説明

車両用空調装置

【課題】 ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による特定周波数領域の騒音を低減することができる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 送風ユニット2と、送風ユニット2から送風された空気を温調して車室内に吹き出す空調ユニット3とを備え、空調ユニット3は、送風ユニット2から送風される空気を、ディフューザ部22を経てエバポレータ入口流路21に導き、エバポレータ入口流路21からエバポレータ13へと流通させるユニットケース11を備えた車両用空調装置1において、エバポレータ入口流路21を形成するユニットケース11の空気流入方向に対向する面23に、ディフューザ部22で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変える反射方向変更部24が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送風ユニットから送風される空気を、ディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導き、エバポレータへと流通させるユニットケースを備えた車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気流路を形成するユニットケース内に、空気流れ方向に沿ってエバポレータとヒータコアとが順次配設され、エバポレータで冷却された空気がヒータを通過する量とバイパスする量との割合をエアミックスダンパにより調整して、複数の吹き出し口から車内に吹き出す空気温度を制御する空調ユニット(HVACユニット)に対して、車両の左右方向にオフセット配置された送風ユニットから車外空気または車内空気を吸い込んで空調ユニットに送風するようにした構成の車両用空調装置が実用化されている。
【0003】
上記の車両用空調装置では、送風ユニットから送風される空気は、ユニットケースに形成されているディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導かれ、エバポレータ入口流路で方向転換されてエバポレータへと流通されることになる。このような車両用空調装置において、エバポレータ入口流路を形成するユニットケースのエバポレータのコア面と対向する面を空気流入方向に沿って階段形状に構成し、その段面で空気流の方向転換を促進することにより、エバポレータのコア面全面に空気流を流して風速分布を均一化するようにした車両用空調装置が特許文献1に示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ユニットケースのディフューザ部におけるエバポレータのコア面の拡大部分と対向する部分に、エバポレータ入口流路に向けて突出し、かつエバポレータコア面の拡大部分との間に所定の隙間を有する空気流れ変更部を設け、送風時に生じる騒音の増大を招くことなく、空気流を強制的にエバポレータのコア面に向わせ、コア面を通過する空気流の風速分布を均一化するようにした車両用空調装置が示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−144848号公報
【特許文献2】特開2003−211936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した送風ユニットから送風される空気を、ディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導き、方向転換してエバポレータへと流通させるようにした車両用空調装置では、空気流路が拡大されるディフューザ部において、空気流の剥離流れによる圧力変動が原因で騒音が発生する。ユニットケースにおけるディフューザ部での空気流の剥離流れは極力抑制されるように設計されるが、皆無にはできない。上記騒音は、図10に示されるように、ディフューザ部22での剥離流れによって発生する剥離渦SVの自励振動による音波SWがエバポレータ入口流路を形成するユニットケースの空気流入方向に対向する面23で反射し、その反射波の周波数と自励振動の周波数とが共鳴することによる特定周波数領域の騒音と考えられる。
【0007】
上記特許文献1,2に示された車両用空調装置は、送風ユニットからの空気流が流入する空調ユニットのエバポレータ入口流路に空気流れ変更部を設け、空気流の方向転換を促進することにより、騒音の増大を招くことなく、エバポレータを通過する空気流の風速分布を均一化できるものである。しかし、ユニットケースのディフューザ部における空気流の剥離流れによる圧力変動が原因の騒音を抑制できるものではない。従って、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による特定周波数領域の騒音は未だ解消されていない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による特定周波数領域の騒音を低減することができる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の車両用空調装置は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる車両用空調装置は、車外空気または車内空気を吸い込んで下流側に送風する送風ユニットと、該送風ユニットから送風された空気を温調して車室内に吹き出す空調ユニットとを備え、前記空調ユニットは、前記送風ユニットから送風される空気を、ディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導き、該エバポレータ入口流路からエバポレータへと流通させるユニットケースを備えた車両用空調装置において、前記エバポレータ入口流路を形成する前記ユニットケースの空気流入方向に対向する面に、前記ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変える反射方向変更部が設けられることを特徴とする。
【0010】
送風ユニットから送風される空気を、ディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導き、エバポレータへと流通させるユニットケースを備えた車両用空調装置では、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波がエバポレータ入口流路を形成するユニットケースの空気流入方向に対向する面で反射し、その反射波の周波数と自励振動の周波数とが共鳴して特定周波数領域で騒音が発生する。
本発明によれば、エバポレータ入口流路を形成するユニットケースの空気流入方向に対向する面に設けられる反射方向変更部によって、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変えることができるため、特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制することができる。従って、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0011】
さらに、本発明の車両用空調装置は、上記の車両用空調装置において、前記音波反射方向変更部は、くさび状の凹凸面により構成されることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、くさび状凹凸面のくさび面によって、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変更することができる。このため、特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制し、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0013】
さらに、本発明の車両用空調装置は、上記の車両用空調装置において、前記音波反射方向変更部は、湾曲状の曲面により構成されることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、湾曲状の曲面によって、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変更することができる。このため、特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制し、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0015】
さらに、本発明の車両用空調装置は、上記の車両用空調装置において、前記音波反射方向変更部は、前記空気流入方向と直交する面に対して傾斜した傾斜面により構成されることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、空気流入方向と直交する面に対して傾斜した傾斜面によって、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変更することができる。このため、特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制し、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0017】
さらに、本発明にかかる車両用空調装置は、車外空気または車内空気を吸い込んで下流側に送風する送風ユニットと、該送風ユニットから送風された空気を温調して車室内に吹き出す空調ユニットとを備え、前記空調ユニットは、前記送風ユニットから送風される空気を、ディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導き、該エバポレータ入口流路からエバポレータへと流通させるユニットケースを備えた車両用空気調和装置において、前記エバポレータ入口流路を形成する前記ユニットケースにおける前記エバポレータのコア面と対向する面が空気流入方向に沿って階段形状の面とされており、前記階段形状面の段面に、前記ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変える反射方向変更部が設けられることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、エバポレータ入口流路を形成するユニットケースにおけるエバポレータのコア面と対向する面が空気流入方向に沿って階段形状の面とされているため、段面によって空気流の方向転換を促進することができる。これにより、エバポレータのコア面全面に空気流を均一に流し、風速分布を均一化することができる。また、階段形状面の段面に設けられる反射方向変更部によって、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変えることができる。これにより、特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制することができる。従って、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0019】
さらに、本発明の車両用空調装置は、上記の車両用空調装置において、前記階段形状面の段面は、前記空気流入方向に沿って複数段設けられ、各々の段面に前記反射方向変更部が設けられることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、空気流入方向に沿って複数段設けられる階段形状面の段面に各々反射方向変更部が設けられ、各々の段面によってディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変更することができる。このため、各段面でそれぞれ特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制し、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0021】
さらに、本発明にかかる車両用空調装置は、車外空気または車内空気を吸い込んで下流側に送風する送風ユニットと、該送風ユニットから送風された空気を温調して車室内に吹き出す空調ユニットとを備え、前記空調ユニットは、前記送風ユニットから送風される空気を、ディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導き、該エバポレータ入口流路からエバポレータへと流通させるユニットケースを備えた車両用空気調和装置において、前記エバポレータ入口流路の空気流入方向の途中位置に、前記ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の一部を反射する多孔反射板が、前記空気流入方向と交差する方向に設けられることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、エバポレータ入口流路の空気流入方向の途中位置に設けた多孔反射板により、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の一部を反射させ、多孔反射板を通過した残りの一部を空気流入方向に対向する面で反射させて減衰することができる。これにより、特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制することができる。従って、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0023】
さらに、本発明にかかる車両用空調装置は、車外空気または車内空気を吸い込んで下流側に送風する送風ユニットと、該送風ユニットから送風された空気を温調して車室内に吹き出す空調ユニットとを備え、前記空調ユニットは、前記送風ユニットから送風される空気を、ディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導き、該エバポレータ入口流路からエバポレータへと流通させるユニットケースを備えた車両用空気調和装置において、前記エバポレータ入口流路を形成する前記ユニットケースの空気流入方向に対向する面に、前記ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波を吸収する吸音材が設けられることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、エバポレータ入口流路を形成するユニットケースの空気流入方向に対向する面に設けられる吸音材により、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波を吸収して減衰することができる。これにより、特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制することができる。従って、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の車両用空気調和装置によると、剥離渦の自励振動による音波が反射する面に設けられる反射方向変更部により、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変えることができるため、特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制し、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0026】
また、本発明の車両用空気調和装置によると、エバポレータ入口流路に設けられる多孔反射板によって、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波を段階的に反射して減衰することができるため、特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制し、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0027】
さらに、本発明の車両用空気調和装置によると、剥離渦の自励振動による音波が反射する面に設けられる吸音材により、ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波を吸収して減衰することができるため、特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制し、ユニットケースのディフューザ部で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図3を用いて説明する。
図1には、本発明の第1実施形態にかかる車両用空調装置1の外観斜視図が示されている。車両用空調装置1は、車外からの外気または車室内からの内気を吸い込んで下流側に送風する送風ユニット2と、送風ユニット2の下流側に接続され、送風ユニット2から送風される空気を設定温度に温調し、車室内に吹き出す空調ユニット(HVACユニット)3とから構成される。
【0029】
送風ユニット2は、ケーシング5内にモータ6により駆動される羽根車7(図2参照)が設けられる遠心送風機4と、ケーシング5の一面に設けられる空気吸い込み口に接続配置される内外気切替装置8とから構成される。内外気切替装置8は、上面に開口される外気導入口9とそれに隣接して側面に開口される図示省略の内気導入口とを有する内外気切替ケース10と、内外気切替ケース10内に設けられる図示省略の内外気切替ダンパとから構成され、車外からの外気または車室内からの内気のいずれかが選択的に導入可能とされている。
【0030】
空調ユニット3は、複数に分割構成されるユニットケース11を備え、このユニットケース11により形成される車両の前後方向に沿う空気流路12(図2参照)には、図示省略の冷凍サイクルを構成し、冷媒を蒸発させて空気を冷却するエバポレータ13(図2参照)と、車両走行エンジンから循環される温水により空気を加熱する図示省略のヒータコアとが前後に順次配設されるとともに、エバポレータ13を通過した空気がヒータコアを通過する量とバイパスする量との割合を調整する図示省略のエアミックスダンパ、および複数の空気吹き出し口に設置されるフェースドア、デフドア、フットドア等の温調用機器が公知の如く収容設置される。
【0031】
また、上記空調ユニット3には、フェース吹き出し口14A,14Bと、デフ吹き出し口15A,15Bと、フット吹き出し口16A,16Bと、後席用ダクト17と、が設けられ、これら空気吹き出し口14A,14B,15A,15B,16A,16Bおよび後席用ダクト17が、互いに連動して作動される上記のフェースドア、デフドア、およびフットドアを介して選択的に開閉されることにより、選択された空気吹き出し口から温調空気が車室内に吹き出されるように構成される。
【0032】
送風ユニット2および空調ユニット3は、図1に示されるように、一体的に組み付けられ、車室内前方のインストルメントパネル内側の空間部に、空調ユニット3が車両の左右方向の略中央部に位置され、送風ユニット2が助手席側にオフセットさせた状態で設置される。従って、図2に示されるように、送風ユニット2から車両の左右方向に沿って送風される空気は、エバポレータ13の手前に形成されるエバポレータ入口流路21において車両の前後方向に方向転換されてエバポレータ13に流入されることとなる。
【0033】
また、図3に示されるように、送風ユニット2のケーシング5と、空調ユニット3のユニットケース11とは、高さ方向寸法が異なることから、両ケースの接続部分には、高さ方向寸法が拡大されるディフューザ部22が形成される。この空気流路が拡大するディフューザ部22およびエバポレータ入口流路21は、ユニットケース11に一体に形成されるが、一体成形または分割別体成形のいずれであってもよく、あるいは一部が送風ユニット2のケーシング5により兼用されるものであってもよい。
【0034】
また、エバポレータ入口流路21を形成するユニットケース11の送風ユニット2から流入する空気の流入方向に対向する面23には、空気流路が拡大されるディフューザ部22での剥離流れによって発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変える反射方向変更部24が設けられる。この反射方向変更部24は、対向面23に対して入射される音波の反射波が入射方向と異なる方向に反射されるように反射方向を変えられるものであれば如何なる構成であってもよい。本実施形態においては、反射方向変更部24が、図3に示されるように、エバポレータ入口流路21の流路側に突出されるくさび状の凹凸面体25によって構成される。
【0035】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
送風ユニット2の内外気切替装置8の外気導入口9または内気導入口(図示省略)より吸い込まれた外気または内気は、送風機4の羽根車7によって昇圧され、下流側の空調ユニット3へと圧送される。この空気流は、エバポレータ入口流路21により前後方向流れに方向転換されて空調ユニット3側の空気流路12内に流入され、エバポレータ13を通過する過程で冷却される。冷却風の一部は図示省略のエアミックスダンパによりヒータコア(図示省略)側に流通され、残りはヒータコアをバイパスし、ヒータコア下流のエアミックス域において再び混合される。こうして設定温度に調整された温調風は、エアミックス域の後流側に設けられているフェース吹き出し口14A,14B、デフ吹き出し口15A,15B、フット吹き出し口16A,16B、および後席用ダクト17の選択された一つまたは複数から車室内へと吹き出され、車室内の空調に供される。
【0036】
この間、送風ユニット2から空調ユニット3に送風される空気流は、エバポレータ入口流路21に流入する際に、空気流路が拡大するディフューザ部22において剥離流れが発生し、この剥離流れによる圧力変動が原因で騒音が発生する。この騒音は、図10に示されるように、ディフューザ部22での剥離流れによって発生する剥離渦SVの自励振動による音波SWが、エバポレータ入口流路21を形成するユニットケース11の空気流入方向に対向する面23で反射し、その反射波の周波数と自励振動の周波数とが共鳴することによる特定周波数領域の騒音と考えられる。
【0037】
ここで、上記特定周波数領域のフィードバック周波数f(Hz)は、次式によって表すことができる。
f(Hz)=1/(2L/a)
なお、上記式において、Lはディフューザ部22の剥離渦SVが発生する箇所から対向面23までの距離(m)、aは音速(a=340m/sec)である。
一般に、エバポレータ13の長さ方向の寸法は、30〜40cm程度と考えられることから、上記距離Lを例えば34cmとした場合、フィードバック周波数f(Hz)は、上記式から、f=1/(2*0.34/340)=500(Hz)となる。従って、上記の騒音は、500Hz付近の音波が定在波となり、剥離渦SVの自励振動と共鳴して発生されるものと考えられる。
【0038】
しかるに、本実施形態においては、剥離渦SVの自励振動による音波SWが反射される対向面23に、音波SWの反射方向を変える反射方向変更部24としてのくさび状の凹凸面体25を設け、この凹凸面体25によって、くさび面に入射される音波SWの反射波が入射方向と異なる方向に反射されるようにしている。これによって、500Hz付近の特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制することができる。従って、ユニットケース11のディフューザ部22で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0039】
図8は、くさび状の凹凸面体25無しの場合(破線)と、くさび状の凹凸面体25有りの場合(実線)とにおける圧力(無次元)と周波数(Hz)との関係を示したグラフである。このグラフは、壁面上の圧力変動を計測したものであって、騒音を計測したものではないが、空調ユニット3内の空気流は低速であり、その場合には、騒音要因として壁面上の圧力変動が関係することになる。圧力変動と音は、比例する関係にあるとはいえないものの、騒音データは互いに連動しており、圧力変動が大きいと騒音も大きくなると考えられる。図8のグラフからは、500Hz付近の圧力が低減されていることが判り、それに相応して騒音が低減されていると解される。
【0040】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図4および図9を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、反射方向変更部24の構成が異なっている。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態において、反射方向変更部24は、図4(A)に示されるように、エバポレータ入口流路21の流路側に突出される湾曲状の曲面体26によって構成される。
【0041】
上記のような湾曲状の曲面体26を設けることによっても、曲面に入射される音波SWの反射波を入射方向と異なる方向に反射させることができる。従って、上記第1実施形態と同様、500Hz付近の特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制し、ユニットケース11のディフューザ部22で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。ちなみに、図9に、湾曲状の曲面体26無しの場合(破線)と、湾曲状の曲面体26有りの場合(実線)とにおける圧力(無次元)と周波数(Hz)との関係を表す図8と同様のグラフが示されている。このグラフからも明らかなように、500Hz付近の圧力が大きく低減されており、それに相応して騒音が低減されていると解される。
なお、図8と図9との比較結果から、くさび状の凹凸面体25よりも湾曲状の曲面体26の方が良好な結果が得られることが判る。
【0042】
また、上記実施形態以外にも、反射方向変更部24を、図4(B)に示されるように、エバポレータ入口流路21の流路側に突出される空気流入方向と直交する面に対して傾斜する2面を持つ傾斜面体27によっても構成することができる。
さらに、ユニットケース11の対向面23自体を、図4(C),(D),(E),(F)に示されているような加工面とし、その加工面により反射方向変更部24を構成してもよい。例えば、図4(C)には、ユニットケース11の対向面23を、外側へ湾曲状に突出する湾曲突出面28とした例が示されている。また、図4(D)には、ユニットケース11の対向面23を、外側へ突出する傾斜した2面で構成される傾斜突出面29とした例が示され、図4(E)および(F)には、ユニットケース11の対向面23を、空気流入方向と直交する面に対して上向きに鈍角または鋭角に傾斜する傾斜面30,31とした例が示されている。
【0043】
上記した図4(B),(C),(D),(E),(F)に示されるような傾斜面体27、湾曲突出面28、傾斜突出面29、および傾斜面30,31により反射方向変更部24を構成することによっても、それぞれの面に入射される音波SWの反射波を入射方向と異なる方向に反射させることができる。従って、上記第1実施形態と同様、500Hz付近の特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制し、ユニットケース11のディフューザ部22で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0044】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について、図5を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、反射方向変更部24の構成が異なっている。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態において、エバポレータ入口流路21を形成するエバポレータ13のコア面13Aと対向する面は、図5(A)に示されるように、空気流入方向に沿って複数の段面42を有する階段形状の面41により構成されている。そして、各々の段面42には、図5(B)または(C)に示されるように、反射方向変更部24が設けられる。つまり、各々の段面42は、図5(B)に示されるように、2つの傾斜面により構成される傾斜突出面43、あるいは図5(C)に示されるように、湾曲状に突出する湾曲突出面44により構成される。
【0045】
上記のように、エバポレータ入口流路21を形成するエバポレータ13のコア面13Aと対向する面を、空気流入方向に沿って階段形状の面41とすることによって、各段面42の作用で送風ユニット2から送風される空気流の方向転換を促進することができる。これにより、エバポレータ13のコア面13A全面に空気流をほぼ均一に流して風速分布の均一化を図ることができる。また、階段形状とされた面41の複数の段面42に設けられる反射方向変更部24、すなわち傾斜突出面43あるいは湾曲突出面44によって、ディフューザ部22で発生する剥離渦SVの自励振動による音波SWの反射方向を変えることができる。これにより、特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制し、ユニットケース11のディフューザ部22で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0046】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について、図6を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、エバポレータ入口流路21の途中位置に多孔反射板50を設けている点が異なっている。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態は、図6に示されるように、エバポレータ入口流路21の空気流入方向の途中位置に、多孔反射板50を空気流入方向と交差する方向に設けた構成とされる。
【0047】
上記のように、エバポレータ入口流路21の途中に多孔反射板50を設けることによって、ディフューザ部22で発生する剥離渦SVの自励振動による音波SWの一部は、多孔反射板50により反射され、多孔反射板50を通過した残りの一部は、対向面23により多段階で反射されて減衰される。これにより、500Hz付近の特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制することができる。従って、ユニットケース11のディフューザ部22で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0048】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態について、図7を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、エバポレータ入口流路21の空気流入方向に対向する面23に吸音材60を設けている点が異なっている。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態は、図7に示されるように、エバポレータ入口流路21を形成するユニットケース11の空気流入方向に対向する面23に、吸音材60を設けた構成とされる。吸音材60には、独立気泡の発泡ポリウレタン等を用いることができる。
【0049】
上記のように、対向面23に吸音材60を設けることにより、ディフューザ部22で発生する剥離渦SVの自励振動による音波SWを吸音材60で吸収して減衰することができる。これにより、500Hz付近の特定周波数領域の定在波による共鳴モードの騒音を抑制することができる。従って、ユニットケース11のディフューザ部22で発生する剥離流れに起因する騒音を低減することができる。
【0050】
なお、本発明は、上記した実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態では、送風ユニット2により車両の左右方向から送風される空気を、空調ユニット3で前後方向に流通させて温調する車両用空調装置1を例に説明したが、空調ユニットで空気を上下方向に流通させて温調する車両用空調装置、あるいは送風ユニットにより上下方向に送風される空気を、空調ユニットで前後方向に流通させて温調する車両用空調装置等にも同様に適用することができることはもちろんである。
【0051】
また、ディフューザ部22について、上下両側に拡大部がある場合の例について説明したが、片側のみに拡大部を有する場合であってもよい。さらに、上記した各実施形態にかかる発明を複数組み合わせて用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる車両用空調装置の外観斜視図である。
【図2】図1に示す車両用空調装置の送風ユニットと空調ユニットのエバポレータ入口流路付近の横断面図である。
【図3】図2を紙面の上方方向から見た状態のエバポレータのコア面に沿う縦断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる車両用空調装置の図3に相当する部位の具体的変形例(A)ないし(F)の部分縦断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態にかかる車両用空調装置の送風ユニットと空調ユニットのエバポレータ入口流路付近の横断面図(A)と、そのエバポレータのコア面に沿う縦断面図(B)および(C)である。
【図6】本発明の第4実施形態にかかる車両用空調装置の送風ユニットと空調ユニットのエバポレータ入口流路付近の横断面図である。
【図7】本発明の第5実施形態にかかる車両用空調装置の送風ユニットと空調ユニットのエバポレータ入口流路付近の横断面図である。
【図8】図3に示す実施形態における圧力(無次元)と周波数(Hz)との関係を示すグラフである。
【図9】図4(A)に示す実施形態における圧力(無次元)と周波数(Hz)との関係を示すグラフである。
【図10】剥離渦の自励振動による騒音発生メカニズムのモデル図である。
【符号の説明】
【0053】
1 車両用空調装置
2 送風ユニット
3 空調ユニット
11 ユニットケース
13 エバポレータ
13A エバポレータのコア面
21 エバポレータ入口流路
22 ディフューザ部
23 空気流入方向に対向する面(対向面)
24 反射方向変更部
25 くさび状凹凸面体
26 湾曲状曲面体
27 傾斜面体
28 湾曲突出面
29 傾斜突出面
30,31 傾斜面
41 階段形状面
42 段面
50 多孔反射板
60 吸音材
SV 剥離渦
SW 音波
L 剥離渦発生箇所と対向面との距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車外空気または車内空気を吸い込んで下流側に送風する送風ユニットと、該送風ユニットから送風された空気を温調して車室内に吹き出す空調ユニットとを備え、
前記空調ユニットは、前記送風ユニットから送風される空気を、ディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導き、該エバポレータ入口流路からエバポレータへと流通させるユニットケースを備えた車両用空調装置において、
前記エバポレータ入口流路を形成する前記ユニットケースの空気流入方向に対向する面に、前記ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変える反射方向変更部が設けられることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記音波反射方向変更部は、くさび状の凹凸面により構成されることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記音波反射方向変更部は、湾曲状の曲面により構成されることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記音波反射方向変更部は、前記空気流入方向と直交する面に対して傾斜した傾斜面により構成されることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
車外空気または車内空気を吸い込んで下流側に送風する送風ユニットと、該送風ユニットから送風された空気を温調して車室内に吹き出す空調ユニットとを備え、
前記空調ユニットは、前記送風ユニットから送風される空気を、ディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導き、該エバポレータ入口流路からエバポレータへと流通させるユニットケースを備えた車両用空調装置において、
前記エバポレータ入口流路を形成する前記ユニットケースにおける前記エバポレータのコア面と対向する面が空気流入方向に沿って階段形状の面とされており、
前記階段形状面の段面に、前記ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の反射方向を変える反射方向変更部が設けられることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項6】
前記階段形状面の段面は、前記空気流入方向に沿って複数段設けられ、各々の段面に前記反射方向変更部が設けられることを特徴とする請求項5に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
車外空気または車内空気を吸い込んで下流側に送風する送風ユニットと、該送風ユニットから送風された空気を温調して車室内に吹き出す空調ユニットとを備え、
前記空調ユニットは、前記送風ユニットから送風される空気を、ディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導き、該エバポレータ入口流路からエバポレータへと流通させるユニットケースを備えた車両用空調装置において、
前記エバポレータ入口流路の空気流入方向の途中位置に、前記ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波の一部を反射する多孔反射板が、前記空気流入方向と交差する方向に設けられることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項8】
車外空気または車内空気を吸い込んで下流側に送風する送風ユニットと、該送風ユニットから送風された空気を温調して車室内に吹き出す空調ユニットとを備え、
前記空調ユニットは、前記送風ユニットから送風される空気を、ディフューザ部を経てエバポレータ入口流路に導き、該エバポレータ入口流路からエバポレータへと流通させるユニットケースを備えた車両用空調装置において、
前記エバポレータ入口流路を形成する前記ユニットケースの空気流入方向に対向する面に、前記ディフューザ部で発生する剥離渦の自励振動による音波を吸収する吸音材が設けられることを特徴とする車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−61863(P2009−61863A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230290(P2007−230290)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】