード流路3には、酸素が存在する一方、前記アノード流路4には、水素が存在している。
【0010】
このため、アノード流路4に残留している水素が、MEA2を透過してカソード流路3に移動した際に、前記MEA2の触媒表面上で残存酸素と反応し、前記MEA2に劣化が発生するという問題がある。
【0011】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単な工程で、MEAの劣化を可及的に抑制することができ、燃料電池スタック全体の耐久性を向上させるとともに、例えば、燃料電池に空気を供給するポンプが加速時に発する騒音及び水素供給遮断弁の切り換え時の異音の発生を低減させることが可能な車両用燃料電池システムのアイドル停止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を有する燃料電池を備え、前記燃料電池のカソード側に供給される酸化剤ガス及び前記燃料電池のアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電するとともに、発電電力を走行用モータに供給して走行する車両用燃料電池システムのアイドル停止方法に関するものである。
【0013】
このアイドル停止方法では、燃料電池が発電中で且つ走行用モータの電気的負荷が所定時間所定値以下であることが検出された際、アイドル状態であると判断する第1の工程と、前記アイドル状態であると判断された際、アノード側に燃料ガスを流通させながら、走行可能な電力が得られる通常発電時に供給される酸化剤ガス量未満の所定量の酸化剤ガスをカソード側に供給して発電するとともに、発電電流をディスチャージする第2の工程とを有している。
【0014】
ここで、アイドル状態とは、走行用モータの電気的負荷が所定時間所定値以下である状態をいう。例えば、走行用モータの回転数がゼロを含む所定の低速回転数である状態(「停止又は低速走行状態」という。)、燃料電池車両の減速時に回生制御力を発生させている状態(「回生走行状態」という。)、自動的に速度を一定に保持する走行を行っている状態(「クルーズ走行状態」という。)等が該当する。
【0015】
そして、アイドル停止状態とは、上記のアイドル状態(第1の工程)から第2の工程に移行された状態をいい、通常の発電停止期間とは異なる。すなわち、アイドル停止状態は、例えば、アクセル操作により通常発電工程(通常走行)に移行することができる状態をいう。
【0016】
また、このアイドル停止方法では、第1の工程で、アイドル状態であると判断された際、燃料電池の要求電力が所定値以下か否かを判断する工程を有し、前記要求電力が前記所定値以下であると判断された際、第2の工程を行う一方、前記要求電力が前記所定値を超えると判断された際、通常発電工程に移行することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、燃料電池スタックが、アイドル状態であると判断された際、アノード側に燃料ガスを流通させながら、走行可能な電力が得られる通常発電時に供給される酸化剤ガス量未満の酸化剤ガスをカソード側に供給している。
【0018】
従って、カソード側では、酸化剤ガスが流通しているため、アノード側から前記カソード側にMEAを透過した燃料ガス中の水素は、前記酸化剤ガス中の酸素と反応する前に前記MEAから排出されている。これにより、簡単な工程で、MEAが劣化することを可及的に抑制することができ、燃料電池スタック全体の耐久性を向上させることが可能になる。
【0019】
しかも、アイドル停止中、アノード側に燃料ガスが流通されており、前記燃料ガスの供給及び供給停止を行うための遮断弁の切り換え操作が不要になる。このため、遮断弁の切り換え時の異音の発生を良好に低減することができるとともに、前記遮断弁の耐久性が有効に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るアイドル停止方法が実施される燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】前記燃料電池システムを構成する回路説明図である。
【図3】前記アイドル停止方法を説明するフローチャートである。
【図4】前記アイドル停止方法を説明するタイミングチャートである。
【図5】カソード側の供給エア量とMEAの性能劣化量との関係説明図である。
【図6】前記MEAの触媒表面上での反応説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るアイドル停止方法を説明するフローチャートである。
【図8】従来例におけるMEAの触媒表面上での反応説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るアイドル停止方法が実施される車載用燃料電池システム10は、燃料電池スタック12と、前記燃料電池スタック12に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置14と、前記燃料電池スタック12に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置16と、前記燃料電池スタック12に冷却媒体を供給するための冷却媒体供給装置18と、蓄電装置、例えば、バッテリ20と、前記燃料電池システム10全体の制御を行うコントローラ22とを備える。
【0022】
燃料電池スタック12及びバッテリ20は、走行用モータ24を含む負荷に電力を供給することができる。燃料電池システム10は、燃料電池自動車等の燃料電池車両(図示せず)に搭載される。なお、蓄電装置としては、バッテリ20の他、キャパシタ等を採用してもよい。
【0023】
燃料電池スタック12は、複数の燃料電池30を積層して構成される。各燃料電池30は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜32をカソード電極34とアノード電極36とで挟持した電解質膜・電極構造体(MEA)38を備える。
【0024】
カソード電極34及びアノード電極36は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金(又はRu等)が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜32の両面に形成される。
【0025】
電解質膜・電極構造体38は、カソード側セパレータ40及びアノード側セパレータ42で挟持される。カソード側セパレータ40及びアノード側セパレータ42は、例えば、カーボンセパレータ又は金属セパレータで構成される。
【0026】
カソード側セパレータ40と電解質膜・電極構造体38との間には、酸化剤ガス流路44が設けられるとともに、アノード側セパレータ42と前記電解質膜・電極構造体38との間には、燃料ガス流路46が設けられる。カソード側セパレータ40とアノード側セパレータ42との間には、冷却媒体流路48が設けられる。
【0027】
燃料電池スタック12には、各燃料電池30の積層方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガス(以下、空気ともいう)を供給する酸化剤ガス入口連通孔50a、燃料ガス、例えば、水素含有ガス(以下、水素ガスともいう)を供給する燃料ガス入口連通孔52a、冷却媒体を供給する冷却媒体入口連通孔54a、前記酸化剤ガスを排出する酸化剤ガス出口連通孔50b、前記燃料ガスを排出する燃料ガス出口連通孔52b、及び前記冷却媒体を排出する冷却媒体出口連通孔54bが設けられる。
【0028】
酸化剤ガス供給装置14は、大気からの空気を圧縮して供給するエアポンプ56を備え、前記エアポンプ56が空気供給流路58に配設される。空気供給流路58には、供給ガスと排出ガスとの間で水分と熱を交換する加湿器60が配設されるとともに、前記空気供給流路58は、燃料電池スタック12の酸化剤ガス入口連通孔50aに連通する。
【0029】
酸化剤ガス供給装置14は、酸化剤ガス出口連通孔50bに連通する空気排出流路66を備える。空気排出流路66は、加湿器60の加湿媒体通路(図示せず)に連通するとともに、この空気排出流路66には、エアポンプ56から空気供給流路58を通って燃料電池スタック12に供給される空気の圧力を調整するための開度調整可能な背圧制御弁68が設けられる。背圧制御弁68は、ノーマルオープン型(通電されない時に開放される)背圧弁により構成される。
【0030】
燃料ガス供給装置16は、高圧水素を貯留する水素タンク(H2タンク)70を備え、この水素タンク70は、水素供給流路72を介して燃料電池スタック12の燃料ガス入口連通孔52aに連通する。この水素供給流路72には、レギュレータ73、遮断弁74及びエゼクタ76が設けられる。レギュレータ73は、酸化剤ガス供給装置14における酸化剤ガスの供給量に対応して圧力調整される。
【0031】
エゼクタ76は、水素タンク70から供給される水素ガスを、水素供給流路72を通って燃料電池スタック12に供給するとともに、燃料電池スタック12で使用されなかった未使用の水素ガスを含む排ガスを、水素循環路78から吸引して、再度、前記燃料電池スタック12に燃料ガスとして供給する。
【0032】
燃料ガス出口連通孔52bには、オフガス流路80が連通する。オフガス流路80の途上には、水素循環路78が連通するとともに、前記オフガス流路80には、パージ弁82が接続される。
【0033】
冷却媒体供給装置18は、燃料電池スタック12に設けられる冷却媒体入口連通孔54a及び冷却媒体出口連通孔54bに連通し、冷却媒体を前記燃料電池スタック12に循環させる冷却媒体循環路84を備える。冷却媒体循環路84には、ラジエータ86及び冷媒ポンプ88が接続される。
【0034】
図2に示すように、燃料電池スタック12には、バスライン100の一端が接続されるとともに、前記バスライン100の他端がインバータ102に接続される。直流を三相交流に変換するインバータ102には、三相の車両走行用の走行用モータ24が接続される。
【0035】
バスライン100には、FCコンタクタ104が配設されるとともに、DC/DCコンバータ105を介装してエアポンプ56及び冷媒ポンプ88等が接続される。バスライン100には、電力線106の一端が接続され、前記電力線106には、DC/DCコンバータ108及びバッテリコンダクタ110を介装してバッテリ20が接続される。
【0036】
このように構成される燃料電池システム10の動作について、以下に説明する。
【0037】
先ず、図示しないイグニッションスイッチ等により燃料電池システム10が起動されると、例えば、バッテリ20から補機類に電力が供給される。このため、燃料電池スタック12による発電が開始される。
【0038】
通常運転時には、図1に示すように、酸化剤ガス供給装置14を構成するエアポンプ56を介して、空気供給流路58に空気が送られる。この空気は、加湿器60を通って加湿された後、燃料電池スタック12の酸化剤ガス入口連通孔50aに供給される。この空気は、燃料電池スタック12内の各燃料電池30に設けられている酸化剤ガス流路44に沿って移動することにより、カソード電極34に供給される。
【0039】
使用済みの空気は、酸化剤ガス出口連通孔50bから空気排出流路66に排出され、加湿器60に送られることによって新たに供給される空気を加湿した後、背圧制御弁68を介して外部に排出される。
【0040】
一方、燃料ガス供給装置16では、遮断弁74が開放されることにより、水素タンク70からレギュレータ73により減圧された水素ガスが、水素供給流路72に供給される。この水素ガスは、水素供給流路72を通って燃料電池スタック12の燃料ガス入口連通孔52aに供給される。燃料電池スタック12内に供給された水素ガスは、各燃料電池30の燃料ガス流路46に沿って移動することにより、アノード電極36に供給される。
【0041】
使用済みの水素ガスは、燃料ガス出口連通孔52bから水素循環路78を介してエゼクタ76に吸引され、燃料ガスとして、再度、燃料電池スタック12に供給される。従って、カソード電極34に供給される空気とアノード電極36に供給される水素ガスとが電気化学的に反応して発電が行われる。
【0042】
一方、水素循環路78を循環する水素ガスには、不純物が混在し易い。このため、不純物を混在する水素ガスは、パージ弁82が開放されることによって排出される。
【0043】
また、冷却媒体供給装置18では、冷媒ポンプ88の作用下に、冷却媒体循環路84から冷却媒体入口連通孔54aを通って燃料電池スタック12内に冷却媒体が導入される。冷却媒体は、冷却媒体流路48に沿って移動することにより、燃料電池30を冷却した後、冷却媒体出口連通孔54bから冷却媒体循環路84に排出される。
【0044】
次いで、第1の実施形態に係るアイドル停止方法について、図3に示すフローチャート及び図4に示すタイミングチャートに沿って説明する。
【0045】
先ず、燃料電池スタック12が、アイドル状態か否かが判断される(第1の工程)。アイドル状態とは、例えば、イグニッションスイッチがONされた状態で、走行用モータ24の電気的負荷が所定時間所定値以下である状態をいう。例えば、走行用モータ24の回転数がゼロを含む所定の低速回転数である状態(「停止又は低速走行状態」という。)、燃料電池車両の減速時に回生制御力を発生させている状態(「回生走行状態」という。)、自動的に速度を一定に保持する走行を行っている状態(「クルーズ走行状態」という。)等が該当する。
【0046】
走行用モータ24の電気的負荷が、所定時間所定値以下であると検出されると、燃料電池スタック12がアイドル状態であると判断される(ステップS1中、YES)。なお、燃料電池スタック12は、アイドル状態において、排出される水素濃度を低減させるため、例えば、希釈器(図示せず)に、常時、希釈用空気を供給することが好ましい。
【0047】
そして、ステップS2に進んで、アイドル停止処理が行われる(第2の工程)。このステップS2では、アノード側に燃料ガスを流通させながら、走行可能な電力が得られる通常発電時に供給される酸化剤ガス量未満の所定量の酸化剤ガスをカソード側に供給して発電するとともに、発電電流をディスチャージする。
【0048】
具体的には、アイドル停止処理時に、酸化剤ガス流路44に供給される空気量(カソード供給エア量)と電解質膜・電極構造体38の性能劣化量(MEA劣化量)とは、図5に示す関係を有する。この性能劣化量は、図8に示すように、触媒表面上で透過水素と残存酸素とが反応して発生する劣化の程度をいう。
【0049】
そこで、酸化剤ガス流路44に空気が流通されると、図6に示すように、燃料ガス流路46から酸化剤ガス流路44に電解質膜・電極構造体38を透過した水素ガスは、前記空気中の酸素と反応する前に前記電解質膜・電極構造体38から排出されている。従って、電解質膜・電極構造体38に発生する劣化が、実際上、問題にならない程度である供給空気量を、所定量に設定し、この所定量に対応してエアポンプ56の回転数が設定される。所定量としては、例えば、50〜150NL/minに設定される。
【0050】
なお、上記の所定量以上であれば、電解質膜・電極構造体38(特に、電解質膜32)の劣化が抑制されるものの、必要以上に多量の空気を供給するため、エアポンプ56の負荷が大きくなって不経済になる。このため、実質的には、空気量は、走行可能な電力が得られる通常発電時に供給される空気量未満の最低量に設定されることが好ましい。
【0051】
また、アイドル停止時に燃料電池30を流通した空気が、後流の希釈器に供給し続けられるため、通常のアイドル停止に入る前に大量の空気を流通させて排出される水素濃度を予め低下させる処理が不要になる。
【0052】
図4に示すように、エアポンプ56の回転数が設定されるとともに、背圧制御弁68への通電が停止される。従って、ノーマルオープン型の背圧制御弁68は、全開状態に維持される。そして、燃料電池スタック12は、設定されたエアポンプ56の回転数に応じて、すなわち、供給エア量に応じて、ディスチャージを行う。このディスチャージでは、例えば、エアポンプ56やバッテリ20に電流を供給することにより、無駄な放電を回避することができる。
【0053】
なお、エアポンプ56の低回転作動中には、燃料電池スタック12のアノード系から水素ガスの排出を規制することが好ましい。排気水素濃度の上昇を防止することが可能となるからである。
【0054】
一方、ステップS1において、燃料電池スタック12が、アイドル状態でないと判断されると(ステップS1中、NO)、ステップS3に進む。このステップS3では、燃料電池スタック12は、上記の通常運転制御に移行され、走行可能な状態に維持される。
【0055】
この場合、第1の実施形態では、燃料電池スタック12が、アイドル状態であると判断された際、アノード側に燃料ガスを流通させながら、走行可能な電力が得られる通常発電時に供給される酸化剤ガス量未満の酸化剤ガスをカソード側に供給している。
【0056】
従って、図6に示すように、カソード側では、酸化剤ガスが流通しているため、アノード側から前記カソード側に電解質膜・電極構造体38を透過した燃料ガス中の水素は、前記酸化剤ガス中の酸素と反応する前に前記電解質膜・電極構造体38から排出されている。これにより、簡単な工程で、電解質膜・電極構造体38が劣化することを可及的に抑制することができ、燃料電池スタック12全体の耐久性を向上させることが可能になるという効果が得られる。
【0057】
しかも、アイドル停止中、アノード側に燃料ガスが流通されており、前記燃料ガスの供給及び供給停止を行うための遮断弁74の切り換え操作が不要になる。遮断弁74は、常時、開放しておくことができるからである。このため、アイドル停止時に、遮断弁74を閉塞側に操作する必要がなく、前記遮断弁74の切り換え時の異音の発生を良好に低減することが可能になるとともに、前記遮断弁74の耐久性が有効に向上するという利点がある。
【0058】
さらに、アイドル停止時には、背圧制御弁68への通電が停止されており、省電力を図るとともに、前記背圧制御弁68は、全開状態に維持されている。従って、背圧制御弁68では、通電時に発生する異音が、アイドル停止時に惹起することがない。これにより、アイドル停止時に、所望の静粛性を確保することができる。
【0059】
さらにまた、アイドル停止時には、エアポンプ56が停止されることがなく、所定の回転数で駆動されている。このため、アイドル停止状態から通常運転状態に移行する際、エアポンプ56は、停止状態から急激に高回転数に上げる必要がない。従って、急加速によりエアポンプ56から騒音が発生することを有効に抑制することが可能になる。
【0060】
次いで、本発明の第2の実施形態に係るアイドル停止方法について、図7に示すフローチャートに沿って説明する。なお、図3に示す第1の実施形態と同様の工程については、その詳細な説明は省略する。
【0061】
第2の実施形態では、燃料電池スタック12が、アイドル状態であると判断されると(ステップS11中、YES)、ステップS12に進んで、前記燃料電池スタック12の要求電力が所定値以下であるか否かを判断する。このステップS12では、燃料電池スタック12から所定値以上の電流を取り出す必要がある際には(ステップS12中、NO)、アイドル停止制御を行わずに、通常運転制御に移行する(ステップS14)。
【0062】
燃料電池スタック12から所定値以上の電流を取り出す必要がある場合とは、例えば、エアコン等の補機消費電力が大きい場合、バッテリ20の残量が減少して充電が必要な場合、極低温環境下等で、凍結防止のために発電(発熱)が必要な場合等である。
【0063】
これにより、第2の実施形態では、燃料電池スタック12の要求電力に応じて、アイドル停止制御と通常運転制御とが切り換えられるため、良好な運転制御が遂行されるとともに、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0064】
10…燃料電池システム 12…燃料電池スタック
14…酸化剤ガス供給装置 16…燃料ガス供給装置
18…冷却媒体供給装置 20…バッテリ
22…コントローラ 24…走行用モータ
30…燃料電池 32…固体高分子電解質膜
34…カソード電極 36…アノード電極
40…カソード側セパレータ 42…アノード側セパレータ
44…酸化剤ガス流路 46…燃料ガス流路
48…冷却媒体流路 56…エアポンプ
60…加湿器 66…空気排出流路
68…背圧制御弁 70…水素タンク
73…レギュレータ 74…遮断弁
76…エゼクタ 78…水素循環路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を有する燃料電池を備え、前記燃料電池のカソード側に供給される酸化剤ガス及び前記燃料電池のアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電するとともに、発電電力を走行用モータに供給して走行する車両用燃料電池システムのアイドル停止方法であって、
前記燃料電池が発電中で且つ前記走行用モータの電気的負荷が所定時間所定値以下であることが検出された際、アイドル状態であると判断する第1の工程と、
前記アイドル状態であると判断された際、前記アノード側に前記燃料ガスを流通させながら、走行可能な電力が得られる通常発電時に供給される酸化剤ガス量未満の所定量の前記酸化剤ガスを前記カソード側に供給して発電するとともに、発電電流をディスチャージする第2の工程と、
を有することを特徴とする車両用燃料電池システムのアイドル停止方法。
【請求項2】
請求項1記載のアイドル停止方法において、前記第1の工程で、前記アイドル状態であると判断された際、前記燃料電池の要求電力が所定値以下か否かを判断する工程を有し、
前記要求電力が前記所定値以下であると判断された際、前記第2の工程を行う一方、前記要求電力が前記所定値を超えると判断された際、通常発電工程に移行することを特徴とする車両用燃料電池システムのアイドル停止方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−182091(P2012−182091A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45834(P2011−45834)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】