説明

車両走行制御システム、車両走行制御方法

【課題】車両の走行パターンを再現する精度が向上する車両走行制御システム、車両走行制御方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様は、車両走行制御システムにおいて、走行パターンを指示する走行パターン指示部10と、走行パターン指示部10が指示する走行パターンに従ってアクセルペダルを操作して取得したアクセル開度のデータを予め蓄積したデータ蓄積部14と、アクセル開度のデータをD/A変換するD/A変換部30と、D/A変換されたアクセル開度のデータを車両のECU38に入力して車両を走行させたときに測定された車両の速度と走行パターンが規定する車両の速度との差を低減させるようにアクセル開度のデータを補正する補正量を演算するフィードバック制御部44と、アクセル開度のデータを前記補正量に基づき補正する加算部46と、を備える自動走行アクセル制御部16と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行試験において走行パターンに従って車両の走行を制御する車両走行制御システム、車両走行制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のモード走行の測定や排ガスの性能試験として、シャーシダイナモなどの試験台上に試験車両を搭載して、各時間の試験車両の速度を規定する走行パターンに従って、試験車両の運転を行う走行試験が行われている。
【0003】
従来より、この走行試験においては、試験者(人間)がドライバーズエイドのモニタなどに映し出された走行パターンを目視しながらアクセルペダルを操作して、試験車両の運転を行っている。しかし、走行パターンは複雑であり、走行パターンを再現して試験車両の運転を行うためには経験と熟練技術を要する。また、アクセルペダルを操作する試験者ごとの操作のバラツキもあるため、試験者によって再現される走行パターンが異なり、走行試験の精度が低かった。また、試験者の疲労による走行パターンの再現精度の低下もあった。そして、実際に再現した走行パターンが走行パターンの許容誤差範囲を超えると、試験車両の運転を再度やり直すことになって、非常に多くの作業の工数を要してしまう。
【0004】
また、試験者の代わりにロボットアクチュエータによりアクセルペダルを操作して、試験車両の運転を行う装置も開発されている。しかし、ロボットアクチュエータを試験車両に取り付ける際には正確な位置に取り付ける必要があり、取り付け作業が困難で取り付け時間に多くを要してしまい、走行試験に費やせる時間が少なくなってしまう。また、ロボットアクチュエータが正確な位置に取り付けられていない場合には、取り付け位置の誤差により、例えばアクセルペダルの踏み込み量が変わってしまい、走行パターンを再現する精度が低くなってしまう。また、ロボットアクチュエータの製造コストも大きい。
【0005】
ここで、特許文献1には、試験車両の走行パターンをECUに入力して、試験車両の走行を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−120387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、被試験物の応答がECUからの制御に追従できるように試験車両の走行パターンのデータをフィルタで平滑化処理しており、走行パターンを精度よく再現できているとはいえない。
【0008】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、車両の走行パターンを再現する精度が向上する車両走行制御システム、車両走行制御方法を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、各時間の車両の速度を規定する走行パターンに従って前記車両の走行を制御する車両走行制御システムにおいて、前記走行パターンを指示する走行パターン指示部と、前記走行パターン指示部が指示する前記走行パターンに従ってアクセルペダルを操作して取得したアクセル開度のデータを予め蓄積したデータ蓄積部と、前記データ蓄積部から出力された前記アクセル開度のデータをD/A変換する変換部と、前記変換部によりD/A変換された前記アクセル開度のデータを前記車両のECUに入力して前記車両を走行させたときに測定された前記車両の速度と前記走行パターンが規定する前記車両の速度との差を低減させるように前記アクセル開度のデータを補正する補正量を演算する演算部と、前記データ蓄積部から出力され前記変換部によりD/A変換される前の前記アクセル開度のデータを前記補正量に基づき補正する補正部と、を備える自動走行アクセル制御部と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、予めデータ蓄積部に蓄積したアクセル開度のデータを変換部によりD/A変換して車両のECUに入力して車両を走行させたときに測定された車両の速度と走行パターンが規定する車両の速度との差を低減させるようにアクセル開度のデータを補正する補正量を演算し、変換部によりD/A変換される前のアクセル開度のデータに対し前記のように演算された補正量に基づき補正するので、補正されたアクセル開度のデータを再び変換部によりD/A変換し車両のECUに入力して車両を制御して車両を走行させることから、走行パターンを再現する精度が向上する。
【0011】
また、試験走行毎に異なる環境の変化、例えば、試験室温度、エンジン状況、シャーシ台抵抗などに対しても、測定された車両の速度と走行パターンが規定する車両の速度との差を低減させるようにアクセル開度のデータを補正するので、車両の速度に対しフィードバック制御が図られ、走行パターンを再現する精度が更に向上する。そして、データ蓄積部に予め試験走行したアクセル開度のデータを蓄積しておき、この蓄積したデータをもとに補正をするので、補正量を低減して安定したフィードバック制御を行うことができる。
【0012】
上記の態様において、一定時間毎に前記アクセル開度のデータを出力するように指示する同期信号を前記データ蓄積部に対して送信する同期信号送信部を有すること、が好ましい。
【0013】
かかる態様によれば、一定時間毎にデータ蓄積部からアクセル開度のデータを出力するタイミングを指示して、データ蓄積部からのアクセル開度のデータの出力動作の時間の誤差を低減させることができる。そのため、走行パターンを再現する精度がさらに向上する。
【0014】
上記の態様において、前記走行パターンを先読みする先読み制御部を有し、前記演算部は、前記先読み制御部にて先読みした前記走行パターンに応じて前記補正量を調整すること、が好ましい。
【0015】
かかる態様によれば、走行パターンに応じて補正量を調整するので、オーバーシュートやアンダーシュートを防止して、車両の速度に対して安定したフィードバック制御を行うことができる。
【0016】
上記の態様において、前記アクセル開度のデータを検証するアクセル開度データ検証部を有し、前記データ蓄積部は、前記アクセル開度データ検証部で検証した前記アクセル開度のデータを蓄積すること、が好ましい。
【0017】
かかる態様によれば、検証済みのアクセル開度のデータをデータ蓄積部に蓄積するので、走行パターンを再現する精度がさらに向上する。
【0018】
上記の態様において、前記アクセル開度を検出する検出手段を有し、前記検出手段の電源端子は前記車両のECUの電源端子に接続し、前記検出手段のアース端子は前記車両のECUのアース端子に接続していること、が好ましい。
【0019】
かかる態様によれば、アクセル開度を検出する検出手段を作動させるための印加電圧を車両のECUから安定して取得することができる。
【0020】
上記の態様において、前記車両の走行を緊急停止させる緊急停止手段を有すること、が好ましい。
【0021】
かかる態様によれば、例えば異常時などに即時に車両の走行を緊急停止させることができる。
【0022】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、各時間の車両の速度を規定する走行パターンに従って前記車両の走行を制御する車両走行制御方法において、指示する前記走行パターンに従ってアクセルペダルを操作して取得したアクセル開度のデータを予め蓄積したデータ蓄積部から出力された前記アクセル開度のデータをD/A変換し、D/A変換された前記アクセル開度のデータを前記車両のECUに入力して前記車両を走行させたときに測定された前記車両の速度と前記走行パターンが規定する前記車両の速度との差を低減させるように前記アクセル開度のデータを補正する補正量を演算し、前記データ蓄積部から出力されD/A変換される前の前記アクセル開度のデータを前記補正量に基づき補正すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る車両走行制御システム、車両走行制御方法によれば、車両の走行パターンを再現する精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1の車両走行制御システムの構成を表すブロック図である。
【図2】主に電圧信号取得アダプタの内部における結線を示す図である。
【図3】主に電圧信号入力アダプタの内部における結線を示す図である。
【図4】11モードの走行パターンを示す図である。
【図5】実施例1の車両走行制御システムによる試験車両の走行の制御に関する評価結果を示す図である。
【図6】実施例2の車両走行制御システムの構成を表すブロック図である。
【図7】実施例3の車両走行制御システムの構成を表すブロック図である。
【図8】変形例のデータ蓄積部の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
〔実施例1〕
図1は、実施例1の車両走行制御システム1の構成を表すブロック図である。
図1に示すように、本実施例の車両走行制御システム1は、走行パターン指示部10と、データ取得用車両部12と、データ蓄積部14と、自動走行アクセル制御部16と、試験車両部18などを構成する。
【0026】
走行パターン指示部10は、試験車両の走行パターンの信号を送信して、不図示のドライバーズエイドに走行パターンを指示する。また、走行パターン指示部10は、後述する自動走行アクセル制御部16の同期信号送信部34に試験車両の走行パターンの信号を送信する。
【0027】
データ取得用車両部12は、後述するアクセル開度アナログデータを取得するために走行させるデータ取得用の車両を備え、当該車両はアクセルポジションセンサ20やECU22(図2参照)などを備える。アクセルポジションセンサ20は、データ取得用の車両のアクセルペダルの操作量であるアクセル開度を検出する検出手段である。ECU22は、データ取得用の車両の走行を制御する手段である。
【0028】
データ蓄積部14は、電圧信号取得アダプタ24と、A/D変換部26と、アクセル開度データ蓄積部28などを備える。
【0029】
電圧信号取得アダプタ24は、アクセルポジションセンサ20とA/D変換部26との間を接続する中間装置である。図2は、主に電圧信号取得アダプタ24の内部における結線を示す図である。図2に示すように、電圧信号取得アダプタ24は、アクセルポジションセンサ20とECU22とA/D変換部26とに接続している。そして、電圧信号取得アダプタ24の内部の結線により、アクセルポジションセンサ20の印加電圧を供給するための電源端子VCP1,VCP2をECU22の電源端子V11,V21に接続している。また、アクセルポジションセンサ20のアース端子EP1,EP2とECU22のアース端子G1,G2とを接続している。このように、データ取得用車両部12のECU22から直接的にアクセルポジションセンサ20に安定して電源信号を入力できる。なお、アクセルポジションセンサ20とデータ取得用車両部12のECU22とは、それぞれ電圧信号取得アダプタ24とコネクタで結合している。
【0030】
また、電圧信号取得アダプタ24の内部の結線により、アクセルポジションセンサ20で検出された電圧信号が出力されるセンサ信号出力端子VPA1,VPA2と、ECU22のセンサ信号入力端子V12,V22とが接続されている。
また、A/D変換部26は、アクセルポジションセンサ20におけるセンサ信号出力端子VPA1,VPA2に接続している。なお、A/D変換部26は、ECU22のアース端子G1,G2にも接続している。
【0031】
A/D変換部26は、電圧信号取得アダプタ24を経由して取得したアクセルポジションセンサ20で検出された電圧信号のアナログ値のデータ(以下、アクセル開度アナログデータという)を、デジタル値のデータ(以下、アクセル開度デジタルデータという)に変換(A/D変換)する装置である。
【0032】
アクセル開度データ蓄積部28は、アクセル開度デジタルデータを蓄積する装置である。アクセル開度データ蓄積部28としては、例えば、パーソナルコンピュータのハードディスクなどが考えられる。
【0033】
自動走行アクセル制御部16は、前記のアクセル開度データ蓄積部28と、D/A変換部30と、電圧信号入力アダプタ32と、同期信号送信部34などを備える。
D/A変換部30は、アクセル開度データ蓄積部28から出力されるアクセル開度デジタルデータをアクセル開度アナログデータに変換(D/A変換)する装置である。
【0034】
電圧信号入力アダプタ32は、D/A変換部30と後述する試験車両部18のECU38との間を接続する中間装置である。図3は、主に電圧信号入力アダプタ32の内部における結線を示す図である。図3に示すように、電圧信号入力アダプタ32は、D/A変換部30と試験車両のアクセルポジションセンサ36と試験車両のECU38とに接続している。アクセルポジションセンサ36は、試験車両のアクセルペダルの操作量であるアクセル開度を検出する検出手段である。ECU38は、試験車両の走行を制御する手段である。
【0035】
そして、電圧信号入力アダプタ32の内部の結線により、アクセルポジションセンサ36の印加電圧を供給するための電源端子VCP1,VCP2をECU38の電源端子V11,V21に接続している。また、アクセルポジションセンサ36のアース端子EP1,EP2とECU38のアース端子G1,G2とを接続している。このように、試験車両のECU38から直接的にアクセルポジションセンサ36に安定して電源信号を入力できる。なお、アクセルポジションセンサ36とECU38とは、それぞれ電圧信号入力アダプタ32とコネクタで結合している。
【0036】
また、ECU38のセンサ信号入力端子V12,V22には、アクセルポジションセンサ36で検出された電圧信号が出力されるセンサ信号出力端子VPA1,VPA2を接続していないが、D/A変換部30を接続している。これにより、ECU38には、D/A変換部30からアクセル開度アナログデータが入力される。なお、D/A変換部30はECU38のアース端子G1,G2にも接続している。
【0037】
同期信号送信部34は、ハードタイマ40を備えており、アクセル開度データ蓄積部28とD/A変換部30とに対し、一定時間毎に同期信号を送信する。
【0038】
試験車両部18は、試験車両の走行を制御するECU38を備える。ECU38は、電圧信号入力アダプタ32から出力されたアクセル開度アナログデータを取得して、試験車両の走行を制御する。
また、走行試験を行う装置であるシャーシダイナモには、試験車両の走行時における速度を測定するシャーシダイナモメータ42を設けている。
【0039】
このような構成を有する本実施例の車両走行制御システム1は、以下のように作用する。
本実施例では、まず、データ蓄積部14におけるアクセル開度データ蓄積部28に、予め走行パターンのアクセル開度の電圧信号をデジタルデータとして蓄積しておく。
具体的には、以下のようにアクセル開度デジタルデータを蓄積する。
【0040】
まず、車両の走行試験の運転を行う試験者が、ドライバーズエイド(不図示)のモニタ(不図示)で表示される走行パターンを目視しながら、データ取得用の車両のアクセルペダル(不図示)を操作する。
【0041】
そして、試験者がアクセルペダルを操作したときのアクセルペダルの踏み込み量を、電圧信号としてアクセルポジションセンサ20により検出する。検出された電圧信号は、アクセル開度アナログデータとして電圧信号取得アダプタ24を介してA/D変換部26に送信される。A/D変換部26では、一定間隔毎にアクセル開度アナログデータをアクセル開度デジタルデータに変換する。そして、アクセル開度データ蓄積部28にて、例えば図4に示す11モードの走行パターンにおける1サイクル分について、各時間におけるアクセル開度デジタルデータを蓄積する。なお、ここでいう11モードの走行パターンにおける1サイクルとは、11のモード(運転方法)を4回繰り返した走行パターンを指す。
【0042】
以上のように、走行パターンを試験者がアクセルペダルを操作することにより取得されたアクセル開度デジタルデータを、予めデータ蓄積部14におけるアクセル開度データ蓄積部28に蓄積しておく。なお、試験者が車両の走行試験の運転に関する熟練者であれば、走行パターンの再現性が高いアクセル開度デジタルデータを取得できるため、より好ましい。
【0043】
そして、本実施例では、このようにアクセル開度データ蓄積部28に予め蓄積されたアクセル開度デジタルデータを用いて、次のように試験車両の走行を制御する。
まず、走行パターン指示部10は、同期信号送信部34に対し走行開始信号を送信して、走行パターンの信号の送信を開始する。そして、同期信号送信部34は、アクセル開度データ蓄積部28とD/A変換部30とに対し、データの出力と変換の開始を指示するための同期信号を送信する。すると、アクセル開度データ蓄積部28はアクセル開度デジタルデータの出力を開始し、D/A変換部はアクセル開度デジタルデータからアクセル開度アナログデータへの変換を開始する。そして、変換されたアクセル開度アナログデータを試験車両のECU38に入力して、試験車両の走行を開始する。
【0044】
ここで、アクセル開度データ蓄積部28として、前記のように、例えば、パーソナルコンピュータのハードディスクを使用しているが、パーソナルコンピュータのソフトタイマによるカウント動作は時間の誤差が生じ易い。そのため、アクセル開度データ蓄積部28からアクセル開度デジタルデータを出力する動作に、時間の誤差が生じるおそれがある。そこで、本実施例では、同期信号送信部34に備わるハードタイマ40によりアクセル開度データ蓄積部28とD/A変換部30とに対し、一定時間毎(一例として、50ミリ秒毎)にデータの出力と変換を行うように指示するための同期信号を送信する。これにより、一定時間毎に確実に、アクセル開度データ蓄積部28はアクセル開度デジタルデータを出力し、D/A変換部30はアクセル開度デジタルデータからアクセル開度アナログデータへの変換を行う。
【0045】
そして、一定時間毎に変換を行うアクセル開度アナログデータを試験車両のECU38に入力して、ECU38により試験車両の走行を制御して、試験車両の走行を行う。これにより、走行パターンに対する時間の誤差を抑制しつつ試験車両の走行を行うことができる。そのため、走行パターンを再現する精度が向上する。
【0046】
なお、長時間(一例として、60分)が経過すると、ハードタイマ40のカウント動作における僅かな時間の誤差が蓄積していき、結果的にアクセル開度データ蓄積部28からのデータの出力動作に大きな時間の誤差が生じるおそれがある。そこで、同期信号送信部34はアクセル開度データ蓄積部28からのデータの出力動作の時間の誤差を監視することが望ましい。そして、アクセル開度データ蓄積部28からのデータの出力動作の時間の誤差が一定値以上になったときには、同期信号送信部34からアクセル開度データ蓄積部28とD/A変換部30とに対し、データの出力と変換を行うように指示する同期信号を送信することが望ましい。例えば、走行パターンにおいて速度が0になる時に同期信号を送信することが考えられる。
【0047】
なお、走行試験が終了して試験車両の走行を終了させるときには、同期信号送信部34からアクセル開度データ蓄積部28とD/A変換部30とへ、データの出力と変換を終了するように指示する同期信号を送信する。これにより、アクセル開度データ蓄積部28からのアクセル開度デジタルデータの出力が終了され、D/A変換部30におけるアクセル開度デジタルデータからアクセル開度アナログデータへの変換が終了する。
【0048】
このように、同期信号送信部34から同期信号を送信することにより、アクセル開度データ蓄積部28におけるアクセル開度デジタルデータの出力動作の時間の誤差を低減することができる。そのため、走行パターンにより近い試験車両の走行を再現することができる。したがって、走行パターンを再現する精度が向上する。
【0049】
ここで、本実施例の車両走行制御システム1による試験車両の走行の制御に関する評価結果を図5に示す。図5においては、シャーシダイナモメータ42における試験車両の速度の測定値を実線で示し、走行パターン指示部10から指示される走行パターンを破線で示す。また、試験車両のECU38に入力したアクセル開度アナログデータを二点鎖線で示す。なお、図5にてT1,T2,T3で示されるような試験車両の減速時においては、ブレーキシステムを手動もしくはロボットアクチュエータによる操作などにより作動させることにより、試験車両の減速を行った。
【0050】
図5に示すように、本実施例の車両走行制御システム1によれば、試験車両の速度の測定値は、走行パターン指示部10から指示される走行パターンに沿って再現されている。具体的には、試験車両の速度の測定値は、走行パターン指示部10から指示される走行パターンに対して±2km/hの範囲内に収めることが出来ている。このように、本実施例の車両走行制御システム1によれば、走行パターンの許容範囲内に収まるように試験車両を走行させることができる。
【0051】
本実施例によれば、アクセル開度のデータを直接的に試験車両のECU38に入力するので、アクセルペダルの操作の再現性やアクセルペダルの踏み代などに影響されず、走行パターンを再現する精度が向上する。
【0052】
また、試験者によりアクセルペダルを操作して検出されたアクセル開度デジタルデータを予め蓄積するので、走行パターンの許容範囲に収まるように試験車両を走行させることができる。
【0053】
また、同期信号送信部34によりアクセル開度データ蓄積部28とD/A変換部30とに対し同期信号を送信するので、試験車両の走行において、走行パターンに対する時間の誤差を低減することができる。
【0054】
また、パーソナルコンピュータのハードディスクなどのアクセル開度データ蓄積部28に蓄積したアクセル開度デジタルデータを、パーソナルコンピュータにより自動的にECU38に出力して試験車両を走行させるので、試験者の作業工数の低減を図ることができ試験者の疲労や試験者の運転技術の差による影響を受けない。
【0055】
また、ロボットアクチュエータにて走行試験を行う場合のように、試験車両を変えて走行試験を行う度にロボットアクチュエータを取り付ける必要がなくなり、取り付け時間の削減による走行試験時間の短縮が図れる。また、ロボットアクチュエータの取り付け位置の精度による影響を受けない。
【0056】
また、本実施例の車両走行制御システムによって試験車両の走行を自動化すること、およびブレーキシステムも自動化することにより、走行試験における無人化が図れ、長時間の走行試験を行うことができる。
【0057】
なお、前記において11モードの走行パターンを例に挙げたが、本実施例のシステムは、これに限定されることなく、JC08モードや10・15モードの走行パターンなど、各種の走行パターンに基づく走行試験においても適用できる。
【0058】
〔実施例2〕
図6は、実施例2の車両走行制御システム2の構成を表すブロック図である。
図6に示すように、本実施例の車両走行制御システム2は、実施例1の車両走行制御システム1と異なる点として、自動走行アクセル制御部43にフィードバック制御部44と加算部46とを備えている。その他の点は、実施例1の車両走行制御システム1と共通する。なお、フィードバック制御部44は本発明における演算部の一例であり、加算部46は本発明における補正部の一例である。
【0059】
このような構成を有する本実施例の車両走行制御システム2は、以下のように作用する。
フィードバック制御部44は、シャーシダイナモメータ42から試験車両の速度のデータを取得し、走行パターン指示部10から走行パターンにおける速度のデータを取得する。そして、試験車両の速度のデータと走行パターンにおける速度のデータとから試験車両の速度と走行パターンにおける速度との速度差を算出し、算出した速度差から当該速度差を低減させるようにアクセル開度デジタルデータの補正量を演算する。そして、演算した補正量を加算部46に供給する。
【0060】
加算部46では、フィードバック制御部44から供給された補正量をもとに、アクセル開度データ蓄積部28から出力されD/A変換部30によりアクセル開度アナログデータに変換される前のアクセル開度デジタルデータを補正する。
そして、補正したアクセル開度デジタルデータを、D/A変換部30により、実施例1と同様に一定間隔毎にアクセル開度アナログデータに変換する。
そして、変換されたアクセル開度アナログデータを、電圧信号入力アダプタ32を介して試験車両部18のECU38に入力させる。そして、ECU38は、入力されたアクセル開度アナログデータをもとに試験車両の走行を制御する。
【0061】
本実施例によれば、シャーシダイナモメータ42で測定された試験車両の速度の結果をもとにアクセル開度データ蓄積部28から出力されるアクセル開度デジタルデータを加算部46で補正することにより、試験車両の速度に対してフィードバック制御を行う。そのため、走行試験において走行パターンを再現する精度がさらに向上する。
【0062】
また、前記の特許文献1の技術のように、アクセル開度のデータがない状態から走行パターンを再現しようとしてフィードバック制御を行うと、補正量が大きくなってしまい、ハンチングなどが生じて安定した制御が行えないおそれがある。これに対して、本実施例のように、試験者によりアクセルペダルを操作して取得したアクセル開度デジタルデータを予め蓄積しておき、この予め蓄積したデータをもとに補正を行うので、補正量を抑制することができ、安定したフィードバック制御を行うことができる。
【0063】
〔実施例3〕
図7は、実施例3の車両走行制御システム3の構成を表すブロック図である。
図7に示すように、本実施例の車両走行制御システム3は、実施例2の車両走行制御システム2と異なる点として、自動走行アクセル制御部47にフィードフォワード制御部48を備えている。
【0064】
フィードフォワード制御部48は、走行パターン指示部10から指示される走行パターンを先読みして、フィードバック制御部44において演算される補正量を算出するためのフィードバックゲインを調整する。例えば、試験車両の加速時や速度の切替え時にはフィードバックゲインを小さくする一方で、定常時にはフィードバックゲインを大きくする。これにより、例えば、試験車両の加速時や速度の切替え時点にてフィードバックゲインが大きくなり過ぎて、オーバーシュートやアンダーシュートを起こすおそれがなくなる。
【0065】
〔変形例〕
図8は、変形例のデータ蓄積部50の構成を表すブロック図である。
図8に示すように、変形例のデータ蓄積部50は、前記のデータ蓄積部14と異なる点として、アクセル開度データ検証部52を備えている。
【0066】
アクセル開度データ検証部52は、試験者によりアクセルペダルを操作してアクセルポジションセンサ20から取得したアクセル開度デジタルデータを検証する装置である。具体的には、検証基準として、走行距離などをもとに走行パターンとの誤差の割合を示す走行誤差率を算出して、この走行誤差率をもとにアクセル開度デジタルデータとして蓄積するのにふさわしいデータか否かを検証する。そして、走行誤差率が一定値以下であり、走行パターンとの誤差が許容範囲内にあると判断された場合には、アクセル開度デジタルデータとして蓄積するのにふさわしいデータとして、アクセル開度データ蓄積部28に蓄積させる。
【0067】
これにより、アクセル開度データ蓄積部28には、走行パターンの再現性の高いアクセル開度デジタルデータが蓄積されることになる。そのため、試験車両の走行において、走行パターンを再現する精度がさらに向上する。なお、その他、検証基準としては、各種排ガス重量、走行燃費、各時間におけるアクセルの開度の変化、空燃比の発生状況なども考えられる。また、図8に示す例では、アクセル開度データ検証部52は、A/D変換部26とアクセル開度データ蓄積部28との間に設けられているが、これに限定されず、アクセル開度データ蓄積部28よりも手前であればどこに設けられていてもよい。
【0068】
〔他の実施例〕
その他、試験室の室温、試験車両のエンジンの温度、シャーシダイナモの抵抗、試験車両ごとの機差などに対して最適値を維持できるように、試験車両の速度に対してPID制御を行ってもよい。
また、緊急停止装置を設けておき、異常時には即時に試験車両の走行を緊急停止させて走行試験を緊急停止できるようにしておくとよい。
【0069】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0070】
1〜3 車両走行制御システム
10 走行パターン指示部
12 データ取得用車両部
14 データ蓄積部
16 自動走行アクセル制御部
18 試験車両部
20 アクセルポジションセンサ
22 ECU
24 電圧信号取得アダプタ
26 A/D変換部
28 アクセル開度データ蓄積部
30 D/A変換部
32 電圧信号入力アダプタ
34 同期信号送信部
38 ECU
40 ハードタイマ
42 シャーシダイナモメータ
43 自動走行アクセル制御部
44 フィードバック制御部
46 加算部
47 自動走行アクセル制御部
48 フィードフォワード制御部
VCP1,VCP2 電源端子
V11,V21 電源端子
VPA1,VPA2 センサ信号出力端子
V12,V22 センサ信号入力端子
EP1,EP2 アース端子
G1,G2 アース端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各時間の車両の速度を規定する走行パターンに従って前記車両の走行を制御する車両走行制御システムにおいて、
前記走行パターンを指示する走行パターン指示部と、
前記走行パターン指示部が指示する前記走行パターンに従ってアクセルペダルを操作して取得したアクセル開度のデータを予め蓄積したデータ蓄積部と、
前記データ蓄積部から出力された前記アクセル開度のデータをD/A変換する変換部と、前記変換部によりD/A変換された前記アクセル開度のデータを前記車両のECUに入力して前記車両を走行させたときに測定された前記車両の速度と前記走行パターンが規定する前記車両の速度との差を低減させるように前記アクセル開度のデータを補正する補正量を演算する演算部と、前記データ蓄積部から出力され前記変換部によりD/A変換される前の前記アクセル開度のデータを前記補正量に基づき補正する補正部と、を備える自動走行アクセル制御部と、
を有することを特徴とする車両走行制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載する車両走行制御システムにおいて、
一定時間毎に前記アクセル開度のデータを出力するように指示する同期信号を前記データ蓄積部に対して送信する同期信号送信部を有すること、
を特徴とする車両走行制御システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載する車両走行制御システムにおいて、
前記走行パターンを先読みする先読み制御部を有し、
前記演算部は、前記先読み制御部にて先読みした前記走行パターンに応じて前記補正量を調整すること、
を特徴とする車両走行制御システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載する車両走行制御システムにおいて、
前記アクセル開度のデータを検証するアクセル開度データ検証部を有し、
前記データ蓄積部は、前記アクセル開度データ検証部で検証した前記アクセル開度のデータを蓄積すること、
を特徴とする車両走行制御システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載する車両走行制御システムにおいて、
前記アクセル開度を検出する検出手段を有し、
前記検出手段の電源端子は前記車両のECUの電源端子に接続し、前記検出手段のアース端子は前記車両のECUのアース端子に接続していること、
を特徴とする車両走行制御システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載する車両走行制御システムにおいて、
前記車両の走行を緊急停止させる緊急停止手段を有すること、
を特徴とする車両走行制御システム。
【請求項7】
各時間の車両の速度を規定する走行パターンに従って前記車両の走行を制御する車両走行制御方法において、
指示する前記走行パターンに従ってアクセルペダルを操作して取得したアクセル開度のデータを予め蓄積したデータ蓄積部から出力された前記アクセル開度のデータをD/A変換し、D/A変換された前記アクセル開度のデータを前記車両のECUに入力して前記車両を走行させたときに測定された前記車両の速度と前記走行パターンが規定する前記車両の速度との差を低減させるように前記アクセル開度のデータを補正する補正量を演算し、前記データ蓄積部から出力されD/A変換される前の前記アクセル開度のデータを前記補正量に基づき補正すること、
を特徴とする車両走行制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−232047(P2011−232047A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100102(P2010−100102)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】