説明

車体フレーム部材の製造方法

【課題】ハイドロフォーム成形等により製造された閉断面部材を有する車体フレーム部材の製造方法において、大型化や重量増を抑えかつ量産向けの方法を用いた上で、前記閉断面部材の断面内にダイアゴナルメンバを追加する。
【解決手段】前記ダイアゴナルメンバ25を屈曲させてなる屈曲ピース31を、前記フレーム本体3aの前記ハイドロフォーム成形前の素材であるパイプ部材Pの開口端から挿入、固定するパイプ部材加工工程と、前記屈曲ピース31固定後のパイプ部材Pに前記ハイドロフォーム成形を施して前記フレーム本体3aを形成するハイドロフォーム成形工程とを有し、前記屈曲ピース31は、前記ハイドロフォーム成形により直線状に伸びて前記ダイアゴナルメンバ25となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、閉断面部材を有する車体フレーム部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な乗用車等の車両の車体において、パネル部品と骨格部品とを溶接等により一体に接合してなるモノコック構造とし、その軽量化及び高剛性化を図ることが多い。このような車体のフレーム部材の内、比較的複雑な形状を有して延びる管状の閉断面部材を有するものにおいて、部品精度の向上や剛性の確保が要求される場合がある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−166848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のような閉断面部材は、既存のハイドロフォーム成形(金型にセットしたパイプ部材内に液体を充填し、該液体を加圧し前記パイプ部材を膨出させて前記金型の内部形状に倣った形状とする工法)により製造することが望ましい。
一方、上記閉断面部材において、例えば衝撃荷重等の大荷重が加わった際に閉断面が圧潰すると、前記荷重を安定して受けることができなくなるので、該閉断面部材における荷重が集中し易い箇所には、その断面内に例えば筋交い部材(ダイアゴナルメンバ)等の補強部材を追加することが望ましい。
しかし、特にハイドロフォーム成形で製造した閉断面部材は、液圧を充填することから完全な閉断面を有しており、かつその断面形状も長手方向位置によって変化すると共に曲げや潰しも適宜施されることから、その断面内にダイアゴナルメンバを追加することが難しいという課題がある。また、閉断面部材の断面外周を覆うように補強部材を追加することも考えられるが、この場合、車体フレーム部材の大型化や大幅な重量増を招き易くという課題がある。
そこでこの発明は、ハイドロフォーム成形等により製造された閉断面部材を有する車体フレーム部材の製造方法において、大型化や重量増を抑えかつ量産向けの方法を用いた上で、前記閉断面部材の断面内にダイアゴナルメンバを追加することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、ハイドロフォーム成形により製造される閉断面部材(例えば実施例のフレーム本体3a)の断面内にダイアゴナルメンバ(例えば実施例のダイアゴナルメンバ25)を追加してなる車体フレーム部材(例えば実施例のアッパフレーム3)の製造方法において、前記ダイアゴナルメンバを屈曲させてなる屈曲ピース(例えば実施例の屈曲ピース31)を、前記閉断面部材の前記ハイドロフォーム成形前の素材であるパイプ部材(例えば実施例のパイプ部材P)の開口端(例えば実施例の開口端t)から挿入、固定するパイプ部材加工工程と、前記屈曲ピース固定後のパイプ部材に前記ハイドロフォーム成形を施して前記閉断面部材を形成するハイドロフォーム成形工程とを有し、前記屈曲ピースは、前記ハイドロフォーム成形により直線状に伸びて前記ダイアゴナルメンバとなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、前記閉断面部材のハイドロフォーム成形前の素材であるパイプ部材において、その所定箇所の断面内に前記ダイアゴナルメンバを屈曲させてなる屈曲ピースを予め挿入、固定し、このパイプ部材にハイドロフォーム成形を施して閉断面部材を形成すると共に、前記屈曲ピースを直線状に伸ばして筋交い状のダイアゴナルメンバに復元させることで、該閉断面部材における任意の箇所の断面内にダイアゴナルメンバを追加することができる。すなわち、閉断面部材の断面外周を覆う補強部材を追加するような場合と比べて大型化や重量増が抑えられ、かつハイドロフォーム成形前のパイプ部材への屈曲ピースの挿入、固定といった量産向けの方法を用いた上で、ハイドロフォーム成形により製造された閉断面部材の断面内にダイアゴナルメンバを追加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、この発明を乗用車の車体のフロントバルクヘッドのアッパフレームに適用した例を図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ車両における向きと同一とする。また、図中矢印FRは車両前方を、矢印LHは車両左方を、矢印UPは車両上方をそれぞれ示す。
【0007】
図1は、一般的な乗用車におけるパネル部品と骨格部品とを溶接等により一体に接合してなるモノコック構造の車体1の前部を示す。車体1の前部には、不図示のラジエータを支持、保護する枠状のフロントバルクヘッド2が設けられる。フロントバルクヘッド2は、その上部を構成するアッパフレーム3と、下部を構成するロアフレーム4とを主になる。
【0008】
アッパフレーム3は、左右に延びる上辺部5と、該上辺部5の両側から斜め後外側に向けて湾曲して延びる左右斜辺部6とを有してなる。一方、ロアフレーム4は、左右に延びる下辺部7と、該下辺部7の両側から上方に向けて湾曲して延びる左右側辺部8とを有してなる。
【0009】
アッパフレーム3の上辺部5両側の下面には、ロアフレーム4の左右側辺部8の上端部が接合される。アッパフレーム3の左右斜辺部6の後端部は、その後方において前後に延在するホイルハウスアッパメンバ12の前端部に接合される。ロアフレーム4の左右側辺部8の後面には、その後方において前後に延在するフロントサイドフレーム13の前端部が接合される。なお、図中符号14はダンパハウジングを、符号16はダッシュアッパパネルをそれぞれ示す。
【0010】
ここで、アッパフレーム3は、中空の断面形状(閉断面構造)を有して前記上辺部5及び左右斜辺部6に沿って延びる管状のフレーム本体3aを主になる。フレーム本体3aは、例えば丸形鋼管(金属管)にハイドロフォーム成形等を施してなり、その長手方向位置によって異なる断面形状を有する。
【0011】
図2(a)を併せて参照し、フレーム本体3aにおける少なくとも上辺部5の左右両側に位置する部位の断面形状は、例えば概ね前後方向に直交する前後壁部21,22と、やや前下がりに傾斜する上下壁部23,24とを有するやや縦長の矩形状とされる。
ここで、フレーム本体3aの上辺部5の左右両側は、例えば車両前方からの荷重作用時に該荷重が集中し易い部位でもある。
そこで、フレーム本体3aの上辺部5の左右両側には、その断面内の上部後側の角部と下部前側の角部との間を前下がりの対角線状に横断するように、フレーム本体3aの長手方向に沿う板状のダイアゴナルメンバ25が挿入、固定される。
【0012】
ダイアゴナルメンバ25は、フレーム本体3aと溶接可能な鋼板(金属板)からなり、フレーム本体3aの長手方向で所定幅を有する。ダイアゴナルメンバ25は、フレーム本体3aの断面内を前述の如く横断するメンバ本体26と、該メンバ本体26の上縁部(後縁部)からフレーム本体3aの後壁部22に沿って下方に屈曲して延びる上接合フランジ27と、メンバ本体26の下縁部(前縁部)からフレーム本体3aの下壁部24に沿って後方に屈曲して延びる下接合フランジ28とを有してなる。
【0013】
上下接合フランジ27,28は、フレーム本体3aの内面(上接合フランジ27は後壁部22の上部内面、下フランジ28は下壁部24の前部内面)に当接した状態で、例えば断面外側からの片側アクセススポット溶接により対応する壁部にそれぞれ結合され、もってダイアゴナルメンバ25とフレーム本体3aとが一体化される。
【0014】
このようなダイアゴナルメンバ25は、アッパフレーム3に衝撃荷重等の大荷重が加わった際にもフレーム本体3aの閉断面が圧潰することを抑制し、フレーム本体3aが安定して前記荷重を受けることを可能として該荷重を前記ホイルハウスアッパメンバ12やフロントサイドフレーム13に伝達可能とする。なお、ダイアゴナルメンバ25はフレーム本体3aの左右それぞれに一つずつ設けられるが、その数量や配置は適宜変更可能である。
【0015】
次に、上記アッパフレーム3の製造方法について図3を参照して説明する。
まず、フレーム本体3aのハイドロフォーム成形前の素材となる例えば直線状のパイプ部材(丸形鋼管)Pを用意し、該パイプ部材Pの両開口端tからその所定箇所の断面内に後述の屈曲ピース31を挿入、固定する(パイプ部材加工工程、図3(a)参照)。
【0016】
ここで、図2(b)を併せて参照し、前記屈曲ピース31は、前記ダイアゴナルメンバ25のメンバ本体26をフレーム本体3aの断面視で適宜屈曲させてなる。メンバ本体26は、その略中間部にフレーム本体3aの長手方向に沿う稜線p1を形成するように前記断面視で鈍角に屈曲する。フレーム本体3a(パイプ部材P)の断面視において、屈曲ピース31におけるメンバ本体26の上縁p2及び稜線p1間の距離Laと下縁p3及び稜線p1間の距離Lbとの合計は、ダイアゴナルメンバ25におけるメンバ本体26の上縁p2及び下縁p3間の距離Lc(図2(a)参照)にほぼ等しい。なお、屈曲ピース31は、メンバ本体26を複数個所で屈曲させたものでもよく、かつメンバ本体26を緩やかに湾曲させたものであってもよい。
【0017】
また、上下接合フランジ27,28は、パイプ部材Pの内面に整合するように前記断面視で緩やかに湾曲する。上下接合フランジ27,28は、パイプ部材Pにおけるハイドロフォーム成形後にフレーム本体3aの後壁部22の上部又は下壁部24の前部となる部位の内面にそれぞれ当接し、当該部位に前記片側アクセススポット溶接により結合される。すなわち、屈曲ピース31の形状は、パイプ部材Pにおけるハイドロフォーム成形後の断面形状を想定して決定されている。
【0018】
再び図3を参照し、次いで、屈曲ピース31固定後のパイプ部材Pにパイプベンダー機等を用いた曲げ加工(ベンド加工)を施してフレーム本体3aの概略形状を形成する(パイプベンド加工工程、図3(b)参照)。
次いで、上記ベンド加工後のパイプ部材Pの所定部位(図では前記上辺部5に相当する部位)に、プレス機等を用いたプリクラッシュ加工(後のハイドロフォーム成形用の金型に入るように閉断面を所定量潰す加工)を施す(プリクラッシュ加工工程、図3(c)参照)。
【0019】
次いで、上記プリクラッシュ加工後のパイプ部材Pをハイドロフォーム成形用の金型にセットし、該パイプ部材Pに低液圧を加えながら金型を閉じることで、パイプ部材Pの所定部位を所定量潰したり曲げたりするハイドロベンド加工を施す(ハイドロベンド加工工程、図3(d)参照)。
【0020】
上記金型を閉じた後には、パイプ部材Pに高液圧を加えてハイドロフォーム成形を施し、所望の立体形状を有するフレーム本体3aを形成する(ハイドロフォーム成形工程、図3(e)参照)。このとき、パイプ部材Pの丸形断面がフレーム本体3aの矩形断面に変化することで、屈曲ピース31におけるメンバ本体26の上下縁p2,p3間の直線距離が増加し、断面視で屈曲形状にあったメンバ本体26が直線形状に変化して、筋交い状のダイアゴナルメンバ25に復帰する(図2参照)。
【0021】
これにより、フレーム本体3aの所定箇所の断面内にダイアゴナルメンバ25が追加されたアッパフレーム3が構成される。なお、図3(e)ではフレーム部材3aにおける孔等の詳細な図示は略す。
なお、前述したハイドロフォーム成形とは、金型にセットしたパイプ部材P内に液体を充填し、該液体を加圧し前記パイプ部材Pを膨出させて前記金型の内部形状に倣った形状とする既存の工法である。
【0022】
以上説明したように、上記実施例における車体フレーム部材(アッパフレーム3)の製造方法は、ハイドロフォーム成形により製造されるフレーム本体3aの断面内にダイアゴナルメンバ25を追加してなるアッパフレーム3に対応するものにおいて、前記ダイアゴナルメンバ25を屈曲させてなる屈曲ピース31を、前記フレーム本体3aの前記ハイドロフォーム成形前の素材であるパイプ部材Pの開口端tから挿入、固定するパイプ部材加工工程と、前記屈曲ピース31固定後のパイプ部材Pに前記ハイドロフォーム成形を施して前記フレーム本体3aを形成するハイドロフォーム成形工程とを有し、前記屈曲ピース31は、前記ハイドロフォーム成形により直線状に伸びて前記ダイアゴナルメンバ25となるものである。
【0023】
この構成によれば、前記フレーム本体3aのハイドロフォーム成形前の素材であるパイプ部材Pにおいて、その所定箇所の断面内に前記ダイアゴナルメンバ25を屈曲させてなる屈曲ピース31を予め挿入、固定し、このパイプ部材Pにハイドロフォーム成形を施してフレーム本体3aを形成すると共に、前記屈曲ピース31を直線状に伸ばして筋交い状のダイアゴナルメンバ25に復元させることで、該フレーム本体3aにおける任意の箇所の断面内にダイアゴナルメンバ25を追加することができる。すなわち、フレーム本体3aの断面外周を覆う補強部材を追加するような場合と比べて大型化や重量増が抑えられ、かつハイドロフォーム成形前のパイプ部材Pへの屈曲ピース31の挿入、固定といった量産向けの方法を用いた上で、ハイドロフォーム成形により製造されたフレーム本体3aの断面内にダイアゴナルメンバ25を追加することができる。
【0024】
なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、例えばダイアゴナルメンバ25は、フレーム本体3aの断面内を前下がりの対角線状に横断するものに限らず、後下がりの対角線状であったり、前後壁部21,22間又は上下壁部23,24間さらにはこれらを適宜連結するものであってもよい。また、フレーム本体3a(閉断面部材)の断面形状は矩形状に限らず、したがって、ダイアゴナルメンバ25も様々な筋交い状に設けることが可能である。
また、閉断面部材の素材は、丸形鋼管に限らず角形等の断面形状を有する金属管(アルミ管やステンレス管等を含む)であってもよい。同様に、ダイアゴナルメンバも鋼板以外の各種金属板であってもよい。
そして、上記実施例における構成はこの発明の一例であり、フロントバルクヘッドのアッパフレームへの適用に限らず、かつ乗用車以外の車両(バス、トラック、自動二輪及び三輪車、原動機付自転車、自転車、四輪バギー車等)にも適用できることはもちろん、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施例における車体前部の斜視図である。
【図2】(a)は図1のA−A断面図(上記車体のフロントバルクヘッドのアッパフレームの断面図)、(b)は前記アッパフレームのハイドロフォーム成形前における(a)に相当する断面図である。
【図3】上記アッパフレームの製造工程を(a)〜(e)の順に示す説明図であり、(a)はパイプ部材加工工程、(b)はパイプベンド加工工程、(c)はプリクラッシュ加工工程、(d)はハイドロベンド加工工程、(e)はハイドロフォーム成形工程をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0026】
1 車体
2 フロントバルクヘッド
3 アッパフレーム(車体フレーム部材)
3a フレーム本体(閉断面部材)
25 ダイアゴナルメンバ
31 屈曲ピース
P パイプ部材
t 開口端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロフォーム成形により製造される閉断面部材の断面内にダイアゴナルメンバを追加してなる車体フレーム部材の製造方法において、
前記ダイアゴナルメンバを屈曲させてなる屈曲ピースを、前記閉断面部材の前記ハイドロフォーム成形前の素材であるパイプ部材の開口端から挿入、固定するパイプ部材加工工程と、
前記屈曲ピース固定後のパイプ部材に前記ハイドロフォーム成形を施して前記閉断面部材を形成するハイドロフォーム成形工程とを有し、
前記屈曲ピースは、前記ハイドロフォーム成形により直線状に伸びて前記ダイアゴナルメンバとなることを特徴とする車体フレーム部材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−161111(P2009−161111A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2413(P2008−2413)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】