説明

車両用空調装置

【課題】プレ空調時に消費されるエネルギを有効に利用可能な車両用空調装置を提供する。
【解決手段】プレ空調の運転モードとして、冷凍サイクル30の圧縮機31と送風機12を作動との双方させるプレ空調運転モード、および圧縮機31の作動を禁止するとともに送風機12を作動させるプレ送風運転モードの2つの運転モードを設け、さらに、乗員の意思によって、プレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードのうち一方の運転モードを選択する運転モード切替スイッチ90bを設ける。これにより、プレ送風運転モード時に、圧縮機31の不必要なエネルギ消費を抑制して、プレ空調のために消費されるエネルギを有効に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員が車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を行う車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に、乗員が車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を行う車両用空調装置が開示されている。この特許文献1の車両用空調装置では、車室内送風空気の温度を調整するための冷凍サイクルにおいて冷媒を圧縮して吐出する圧縮機として、バッテリから電力を供給されて作動する電動圧縮機を採用している。
【0003】
そして、プレ空調時にバッテリに蓄電残量に応じて、電動圧縮機の冷媒吐出能力(具体的には、回転数)の上限値を設定し、この上限値を超えない範囲で電動圧縮機を作動させている。これにより、ある程度の空調能力を発揮させつつ電動圧縮機の消費電力を低減して、乗員の快適性とバッテリの消費電力の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−76544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の空調装置では、バッテリの蓄電残量の低下に伴って電動圧縮機の冷媒吐出能力を低下させているため、バッテリの蓄電残量が低下に伴って車室内の空調を十分に行うことができなくなる。しかも、バッテリの蓄電残量が所定残量よりも低下すると電動圧縮機を停止させてしまうため、車室内空調を行うことができない(特許文献1の図6参照)。
【0006】
従って、特許文献1の空調装置では、実施的に、バッテリの蓄電残量が少なくなると、十分なプレ空調を行うことができなくなり、バッテリに蓄えられている電力を有効に利用することができない。さらに、十分な空調を行うことができない状態で電動圧縮機を作動させることは、不必要なエネルギ消費(電力消費)につながり、自然環境に対する保護意識の高い乗員の満足感を損なう。
【0007】
上記点に鑑みて、本発明は、プレ空調時に消費される不必要なエネルギ消費を抑制可能な車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車室内へ空気を送風する送風機(12)と、送風機(12)に車室外空気を吸入させる外気モードおよび車室内空気を吸入させる内気モードを切り替える内外気切替手段(20)と、送風機(12)によって送風された送風空気の温度を調整する蒸気圧縮式の冷凍サイクル(30)とを備え、乗員が車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能な車両用空調装置であって、プレ空調を行う際の運転モードとして、送風機(12)を作動させるとともに冷凍サイクル(30)の圧縮機(31)を作動させるプレ空調運転モード、および、送風機(12)を作動させるとともに圧縮機(31)の作動を禁止するプレ送風運転モードを有し、
プレ送風運転モード時に車室内の温度を低下させる際には、内外気切替手段(20)を外気モードへ切り替え、さらに、プレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードのうち、いずれか一方の運転モードを乗員が選択する運転モード選択手段(90b)を備える車両用空調装置を特徴とする。
【0009】
これによれば、プレ空調を行う際の運転モードとして、プレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードを有しているので、プレ空調時に消費されるエネルギを有効に利用することができる。つまり、車室内の十分な空調を行う際には、プレ空調運転モードを選択することによって、送風機(12)および冷凍サイクル(30)の圧縮機(31)を作動させて、車室内の十分な空調を行うためにエネルギを利用できる。
【0010】
一方、車室内の温度をある程度低下させる際には、プレ送風運転モードを選択することによって、圧縮機(31)よりも消費エネルギの少ない送風機(12)を作動させて車室内に車室外空気を取り入れ、ある程度車室内温度を低下させることができる。従って、プレ送風運転モードでは、冷凍サイクル(30)の圧縮機(31)の不必要なエネルギ消費を抑制して、プレ空調のために消費されるエネルギを有効に利用できる。
【0011】
さらに、運転モード選択手段(90b)を備えているので、乗員の意思によって、プレ送風運転モードを選択することができる。従って、自然環境に対する保護意識の高い乗員の満足感を損なうこともない。なお、本請求項における乗員とは車両に乗り込んでいる乗員のみならず、車両に乗り込む前の乗員等を含む意味である。
【0012】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の車両用空調装置において、圧縮機(31)よりも少ない消費エネルギで送風空気を加熱する加熱手段(15)を備え、プレ送風運転モード時に車室内の温度を上昇させる際には、加熱手段(15)を作動させるとともに、内外気切替手段(20)を内気モードへ切り替えることを特徴とする。
【0013】
これによれば、プレ送風運転モードを選択することによって、圧縮機(31)よりも消費エネルギの少ない送風機(12)および加熱手段(15)を作動させて温度上昇させた送風空気を車室内に循環送風させることができる。従って、車室内の温度を上昇させる際にも、プレ空調時に消費されるエネルギを有効に利用できる。
【0014】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の車両用空調装置において、プレ空調運転モード時に、内外気切替手段(20)を内気モードへ切り替えることを特徴とする。これによれば、冷凍サイクル(30)によって温度調整された送風空気を車室内に循環送風させることができ、より一層、プレ空調時に消費されるエネルギを有効に利用できる。
【0015】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3いずれか1つに記載の車両用空調装置において、運転モード選択手段は、プレ空調運転モードが選択されていることを示す状態とプレ送風運転モードが選択されていることを示す状態とを選択的に切り替える単一のスイッチ(90b)で構成されていることを特徴とする。
【0016】
これによれば、乗員がプレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードを切り替える際の操作性を向上できる。さらに、2つのスイッチを採用する場合に対して、車両用空調装置の製造コストを低減できる。
【0017】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用空調装置において、運転モード選択手段(90b)は、プレ空調が開始される前であっても、予めプレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードのうち、いずれか一方のモードを選択可能であること特徴とする。
【0018】
これによれば、予めプレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードのうち、いずれか一方を選択しておくことで、乗員がプレ空調の作動開始操作を行うだけで、所望の運転モードでプレ空調を行うことができる。
【0019】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態の車両用空調装置の全体構成図である。
【図2】第1実施形態の車両用空調装置の電気制御部を示すブロック図である。
【図3】第1実施形態のPTCヒータの回路図である。
【図4】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理を示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理の要部を示すフローチャートである。
【図6】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理の別の要部を示すフローチャートである。
【図7】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理の別の要部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、図面を用いて本発明の第1実施形態を説明する。図1は、本実施形態の車両用空調装置1の全体構成図であり、図2は、車両用空調装置1の電気制御部の構成を示すブロック図である。本実施形態の車両用空調装置1は、エンジン(内燃機関)EGおよび走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得るハイブリッド車に搭載されている。
【0022】
本実施形態のハイブリッド車両は、車両の走行負荷等に応じてエンジンEGを作動あるいは停止させて、エンジンEGおよび走行用電動モータの双方から駆動力を得て走行する走行状態や、エンジンEGを停止させて走行用電動モータのみから駆動力を得て走行する走行状態等を切り替えることができる。これにより、車両走行用の駆動力をエンジンEGのみから得る通常の車両に対して車両燃費を向上させている。
【0023】
また、このようなエンジンEGの作動あるいは停止といったエンジンEGの作動は、後述するエンジン制御装置70によって制御される。さらに、本実施形態のエンジンEGから出力される駆動力は、車両走行用として用いられるのみならず、発電機80を作動させるためにも用いられる。
【0024】
そして、発電機80にて発電された電力はバッテリ81に蓄えることができ、バッテリ81に蓄えられた電力は、走行用電動モータのみならず、車両用空調装置1を構成する各構成機器をはじめとする各種車載機器に供給できる。
【0025】
次に、本実施形態の車両用空調装置1の詳細構成を説明する。本実施形態の車両用空調装置1は、図1に示す室内空調ユニット10、冷凍サイクル30、図2に示す空調制御装置50等を備えている。また、この車両用空調装置1は、乗員が車両に乗り込む前に車室内の温度を低下させるための空調(冷房)を開始するプレ空調を行うことができる。
【0026】
まず、室内空調ユニット10は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されて、その外殻を形成するケーシング11内に送風機12、蒸発器13、ヒータコア14、PTCヒータ15等を収容したものである。
【0027】
ケーシング11は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成しており、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。ケーシング11内の送風空気流れ最上流側には、内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切替導入する内外気切替手段としての内外気切替箱20が配置されている。
【0028】
より具体的には、内外気切替箱20には、ケーシング11内に内気を導入させる内気導入口21および外気を導入させる外気導入口22が形成されている。さらに、内外気切替箱20の内部には、内気導入口21および外気導入口22の開口面積を連続的に調整して、ケーシング11内へ導入させる内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる内外気切替ドア23が配置されている。
【0029】
従って、内外気切替ドア23は、ケーシング11内に導入される内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる吸込口モードを切り替える風量割合変更手段を構成する。より具体的には、内外気切替ドア23は、内外気切替ドア23用の電動アクチュエータ62によって駆動され、この電動アクチュエータ62は、後述する空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0030】
また、吸込口モードとしては、内気導入口21を全開とするとともに外気導入口22を全閉としてケーシング11内へ内気を導入する内気モード、内気導入口21を全閉とするとともに外気導入口22を全開としてケーシング11内へ外気を導入する外気モード、さらに、内気モードと外気モードとの間で、内気導入口21および外気導入口22の開口面積を連続的に調整することにより、内気と外気の導入比率を連続的に変化させる内外気混入モードがある。
【0031】
内外気切替箱20の空気流れ下流側には、内外気切替箱20を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する送風手段である送風機12(ブロア)が配置されている。この送風機12は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機であって、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(送風量)が制御される。従って、この電動モータは、送風機12の送風能力変更手段を構成している。
【0032】
送風機12の空気流れ下流側には、蒸発器13が配置されている。蒸発器13は、その内部を流通する冷媒と送風機12から送風された送風空気とを熱交換させて、送風空気を冷却する冷却用熱交換器として機能するものである。具体的には、蒸発器13は、圧縮機31、凝縮器32、気液分離器33および膨張弁34等とともに、蒸気圧縮式の冷凍サイクル30を構成している。
【0033】
圧縮機31は、エンジンルーム内に配置され、冷凍サイクル30において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するものであり、吐出容量が固定された固定容量型圧縮機構31aを電動モータ31bにて駆動する電動圧縮機として構成されている。電動モータ31bは、インバータ61から出力される交流電圧によって、その作動(回転数)が制御される交流モータである。
【0034】
また、インバータ61は、後述する空調制御装置50から出力される制御信号に応じた周波数の交流電圧を出力する。そして、この回転数制御によって、圧縮機31の冷媒吐出能力が変更される。従って、電動モータ31bは、圧縮機31の吐出能力変更手段を構成している。なお、本実施形態の圧縮機31を作動させるために必要な消費電力は、前述の送風機12に送風を作動させるために必要な消費電力よりも大きい。
【0035】
凝縮器32は、エンジンルーム内に配置されて、内部を流通する冷媒と、室外送風機としての送風ファン35から送風された車室外空気(外気)とを熱交換させることにより、圧縮機31吐出冷媒を凝縮させるものである。送風ファン35は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって稼働率、すなわち、回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。
【0036】
気液分離器33は、凝縮器32にて凝縮された冷媒を気液分離して余剰冷媒を蓄えるとともに、液相冷媒のみを下流側に流すものである。膨張弁34は、気液分離器33から流出した液相冷媒を減圧膨張させる減圧手段である。蒸発器13は、膨張弁34にて減圧膨張された冷媒を蒸発させて、冷媒に吸熱作用を発揮させるものである。これにより、蒸発器13は、送風空気を冷却する冷却用熱交換器として機能する。
【0037】
また、ケーシング11内において、蒸発器13の空気流れ下流側には、蒸発器13通過後の空気を流す加熱用冷風通路16、冷風バイパス通路17といった空気通路、並びに、加熱用冷風通路16および冷風バイパス通路17から流出した空気を混合させる混合空間18が形成されている。
【0038】
加熱用冷風通路16には、蒸発器13通過後の空気を加熱するためのヒータコア14およびPTCヒータ15が、送風空気流れ方向に向かってこの順に配置されている。ヒータコア14は、エンジンEGを冷却するエンジン冷却水(以下、単に冷却水という。)と蒸発器13通過後の送風空気とを熱交換させて、蒸発器13通過後の送風空気を加熱する加熱用熱交換器である。
【0039】
具体的には、ヒータコア14とエンジンEGは、冷却水流路41によって接続されて、ヒータコア14とエンジンEGとの間を冷却水が循環する冷却水回路40が構成されている。そして、この冷却水回路40には、冷却水を循環させるための電動ウォータポンプ42が配置されている。この電動ウォータポンプ42は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(冷却水循環量)が制御される電動式の水ポンプである。
【0040】
PTCヒータ15は、PTC素子(正特性サーミスタ)を有し、このPTC素子に電力が供給されることによって発熱して、ヒータコア14通過後の空気を加熱する電気ヒータである。なお、本実施形態のPTCヒータ15を作動させるために必要な消費電力は、冷凍サイクル30の圧縮機31を作動させるために必要な消費電力よりも少ない。
【0041】
より具体的には、このPTCヒータ15は、図3に示すように、複数(本実施形態では、3本)のPTCヒータ15a、15b、15cから構成されている。なお、図3は、本実施形態のPTCヒータ15の電気的接続態様を示す回路図である。
【0042】
図3に示すように、各PTCヒータ15a、15b、15cの正極側はバッテリ81側に接続され、負極側は各PTCヒータ15a、15b、15cが有する各スイッチ素子SW1、SW2、SW3を介して、グランド側へ接続されている。各スイッチ素子SW1、SW2、SW3は、各PTCヒータ15a、15b、15cが有する各PTC素子h1、h2、h3の通電状態(ON状態)と非通電状態(OFF状態)とを切り替えるものである。
【0043】
さらに、各スイッチ素子SW1、SW2、SW3の作動は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、独立して制御される。従って、空調制御装置50は、各スイッチ素子SW1、SW2、SW3の通電状態と非通電状態とを独立に切り替えることによって、各PTCヒータ15a、15b、15cのうち、通電状態となり加熱能力を発揮するものを切り替えて、PTCヒータ15全体としての加熱能力を変化させることができる。
【0044】
一方、冷風バイパス通路17は、蒸発器13通過後の空気を、ヒータコア14およびPTCヒータ15を通過させることなく、混合空間18に導くための空気通路である。従って、混合空間18にて混合された送風空気の温度は、加熱用冷風通路16を通過する空気および冷風バイパス通路17を通過する空気の風量割合によって変化する。
【0045】
そこで、本実施形態では、蒸発器13の空気流れ下流側であって、加熱用冷風通路16および冷風バイパス通路17の入口側に、加熱用冷風通路16および冷風バイパス通路17へ流入させる冷風の風量割合を連続的に変化させるエアミックスドア19を配置している。
【0046】
従って、エアミックスドア19は、混合空間18内の空気温度(車室内へ送風される送風空気の温度)を調整する温度調整手段を構成する。より具体的には、エアミックスドア19は、エアミックスドア用の電動アクチュエータ63によって駆動され、この電動アクチュエータ63は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0047】
さらに、ケーシング11の送風空気流れ最下流部には、混合空間18から空調対象空間である車室内へ温度調整された送風空気を吹き出す吹出口24〜26が配置されている。この吹出口24〜26としては、具体的に、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス吹出口24、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット吹出口25、および、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ吹出口26が設けられている。
【0048】
また、フェイス吹出口24、フット吹出口25、およびデフロスタ吹出口26の空気流れ上流側には、それぞれ、フェイス吹出口24の開口面積を調整するフェイスドア24a、フット吹出口25の開口面積を調整するフットドア25a、デフロスタ吹出口26の開口面積を調整するデフロスタドア26aが配置されている。
【0049】
これらのフェイスドア24a、フットドア25a、デフロスタドア26aは、吹出口モードを切り替える吹出口モード切替手段を構成するものであって、図示しないリンク機構を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータ64に連結されて連動して回転操作される。なお、この電動アクチュエータ64も、空調制御装置50から出力される制御信号によってその作動が制御される。
【0050】
また、吹出口モードとしては、フェイス吹出口24を全開してフェイス吹出口24から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出すフェイスモード、フェイス吹出口24とフット吹出口25の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出すバイレベルモード、フット吹出口25を全開するとともにデフロスタ吹出口26を小開度だけ開口して、フット吹出口25から主に空気を吹き出すフットモード、およびフット吹出口25およびデフロスタ吹出口26を同程度開口して、フット吹出口25およびデフロスタ吹出口26の双方から空気を吹き出すフットデフロスタモードがある。
【0051】
さらに、乗員が後述する操作パネル60のスイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタ吹出口を全開してデフロスタ吹出口から車両フロント窓ガラス内面に空気を吹き出すデフロスタモードとすることもできる。
【0052】
次に、図2により、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置50およびエンジン制御装置70は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種機器の作動を制御する。
【0053】
エンジン制御装置70の出力側には、エンジンEGを構成する各種エンジン構成機器等が接続されている。具体的には、エンジンEGを始動させるスタータ、エンジンEGに燃料を供給する燃料噴射弁(インジェクタ)の駆動回路(いずれも図示せず)等が接続されている。
【0054】
また、エンジン制御装置70の入力側には、バッテリ81の端子間電圧VBを検出する電圧計、アクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ(いずれも図示せず)等の種々のエンジン制御用のセンサ群が接続されている。
【0055】
空調制御装置50の出力側には、送風機12、圧縮機31の電動モータ31b用のインバータ61、送風ファン35、各種電動アクチュエータ62、63、64、第1〜第3PTCヒータ15a、15b、15c、電動ウォータポンプ42等が接続されている。
【0056】
また、空調制御装置50の入力側には、車室内温度Trを検出する内気センサ51、外気温Tamを検出する外気センサ52(外気温検出手段)、車室内の日射量Tsを検出する日射センサ53、圧縮機31吐出冷媒温度Tdを検出する吐出温度センサ54(吐出温度検出手段)、圧縮機31吐出冷媒圧力Pdを検出する吐出圧力センサ55(吐出圧力検出手段)、蒸発器13からの吹出空気温度(蒸発器温度)TEを検出する蒸発器温度センサ56(蒸発器温度検出手段)、エンジンEGから流出した冷却水の冷却水温度Twを検出する冷却水温度センサ58等の種々の空調制御用のセンサ群の検出信号が接続されている。
【0057】
なお、本実施形態の蒸発器温度センサ56は、具体的に蒸発器13の熱交換フィン温度を検出している。もちろん、蒸発器温度センサ56として、蒸発器13のその他の部位の温度を検出する温度検出手段を採用してもよいし、蒸発器13を流通する冷媒自体の温度を直接検出する温度検出手段を採用してもよい。
【0058】
さらに、空調制御装置50の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチからの操作信号が入力される。操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチとしては、具体的に、車両用空調装置1の作動スイッチ、車両用空調装置1の自動制御を設定あるいは解除するオートスイッチ、吸込口モードを切り替える吸込口モードスイッチ、吹出口モードを切り替える吹出口モードスイッチ、送風機12の風量設定スイッチ、車室内温度を設定する車室内温度設定スイッチ、冷凍サイクルの省動力化を優先させる省動力化要求信号を出力するエコノミースイッチ等が設けられている。
【0059】
また、空調制御装置50は、乗員が携帯する無線端末90(リモコン)からの信号を受信するリモコン信号受信部50aを有している。無線端末90は、乗員が前述のプレ空調を行うことの要求信号を出力するものである。従って、乗員は車両から離れた場所からプレ空調のために車両用空調装置1を始動させることができる。
【0060】
さらに、無線端末90には、プレ空調のスタートスイッチ90aと、プレ空調の運転モードをプレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードのうち、いずれか一方の運転モードに切り替える運転モード選択手段としての運転モード切替スイッチ90bが設けられている。
【0061】
プレ空調運転モードとは、送風機12、冷凍サイクル30およびPTCヒータ15を作動させた状態で、送風空気の温度調整を行って車室内の空調を行う運転モードである。なお、プレ空調運転モードでは、PTCヒータ15を常時作動させる必要はなく、必要に応じてPTCヒータ15の作動させるか否かを決定すればよい。換言すると、プレ空調運転モードは、少なくとも送風機12および圧縮機31を作動させる運転モードである。
【0062】
一方、プレ送風運転モードとは、冷凍サイクル30を作動させることなく、送風機12を作動させた状態で、送風空気の温度調整を行って車室内の空調を行う運転モードである。換言すると、圧縮機31の作動を禁止して、少なくとも送風機12を作動させる運転モードである。
【0063】
また、無線端末90に設けられた運転モード切替スイッチ90bは、運転モード選択手段は、プレ空調運転モードが選択されていることを示す状態とプレ送風運転モードが選択されていることを示す状態とを選択的に切り替える単一のスイッチで構成されている。
【0064】
さらに、空調制御装置50は、エンジンEGの作動を制御するエンジン制御装置70に電気的接続されており、空調制御装置50およびエンジン制御装置70は互いに電気的に通信可能に構成されている。これにより、一方の制御装置に入力された検出信号あるいは操作信号に基づいて、他方の制御装置が出力側に接続された各種機器の作動を制御することもできる。例えば、空調制御装置50がエンジン制御装置70へエンジンEGの作動要求指令を出力することによって、エンジンEGを作動させることができる。
【0065】
また、空調制御装置50は、上述した各種空調制御機器を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、本実施形態では、特に、圧縮機31の電動モータ31bに接続されたインバータ61から出力される交流電圧の周波数を制御して、圧縮機31の冷媒吐出能力を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を吐出能力制御手段50bとし、送風手段である送風機12の作動を制御して、送風機12の送風能力を制御する構成を送風能力制御手段50cとする。もちろん、吐出能力制御手段50b等を空調制御装置50に対して別体で構成してもよい。
【0066】
次に、図4〜図7により、上記構成における本実施形態の車両用空調装置1の作動を説明する。図4は、本実施形態の車両用空調装置1の制御処理を示すフローチャートである。この制御処理は、車両システムが停止している場合でも、バッテリから空調制御装置50に電力が供給されることによって実行される。なお、図4〜図7中の各制御ステップは、空調制御装置50が有する各種の機能実現手段を構成している。
【0067】
まず、ステップS1では、プレ空調のスタートスイッチ90a、あるいは操作パネル60の車両用空調装置1の作動スイッチが投入(ON)されたか否かを判定する。そして、プレ空調のスタートスイッチ90a、あるいは車両用空調装置の作動スイッチが投入されるとステップS2へ進む。
【0068】
ステップS2では、フラグ、タイマ等の初期化、および上述した電動アクチュエータを構成するステッピングモータの初期位置合わせ等のイニシャライズが行われる。なお、このイニシャライズでは、フラグや演算値のうち、前回の車両用空調装置1の作動終了時に記憶された値が維持されるものもある。
【0069】
次に、ステップS3では、操作パネル60の操作信号等を読み込んでステップS4へ進む。具体的な操作信号としては、車室内温度設定スイッチによって設定される車室内設定温度Tset、オートスイッチによる設定信号(自動制御要求信号、自動制御解除信号)、吸込口モードスイッチの設定信号、エコノミースイッチの操作に応じて出力される省動力化要求信号、運転モード切替スイッチ90bによって選択される運転モード選択信号がある。
【0070】
なお、運転モード切替スイッチ90bによって選択される運転モード選択信号は、プレ空調のスタートスイッチ90aが投入された際に、同時に無線端末90から出力される信号である。
【0071】
次に、ステップS4では、空調制御に用いられる車両環境状態の信号、すなわち上述のセンサ群51〜58等の検出信号を読み込む。また、このステップS4では、エンジン制御装置70の入力側に接続されたセンサ群の検出信号、およびエンジン制御装置70から出力される制御信号等の一部も、エンジン制御装置70から読み込んでいる。
【0072】
次に、ステップS5では、車室内吹出空気の目標吹出温度TAOを算出する。目標吹出温度TAOは、下記数式F1により算出される。
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C…(F1)
ここで、Tsetは車室内温度設定スイッチによって設定された車室内設定温度、Trは内気センサ51によって検出された車室内温度(内気温)、Tamは外気センサ52によって検出された外気温、Tsは日射センサ53によって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
【0073】
続くステップS6〜S13では、空調制御装置50に接続された各種機器の制御状態が決定される。まず、ステップS6では、エアミックスドア19の目標開度SWを目標吹出温度TAO、蒸発器温度センサ56によって検出された吹出空気温度TE、エアミックス前の温風温度TWDに基づいて算出する。
【0074】
具体的には、目標開度SWは、次の数式F2により算出できる。
SW=[{TAO−(TE+2)}/{TWD−(TE+2)}]×100(%)…(F2)
エアミックス前の温風温度TWDとは、加熱用冷風通路16に配置されたヒータコア14、およびPTCヒータ15の加熱能力に応じて決定される値であって、具体的には、次の数式F3により算出できる。
TWD=Tw×0.8+TE×0.2+ΔTptc…(F3)
ここで、Twは冷却水温度センサ58によって検出された冷却水温度、ΔTptcは、PTCヒータ15の作動による吹出温上昇量、すなわち吹出口から車室内へ吹き出される空調風の温度(吹出温)のうちPTCヒータ15の作動が寄与した温度上昇量である。
【0075】
つまり、式F3では、エアミックス前の温風温度TWDを、ヒータコア14による吹出温上昇量(Tw×0.8+TE×0.2)とPTCヒータ15の作動による吹出温上昇量ΔTptcとの合計値として求めている。
【0076】
ヒータコア14による吹出温上昇量(Tw×0.8+TE×0.2)は、ヒータコア14の熱交換効率が100%とすれば、送風空気はヒータコア14にて冷却水温度Twまで上昇すると考えられる。これに対して、実際のヒータコア14では、熱交換効率が80%前後となってしまうことから0.8という係数を決定している。
【0077】
また、本発明者らの検討により、ヒータコア14へ流入する送風空気の温度によっても、ヒータコア14による吹出温上昇量が変化することが判っている。ヒータコア14へ流入する送風空気の温度は、蒸発器13にて冷却された冷風の温度であるから、吹出空気温度TEを採用することができる。そして、このヒータコア14へ流入する送風空気の温度の吹出温上昇量に対する寄与度として実験的に求められた0.2という係数を採用している。
【0078】
一方、PTCヒータ15の作動による吹出温上昇量ΔTptcは、PTCヒータ15の消費電力W(Kw)、空気密度ρ(kg/m3)、空気比熱Cp、PTCヒータ15を通過する風量であるPTC通過風量Va(m3/h)を用いて、数式F4により演算できる。
ΔTptc=W/ρ/Cp/Va×3600…(F4)
ここで、PTC通過風量Vaとしては、送風機12の送風空気量に対して、前回のステップS5で算出したエアミックス開度SWを考慮したものを用いている。
【0079】
なお、SW=0(%)は、エアミックスドア19の最大冷房位置であり、冷風バイパス通路17を全開し、加熱用冷風通路16を全閉する。これに対し、SW=100(%)は、エアミックスドア19の最大暖房位置であり、冷風バイパス通路17を全閉し、加熱用冷風通路16を全開する。
【0080】
次のステップS7では、送風機12の送風能力(送風量)を決定する。具体的には、ステップS5にて決定された目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して、送風機12の送風能力(具体的には、電動モータに印加するブロワモータ電圧)を決定する。
【0081】
より詳細には、本実施形態の制御マップでは、TAOの極低温域(最大冷房域)および極高温域(最大暖房域)でブロワモータ電圧を最大値にして、送風機32の送風量Gaを最大風量に制御する。さらに、TAOが極低温域あるいは極高温域から中間温度域に向かうに伴って、ブロワモータ電圧を減少させて送風量を減少させる。
【0082】
次のステップS8では、吸込口モード、すなわち内外気切替箱20の切替状態を決定する。このステップS8の詳細については、図5のフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS21では、ステップS1にてプレ空調のスタートスイッチ90aが投入されていると判定されたプレ空調状態であるか否かを判定する。
【0083】
ステップS21にて、プレ空調状態であると判定された場合には、ステップS22へ進み、運転モード切替スイッチ90bによって選択された運転モードが、プレ空調運転モードであるかプレ送風運転モードであるかを判定する。
【0084】
ステップS22にて、選択された運転モードがプレ空調運転モードであるとされた際には、ステップS23へ進み内外気切替箱20を内気モードとすることが決定されて、ステップS9へ進む。また、選択された運転モードがプレ送風運転モードであるとされた際には、ステップS24へ進み内外気切替箱20を外気モードとすることが決定されて、ステップS9へ進む。
【0085】
一方、ステップS21にて、プレ空調状態でないと判定された場合には、ステップS25へ進み、ステップS3で読み込んだオートスイッチによる設定信号が自動制御要求信号であるか自動制御解除信号であるかを判定する。ステップS25にて、オートスイッチによる設定信号が、自動制御要求信号であると判定された場合は、ステップS26へ進む。
【0086】
ステップS26では、目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して、吸込口モードを決定する。具体的には、TAOが上昇過程にあるときは、TAO≧第1所定温度T1であれば外気モードとし、第1所定温度T1>TAO≧第2所定温度T2であれば内外気混入モードとし、第2所定温度T2>TAOであれば内気モードとする。
【0087】
一方、TAOが下降過程にあるときは、第3所定温度T3≧TAOであれば内気モードとし、第3所定温度T3≧TAO>第2所定温度T2であれば内外気混入モードとし、TAO>第2所定温度T2であれば、外気モードとしてステップS9へ進む。なお、各所定温度には、T1>T2>T3の関係がある。また、各所定温度の温度差は、制御ハンチング防止のためのヒステリシス幅として設定されている。
【0088】
また、ステップS25にて、オートスイッチによる設定信号が、自動制御解除信号であると判定された場合は、ステップS27へ進む。ステップS27では、ステップS3で読み込んだ吸込口モードスイッチの設定信号に応じて、内気モードあるいは外気モードが決定されて、ステップS9へ進む。
【0089】
次のステップS9では、吹出口モードを決定する。この吹出口モードも、TAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。本実施形態では、TAOが低温域から高温域へと上昇するにつれて吹出口モードをフットモード→バイレベルモード→フェイスモードへと順次切り替える。
【0090】
従って、夏季は主にフェイスモード、春秋季は主にバイレベルモード、そして冬季は主にフットモードが選択される。さらに、湿度センサの検出値から窓ガラスに曇りが発生する可能性が高い場合には、フットデフロスタモードあるいはデフロスタモードを選択するようにしてもよい。
【0091】
次のステップS10では、圧縮機31の冷媒吐出能力(具体的には、回転数(rpm))を決定する。このステップS10の詳細については、図6のフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS31では、ステップS4で決定したTAO等に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、蒸発器13からの吹出空気温度TEの目標吹出温度TEOを決定する。
【0092】
さらに、この目標吹出温度TEOと吹出空気温度TEの偏差En(TEO−TE)を算出し、この偏差Enと、今回算出された偏差Enから前回算出された偏差En−1を減算した偏差変化率Edot(En−(En−1))とを用いて、予め空調制御装置50に記憶されたメンバシップ関数とルールとに基づいたファジー推論に基づいて、前回の圧縮機回転数fn−1に対する仮の回転数変化量Δf_C(rpm)を決定する。
【0093】
次のステップS32では、前述の制御ステップS21と同様に、プレ空調状態であるか否かを判定する。ステップS32にて、プレ空調状態であると判定された場合には、ステップS33へ進み、運転モード切替スイッチ90bによって選択された運転モードが、プレ空調運転モードであるかプレ送風運転モードであるかを判定する。
【0094】
ステップS33にて、選択された運転モードがプレ空調運転モードであるとされた際には、ステップS34へ進み、前回の圧縮機回転数fn−1(rpm)に対するプレ空調運転モードにおける仮の回転数変化量Δf_PRE(rpm)を決定する。
【0095】
具体的には、バッテリ81の使用許可電力から圧縮機31の消費電力を減算した値に基づいて、予め空調制御装置70に記憶されている制御マップを参照して、プレ空調運転モード時の仮の回転数変化量Δf_PREを決定する。本実施形態の制御マップでは、バッテリ81の使用許可電力から圧縮機31の消費電力を減算した値の増加に伴って、プレ空調運転モード時の仮の回転数変化量Δf_PREを増加させるように決定する。
【0096】
ここで、バッテリ81の使用許可電力は、エンジン制御装置70から取得したバッテリ81の端子間電圧VBから算定することができる。さらに、圧縮機31の消費電力は、例えば、前回の圧縮機回転数fn−1、あるいは前回の圧縮機回転数fn−1にステップS31で決定した仮の回転数変化量Δf_Cを加算した仮の圧縮機回転数に基づいて、予め予め空調制御装置70に記憶されている制御マップを参照して決定することができる。
【0097】
次のステップS35では、ステップS31で決定された仮の回転数変化量Δf_Cと、ステップS34で決定されたプレ空調運転モード時の仮の回転数変化量Δf_PREとのうち、小さい値を今回の回転数変化量Δfと決定する。
【0098】
次のステップS36では、乗員の要求を反映する要求圧縮機回転数f(USER)(rpm)の値を設定する。ステップS36は、ステップS32にて、乗員がプレ空調運転モードを選択して、圧縮機31を作動させることを要求していることを反映するため、要求圧縮機回転数f(USER)=10000として、ステップS39へ進む。なお、本実施形態の圧縮機31としては、実際の最高回転数が10000rpm以下となるものが採用されている。
【0099】
一方、ステップS32にて、運転モード切替スイッチ90bによって選択された運転モードが、プレ送風運転モードであると判定された場合は、ステップS37へ進み、乗員がプレ空調運転モードを選択して、圧縮機31を作動させることを要求していないことを反映させるために、要求圧縮機回転数f(USER)=0として、ステップS39へ進む。
【0100】
また、ステップS32にて、プレ空調状態でないと判定された場合には、ステップS38へ進み、ステップS31で決定された仮の回転数変化量Δf_Cを今回の回転数変化量Δfと決定して、ステップS39へ進む。
【0101】
そして、ステップS39では、前回の圧縮機回転数fn−1に回転数変化量Δfを加算した値および要求圧縮機回転数f(USER)のうち、小さい方の回転数を今回の圧縮機回転数fnとして更新する。なお、この圧縮機回転数fnの更新は、1秒毎の制御周期で実行される。
【0102】
つまり、本実施形態の制御ステップS10では、乗員によってプレ空調運転モードが要求されている際には、バッテリ81の電力残量に応じて、圧縮機31の回転数変化量を決定し、プレ送風運転モードが要求されている際には、バッテリ81の電力残量によらず、圧縮機31の回転数を0(rpm)とすることができる。
【0103】
次のステップS11では、PTCヒータ15の作動本数を決定する。PTCヒータ15の作動本数は、エアミックス開度SWおよび冷却水温度Twに応じて決定される。ここで、エアミックス開度SWが小さくなることは、加熱用冷風通路16にて送風空気を加熱する必要性が少なくなることを意味している。従って、エアミックス開度SWが小さくなるに伴ってPTCヒータ15を作動させる必要性も少なくなる。
【0104】
そこで、本実施形態では、まず、エアミックス開度SWが予め定めた基準開度(本実施形態では、40%)より小さい場合は、PTCヒータ15を作動させる必要は無いものとして、PTCヒータ15の作動状態を非通電(OFF)に決定する。一方、エアミックス開度SWが予め定めた基準開度以上であれば、PTCヒータ15を作動させる必要があるものとして、PTCヒータ15の作動状態を通電(ON)に決定する。
【0105】
次に、PTCヒータ15の作動状態が通電(ON)に決定された場合は、冷却水温度Twに基づいて、予め定めた制御マップを参照して、PTCヒータ15の作動本数を決定する。具体的には、冷却水温度Twの低下に伴って、PTCヒータ15の作動本数を増加させる。
【0106】
次のステップS12では、空調制御装置50からエンジン制御装置70へ出力される要求信号を決定する。つまり、ステップS11では、エンジンEGの作動要求信号(エンジンON要求)を出力するか否かを決定する。
【0107】
ここで、車両走行用の駆動力をエンジンEGのみから得る通常の車両では、走行時に常時エンジンを作動させているので冷却水も常時高温となる。従って、通常の車両では冷却水をヒータコア14に流通させることで十分な暖房性能を発揮することができる。
【0108】
これに対して、本実施形態のハイブリッド車両では、バッテリ81残量に余裕があれば、走行用電動モータのみから走行用の駆動力を得て走行することができる。このため、高い暖房性能が必要な場合であっても、エンジンEGの停止頻度が高くなると冷却水温度が40℃程度となってしまい、ヒータコア14にて十分な暖房性能が発揮できなくなる。
【0109】
そこで、本実施形態では、高い暖房性能が必要にもかかわらず冷却水温度Twが予め定めた基準冷却水温度よりも低いときは、冷却水温度Twを所定温度以上に維持するため、空調制御装置50からエンジン制御装置70に対して、エンジンEGを作動するように作動要求信号を出力している。
【0110】
なお、このような作動要求信号の出力は、車両走行用の駆動源としてエンジンEGを作動させる必要の無い場合であってもエンジンEGを作動させることになるので、燃費を悪化させる要因となる。このため、作動要求信号を出力する頻度は極力低減させることが望ましい。
【0111】
従って、本実施形態では、プレ空調時には、空調制御装置50からエンジン制御装置70に対して、エンジンEGの作動要求信号を出力することを禁止している。さらに、例えば、エコノミースイッチによって省動力化要求信号が出力されている場合には、エンジンEGの作動要求信号を出力する頻度を低下させるようにしてもよい。
【0112】
次のステップ13では、ヒータコア14とエンジンEGとの間で冷却水を循環させる電動ウォータポンプ42の作動させるか否かを決定する。このステップS13の詳細については、図7のフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS41では、冷却水温度Twが吹出空気温度TEより高いか否かを判定する。
【0113】
ステップS41にて、冷却水温度Twが吹出空気温度TE以下となっている場合は、ステップS44へ進み、電動ウォータポンプ42を停止(OFF)させることを決定する。その理由は、冷却水温度Twが吹出空気温度TE以下となっている場合に冷却水をヒータコア14へ流すと、ヒータコア14を流れる冷却水が蒸発器13通過後の空気を冷却してしまうことになるため、かえって吹出口からの吹出空気温度を低くしてしまうからである。
【0114】
一方、ステップS41にて、冷却水温度Twが吹出空気温度TEより高い場合は、ステップS42へ進む。ステップS52では、送風機12が作動しているか否かが判定される。ステップS42にて、送風機12が作動していないと判定された場合は、ステップS44に進み、省動力化のために電動ウォータポンプ42を停止(OFF)させることを決定する。
【0115】
一方、ステップS42にて送風機12が作動していると判定された場合は、ステップS43へ進み、電動ウォータポンプ42を作動(ON)させることを決定する。これにより、電動ウォータポンプ42が作動して、冷却水が冷媒回路内を循環するので、ヒータコア14を流れる冷却水とヒータコア14を通過する空気とを熱交換させて送風空気を加熱することができる。
【0116】
また、本実施形態では、プレ空調時にプレ送風運転モードが選択されている場合は、電動ウォータポンプ42を停止(OFF)させている。なお、プレ空調時であっても、前回、車両を停止してからの経過時間が短い場合は、エンジンEGおよび冷却水回路40を構成する各機器の熱容量によって、冷却水温度Twが吹出空気温度TEより高い場合もある。従って、プレ空調運転モードでは、図7と同様の制御を行うことができる。
【0117】
ステップS14では、上述のステップS5〜S13で決定された制御状態が得られるように、空調制御装置50より各種機器12、61、35、62、63、64、15a、15b、15c、42やエンジン制御装置70に対して制御信号および制御電圧が出力される。
【0118】
これにより、例えば、空調制御装置50の吐出能力制御手段50bからインバータ61に対して制御信号が出力され、送風能力制御手段50cから送風機12の電動モータに対して制御電圧(ブロア電圧V)が出力される。さらに、空調制御装置50からエンジン制御装置70に対して、エンジンの作動要求信号が出力されれば、走行条件によってエンジンEGが停止している場合であっても、エンジンEGが作動する。
【0119】
次のステップS15では、制御周期τの間待機し、制御周期τの経過を判定するとステップS2に戻るようになっている。
【0120】
なお、本実施形態は制御周期τを250msとしている。これは、車室内の空調制御は、エンジン制御等と比較して遅い制御周期であってもその制御性に悪影響を与えないからである。これにより、車両内における空調制御のための通信量を抑制して、エンジン制御等のように高速制御を行う必要のある制御系の通信量を十分に確保することができる。
【0121】
本実施形態の車両用空調装置1は、以上の如く作動するので、送風機12から送風された送風空気が、蒸発器13にて冷却される。そして蒸発器13にて冷却された冷風は、エアミックスドア19の開度に応じて、加熱用冷風通路16および冷風バイパス通路17へ流入する。
【0122】
加熱用冷風通路16へ流入した冷風は、ヒータコア14およびPTCヒータ15を通過する際に加熱されて、混合空間18にて冷風バイパス通路17を通過した冷風と混合される。そして、混合空間18にて温度調整された空調風が、混合空間18から各吹出口を介して車室内に吹き出される。
【0123】
この車室内に吹き出される空調風によって車室内の内気温Trが外気温Tamより低く冷やされる場合には、車室内の冷房が実現されており、一方、内気温Trが外気温Tamより高く加熱される場合には、車室内の暖房が実現されることになる。
【0124】
さらに、本実施形態の車両用空調装置では、プレ空調時にプレ空調運転モードが選択されると、ステップS10にて説明したように、バッテリ81の電力残量に応じて、圧縮機31の回転数を決定している。つまり、プレ空調運転モードでは、送風機12および冷凍サイクル30を作動させて、バッテリ81に蓄えられた電力(エネルギ)を車室内の空調(冷房)を行うために適切に利用できる。
【0125】
しかも、プレ空調運転モードでは、ステップS8にて説明したように内外気切替箱20を内気モードに切り替えるので、温度調整された送風空気を車室内に循環送風させて、効率的に車室内の空調を行うことができる。
【0126】
一方、プレ空調時にプレ送風運転モードが選択されると、ステップS10にて説明したように、圧縮機31の回転数を0(rpm)として圧縮機31の作動を禁止している。さらに、ステップS8にて説明したように、内外気切替箱20を外気モードに切り替えるので、車室内に車室外空気を取り入れることができる。
【0127】
従って、プレ送風運転モードでは、車室内を換気することによって、ある程度車室内の温度を低下させることができる。さらに、圧縮機31の不必要なエネルギ消費を抑制して、プレ空調のために消費されるエネルギを有効に利用できる。
【0128】
しかも、本実施形態では、乗員が運転モード切替スイッチ90bによって、プレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードを選択することができる。従って、例えば、プレ空調時に消費される電力の残量に十分な余裕がある場合であっても乗員の意思によって、プレ送風運転モードを選択することができる。
【0129】
その結果、プレ空調時に消費される電力の残量に十分な余裕がある場合であっても、圧縮機31の不必要なエネルギ消費を抑制することができるので、自然環境に対する保護意識の高い乗員の満足感を向上することができる。
【0130】
また、本実施形態の運転モード切替スイッチ90bは、プレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードを選択的に切り替える単一のスイッチとして構成されているので、乗員がプレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードを切り替える際の操作性を向上できる。さらに、2つのスイッチを採用する場合に対して、車両用空調装置1の製造コストを低減できる。
【0131】
さらに、この運転モード切替スイッチ90bは、プレ空調のスタートスイッチ90aに対して独立して設けられているので、乗員が予めプレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードのうち、いずれか一方を選択しておくことができる。従って、乗員はプレ空調のスタートスイッチ90aを操作するだけで、所望の運転モードでプレ空調を行うことができる。
【0132】
(第2実施形態)
上述の第1実施形態では、乗員が車両に乗り込む前に車室内の温度を低下させるためのプレ空調、すなわち冷房としてのプレ空調を前提とした例を説明したが、本実施形態では、乗員が車両に乗り込む前に車室内の温度を上昇させるプレ空調、すなわち暖房としてのプレ空調も実行可能としたものである。
【0133】
具体的には、図5のステップS22にて、選択された運転モードがプレ送風運転モードであるとされた際には、外気温Tamと車室内温度設定スイッチによって設定された車室内設定温度Tsetとを比較する。
【0134】
外気温Tamが車室内設定温度Tsetよりも高い場合は、車室内の温度を低下させる必要があるので、第1実施形態と同様に内外気切替箱20を外気モードとする。一方、外気温Tamが車室内設定温度Tsetよりも低い場合は、車室内の温度を上昇させる必要があるので、外気を車室内に導入させることは、かえって車室内の温度を低下させてしまうので望ましくない。
【0135】
そこで、外気温Tamが車室内設定温度Tsetよりも低い場合は、エアミックス開度SWおよび冷却水温度Twによらず、PTCヒータ15を作動させることを決定するとともに、ステップS24へ進み内外気切替箱20を内気モードとすることが決定されて、ステップS9へ進む。その他の構成および制御態様は、第1実施形態と同様である。
【0136】
従って、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を得られるだけでなく、乗員によってプレ送風運転モードが選択されると、圧縮機31よりも消費電力の少ない送風機12およびPTCヒータ15を作動させて車室内の温度を上昇させることができる。従って、車室内の温度を低下させる冷房用のプレ空調のみならず、車室内の温度を上昇させる暖房用のプレ空調においても、プレ空調のために消費されるエネルギを有効に利用できる。
【0137】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0138】
(1)上述の実施形態では、乗員が運転モード切替スイッチ90bを操作することによって、プレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードを選択した例を説明したが、プレ空調運転モードおよびプレ送風運転モードを選択はこれに限定されない。
【0139】
例えば、バッテリ81の端子間電圧VBから推定されるバッテリ81の蓄電残量が予め定めた基準蓄電量以上の場合は、乗員の選択した運転モードとし、バッテリ81の蓄電残量が基準蓄電量より少ない場合は、乗員の選択した運転モードによらずプレ送風運転モードを優先するようにしてもよい。
【0140】
(2)上述の実施形態では、本発明のハイブリッド車両に適用した例を説明しているが、本発明の適用はこれに限定されない。例えば、通常のガソリン車両、ディーゼル車両、および電気自動車等に適用してもよい。また、上述の実施形態では、加熱手段としてPTCヒータ15を採用した例を説明したが、加熱手段はこれに限定されない。電力を供給することによって発熱する加熱手段であれば、抵抗加熱方式、誘電加熱方式等のヒータを採用することができる。
【0141】
(3)上述の実施形態では、本発明の車両用空調装置を、ハイブリッド車両のうちエンジンEGおよび走行用電動モータの双方から直接駆動力を得て走行可能な、いわゆるパラレル型のハイブリッド車両に適用した例を説明しているが、本発明の車両用空調装置の適用はこれに限定されない。
【0142】
例えば、エンジンEGを発電機80の駆動源として用い、発電された電力をバッテリ81に蓄え、さらに、バッテリ81に蓄えられた電力を供給されることによって作動する走行用電動モータから駆動力を得て走行する、いわゆるシリアル型のハイブリッド車両に適用してもよい。
【符号の説明】
【0143】
12 送風機
15 PTCヒータ
20 内外気切替箱
30 冷凍サイクル
31 圧縮機
90b 運転モード切替スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内へ空気を送風する送風機(12)と、
前記送風機(12)に車室外空気を吸入させる外気モードおよび車室内空気を吸入させる内気モードを切り替える内外気切替手段(20)と、
前記送風機(12)によって送風された送風空気の温度を調整する蒸気圧縮式の冷凍サイクル(30)とを備え、
乗員が車両に乗り込む前に前記車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能な車両用空調装置であって、
前記プレ空調を行う際の運転モードとして、前記送風機(12)を作動させるとともに前記冷凍サイクル(30)の圧縮機(31)を作動させるプレ空調運転モード、および、前記送風機(12)を作動させるとともに前記圧縮機(31)の作動を禁止するプレ送風運転モードを有し、
前記プレ送風運転モード時に前記車室内の温度を低下させる際には、前記内外気切替手段(20)を外気モードへ切り替え、
さらに、前記プレ空調運転モードおよび前記プレ送風運転モードのうち、いずれか一方の運転モードを乗員が選択する運転モード選択手段(90b)を備えることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記圧縮機(31)よりも少ない消費エネルギで前記送風空気を加熱する加熱手段(15)を備え、
前記プレ送風運転モード時に前記車室内の温度を上昇させる際には、前記加熱手段(15)を作動させるとともに、前記内外気切替手段(20)を内気モードへ切り替えることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記プレ空調運転モード時に、前記内外気切替手段(20)を内気モードへ切り替えることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記運転モード選択手段は、前記プレ空調運転モードが選択されていることを示す状態と前記プレ送風運転モードが選択されていることを示す状態とを選択的に切り替える単一のスイッチ(90b)で構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記運転モード選択手段(90b)は、前記プレ空調が開始される前であっても、予め前記プレ空調運転モードおよび前記プレ送風運転モードのうち、いずれか一方のモードを選択可能であること特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−63057(P2011−63057A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213164(P2009−213164)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】