説明

車体のフロアパネル

【課題】 フロアパネル形状に高さ方向の制約があっても、車体のフレーム部材から伝わった振動によるフロアパネルの振動エネルギを効果的に低減させ、フロアパネルからの音響放射を低減することができる車体のフロアパネルを提供する。
【解決手段】 本発明は、車体前後方向及び車幅方向に配設されたフレーム部材(20,22,27,28等)に連結され自動車のフロアを構成する車体のフロアパネル(2等)であって、フレーム部材により囲まれた領域(S1等)の中央部に上方向又は下方向に突出して形成された高剛性部70と、この高剛性部の周りに平らに形成された低剛性部72と、を有し、高剛性部には、その中央部でその突出方向と反対方向に曲面状に突出し平面視で円形状又は楕円形状の曲面凹部70bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のフロアパネルに係り、特に、車体前後方向及び車幅方向に配設されたフレーム部材に連結され自動車のフロアを構成する車体のフロアパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンやサスペンションの振動がフレーム部材を介してフロアパネルに伝達され、このフロアパネルが振動することにより、不快な車室内振動や騒音が発生することが知られている。このようなエンジンやサスペンションから伝達される不快な振動は、自動車では主に400Hz以下であり、特にタイヤの空洞共鳴に起因したロードノイズである250Hz付近の周波数にピークを有している。
【0003】
従来、これらの振動騒音を抑制するためにフロアパネル及びその近傍の車体各部に制振材や防振材を貼付けることが一般的に行われている。しかし、この手法では、非常に大量の制振材や防振材を必要とするので、車両重量が増加し、さらに、コストも増大するという問題を抱えていた。また、フロアパネルにビードを多数形成したり、パネル厚を大きくすることでその剛性を高め、それにより、フロアパネルの固有振動数を400Hzよりも高い高帯域にずらすことも知られている。この手法では、低周波の領域における共振ピークを抑制できる利点があるが、一方で、高音域の振動が逆に多くなるため、高周波領域における振動騒音を抑制するための制振材や防振材が多く必要となり、同様の問題を抱えていた。
【0004】
また、フロアパネルに、曲げ、圧縮、引張りに強い複数のシェル構造の凸部と、これらの凸部の間に縦横に延びる凹部とを形成し、この凹部に制振材を設け、凹部に集中した振動を制振材で減衰させるようにしたパネル構造が知られている(特許文献1)。このパネル構造では、複数の凸部の間で凹部を縦横に網の目のように延びるように形成することにより、あらゆる方向の曲げ変形に対する振動エネルギ損失係数を大きくするようにしている。
なお、本出願人により、特許文献2に記載のフロアパネル構造が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−107235号公報
【特許文献2】特開2004−237871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1のパネル構造をフロアパネルのフレーム部材に囲まれた領域に適用した場合、凸部が複数あることや、凹部が縦横に網の目のように延びることに起因して、振動及び騒音を十分に低減することが出来ない。例えば、フレーム部材を介して振動エネルギが四方からフロアパネルに流入する場合、凸部が複数であると凹部に振動が集中しにくくなるという問題や、凹部によりパネル領域全体に振動ひずみが分散してパネル領域全体が振動し易くなってしまう等の問題を抱えている。一方、製造面でも、制振材を凹部に合わせて縦横に網の目のように設けるにはコストが増大する、というような問題も抱えている。
【0007】
一方、本出願人は、複数のフレーム部材により囲まれたフロアパネルの領域の中央部に上方向又は下方向に突出した高剛性部を形成すると共に高剛性部の周囲の全域に平らな低剛性部を形成したフロアパネル構造を提案している(特許文献2)。このフロアパネル構造によれば、高剛性部を領域の中央部に1つ形成することで、振動を低剛性部に効果的に集中させることが出来る等の利点を有し、上述した問題なく、振動及び騒音を低減することが出来る。
【0008】
しかしながら、この特許文献2に示すフロアパネル構造でも、振動及び騒音の低減が困難な以下のような場合があった。即ち、フロアパネル自身を上方向或いは下方向に突出させて高剛性部を形成する場合、その高剛性部の突出高さは、フロアパネルの車体下方或いは上方に配置された排気管や補機類等と干渉しない高さ、或いは、乗員の足の踏み心地を悪化(乗員が凹み等を感じて違和感をおぼえること等)させない高さに抑える必要がある。しかし、そのような突出高さが小さい程、高剛性部の剛性を十分に高めることが難しくなり、このような場合には、低剛性部に振動が集中しにくくなるのである。このような問題は、特に、フレーム部材で囲まれた領域が比較的大きい場合や長方形状である場合に顕著になっていた。
【0009】
なお、乗員の足の踏み心地の確保の観点では、高剛性部の高さを大きくしても、その形状に合わせてくりぬかれた厚めのカーペットを敷いたり、高剛性部をウレタン等で埋めたり、フロアパネルの上方に他の鋼板部材をわたしたりして、踏み心地を確保することが考えられるが、これらの場合には、車両重量の増加やコストの増大などの面で問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、フロアパネル形状に高さ方向の制約があっても、車体のフレーム部材から伝わった振動によるフロアパネルの振動エネルギを効果的に低減させ、フロアパネルからの音響放射を低減することができる車体のフロアパネルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために本発明は、車体前後方向及び車幅方向に配設されたフレーム部材に連結され自動車のフロアを構成する車体のフロアパネルであって、フレーム部材により囲まれた領域の中央部に上方向又は下方向に突出して形成された高剛性部と、この高剛性部の周りに平らに形成された低剛性部と、を有し、高剛性部には、その中央部でその突出方向と反対方向に曲面状に突出し平面視で円形状又は楕円形状の曲面凹部が形成されていることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、高剛性部と低剛性部とが設けられているので、それらの剛性差により、低剛性部に振動エネルギが集中する。そして、低剛性部において、この集中した振動エネルギにより生じる大きな振動ひずみとフロアパネルを構成する材質(鋼板)自体の減衰能により、フロアパネルの振動エネルギが低減される。また、高剛性部がフレーム部材に囲まれた領域の中央部に形成されると共に低剛性部がその周りに形成されているので、低剛性部に振動が効果的に集中して大きく歪み、また、高剛性部に伝達される振動が低剛性部で効果的に遮断され、さらに、フレーム部材を介してフロアパネルに伝達される振動の振動エネルギがフロアパネル全体に分散されずに低減される。これらの結果、フロアパネルからの音響放射をより確実に低減させることが出来る。
さらに、本発明においては、高剛性部には、曲面凹部が形成されているので、高剛性部の剛性を大きく高めることが出来る。即ち、曲面凹部は、曲面状に突出することによりそれ自体の剛性が高く、また、平面視で円形状又は楕円形状に形成されることによりその周縁部が曲線状に延びるので、高剛性部の車体前後方向及び車幅方向を含むあらゆる方向に対する剛性を高めることが出来る。さらに、この曲面凹部は、高剛性部の突出方向と反対方向に突出するので、高剛性部の高さを小さく抑えることが出来る。従って、曲面凹部により、フロアパネルの車体下方及び上方に設けられた排気管や補機類等に干渉することなく、或いは、乗員の足の踏み感を悪化させることなく、上述した高剛性部と低剛性部との剛性差を確実に得ることが出来る。これらの結果、フロアパネル形状に高さ方向の制約があっても、車体のフレーム部材から伝わった振動によるフロアパネルからの音響放射を低減させることが出来る。
【0012】
また、本発明において、好ましくは、曲面凹部はその全面にわたって曲率が連続している。
このように構成された本発明においては、曲面凹部の全面にわたって曲率が連続するので、高剛性部の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0013】
また、本発明において、好ましくは、高剛性部は上方向に突出し、高剛性部の曲面凹部は高剛性部の突出高さより小さい突出高さで下方向に突出する。
このように構成された本発明においては、上方向に突出する高剛性部に対し曲面凹部は下方向に突出し、その突出高さは高剛性部の突出高さより小さいので、フロアパネルの下方に配置された排気管等との干渉をより確実に防止することが出来る。
【0014】
また、本発明において、好ましくは、高剛性部の低剛性部からの突出高さは10mm以下である。
このように構成された本発明においては、乗員の足の踏み心地が悪化することをより確実に防止することが出来る。
【0015】
また、本発明において、好ましくは、高剛性部には、さらに、曲面凹部と低剛性部とを連通するように延びる溝部が形成されている。
このように構成された本発明においては、溝部が形成されているので、溝部が延びる方向に対して高剛性部の剛性を高めることが出来る。特に、溝部は、曲面凹部と低剛性部とを連通するように延びるので、高剛性部の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0016】
また、本発明において、好ましくは、高剛性部には、さらに、曲面凹部に対して放射状に延びる溝部が形成されている。
このように構成された本発明においては、溝部が形成されているので、溝部が延びる方向に対して高剛性部の剛性を高めることが出来る。特に、溝部は、曲面凹部に対して放射状に延びるので、高剛性部の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0017】
また、本発明において、好ましくは、高剛性部には、少なくとも2つの曲面部により構成された波形状部が形成され、高剛性部の曲面凹部は、波形状部の各曲面部間にわたって形成されている。
このように構成された本発明においては、波形状部と、この波形状部の各曲面部間にわたって形成された曲面凹部とにより、高剛性部の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0018】
また、本発明において、好ましくは、高剛性部は、長方形状に形成され、波形状部の曲面部は、長方形状の高剛性部の長手方向に並んで2つ形成されている。
このように構成された本発明においては、長方形状に形成された高剛性部の長手方向に波形状部の曲面部が並ぶので、高剛性部の長手方向の剛性を確実に高めることが出来る。さらに、曲面凹部が各曲面部間にわたって形成されることにより、高剛性部の長手方向の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0019】
また、上記の目的を達成するために、本発明は、車体前後方向及び車幅方向に配設されたフレーム部材に連結され自動車のフロアを構成する車体のフロアパネルであって、フレーム部材により囲まれた領域の中央部に形成された高剛性部と、この高剛性部の周りに平らに形成された低剛性部と、を有し、高剛性部には、少なくとも2つの曲面部により構成された波形状部が形成され、さらに、その波形状部の各曲面部間にわたって上方向又は下方向に曲面状に突出し平面視で円形状又は楕円形状の曲面凹部が形成されていることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、フレーム部材に囲まれた領域の中央部に形成された高剛性部とその周りに形成された低剛性部とにより、フレーム部材を介してフロアパネルに伝達される振動の振動エネルギが、低剛性部に振動が効果的に集中して大きく歪み、また、高剛性部に伝達される振動が低剛性部で効果的に遮断され、さらに、フレーム部材を介してフロアパネルに伝達される振動の振動エネルギがフロアパネル全体に分散されずに低減される。さらに、波形状部と、曲面凹部とにより、高剛性部の剛性をより確実に高めることが出来る。即ち、曲面凹部は上方向又は下方向に曲面状に突出し平面視で円形状又は楕円形状であるので、高剛性部の車体前後方向及び車幅方向を含むあらゆる方向に対する剛性を高めることが出来る。さらに、曲面凹部は波形状部の各曲面部間にわたって形成されているので、波形状部が延びる方向の剛性をより確実に高めることが出来る。従って、本発明によれば、高剛性部の高さを大きくとらなくても、その剛性を大きく高めることが出来、その結果、フロアパネルの車体下方及び上方に設けられた排気管や補機類等に干渉することなく、或いは、乗員の足の踏み感を悪化させることなく、上述した高剛性部と低剛性部との剛性差を確実に得ることが出来る。これらの結果、フロアパネル形状に高さ方向の制約があっても、車体のフレーム部材から伝わった振動によるフロアパネルからの音響放射を低減させることが出来る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フロアパネル形状に高さ方向の制約があっても、車体のフレーム部材から伝わった振動によるフロアパネルの振動エネルギを効果的に低減させ、フロアパネルからの音響放射を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態によるフロアパネルを備えた自動車のアンダボディを示す斜視図である。図1に示すように、自動車のアンダボディ1は、車室の床部分(フロア部分)を構成する複数のフロアパネル2、4、6、8、10、12、14、16と、これらのフロアパネルが接続された複数のフレーム部材とから構成されている。複数のフレーム部材は、車体前後方向に延びるフロントサイドフレーム18、サイドシル20、フロアサイドフレーム22、リアサイドフレーム24、車幅方向に延びるNo.1乃至No.9クロスメンバ26〜34、これらのクロスメンバ間に設けられた車体前後方向に延びるNo.1乃至No.3トンネルサイドメンバ36〜38である。
【0022】
先ず、図1により、フレーム部材を説明する。自動車のアンダボディ1の車体前方部分には、エンジンルームを左右両側から囲むように車体前後方向に延びる閉断面構造の一対のフロントサイドフレーム18が設けられている。これらのフロントサイドフレーム18の車体前端部には閉断面構造のNo.1クロスメンバ26が接合され、さらに、これらのフロントサイドフレーム18には、エンジン40及びフロントサスペンションクロスメンバ42が取り付けられ、このフロントサスペンションクロスメンバ42には、フロントサスペンション44が取り付けられている。
一対のフロントサイドフレーム18の後端部は、フロア部分の車体前側の端縁部で車幅方向に延びるNo.2クロスメンバ27に接合されている。このNo.2クロスメンバ27は、車室とエンジンルームを仕切るダッシュパネル(図示せず)の下方傾斜部に取り付けられ、各フロントサイドフレーム18の車体外側に設けられた閉断面構造の一対のトルクボックスメンバ27aと、各フロントサイドフレーム18の中間に挟まるように配置された閉断面構造のダッシュロアクロスメンバ27bとから構成されている。
【0023】
このNo.2クロスメンバ27より車体後方のフロア部分に設けられた一対のサイドシル20は、閉断面構造のものであり、その前端部がNo.2クロスメンバ27の車幅方向の両端部に接合されている。これらのサイドシル20の間には、それぞれ車体前後方向に延びる一対の断面コ字状のフロアサイドフレーム22が設けられ、これらのフロアサイドフレーム22の前端部は、フロントサイドフレーム18の後端部に接合されると共にNo.2クロスメンバ27に接合されている。これらのフロアサイドフレーム22は、No.3クロスメンバ28とNo.4クロスメンバ29との間22aで車幅方向内方に張り出すように湾曲し、No.5クロスメンバ30との連結部30aにおいて車幅方向に折り曲げられ、その他の部分は直線状に延びている。
【0024】
これらのフロアサイドフレーム22の後端部には、それぞれ断面コ字状の車体前後方向に延びるリアサイドフレーム24の前端部が接合されている。また、これらのリアサイドフレーム24の前端部は、車幅方向外方に向けて曲がり、サイドシル20の車幅方向内方の側面にも接合され、この前端部には、車幅方向に延びる補強部材24aが設けられている。これらのリアサイドフレーム24は、フロア部分の車体後側の端縁部まで延び、これらのリアサイドフレーム24には、そのNo.7クロスメンバ32とNo.8クロスメンバ33との間にリアサスペンションクロスメンバ46が取り付けられ、このリアサスペンションクロスメンバ46には、リアサスペンション48が取り付けられている。
【0025】
また、No.2クロスメンバ27の車体後方側には、No.2クロスメンバ27に平行に車幅方向に直線状に延びNo.3クロスメンバ28が設けられている。このNo.3クロスメンバ28は、その車幅方向の左右両端部がそれぞれサイドシル20に接合され、また、その車幅方向の左右両側においてフロアサイドフレーム22と交差すると共にフロアサイドフレーム22に接合されている。このNo.3クロスメンバ28の車体後方側には、No.3クロスメンバ28に平行に車幅方向に直線状に延びるNo.4クロスメンバ29が設けられ、その車幅方向の左右両端部はサイドシル20に接合されている。また、No.4クロスメンバ29は、その車幅方向の左右両側においてフロアサイドフレーム22と交差すると共にフロアサイドフレーム22に接合されている。これらのNo.3及びNo.4クロスメンバ28、29は、フロアトンネル部50が設けられる車幅方向のほぼ中央位置において上方に突出している。
【0026】
No.4クロスメンバ29の車体後方側には、No.5乃至No.7クロスメンバ30、31、32が設けられ、各クロスメンバ30〜32は、互いに平行に車幅方向に直線状に延びている。No.5クロスメンバ30の車幅方向の左右両端部は、それぞれフロアサイドフレーム22に接合され、No.6及びNo.7クロスメンバ31、32の車幅方向の左右両端部は、それぞれリアサイドフレーム24に接合されている。No.7クロスメンバ32の車体後方側には、その車幅方向のほぼ中央が前方側に湾曲したNo.8クロスメンバ33が車幅方向に延びるように設けられ、その車幅方向の左右両端部がそれぞれリアサイドフレーム24に接合されている。
このNo.8クロスメンバ33の車体後方側には、フロア部分の車体後側の端縁部で車幅方向に直線状に延びる閉断面構造のNo.9クロスメンバ34が設けられ、その車幅方向の左右両端部がそれぞれリアサイドフレーム24の後端部に接合されている。
【0027】
さらに、車体前後方向の補強部材として、上述したフロントサイドフレーム18、サイドシル20、フロアサイドフレーム22及びリアサイドフレーム24に加えて、フロアトンネル部50の車幅方向の両側の縁部でそれぞれ車体前後方向に延びる断面コ字状のNo.1乃至No.3トンネルサイドメンバ36〜38が配設されている。No.1トンネルサイドメンバ36は、No.2クロスメンバ27とNo.3クロスメンバ28との間にわたって直線状に延び、その車体前後方向の両端部は、それぞれ、No.2クロスメンバ27及びNo.3クロスメンバ28に接合されている。No.2トンネルサイドメンバ37は、No.4クロスメンバ29とNo.5クロスメンバ30との間にわたって直線状に延び、その車体前後方向の両端部は、それぞれ、No.4クロスメンバ29及びNo.5クロスメンバ30に接合されている。No.3トンネルサイドメンバ38は、No.6クロスメンバ31とNo.7クロスメンバ32との間にわたって直線状に延び、その車体前後方向の両端部は、それぞれ、No.6クロスメンバ31及びNo.7クロスメンバ32に接合されている。
【0028】
上述した断面コ字状のフレーム部材、即ち、フロアサイドフレーム22、リアサイドフレーム24、No.3乃至No.8クロスメンバ28〜33、及び、No.1乃至No.3トンネルサイドメンバ36〜38は、いずれも、断面コ字状の開放部が車体上方に向くように形成され、各フロアパネル2、4、6、8、10、12、14、16の下面が、これらの各フレーム部材のフランジ部に接合され、略矩形の閉断面が構成される。
【0029】
次に、図1により、フロアパネルを説明する。図1に示すように、自動車のアンダボディ1には、それぞれ鋼板を一体でプレス成形した第1乃至第8フロアパネル2、4、6、8、10、12、14、16が設けられている。
【0030】
第1フロアパネル2は、No.2クロスメンバ27、一対のサイドシル20及びNo.3クロスメンバ28により囲まれた空間を覆うように設けられ、その車幅方向のほぼ中央位置で車体前後方向に延びるように上方に膨出するフロアトンネル部50が形成されている。第1フロアパネル2は、その前縁部がNo.2クロスメンバ27の車体後方側面に接合され、残りの3辺の縁部の下面が、一対のサイドシル20及びNo.3クロスメンバ28にそれぞれ接合され、さらに、その車幅方向の左右両側において、No.1トンネルサイドメンバ36及びフロアサイドフレーム22に、その下面が接合されている。この第1フロアパネル2には、各フレーム部材20、22、27、28、36により囲まれたパネル領域S1及びS2が、フロアトンネル部50の車幅方向の左右両側にそれぞれ形成されている。
【0031】
第2フロアパネル4は、No.3クロスメンバ28、一対のサイドシル20及びNo.4クロスメンバ29により囲まれた空間を覆うように設けられ、その車幅方向のほぼ中央位置で車体前後方向に延びるように上方に膨出するフロアトンネル部50が形成されている。この第2フロアパネル4は、その4辺の縁部の下面が、No.3クロスメンバ28、一対のサイドシル20及びNo.4クロスメンバ29にそれぞれ接合され、さらに、その車幅方向の左右両側において、フロアサイドフレーム22にその下面が接合されている。また、第2フロアパネル4のフロアトンネル部50の車幅方向の両縁部には、一直線状に折り曲げられた折れ部54が形成され、この折れ部54からフロアトンネル部50が立ち上がっている。さらに、第2フロアパネル4には、上述したフロアサイドフレーム22の湾曲部22aに沿って、その両側に直線状のビード部56が形成されている。このビード部56は、第2フロアパネル4自身を車体上方に突出して形成され、No.3クロスメンバ28からNo.4クロスメンバ29まで延びている。この第2フロアパネル4には、各フレーム部材20、22、28、29、折れ部54及びビード部56により囲まれたパネル領域S3及びS4が、フロアトンネル部50の車幅方向の左右両側にそれぞれ形成されている。
【0032】
第3フロアパネル6は、No.4クロスメンバ29、フロアサイドフレーム22及びNo.5クロスメンバ30により囲まれた空間を覆うように設けられ、その車幅方向のほぼ中央位置で車体前後方向に延びるように上方に膨出するフロアトンネル部50が形成されている。この第3フロアパネル6は、その4辺の縁部の下面が、No.4クロスメンバ29、各フロアサイドフレーム22及びNo.5クロスメンバ30にそれぞれ接合され、さらに、その車幅方向の左右両側において、No.2トンネルサイドメンバ37に、その下面が接合されている。さらに、この第3フロアパネル6には、フロアトンネル部50の左右両側において、No.4クロスメンバ29及びNo.5クロスメンバ30に平行に車幅方向に直線状に延びるビード部58が形成されている。このビード部58は、第3フロアパネル6自身を車体上方に突出して形成したものである。この第3フロアパネル6には、各フレーム部材22、29、30、37及びビード部58により囲まれたパネル領域S5及びS6が、フロアトンネル部50の車幅方向の左右両側にそれぞれ形成されている。
【0033】
第4フロアパネル8は、第3フロアパネル6の車幅方向外方にそれぞれ設けられ、No.4クロスメンバ29、サイドシル20、フロアサイドフレーム22及びリアサイドフレーム24により囲まれた空間を覆うように車体前後方向に延び、その後縁部がNo.8クロスメンバ33の近傍まで延びている。これらの第4フロアパネル8は、各フレーム部材20、22、24、29に接合されている。
【0034】
第5フロアパネル10は、No.5クロスメンバ30、No.6クロスメンバ31、一対のフロアサイドフレーム22及び一対のリアサイドフレーム24により囲まれた空間を覆うように設けられ、その4辺の縁部の下面が、それぞれ、それらのフレーム部材22、24、30、31に接合されている。また、第5フロアパネル10のフロアトンネル部50の車幅方向の両縁部には、一直線状に折り曲げられた折れ部54が形成され、この折れ部54からフロアトンネル部50が立ち上がっている。この第5フロアパネル10には、各フレーム部材22、24、30、31及び折れ部54により囲まれたパネル領域S7が、フロアトンネル部50の車幅方向の左右両側にそれぞれ形成されている。
【0035】
第6フロアパネル12は、No.6クロスメンバ31、No.7クロスメンバ32及び一対のリアサイドフレーム24により囲まれた空間を覆うように設けられ、その4辺の縁部の下面が、それぞれ、それらのフレーム部材24、31、32にそれぞれ接合され、さらに、その車幅方向の左右両側において、No.3トンネルサイドメンバ38に、その下面が接合されている。この第6フロアパネル12には、各フレーム部材24、31、32、38により囲まれたパネル領域S8が、フロアトンネル部50の車幅方向の左右両側にそれぞれ形成されている。
【0036】
第7フロアパネル14は、No.7クロスメンバ32、No.8クロスメンバ33及び一対のリアサイドフレーム24により囲まれた空間を覆うように設けられ、その4辺の縁部の下面が、それぞれ、それらのフレーム部材24、32、33に接合されている。
第8フロアパネル16は、No.8クロスメンバ33、No.9クロスメンバ34及び一対のリアサイドフレーム24により囲まれた空間を覆うように設けられ、その4辺の縁部の下面が、それぞれ、それらのフレーム部材24、33、34に接合されている。
【0037】
このような自動車のアンダボディ1において、エンジン40、フロントサスペンション44及びリアサスペンション48の振動は、それぞれ、フロントサスペンションクロスメンバ42、フロントサイドフレーム18、リアサスペンションクロスメンバ46を経由して、一対のフロアサイドフレーム22及びリアサイドフレーム24に大きく伝達され、さらに、各クロスメンバ26〜34、サイドシル20、各トンネルサイドメンバ36〜38に伝達され、これらの振動が各フロアパネル2〜16に伝達される。各フロアパネルに伝達される振動は、上述したように、特にタイヤの空洞共鳴に起因したロードノイズである250Hz付近の周波数にピークを有する主に400Hz以下の振動であり、このような振動によりフロアパネルからの音響放射が生じ、車室内の振動騒音を悪化させる要因となる。
本発明の実施形態では、フロアパネル2に振動低減構造を設けることにより、フレーム部材からフロアパネル2に伝達された振動によるフロアパネル2からの音響放射を抑制するようにしている。なお、他のフロアパネル4、6、8、10、14、16は、従来のパネルで構成されている。
【0038】
ここで、振動低減構造を説明する。振動低減構造は、フレーム部材などで囲まれたフロアパネルの所定の領域(パネル領域)に、所定の剛性の高い部分(高剛性部)と所定の剛性の低い部分(低剛性部)とを設けたものである。フロアパネルに伝達された振動の振動エネルギは、高剛性部と低剛性部との剛性差により低剛性部に集中し、この集中した振動エネルギにより生じる大きな振動ひずみとフロアパネルを構成する材質(鋼板)自体の減衰能により、振動エネルギが熱エネルギに変換される。その結果、フロアパネルの振動が低減するので、フロアパネルからの音響放射が低減される(振動低減効果)。さらに、低剛性部に制振材を設けると、低剛性部の歪みに伴ってその制振材が歪むので、低剛性部に集中した振動エネルギがさらに大きく低減され、その結果、フロアパネルからの音響放射がより効果的に低減される。
【0039】
また、高剛性部をパネル領域の中央部に設けると共に低剛性部をその周囲の全域に高剛性部を囲むように設けることにより、後述するように、振動が低剛性部に大きく且つ確実に集中する。また、フレーム部材からフロアパネルに伝達される振動が、高剛性部に伝達される前に低減される(振動遮断効果)。さらに、フレーム部材を介してフロアパネルに伝達される振動の振動エネルギが、フロアパネル全体に分散されずに低減される。これらの結果、フロアパネルからの音響放射をより確実に低減させることが出来る。
【0040】
図2及び図3により、実験により得られた、このような振動低減構造による音響放射の低減の効果を説明する。図2は、振動低減構造を有するフロアパネルの実験モデルを示す平面図(a)及びA-A線に沿って見た断面図(b)であり、図3は、図2の実験モデル及び従来のパネルの実験モデルから得た実験結果を示す線図である。
図2に示すように、実験モデルは、平面視で正方形状に配置した断面矩形の実験用のフレーム部材60に、振動低減構造を有するパネル62を取り付けたものである。パネル62は、厚さ約0.7mmの鋼鈑をプレス成形したものであり、フレーム部材60に囲まれたパネルの大きさは、いずれも、縦横の長さがそれぞれ約300mmの大きさとなっている。このパネル62には、高剛性部64と、この高剛性部64の周囲の全域の平らな低剛性部66とが形成され、低剛性部66に制振材68が貼付けられている。
【0041】
また、従来のパネルとして、このパネル62と同じ厚さの鋼鈑で全面を平らに形成したパネルをフレーム部材60に取り付けた実験モデルも用意した(図示せず)。この従来のパネルには、その全面に、パネル62と同量の制振材を貼付けた。実験では、フロアパネルが取り付けられているフレーム部材60の一部を加振器で500Hz以下の周波数(ホワイトノイズ)の加振力を与えて、フレームの振動の大きさに対するパネルの振動の大きさの比(振動率)を測定した。
図3に示すように、振動低減構造を有するパネル62の振動率は、従来のパネルに対し、400Hz以下の周波数の比較的全域に亘って低下し、特に、タイヤの空洞共鳴に起因するロードノイズにより250Hz付近に現れるピークの高さが大きく低下している。このように、振動低減構造によりパネルから放射される音響放射が低減されると言える。
【0042】
次に、図4(a)乃至図4(c)により、本発明の第1実施形態を具体的に説明する。本発明の第1実施形態はフロアパネル2に適用され、そのパネル領域S1及びS2にそれぞれ本実施形態による振動低減構造が設けられている。パネル領域S1及びS2の振動低減構造の構成はそれぞれ同じであり、また、フロアトンネル部50に対し車幅方向の左右両側でも同じである。従って、以下では、図4により、進行方向に対し車幅方向左側のパネル領域S1について説明し、その他のパネル領域については説明を省略する。図4(a)は、本発明の第1実施形態によるフロアパネル2のパネル領域S1を示す拡大平面図であり、図4(b)及び図4(c)は、それぞれ、図4(a)のb−b線及びc−c線に沿って見たフロアパネル2の断面構造を示す断面図である。
【0043】
先ず、図4(a)に示すように、パネル領域S1は、フレーム部材20、22、27、28に囲まれた長方形状の領域であり、各フレーム部材20、22、27、28がそれぞれ直線状に延びると共に対向するフレーム部材が互いに平行に延びている。
このパネル領域S1には、その中央部に高剛性部70が1つ形成されると共にこの高剛性部70の周りの全域に高剛性部70を囲むようにロ字状に延びる低剛性部72が形成されている。
【0044】
次に、図4(b)及び図4(c)に示すように、高剛性部70は、フロアパネル自身をその面外方向、本実施形態では上方向に突出させて一体成形され、境界部70aでは、低剛性部72から不連続な角度で立ち上げられている。一方、低剛性部72は、その剛性が高剛性部70より小さくなるように、ほぼ平らに形成されている。
【0045】
図4(a)乃至図4(c)に示すように、その低剛性部72の上面には、制振材74が貼り付けられている。この制振材74はアスファルト系制振材であり、高剛性部70の周縁部(低剛性部との境界部)70aに沿った長方形状の開口を有すると共に、低剛性部72の形状に合わせてロ字状に延びるシート状に形成され、低剛性部72の全域にわたって設けられている。なお、制振材74は、塗布型制振材などの他の制振材でも良い。
【0046】
次に、図4(a)に示すように、高剛性部70は、そのパネル領域S1の形状に合わせた長方形状に形成され、境界部70aの4つの辺が直線状に延びると共に各フレーム部材20、22、27、28と平行になるように形成されている。このように形成することにより、低剛性部72の剛性を高めないようにして、高剛性部70と低剛性部72との剛性差が確実に得られるようにしている。即ち、境界部70aが曲線状に延びると、低剛性部72の剛性を高めてしまうが、直線状に延びるようにすれば、低剛性部72の剛性を高めなくて済むのである。
【0047】
また、高剛性部70は、平面視で、パネル領域S1に占めるその面積の割合が大きくなるように(その面積が少なくとも低剛性部72より大きくなるように)形成されている。一方、低剛性部72の幅(境界部70aの各辺と各フレーム部材20、22、27、28との相対距離)は、低剛性部72に振動が集中するように所定距離隔てられている。このように、高剛性部70は、低剛性部72への振動の集中を妨げないように、パネル領域S1の大部分にわたって形成されている。
【0048】
次に、図4(a)に示すように、高剛性部70には、平面視で楕円形状の曲面凹部70bが形成されている。この曲面凹部70bは、高剛性部70の中央部に形成されており、その周縁部70cが曲線状に延び、楕円形状となっている。この曲面凹部70bは、その楕円の長軸が、長方形状の高剛性部70の長手方向に延び、且つ、高剛性部70の長手方向の中間部(長手方向の中間で、高剛性部70の短辺方向に延びる部分)70dを横断するように形成されている。
【0049】
図4(b)及び図4(c)にその一部の断面を示すように、この曲面凹部70bは、高剛性部70の全体の突出方向である上方向に対し反対方向である下方向に凹状に湾曲して突出している。そして、この曲面凹部70bは、曲率の連続した曲面(曲率が不連続に変化する部分のない曲面)で構成されている。本実施形態では、曲率が全面にわたって連続的に変化している。
【0050】
一方、高剛性部70において曲面凹部70b以外の部分(曲面凸部)70eは、凸状に湾曲する曲面で構成され、その曲率は全面にわたって連続している。そして、この曲面凸部70eと曲面凹部70bとの境界部70cでは、曲率が不連続となっている。
【0051】
高剛性部70の低剛性部72から最も突出した部分の高さh(周縁部70cの低剛性部72に対する高さ)が8mmであり、また、曲面凹部70bの突出高さhb(周縁部70cに対する高さ)が6mmとなるように形成されている。従って、曲面凹部70bが、低剛性部72より下方に突出しないようになっている。このように、この第1実施形態では、高剛性部70全体が、低剛性部72に対し上方に突出するように形成されている。
【0052】
次に、第1実施形態の作用効果を説明する。
先ず、フロアパネル2には、そのパネル領域(S1、S2)に、高剛性部70と低剛性部72とが設けられているので、それらの剛性差により、低剛性部72に振動エネルギが集中する。そして、上述したように、低剛性部72において、フロアパネル2の振動エネルギが低減され、フロアパネル2からの音響放射を低減させることが出来る。さらに、低剛性部72には制振材74が設けられているので、上述したように、パネル領域からの音響放射をさらに効果的に低減させることが出来る。
【0053】
ここで、本実施形態のフロアパネル2には、高剛性部70を「質点」、低剛性部72を、その質点(高剛性部70)とフレーム部材とをつなぐ「ばね」とする振動系(ばね−マス系)が形成されているとみなすことが出来る。フレーム部材は、加振源とみなすことが出来る。このような振動系においては、ばね(低剛性部72)で支えられた質点(高剛性部70)が、一つであり且つ重い方が、ばねがより大きくたわむ(低剛性部72が大きく歪む)と共に質点の振動が小さくなる(高剛性部70に伝達される振動がばね低剛性部72で効果的に遮断される(振動遮断効果))。本実施形態では、このような観点に基づき、高剛性部70をパネル領域S1の中央部に1つだけ形成すると共にその面積を比較的大きくとり、その周囲の全域に高剛性部70を取り囲むように低剛性部72を形成している。従って、低剛性部72を大きく歪ませることが出来、その結果、上述した振動低減効果がより確実に得られる。また、フレーム部材からフロアパネルに伝達される振動のうち、高剛性部70に伝達される振動を低剛性部72で効果的に遮断することが出来、その結果、比較的大きな面積を有する高剛性部70からの音響放射が抑制される。さらに、フレーム部材を介してフロアパネルに伝達される振動の振動エネルギが、フロアパネル全体に分散されずに低減されることになる。
【0054】
次に、高剛性部70には曲面凹部70bが形成されているので、高剛性部70の剛性を、曲面凹部70bを形成しない場合よりも、さらに高めることが出来る。即ち、曲面凹部70bは、その湾曲した曲面形状によりそれ自体の剛性が高く、また、平面視で楕円形状であり周縁部が曲線状に延びるので、長方形状に延びる高剛性部70の車体前後方向及び車幅方向を含むあらゆる方向の剛性を高めることが出来る。さらに、曲面凹部70bは、その全面にわたって曲率が連続するので、高剛性部70の剛性をより確実に高めることが出来る。なお、曲面凹部70bは、曲率が連続していれば、曲率が一定である部分(断面が円弧状になる部分)を含んでも良く、このような場合でも同様の作用が得られる。
【0055】
ここで、高剛性部の剛性を高めるには、高剛性部の高さを大きくとるのが有効であるが、フロアパネルの車体下方或いは上方に設けられた排気管や補機類等と干渉し、或いは、乗員の足の踏み感を悪化させてしまう場合がある。しかし、本実施形態によれば、曲面凹部70bにより、高剛性部70の剛性をより高めることが出来るので、高剛性部70の高さを排気管等と干渉せず或いは乗員の足の踏み感を悪化させない高さに抑えつつ、高剛性部70の剛性を確実に高めることが出来る。
【0056】
また、高剛性部を長方形状に形成した場合、その長手方向の距離が大きい程、その面外方向の突出高さを大きくしなければ剛性を高めにくい。しかし、本実施形態では、曲面凹部70bは、高剛性部70の中央部で楕円形状に延び、その楕円の長軸が、長方形状の高剛性部70の長手方向に延び、さらに、長方形状の高剛性部70の長手方向の中間部70dを横断するように形成されている。従って、高剛性部の高さを抑えても、その長手方向の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0057】
同様に、パネル領域の面積が大きい場合、低剛性部に振動を集中させるために高剛性部の面積を大きくとるのが有効であり、その場合、高剛性部の剛性を高めるためには面積が小さい場合よりもその突出高さを大きくしなければ剛性を高めにくい。しかし、このような場合でも、本実施形態の曲面凹部70bによれば、高剛性部の高さを抑えつつ、高剛性部の剛性を確実に高めることが出来る。
【0058】
次に、本実施形態では、高剛性部70全体が、低剛性部72に対し上方に突出するように形成されている。従って、フロアパネルの下方に配置された排気管等との干渉を防止することが出来る。ここで、本出願人は、高剛性部70の突出高さが10mm以下であれば、乗員の足の踏み心地が悪化しないことを見出している。本実施形態では、高剛性部70の突出高さhが8mmであるので、乗員の足の踏み心地を悪化させることも防止することが出来る。なお、高剛性部の全体が下方に突出するようにしても良く、この場合、車室側に配置された補機類等との干渉を防止することが出来る。
【0059】
このようにして、本実施形態によれば、排気管等との干渉や乗員の足の踏み心地の悪化を防止しつつ、低剛性部との剛性差をより確実に大きく得ることが出来る。その結果、上述した振動の低減効果により、フロアパネルからの音響放射をより確実に低減させることが出来る。
【0060】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。本発明の第2実施形態は、第1実施形態と同様に図1に示す自動車のアンダーボディ1のフロアパネル2に適用されている。この第2実施形態では、高剛性部80に後述する溝部80fが形成され、その他の基本構成は上述した第1実施形態と同様である。ここでは、図5(a)乃至図5(c)により、主に第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。図5(a)は、本発明の第2実施形態によるフロアパネル2のパネル領域S1を示す拡大平面図であり、図5(b)及び図5(c)は、それぞれ、図5(a)のb−b線及びc−c線に沿って見たフロアパネル2の断面構造を示す断面図である。
【0061】
図5(a)乃至図5(c)に示すように、この第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、パネル領域S1の中央部に高剛性部80が形成されると共にこの高剛性部80の周りの全域に高剛性部80を囲むように低剛性部82が形成されている。また、第1実施形態と同様に、低剛性部82に制振材84が設けられている。さらに、高剛性部80には、第1実施形態と同様に、平面視で楕円形状の曲面凹部80bが形成されている。
【0062】
次に、この第2実施形態では、このような第1実施形態と同様の構成に加え、溝部80fが形成されている。図5(a)に示すように、溝部80fは、4つ形成され、それぞれ、曲面凹部80bと低剛性部82とを連通するように曲面凸部80eに形成されている。また、これらの溝部80fは、それぞれ、曲面凹部80bから放射状に延びている。また、図5(c)に示すように、これらの溝部80fは、高剛性部80の突出方向(上方向)に対し反対方向(下方向)に突出するように形成されている。
【0063】
次に、第2実施形態の作用効果を説明する。
先ず、この第2実施形態においては、第1実施形態と同様の構成については、上述した第1実施形態の作用効果と同様の作用効果を奏する。特に、上述した第1実施形態の作用効果と同様に、高剛性部80と低剛性部82により、パネル領域の振動エネルギが低減されるので、パネル領域からの音響放射を低減させることが出来る。また、制振材84により、さらにパネル領域の振動エネルギが低減される。また、高剛性部80がパネル領域(S1、S2)の中央部に1つだけ形成されると共にその面積が比較的大きくとられ、その周囲の全域に高剛性部80を取り囲むように低剛性部82が形成されているので、低剛性部82に振動が効果的に集中して大きく歪み、また、高剛性部80に伝達される振動が低剛性部82で効果的に遮断され、さらに、フレーム部材20、22、27、28を介してフロアパネル2に伝達される振動の振動エネルギがフロアパネル全体に分散されずに低減される。これらの結果、フロアパネル2からの音響放射をより確実に低減させることが出来る。
また、この第2実施形態では、第1実施形態の構成に加え、溝部80fが形成されている。この溝部80fの作用を説明する。溝部80fを形成することにより、主にその溝部80fが延びる方向に対する高剛性部80の剛性を高めることが出来る。特に、溝部80fは、曲面凸部80eに形成され、曲面凹部80bと低剛性部82とを連通するように延びているので、高剛性部80の剛性をより確実に高めることが出来る。また、溝部80fは複数形成され、曲面凹部80bから放射状に延びるので、車体前後方向及び車幅方向を含むあらゆる方向に対して、高剛性部80の剛性をより確実に高めることが出来る。
なお、溝部80fは、低剛性部82及び/又は曲面凹部80bと連通せずに、低剛性部82や曲面凹部80bの近傍まで延びるように、曲面凸部80eに形成しても良い。この場合も、溝部80fは、放射状に延びるのが好ましい。
【0064】
このようにして、この第2実施形態によれば、曲面凹部80b及び溝部80fにより、排気管等との干渉や乗員の足の踏み心地の悪化を防止しつつ、低剛性部との剛性差をより確実に大きく得ることが出来る。その結果、上述した振動の低減効果により、フロアパネルからの音響放射をより確実に低減させることが出来る。
【0065】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。本発明の第3実施形態は、第1実施形態と同様に図1に示す自動車のアンダーボディ1のフロアパネル2に適用されている。この第3実施形態では、高剛性部90が波形状部を有し、その波形状部に、上述した各実施形態と同様の曲面凹部90b及び溝部90fが形成されている。その他の基本構成は、上述した第1及び第2実施形態と同様であるので、ここでは、図6(a)乃至図6(d)により、主に上述した各実施形態と異なる点についてのみ説明する。図6(a)は、本発明の第3実施形態によるフロアパネル2のパネル領域S1を示す拡大平面図であり、図6(b)乃至図6(d)は、それぞれ、図6(a)のb−b、c−c線及びd−d線に沿って見たフロアパネル2の断面構造を示す断面図である。なお、図6(a)においては、高剛性部90の車体上下方向(フロアパネル2の面外方向)への突出度合いに応じた等高線を合わせて示している。高剛性部90において、低剛性部92との境界部90a、曲面凹部90bの周縁部90c及び溝部90fを示す線以外の線は、そのような等高線を示すものである。
【0066】
図6(a)乃至図6(c)に示すように、この第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、パネル領域S1の中央部に平面視で長方形状の高剛性部90が形成されると共にこの高剛性部90の周りの全域に平面視で高剛性部90を囲むようにロ字状に延びると共に断面が平らである低剛性部92が形成されている。また、第1実施形態と同様に、低剛性部92に制振材94が設けられている。
【0067】
次に、図6(a)及び図6(b)に示すように、この第3実施形態では、高剛性部90は、その車体前後方向の前方側の領域で上方向に突出した曲面部90gと、後方側の領域で下方向に突出した凹形状の曲面部90hとで波形状に形成されており、この2つの曲面部90g、90hで構成される波形状部に、後述するように第1実施形態と同様の平面視で楕円形状の曲面凹部90b及び溝部90fが形成されている。
【0068】
先ず、波形状部について説明する。図6(b)乃至図6(d)に示すように、高剛性部90には、その境界部90aの全周にわたって、低剛性部92から不連続な角度で上方に向けて立ち上げられた立ち上げ部90eが形成され、その立ち上げ部90eの上端位置(基準高さhe)に対し、曲面部90gが上方向に突出して車室に対して凸状に形成され、曲面部90hが下方向に突出して車室に対して凹状に形成されている。各曲面部90g、90hは、互いに同じ大きさ及び形状に形成されると共に曲率の連続した曲面で構成されている。さらに、各曲面部90g、90hにわたっても曲率が連続するように、その境界部90dの近傍で曲率が連続して変化し、境界部90dでは曲率が0となっている。
【0069】
このように、高剛性部90には、各曲面部90g、90hが、長方形状の高剛性部90の長手方向(長辺方向)に並んで形成され、その長手方向の断面形状が波形状となるような、即ち、凸状の曲面と凹状の曲面が長手方向に連続して表れるような波形状部が形成されている。
立ち上げ部90eの高さheは6mmであり、その上端位置(基準高さhe)に対する各曲面部90g、90hの高さは、それぞれ4mmと互いに同一となるように形成されている。従って、曲面部90gの低剛性部92から最も突出した部分の高さhは、最大でも10mmとなっている。そして、これらの各曲面部90g、90hに対し、曲面凹部90bが、下方に突出するように形成されているので、高剛性部90の高さは、10mm以下となる。また、高剛性部90全体が、低剛性部92に対し上方に突出するように曲面凹部90bが形成されている。
【0070】
次に、曲面凹部90bについて具体的に説明する。図6(a)に示すように、曲面凹部90bは、上述した波形状部の各曲面部90g、90hにわたって形成されている。具体的には、高剛性部90の中央部に形成されると共に、その楕円の長軸が、長方形状の高剛性部90の長手方向に延び、且つ、各曲面部90g、90hの境界部90dを横断するように形成されている。
【0071】
図6(b)乃至図6(d)に示すように、曲面凹部90bは、曲面部90gに対しては、その突出方向と反対方向に突出し、曲面部90hに対しては、その突出方向と同じ方向にさらに下方に突出している。この曲面凹部90bは、第1実施形態と同様に、高剛性部90全体の突出方向と反対方向である下方向に凹状に湾曲して突出すると共に曲率の連続した曲面で構成されている。
【0072】
次に、溝部90fについて説明する。図6(a)に示すように、第2実施形態と同様に、曲面凹部90bと低剛性部92とを連通するように、曲面凹部90bに対して放射状に延びる溝部90fが形成されている。図6(c)及び図6(d)に示すように、溝部90fは、いずれも、曲面部90g、90h或いは立ち上げ部90eに対し、下方向に突出するように形成されている。
【0073】
次に、第3実施形態の作用効果を説明する。
先ず、本実施形態においては、第1実施形態と同様の構成については、上述した第1実施形態の作用効果と同様の作用効果を奏する。特に、上述した第1実施形態の作用効果と同様に、高剛性部90と低剛性部92により、パネル領域の振動エネルギが低減されるので、パネル領域からの音響放射を低減させることが出来る。また、制振材94により、さらにパネル領域の振動エネルギが低減される。また、高剛性部90がパネル領域(S1、S2)の中央部に1つだけ形成されると共にその面積が比較的大きくとられ、その周囲の全域に高剛性部90を取り囲むように低剛性部92が形成されているので、低剛性部92に振動が効果的に集中して大きく歪み、また、高剛性部90に伝達される振動が低剛性部92で効果的に遮断され、さらに、フレーム部材20、22、27、28を介してフロアパネル2に伝達される振動の振動エネルギがフロアパネル全体に分散されずに低減される。これらの結果、フロアパネル2からの音響放射をより確実に低減させることが出来る。また、溝部90fに関しては、第2実施形態の作用効果と同様の作用効果を奏する。
次に、この第3実施形態では、高剛性部90は波形状部(90g、90h、90d)を有するので、高剛性部90の剛性をより確実に高めることが出来る。即ち、波形状部を構成する曲面部90g、90hは、その湾曲した曲面形状によりそれ自体の剛性が高く、さらに、波形状部全体で曲率が連続しているので、高剛性部90全体の剛性を高めることが出来るのである。特に、その波形状が延びる方向、即ち、凸状の曲面と凹状の曲面が連続して表れる方向に、剛性を高めることが出来る。本実施形態では、高剛性部70の長手方向に凹凸が連続する波形状となっているので、高剛性部の高さを抑えても、その長手方向の剛性をより確実に高めることが出来る。また、各曲面部90g、90hの高さが同一であるので、高剛性部90の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0074】
さらに、その波形状部の曲面部90g、90hにわたって、第1実施形態と同様に、曲率の連続した曲面で構成された曲面凹部90bが形成されているので、高剛性部90の剛性をより確実に高めることが出来る。特に、曲面凹部90bは、高剛性部90の中央部に形成されると共に、その楕円の長軸が、各曲面部90g、90hの境界部90dを横断するように高剛性部90の長手方向に延びているので、高剛性部90の長手方向の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0075】
このように、この第3実施形態においては、波形状部(90g、90h、90d)、曲面凹部90b及び溝部90fにより、排気管等との干渉や乗員の足の踏み心地の悪化を防止しつつ、低剛性部との剛性差をより確実に大きく得ることが出来る。その結果、上述した振動の低減効果により、フロアパネルからの音響放射をより確実に低減させることが出来る。なお、本実施形態の変形例として、立ち上がり部90eを形成せず、曲面部90g及び90hが、それぞれ、低剛性部92に対し上方及び下方に突出するように形成しても良い。この場合には、乗員の足の踏み感を悪化させないように、高剛性部を、その最も上方の部分の低剛性部からの高さと、最も下方の部分の低剛性部からの高さとを合わせて10mm以下となるように形成するのが好ましい。
【0076】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。本発明の第4実施形態は、第1実施形態と同様に図1に示す自動車のアンダーボディ1のフロアパネル2に適用されている。この第4実施形態では、高剛性部100が第3実施形態とは異なる形状の波形状部を有し、その波形状部に、上述した各実施形態と同様の曲面凹部100bが形成されている。その他の基本構成は、上述した各実施形態と同様であるので、ここでは、図7(a)乃至図7(c)により、主に上述した各実施形態と異なる点についてのみ説明する。図7(a)は、本発明の第4実施形態によるフロアパネル2のパネル領域S1を示す拡大平面図であり、図7(b)及び図7(c)は、それぞれ、図7(a)のb−b線及びc−c線に沿って見たフロアパネル2の断面構造を示す断面図である。なお、図7(a)においても、図6(a)と同様に等高線を合わせて示し、高剛性部100において、低剛性部102との境界部100a及び曲面凹部100bの周縁部100cを示す線以外の線は、そのような等高線を示すものである。
【0077】
図7(a)乃至図7(c)に示すように、この第4実施形態においても、第1実施形態と同様に、パネル領域S1の中央部に平面視で長方形状の高剛性部100が形成されると共にこの高剛性部100の周りの全域に平面視で高剛性部100を囲むようにロ字状に延びると共に断面が平らである低剛性部102が形成されている。また、第1実施形態と同様に、低剛性部102に制振材104が設けられている。
【0078】
次に、図7(a)及び図7(b)に示すように、この第4実施形態では、高剛性部100は、2つの曲面部100g、100h及びこれらの曲面部100g、100h間の境界部100dにより波形状部が形成されており、この波形状部に、後述するように第1実施形態と同様の平面視で楕円形状の曲面凹部100bが形成されている。
【0079】
先ず、波形状部について説明する。図7(b)乃至図7(d)に示すように、高剛性部100には、その車体前後方向の前方側及び後方側の領域にいずれも上方向に突出して車室に対して凸状に形成された2つの曲面部100g、100hが形成されている。これらの曲面部100g、100hは、互いに同じ大きさ及び形状に形成されると共に曲率の連続した曲面で構成されている。これらの曲面部100g、100hの低剛性部102からの突出高さは、いずれも8mmである。また、高剛性部100の全体が、低剛性部102に対し面外方向に上方に突出するように形成されている。
【0080】
また、図7(a)で示すように、曲面部100g、100h間の境界部100dは、高剛性部100の長辺方向の中間で、高剛性部100の短辺方向に直線状に延びている。図7(b)に示すように、この境界部100dは、下方に凹状に突出した曲率の連続した曲面で構成され、各曲面部100g、100hと、この境界部100dの凹曲面とは、互いに曲率が連続して変化するように形成されている。従って、境界部100dと、各曲面部100g、100hとのそれぞれの境界(2箇所)で、曲率が0となっている。このように、高剛性部100は、その長手方向の断面形状が波形状となるように形成されている。
【0081】
次に、曲面凹部100bについて説明する。図7(a)に示すように、曲面凹部100bは、上述した波形状部の各曲面部100g、100hにわたって形成されている。具体的には、高剛性部100の中央部に形成されると共に、その楕円の長軸が、長方形状の高剛性部90の長手方向に延び、且つ、各曲面部100g、100hの境界部100dを横断するように形成されている。
【0082】
図7(b)乃至図7(d)に示すように、曲面凹部100bは、曲面部100g及び100hに対して、いずれも、その突出方向と反対方向に突出している。この曲面凹部100bは、第1実施形態と同様に、高剛性部100の全体の突出方向と反対方向である下方向に凹状に湾曲して突出すると共に曲率の連続した曲面で構成されている。
【0083】
次に、第4実施形態の作用効果を説明する。
先ず、本実施形態においては、第1実施形態と同様の構成については、上述した第1実施形態の作用効果と同様の作用効果を奏する。特に、上述した第1実施形態の作用効果と同様に、高剛性部100と低剛性部102により、パネル領域の振動エネルギが低減されるので、パネル領域からの音響放射を低減させることが出来る。また、制振材104により、さらにパネル領域の振動エネルギが低減される。また、高剛性部100がパネル領域(S1、S2)の中央部に1つだけ形成されると共にその面積が比較的大きくとられ、その周囲の全域に高剛性部100を取り囲むように低剛性部102が形成されているので、低剛性部102に振動が効果的に集中して大きく歪み、また、高剛性部100に伝達される振動が低剛性部102で効果的に遮断され、さらに、フレーム部材20、22、27、28を介してフロアパネル2に伝達される振動の振動エネルギがフロアパネル全体に分散されずに低減される。これらの結果、フロアパネル2からの音響放射をより確実に低減させることが出来る。
次に、この第4実施形態では、高剛性部100は波形状部(100g、100h、100d)を有するので、第3実施形態と同様に、高剛性部100の剛性をより確実に高めることが出来、さらに、高剛性部100の長手方向に波形状が延びるので、高剛性部100の長手方向の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0084】
さらに、その波形状部の曲面部100g、100hにわたって、曲率の連続した曲面で構成されている構成された曲面凹部100bが形成されているので、第3実施形態と同様に、高剛性部100の剛性をより確実に高めることが出来る。また、第3実施形態と同様に、高剛性部100の楕円の長軸が、各曲面部100g、100hの境界部100dを横断するように高剛性部100の長手方向に延びているので、高剛性部100の長手方向の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0085】
このように、この第4実施形態においては、波形状部(100g、100h、100d)及び曲面凹部100bにより、排気管等との干渉や乗員の足の踏み心地の悪化を防止しつつ、低剛性部との剛性差をより確実に大きく得ることが出来る。その結果、上述した振動の低減効果により、フロアパネルからの音響放射をより確実に低減させることが出来る。なお、この第4実施形態においても、第2及び第3実施形態と同様の溝部(80f、90f)を形成しても良い。この場合にも、溝部に関して上述した作用効果と同様の作用効果が得られる。
【0086】
次に、本発明の第5実施形態を説明する。本発明の第5実施形態は、第1実施形態と同様に図1に示す自動車のアンダーボディ1のフロアパネル2に適用されている。この第5実施形態では、高剛性部110が、第4実施形態と同様の波形状部を有し、その波形状部に、形状及び突出方向が上述した各実施形態と異なる曲面凹部110bが形成されている。その他の構成は、上述した各実施形態と同様であるので、ここでは、図8(a)乃至図8(c)により、主に上述した各実施形態と異なる点についてのみ説明する。図8(a)は、本発明の第5実施形態によるフロアパネル2のパネル領域S1を示す拡大平面図であり、図8(b)及び図8(c)は、それぞれ、図8(a)のb−b線及びc−c線に沿って見たフロアパネル2の断面構造を示す断面図である。なお、図8(a)においても、図6(a)と同様に等高線を合わせて示し、高剛性部110において、低剛性部112との境界部110a及び曲面凹部110bの周縁部110cを示す線以外の線は、そのような等高線を示すものである。
【0087】
図8(a)乃至図8(c)に示すように、この第5実施形態においても、第1実施形態と同様に、パネル領域S1の中央部に平面視で長方形状の高剛性部110が形成されると共にこの高剛性部110の周りの全域に平面視で高剛性部110を囲むようにロ字状に延びると共に断面が平らである低剛性部112が形成されている。また、第1実施形態と同様に、低剛性部112に制振材114が設けられている。
【0088】
次に、図8(a)及び図8(b)に示すように、この第5実施形態では、第4実施形態と同様に、高剛性部110には、2つの曲面部110g、110h及び境界部110dにより波形状部が形成されている。本実施形態では、この波形状部に、平面視で円形状の曲面凹部110bが上方向に突出して形成されている。
【0089】
この曲面凹部110bについて説明する。図8(a)に示すように、曲面凹部110bは、平面視で円形状に形成され、上述した波形状部の各曲面部110g、110hにわたって形成されている。具体的には、曲面凹部110bが、高剛性部110の中央部に形成されると共に、各曲面部110g、110hの境界部110dを横断するように形成されている。
【0090】
図8(a)乃至図8(c)に示すように、曲面凹部110bは、各曲面部110g、110hの間の谷領域(境界部110dを含む境界部110dの近傍領域)を覆うように、或いは、各曲面部110g、110hを連結するように形成され、高剛性部110の全体の突出方向と同じである上方向に凸状に湾曲して突出している。この曲面凹部110bは、第1実施形態と同様に、曲率の連続した曲面で構成されている。曲面凹部110bは、曲面部110g、110hに対して、いずれも、その突出方向と同じ方向に突出しており、その低剛性部102に対する高さが、各曲面部110g、110hと同じ8mmとなるように形成されている。
【0091】
次に、第5実施形態の作用効果を説明する。
先ず、本実施形態においては、第1実施形態と同様の構成については、上述した第1実施形態の作用効果と同様の作用効果を奏する。特に、上述した第1実施形態の作用効果と同様に、高剛性部110と低剛性部112により、パネル領域の振動エネルギが低減されて、パネル領域からの音響放射を低減させることが出来る。また、制振材114により、さらにパネル領域の振動エネルギが低減される。また、高剛性部110がパネル領域(S1、S2)の中央部に1つだけ形成されると共にその面積が比較的大きくとられ、その周囲の全域に高剛性部120を取り囲むように低剛性部112が形成されているので、低剛性部112に振動が効果的に集中して大きく歪み、また、高剛性部110に伝達される振動が低剛性部112で効果的に遮断され、さらに、フレーム部材20、22、27、28を介してフロアパネル2に伝達される振動の振動エネルギがフロアパネル全体に分散されずに低減される。これらの結果、フロアパネル2からの音響放射をより確実に低減させることが出来る。
次に、この第5実施形態では、高剛性部110は波形状部(110g、110h、110d)を有するので、第3及び第4実施形態と同様に、高剛性部110の剛性をより確実に高めることが出来、さらに、高剛性部110の長手方向に波形状が延びるので、高剛性部110の長手方向の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0092】
さらに、その波形状部の曲面部110g、110hにわたって、曲率の連続した曲面で構成されている構成された曲面凹部110bが形成されているので、第3及び第4実施形態と同様に、高剛性部110の剛性をより確実に高めることが出来る。ここで、本実施形態では、曲面凹部110bが、平面視で円形状に形成されている。このように曲面凹部の形状を円形状としても、その湾曲した曲面形状や周縁部が曲線状に延びること等により、上述した楕円形状の曲面凹部が奏する作用効果と同様の作用効果を奏する。一方、本実施形態のように、高剛性部が長方形状である場合には、楕円形状に形成するのが好ましい。なお、上述した第1乃至第4実施形態の曲面凹部を平面視で円形状に形成しても良く、或いは、この第5実施形態において曲面凹部110bを平面視で楕円形状に形成しても良い。
【0093】
次に、本実施形態の曲面凹部110bのように、高剛性部110の全体の突出方向と同じである上方向に凸状に湾曲して突出するように形成しても、曲面凹部110bにより、上述した第1乃至第4実施形態と同様に高剛性部110の剛性をより高めることが出来る。特に、曲面凹部110bは、各曲面部110g、110hの間の谷領域(境界部110dを含む境界部110dの近傍領域)を覆うように、或いは、各曲面部110g、110hを連結するように形成されているので、曲面部110bにより、この波形状部の剛性をさらに高めることが出来、その結果、高剛性部110の剛性をより確実に高めることが出来る。
【0094】
また、高剛性部100全体が、低剛性部102に対し上方に突出するように形成されているので、フロアパネルの下方に配置された排気管等との干渉を防止することが出来る。さらに、曲面凹部110bは、その低剛性部102からの突出高さが、各曲面部110g、110hと同じ8mmとなるように形成されているので、上述した第1実施形態と同様に、乗員の足の踏み心地を悪化させることも防止することが出来る。
【0095】
このように、この第5実施形態によれば、波形状部(110g、110h、110d)及び曲面凹部110bにより、排気管等との干渉や乗員の足の踏み心地の悪化を防止しつつ、低剛性部との剛性差をより確実に大きく得ることが出来る。その結果、上述した振動の低減効果により、フロアパネルからの音響放射をより確実に低減させることが出来る。なお、この第5実施形態においても、第2及び第3実施形態と同様の溝部(80f、90f)を形成しても良い。この場合にも、溝部に関して上述した作用効果と同様の作用効果が得られる。
【0096】
次に、本発明の各実施形態の他の態様を説明する。
先ず、図9に示すように、高剛性部に波形状部を形成する場合、長方形状の高剛性部120の長辺方向及び短辺方向にそれぞれ2つづつ、合計4つの曲面部120gを形成しても良い。ここで、符号122は低剛性部、符号124は制振材であり、いずれも、第3乃至第5実施形態と同様に形成されている。なお、図9においても、図6(a)と同様に等高線を合わせて示し、高剛性部120において、低剛性部122との境界部120a及び曲面凹部120bの周縁部120cを示す線以外の線は、そのような等高線を示すものである。
この態様では、第4実施形態と同様に、4つの曲面部120gがいずれも上方向に突出し、曲面凹部120bが下方向に突出している(図7(b)参照)。また、図9に示すように、曲面凹部120bは、各曲面部120g間の境界部120dをいずれも横断するように、高剛性部110の中央部に形成されている。
【0097】
このような高剛性部120によれば、車体前後方向及び車幅方向のいずれにもより確実に剛性を高めることが出来る。特に、フロアパネルのフレーム部材等で囲まれた領域(パネル領域S1等)の面積が大きい場合や、例えば、パネル領域S7のような正方形状の領域に正方形状の高剛性部を形成する場合に、この図9に示すように形成すると良い。
なお、曲面凹部120bを、第5実施形態のように、高剛性部が突出する方向と同一の方向に突出するように形成しても良い(図8(b)参照)。また、4つの曲面部120gを、第3実施形態のように、凸状と凹状の曲面部が並ぶように形成しても良い(図6(b)参照)。例えば、上方向に突出する曲面部(図6(b)の90g参照)を対角線上に位置するように配置し、下方向に突出する曲面部(図6(b)の90h参照)を他方の対角線上に位置するように配置しても良い。
【0098】
次に、高剛性部に形成した波形状部を、その曲面部が高剛性部の長手方向に3つ或いはそれ以上の数が並ぶように形成しても良い。このような場合にも、各曲面部にわたって曲面凹部が形成されるようにするのが好ましい。
【0099】
次に、上述した各実施形態が適用されたフロアパネル2は、車幅方向にわたって設けられ、複数のパネル領域(S1、S2)を有しているが、これを、各パネル領域(例えばS1)毎に個別のパネルとし、それらの各パネルの周縁部を各フレームに接合したようなフロアパネルにおいても同様の作用効果が得られる。
次に、例えば、上述したフロアパネル4、6、11のように、フレーム部材で囲まれると共に振動規制部であるビード部(56、58)及び/又は折れ部(54)でもその一部が囲まれたパネル領域S4乃至S7に、上述した実施形態と同様の振動低減構造を設けても、同様の作用効果が得られる。
次に、その形状が矩形状ではないパネル領域、例えば、上述したフロアパネル4、6のパネル領域S4乃至S6に、上述した実施形態と同様の振動低減構造を形成しても同様の作用効果が得られる。この場合、高剛性部を、例えばそのパネル領域の形状に合わせて台形状に形成し、平面視で各曲面部の形状が台形状になるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施形態によるフロアパネルを備えた自動車のアンダボディを示す斜視図である。
【図2】振動低減構造を有するフロアパネルの実験モデルを示す平面図(a)及びA-A線に沿って見た断面図(b)である。
【図3】図2の実験モデル及び従来のパネルの実験モデルから得た実験結果を示す線図である。
【図4(a)】本発明の第1実施形態によるフロアパネル2のパネル領域S1を示す拡大平面図である。
【図4(b)】図4(a)のb−b線に沿って見た車体前後方向の断面構造を示す断面図である。
【図4(c)】図4(a)のc−c線に沿って見た車幅方向の断面構造を示す断面図である。
【図5(a)】本発明の第2実施形態によるフロアパネル2のパネル領域S1を示す拡大平面図である。
【図5(b)】図5(a)のb−b線に沿って見た車体前後方向の断面構造を示す断面図である。
【図5(c)】図5(a)のc−c線に沿って見た車幅方向の断面構造を示す断面図である。
【図6(a)】本発明の第3実施形態によるフロアパネル2のパネル領域S1を示す拡大平面図である。
【図6(b)】図6(a)のb−b線に沿って見た車体前後方向の断面構造を示す断面図である。
【図6(c)】図6(a)のc−c線に沿って見た車幅方向の断面構造を示す断面図である。
【図6(d)】図6(a)のd−d線に沿って見た車幅方向の断面構造を示す断面図である。
【図7(a)】本発明の第4実施形態によるフロアパネル2のパネル領域S1を示す拡大平面図である。
【図7(b)】図7(a)のb−b線に沿って見た車体前後方向の断面構造を示す断面図である。
【図7(c)】図7(a)のc−c線に沿って見た車幅方向の断面構造を示す断面図である。
【図8(a)】本発明の第5実施形態によるフロアパネル2のパネル領域S1を示す拡大平面図である。
【図8(b)】図8(a)のb−b線に沿って見た車体前後方向の断面構造を示す断面図である。
【図8(c)】図8(a)のc−c線に沿って見た車体前後方向の断面構造を示す断面図である。
【図9】本発明の他の態様によるフロアパネル2のパネル領域S1を示す拡大平面図である。
【符号の説明】
【0101】
1 自動車のアンダボディ
2,4,6,8,11,12,14,16 第1乃至第8フロアパネル
S1〜S8 パネル領域
18 フロントサイドフレーム
20 サイドシル
22 フロアサイドフレーム
24 リアサイドフレーム
26〜34 No.1〜No.9クロスメンバ
36〜38 No.1〜No.3トンネルサイドメンバ
40 エンジン
42 フロントサスペンションクロスメンバ
46 リアサスペンションクロスメンバ
70,80,90,100,110,120 高剛性部
72,82,92,102,112,122 低剛性部
74,84,94,104,114,124 制振材
70a,80a,90a,100a,110a,120a 高剛性部の周縁部(低剛性部との境界部)
70b,80b,90b,100b,110b,120b 高剛性部の曲面凹部
70c,80c,90c,100c,110c,120c 高剛性部の曲面凹部の周縁部
70e,80e 高剛性部の曲面凸部
90e 高剛性部の立ち上げ部
90d,100d,110d,120d 波形状部の各曲面部間の境界部
90g,90h,100g,100h,110g,110h,120g 高剛性部の波形状部の各曲面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向及び車幅方向に配設されたフレーム部材に連結され自動車のフロアを構成する車体のフロアパネルであって、
上記フレーム部材により囲まれた領域の中央部に上方向又は下方向に突出して形成された高剛性部と、この高剛性部の周りに平らに形成された低剛性部と、を有し、
上記高剛性部には、その中央部でその突出方向と反対方向に曲面状に突出し平面視で円形状又は楕円形状の曲面凹部が形成されていることを特徴とする車体のフロアパネル。
【請求項2】
上記曲面凹部はその全面にわたって曲率が連続している請求項1記載の車体のフロアパネル。
【請求項3】
上記高剛性部は上方向に突出し、上記高剛性部の曲面凹部は上記高剛性部の突出高さより小さい突出高さで下方向に突出する請求項1又は請求項2記載の車体のフロアパネル。
【請求項4】
上記高剛性部の上記低剛性部からの突出高さは10mm以下である請求項1乃至3のいずれか1項記載の車体のフロアパネル。
【請求項5】
上記高剛性部には、さらに、上記曲面凹部と上記低剛性部とを連通するように延びる溝部が形成されている請求項1乃至4のいずれか1項記載の車体のフロアパネル。
【請求項6】
上記高剛性部には、さらに、上記曲面凹部に対して放射状に延びる溝部が形成されている請求項1乃至4のいずれか1項記載の車体のフロアパネル。
【請求項7】
上記高剛性部には、少なくとも2つの曲面部により構成された波形状部が形成され、
上記高剛性部の曲面凹部は、上記波形状部の各曲面部間にわたって形成されている請求項1乃至6のいずれか1項記載の車体のフロアパネル。
【請求項8】
上記高剛性部は、長方形状に形成され、
上記波形状部の曲面部は、上記長方形状の高剛性部の長手方向に並んで2つ形成されている請求項7記載の車体のフロアパネル。
【請求項9】
車体前後方向及び車幅方向に配設されたフレーム部材に連結され自動車のフロアを構成する車体のフロアパネルであって、
上記フレーム部材により囲まれた領域の中央部に形成された高剛性部と、この高剛性部の周りに平らに形成された低剛性部と、を有し、
上記高剛性部には、少なくとも2つの曲面部により構成された波形状部が形成され、さらに、その波形状部の各曲面部間にわたって上方向又は下方向に曲面状に突出し平面視で円形状又は楕円形状の曲面凹部が形成されていることを特徴とする車体のフロアパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図6(c)】
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【図6(d)】
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【図7(a)】
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【図7(b)】
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【図7(c)】
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【図8(a)】
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【図8(b)】
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【図8(c)】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−315627(P2006−315627A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143063(P2005−143063)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】