説明

車両用部材の位置決め構造

【課題】
組み付けおよび加工を容易にしつつ、組み付けを繰り返しても、組み付け精度を維持し、更に、位置決め部を陥没させることのない車両用部材位置決め構造を提供する。
【解決手段】
シリンダブロック4と、タイミングチェーンカバー40と、シリンダブロック4に備えられるノックピン31、32と、タイミングチェーンカバー40に備えられ、ノックピン31、32が当接する基準面50、51、52を有するノック穴41、42と、ノック穴41、42に設けられ、ノックピン31、32を基準面50、51、52に押圧する板ばね45、46、47と、を備え、シリンダブロック4とタイミングチェーンカバー40とは、ノック穴41、42にノックピン31、32が嵌入して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はノックピンを用いた車両用部材の位置決め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、組み付けられる2つの車両用部材の間に相対的な位置決め精度が必要な場合、車両用部材の合わせ面に、はめあいに関する寸法公差を厳しく設定した一対のノック穴とこれに嵌合するノックピンを設定して位置決めする。
【0003】
例えば特許文献1に記載の構成では、ノックピンの嵌合部分の円周面の一部を平面で切り欠くことで、切り欠きのない円柱形状と比較して、嵌合し易さを維持したまま、ノックピンとノック穴とのはめあいに関する寸法公差を厳しくでき、位置決め精度を向上させることが知られている。
【0004】
また、特許文献2に記載の構成では、凸部が予め設定されたはめあいの寸法公差を有する凹部の内周面に対して、凸部が凹部に当接するように案内するボルトを用いた押動手段を備えることで、位置決めを繰り返しても位置決め精度を維持できる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−106179号公報
【特許文献2】特開2006−17175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、ノックピンに切り欠きが必要であり、ノックピンの形状が複雑になる。また、ノックピンの切り欠きが大きくなるほど、ノックピンとノック穴との位置決め精度が維持できなくなるおそれがある。
【0007】
特許文献2においては、押動手段の構成には凸部を設けた第1の部材と、凹部を設けた第2の部材とに、傾斜したボルト穴を螺設する構造が必要となり、高度な加工を要する。また凹部の内周面や合わせ面に作用する押圧力を規制する手段がなく、凹部の内周面や合わせ面を陥没させるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みて成されたものであり、部材の加工を簡単にし、組み付けを容易としつつ、組み付けを繰り返しても、組み付け精度を維持し、凹部の内周面や合わせ面を陥没させることがない車両用部材の位置決め構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の課題解決手段は、第1部材と、第2合わせ面を有する第2部材と、前記第1部材に備えられるノックピンと、前記第2部材に備えられ、前記ノックピンが当接する基準面を有するノック穴と、前記ノック穴に設けられ、前記ノックピンを前記基準面に押圧する弾性部材と、を備え、前記第1部材と前記第2部材とは、前記ノック穴に前記ノックピンが嵌入して構成されることである。
【0010】
本発明の第2の課題解決手段は、前記基準面は、第1基準面及び第2基準面で構成され、前記ノックピンは、前記弾性部材により前記第1基準面及び前記第2基準面に押圧されることである。
【0011】
本発明の第3の課題解決手段は、前記ノックピンは、1つの前記弾性部材により前記第1基準面及び前記第2基準面に押圧されることである。
【0012】
本発明の第4の課題解決手段は、前記ノックピンは、第1ノックピン及び第2ノックピンで構成され、前記ノック穴は、前記第1ノックピンが嵌入する第1ノック穴及び前記第2ノックピンが嵌入する第2ノック穴で構成され、前記第1ノック穴は、前記第1基準面及び前記第2基準面を有し、前記第2ノック穴は、前記基準面を構成する第3基準面を有し、前記第2ノック穴の前記第3基準面は、前記第2ノックピンと当接する面であり、かつ前記第1ノック穴に嵌入する前記第1ノックピンを回動中心とした回動軌跡の径方向と平行な面のうちの1つの面である。
【0013】
本発明の第5の課題解決手段は、 前記ノックピンは、第3ノックピン及び前記ノック穴を有する前記第2部材を挿通する前記ノックピンとは異なる回転軸で構成され、前記ノック穴は、前記第3ノックピンが嵌入する第3ノック穴及び前記回転軸が挿通する挿通部で構成され、前記第3ノック穴の前記基準面は、前記第3ノックピンと当接する面であり、かつ前記挿通部に挿通する前記回転軸を回動中心とした回動軌跡の径方向と平行な面のうちの1つの面である。
【0014】
本発明の第6の課題解決手段は、前記第1部材と前記第2部材とは、一方がタイミングチェーンカバーで、他方がシリンダブロックである。
【0015】
本発明の第7の課題解決手段は、前記タイミングチェーンカバーは、全て又は一部が合成樹脂の成型体である。
【0016】
本発明の第8の課題解決手段は、第1部材と、第2部材と、前記第1部材に備えられるノックピンと、前記第2部材に備えられ、前記ノックピンが当接する基準面を有するノック穴と、前記ノック穴に設けられ、前記ノックピンを前記基準面に押圧する弾性部材と、を備え、前記ノックピンが、前記弾性部材により前記基準面へ案内されることにより、前記第1部材と前記第2部材との位置が定まることである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の課題解決手段によれば、第2部材のノック穴に嵌入される第1部材のノックピンは、第2部材のノック穴に備えられた弾性部材により押圧され、ノック穴の基準面と常に当接する。これにより、嵌入を繰り返すごとの位置ずれを抑制することができる。ここで、第1部材と第2部材との合わせ面には押圧力は作用せず、ノック穴内周面においても弾性部材により押圧力の規制が可能であるため、構成部材を陥没させることを防止できる。また、ノックピンをノック穴の基準面に押圧する構造のため、従来のはめあい公差を有するノックピンとノック穴と比較して、組み付けが容易となる。さらに、ノック穴において位置決めのために寸法精度が要求されるのはノック穴の基準面のみで、ノック穴全体の寸法精度は要求されないため、ノック穴の加工を容易にできる。以上の構成はノック穴を有する部材側のみで完結するため、ノックピンを有する部材側の構成を変更することなく既存製品に水平展開できる。
【0018】
本発明の第2の課題解決手段によれば、ノックピンは弾性部材により押圧され、ノック穴の2つの基準面に当接される。これにより、ノックピンをより適切な位置に案内することができ、位置決め精度を向上することができる。
【0019】
本発明の第3の課題解決手段によれば、ノックピンは1つの弾性部材により押圧され、ノック穴の2つの基準面に当接される。これにより、ノックピンをより適切な位置に案内することができ、位置決め精度を向上することができると共に、弾性部材を1つにすることで構成を容易にし、部品点数及びコストの削減を可能とする。
【0020】
本発明の第4の課題解決手段によれば、2組のノックピン(第1ノックピン及び第2ノックピン)及びノック穴(第1ノック穴及び第2ノック穴)を用いて第1部材と第2部材との位置決めをする。第1ノック穴の弾性部材により押圧し、第1ノック穴の2つの基準面(第1基準面及び第2基準面)に当接させることにより、第1ノックピンを適切な位置に案内すると共に、第1ノックピンを中心に、第2ノック穴の弾性部材により押圧し、第2ノック穴の第3基準面に当接させることにより、第2ノックピンを適切な位置に案内することができ、位置決め精度をより向上することができる。
【0021】
本発明の第5の課題解決手段によれば、1つの回転軸と、1組のノックピン(第3ノックピン)及びノック穴(第3ノック穴)と、を用いて第1部材と第2部材との位置決めをする。回転軸を中心に、第3ノック穴の弾性部材により押圧し、第3ノック穴の基準面に当接させることにより、第3ノックピンを適切な位置に案内することができ、位置決め精度をより向上することができる。
【0022】
本発明の第6の課題解決手段によれば、第1部材と第2部材の一方をタイミングチェーンカバーに、他方をシリンダブロックにすることで、タイミングチェーンカバーとシリンダブロックの位置決め精度および組み付け性を向上することができる。
【0023】
本発明の第7の課題解決手段によれば、タイミングチェーンカバーを合成樹脂で構成することでタイミングチェーンカバーの軽量化を図れる。また本発明を用いることで、成形精度の緩和が可能となり、タイミングチェーンカバーの合成樹脂化を容易にすることができる。
【0024】
本発明の第8の課題解決手段によれば、第2部材のノック穴に嵌入される第1部材のノックピンは、第2部材のノック穴に備えられた弾性部材により押圧され、位置決めのための寸法精度を保持したノック穴の基準面へ案内され、当接する。これにより、第1部材と第2部材との相対的な位置決めがなされる。
【0025】
ノックピンは弾性部材の押圧によりノック穴の基準面に常に当接するため、位置決めを繰り返すごとのずれの発生を抑制することができ、位置決め精度を向上することができる。ここで、第1部材と第2部材の合わせ面には押圧力は作用せず、ノック穴内周面においても弾性部材により押圧力の規制が可能であるため、構成部材を陥没させることを防止できる。また、ノックピンをノック穴の基準面に押圧する構造のため、従来のはめあいの公差を有するノックピンとノック穴と比較して、組み付けが容易となる。さらに、ノック穴において位置決めのために寸法精度が要求されるのはノック穴の基準面のみで、ノック穴全体の寸法精度は要求されないため、ノック穴の加工を容易にできる。以上の構成はノック穴を有する部材側のみで完結するため、ノックピンを有する部材側の構成を変更することなく既存製品に水平展開できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンのカバー部材が適用されるエンジンの斜視図
【図2】図1に示したエンジンのタイミングチェーンカバー及びシリンダヘッドカバーを外した状態の側面図
【図3】図1に示したエンジンのカムシャフト駆動機構の正面図
【図4】は本発明の第1実施例に係るエンジンのカバー部材の概念図
【図5】(a)及び(b)は本発明の実施例に係るエンジンのカバー部材の位置決め構造の部分拡大図、(c)及び(d)は各々A−A線断面図、BーB線断面図
【図6】本発明の第1実施例変形例に係るエンジンのカバー部材の概念図
【図7】本発明の第1実施例変形例に係る位置決め構造の部分拡大図
【図8】本発明の第2実施例に係る位置決め構造の部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施例)
図1は、本発明に係るエンジン1の斜視図である。エンジン1は、シリンダシリンダヘッドカバー2と、シリンダヘッド3と、シリンダブロック4と、クランクケース5と、オイルパン6と、クランクシャフト挿通部76を備えた樹脂製のタイミングチェーンカバー40と、から構成される。エンジン1は、シリンダブロック4の下面にクランクケース5、上面にシリンダヘッド3を締結し、タイミングチェーンカバー40をシリンダヘッド3、シリンダブロック4及びクランクケース6の前面に締結すると共に、その上部にシリンダヘッドカバー2、下部にオイルパン6が締結されて構成される。
【0028】
図2は、図1に示したエンジン1のタイミングチェーンカバー40およびシリンダヘッドカバー2を外した状態の側面図である。クランクシャフト20(回転軸)は、回転自在にシリンダブロック4とクランクケース5との間に組み込まれる。クランクシャフト20には、クランクスプロケット21が一体に回転するように連結される。タイミングチェーンカバー40のクランクシャフト挿通部76(図1)を貫通したクランクシャフト20の端部には、クランクプーリ22が一体に回転するように連結される。またシリンダヘッド3には、吸気用カムシャフト7と排気用カムシャフト8が回転可能に配置される。吸気用カムシャフト7の一端側には、吸気用カムスプロケット9が一体に回転するように連結され、排気用カムシャフト8の一端側には、排気用カムスプロケット10が一体に回転するように連結されている。なお、吸気用カムスプロケット9及び排気用カムスプロケット10には、スプロケットの代わりに弁開閉時期制御装置を備えても良い。
【0029】
図3は、図2に示したエンジン1のカムシャフト駆動機構14の正面図である。クランクスプロケット21、吸気用カムスプロケット9、排気用カムスプロケット10に巻き掛けられたタイミングチェーン11によりクランクシャフト20の回転運動が、吸気用カムシャフト7、排気用カムシャフト8に伝達される。またカムシャフト駆動機構14は、タイミングチェーン11の張力を調整するためのチェーンテンショナ機構12と、タイミングチェーン11を支持するチェーンガイド13を備える。またカバー部材であるタイミングチェーンカバー40は、図2で示すようにカムシャフト駆動機構14を内包するように、シリンダヘッド3、シリンダブロック4及びクランクケース5に締結される。
【0030】
図4は、本発明の第1実施例のタイミングチェーンカバー40の説明図である。タイミングチェーンカバー40は、ノック穴41、42と、クランクシャフト20を回転可能にシールする図示しないオイルシールを圧入嵌合するクランクシャフト挿通部76と、を備える。
【0031】
図5は、本発明の第1実施例の説明図であり、タイミングチェーンカバー40において、(a)はノック穴41の部分拡大図、(b)はノック穴42の部分拡大図、(c)はノック穴41のA−A断面図、(d)はノック穴42のB−B断面図である。シリンダブロック4に圧入嵌合されたノックピン31、32を、各々ノック穴41、42に嵌入してシリンダブロック4とタイミングチェーンカバー20の相対位置決めがされる。ノック穴41は、ノックピン31と当接する2つの基準面50、51を有し、ノックピン31を基準面50、51にそれぞれ押圧する板ばね45、46をノックピン31に対するすき間56、57に備える。ノック穴42の基準面52は、ノックピン32と当接する面であり、かつノックピン31を回動中心とした回動軌跡74の径方向と平行な面のうちの1つの面である。また、ノック穴42には、ノックピン32を基準面52に押圧する板ばね47をすき間58に備える。またノックピン31、32は、各々、面取り部33、34を有し、板ばね45、46、47はノック穴41、42の開口部に向かうに従いノックピン31、32の径外方向に広がる拡幅形状を呈し、ノックピン31、32とノック穴41、42との嵌合を容易にしている。
【0032】
基準面50、51、52の内、少なくとも一面が、シリンダブロック4とシリンダヘッド3との合わせ面に平行かつ近傍に設定することで、合わせ面とタイミングチェーンカバー40との相対位置決め制度が向上する。さらにタイミングチェーンカバー40に設定する図示しないガスケット溝に図示しないガスケットを嵌合して、シリンダブロック4、シリンダヘッド3及びクランクケース5の前面とタイミングチェーンカバー40との間をシールする際、基準面50、51、52の内、少なくとも一面の延長線上にガスケット溝を設けた場合、合わせ面とガスケットとの相対位置決め精度も向上する。
【0033】
本発明の第1実施例の組付け動作について、図5に基づき説明する。タイミングチェーンカバー40を組み付ける際には、まずシリンダブロック4に設けられたノックピン31、32と、タイミングチェーンカバー40に設けられたノック穴41、42とを各々嵌合する。ノックピン31は、ノック穴41に嵌合されると2つの板ばね45、46によって、基準面50、51に押圧され当接する。
【0034】
それとともにノックピン32は、ノック穴42に嵌合すると板ばね47によって、ノックピン31を回動中心とした回動軌跡の径方向74に沿って基準面52に押圧され当接する。この状態でシリンダブロック4とタイミングチェーンカバー40とは、ノックピン31、32とノック穴41、42とで位置決めされ、図示しないボルトにより締結する。
【0035】
本発明の第1の実施例では、ノック穴41では、板ばね45、46がノックピン31を基準面50、51に押圧し、ノック穴42では、板ばね47がノックピン32を基準面52に押圧することで、シリンダブロック4とタイミングチェーンカバー40との組み付け精度を維持できる。よってノック穴41、42は、位置決めのために基準面50、51、52の寸法精度が要求されるのみであり、ノック穴41、42のノックピン31、32とのはめあいに関わる寸法公差を緩和することができる。これにより、従来のはめあいに関する寸法公差が確保し難い樹脂成型品での対応が容易となる。
【0036】
板ばね45、46、47の押圧力は、規制が可能であるため、ノック穴41、42の内周面を陥没させることを防止できる。本実施例における押圧構造(板ばね45、46、47及び基準面50、51、52)は、ノック穴41、42を設けたタイミングチェーンカバー40のみで構成されるため、ノックピン31、32を設けたシリンダブロック4の構造を変更することなく容易に従来製品に展開できる。
【0037】
また上記タイミングチェーンカバー40は樹脂製以外の材料(アルミ、鉄、マグネシウム、チタン、セラミック、カーボンなど)でも構成できる。また板ばね45、46、47はコイルばねやゴム等の他の弾性部材であっても良い。本実施例では異なった2面の基準面50、51が直角に交わっているが、ノックピンを2面に押圧できる劣角(180°未満)であれば良い。
【0038】
図6は本発明の第1実施例に係る変形例のタイミングチェーンカバー40aの説明図である。第1実施例と同一の部品、同一の構成については、同一の符号を用いて説明する。タイミングチェーンカバー40aは、ノック穴42、43、クランクシャフト20を回転可能にシールする図示しないオイルシールを圧入嵌合するクランクシャフト挿通部76を備える。
【0039】
図7は本発明の第1実施例に係る変形例の説明図であり、タイミングチェーンカバー40aのノックピン31とノック穴43との部分拡大図である。第1実施例との違いは、1つの板ばね48によって、ノックピン31を基準面53、54へ押圧するよう板ばね48をすき間59に備えることである。またノックピン31は面取り部33を有し、板ばね48はノック穴43の開口部に向かうに従いノックピン31の径外方向に広がる拡幅形状を呈し、ノックピン31とノック穴43との嵌合を容易にしている。
【0040】
本発明の第1実施例の変形例の組付け動作について、図7に基づき説明する。タイミングチェーンカバー40aを組み付ける際には、まずシリンダブロック4に設けられたノックピン31、32と、タイミングチェーンカバー40aに設けられたノック穴41、43とを嵌合する。ノックピン31は、1つの板ばね48によって、基準面53、54に押圧され当接する。それとともにノックピン32は、ノック穴42に嵌合すると板ばね47によって、ノックピン31を回動中心とした回動軌跡の径方向74に沿って基準面52に押圧され当接する。この状態でシリンダブロック4とタイミングチェーンカバー40aとは、ノックピン31、32とノック穴41、43とで位置決めされ、図示しないボルトにより締結する。ここで板ばね48はその押圧力が基準面53、54に均等に作用するよう基準面53、54の中間方向(45°)に配置することが望ましい。
【0041】
本実施例では異なった2面の基準面53、54が直角に交わっているが、劣角(180°未満)であれば良い。さらに図7の実施例では、基準面53、54の中間方向(45°)からノックピン31を押圧するとあるが、角度は鋭角であれば良い。
【0042】
(第2実施例)
図8は、本発明の第2実施例の説明図であり、樹脂製のタイミングチェーンカバー40bのクランクシャフト挿通部76とノック穴44との部分拡大図である。第1実施例と同一の部品、同一の構成については、同一の符号を用いて説明する。カバー部材であるタイミングチェーンカバー40bは、クランクシャフト挿通部76とノック穴44とを有し、シリンダブロック4を貫通したクランクシャフト20と、シリンダブロック4に圧入嵌合されたノックピン32とを用いて位置決めされる。ノック穴44の基準面55は、ノックピン32と当接する面であり、かつクランクシャフト20を回動中心とした回動軌跡の径方向75の径方向と平行な面のうちの1つの面である。ノック穴44には、ノックピン32を基準面55に押圧する板ばね49をすき間60に備える。またノックピン32は、面取り部34を有し、板ばね49はノック穴44の開口部に向かうに従いノックピン32の径外方向に広がる拡幅形状を呈し、ノックピン32とノック穴44の嵌合を容易にしている。
【0043】
本発明の第2実施例の組付け動作について、図8に基づき説明する。シリンダブロック4にタイミングチェーンカバー40bを組み付ける際には、まずタイミングチェーンカバー40bに設けられたクランクシャフト挿通部76をクランクシャフト20を位置基準としてに嵌合して位置決めする。
【0044】
次にクランクシャフト20を回動中心としてタイミングチェーンカバー40bを回動し、シリンダブロック4に設けられたノックピン32と、タイミングチェーンカバー40bに設けられたノック穴44とを嵌合する。ノックピン32は、ノック穴44に嵌合すると板ばね49によって、クランクシャフト20を回動中心とした回動軌跡の径方向75に沿って基準面55に押圧され当接する。この状態でシリンダブロック4とタイミングチェーンカバー40bとは、クランクシャフト20を位置基準としてクランクシャフト20とクランクシャフト挿通部76、ノックピン32とノック穴44とで位置決めされ、図示しないボルトにより締結する。
【0045】
なお、クランクシャフト20とクランクシャフト挿通部76との位置決めには、治具等の位置決め手段を用いて定めると良い。
【0046】
本発明の第2実施例では、ノック穴44では、板ばね49がノックピン32を基準面55に押圧することで、シリンダブロック4とタイミングチェーンカバー40bとの組み付け精度を維持できる。よってノック穴44は、位置決めのために基準面55の寸法精度が要求されるのみであり、ノック穴44のノックピン32とのはめあいに関わる寸法公差を緩和することができる。これにより、従来のはめあいに関する寸法公差が確保し難い樹脂成型品での対応が容易となる。
【0047】
板ばね49の押圧力は、規制が可能であるため、ノック穴44の内周面を陥没させることを防止できる。本実施例における押圧構造(板ばね49、基準面55)は、ノック穴44を設けたタイミングチェーンカバー40bのみで構成されるため、ノックピン32を設けたシリンダブロック4の構造を変更することなく容易に従来製品に展開できる。
【0048】
上記実施形態の他、シリンダヘッドとシリンダブロック、シリンダブロックとクランクケース、シリンダブロックとベアリングキャップとの締結、及びトランスミッションやデファレンシャルのケース部材といった製品にも展開できる。
【0049】
上記実施例では板ばねを用いているが、コイルばね、ゴム等などの他の弾性部材でも良い。
【0050】
上記実施例では板ばね45〜49は各々設置されるノック穴に、板ばね45〜49の有する弾性力で固定されているが、ノック穴が穿設される部材にインサート成型や接着剤を用いて固定しても良い。
【0051】
本願請求項及び本明細書に記載の「第1ノックピン(回転軸、クランクシャフト)を回動中心とした回動軌跡の径方向と平行な面のうちの1つの面」のうちの「平行な面のうちの1つの面」とは、「寸法誤差により平行な面ではないが、ほぼ平行な面のうちの1つの面」は含まれるものである。更に言及すれば、「平行な面のうちの1つの面」とは、第1ノックピン(回転軸、クランクシャフト)を回動中心として、第2ノックピン(第3ノックピン)が適切な位置に案内できる程度(例えば、プラスマイナス5°程度)の面も包含する。
【符号の説明】
【0052】
1・・・エンジン
2・・・シリンダヘッドカバー
3・・・シリンダヘッド
4・・・シリンダブロック(第1部材)
5・・・クランクケース
6・・・オイルパン
20・・・クランクシャフト(回転軸)
31・・・ノックピン(第1ノックピン)
32・・・ノックピン(第2ノックピン、第3ノックピン)
40、40a、40b・・・タイミングチェーンカバー(第2部材)
41、43・・・ノック穴(第1ノック穴)
42・・・ノック穴(第2ノック穴)
44・・・ノック穴(第3ノック穴)
45〜49・・・板ばね(弾性部材)
50、53・・・基準面(第1基準面)
51、54・・・基準面(第2基準面)
52、55・・・基準面(第3基準面)
74、75・・・回動軌跡
76・・・クランクシャフト挿通部(挿通部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、
第2部材と、
前記第1部材に備えられるノックピンと、
前記第2部材に備えられ、前記ノックピンが当接する基準面を有するノック穴と、
前記ノック穴に設けられ、前記ノックピンを前記基準面に押圧する弾性部材と、を備え、
前記第1部材と前記第2部材とは、前記ノック穴に前記ノックピンが嵌入して構成される車両用部材の位置決め構造。
【請求項2】
前記基準面は、第1基準面及び第2基準面で構成され、
前記ノックピンは、前記弾性部材により前記第1基準面及び前記第2基準面に押圧される請求項1に記載の車両用部材の位置決め構造。
【請求項3】
前記ノックピンは、1つの前記弾性部材により前記第1基準面及び前記第2基準面に押圧される請求項2に記載の車両用部材の位置決め構造。
【請求項4】
前記ノックピンは、第1ノックピン及び第2ノックピンで構成され、
前記ノック穴は、前記第1ノックピンが嵌入する第1ノック穴及び前記第2ノックピンが嵌入する第2ノック穴で構成され、
前記第1ノック穴は、前記第1基準面及び前記第2基準面を有し、
前記第2ノック穴は、前記基準面を構成する第3基準面を有し、
前記第2ノック穴の前記第3基準面は、前記第2ノックピンと当接する面であり、かつ前記第1ノック穴に嵌入する前記第1ノックピンを回動中心とした回動軌跡の径方向と平行な面のうちの1つの面である請求項2又は3に記載の車両用部材の位置決め構造。
【請求項5】
前記ノックピンは、第3ノックピン及び前記ノック穴を有する前記第2部材を挿通する前記ノックピンとは異なる回転軸で構成され、
前記ノック穴は、前記第3ノックピンが嵌入する第3ノック穴及び前記回転軸が挿通する挿通部で構成され、
前記第3ノック穴の前記基準面は、前記第3ノックピンと当接する面であり、かつ前記挿通部に挿通する前記回転軸を回動中心とした回動軌跡の径方向と平行な面のうちの1つの面である請求項1〜3の何れかに記載の車両用部材の位置決め構造。
【請求項6】
前記第1部材と前記第2部材とは、一方がタイミングチェーンカバーで、他方がシリンダブロックである請求項1〜5の何れかに記載の車両用部材の位置決め構造。
【請求項7】
前記タイミングチェーンカバーは、全て又は一部が合成樹脂の成型体である請求項6に記載の車両用部材の位置決め構造。
【請求項8】
第1部材と、
第2部材と、
前記第1部材に備えられるノックピンと、
前記第2部材に備えられ、前記ノックピンが当接する基準面を有するノック穴と、
前記ノック穴に設けられ、前記ノックピンを前記基準面に押圧する弾性部材と、を備え、
前記ノックピンが、前記弾性部材により前記基準面へ案内されることにより、前記第1部材と前記第2部材との位置が定まる車両用部材の位置決め構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−202743(P2011−202743A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70947(P2010−70947)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】