説明

車体側面下部構造

【課題】重量やコストの大幅な増加を抑制しつつ、車両前部からの衝突荷重に対する車体ボディの折れを防止できる車体側面下部構造を提供する。
【解決手段】スライドドア機構114の近傍の車体側面下部構造100において、スライドドア機構の前後の位置それぞれにて、車体の床面を形成するフロアパネルの側部に固定されるサイドシルインナーパネル152およびロッカーパネル154と、サイドシルインナーパネルとロッカーパネルとの間に配置され、車幅方向の車内側に凹んで車外側が開放したスペース156を形成し、スペース内にスライドレール120およびスライドドア機構が収容されるレールカバー146と、一端150aおよび他端150bがサイドシルインナーパネルおよびロッカーパネルとレールカバーとのそれぞれの溶接部付近のレールカバーに溶接されるリンフォース150とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側面下部に設けられスライドドアをスライドさせるスライドドア機構の近傍の車体側面下部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の車両では、スライドドアと、スライドドアをスライドさせる電動を用いたドア開閉構造(スライドドア機構)とを備えたものが知られている。このような車両では、スライドドアが走行するスライドレールおよびスライド機構を収納するスペースを確保する必要がある。
【0003】
スライドドア機構は、居住空間の大きさに影響を与えないように、例えば車体側面下部に確保されたスペースに収納される。スペースは、一般に、車幅方向の車内側に凹んで車外側に開放されていて、スライド機構に沿って設けられた屈曲部を有している。
【0004】
ところが、屈曲部が設けられた車両では、車両前部からの衝突荷重が加わった際に、屈曲部が起点となって車体ボディに折れが発生し易くなる。車体ボディに折れが発生すると、車体ボディの前部に配置されたダッシュパネルが乗員側に移動し易くなり、乗員保護性能を悪化させる場合がある。
【0005】
このため、屈曲部を起点とした車体ボディの折れを防止するための車体構造が求められている。例えば特許文献1および特許文献2には、乗員保護性能の悪化を防止するために、車体ボディの屈曲部の材質を変更し、また、板厚を大きくした車体構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−80819号公報
【特許文献2】特開2010−23632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の車体構造では、屈曲部の材質や板厚の変更により、車体ボディを補強しているので、重量やコストが大幅に増加するという問題があった。さらに、この車体構造では、単に、屈曲部自体を補強しているに過ぎず、車両前部からの衝突荷重に対する車体ボディの折れを十分に防止することは困難である。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、重量やコストの大幅な増加を抑制しつつ、車両前部からの衝突荷重に対する車体ボディの折れを防止できる車体側面下部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車体側面下部構造の代表的な構成は、車体側面下部に設けられスライドドアをスライドさせるスライドドア機構の近傍の車体側面下部構造において、スライドドア機構の前後の位置それぞれにて、車体の床面を形成するフロアパネルの側部に固定される第1パネルおよび第2パネルと、第1パネルと第2パネルとの間に配置され、車幅方向の車内側に凹んで車外側が開放したスペースを形成し、スペース内にスライドドアが走行するレールおよびスライドドア機構が収容されるレールカバーと、一端および他端が第1パネルおよび第2パネルのレールカバーとのそれぞれの溶接部付近でレールカバーに溶接されるリンフォースとを備えることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、リンフォースが第1パネルと第2パネルとを橋渡しして、第1パネルと第2パネルとの間に配置されたレールカバーを補強する。このため、車両前部からの衝突荷重に対してレールカバーが折れてしまうことを防止でき、乗員保護性能を高めることができる。また、リンフォースを追加しているので、レールカバーの材質を変更したり、板厚を大きくする必要がない。よって、重量やコストが大幅に増加することがない。
【0011】
レールカバーは、スペースの下部および上部をそれぞれ形成し、スペースの車内側を区画する縦壁部にて互いに溶接されたレールロアカバーおよびレールアッパーカバーを含み、リンフォースは、レールロアカバー上に溶接されていて、一端および他端の近傍から縦壁部に延びてそれぞれ溶接される第1延長部および第2延長部を有するとよい。これにより、リンフォースの第1延長部および第2延長部が、上方に屈曲した縦壁部を支えることになり、縦壁部の内倒れを防止できる。
【0012】
レールロアカバーには、車両前後方向に延びる段差部が形成されていて、リンフォースは、段差部を覆って溶接され、段差部と共に閉断面を形成するとよい。このような、リンフォースおよびレールロアカバーによる閉断面構造によって、省スペースかつ強固な補強が可能となり、例えば、車体が受ける路面振動を抑制するとともに、路面振動に起因するレールロアカバーの損傷を軽減できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、重量やコストの大幅な増加を抑制しつつ、車両前部からの衝突荷重に対する車体ボディの折れを防止できる車体側面下部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態における車体側面下部構造を概略的に示す図である。
【図2】図1の車体側面下部構造を拡大して示す図である。
【図3】図2の車体側面下部構造の要部を詳細に示す図である。
【図4】図3の車体側面下部構造を上方から見た状態を説明する図である。
【図5】図4の車体側面下部構造の一部を説明する図である。
【図6】図5の車体側面下部構造の断面を車両後方向から見た状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態における車体側面下部構造を概略的に示す図である。図1(a)は、車体側面下部構造が適用される車両の側面を示す図である。図1(b)は、図1(a)の車体ボディの一部を取り除いた状態を示す図である。図1(c)は、図1(b)を上方から見た状態を簡略化して示す模式図である。以下では、運転席側に位置した車体側面下部構造100のみを説明するが、助手席側には、図1(c)に示すように、車両110の中心線を基準にして車体側面下部構造100と左右対称な構造を有する他の車体側面下部構造100aが配置されている。
【0017】
車両110は、図1(a)に示すように、スライドドア112を備えている。スライドドア112は、図1(b)および図1(c)に示すスライドドア機構114によってスライド可能となる。スライドドア機構114は、例えば、車両前後方向では前席ドアと後席ドアとの間であるピラー部116、また、車両高さ方向では車体の床面を形成するフロアパネル118の下側である路面近傍、さらに、車幅方向では前席ドア近傍となる位置、すなわち車体側面下部に配置されている。また、スライドドア機構114から車両後方側には、スライドドア112が走行するスライドレール120が配置されている。
【0018】
スライドドア機構114を搭載した車体ボディには、図1(c)に示すように、スライドドア機構114に沿って、車幅方向の車内側に凹んだ、あるいは屈曲した部分(屈曲部130)が形成されている。スライドドア機構114は、屈曲部130により確保されるスペース(後述)に収納されることになる。屈曲部130を有する車体ボディは、一般に、車両前部からの衝突荷重が加わった際に、屈曲部130が起点となり、折れが発生し易くなる。車体ボディに折れが発生すると、ダッシュパネル132が乗員側、すなわち前席シート134側に移動し易くなり、乗員保護性能が損なわれる場合がある。
【0019】
このような事態を回避するために、本実施形態にかかる車体側面下部構造100は、車両前部からの衝突荷重に対する、屈曲部130を起点とした車体ボディの折れを防止する構造を備えている。以下、図2〜図6を参照して、車体側面下部構造100について説明する。
【0020】
図2は、車体側面下部構造100を示す図である。図2(a)は、車体側面下部構造100の位置を点線で囲んで示している。図2(b)は、図2(a)を拡大して示す図である。図3は、図2の車体側面下部構造100の要部を詳細に示す図である。図3(a)は、図2(b)のA−A断面図であり、車両後方側から見た状態を示している。図3(b)は、図3(a)をX方向から見た状態を概略的に示す図である。
【0021】
本実施形態にかかる車体側面下部構造100は、図2(a)に示す点線で囲まれた領域に位置していて、図2(b)に示すように、車外側のサイドドアアウターパネル140で覆われている。車体側面下部構造100は、サイドドアアウターパネル140を取り除いた状態で、図3(a)および図3(b)に示すように、レールロアカバー142およびレールアッパーカバー144を含むレールカバー146と、レールロアカバー142に溶接されたリンフォース150とを備えている。レールカバー146は、図3(b)に示すように、車体の床面を形成する上記フロアパネル118(図1参照)の側部に固定される車両前方側の第1パネル(サイドシルインナーパネル152)および車両後方側の第2パネル(ロッカーパネル154)との間に配置される。
【0022】
リンフォース150の一端150aおよび他端150bは、図3(b)に示すように、サイドシルインナーパネル152およびロッカーパネル154とレールカバー146とのそれぞれの溶接部付近のレールカバー146の端部に溶接される。すなわち、リンフォース150は、サイドシルインナーパネル152とロッカーパネル154とを橋渡しして、サイドシルインナーパネル152とロッカーパネル154との間に配置されたレールカバー146を補強している。
【0023】
レールカバー146は、図3(a)に示すように、車幅方向の車内側に凹んで車外側が開放したスペース156を形成している。レールロアカバー142およびレールアッパーカバー144は、スペース156の上部および下部をそれぞれ形成していて、スペース156の車内側を区画する縦壁部158で互いに溶接されている。このスペース156は、レールロアカバー142およびレールアッパーカバー144から空隙を隔てて、レールロアパネル160およびレールアッパーパネル162で区画された領域(便宜上、内スペース164という)を含んでいる。
【0024】
この内スペース164には、少なくとも上記スライドレール120およびスライドドア機構114が収容されている。スライドレール120は、図示のように、レールアッパーパネル162の下面に取付けられていて、スライドドア112を支持するアーム166を車両前後方向に案内する。ここで、図1(c)で示した上記屈曲部130とは、スライドドア機構114等を収納するためのスペース156を確保するために、車内側に凹んでいる(あるいは拡張されている)、レールカバー146を含めた領域をいう。なお、図3(b)では、説明の便宜上、内スペース164を規定するレールロアパネル160およびレールアッパーパネル162、上記スライドレール120、スライドドア機構114およびアーム166を省略している。
【0025】
レールロアパネル160およびレールアッパーパネル162の車外側の端部160a、162aは、図3(a)に示すように、下方および上方にそれぞれ屈曲していて、車外側からサイドボディアウターパネル170にそれぞれ溶接されている。さらに、レールロアパネル160の車外側の端部160aは、サイドシルリアーリンフォース172の一端172aと車内側で溶接されている。サイドシルリアーリンフォース172の他端172bは、レールロアカバー142の車外側の下方に屈曲した端部142aと車内側で溶接されていて、さらに、サイドボディアウターパネル170と車外側で溶接されている。
【0026】
次に、図4を参照して、車体側面下部構造100を上方から見た状態で説明する。なお、図4は図3(b)に対応していて、図3(b)に示す上記スペース156からリンフォース150を見た状態を示している。このため、図中には、上方から見たリンフォース150の全体が示されている。すなわち、リンフォース150は、レールロアカバー142上に溶接されていて、さらに、一端150aおよび他端150bがサイドシルインナーパネル152およびロッカーパネル154とレールカバー146とのそれぞれの溶接部付近のレールカバー146の端部に溶接されている。また、リンフォース150は、上方に突出した凸部150eを有している(後述する)。
【0027】
本実施形態の車体側面下部構造100では、サイドシルインナーパネル152とロッカーパネル154との間をリンフォース150で橋渡しすることにより、屈曲部130が設けられたレールカバー146を補強できる。すなわち、車両前方から受ける衝突荷重に対して、車両110の前後方向での補強が可能となり、レールカバー146を起点とする折れの発生を防止して、乗員保護性能を高めることができる。また、リンフォース150を追加してレールカバー146を補強するので、屈曲部130の材質を変更したり、板厚を大きくしたりする等、重量やコストの大幅な増加を招くような対策が不要となり、結果的に、重量やコストの大幅な増加を抑制できる。
【0028】
図5は、図3の車体側面下部構造100の一部を説明する図である。図5(a)は、図3(b)からサイドシルインナーパネル152およびロッカーパネル154を取り除いた状態を示す斜視図である。図5(b)は、図5(a)のB−B断面図である。縦壁部158は、上記したように、レールロアカバー142およびレールアッパーカバー144が互いに溶接されていて、スペース156の車内側を区画するものであり、図示のようにL字形状を有している。
【0029】
リンフォース150は、図5(a)に示すように、一端150aおよび他端150bの近傍から縦壁部158に延びる、第1延長部(一端側延長部150c)および第2延長部(他端側延長部150d)を有する。一端側延長部150cおよび他端側延長部150dは、それぞれ縦壁部158に溶接されている。一例として図5(b)に示すように、他端側延長部150dは、L字形状のレールロアカバー142を内側(車外側)から支えている。なお、一端側延長部150cも同様にレールロアカバー142を内側から支えている。
【0030】
本実施形態の車体側面下部構造100では、レールカバー146が荷重を受けて倒れ易いL字形状であっても、L字形状の内側を支えるようにリンフォース150と溶接点を設けることで、レールカバー146の補強が可能となる。特に、スライドドア機構114を有する車体構造では、L字形状のレールカバー146が内倒れすると、スライドレール120上の機構物(例えば、アーム166等)と干渉してしまい、スライドドア機構114等に支障を及ぼす可能性がある。したがって、レールカバー146をリンフォース150で支えることで、レールカバー146の内倒れを防止して、スライドドア機構114に支障を及ぼすことを防ぐことができる。
【0031】
図6は、図5の車体側面下部構造100の断面を車両後方向から見たC−C断面図である。レールロアカバー142は、図示のように、車幅方向に沿った断面に段差部142bを有している。また、リンフォース150は、図4および図5に示したように、上方に突出した凸部150eを有している。さらに、リンフォース150は、レールロアカバー142に溶接された状態で、レールロアカバー142の段差部142bを凸部150eで覆い、図示のような閉断面構造を形成している。
【0032】
なお、車体パネルは、悪路走行時に路面からの振動を面方向で受けるので、通常、ビードを設定するなどして、補強を行っている。しかし、車両の仕様で搭載される各種装置は水平にレイアウトする必要もあり、装置を搭載するスペースの分だけ水平面を広く確保する必要がある。この広い水平面の近傍に上記屈曲部130が設けられていると、屈曲部130が起点となる折れが発生し易い。
【0033】
本実施形態の車体側面下部構造100では、リンフォース150とレールロアカバー142とで閉断面構造を形成しているので、省スペースかつ強固な補強が可能となり、車体パネルが受ける路面振動を抑制するとともに、路面振動で受ける損傷を軽減できる。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、車体側面下部に設けられスライドドアをスライドさせるスライドドア機構の近傍の車体側面下部構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
100…車体側面下部構造、110…車両、112…スライドドア、114…スライドドア機構、120…スライドレール、130…屈曲部、140…サイドドアアウターパネル、142…レールロアカバー、142b…段差部、144…レールアッパーカバー、146…レールカバー、150…リンフォース、150a…一端、150b…他端、150c…一端側延長部(第1延長部)、150d…他端側延長部(第2延長部)、150e…凸部、152…サイドシルインナーパネル(第1パネル)、154…ロッカーパネル(第2パネル)、156…スペース、158…縦壁部、160…レールロアパネル、162…レールアッパーパネル、164…内スペース、170…サイドボディアウターパネル、172…サイドシルリアーリンフォース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側面下部に設けられスライドドアをスライドさせるスライドドア機構の近傍の車体側面下部構造において、
前記スライドドア機構の前後の位置それぞれにて、車体の床面を形成するフロアパネルの側部に固定される第1パネルおよび第2パネルと、
前記第1パネルと前記第2パネルとの間に配置され、車幅方向の車内側に凹んで車外側が開放したスペースを形成し、該スペース内に前記スライドドアが走行するレールおよび前記スライドドア機構が収容されるレールカバーと、
一端および他端が前記第1パネルおよび前記第2パネルと前記レールカバーとのそれぞれの溶接部付近の該レールカバーに溶接されるリンフォースとを備えることを特徴とする車体側面下部構造。
【請求項2】
前記レールカバーは、前記スペースの下部および上部をそれぞれ形成し、該スペースの車内側を区画する縦壁部にて互いに溶接されたレールロアカバーおよびレールアッパーカバーを含み、
前記リンフォースは、前記レールロアカバー上に溶接されていて、前記一端および前記他端の近傍から前記縦壁部に延びてそれぞれ溶接される第1延長部および第2延長部を有することを特徴とする請求項1に記載の車体下部構造。
【請求項3】
前記レールロアカバーには、車両前後方向に延びる段差部が形成されていて、
前記リンフォースは、前記段差部を覆って溶接され、前記段差部と共に閉断面を形成することを特徴とする請求項2に記載の車体下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−131413(P2012−131413A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286198(P2010−286198)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】