説明

車両用開閉体のロック装置

【課題】使用者が手動により開閉体を開放状態に切り替える際の操作感を向上させることが可能な車両用開閉体のロック装置を提供する。
【解決手段】ロック装置1は、進入口91が形成された取付部材90と、取付部材90に設けられ、進入口91内でストライカ99と係合することにより開閉体9を閉止状態にするとともに、進入口91内でストライカ99と係合しなくなることにより開閉体9を開放状態にする係合手段10と、係合手段10を操作して開閉体9を開放状態に切り替える切替動作を行う切替手段50とを備える。切替手段50は、駆動手段80と、取付部材90に揺動可能に設けられ、駆動手段80に駆動されて当接部51bが係合手段10に当接して切替動作を行う自動切替レバー51と、駆動手段80の不作動時に自動切替レバー51とは独立して手動によって揺動し、当接部61bが係合手段10に当接して切替動作を行う手動切替レバー61とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用開閉体のロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の車両用開閉体のロック装置が開示されている。このロック装置は、取付部材と、係合手段と、切替手段とを備えている。
【0003】
取付部材には、ストライカが進入する進入口が形成されている。
【0004】
係合手段は、取付部材に設けられ、進入口内でストライカと係合することにより開閉体を閉止状態にするとともに、進入口内でストライカと係合しなくなることにより開閉体を開放状態にするものである。
【0005】
切替手段は、係合手段を操作して、開閉体を開放状態に切り替える切替動作を行うものである。切替手段は、電力によって駆動力を生じる駆動手段と、取付部材に揺動可能に設けられ、駆動手段に駆動されて一端が係合手段に当接して切替動作を行う自動切替レバーとを備えている。自動切替レバーは、車両の内側に露出するように突設された手動操作部を有している。
【0006】
このような構成である従来のロック装置では、使用者が開閉ハンドルを開操作する等して開閉体を開こうとする場合、車両に搭載された制御部等がそれを検知して、自動により切替手段に切替動作を行わせることができる。この場合、自動切替レバーが駆動手段に駆動されて揺動し、自動切替レバーの一端が係合手段に当接する。そして、自動切替レバーが係合手段を進入口内でストライカと係合しなくなる状態に変位させることにより、開閉体を開放状態とする。
【0007】
また、このロック装置では、バッテリーあがり等により駆動手段が作動不能となった場合や、使用者が開閉体を車両の内側から開こうとする場合、使用者が自動切替レバーの手動操作部を掴んで手動操作することができる。この場合、自動切替レバーが手動により揺動し、自動の場合と同様に、係合手段を進入口内でストライカと係合しなくなる状態に変位させることにより、開閉体を開放状態とする。
【0008】
こうして、このロック装置では、自動又は手動により開閉体を開放状態に切り替えることが可能となっている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−68722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記従来のロック装置では、使用者が手動により開閉体を開放状態に切り替える際、駆動手段の抵抗力に抗しながら自動切替レバーを揺動させなければならず、使用者に操作感が重いという好ましくない印象を与えてしまう。このため、従来のロック装置には、操作感を向上させることが求められている。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、使用者が手動により開閉体を開放状態に切り替える際の操作感を向上させることが可能な車両用開閉体のロック装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の車両用開閉体のロック装置は、ストライカが進入する進入口が形成された取付部材と、
前記取付部材に設けられ、前記進入口内で前記ストライカと係合することにより開閉体を閉止状態にするとともに、前記進入口内で前記ストライカと係合しなくなることにより前記開閉体を開放状態にする係合手段と、
前記係合手段を操作して、前記開閉体を開放状態に切り替える切替動作を行う切替手段とを備える車両用開閉体のロック装置であって、
前記切替手段は、電力によって駆動力を生じる駆動手段と、
前記取付部材に揺動可能に設けられ、前記駆動手段に駆動されて一端が前記係合手段に当接して前記切替動作を行う自動切替レバーと、
前記駆動手段の不作動時に前記自動切替レバーとは独立して手動によって揺動し、一端が前記係合手段に当接して前記切替動作を行う手動切替レバーとを備えていることを特徴とする。
【0013】
このような構成である本発明の車両用開閉体のロック装置では、使用者が開閉ハンドルを開操作する等して開閉体を開こうとする場合、車両に搭載された制御部等がそれを検知して、自動により切替手段に切替動作を行わせることができる。この場合、自動切替レバーが駆動手段に駆動されて揺動し、自動切替レバーの一端が係合手段に当接する。そして、自動切替レバーが係合手段を進入口内でストライカと係合しなくなる状態に変位させることにより、開閉体を開放状態とする。
【0014】
一方、このロック装置では、バッテリーあがり等により駆動手段が作動不能となった場合や、使用者が開閉体を車両の内側から開こうとする場合、すなわち、駆動手段の不作動時に、使用者が手動切替レバーを手動操作することができる。この場合、手動切替レバーは、自動切替レバーとは独立して手動により揺動し、手動切替レバーの一端が係合手段に当接する。そして、手動切替レバーが係合手段を進入口内でストライカと係合しなくなる状態に変位させることにより、開閉体を開放状態とする。
【0015】
こうして、このロック装置では、自動又は手動により開閉体を開放状態に切り替えることができる。
【0016】
さらに、このロック装置では、手動切替レバーを手動により揺動させる際、手動切替レバーが自動切替レバーとは独立していることから、駆動手段の抵抗力に抗する必要がなく、使用者に操作感が軽いという好ましい印象を与えることができる。
【0017】
したがって、本発明のロック装置は、使用者が手動により開閉体を開放状態に切り替える際の操作感を向上させることができる。その結果として、車両に搭載された本発明のロック装置は、簡素な構成でありながら、車両の品質に対する使用者の評価を維持又は向上させることができる。
【0018】
係合手段としては、本発明の作用効果を奏することが可能なものであれば、どのようなものを採用してもかまわない。例えば、係合手段は、取付部材に揺動可能に設けられ、ストライカを係止及び解除可能なフォークと、取付部材に揺動可能に設けられ、フォークを固定又は開放可能なポールとを有し得る。
【0019】
ストライカ及びロック装置の配置構成としては、ストライカが車両本体に設けられ、ロック装置が開閉体に設けられる構成であってもよいし、その逆でもよい。
【0020】
本発明の車両用開閉体のロック装置において、駆動手段は、モータとギヤ機構とリターンスプリングとにより、自動切替レバーを往復動作させるものであって、往復動作の往路はモータにより駆動し、往復動作の復路はリターンスプリングにより復帰させる構成であり得る。
【0021】
本発明のロック装置がこのような具体的構成である場合、仮に手動により自動切替レバーを揺動させようとすると、モータ及びギヤ機構の抵抗力だけでなく、圧縮されるリターンスプリングの復元力にも抗しなければならない。このため、この場合には、本発明の効果を確実に享受できる。
【0022】
本発明の車両用開閉体のロック装置において、自動切替レバー又は取付部材と、手動切替レバーとの間には、手動により手動切替レバーが揺動する場合以外は、切替動作が起こらないように手動切替レバーを拘束する拘束手段が設けられていることが好ましい。
【0023】
この場合、このロック装置は、駆動手段の作動時に手動切替レバーが単独で揺動して、自動切替レバーによる切替動作を妨げることを確実に防止できる。このため、このロック装置は、本発明の作用効果を確実に奏することができる。
【0024】
上記拘束手段を設ける場合、手動切替レバーは、自動切替レバーと同軸回りで揺動可能に設けられ得る。そして、拘束手段は、自動切替レバーと手動切替レバーとの間に設けられ、自動切替レバーと手動切替レバーとを弾性力によって一体的に揺動させるものであり得る。
【0025】
このような具体的構成である本発明のロック装置では、駆動手段の作動時に、拘束手段が自動切替レバーと手動切替レバーとの相対位置を弾性力によって位置決めし、手動切替レバーを自動切替レバーと一体的に揺動させることができる。一方、このロック装置では、駆動手段の不作動時に、手動により拘束手段の弾性力に抗して手動切替レバーを揺動させることができ、これによって両者の位置決めを解除して、手動切替レバーを単独で揺動可能とすることができる。このため、このロック装置は、本発明の作用効果をより確実に奏することができる。
【0026】
なお、「自動切替レバーと手動切替レバーとを一体的に揺動させる」とは、「ガタなく一体に揺動させる」場合のほか、「有る程度の相対的変位を許容しつつ一体的に揺動させる」場合も含む。
【0027】
上記の場合において、拘束手段は、自動切替レバー及び手動切替レバーの一方に設けられた凹部と、自動切替レバー及び手動切替レバーの他方に一体に形成され、凹部に嵌り合う方向に突設されているとともに、凹部から離れる方向に弾性変形により変位可能な凸部とにより構成され得る。
【0028】
このような具体的構成である本発明のロック装置であれば、拘束手段を容易に組み込むことができ、製造コストの上昇を抑制できる。
【0029】
本発明の車両用開閉体のロック装置は、手動切替レバーが自動切替レバーとは独立して手動によって揺動した後、駆動手段に駆動されて自動切替レバーが揺動することにより、拘束手段が再び手動切替レバーを弾性力によって拘束するものであり得る。
【0030】
この場合、手動切替レバーと自動切替レバーとが再び一体に揺動するように、使用者が手動切替レバーを操作する必要がなくなるので、利便性が向上する。このような作用効果は、拘束手段が上述の凹部に凸部が嵌り込む構成であれば、容易に実現できる。
【0031】
また、上記拘束手段を設ける場合、拘束手段は、取付部材と手動切替レバーとの間に設けられ、手動切替レバーの一端が係合手段に当接しない方向に変位するように、手動切替レバーを弾性力によって付勢するものであり得る。
【0032】
このような具体的構成である本発明のロック装置では、駆動手段の作動時に、拘束手段が手動切替レバーを付勢して切替動作が起こらないようにしているので、自動切替レバーのみが揺動して、確実に切替動作を行わせることができる。一方、このロック装置では、駆動手段の不作動時に、拘束手段の弾性力に抗しつつ手動により手動切替レバーを揺動させることができる。この際、拘束手段の弾性力は、単に手動切替レバーの一端を係合手段に当接しない方向に変位させるのに十分な弱い力であるので、使用者が軽く操作できる。このため、このロック装置は、本発明の作用効果をより確実に奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。なお、図1に示すように、テールゲート9側を後側として前後方向、左右方向及び上下方向を規定している。すなわち、テールゲート9の反対側である車両前方を前側と規定している。また、車両前方を向いた状態における左側(図1における紙面奥側)を左側と規定し、車両前方を向いた状態における右側(図1における紙面手前側)を右側と規定している。そして、図2、図3及び図5〜図8に示す前後方向、左右方向及び上下方向は、全て図1の各方向に対応している。
【実施例1】
【0034】
図1に示すように、実施例1の車両用開閉体のロック装置1(以下、単に「ロック装置1」と呼ぶ。)は、自動車に適用されるものである。ロック装置1は、車両用開閉体の具体的態様であるテールゲート9の下方の車内側に配設されている。そして、ロック装置1は、後述する通り、車両本体8に配設されたストライカ99と係合したり、係合しなくなることにより、テールゲート9を閉止状態又は開放状態とするものである。以下、ロック装置1の各構成要素について詳しく説明する。
【0035】
ロック装置1は、図1及び図2に示すように、取付部材90と、係合手段10と、切替手段50とを備えている。
【0036】
取付部材90は、鋼板が折り曲げ加工されてなる取付部材本体93を有している。取付部材本体93には、上端側において左右方向に略水平に延在する一対の取付部93bと、下方に凹む係合手段収納室93aとが形成されている。取付部93bは、図1に示すように、テールゲート9の下側端面に締結固定されるためのものである。係合手段収納室93aには、図1及び図2に示すように、後述する係合手段10が収納されている。また、係合手段収納室93aには、図2に示すように、下端縁中央から斜め上方に向けて深く溝状に切り欠かれた進入口91が形成されている。進入口91には、テールゲート9の開閉に伴ってロック装置1が移動する際、ストライカ99が相対的に進入するようになっている。
【0037】
また、取付部材90は、図1に示すように、取付部材本体93の上面後端側に立設された第1ハウジング91及び第2ハウジング92を有している。
【0038】
第1ハウジング91及び第2ハウジング92は、図2及び図3に示すように、熱可塑性樹脂の射出成形により略箱形状に形成されたものである。そして、車内側(前方)に位置する第1ハウジング91とテールゲート9側(後方)に位置する第2ハウジング92とを対面させた状態で組み付けることにより、内部に切替手段収納室91aが形成されるようになっている。切替手段収納室91aには、後述する切替手段50が収納されている。
【0039】
係合手段10は、図2に示すように、係合手段収納室93aに収納されており、進入口91を左右から挟むように設けられたフォーク11及びポール12を有している。
【0040】
フォーク11は、進入口91の左側(図2に示すように、車両前方を向いた状態における左側。)に配設され、取付部材本体93の底部から係合手段収納室93a内に向けて立設された揺動軸14aに揺動可能に軸支されている。フォーク11の進入口91側に位置する部位は、上側凸部11aと下側凸部11bとに分岐している。そして、上側凸部11aと下側凸部11bとの間に形成された凹部11cには、進入口91内に進入したストライカ99が収まるようになっている。図2に示す状態が、フォーク11が進入口91内でストライカ99を係止した状態である。
【0041】
フォーク11の外周縁は、上側凸部11aの先端から時計方向に円弧状に形成されており、その途中に径外方向に拡径する段部11dが設けられている。なお、本実施例における「時計方向」及び「反時計方向」は、図2の断面図に対面した状態を基準としている。
【0042】
フォーク11には、図示しないコイルバネが付設されている。そして、フォーク11は、コイルバネにより、揺動軸14a回りで反時計方向に揺動するように付勢されている。
【0043】
ポール12は、進入口91の右側(図2に示すように、車両前方を向いた状態における右側。)に配設され、取付部材本体93の底部から係合手段収納室93a内に向けて立設された揺動軸14bに揺動可能に軸支されている。ポール12の進入口91側に位置する部位は、フォーク11の上側凸部11aに向けて突出するように形成され、その先端側がストッパ部12aとされている。ストッパ部12aは、フォーク11が進入口91内でストライカ99を係止した状態において、上側凸部11aに当接することにより、フォーク11を反時計方向に揺動させないように固定可能となっている。
【0044】
ポール12には、図示しないコイルバネが付設されている。そして、ポール12は、コイルバネにより、揺動軸14b回りで時計方向に揺動するように付勢されている。
【0045】
ポール12の揺動軸14bより上方に位置する部位は、ストッパ部12aと分岐しつつ、第1ハウジング91及び第2ハウジング92の下面に向けて突出するように形成され、その先端側が被当接部12bとされている。被当接部12bは、詳細は後述するが、自動切替レバー51の一端である当接部51b又は手動切替レバー61の一端である当接部61bが当接することにより、反時計方向に押されて変位するようになっている。そして、被当接部12bが反時計方向に変位すれば、ポール12は、コイルバネの付勢力に抗しつつ、揺動軸14b回りで反時計方向に揺動するようになっている。揺動後のポール12及びフォーク11の姿勢を図5及び図6に示す。この際、ストッパ部12aがフォーク11の上側凸部11aから離反するので、ポール12がフォーク11を開放する。その結果、フォーク11がコイルバネの付勢力により、揺動軸14a回りで反時計方向に揺動して、ストライカ99を進入口91から離脱する方向に変位させる。図5及び図6に示す状態が、フォーク11がストライカ99を解除した状態である。逆に、ストライカ99が進入口91内に進入する場合には、フォーク11及びポール12が上述の動作とは逆に動作して、フォーク11が進入口91内でストライカ99を係止した状態となる。こうして、係合手段10は、テールゲート9を閉止状態又は開放状態にすることが可能となっている。
【0046】
切替手段50は、図2及び図3に示すように、切替手段収納室91aに収納されており、自動切替レバー51と、駆動手段80と、手動切替レバー61とを備えている。
【0047】
自動切替レバー51は、熱可塑性樹脂の射出成形により、上方に扇型歯車82dが形成され、中央に軸穴51aが形成され、下方に当接部51bが形成された細長い板形状のものである。
【0048】
軸穴51aは、第2ハウジング92の内側から第1ハウジング91に向けて凸設された揺動軸92cに挿通されている。このため、自動切替レバー51は、揺動軸92c回りで揺動可能となっている。当接部51bは、第1ハウジング91及び第2ハウジング92の下面側に形成された開口91dよりも下方に突出し、被当接部12bの左側に延在している。
【0049】
扇型歯車82dの上方、すなわち、切替手段収納室91aの上方右側には、小径ギヤ82c及びウォームホイール82bが配設されている。前側に位置する小径ギヤ82cと後側に位置するウォームホイール82bとは同軸であり、熱可塑性樹脂の射出形成や金属材料の切削加工等により一体成型されている。小径ギヤ82c及びウォームホイール82bは、図3に示すように、第2ハウジング92の内側から第1ハウジング91に向けて凸設されたボス部92bと、第1ハウジング91の内側においてボス部92bに対面する部位に凹設された凹部91bとに両端が挿入固定された回転軸95によって、回転可能に軸支されている。
【0050】
図2及び図3に示すように、小径ギヤ82cは、扇型歯車82dと噛み合っている。一方、ウォームホイール82bは、下方に配設されたウォームギヤ82aと噛み合っている。ウォームギヤ82aは、切替手段収納室91aの上方左側に配設されたモータ81の回転軸に一体回転可能に固定されている。
【0051】
ウォームホイール82bの後面側には、図3に示すように、ウォームホイール82bと同軸の円環状凹部92dが凹設され、その内部に、リターンスプリング83が配設されている。図2に示すように、リターンスプリング83の一端は、第2ハウジング92からウォームホイール82bの後面側に向けて凸設されたハウジング側係止部83aに係止されている。他方、リターンスプリング83の他端は、ウォームホイール82bの後面側から第2ハウジング92に向けて凸設されたウォームホイール側係止部83bに係止されている。このため、ウォームホイール82bは、リターンスプリング83により時計方向に回転するように付勢されている。
【0052】
モータ81は、車両に搭載された図示しない制御部等に電気的に接続されている。そして、使用者が開閉ハンドル9aを開操作してテールゲート9を開こうとする場合、車両に搭載された制御部等がそれを検知して、モータ81に電力を供給して回転させる。そうすると、ウォームギヤ82aを介して、ウォームホイール82bが反時計方向に回転し、小径ギヤ82cもウォームホイール82bと一体に反時計方向に回転する。その結果、図5に示すように、小径ギヤ82cと噛み合う扇型歯車82dを介して、自動切替レバー51が時計方向に揺動する。その後、例えば、使用者が開閉ハンドル9aの開操作を終了したり、一定時間が経過したりするという復帰条件が成立したことを制御部等が検知すると、モータ81に電力が供給されなくなる。そして、リターンスプリング83の付勢力により、ウォームホイール82b及び小径ギヤ82cが時計方向に回転し、その結果として、扇型歯車82dを介して、自動切替レバー51が反時計方向に揺動して初期状態に復帰する。
【0053】
扇型歯車82dと、小径ギヤ82cと、ウォームホイール82bと、ウォームギヤ82aとを有してギヤ機構82が構成されている。また、モータ81と、ギヤ機構82と、リターンスプリング93とを有して駆動手段80が構成されている。駆動手段80は、上述の通り、モータ81とギヤ機構82とリターンスプリング83とにより、自動切替レバー51を往復動作させる構成となっている。そして、上述の通り、往復動作の往路はモータ81により駆動し、往復動作の復路はリターンスプリング83により復帰させる。
【0054】
手動切替レバー61は、図2及び図3に示すように、熱可塑性樹脂の射出成形により形成された細長い板形状のものである。手動切替レバー61は、上方に手動操作部61cが形成され、中央に軸穴61aが形成され、下方に当接部61bが形成されている。また、手動切替レバー61は、切替手段収納室91a内において、自動切替レバー51の前側に平行に配設されている。
【0055】
軸穴61aは、揺動軸92cに挿通されている。このため、手動切替レバー61は、自動切替レバー51と同軸である揺動軸92c回りで揺動可能となっている。当接部61bは、当接部51bと同様に開口91dよりも下方に突出し、被当接部12bの左側に延在している。
【0056】
手動切替レバー61は、図3に示すように、切替手段収納室91aの上下方向の中間で前方に屈曲し、第1ハウジング91に貫設された水平方向に細長い長穴91cを挿通して車内側に突出し、さらに上方に屈曲している。このクランク状に屈曲して車内側に露出する部位が手動操作部61cである。手動切替レバー61は、図2及び図6に示すように、使用者が手動操作部61cを掴んで左右方向に手動操作することにより、揺動軸92c回りで揺動するようになっている。
【0057】
図2及び図3に示すように、手動切替レバー61において、手動操作部61cと軸穴61aとの中間部には、丸穴が貫設されてなる凹部61dが形成されている。
【0058】
一方、図3及び図4に示すように、自動切替レバー51において、扇型歯車82dと軸穴51aとの中間部には、U字状溝51cが貫設されている。そして、U字状溝51cの内側には、扇型歯車82d側から軸穴51a側に向けて延在する片持ち梁部51eが形成されている。片持ち梁部51eの先端側の前面には、半球状の凸部51dが形成されている。U字状溝51c、片持ち梁部51e及び凸部51dは、熱可塑性樹脂を射出成形して自動切替レバー51を成形する際に、同時に一体成形されるものである。凸部51dは、片持ち梁部51eが弾性変形することにより、後方に変位可能となっている。
【0059】
凸部51dは、自動切替レバー51及び手動切替レバー61が図2に示す初期状態にあり、前後方向で見て重なっているとき、上述の凹部61dと対面しており、凹部61d内に嵌り込んで手動切替レバー61が揺動軸92c回りで揺動しないように拘束している。この場合において、図5に示すように、自動切替レバー51が揺動すれば、手動切替レバー61も一体的に揺動するようになっている。
【0060】
一方、使用者が手動操作部61cを操作して、手動切替レバー61を単独で揺動軸92c回りで揺動させると、凸部51dは、凹部61dと対面しなくなり、凹部61dの縁部に当接する。この際、片持ち梁部51eが弾性変形するので、凸部51dは、後方に変位して凹部61cから離脱する。その結果、図6に示すように、手動切替レバー61は、凹部61d及び凸部51dに拘束されなくなり、自動切替レバー51とは独立して揺動軸92c回りで揺動することができる。
【0061】
凹部61dと、片持ち梁部51eと、凸部51dとを有して拘束手段70が構成されている。拘束手段70は、上述の通り、自動切替レバー51と手動切替レバー61との間に設けられ、手動により手動切替レバー61が揺動する場合以外は、切替動作が起こらないように手動切替レバー61を拘束するように構成されている。
【0062】
このような構成である実施例1のロック装置1では、図1及び図2に示す初期状態において、使用者が開閉ハンドル9aを開操作してテールゲート9を開こうとする場合、車両に搭載された制御部等がそれを検知して、上述の通り、モータ81等を動作させる。そうすると、図5に示すように、自動切替レバー51がモータ81等に駆動されて揺動し、自動切替レバー51の一端である当接部51bがポール12の被当接部12bに当接して、ポール12を揺動軸14b回りで反時計方向に揺動させる。その結果、ポール12がフォーク11を固定しなくなり、フォーク11が揺動軸14a回りで反時計方向に揺動して、ストライカ99を進入口91から離脱する方向に変位させる。こうして、このロック装置1は、自動によりテールゲート9を開放状態とする。この際、手動切替レバー61は、拘束手段70により拘束されて、自動切替レバー51と一体的に揺動するので、自動切替レバー51の切替動作を妨げない。
【0063】
一方、このロック装置1では、バッテリーあがり等によりモータ81等が作動不能となった場合や、使用者がテールゲート9を車両の内側から開こうとする場合、すなわち、駆動手段80の不作動時に、使用者が手動切替レバー61の手動操作部61cを掴んで手動操作する。そうすると、図6に示すように、自動切替レバー51は、初期状態のまま変位しないので、手動切替レバー61が自動切替レバー51とは独立して手動により揺動する。この際、拘束手段70は、凸部51dが後方に変位して凹部61dから離脱するので、手動切替レバー61の揺動軸92c回りでの揺動を拘束しない。そして、手動切替レバー61の一端である当接部61bがポール12の被当接部12bに当接して、ポール12を揺動軸14b回りで反時計方向に揺動させる。その結果、上述の自動切替動作の場合と同様にして、フォーク11がストライカ99を進入口91から離脱する方向に変位させる。こうして、このロック装置1は、手動によりテールゲート9を開放状態とする。
【0064】
なお、開閉ハンドル9a又は手動操作部61cに対する開操作が不十分な場合には、ポール12が図5又は図6に示す状態まで揺動しないことがある。この場合、フォーク11が反時計方向に揺動しても、フォーク11の外周縁の段部11dにストッパ部12aが当接して、フォーク11を固定するようになっている。その結果、テールゲート9は閉止状態と開放状態の中間の状態(ハーフラッチ状態)となり、使用者が意図しないままテールゲート9が開放状態となってしまう不具合を防止可能となっている。
【0065】
ここで、実施例1のロック装置1では、手動切替レバー61を手動により揺動させる際、手動切替レバー61が自動切替レバー51とは独立していることから、モータ81、ギヤ機構82及びリターンスプリング83の抵抗力に抗する必要がなく、軽い力で手動切替レバー61を揺動させることができる。このため、このロック装置1は、使用者に操作感が軽いという好ましい印象を与えることが可能となっている。
【0066】
したがって、実施例1のロック装置1は、使用者が手動によりテールゲート9を開放状態に切り替える際の操作感を向上させることが可能となっている。その結果として、車両に搭載されたロック装置1は、簡素な構成でありながら、車両の品質に対する使用者の評価を維持又は向上させることが可能となっている。
【0067】
また、このロック装置1において、自動切替レバー51と手動切替レバー61との間には、手動により手動切替レバー61が揺動する場合以外は切替動作が起こらないようにするため、拘束手段70が設けられている。このため、このロック装置1は、駆動手段80の作動時に手動切替レバー61が単独で揺動して、自動切替レバー51による切替動作を妨げることを確実に防止できている。
【0068】
さらに、このロック装置1において、手動切替レバー61は、自動切替レバー51と同軸回りで揺動可能に設けられている。そして、拘束手段70は、自動切替レバー51と手動切替レバー61との間に設けられ、自動切替レバー51と手動切替レバー61とを弾性力によって凹部61dに凸部51dが係合することにより、一体的に揺動させるものである。このため、このロック装置1では、駆動手段80の作動時に、拘束手段70が自動切替レバー51と手動切替レバー61との相対位置を弾性力によって位置決めし、手動切替レバー61を自動切替レバー51と一体的に揺動させることができる。一方、このロック装置1では、駆動手段80の不作動時に、手動により拘束手段70を構成する片持ち梁部51eの弾性力に抗して手動切替レバー61を揺動させることができ、これによって両者の位置決めを解除して、手動切替レバー61を単独で揺動させることができる。このため、このロック装置1は、本発明の作用効果を確実に奏することができている。
【0069】
また、このロック装置1において、拘束手段70は、上述の凹部61d、片持ち梁部51e及び凸部51dを有して構成されており、自動切替レバー51及び手動切替レバー61の射出成形時に容易に一体成形することができる。このため、このロック装置1は、製造コストの上昇を抑制することが可能となっている。
【0070】
さらに、このロック装置1では、手動により手動切替レバー61を揺動させた後、次に自動切替レバー51が駆動手段80に駆動されて揺動すると、再び凹部61dに凸部51dが嵌り込んで係合する。その結果として、このロック装置1では、再び、手動切替レバー61を自動切替レバー51と一体的に揺動させることが可能となっており、使用者が手動切替レバー61を操作して、再び凹部61dに凸部51dを係合させる必要がなくなっている。
【実施例2】
【0071】
図7に示すように、実施例2のロック装置2は、実施例1のロック装置1における拘束手段70の代わりに、拘束手段270を採用している。その他の構成については実施例1のロック装置1と同様である。このため、実施例1のロック装置1と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0072】
手動切替レバー61には、手動操作部61cの付け根から反時計方向に円弧状に突出する突出部272が形成されている。突出部272の先端と、第1ハウジング91の右側壁面の下方との間には、コイルバネ271が配設されている。第1ハウジング91の右側壁面において、コイルバネ271より上方には、突出部272の先端に向けてストッパ273が凸設されている。コイルバネ271は、手動切替レバー61を揺動軸92c回りで反時計方向に揺動するように付勢しており、通常は、突出部272の先端がストッパ273に当て止まることにより、手動切替レバー61が図7に示す初期位置で保持されている。コイルバネ271の弾性力は、単に手動切替レバー61の一端を被当接部12bに当接しない方向に変位させるのに十分な弱い力とされている。この場合において自動切替レバー51が揺動しても、手動切替レバー61は、自動切替レバー51とは独立しているので、初期位置から変位しない。このため、手動切替レバー61は、自動切替レバー51の切替動作を妨げない。
【0073】
一方、使用者が手動操作部61cを操作して、手動切替レバー61を単独で揺動軸92c回りで揺動させると、図8に示すように、手動切替レバー61は、コイルバネ271の弱い弾性力に抗しつつ、自動切替レバー51とは独立して揺動軸92c回りで揺動することができる。
【0074】
コイルバネ271と、突出部272と、ストッパ273とを有して拘束手段270が構成されている。拘束手段270は、上述の通り、第1ハウジング91と手動切替レバー61との間に設けられ、手動切替レバー61の一端である当接部61bがポール12の被当接部12bに当接しない方向に変位するように、手動切替レバー61をコイルバネ271によって付勢するように構成されている。
【0075】
このような構成である実施例2のロック装置2も、実施例1のロック装置1と同様に作用するので、自動又は手動によりテールゲート9を開放状態に切り替えることが可能となっている。
【0076】
ここで、実施例2のロック装置2では、モータ81等の作動時に、コイルバネ271が手動切替レバー61を付勢して、切替動作が起こらないようにしているので、自動切替レバー51のみが揺動して、確実に切替動作を行わせることができる。一方、このロック装置2では、モータ81等の不作動時に、コイルバネ271の弾性力に抗しつつ、手動により手動切替レバー61を揺動させることができる。この際、手動切替レバー61を付勢するコイルバネ271の弾性力は、単に手動切替レバー61の一端を被当接部12bに当接しない方向に変位させるのに十分な弱い力とされているので、使用者が軽く操作できる。このため、このロック装置2も、実施例1のロック装置1と同様に、使用者が手動によりテールゲート9を開放状態に切り替える際の操作感を向上させることが可能となっている。
【0077】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は車両用開閉体のロック装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1の車両用開閉体のロック装置の側面図である。
【図2】実施例1の車両用開閉体のロック装置に係り、図1のII−II断面を示す断面図である。
【図3】実施例1の車両用開閉体のロック装置に係り、図2のIII−III断面を示す断面図である。
【図4】実施例1の車両用開閉体のロック装置に係り、自動切替レバーに設けられたU字状溝、片持ち梁部及び凸部を示す部分拡大斜視図である。
【図5】実施例1の車両用開閉体のロック装置に係り、駆動手段の作動時における自動切替レバー及び手動切替レバーの動作を示す説明図である。
【図6】実施例1の車両用開閉体のロック装置に係り、駆動手段の不作動時における手動切替レバーの動作を示す説明図である。
【図7】実施例2の車両用開閉体のロック装置に係り、図1のII−II断面を示す断面図である。
【図8】実施例2の車両用開閉体のロック装置に係り、駆動手段の不作動時における手動切替レバーの動作を示す説明図である。
【符号の説明】
【0080】
1…ロック装置
9…開閉体(テールゲート)
10…係合手段
50…切替手段
51…自動切替レバー
51a…自動切替レバーの一端(当接部)
61…手動切替レバー
61a…手動切替レバーの一端(当接部)
70、270…拘束手段
71…凹部
72…凸部
80…駆動手段
81…モータ
82…ギヤ機構
83…リターンスプリング
90…取付部材
91…進入口
99…ストライカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストライカが進入する進入口が形成された取付部材と、
前記取付部材に設けられ、前記進入口内で前記ストライカと係合することにより開閉体を閉止状態にするとともに、前記進入口内で前記ストライカと係合しなくなることにより前記開閉体を開放状態にする係合手段と、
前記係合手段を操作して、前記開閉体を開放状態に切り替える切替動作を行う切替手段とを備える車両用開閉体のロック装置であって、
前記切替手段は、電力によって駆動力を生じる駆動手段と、
前記取付部材に揺動可能に設けられ、前記駆動手段に駆動されて一端が前記係合手段に当接して前記切替動作を行う自動切替レバーと、
前記駆動手段の不作動時に前記自動切替レバーとは独立して手動によって揺動し、一端が前記係合手段に当接して前記切替動作を行う手動切替レバーとを備えていることを特徴とする車両用開閉体のロック装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、モータとギヤ機構とリターンスプリングとにより、前記自動切替レバーを往復動作させるものであって、前記往復動作の往路は前記モータにより駆動し、前記往復動作の復路は前記リターンスプリングにより復帰させる構成である請求項1記載の車両用開閉体のロック装置。
【請求項3】
前記自動切替レバー又は前記取付部材と、前記手動切替レバーとの間には、手動により前記手動切替レバーが揺動する場合以外は、前記切替動作が起こらないように前記手動切替レバーを拘束する拘束手段が設けられている請求項1又は2記載の車両用開閉体のロック装置。
【請求項4】
前記手動切替レバーは、前記自動切替レバーと同軸回りで揺動可能に設けられ、
前記拘束手段は、前記自動切替レバーと前記手動切替レバーとの間に設けられ、前記自動切替レバーと前記手動切替レバーとを弾性力によって一体的に揺動させるものである請求項3記載の車両用開閉体のロック装置。
【請求項5】
前記拘束手段は、前記自動切替レバー及び前記手動切替レバーの一方に設けられた凹部と、
前記自動切替レバー及び前記手動切替レバーの他方に一体に形成され、前記凹部に嵌り合う方向に突設されているとともに、前記凹部から離れる方向に弾性変形により変位可能な凸部とにより構成されている請求項4記載の車両用開閉体のロック装置。
【請求項6】
前記手動切替レバーが前記自動切替レバーとは独立して手動によって揺動した後、前記駆動手段に駆動されて前記自動切替レバーが揺動することにより、前記拘束手段が再び前記手動切替レバーを弾性力によって拘束する請求項4又は5記載の車両用開閉体のロック装置。
【請求項7】
前記拘束手段は、前記取付部材と前記手動切替レバーとの間に設けられ、前記手動切替レバーの一端が前記係合手段に当接しない方向に変位するように、前記手動切替レバーを弾性力によって付勢するものである請求項3記載の車両用開閉体のロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−74323(P2009−74323A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246343(P2007−246343)
【出願日】平成19年9月24日(2007.9.24)
【出願人】(591038587)株式会社アンセイ (48)
【Fターム(参考)】