説明

車両用空調システム

【課題】ラジエータへの冷却媒体の送給量を増大させた場合でも、車両室内の暖房を効率的に行うことができる車両用空調システムを提供する。
【解決手段】車両のエンジン3から送られる冷却媒体5を冷却して戻すラジエータ7と、並列に配置されて、エンジン3からの冷却媒体5が流通する複数のフロントヒータ9およびリヤヒータ11,13と、ラジエータ7、フロントヒータ9およびリヤヒータ11,13に冷却媒体5を送給させるエンジン側ウォーターポンプ19と、を備えている。エンジン3とヒータ11,13とを連結する配管は、エンジン3から延びる内燃機関側配管23と、内燃機関側配管23の端部から複数に分岐してそれぞれのヒータ9,11,13に接続される熱交換器側配管25とを有し、前記内燃機関側配管23に、エンジン3から送られた冷却媒体5をヒータ9,11,13に向けて送給するヒータ側ウォーターポンプ15を配設している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の室内において室内前部にフロントヒータを配設し、後部にリヤヒータを配設する空調装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1では、フロントヒータを構成する第1加熱用熱交換器と、リヤヒータを構成する第2加熱用熱交換器とを並列に配置すると共に、エンジンの近傍にウォーターポンプを配置し、これらのエンジン、ウォーターポンプ、第1加熱用熱交換器(フロントヒータ)、および第2加熱用熱交換器(リヤヒータ)を配管を介して連結し、該配管内を冷却媒体を流通させている。
【0004】
そして、前記ウォーターポンプを駆動させることによって、エンジンの排熱で暖められた冷却媒体を配管を通して第1加熱用熱交換器および第2加熱用熱交換器に送り、車室内の暖房を行うようにしている。
【0005】
【特許文献1】特許第3339346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来技術では、エンジンから排出された高熱の冷却媒体を冷却するラジエータが設けられており、ウォーターポンプの吐出量を増大させると、フロントヒータおよびリヤヒータへ送出される冷却媒体の送給量が大きくなる。
【0007】
しかし、その一方、ラジエータへの冷却媒体の送給量も増えるため、冷却媒体が冷えすぎてしまい、フロントヒータおよびリヤヒータによる暖房効果が低下するおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、前記の事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ラジエータへの冷却媒体の送給量を増大させた場合でも、車両室内の暖房を効率的に行うことができる車両用空調システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明にあっては、内燃機関の排熱によって熱せられた冷却媒体を冷却して内燃機関に戻すラジエータと、前記内燃機関からの冷却媒体が流通する複数に並設されたヒータ用熱交換器と、冷却媒体を前記ラジエータおよびヒータ用熱交換器に送給させるエンジン側ウォーターポンプと、を備え、前記内燃機関とヒータ用熱交換器とを連結する配管は、内燃機関から延びる内燃機関側配管と、該内燃機関側配管の端部から複数に分岐してそれぞれのヒータ用熱交換器に接続される熱交換器側配管とを有し、前記内燃機関側配管に冷却媒体をヒータ用熱交換器に向けて送給するヒータ側ウォーターポンプを配設したことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両用空調システムによれば、エンジン側ウォーターポンプとは別個にヒータ側ウォーターポンプを配設しているため、ヒータ側ウォーターポンプを稼働させることによって、ラジエータへの冷却媒体の送給量が増えた場合でも、車両室内の暖房効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態による車両用空調システムにおける冷却媒体の循環を示す概略図である。
【0013】
本実施形態による車両用空調システム1は、車両の駆動源となるエンジン3(内燃機関)と、該エンジン3の駆動による排熱で加熱された冷却媒体5を冷却するラジエータ7と、互いに配列に配列されたフロントヒータ9およびリヤヒータ11,13と、これらのフロントヒータ9およびリヤヒータ11,13の冷却媒体5の流れの上流側に配置されたヒータ側ウォーターポンプ15とを備えている。そして、これらのエンジン3、ラジエータ7、ヒータ側ウォーターポンプ15、フロントヒータ9およびリヤヒータ11,13は、配管17を介して連結されており、該配管17の内部を冷却水などの冷却媒体5が流通している。
【0014】
前記エンジン3は、車両の内燃機関であり、例えば車体前部のエンジンルーム内部に配設されて運転されることによって排熱を発生させる。また、エンジン3とラジエータ7とは、配管17を介して連結されており、該配管17の内部を冷却媒体5が流通している。そして、エンジン3には、エンジン側ウォーターポンプ19が内蔵されており、該エンジン側ウォーターポンプ19を作動させることによって、エンジン3の排熱によって加熱された冷却媒体5が配管17を介してエンジン3からラジエータ7に送られる。該ラジエータ7では、高温の冷却媒体5が冷却されたのち、配管17を通してエンジン3に戻される。
【0015】
一方、エンジン3からは、ラジエータ7への配管とは別経路で、フロントヒータ9およびリヤヒータ11,13に向けて別の配管が延設されている。この配管のうち、冷却媒体5の流れの上流側に配置されて、エンジン3から分岐点21まで延びる配管は内燃機関側配管23であり、分岐点21からフロントヒータ9およびリヤヒータ11,13までの配管は熱交換器側配管25であり、冷却媒体5の上流側に配置されてフロントヒータ9およびリヤヒータ11,13からエンジン3に戻る配管は下流側配管27である。前記内燃機関側配管23の途中部分には、前記エンジン3に内蔵されたエンジン側ウォーターポンプ19とは別のヒータ側ウォーターポンプ15が配設されている。
【0016】
そして、図外の車両室内の前部には、前述したフロントヒータ9が配設され、室内の後部には、リヤヒータ11,13が配設されている。これらのフロントヒータ9およびリヤヒータ11,13は、互いに並列状態で配置されており、前記分岐点21から複数(本実施形態では3つ)に分岐した熱交換器側配管25に接続されている。前述したように、フロントヒータ9およびリヤヒータ11,13は、循環経路において並列に配置されており、冷却媒体5は分岐点21からそれぞれの配管に分岐してフロントヒータ9およびリヤヒータ11,13に流れる。また、フロントヒータ9およびリヤヒータ11,13から排出される冷却媒体5は、下流側配管27を通ってエンジン3に戻る。
【0017】
このように、エンジン3から排出された冷却媒体5は、エンジン側ウォーターポンプ19やヒータ側ウォーターポンプ15を稼働させることによって、ラジエータ7、フロントヒータ9およびリヤヒータ11,13に送られたのちエンジン3に戻るという循環経路を形成している。
【0018】
なお、フロントヒータ9は、例えばつまみを左右方向にスライド移動させて、いわゆる「Full Cool」と「Full Warm」との間を可変させることができるアナログ的な調整形式に構成されている。即ち、「Full Warm」のときは、熱交換器側配管25内を送給される高温の冷却媒体5を100%流通させると共に、図外の送風ファンを作動させて、前席に着座した乗員に対して温風を送る。
【0019】
また、「Full Cool」のときは、熱交換器側配管25に設けられた図外のバルブを作用させて、熱交換器側配管25内の冷却媒体5の流れを遮断させると共に、図外の送風ファンを作動させて、前席に着座した乗員に対して冷たい走行風を送る。
【0020】
そして、「Full Cool」と「Full Warm」との中間においては、熱交換器側配管25に設けられた図外のバルブを作用させて、熱交換器側配管25内の冷却媒体5の流れを最大時の約50%程度に低減させると共に、図外の送風ファンを作動させて、前席に着座した乗員に対して風を送る。なお、「OFF」のときは、熱交換器側配管25に設けられた図外のバルブを作用させて、高温の冷却媒体5の流れを遮断させると共に、送風ファンの作動も停止させて、前席に着座した乗員に対する送風を停止する。
【0021】
一方、リヤヒータ11,13は、いわゆる「ON」と「OFF」とのデジタル的な調整形式に構成されている。即ち、「ON」のときは、熱交換器側配管25に設けられた図外のバルブを作用させて、高温の冷却媒体5を最大100%流通させると共に、図外の送風ファンを作動させて、後席に着座した乗員に対して温風を送る。また、「OFF」のときは、熱交換器側配管25に設けられた図外のバルブを作用させて、高温の冷却媒体5の流れを遮断させると共に、送風ファンの作動も停止させて、後席に着座した乗員に対する送風を停止する。
【0022】
図2は、本発明の実施形態によるフロントヒータ、リヤヒータおよびウォーターポンプの作動状況を示す表である。
【0023】
この表の最も左側の欄に示すように、フロントヒータ9とリヤヒータ11,13の双方を停止させたいときは、ヒータ側ウォーターポンプ15の稼働を停止させる。この場合は、エンジン側ウォーターポンプ19のみを稼働させてラジエータ7へ冷却媒体5を送給する一方、ヒータ側ウォーターポンプ15を停止させてフロントヒータ9とリヤヒータ11,13への冷却媒体5の送給を停止させる。
【0024】
また、フロントヒータ9を「OFF」にしてリヤヒータ11,13を「ON」にするときは、前述したように、エンジン側ウォーターポンプ19とヒータ側ウォーターポンプ15を稼働させると共に、バルブを作用させてフロントヒータ9への冷却媒体5の流れを遮断させると共に、送風ファンの作動も停止させて、前席に着座した乗員に対する送風を停止する。
【0025】
また、フロントヒータ9を「Full Cool」にしてリヤヒータ11,13を「ON」にするときは、エンジン側ウォーターポンプ19とヒータ側ウォーターポンプ15の双方を稼働させてリヤヒータ11,13へ冷却媒体を送給する一方、フロントヒータ9への冷却媒体5の送給を停止させて送風ファンによって走行風を前席に送る。これは、例えば、春や秋などの晴天の日に、前席の乗員は日差しを受けて暑くなるため、フロントヒータ9を「Full Cool」にする一方、後席の乗員は、日陰になって寒く感じるため、暖房によって後席を暖める場合などに好適である。
【0026】
そして、フロントヒータ9を「Full Cool以外」にしてリヤヒータ11,13を「OFF」にするときは、エンジン側ウォーターポンプ19とヒータ側ウォーターポンプ15の双方を稼働させると共に、バルブを作用させてリヤヒータ11,13への冷却媒体5の送給を停止させる。
【0027】
なお、フロントヒータ9を「Full Cool以外」にしてリヤヒータ11,13を「ON」にさせるときは、エンジン側ウォーターポンプ19とヒータ側ウォーターポンプ15の双方を稼働させる。
【0028】
以下に、本発明の実施形態による作用効果を説明する。
【0029】
(1)エンジン3と、フロントヒータ9およびリヤヒータ11,13(ヒータ用熱交換器)と、を連結する配管は、エンジン3から延びる内燃機関側配管23と、該内燃機関側配管23の端部から複数に分岐してそれぞれのフロントヒータ9およびリヤヒータ11,13に接続される熱交換器側配管25とを有し、前記内燃機関側配管23に、エンジン3から送られた冷却媒体5をフロントヒータ9およびリヤヒータ11,13に向けて送給するヒータ側ウォーターポンプ15を配設している。
【0030】
このように、エンジン側ウォーターポンプ19とは別個にヒータ側ウォーターポンプ15を配設しているため、ヒータ側ウォーターポンプ15を稼働させることによって、エンジン3から排出された高温の冷却媒体5をフロントヒータ9およびリヤヒータ11,13に送給して車両室内の暖房を効率的に行うことができる。
【0031】
また、エンジン3の構造を改造することなく、フロントヒータ9およびリヤヒータ11,13を循環する冷却媒体量を大幅に増加させることができる。さらに、バイパス回路や逆止弁等が不要になって空調システムの構造が簡素化されてコスト低減を図ることができる。
【0032】
(2)前記ヒータ側ウォーターポンプ15の稼働を停止させることにより、ヒータ用熱交換器であるフロントヒータ9およびリヤヒータ11,13への冷却媒体5の流れを止めると共に、ラジエータ7への冷却媒体5の送給量を増大させるように構成している。
【0033】
従って、エンジン側ウォーターポンプ19からの冷却媒体5の吐出量を増大させた場合でも、フロントヒータ9およびリヤヒータ11,13へ冷却媒体5が流れずに、ラジエータ7への流入量が増大する。従って、ラジエータ7の作動が活発となり、ラジエータ7を大型化等せずに、冷却媒体5を確実に冷却させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態による車両用空調システムにおける冷却媒体の循環を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態によるフロントヒータ、リヤヒータおよびウォーターポンプの作動状況を示す表である。
【符号の説明】
【0035】
1…車両用空調システム
3…エンジン(内燃機関)
5…冷却媒体
9…フロントヒータ(ヒータ用熱交換器)
11,13…リヤヒータ(ヒータ用熱交換器)
15…ヒータ側ウォーターポンプ
19…エンジン側ウォーターポンプ
21…分岐点
23…内燃機関側配管
25…熱交換器側配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関と、該内燃機関から送られる冷却媒体を冷却して内燃機関に戻すラジエータと、前記内燃機関からの冷却媒体が流通する複数のヒータ用熱交換器と、これらのラジエータおよびヒータ用熱交換器に冷却媒体を送給させるエンジン側ウォーターポンプと、を備え、前記内燃機関、ラジエータおよびヒータ用熱交換器は、内部を冷却媒体が流通する配管を介して接続された車両用空調システムであって、
前記内燃機関とヒータ用熱交換器とを連結する配管は、内燃機関から延びる内燃機関側配管と、該内燃機関側配管の端部から複数に分岐してそれぞれのヒータ用熱交換器に接続される熱交換器側配管とを有し、
前記内燃機関側配管に、内燃機関から送られた冷却媒体をヒータ用熱交換器に向けて送給するヒータ側ウォーターポンプを配設したことを特徴とする車両用空調システム。
【請求項2】
前記ヒータ側ウォーターポンプの稼働を停止させることにより、前記内燃機関側配管内におけるヒータ用熱交換器への冷却媒体の流れを止めると共に、ラジエータへの冷却媒体の送給量を増大させるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の車両用空調システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−83177(P2010−83177A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251249(P2008−251249)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】