説明

車両用空調装置

【課題】暖房時のバイレベルモードにおける消費電力を低減することができる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】車両用空調装置は、空調ケース1の内部に、凝縮器22に加え、通電されることにより送風空気を加熱するPTCヒータ40と、を備えている。そして、制御装置は、暖房運転におけるバイレベルモード時に凝縮器22によって送風空気を加熱するとともにPTCヒータ40に通電する。このように凝縮器22およびPTCヒータ40による送風空気の加熱を併用するバイレベルモードを実施するため、凝縮器22を通過する空気風量が低下することに伴う凝縮器22の冷却能力低下というバイレベルモード特有の現象を改善し、装置全体の消費電力を省電力にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ式冷凍サイクルによる暖房運転と電気式補助加熱手段を用いた暖房運転とを実施できる車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空調装置の一例として、ヒートポンプ式冷凍サイクルによる暖房運転を補助して、暖房性能を高める電気ヒータを備えた装置が知られている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載の装置は、ヒートポンプ式冷凍サイクルを用いた暖房運転と、電気ヒータを用いた暖房運転とを使い分けることができる。さらにこの装置は、暖房運転指示がなされると、まずヒートポンプ式冷凍サイクルによる暖房運転を行い、当該暖房運転による平均消費電力を算出するとともに、電気ヒータによる暖房運転の消費電力を算出する。そして、電気ヒータによる暖房運転の消費電力の方がヒートポンプ式冷凍サイクルによる暖房運転の平均消費電力よりも小さくなると、当該冷凍サイクルによる暖房運転を停止し、電気ヒータによる暖房運転を行う。
【0003】
さらに特許文献1には、当該冷凍サイクルによる暖房と電気ヒータによる暖房とを併用するモード、当該冷凍サイクルのみによる暖房のモード、電気ヒータのみによる暖房のモードがあり、これらを要求される暖房能力に応じて切り替える機能を有する装置が記載されている。
【0004】
一方、従来の車両用空調装置は、暖房時に乗員に対し頭寒足熱の空調環境を与えるために、フェイス吹出口とフット吹出口に温度差のある送風を提供するバイレベルモードを備えている。そして、当該バイレベルモード時の空調ユニット100内部の風の流れを示したものが図6である。
【0005】
図6に示すように、暖房時のバイレベルモードにおいて、冷たい外気等は空調ユニット100内部の上流側に配置された蒸発器101を通過した後、エアミックスドア102によってフット吹出し側通路104とフェイス吹出し側通路105とに分けられる。そして、フット吹出し側通路104を通る空気は凝縮器103によって加熱された後、一旦フェイス吹出し側通路105を通ってきた空気と混ざるものの、主にフット吹出口106を通って乗員の足元に送風される。またフェイス吹出し側通路105を通る空気は凝縮器103を迂回し、一旦フット吹出し側通路104を通ってきた空気と混ざるものの、主にフェイス吹出口107を通って乗員の上半身に向けて送風される。
【0006】
このときエアミックスドア102の開度は、フェイス吹出し風とフット吹出し風との温度差を大きくするために、フット吹出し側通路104の開口面積がマックスホット時に比べて小さくなるように制御されている。
【特許文献1】特開平5−229334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、バイレベルモードにおいては、サイクル効率の良いマックスホット時に比べて凝縮器103を通過する風量が少ないため、凝縮器103を冷却する効果が小さくなり、冷凍サイクルの高圧側の冷媒温度が上昇してしまう。したがって、サイクル効率の低下や消費電力の増大という問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点を鑑みてなされたものであり、暖房時のバイレベルモードにおける消費電力を低減することができる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。すなわち第1の発明は、冷媒を吸入し吐出する圧縮機(21)と、圧縮機(21)から吐出された冷媒が流入して放熱し暖房運転時に車室内へ送風される空気を加熱する加熱用熱交換器(22)と、暖房運転時に加熱用熱交換器(22)で冷却された冷媒を減圧する減圧装置(24)と、暖房運転時に減圧装置(24)で減圧された冷媒を蒸発させる室外熱交換器(25)と、を有するヒートポンプ式冷凍サイクル(20)を用い、車室内を空気調節する車両用空調装置に係る発明であって、
一方側に空気取入口(3,4)が形成され、他方側に、車室内の乗員の上半身に向けて送風されるフェイス吹出し風が通過するフェイス吹出し開口(12)および乗員の足元に向けて送風されるフット吹出し風が通過するフット吹出し開口(11)が形成され、空気取入口(3,4)と両吹出し開口(11,12)との間に上記送風空気が通過する通風路(6,7)を有する空調ケース(1)と、空調ケース(1)の内部に設けられ、通電されることにより送風空気を加熱する電気式補助加熱手段(40)と、を備えている。
【0010】
さらに第1の発明は、暖房運転におけるフェイス吹出し風およびフット吹出し風を提供するバイレベルモード時に、加熱用熱交換器(22)によって送風空気を加熱するとともに電気式補助加熱手段(40)に通電することを特徴としている。
【0011】
この発明によれば、バイレベルモード時において加熱用熱交換器および電気式補助加熱手段による送風空気の加熱を併用することにより、加熱用熱交換器を通過する空気が減少することに起因する加熱用熱交換器の冷却能力低下に伴うバイレベルモード特有の冷凍サイクルのCOP(成績係数)の低下を改善することができる。すなわち、本発明を実施することによって冷凍サイクルのCOPが向上することに伴う消費電力の低減量が電気式補助加熱手段を運転することによる消費電力の増加量を上回ることになり、バイレベルモードにおける装置全体の省電力を実現することができる。
【0012】
また、上記暖房運転のバイレベルモードにおいて、圧縮機(21)によって吐出された冷媒の圧力が、所定圧力(P1)を超えると判定した場合には加熱用熱交換器(22)によって送風空気を加熱するとともに電気式補助加熱手段(40)に通電し、所定圧力(P1)を超えないと判定した場合には加熱用熱交換器(22)による送風空気の加熱のみを行うことが好ましい。
【0013】
この発明によれば、バイレベルモード特有の冷凍サイクルのCOP(成績係数)の低下が許容レベルにあるか否かをサイクルの高圧側の冷媒圧力によって判定することにより、高い精度で実施できる。
【0014】
また、車両用空調装置に係る発明は、空気取入口(3,4)から取り入れた送風空気を、加熱用熱交換器(22)を通過する空気と加熱用熱交換器(22)を通らない空気とに分け、その風量比率を調整する風量比率調整手段(8)を備えており、
上記暖房運転のバイレベルモードにおいて、加熱用熱交換器(22)を通過する空気の風量が、所定風量(Q1)を超えないと判定した場合には所定風量(Q1)を超えるように風量比率調整手段(8)を調節するとともに電気式補助加熱手段(40)に通電し、
所定風量(Q1)を超えると判定した場合には加熱用熱交換器(22)による送風空気の加熱のみを行うことが好ましい。
【0015】
この発明によれば、バイレベルモード特有の冷凍サイクルのCOP(成績係数)の低下が許容レベルにないことを高い精度で判断できるとともに、加熱用熱交換器へ送風される風量が増加するように風量比率調整手段を制御するので、車両用空調装置全体の消費電力の低減をさらに促進することができる。
【0016】
また、電気式補助加熱手段(40)は加熱用熱交換器(22)よりも送風空気下流側に設けられていることが好ましい。この発明によれば、加熱用熱交換器(22)にまず外気等の低温空気を導入することができるので、加熱用熱交換器に流入する冷媒の冷却効果が大きくなり、圧縮機の消費電力をさらに低減することができる。
【0017】
また、電気式補助加熱手段(40)は、加熱用熱交換器(22)よりも送風空気下流側であって、フェイス吹出し開口(12)よりもフット吹出し開口(11)に近い位置に設けられていることが好ましい。この発明によれば、従来のバイレベルモード時の運転よりも、加熱用熱交換器を冷却する空気が増加する傾向になり、加熱用熱交換器内の冷媒圧力が低下するので、より一層の冷凍サイクルのCOP向上が図れる。
【0018】
さらに、電気式補助加熱手段(40)はPTCヒータで構成することが好ましく、通電量に対する発熱効率が高いため、消費電力の省電力化が一層期待できる。また、加熱手段の搭載スペースを小さくできる。
【0019】
なお、上記各技術的手段や特許請求の範囲の各請求項における括弧内の符号は、後述する実施形態の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態である第1実施形態について図1から図4にしたがって説明する。図1は本実施形態に係る車両用空調装置の構成を示した概略図である。図1において、黒塗り太矢印は暖房運転時のサイクル内の冷媒流れを示しており、斜線太矢印は除湿運転時のサイクル内の冷媒流れを示しており、白抜き太矢印は冷房運転時のサイクル内の冷媒流れを示している。
【0022】
本実施形態の車両用空調装置は、ヒートポンプ式冷凍サイクル20および電気式補助加熱手段であるPTCヒータ40を備え、図1に示す構成部品を用いて空調運転を行うものであり、例えばハイブリッド自動車や電気自動車に使用することができる。電気式補助加熱手段は、入力(通電量)に対して入力分と同程度の出力(発熱量)が得られるエネルギー損失の少ない機器を選択することが好ましく、本実施形態ではその一例としてPTCヒータ40を採用する。
【0023】
内部に空気の通風路を備える空調ケース1は、車室内前方のインストルメントパネルの裏側に設けられている。空調ケース1には一方側に空気取入口である外気吸入口3および内気吸入口4が形成され、他方側に車室内に吹き出される空気調節された空気(以下、空調空気とする)が通過するフット吹出し開口11、フェイス吹出し開口12、デフ吹出し開口(図示せず)が少なくとも形成されている。
【0024】
フット吹出し開口11は車室内の乗員の足元に吹き出される空調空気が通過する開口であり、フェイス吹出し開口12は車室内の乗員の上半身に向かって吹き出される空調空気が通過する開口であり、デフ吹出し開口は車両のフロントガラスの内面に吹き出される空調空気が通過する開口である。これらの各開口は、それぞれ吹出しダクト(図示せず)を介して車室内空間に接続されており、吹出し開口切替えドア(図示せず)によって吹出しモードに対応して開閉される。外気吸入口3と内気吸入口4は内外気切替えドアにより、空気取入れモードに対応してその開放、閉鎖が切替え自在に行われる。
【0025】
空調ケース1は、一方側に、内外気切替えドアを備える内外気切替箱と、その吸込部が外気吸入口3と内気吸入口4に接続されている送風機5とを備えている。例えば、冬季等の暖房時には、外気取入れモードを行うことにより外気吸入口3から湿度の低い外気を導入し、通風路を通して空調してフロントガラスの内面に吹き出すことにより防曇効果を高めることができる。また、内気モードを行うことにより内気吸入口4から温度の高い内気を導入し、通風路を通して空調し乗員の足元に向けて吹き出すことにより暖房負荷を軽減することができる。
【0026】
送風機5は遠心多翼ファン(例えばシロッコファン)とこれを駆動するモータとからなり、遠心多翼ファンの周囲はスクロールケーシングで囲まれている。また、空調ケース1は複数のケース部材からなり、その材質は例えばポリプロピレン等の樹脂成形品である。
【0027】
送風機5の吹出口は、遠心多翼ファンの遠心方向に延びるように設けられた通風路に接続されている。この通風路は、送風空気の上流側から順に、冷却用熱交換器である蒸発器30が横断する配される通路と、蒸発器30の送風空気下流側からフット吹出し開口11に向かって延びるフット吹出し側通路6および蒸発器30の送風空気下流側からフェイス吹出し開口12に向かって延びるフェイス吹出し側通路7と、フット吹出し側通路6とフェイス吹出し側通路7と流れてきた空気が混合される空気混合部と、からなっている。フット吹出し側通路6とフェイス吹出し側通路7は、空調ケース1内に設けられた仕切り壁10によって区画され、空調ケース1内部の横断方向に並走するように配されている。
【0028】
送風機5よりも送風空気の下流側における空調ケース1内の通風路には、上流側から下流側に進むに従い順に、蒸発器30、ヒータコア9、凝縮器22(加熱用熱交換器)、PTCヒータ40(電気式補助加熱手段)が配置されている。
【0029】
蒸発器30は送風機5直後の通路全体を横断するように配置されており、送風機5から吹き出された空気全部が通過するようになっている。蒸発器30は冷房運転時や除湿運転時において内部を流れる冷媒の吸熱作用によって、フット吹出し側通路6およびフェイス吹出し側通路7に流入する手前の送風空気を除湿したり冷却したりする冷却用熱交換器として機能する。
【0030】
ヒータコア9は少なくともその伝熱部分がフット吹出し側通路6のみに位置するように蒸発器30よりも送風空気の下流側に配置されている。ヒータコア9は暖房運転時において、内部を流れる車両走行用エンジンの冷却水の熱を利用して周囲の空気を加熱する熱交換器として機能する。
【0031】
凝縮器22は、少なくともその伝熱部分がフット吹出し側通路6のみに位置して配置されており、ヒータコア9よりもさらに送風空気の下流側に配置されている。凝縮器22は暖房運転時、除湿運転時および冷房運転時において内部を流れる冷媒の放熱作用によってフット吹出し側通路6を流れる送風空気を加熱する加熱用熱交換器として機能する。
【0032】
PTCヒータ40は、少なくともその伝熱部分がフット吹出し側通路6のみに位置して配置されており、凝縮器22よりもさらに送風空気の下流側に配置されている。PTCヒータ40は暖房運転時のバイレベルモードにおいてフット吹出し側通路6を流れる送風空気をさらに加熱する補助的な加熱手段である。PTCヒータ40は、通電発熱素子部を備え、通電発熱素子部に通電されることによって発熱し、周囲の空気を暖めることができる。
【0033】
この通電発熱素子部は、耐熱性を有する樹脂材料(例えば、66ナイロンやポリブタジエンテレフタレートなど)で成形された樹脂枠の中に複数個のPTC素子を嵌め込むことにより構成したものである。また、PTCヒータ40は、さらに通電発熱素子部からの発熱を伝達する熱交換フィン部を有してもよい。この熱交換フィン部は、アルミニウムの薄板を波形状に成形したコルゲートフィンと、このコルゲートフィンを一定の形状に保つとともにPTC素子や電極板との接触面積を確保するアルミニウムプレートと、をろう付け接合することにより構成したものである。
【0034】
蒸発器30よりも下流側であってヒータコア9や凝縮器22よりも上流側の通風路には、蒸発器30を通過した空気を、凝縮器22を通る空気と凝縮器22を迂回する空気とに分けたり、切り替えたりして、これらの空気の風量比率を調整できるエアミックスドア8が設けられている。
【0035】
エアミックスドア8は、アクチュエータ等によりそのドア本体位置を変化させることで、フット吹出し側通路6およびフェイス吹出し側通路7のそれぞれの一部または全部を塞ぐことができる。そして、エアミックスドア8によるフット吹出し側通路6の開度は、フット吹出し側通路6の横断方向の開口が開放される割合のことであり、0から100%の範囲で調整可能である。また、エアミックスドア8によるフェイス吹出し側通路7の開度は、フェイス吹出し側通路7の横断方向の開口が開放される割合のことであり、0から100%の範囲で調整可能である。
【0036】
ヒートポンプ式冷凍サイクル20は、サイクル内を流れる冷媒(例えば、R134a、CO等)の状態変化を利用することにより、冷房用の蒸発器30と暖房用の凝縮器22によって冷房、暖房および除湿を行うことができる。
【0037】
ヒートポンプ式冷凍サイクル20の構成部品は、図1に示すように冷媒を吸入して吐出する圧縮機21と、暖房運転時に圧縮機21から吐出された冷媒と空気とを熱交換させて空気を加熱する凝縮器22と、暖房運転時に凝縮器22から流入した冷媒を減圧する減圧装置としての膨張弁24と、暖房運転時に膨張弁24で減圧された冷媒を蒸発させる室外熱交換器25と、室外熱交換器25から圧縮機21への冷媒流れを制御するように設けられた電磁弁26と、冷媒を気液分離するアキュムレータ27と、であり、これらを配管により環状に接続することによりサイクルが形成されている(暖房運転経路(圧縮機21→凝縮器22→三方弁23→膨張弁24→分岐部32→室外熱交換器25→電磁弁26→アキュムレータ27→圧縮機21))。さらに、圧縮機21の出口には、圧縮機21によって吐出された高圧側冷媒の圧力を検出する吐出圧センサ41が設けられている。
【0038】
さらにヒートポンプ式冷凍サイクル20には、除湿運転経路(膨張弁24→分岐部32→分岐部34→電磁弁31→蒸発器30→アキュムレータ27→圧縮機21)が各構成部品を配管により環状に接続することによって形成されている。この除湿運転経路は、除湿運転時に膨張弁24で減圧された冷媒が室外熱交換器25に流入しないで蒸発器30に流入した後、アキュムレータ27を経由して圧縮機21に吸入される経路である。また、凝縮器22の下流側に接続された配管の途中には、三方弁23が設けられている。
【0039】
さらに、ヒートポンプ式冷凍サイクル20には、冷房運転経路(凝縮器22→三方弁23→分岐部33→室外熱交換器25→分岐部32→分岐部33→電磁弁28→膨張弁29→蒸発器30→アキュムレータ27→圧縮機21)が各構成部品を配管により環状に接続することによって形成されている。冷房運転経路は、三方弁23を分岐部33側の流路に切り替えることによって、冷房運転時に凝縮器22で送風空気と熱交換して冷却された冷媒が膨張弁24を通らないで分岐部33を通って室外熱交換器25に流入し、電磁弁28によって開放された流路を通り膨張弁29で減圧された後、蒸発器30に流入し、アキュムレータ27を経由して圧縮機21に吸入される経路である。
【0040】
室外熱交換器25は車両の車室外に配置されており、室外ファンにより強制的に送風される外気と冷媒とを熱交換する。膨張弁24および膨張弁29は固定式の膨張弁、機械式膨張弁で構成してもよい。機械式の場合は感温筒を備え、室外熱交換器25出口や蒸発器30出口の冷媒の蒸発状態が適度な過熱度をもつように出口冷媒温度をフィードバックし適切な弁開度によって冷媒流量を制御する温度作動方式を採用する。圧縮機21は電動式の圧縮機でインバータにより周波数が調整された交流電圧が印加されてそのモータの回転速度が制御されている。インバータは車載バッテリから直流電源の供給を受け、制御装置(図示せず)により制御されている。
【0041】
制御装置は、車室内の空調を制御する装置であり、マイクロコンピュータと、車室内前面に設けられたコントロールパネル上の各種スイッチからの信号や、外気温センサ、蒸発器温度センサ、吐出圧センサ、室外熱交換器25の出口の冷媒温度センサ等からセンサ信号が入力される入力回路と、各種アクチュエータに出力信号を送る出力回路と、を備えている。マイクロコンピュータは、ROM(読み込み専用記憶装置)、RAM(読み込み書き込み可能記憶装置)等のメモリおよびCPU(中央演算装置)等から構成されており、コントロールパネル等から送信された運転命令に基づいた演算に使用される各種プログラムを有している。
【0042】
次に、上記構成に係る車両空調装置の各運転モード(冷房運転、暖房運転、除湿運転)の作動を説明する。コントロールパネルのエアコンスイッチがON状態のとき、制御装置は圧縮機21を起動し、そして乗員が設定した温度と各種センサから受信した信号とから運転すべき運転モードを冷房運転と判定すると、三方弁23の流通方向を分岐部33側(図1の破線)、電磁弁28を開状態、電磁弁26および電磁弁31を閉状態に制御する。さらに制御装置は、冷房運転であるので吹出しモードがフェイス吹出しとなるように吹出し開口切替えドアを制御する。
【0043】
冷房運転時の冷媒の流れは図1に白抜き太矢印で示した流れであり、圧縮機21から吐出された高温高圧のガス冷媒は凝縮器22に流入し凝縮器22内を通るときに周囲の空気に熱を奪われて冷却されるが、吹出しモードがフェイス吹出しであるため凝縮器22の周囲を通過する送風量は少なく冷却度合いは大きくない。そして冷媒は、三方弁23によって分岐部33を通過して室外熱交換器25に流入し、室外熱交換器25内を通るときに室外ファンにより送風された空気に熱を奪われて冷却され霧状冷媒となる。
【0044】
その後、霧状冷媒は電磁弁28を通った後、膨張弁29で減圧されて蒸発器30に流入し、送風機5によって空調ケース1内の通風路を流れる送風空気から吸熱して蒸発器30内で蒸発し、冷媒はアキュムレータ27で気液分離された後、圧縮機21に吸入される。蒸発器30で吸熱され冷却された冷風はさらに通風路を進んで主にフェイス吹出し開口12から乗員の上半身に向けて吹き出されて車室内を冷房する。
【0045】
次に、暖房運転が行われた場合の冷媒の流れを説明する。制御装置はコントロールパネルのエアコンスイッチがON状態のとき、圧縮機21を起動し、そして乗員が設定した温度と各種センサから受信した信号とから運転すべきモードを暖房運転と判定すると、三方弁23の流通方向を膨張弁24側、電磁弁26を開状態、電磁弁28および電磁弁31を閉状態に制御する。さらに制御装置は、暖房運転時であるので吹出しモードが設定温度に応じてフット吹出し、またはデフ吹出しとなるように吹出し開口切替えドアを制御する。
【0046】
暖房運転時の冷媒の流れは図1に黒塗り太矢印で示した流れであり、圧縮機21から吐出された高温高圧のガス冷媒は凝縮器22に流入し凝縮器22内を通るときに周囲の送風空気に熱を奪われて冷却され凝縮される。そして冷媒は、膨張弁24に流入し、膨張弁24によって室外熱交換器25出口で冷媒の蒸発状態が適度な過熱度をもつような冷媒圧力に減圧され、また膨張弁24が固定絞り弁である場合は所定の低圧に減圧される。このように膨張弁24によって低圧に減圧された冷媒は分岐部32を通過して室外熱交換器25に流入し、室外熱交換器25内を通るときに室外ファンにより送風された空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器25で蒸発したガス冷媒は分岐部33を経由して電磁弁26を通りアキュムレータ27で気液分離された後、圧縮機21に吸入される。
【0047】
暖房運転時に空調ケース1内に取り込まれた低温の空気(例えば冬期の外気)は、蒸発器30を通過した後、エアミックスドア8によって主にフット吹出し側通路6を流れ、凝縮器22によって加熱され温風となる。そして、暖房運転時のデフ吹出しモードが行われる場合は、この温風は凝縮器22を通過した後、吹出し開口切替えドアによって開放されたデフ吹出し開口を通ってフロントウィンドウの内面に向けて吹き出される。また、暖房運転のフット吹出しモードが行われる場合は、この温風は凝縮器22を通過した後、吹出し開口切替えドアによって開放されたフット吹出し開口11を通って乗員の足元に向けて吹き出される。
【0048】
また、暖房運転時のバイレベルモードが行われる場合は、空調ケース1内に取り込まれた低温の空気はエアミックスドア8によって、フット吹出し側通路6およびフェイス吹出し側通路7のそれぞれを流れる空気に適切な風量比率で分けられる。
【0049】
フット吹出し側通路6を流れる低温の空気は、凝縮器22によって加熱された温風になった後、さらにPTCヒータ40によって加熱されて温度上昇し、空気混合部でフェイス吹出し側通路7を流れてきた低温の空気と混ざり合って温度調節され、フット吹出し開口11を通って乗員の足元に向けて吹き出される。他方、フェイス吹出し側通路7を流れる低温の空気は、凝縮器22等の加熱手段を通らないため加熱されることなく、低温のまま空気混合部でフット吹出し側通路6を流れてきた温風と混ざり合って温度調節され、フェイス吹出し開口12を通って乗員の上半身に向けて吹き出される。このようにして、乗員の上半身と足元とに適切な温度差(例えば10〜15℃)のある空気が吹き出されるので、乗員に対し頭寒足熱(足元が暖かく、頭部付近が涼しい)の空調を提供することができる。なお、目標とする空気温度が高い場合には、ヒータコア9による加熱を実施してもよい。
【0050】
次に、除湿運転が行われた場合の冷媒の流れを説明する。制御装置はコントロールパネルのエアコンスイッチがON状態のとき、圧縮機21を起動し、そして乗員が設定した温度と各種センサから受信した信号とから運転すべきモードを除湿運転と判定すると、三方弁23の流通方向を膨張弁24側、電磁弁31を開状態、電磁弁26および電磁弁28を閉状態に制御する。さらに制御装置は、除湿運転時であるので主にデフ吹出しまたはフット吹出しやリアフット吹出しとなるように吹出し開口切替えドアを制御する。
【0051】
除湿運転では蒸発器30および凝縮器22に冷媒が流れ、空調ケース1内の送風空気はまず蒸発器30で冷却、除湿され、その後に凝縮器22で加熱されて温風となる。この温風は主にデフ吹出し開口を通ってフロントウィンドウの内面に向かって吹き出され、防曇効果を発揮するとともに車室内を除湿暖房する。
【0052】
除湿運転時の冷媒の流れは図1に斜線の太矢印で示した流れであり、圧縮機21から吐出された高温高圧のガス冷媒は凝縮器22に流入し凝縮器22内を通るときに周囲の送風空気に熱を奪われて冷却され凝縮される。そして冷媒は膨張弁24で減圧され、膨張弁24出口で冷媒の蒸発状態が適度な過熱度をもつような冷媒圧力に減圧され、その後、室外熱交換器25に流入しないで分岐部32,34を通過して蒸発器30に流入する。蒸発器30内部では、送風機5によって空調ケース1内の通風路を流れる送風空気から吸熱して蒸発し、アキュムレータ27で気液分離されてから圧縮機21に吸入される。
【0053】
蒸発器30で吸熱されて冷却、除湿された空気は、さらに通風路を進んで凝縮器22によって加熱される。この空気は凝縮器22を通過した後、吹出し開口切替えドアによって開放されたデフ吹出し開口を通ってフロントウィンドウの内面に向けて吹き出される。
【0054】
次に、本実施形態の車両用空調装置における自動空調運転の流れを図2に従って説明する。図2は自動空調運転の流れを示したフローチャートである。まず、コントロールパネル等の操作により制御装置に自動空調運転命令が入力されると、空調制御処理が開始され、制御装置はROM,RAMなどのメモリに記憶された制御プログラムをスタートさせてRAMに記憶されるデータなどを初期化する。
【0055】
そして制御装置は、コントロールパネル、各種センサからの信号を読み込み、ROMに記憶されたプログラムを用いて車室内に吹き出す空気の目標吹出し温度TAOを演算するとともに、送風機5のブロワレベル(送風空気の風量)を演算する(ステップ1)。
【0056】
次に制御装置は、ステップ1で演算した目標吹出し温度TAOが第1の所定温度T1以上であるか否かを判定する(ステップ2)。第1の所定温度T1は、現在、フット吹出しモード、バイレベルモードのいずれのモードが適切であるかを判定するために予めROM等に記憶されている値であり、例えば37℃である。目標吹出し温度TAOが第1の所定温度T1以上であると判定された場合には、制御装置は、フット吹出しモードを実行し、ヒートポンプ式冷凍サイクル20を用いた前述の暖房運転を実施する(ステップ3)。
【0057】
逆に、目標吹出し温度TAOが第1の所定温度T1未満であると判定された場合には、制御装置は、次に目標吹出し温度TAOが第2の所定温度T2以上であるか否かを判定する(ステップ4)。第2の所定温度T2は、第1の所定温度T1よりも小さい値であって、現在、バイレベルモード、フェイス吹出しモードのいずれのモードが適切かを判定するために予めROM等に記憶されている値であり、例えば29℃である。そして、目標吹出し温度TAOが第2の所定温度T2未満であると判定された場合には、制御装置は、フェイス吹出しモードを実行し、ヒートポンプ式冷凍サイクル20を用いた前述の冷房運転を実施する(ステップ5)。
【0058】
逆に、目標吹出し温度TAOが第2の所定温度T2以上であると判定された場合には、制御装置は、ヒートポンプ式冷凍サイクル20を用いた暖房運転をバイレベルモードで実行する(ステップ6)。なお、ステップ6における暖房運転で、暖房能力がヒートポンプ式冷凍サイクル20でも不足する場合は、PTCヒータ40またはヒータコア9を運転し、暖房能力を補充する処理を実行する。
【0059】
さらに、制御装置は、吐出圧センサ41によって検出された高圧側冷媒の圧力Pdが所定圧力P1を超えているか否かを判定する(ステップ61)。所定圧力P1は、現在の高圧側の冷媒圧力が冷凍サイクルのCOP(成績係数)を低下させて圧縮機21の消費電力を増加させるような高圧であるか否かを判定するために予めROM等に記憶されている値であり、実験値や経験値に基づいて設定される。例えば冷媒がR134aである場合は1.5MPaを採用する。
【0060】
そして、高圧側冷媒の圧力Pdが所定圧力P1を超えていないと判定された場合には、制御装置は、高圧側冷媒の圧力がサイクルの効率が許容レベルにあり、まだ悪化していない状況であるとみなし、PTCヒータ40による補助加熱を行うことなくヒートポンプ式冷凍サイクル20を用いた前述の暖房運転を実施する(ステップ62)。
【0061】
逆に、高圧側冷媒の圧力Pdが所定圧力P1を超えていると判定された場合には、制御装置は、高圧側冷媒の圧力がサイクルの効率の許容レベルを超えて、消費電力が増大している状況であるとみなし、ヒートポンプ式冷凍サイクル20を用いた前述の暖房運転に加えて、PTCヒータ40に通電して補助加熱を実施する(ステップ63)。
【0062】
ところで、凝縮器のみで放熱して送風空気を加熱する従来から知られている暖房運転では、バイレベルモードにおいては凝縮器に当たる空気の風量がマックスホットの運転時に対して小風量であるため凝縮器が十分に冷却されないことになり、冷凍サイクルの高圧側の冷媒圧力が上昇してしまい圧縮機の仕事量が増加するという問題があった。この現象が圧縮機の消費電力の増大および冷凍サイクルのCOPの低下に起因していた。
【0063】
そこで、上記自動空調運転は、暖房運転のバイレベルモード時にPTCヒータを運転することにより、従来のバイレベルモード時の運転よりも凝縮器22に向けて流れる空気を増加させるように制御されるので、高圧側冷媒の圧力レベルを下げることになり、従来の暖房運転に対して圧縮機の仕事量を低減する効果がある。また、以上の自動空調運転の制御によると、ヒータ等の補助加熱が不要でヒートポンプ式冷凍サイクル20を用いた暖房運転だけで必要な暖房能力を発揮できる場合であっても、車両用空調装置全体の効率(暖房性能と消費電力の比率)を考慮した、ヒートポンプ式冷凍サイクル20とPTCヒータ40の最適な併用暖房運転を提供することができる。
【0064】
次に、上記自動空調運転の制御を実施したときの効果の検証について図3および図4を用いて説明する。図3は、所定の実験条件において、PTCヒータおよびヒートポンプ式冷凍サイクルの併用運転と、従来のヒートポンプ式冷凍サイクルのみの運転とを実験により比較した結果をモリエル線図上に示したサイクル図である。図4は、同所定の実験条件において、PTCヒータおよびヒートポンプ式冷凍サイクルの併用運転と、従来のヒートポンプ式冷凍サイクルのみの運転とについて消費電力を比較したグラフである。
【0065】
図3のモリエル線図上に示した2つのサイクル図のうち、実線(A→B→C→D)がPTCヒータと併用運転するヒートポンプ式冷凍サイクル(上記自動空調運転)のサイクル図であり、一点鎖線(A1→B1→C1→D1)がヒートポンプ式冷凍サイクルのみ運転する従来の自動空調運転のサイクル図である。
【0066】
図3に示すように、上記自動空調運転では、従来の自動空調運転と比べて凝縮器22を冷却する空気が多く流れるようになるため、従来のサイクル図よりも高圧側の圧力が低下することになる(一点鎖線のB1−C1よりも実線のB−Cの方が低い圧力になる)。これにより、上記自動空調運転での圧縮機の仕事量(=iB−iA)は、従来の自動空調運転での圧縮機の仕事量(=iB1−iA1)よりも大幅に小さくなる。凝縮器における放熱量については、上記自動空調運転の場合(=iB−iC)と従来の自動空調運転の場合(=iB1−iC1)とで大差がないため、冷凍サイクルの効率(成績係数)は圧縮機の仕事量が小さい上記自動空調運転の方が大幅に優れていることが分かる。
【0067】
次に、車両用空調装置全体の消費電力を比較した結果を説明する。図4は、上記自動空調運転における消費電力の方が従来の自動空調運転よりも小さいことを示している。ある実験条件において従来の自動空調運転における消費電力は0.7kW(圧縮機の消費電力)を超え、同条件における上記自動空調運転における消費電力は0.6kW足らず(圧縮機の消費電力約0.35kWとPTCヒータの消費電力約0.25kWとの合計)である。このように、暖房運転のバイレベルモード時にヒートポンプ式冷凍サイクル20の運転とPTCヒータ40の運転とを併用することにより、冷凍サイクルのCOPの向上に伴う圧縮機21の消費電力低減分がPTCヒータ40の消費電力を上回ることになり、PTCヒータ40による補助加熱を行わない運転に対して、車両用空調装置全体の省電力を実現できる。
【0068】
本実施形態の車両用空調装置は、空調ケース1の内部に、凝縮器22に加え、通電されることにより送風空気を加熱するPTCヒータ40と、を備えている。そして、制御装置は、暖房運転におけるバイレベルモード時に凝縮器22によって送風空気を加熱するとともにPTCヒータ40に通電し発熱させる。
【0069】
これにより、暖房運転のバイレベルモードにおいて凝縮器22およびPTCヒータ40による送風空気の加熱を併用するため、PTCヒータ40の運転による消費電力が増加する。しかしながら、PTCヒータ40の消費電力分を上回って、高圧側の冷媒圧力を従来のバイレベルモード時に比べて低下させることができる(図4参照)ので、凝縮器22での放熱量が同等レベルでも、圧縮機21で加える仕事量を抑制することができる。ゆえに、本実施形態の車両用空調装置において暖房運転のバイレベルモード時は、従来の車両用空調装置に比べて圧縮機21で加える仕事量が小さいため、冷凍サイクルの成績係数(COP=凝縮器での放熱量/圧縮機で加える仕事量)が向上する。したがって、従来のバイレベルモード特有のサイクル効率低下の現象を改善し、装置全体の消費電力を省電力にすることができる。
【0070】
また、制御装置は、暖房運転のバイレベルモードにおいて、圧縮機21によって吐出された冷媒の圧力が所定圧力P1を超えると判定した場合には凝縮器22によって送風空気を加熱するとともにPTCヒータ40に通電してさらに送風空気を加熱し、所定圧力P1を超えないと判定した場合には凝縮器22による送風空気の加熱のみを行う。
【0071】
この制御によれば、バイレベルモード特有の冷凍サイクルのCOP(成績係数)の低下が許容レベルにあるか否かを高い精度で判定することができる。
【0072】
また、PTCヒータ40は凝縮器22よりも送風空気下流側に設けられていることにより、凝縮器22にまず外気等の低温空気を導入することができるので、凝縮器22内に流入する冷媒の冷却効果が大きくなる。したがって、圧縮機21の消費電力をさらに低減することができる。また、PTCヒータ40を凝縮器22の上流側に設けた場合よりも、凝縮器22側の空気との温度差がより大きくできるので、送風空気の温度上昇効率を向上させることができる。
【0073】
また、PTCヒータ40の通風路に占める大きさ(例えば伝熱面積)は凝縮器22よりも小さくなるよう設けられ、凝縮器22を通過した空気の一部がPTCヒータ40を通過するように構成されている。さらに暖房運転のバイレベルモード時においてPTCヒータ40を通過して暖められた空気は、フェイス吹出し開口12よりもフット吹出し開口11に多く流れるようになっている。換言すれば、PTCヒータ40は凝縮器22よりも送風空気下流側であって、フェイス吹出し開口12よりもフット吹出し開口11に近い位置に設けられている。
【0074】
このような構成によれば、従来のバイレベルモード時の運転よりもPTCヒータ40による補助加熱を実施する上記自動空調運転の方が、バイレベルモードが成立するエアミックスドア8の開度が凝縮器22に向けて流れる空気を増加させるように制御されるので、凝縮器22内の冷媒圧力が低下して圧縮機の仕事量が低減するため、一層の冷凍サイクルのCOP向上が期待できる。
【0075】
(第2実施形態)
第2実施形態では、上記第1実施形態における自動空調運転の他の例を図5にしたがって説明する。図5は本実施形態の自動空調運転の流れを示したフローチャートである。本実施形態における自動空調運転の処理流れは、第1実施形態で図2にしたがって説明した自動空調運転の処理流れに対して、バイレベルモードが選択されたステップ7以降の処理手順が異なっており、同符号を付したその他のステップは図2のステップと同じである。また、車両用空調装置の各構成部品、これらの作動、作用効果については、第1実施形態と同様である。
【0076】
図5に示すように、制御装置は、目標吹出し温度TAOが第2の所定温度T2以上であると判定された場合には、ステップ7においてヒートポンプ式冷凍サイクル20を用いた暖房運転をバイレベルモードで実行する。
【0077】
次に制御装置は、エアミックスドア8の開度(凝縮器22に通じる通風路(フット吹出し側通路6)の開口率)を演算する処理を実行する(ステップ71)。そして制御装置は、送風機5のブロワレベルから求められる送風風量とステップ71で演算したエアミックスドアの開度とを用いて凝縮器22を通過すると思われる風量を演算し、演算された凝縮器22の通過予測風量が所定風量Q1を超えるか否かを判定する(ステップ72)。所定風量Q1は、凝縮器22に送風される風量が少なすぎて、これ以上風量が少なくなると冷凍サイクルの効率(成績係数)が悪化すると予測できる予めROM等に記憶されている風量であり、実験値や経験値に基づいて設定される。所定風量Q1には例えばマックスホット時のブロワレベルHi(強風量)の20%程度の風量が採用される。
【0078】
そして、演算された凝縮器22の通過予測風量が所定風量Q1を超えていると判定された場合には、制御装置は、凝縮器22の通過予測風量がサイクルの効率の許容レベルにあり、まだ悪化していない状況であるとみなし、PTCヒータ40による補助加熱を行うことなく、そのままのエアミックスドア8の開度でヒートポンプ式冷凍サイクル20を用いた前述の暖房運転を実施する(ステップ73)。
【0079】
逆に、演算された凝縮器22の通過予測風量が所定風量Q1を超えていないと判定された場合には、制御装置は、凝縮器22の通過予測風量が少なすぎて、サイクルの効率が許容レベルを超えて消費電力が増大している状況であるとみなし、開度を凝縮器22の通過予測風量が所定風量Q1を超えるようにエアミックスドア8の開度を制御し(フット吹出し側通路6の開口率を大きくして)、さらにヒートポンプ式冷凍サイクル20を用いた前述の暖房運転に加えて、PTCヒータ40に通電して補助加熱を実施する(ステップ73)。
【0080】
本実施形態の車両用空調装置に係る制御装置は、暖房運転のバイレベルモードにおいて凝縮器22を通過すると予測される空気の風量が、所定風量Q1を超えないと判定した場合には所定風量Q1を超えるようにエアミックスドア8の開度を調節するとともにPTCヒータ40に通電する。逆に、凝縮器22の通過予測風量が所定風量Q1を超えると判定した場合には凝縮器22による送風空気の加熱のみを行う。
【0081】
この制御によれば、バイレベルモード特有の冷凍サイクルのCOP(成績係数)の低下が許容レベルにないことを高い精度で判断できる。さらに、凝縮器22へ送風される風量が増加するようにエアミックスドア8が制御されることにより、凝縮器22を冷却する能力がさらに向上し、圧縮機21の仕事量を低減できるので、車両用空調装置全体の消費電力をさらに低減することができる。
【0082】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0083】
例えば、上記実施形態において電気式補助加熱手段としてPTCヒータ40を採用しているが、これに限定するものではない。電気式補助加熱手段は、通電されることにより、発熱体等から発熱して周囲の空気や物体を加熱できる装置であればよい。
【0084】
また、上記実施形態では、PTCヒータ40を凝縮器22よりも送風空気の下流側に配置しているが、凝縮器22よりも送風空気の上流側に配置するようにしても、暖房運転時のバイレベルモードにおいて上記消費電力を低減する効果を奏することに変わりはない。
【0085】
また、上記実施形態の空調ケース1には、他方側にフット吹出し開口11、フェイス吹出し開口12およびデフ吹出し開口が形成されているが、この他、リアフット吹出し開口等が形成されてもよい。リアフット吹出し開口は車室内の後席乗員の足元に吹き出される空調空気が通過する。空調ケース1に形成されたこれらの各開口は、それぞれ吹出しダクトを介して車室内空間に接続されており、また吹き出しモードに対応して吹出し開口切換ドア(図示せず)によって開閉されるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】第1実施形態に係る車両用空調装置の構成を示した概略図である。
【図2】第1実施形態に係る車両用空調装置の自動空調運転の流れを示したフローチャートである。
【図3】PTCヒータおよびヒートポンプ式冷凍サイクルの併用運転と従来のヒートポンプ式冷凍サイクルのみの運転とを比較した検証結果をモリエル線図上に示したサイクル図である。
【図4】PTCヒータおよびヒートポンプ式冷凍サイクルの併用運転と、従来のヒートポンプ式冷凍サイクルのみの運転とについて消費電力を比較した実験結果を示したグラフである。
【図5】第2実施形態に係る車両用空調装置の自動運転の流れを示したフローチャートである。
【図6】従来の車両用空調装置において、バイレベルモード時の空調ユニット100内部の風の流れを示した概略図である。
【符号の説明】
【0087】
1…空調ケース
3…外気吸入口(空気取入口)
4…内気吸入口(空気取入口)
6…フット吹出し側通路(通風路)
7…フェイス吹出し側通路(通風路)
8…エアミックスドア(風量比率調整手段)
11…フット吹出し開口
12…フェイス吹出し開口
20…ヒートポンプ式冷凍サイクル
21…圧縮機
22…凝縮器(加熱用熱交換器)
24…膨張弁(減圧装置)
25…室外熱交換器
40…PTCヒータ(電気式補助加熱手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸入し吐出する圧縮機(21)と、前記圧縮機(21)から吐出された冷媒が流入して放熱し暖房運転時に車室内へ送風される空気を加熱する加熱用熱交換器(22)と、前記暖房運転時に前記加熱用熱交換器(22)で冷却された冷媒を減圧する減圧装置(24)と、前記暖房運転時に前記減圧装置(24)で減圧された冷媒を蒸発させる室外熱交換器(25)と、を有するヒートポンプ式冷凍サイクル(20)を用い、前記車室内を空気調節する車両用空調装置であって、
一方側に空気取入口(3,4)が形成され、他方側に、車室内の乗員の上半身に向けて送風されるフェイス吹出し風が通過するフェイス吹出し開口(12)および前記乗員の足元に向けて送風されるフット吹出し風が通過するフット吹出し開口(11)が形成され、前記空気取入口(3,4)と前記両吹出し開口(11,12)との間に前記送風空気が通過する通風路(6,7)を有する空調ケース(1)と、
前記空調ケース(1)の内部に設けられ、通電されることにより前記送風空気を加熱する電気式補助加熱手段(40)と、
を備え、
前記暖房運転における前記フェイス吹出し風および前記フット吹出し風を提供するバイレベルモード時に、前記加熱用熱交換器(22)によって前記送風空気を加熱するとともに前記電気式補助加熱手段(40)に通電することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記暖房運転のバイレベルモードにおいて、
前記圧縮機(21)によって吐出された冷媒の圧力が、所定圧力(P1)を超えると判定した場合には前記加熱用熱交換器(22)によって前記送風空気を加熱するとともに前記電気式補助加熱手段(40)に通電し、
前記所定圧力(P1)を超えないと判定した場合には前記加熱用熱交換器(22)による前記送風空気の加熱のみを行うことを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記空気取入口(3,4)から取り入れた前記送風空気を、前記加熱用熱交換器(22)を通過する空気と前記加熱用熱交換器(22)を通らない空気とに分けてその風量比率を調整する風量比率調整手段(8)を備え、
前記暖房運転のバイレベルモードにおいて、
前記加熱用熱交換器(22)を通過する空気の風量が、所定風量(Q1)を超えないと判定した場合には前記所定風量(Q1)を超えるように前記風量比率調整手段(8)を調節するとともに前記電気式補助加熱手段(40)に通電し、
前記所定風量(Q1)を超えると判定した場合には前記加熱用熱交換器(22)による前記送風空気の加熱のみを行うことを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記電気式補助加熱手段(40)は、前記加熱用熱交換器(22)よりも前記送風空気下流側に設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
さらに前記電気式補助加熱手段(40)は、前記フェイス吹出し開口(12)よりも前記フット吹出し開口(11)に近い位置に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記電気式補助加熱手段(40)は、PTCヒータで構成することを特徴とる請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−166629(P2009−166629A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6136(P2008−6136)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】