説明

車両衝突判定装置

【課題】乗員保護性能の維持とコスト削減を両立可能な車両衝突判定装置を提供する。
【解決手段】車両に生じる音響帯域の高周波振動、及び前記音響帯域より低い帯域の低周波振動を検出する振動検出手段と、前記高周波振動及び低周波振動の検出結果に基づいて乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する衝突判定手段と、を備える車両衝突判定装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両衝突時に乗員を保護するためのシステムとして、SRS(Supplemental Restraint System)エアバッグシステムが知られている。このSRSエアバッグシステムとは、車両の各部に設置された加速度センサから取得した加速度データを基に、車両衝突の発生を検知してエアバッグ等の乗員保護装置を起動するものである。
【0003】
従来では、車両前部に設置された複数のフロントクラッシュセンサと、車両中央部に設置されたSRSユニット(SRSエアバッグシステムを統括制御するECU)内のユニットセンサとから得られる加速度データに基づいて、前面衝突(正面衝突、オフセット衝突、斜突を含む)が発生したか否かの判定を行い、その衝突判定結果に応じて乗員保護装置の起動制御を行う技術が知られている(下記特許文献1参照)。
【0004】
また、近年では、音響センサを用いて衝突時の車体変形に起因して発生する衝撃音を検出し、その検出結果を基に衝突判定を行うCISS(Crash Impact Sound Sensing)技術の開発が進んでいる。下記特許文献2には、バルク音波センサを用いて車両衝突時に車体要素(サイドメンバー)に発生するトランスバーサル方向のバルク音波の振れを検出し、その検出結果を基に衝突判定を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−287203号公報
【特許文献2】特表2001−519268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されているように、加速度センサを用いて前面衝突判定を行うためには、フロントクラッシュセンサとユニットセンサが必要である。これは、ユニットセンサだけでは、判別が困難な衝突モード(乗員保護装置の起動が必要な高速オフセット衝突と、乗員保護装置の起動が不要な低速オフセット衝突)が存在するからである。ユニットセンサは前面衝突時の車体変形が小さい車両中央部に設置されているため、衝突発生時点から両方の衝突モードを正確に判別できる程の大きな差がセンサ出力に現れるまで長い時間(約40ms以上)を要する。
【0007】
つまり、ユニットセンサだけを用いる場合、衝突発生時点から40ms後に衝突判定(具体的には閾値判定)が実施されるよう閾値設定を行う必要があり、必然的に乗員保護装置の起動タイミングが遅くなる。乗員保護の観点から、衝突発生時点から20〜30msの間に乗員保護装置を起動することが理想とされているため、ユニットセンサだけでは要求される乗員保護性能を満足できない。そこで、従来では、前面衝突時の車体変形が大きい車両前部にフロントクラッシュセンサを設けることで、迅速且つ正確な衝突判定を実現しているのである。
【0008】
フロントクラッシュセンサはシステムコストの上昇を招く要因となっているため、SRSユニットに内蔵されたユニットセンサのみで衝突判定を行うことが理想であるが、上記のようにユニットセンサだけでは要求される乗員保護性能を満足できない。そこで、ユニットセンサとして加速度センサの代わりに音響センサを用いることで、フロントクラッシュセンサを不要とするシステムの構築が試みられている。音響センサから得られる音響データは、車体が変形(損壊)する特徴を捉えやすい傾向があり、高速オフセット衝突と低速オフセット衝突との判別も容易で、迅速且つ正確な衝突判定の実現に有効である。
【0009】
しかしながら、音響センサから得られる音響データは、車体変形を伴わない飛石等による局所打撃音を多く含んでいるため、乗員保護装置の起動が必要な衝突による衝撃音と、乗員保護装置の起動が不要な局所打撃音とを正確に判別する必要がある。従って、要求される乗員保護性能の維持とコスト削減を両立するためには、衝突による衝撃音と飛石等による局所打撃音とを正確に判別する技術を開発することが課題であった。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、乗員保護性能の維持とコスト削減を両立可能な車両衝突判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、車両衝突判定装置に係る第1の解決手段として、車両に生じる音響帯域の高周波振動、及び前記音響帯域より低い帯域の低周波振動を検出する振動検出手段と、前記高周波振動及び低周波振動の検出結果に基づいて乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する衝突判定手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、車両衝突判定装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記振動検出手段は、前記音響帯域の高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動を検出する第1振動センサと、前記音響帯域より低い帯域の低周波振動として周波数帯域0Hz〜500Hzの振動を検出する第2振動センサとを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明では、車両衝突判定装置に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記第1振動センサ及び前記第2振動センサの両方を1つのセンサセルに内蔵することを特徴とする。
【0014】
また、本発明では、車両衝突判定装置に係る第4の解決手段として、車両に生じる広帯域振動を検出する振動検出手段と、前記振動検出手段によって検出された広帯域振動から音響帯域の高周波振動を抽出する第1抽出手段と、前記振動検出手段によって検出された広帯域振動から前記音響帯域より低い帯域の低周波振動を抽出する第2抽出手段と、前記高周波振動及び低周波振動の検出結果に基づいて乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する衝突判定手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明では、車両衝突判定装置に係る第5の解決手段として、上記第4の解決手段において、前記第1抽出手段は、前記広帯域振動から前記音響帯域の高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動を抽出し、前記第2抽出手段は、前記広帯域振動から前記音響帯域より低い帯域の低周波振動として周波数帯域0Hz〜500Hzの振動を抽出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明では、車両衝突判定装置に係る第6の解決手段として、上記第1〜第5のいずれか1つの解決手段において、前記衝突判定手段は、前記高周波振動の検出結果を基に第1演算値を算出する第1演算手段と、前記低周波振動の検出結果を基に第2演算値を算出する第2演算手段と、前記第1演算値を第1軸、前記第2演算値を第2軸とする2次元マップ上において、前記第1演算手段及び前記第2演算手段によって算出された前記第1演算値及び前記第2演算値が2次元的に設定された2次元衝突判定閾値を越えた場合に、前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したと判定するマップ判定手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明では、車両衝突判定装置に係る第7の解決手段として、上記第1〜第5のいずれか1つの解決手段において、前記衝突判定手段は、前記高周波振動の検出結果を基に第1演算値を算出する第1演算手段と、前記低周波振動の検出結果を基に第2演算値を算出する第2演算手段と、前記第1演算値が第1衝突判定閾値を越え、且つ前記第2演算値が第2衝突判定閾値を越えた場合に、前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したと判定する閾値判定手段とを備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明では、車両衝突判定装置に係る第8の解決手段として、上記第1〜第7のいずれか1つの解決手段において、前記低周波振動の検出結果を基にセーフィング判定を行うセーフィング判定手段と、前記衝突判定手段の衝突判定結果及び前記セーフィング判定手段のセーフィング判定結果に基づいて、最終的に前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する最終判定手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来のようにフロントクラッシュセンサを用いることなく、乗員保護装置の起動を必要とする衝突(高速オフセット衝突を含む、車体変形を伴う激しい衝突)と、乗員保護装置の起動が不要な衝突(低速オフセット衝突を含む、車体変形が軽微な穏やかな衝突、及び飛石等による局所打撃)とを迅速且つ正確に判別できる。つまり、本発明によると、従来と同等以上の乗員保護性能の維持とシステム全体のコスト削減を両立可能な車両衝突判定装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態におけるSRSエアバッグシステム及びSRSユニット1(車両衝突判定装置)の要部ブロック構成図である。
【図2】衝突判定に用いられる2次元マップ及び高速オフセット衝突時と低速オフセット衝突時に音響センサ11から得られる音響データS(t)の時間変化を示す図である。
【図3】第2実施形態におけるSRSユニット1A(車両衝突判定装置)の要部ブロック構成図である。
【図4】第3実施形態におけるSRSユニット1B(車両衝突判定装置)の要部ブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
〔第1実施形態〕
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1(a)は、本実施形態におけるSRSエアバッグシステムの構成概略図である。この図に示すように、本実施形態におけるSRSエアバッグシステムは、車両100の中央部に設置されたSRSユニット1(車両衝突判定装置)と、車両100の運転席及び助手席に設置されたエアバッグ2(乗員保護装置)とから構成されている。
【0022】
SRSユニット1は、内蔵する音響センサ11及び加速度センサ12の出力信号に基づいて、車両100に前面衝突が発生したか否かの判定(衝突判定)を行い、その衝突判定結果に応じてエアバッグ2の起動制御を行うECU(Electronic Control Unit)である。エアバッグ2は、SRSユニット1から入力される点火信号に応じて展開し、車両100の前面衝突により乗員が前方に2次衝突することで負う傷害を軽減する乗員保護装置である。なお、一般的に、車両100には、エアバッグ2の他、シートベルトプリテンショナ等の他の乗員保護装置も設けられているが、図1(a)では図示を省略している。
【0023】
図1(b)は、SRSユニット1の要部ブロック構成図である。この図に示すように、SRSユニット1は、音響センサ11(第1振動センサ)、加速度センサ12(第2振動センサ)、メイン衝突判定部13(衝突判定手段)、セーフィング判定部14(セーフィング判定手段)、及びAND部15(最終判定手段)を備えている。
【0024】
音響センサ11は、SRSユニット1に内蔵された振動センサであり、車両100の長さ方向(図中のX軸方向)に生じる音響帯域の高周波振動を検出し、その検出結果を音響データS(t)としてメイン衝突判定部13へ出力する。具体的には、この音響センサ11は、音響帯域の高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動(構造音響)を検出する。この音響センサ11から得られる音響データS(t)は、前面衝突によって車両100が変形(損壊)する特徴をよく捉えたものである。
【0025】
加速度センサ12は、SRSユニット1に内蔵された振動センサであり、車両100の長さ方向に生じる、音響帯域より低い帯域の低周波振動を検出し、その検出結果を加速度データG(t)としてメイン衝突判定部13及びセーフィング判定部14へ出力する。具体的には、この加速度センサ12は、音響帯域より低い帯域の低周波振動として周波数帯域0Hz〜500Hzの振動を検出する。この加速度センサ12から得られる加速度データG(t)は、前面衝突によて車両100に生じる減速度をよく捉えたものである。
【0026】
このように、音響センサ11と加速度センサ12との違いは、検出対象振動の周波数帯域が異なるだけであり、どちらも振動センサに属するものである。これらの音響センサ11及び加速度センサ12は、本発明における振動検出手段を構成している。
なお、図1(a)に示すように、SRSユニット1において、音響センサ11及び加速度センサ12をそれぞれ別個に設けても良いし、或いは1つのセンサセル内に音響センサ11と加速度センサ12を内蔵するようにしても良い。
【0027】
メイン衝突判定部13は、音響センサ11から入力される音響データS(t)、及び加速度センサ12から入力される加速度データG(t)に基づいて、エアバッグ2の展開(起動)を必要とする衝突が発生したか否かを判定するものであり、第1演算部13a(第1演算手段)、第2演算部13b(第2演算手段)及びマップ判定部13c(マップ判定手段)を備えている。
【0028】
第1演算部13aは、音響センサ11から入力される音響データS(t)に平均化処理を施すことで音響平均値Sa(第1演算値)を算出し、その算出結果をマップ判定部13cに出力する。なお、音響データS(t)の平均化処理としては、移動平均処理、積分処理、或いはローパスフィルタリング処理等を用いることができる。
【0029】
第2演算部13bは、加速度センサ12から入力される加速度データG(t)を一次積分することで速度変化量ΔV(第2演算値)を算出し、その算出結果をマップ判定部13cに出力する。なお、加速度データG(t)を二次積分することで、速度変化量ΔVの代わりに移動変化量を第2演算値として算出しても良い。
【0030】
マップ判定部13cは、図2(a)に示すように、音響平均値Saを縦軸、速度変化量ΔVを横軸とする2次元マップ上において、第1演算部13a及び第2演算部13bによって算出された音響平均値Sa及び速度変化量ΔVが2次元的に設定された2次元衝突判定閾値THを越えた場合に、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したと判定し、そのマップ判定結果をAND部15に出力する。
【0031】
2次元マップ上における2次元衝突判定閾値THの設定手法は以下の通りである。
既に述べたように、音響センサ11から得られる音響データS(t)は、車体が変形(損壊)する特徴を捉えやすい傾向があり、高速オフセット衝突と低速オフセット衝突との判別も容易で、迅速且つ正確な衝突判定の実現に有効である。図2(b)は、高速オフセット衝突時と低速オフセット衝突時に音響センサ11から得られる音響データS(t)の時間変化を示したものである。この図に示すように、衝突発生時点(時刻0)から約20ms以上経過すれば、両方の衝突モードを正確に判別できる程の大きな差が音響データS(t)に現れることがわかる。
【0032】
つまり、従来(SRSユニット内の加速度センサのみで衝突判定を行う場合)では、衝突発生時点から40ms後(詳細には40ms〜50msの間)に衝突判定(閾値判定)が実施されるよう閾値設定を行う必要があったが、音響センサ11から得られる音響データS(t)を衝突判定に利用することで、衝突発生時点から20ms後(詳細には20ms〜30msの間)に衝突判定が実施されるよう閾値設定を行うことが可能となる。
【0033】
従って、図2(a)に示す2次元マップ上において、横軸方向に延びる2次元衝突判定閾値TH(TH1)は、衝突発生時点から20ms〜30msの間に、エアバッグ2の展開を必要とする衝突(高速オフセット衝突を含む、車体変形(損壊)を伴う激しい衝突)と、エアバッグ2の展開が不要な衝突(低速オフセット衝突を含む、車体変形が軽微な穏やかな衝突)とを判別できるような値に設定されている。
【0034】
なお、速度変化量ΔVが大きくなるほど、車両100に発生する構造音響が大きくなるので、仮に横軸方向に延びる2次元衝突判定閾値TH(TH1)を一定値とすると、本来ならばエアバッグ2の展開が不要な衝突が発生しているにも関わらず、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したと誤判定する可能性がある。そこで、このような誤判定を防止するために、図2(a)に示すように、横軸方向に延びる2次元衝突判定閾値TH(TH1)は、速度変化量ΔVが大きくなるほど高くなるように設定することが望ましい。
【0035】
一方、音響センサ11から得られる音響データS(t)は、車体変形を伴わない飛石等による局所打撃音を多く含んでいるため、エアバッグ2の展開が必要な衝突による衝撃音と、エアバッグ2の展開が不要な局所打撃音とを正確に判別する必要がある。このような衝突による衝撃音と飛石等による局所打撃音との判別には、加速度センサ12から得られる加速度データG(t)を利用することができる。衝突による衝撃音が発生した場合には大きな減速度が生じるが、飛石等による局所打撃音が発生した場合には小さな減速度が生じるのみである。
【0036】
つまり、図2(a)に示す2次元マップ上において、縦軸方向に延びる2次元衝突判定閾値TH(TH2)は、エアバッグ2の展開を必要とする衝突(車体変形を伴う激しい衝突)と、エアバッグ2の展開が不要な衝突(飛石等による局所打撃)とを判別できるような値に設定されている。なお、飛石等による局所打撃音が大きくなっても、それによる減速度に大きな変化はないため、縦軸方向に延びる2次元衝突判定閾値TH(TH2)は、音響平均値Saに対して一定値に設定すれば良い。
【0037】
以上のような手法で2次元マップ上に2次元衝突判定閾値THを設定することにより、2次元マップ上には、エアバッグ2の展開を行うエアバッグ展開領域と、エアバッグ2の展開を行わないエアバッグ非展開領域とが形成される。つまり、マップ判定部13cは、第1演算部13aにて算出された音響平均値Saが2次元衝突判定閾値TH(TH1)を越え、且つ第2演算部13bにて算出された速度変化量ΔVが2次元衝突判定閾値TH(TH2)を越えた場合(言い換えれば、音響平均値Saと速度変化量ΔVとの交点がエアバッグ展開領域に含まれている場合)に、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したと判定する。
【0038】
図1に戻り、セーフィング判定部14は、加速度センサ12から入力される加速データG(t)を基にセーフィング判定を行い、そのセーフィング判定結果をAND部15に出力する。具体的には、このセーフィング判定部14は、加速度データG(t)の一次積分値(或いは二次積分値でも良い)とセーフィング判定閾値とを比較し、一次積分値がセーフィング判定閾値より大きい場合に、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したと判定する。なお、セーフィング判定閾値は、ある程度大きな衝突(大きな減速度)が発生すれば確実にエアバッグ2が展開されるよう、安全方向に振った値(比較的低い値)に設定されている。
【0039】
AND部15は、メイン衝突判定部13の衝突判定結果(マップ判定結果)、及びセーフィング判定部14のセーフィング判定結果に基づいて、最終的にエアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したか否かを判定し、その衝突判定結果を出力する。具体的には、このAND部15は、メイン衝突判定部13及びセーフィング判定部14の両方でエアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したと判定された場合に、最終的にエアバッグ2の起動を必要とする衝突が発生したと判定する。
【0040】
このように構成されたSRSユニット1は、従来のようにフロントクラッシュセンサを用いることなく、エアバッグ2の展開を必要とする衝突(高速オフセット衝突を含む、車体変形を伴う激しい衝突)と、エアバッグ2の展開が不要な衝突(低速オフセット衝突を含む、車体変形が軽微な穏やかな衝突、及び飛石等による局所打撃)とを迅速且つ正確に判別できる。つまり、本実施形態によると、従来と同等以上の乗員保護性能の維持とシステム全体のコスト削減を両立可能なSRSユニット1を提供することが可能となる。
また、図2(a)に示した2次元マップを衝突判定に用いることにより、2次元的な閾値設定が可能となり、衝突判定精度の向上(乗員保護性能の向上)を図ることができる。
【0041】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の第2実施形態の説明においては第1実施形態と異なる点に着目して説明し、第1実施形態と同様の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
図3は、第2実施形態におけるSRSユニット1Aの要部ブロック構成図である。この図に示すように、第2実施形態におけるSRSユニット1Aは、第1実施形態のメイン衝突判定部13とは異なる構成のメイン衝突判定部16を備えている。
【0042】
メイン衝突判定部16は、音響センサ11から入力される音響データS(t)、及び加速度センサ12から入力される加速度データG(t)に基づいて、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したか否かを判定するものであり、第1演算部16a(第1演算手段)、第2演算部16b(第2演算手段)、第1比較部16c、第2比較部16d、及びAND部16eを備えている。なお、上記の構成要素の内、第1比較部16c、第2比較部16d及びAND部16eは、本発明における閾値判定手段を構成するものである。
【0043】
第1演算部16aは、音響センサ11から入力される音響データS(t)に平均化処理を施すことで音響平均値Sa(第1演算値)を算出し、その算出結果を第1比較部16cに出力する。第2演算部16bは、加速度センサ12から入力される加速度データG(t)を一次積分することで速度変化量ΔV(第2演算値)を算出し、その算出結果を第2比較部16dに出力する。
【0044】
第1比較部16cは、第1演算部16aから入力される音響平均値Saが第1衝突判定閾値Sathを越えたか否かを判定し、その比較判定結果をAND部16eに出力する。
第2比較部16dは、第2演算部16bから入力される速度変化量ΔVが第2衝突判定閾値ΔVthを越えたか否かを判定し、その比較判定結果をAND部16eに出力する。AND部16eは、第1比較部16c及び第2比較部16dによって、音響平均値Saが第1衝突判定閾値Sathを越え、且つ速度変化量ΔVが第2衝突判定閾値ΔVthを越えたと判定された場合に、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したか否かを判定し、その衝突判定結果をAND部15に出力する。
【0045】
ここで、第1衝突判定閾値Sathは、衝突発生時点から20ms〜30msの間に、エアバッグ2の展開を必要とする衝突(高速オフセット衝突を含む、車体変形(損壊)を伴う激しい衝突)と、エアバッグ2の展開が不要な衝突(低速オフセット衝突を含む、車体変形が軽微な穏やかな衝突)とを判別できるような値に設定されている。また、第2衝突判定閾値ΔVthは、エアバッグ2の展開を必要とする衝突(車体変形を伴う激しい衝突)と、エアバッグ2の展開が不要な衝突(飛石等による局所打撃)とを判別できるような値に設定されている。
【0046】
このように構成された第2実施形態のSRSユニット1Aも、第1実施形態のSRSユニット1と同様に、従来のようにフロントクラッシュセンサを用いることなく、エアバッグ2の展開を必要とする衝突(高速オフセット衝突を含む、車体変形を伴う激しい衝突)と、エアバッグ2の展開が不要な衝突(低速オフセット衝突を含む、車体変形が軽微な穏やかな衝突、及び飛石等による局所打撃)とを迅速且つ正確に判別できる。
【0047】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、以下の第3実施形態の説明においては第1及び第2実施形態と異なる点に着目して説明し、第1及び第2実施形態と同様の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
図4は、第3実施形態におけるSRSユニット1Bの要部ブロック構成図である。この図に示すように、第3実施形態におけるSRSユニット1Bは、振動センサ(振動検出手段)20、BPF(バンドパスフィルタ:第1抽出手段)21、LPF(ローパスフィルタ:第2抽出手段)22、第1実施形態と同様のメイン衝突判定部13(第2実施形態と同様のメイン衝突判定部16でも良い)、第1及び第2実施形態と同様のセーフィング判定部14及びAND部15を備えている。
【0048】
振動センサ20は、車両100の長さ方向に生じる広帯域振動(例えば、周波数帯域0Hz〜30kHzの振動)を検出し、その検出結果を振動データVb(t)としてBPF21及びLPF22に出力する。
【0049】
BPF21は、振動センサ20から入力される振動データVb(t)から音響帯域の高周波振動を抽出し、その抽出結果(高周波振動の検出結果)を音響データS(t)としてメイン衝突判定部13へ出力する。具体的には、このBPF21は、振動データVb(t)から音響帯域の高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動(構造音響)を抽出する。
【0050】
LPF22は、振動センサ20から入力される振動データVb(t)から音響帯域より低い帯域の低周波振動を抽出し、その抽出結果(低周波振動の検出結果)を加速度データG(t)としてメイン衝突判定部13及びセーフィング判定部14へ出力する。具体的には、このLPF22は、振動データVb(t)から音響帯域より低い帯域の低周波振動として周波数帯域0Hz〜500Hzの振動を抽出する。
【0051】
このように、第1及び第2実施形態では、音響センサ11と加速度センサ12との2つの振動センサを用いたのに対して、第3実施形態では、周波数帯域0Hz〜30kHzの広帯域振動を検出可能な振動センサ20を1つだけ用意し、そのセンサ出力からLPF22によって抽出した周波数帯域0Hz〜500Hzの振動成分を加速度データG(t)として利用すると共に、センサ出力からBPF21によって抽出した周波数帯域5kHz〜20kHzの振動成分を音響データS(t)として利用している。
このような構成の第3実施形態のSRSユニット1Bでも、第1及び第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0052】
〔変形例〕
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において変更可能であることは勿論である。
例えば、上記実施形態では、音響帯域の高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動(構造音響)を検出すると共に、音響帯域より低い帯域の低周波振動として周波数帯域0Hz〜500Hzの振動を検出する場合を例示したが、検出対象振動の周波数帯域はこれに限定されず、車両100の構造や要求される乗員保護性能に応じて適宜設定すれば良い。つまり、高周波振動の周波数帯域は、前面衝突によって車両100が変形(損壊)する特徴(構造音響)を捕捉可能であれば良く、低周波振動の周波数帯域は、前面衝突によって車両100に生じる減速度を捕捉可能であれば良い。
【符号の説明】
【0053】
1、1A、1B…SRSユニット(車両衝突判定装置)、11…音響センサ(第1振動センサ)、12…加速度センサ(第2振動センサ)、13、16…メイン衝突判定部(衝突判定手段)、14…セーフィング判定部(セーフィング判定手段)、15…AND部(最終判定手段)、20…振動センサ(振動検出手段)、21…BPF(第1抽出手段)、22…LPF(第2抽出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に生じる音響帯域の高周波振動、及び前記音響帯域より低い帯域の低周波振動を検出する振動検出手段と、
前記高周波振動及び低周波振動の検出結果に基づいて乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する衝突判定手段と、
を備えることを特徴とする車両衝突判定装置。
【請求項2】
前記振動検出手段は、
前記音響帯域の高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動を検出する第1振動センサと、
前記音響帯域より低い帯域の低周波振動として周波数帯域0Hz〜500Hzの振動を検出する第2振動センサと、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の車両衝突判定装置。
【請求項3】
前記第1振動センサ及び前記第2振動センサの両方を1つのセンサセルに内蔵することを特徴とする請求項2に記載の車両衝突判定装置。
【請求項4】
車両に生じる広帯域振動を検出する振動検出手段と、
前記振動検出手段によって検出された広帯域振動から音響帯域の高周波振動を抽出する第1抽出手段と、
前記振動検出手段によって検出された広帯域振動から前記音響帯域より低い帯域の低周波振動を抽出する第2抽出手段と、
前記高周波振動及び低周波振動の検出結果に基づいて乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する衝突判定手段と、
を備えることを特徴とする車両衝突判定装置。
【請求項5】
前記第1抽出手段は、前記広帯域振動から前記音響帯域の高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動を抽出し、
前記第2抽出手段は、前記広帯域振動から前記音響帯域より低い帯域の低周波振動として周波数帯域0Hz〜500Hzの振動を抽出する、
ことを特徴とする請求項4に記載の車両衝突判定装置。
【請求項6】
前記衝突判定手段は、
前記高周波振動の検出結果を基に第1演算値を算出する第1演算手段と、
前記低周波振動の検出結果を基に第2演算値を算出する第2演算手段と、
前記第1演算値を第1軸、前記第2演算値を第2軸とする2次元マップ上において、前記第1演算手段及び前記第2演算手段によって算出された前記第1演算値及び前記第2演算値が2次元的に設定された2次元衝突判定閾値を越えた場合に、前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したと判定するマップ判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両衝突判定装置。
【請求項7】
前記衝突判定手段は、
前記高周波振動の検出結果を基に第1演算値を算出する第1演算手段と、
前記低周波振動の検出結果を基に第2演算値を算出する第2演算手段と、
前記第1演算値が第1衝突判定閾値を越え、且つ前記第2演算値が第2衝突判定閾値を越えた場合に、前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したと判定する閾値判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両衝突判定装置。
【請求項8】
前記低周波振動の検出結果を基にセーフィング判定を行うセーフィング判定手段と、
前記衝突判定手段の衝突判定結果及び前記セーフィング判定手段のセーフィング判定結果に基づいて、最終的に前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する最終判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両衝突判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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