説明

車体前部構造

【課題】コンパクトな構成で前面衝突した場合におけるダッシュパネルへの荷重入力量を効果的に低減させることができる車体前部構造を得る。
【解決手段】ダッシュパネル14の前面側には、左右のフロントサイドメンバ20の上部後端側及び左右のフロントピラー26を車両幅方向に連結するダッシュクロスメンバ30が配設されている。このダッシュクロスメンバ30の左右の傾斜部34をハイマウント式のステアリングギヤボックス38及び固定ブラケット42を使って連結して補強すると共に、連結ブラケット48でフロントサイドメンバ20にも結合させた。従って、剛性が低下したダッシュクロスメンバ30をコンパクトな構成で補強できるだけでなく、ダッシュパネル14のブレーキペダル付近に補強部50を設定でき、フロントサイドメンバ20の上部後端側の支持強度も高くなるため、前面衝突した場合におけるダッシュパネル14への荷重入力量が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部の両サイドに配置された左右一対のフロントサイドメンバをダッシュパネルの前面側にて車両幅方向に延在するダッシュクロスメンバで結合する車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、フロントサイドメンバのキックアップ部とダッシュパネルとの結合構造を工夫した技術が開示されている。
【0003】
簡単に説明すると、この公報に開示された技術では、ダッシュパネルの下部前方に、後端部がダッシュパネルに結合される水平部及び下端部がフロントサイドメンバのキックアップ部に結合される垂直部で構成される第2ダッシュパネルが設定されている。また、この第2ダッシュパネルによって左右のフロントサイドメンバのキックアップ部が車両幅方向に連結されている。
【0004】
上記構成によれば、左右のフロントサイドメンバのキックアップ部を第2ダッシュパネルによって連結することにより車体前部を補強すると共に、前面衝突した場合にはフロントサイドメンバから入力された衝突荷重をキックアップ部から第2ダッシュパネルに伝えて第2ダッシュパネルを変形させることにより、ダッシュパネルの前方側でのエネルギー吸収量を増加させ、これによりダッシュパネルの室内側への変形量を抑制しようとするものである。
【特許文献1】特開平11−115818号公報
【特許文献2】特開平3−126772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような前面衝突対策も有効ではあるが、上記先行技術は、フロントサイドメンバのキックアップ部とダッシュパネルとの間に車両幅方向に沿って延在する第2ダッシュパネルを新たに設置してキックアップ部を支持する構成であるため、ダッシュパネルの前方側に第2ダッシュパネル設置用の多くのスペースを確保しなければならず、車種によっては適用が困難である。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、コンパクトな構成で前面衝突した場合におけるダッシュパネルへの荷重入力量を効果的に低減させることができる車体前部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明に係る車体前部構造は、エンジンルームとキャビンとを隔成するダッシュパネルと、車体前部の両サイドに略車両前後方向に延在する左右一対のフロントサイドメンバと、フロントサイドメンバの後方外側でダッシュパネルの両サイドに位置して略車両上下方向に延在する左右一対のフロントピラーと、ダッシュパネルの前面側に車両幅方向に延在するように配置されて左右のフロントサイドメンバの上部後端側同士を繋ぐと共に、当該上部後端側から車両正面視で斜め上方に延びて当該上部後端側とフロントピラーとを繋ぐダッシュクロスメンバと、を含んで構成された車体前部構造であって、前記ダッシュクロスメンバの左右の傾斜部を、ダッシュクロスメンバよりも上方側に位置しかつ車両幅方向に沿って延在する長尺状の第1の連結手段によって連結した、ことを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の本発明に係る車体前部構造は、請求項1記載の発明において、前記第1の連結手段は、ダッシュパネルの前面側にてダッシュクロスメンバよりも上方側に位置されかつ車両幅方向に延在するステアリングギヤボックスを含んで構成されている、ことを特徴としている。
【0009】
請求項3記載の本発明に係る車体前部構造は、請求項2記載の発明において、前記第1の連結手段は、前記ステアリングギヤボックスと、このステアリングギヤボックスの長手方向の端部をダッシュクロスメンバの傾斜部に固定するブラケットと、を含んで構成されている、ことを特徴としている。
【0010】
請求項4記載の本発明に係る車体前部構造は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記第1の連結手段と前記フロントサイドメンバとを連結する第2の連結手段を備えている、ことを特徴としている。
【0011】
請求項5記載の本発明に係る車体前部構造は、請求項4記載の発明において、車両正面視で前記ダッシュクロスメンバと前記第1の連結手段と前記第2の連結手段とによってダッシュパネルに閉鎖多角形状の補強部を形成した、ことを特徴としている。
【0012】
請求項1記載の本発明によれば、ダッシュパネルの前面側には車両幅方向に沿って延在するダッシュクロスメンバが配置されており、かかるダッシュクロスメンバによって左右のフロントサイドメンバの上部後端側同士が結合されているため、フロントサイドメンバの上部後端側の支持力が増強(支持剛性が増加)される。
【0013】
また、ダッシュクロスメンバの両端側を車両正面視で斜め上方に延在させて、フロントサイドメンバの後方外側に略車両上下方向に沿って延在するフロントピラーとフロントサイドメンバの上部後端側とを結合したので、車両前方側からフロントサイドメンバに入力された荷重をダッシュクロスメンバを介して左右のフロントピラーへ伝達することができる。
【0014】
さらに、本発明では、ダッシュクロスメンバの左右の傾斜部を、ダッシュクロスメンバよりも上方側に位置しかつ車両幅方向に沿って延在する長尺状の第1の連結手段によって連結したので、ダッシュクロスメンバの剛性を向上させることができる。つまり、本発明におけるダッシュクロスメンバは両端側が車両正面視で斜め上方に延在して傾斜部となっているため、その分ダッシュクロスメンバの剛性が低下するが、斜め上方に延びる左右の傾斜部を、ダッシュクロスメンバよりも上方側に位置しかつ車両幅方向に沿って延在する長尺状の第1の連結手段によって連結することにより、ダッシュクロスメンバの剛性を補う更には向上させることができる。これにより、フロントサイドメンバの上部後端側の支持強度をより一層高めることができる。
【0015】
上記作用が得られる結果、本発明によれば、前面衝突した場合におけるフロントサイドメンバの上部後端側の折れモードを制御でき、かつ衝突荷重を左右のフロントピラーに効率良く分散させることができる。その結果、前面衝突した場合におけるダッシュパネルへの荷重入力量を低減させることができる。
【0016】
しかも、ダッシュクロスメンバを補強する第1の連結手段は、ダッシュクロスメンバよりも上方側に位置しかつ車両幅方向に沿って延在する長尺状に構成されているため、先行技術に比べて設置スペースが少なくて済む。
【0017】
請求項2記載の本発明によれば、第1の連結手段が、ダッシュパネルの前面側にてダッシュクロスメンバよりも上方側に位置されかつ車両幅方向に延在するステアリングギヤボックスを含んで構成されているため、クロスメンバやブラケット等のボディー構成部材ではなく、ステアリングギヤボックスというステアリング系機能部品を使ってダッシュクロスメンバの補強が行われることになる。
【0018】
請求項3記載の本発明によれば、ステアリングギヤボックスの長手方向の端部は、ブラケットによってダッシュクロスメンバの傾斜部に固定されるため、ステアリングギヤボックスの長手方向の両端部側の構成については特に変更する必要はない。
【0019】
請求項4記載の本発明によれば、第1の連結手段とフロントサイドメンバとを第2の連結手段によって連結したので、フロントサイドメンバの上部後端側を第1の連結手段によって直接的に支持することができる。
【0020】
請求項5記載の本発明によれば、車両正面視でダッシュクロスメンバと第1の連結手段と第2の連結手段とによってダッシュパネルに閉鎖多角形状の補強部を形成したので、閉鎖多角形が形成された部位(補強部)を効果的(即ち、強度を上げたい所をピンポイント的)に補強することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車体前部構造は、エンジンルームとキャビンとを隔成するダッシュパネルと、車体前部の両サイドに略車両前後方向に延在する左右一対のフロントサイドメンバと、フロントサイドメンバの後方外側でダッシュパネルの両サイドに位置して略車両上下方向に延在する左右一対のフロントピラーと、ダッシュパネルの前面側に車両幅方向に延在するように配置されて左右のフロントサイドメンバの上部後端側同士を繋ぐと共に、当該上部後端側から車両正面視で斜め上方に延びて当該上部後端側とフロントピラーとを繋ぐダッシュクロスメンバと、を含んで構成された車体前部構造において、ダッシュクロスメンバの左右の傾斜部を、ダッシュクロスメンバよりも上方側に位置しかつ車両幅方向に沿って延在する長尺状の第1の連結手段によって連結したので、コンパクトな構成で前面衝突した場合におけるダッシュパネルへの荷重入力量を効果的に低減させることができるという優れた効果を有する。
【0022】
請求項2記載の本発明に係る車体前部構造は、請求項1記載の発明において、ダッシュパネルの前面側にてダッシュクロスメンバよりも上方側に位置されかつ車両幅方向に延在するステアリングギヤボックスを含んで第1の連結手段を構成したので、既存の要素(ステアリング系機能部品)を有効活用してダッシュクロスメンバの補強を行うことができるという優れた効果を有する。
【0023】
請求項3記載の本発明に係る車体前部構造は、請求項2記載の発明において、ステアリングギヤボックスと、このステアリングギヤボックスの長手方向の端部をダッシュクロスメンバの傾斜部に固定するブラケットと、を含んで第1の連結手段を構成したので、ステアリングギヤボックスの長手方向の両端部側の構成については特に変更する必要はなく、その結果、車種への適用の自由度を高めることができるという優れた効果を有する。
【0024】
請求項4記載の本発明に係る車体前部構造は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の発明において、第1の連結手段とフロントサイドメンバとを第2の連結手段によって連結したので、フロントサイドメンバを第1の連結手段によって直接的に支持することができ、その結果、前面衝突した場合や車両走行時における車体の捩じりなどによるフロントサイドメンバの変位を効果的に抑制することができるという優れた効果を有する。
【0025】
請求項5記載の本発明に係る車体前部構造は、請求項4記載の発明において、車両正面視でダッシュクロスメンバと第1の連結手段と第2の連結手段とによってダッシュパネルに閉鎖多角形状の補強部を形成したので、閉鎖多角形が形成された部位(補強部)を効果的に補強することができ、その結果、前面衝突した場合に前記閉鎖多角形が形成された部位のキャビン側への変形を抑制することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図1〜図4を用いて、本発明に係る車体前部構造の一実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示しており、矢印OUTは車両幅方向外側を示している。
【0027】
図1には、本実施形態に係る車体前部構造の全体構成を車両正面視で見た場合の縦断面図が示されている。また、図2には、当該車体前部構造の全体構成を車両側面視で見た場合の縦断面図が示されている。これらの図に示されるように、エンジンルーム10とキャビン12とは、ダッシュパネル14によって隔成されている。ダッシュパネル14の上端部は図示しないカウルの下面に結合されており、又ダッシュパネル14の下端部は車体フロア16に結合されている。
【0028】
上記ダッシュパネル14によって隔成されたエンジンルーム10側、即ち車体前部18の両サイドには、左右一対のフロントサイドメンバ20が略車両前後方向に延在している。因みに、フロントサイドメンバ20は、フロントサイドメンバインナパネル22及びフロントサイドメンバアウタパネル24によって矩形閉断面構造かつ長尺状に形成されている。さらに、図2に示されるように、フロントサイドメンバ20は、側面視で、ダッシュパネル14から車両前方側に位置する上部20Aと、この上部20Aの後端部からダッシュパネル14の下部側面形状に沿って車両後方下側へ傾斜するキックアップ部20Bと、このキックアップ部20Bの後端部から車体フロア16の下面に沿って車両後方側へ延在する下部20Cと、を備えている。
【0029】
なお、上記左右一対のフロントサイドメンバ20の前端部同士は、車両幅方向を長手方向として配置された図示しないフロントバンパリインフォースによって相互に連結されている。フロントバンパリインフォースはフロントバンパの一部を構成する高強度の長尺状の部材であり、図示しないフロントバンパカバーの後方側に配置されている。
【0030】
また、図1に示されるように、上記ダッシュパネル14の車両幅方向の両端部には、略車両上下方向に延在する左右一対のフロントピラー26が立設されている。フロントピラー26は、フロントサイドメンバ20の後方外側に配置(即ち、フロントサイドメンバ20に対して車両幅方向外側にオフセットして配置)されている。
【0031】
さらに、上記ダッシュパネル14の前面側の所定位置(ダッシュパネル14の下部側で車体フロア16の図示しないトンネル部が結合される等脚台形状の凹部28の直上)には、車両幅方向に沿って延在するダッシュクロスメンバ30が配設されている。ダッシュクロスメンバ30は長尺状かつ断面ハット形状に形成されており、開口側の上端フランジ部30A及び下端フランジ部30Bはダッシュパネル14の前面下部にスポット溶接等により結合されている。これにより、ダッシュクロスメンバ30は、ダッシュパネル14とで閉断面構造を形成している(図2参照)。
【0032】
また、図4に示されるように、フロントサイドメンバ20の上部20Aの後側端末部20A1は、ダッシュクロスメンバ30の上面30Cに重ねられてスポット溶接等により結合されている。さらに、上部20Aの後側端末部20A2は、ダッシュクロスメンバ30の前面30Dに突き当てられてスポット溶接等により結合されている。
【0033】
図1に戻り、上記ダッシュクロスメンバ30は、車両正面視で、左右のフロントサイドメンバ20の上部20Aの後端部同士を車両幅方向に繋ぐ水平部32と、この水平部32の長手方向の両端部から図示しないタイヤを迂回するべく斜め上方に延出されてフロントピラー26の高さ方向中間部に結合される左右一対の傾斜部(湾曲部)34と、を含んで構成されている。従って、ダッシュクロスメンバ30は、左右のフロントサイドメンバ20の上部20Aの後端部同士を相互に連結するだけでなく、フロントサイドメンバ20の上部20Aの後端部とフロントピラー26とを相互に連結する構成になっている。
【0034】
ここで、上述した本実施形態に係る車体前部構造では、ダッシュパネル14の前面側でかつフロントサイドメンバ20の上部20Aよりも高くブレーキブースタ36よりも低い位置に、第1の連結手段としてのハイマウント式のステアリングギヤボックス38が配置されている。ステアリングギヤボックス38は、車両幅方向を長手方向として配置された円筒状の部材であり、ダッシュパネル14には当該ステアリングギヤボックス38を納めるための断面半円形状の凹部40が形成されている。ステアリングギヤボックス38の後半分は、この凹部40内に収容されている。なお、本実施形態では、ステアリングギヤボックス38としてラック&ピニオン式を採用しているが、これに限定されるものではない。
【0035】
図3に拡大して示されるように、ステアリングギヤボックス38の長手方向の両端部38Aには、第1の連結手段としてのギヤボックス固定用の固定ブラケット42がそれぞれ配置されている。固定ブラケット42は車両正面視で略T字形を成しており、ステアリングギヤボックス38の長手方向の端部38Aにあてがわれてダッシュパネル14に上下二点で固定具44で固定されるクランプ形状のギヤボックス側固定部42Aと、このギヤボックス側固定部42Aの上下方向の中間部から車両幅方向外側へ延出されて先端部一点で固定具46でダッシュクロスメンバ30の傾斜部34の長手方向の中間部に固定されるクロスメンバ側固定部42Bと、によって構成されている。これにより、ステアリングギヤボックス38がダッシュクロスメンバ30の左右の傾斜部34間に掛け渡されて両者を車両幅方向に連結している。
【0036】
さらに、図4に拡大して示されるように、ステアリングギヤボックス38の端部38Aの近傍部位(先端部よりも車両幅方向内側へ若干控えた位置)には、第2の連結手段としての連結ブラケット48が配置されている。連結ブラケット48は、ステアリングギヤボックス38に被嵌されてダッシュパネル14に上下二点で固定具44で固定されるギヤボックス側固定部48Aと、このギヤボックス側固定部48Aの下端部から車両前方外側へ斜めに屈曲された中間傾斜部48Bと、この中間傾斜部48Bの下端部から車両前方側へ屈曲されてフロントサイドメンバ20の上部20Aの頂壁部に前後二点で固定具46で固定されるサイドメンバ側固定部48Cと、によって構成されている。これにより、フロントサイドメンバ20の上部20Aは、連結ブラケット48を介してステアリングギヤボックス38に連結されている。
【0037】
さらに、図1に示されるように、ダッシュクロスメンバ30、ステアリングギヤボックス38及び固定ブラケット42、並びに連結ブラケット48によって、車両正面視でダッシュパネル14に閉鎖多角形である略三角形状の補強部50(図1の斜線部)が形成されている。そして、この補強部50の車室内側の面に対向してブレーキペダル52のペダルアーム54(図1参照)が配置されている。
【0038】
ブレーキペダル52の支持構造について簡単に補足しておくと、ダッシュパネル14における補強部50の上方側に配置されたブレーキブースタ36からはダッシュパネル14を貫通する図示しないスタッドボルトが植設されており、ダッシュパネル14の車室内側からペダルブラケット56のベースプレート58のボルト挿通孔にスタッドボルトが通されてナット締めすることにより、ブレーキブースタ36とペダルブラケット56とがダッシュパネル14を挟んで共締めされている。このペダルブラケット56には、ペダルアーム54の上端部に貫通配置されたペダルボス60が揺動可能に軸支されている。また、ブレーキブースタ36の軸芯部からはプッシュロッド62が突出されており、このプッシュロッド62の先端部に設けられたクレビス64及びクレビスピン66によってプッシュロッド62とペダルアーム54とが相対回転可能に連結されている。従って、ドライバがペダルアーム54の下端部に設けられたペダルパッド68に踏力を付与すると、プッシュロッド62が車両前方側へ軸方向移動され、ブレーキブースタ36で踏力が増強され、マスタシリンダ70で液圧に変換される構成である。
【0039】
(本実施形態の作用並びに効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0040】
前述したように、ダッシュパネル14の前面側には、断面ハット形状のダッシュクロスメンバ30が車両幅方向に延在されて閉断面を形成するため、ダッシュクロスメンバ30が配設された部分のダッシュパネル14の剛性が高くなる。そして、かかるダッシュクロスメンバ30によって左右のフロントサイドメンバ20の上部20Aの後端部同士が結合(連結)されているため、フロントサイドメンバ20の上部20Aの後端側の支持力が増強(支持剛性が増加)される。
【0041】
また、ダッシュクロスメンバ30の両端側を車両正面視で斜め上方に延在させて、フロントサイドメンバ20の後方外側に略車両上下方向に沿って延在するフロントピラー26の高さ方向中間部とフロントサイドメンバ20の上部20Aの後端部とを結合したので、車両前方側から図示しないフロントバンパリインフォースを介してフロントサイドメンバ20に入力された荷重をダッシュクロスメンバ30を介して左右のフロントピラー26へ伝達する(流す)ことができる。
【0042】
さらに、ダッシュクロスメンバ30の左右の傾斜部34を、ダッシュクロスメンバ30よりも上方側でブレーキブースタ36よりも下側に位置しかつ車両幅方向に沿って延在する長尺状のステアリングギヤボックス38(及び固定ブラケット42)によって連結したので、ダッシュクロスメンバ30の剛性を向上させることができる。つまり、本実施形態におけるダッシュクロスメンバ30は、タイヤとの干渉を避けるレイアウトを採る関係で、その両端側が車両正面視で斜め上方に延在して傾斜部34となっているため、その分ダッシュクロスメンバ30の剛性が低下するが、斜め上方に延びる左右の傾斜部34を、ダッシュクロスメンバ30よりも上方側でブレーキブースタ36よりも下側に位置しかつ車両幅方向に沿って延在する長尺状のステアリングギヤボックス38(及び固定ブラケット42)によって連結することにより、ダッシュクロスメンバ30の剛性を補うことができ、更には向上させることができる。これにより、フロントサイドメンバ20の上部20Aの後端部の支持強度を高めることができる。
【0043】
上記作用が得られる結果、本実施形態に係る車体前部構造によれば、前面衝突した場合におけるフロントサイドメンバ20の上部20Aの後端側の折れモード(側面視で略Z形状に折れる如きの変形モードのこと)を制御でき、かつ衝突荷重を左右のフロントピラー26に効率良く分散させることができる。その結果、前面衝突した場合におけるダッシュパネル14への荷重入力量を低減させることができる。なお、上記作用三点のすべてが得られた場合にダッシュパネル14への荷重入力量を低減させることができるという意味ではなく、相乗効果としてダッシュパネル14への荷重入力量を非常に効果的に低減させることができるという意味である。
【0044】
しかも、ダッシュクロスメンバ30を補強するステアリングギヤボックス38は、ダッシュクロスメンバ30よりも上方側でかつブレーキブースタ36よりも下側に位置し、更に車両幅方向に沿って延在する長尺状の部材とみなすことができるため、前述した先行技術に比べて車体前部18における設置スペースが少なくて済む。
【0045】
以上を総括すると、本実施形態に係る車体前部構造によれば、コンパクトな構成で前面衝突した場合におけるダッシュパネル14への荷重入力量を効果的に低減させることができる。
【0046】
また、本実施形態に係る車体前部構造では、ダッシュクロスメンバ30の左右の傾斜部34を連結する第1の連結手段が、ダッシュパネル14の前面側にてダッシュクロスメンバ30よりも上方側に位置されかつブレーキブースタ36よりも下側に位置し、更に車両幅方向に延在するステアリングギヤボックス38及び一対の固定ブラケット42によって構成されているため、クロスメンバやブラケット等のボディー構成部材ではなく、ステアリングギヤボックス38というステアリング系機能部品を使ってダッシュクロスメンバ30の補強が行われることになる。その結果、本実施形態によれば、既存の要素(ステアリング系機能部品)を有効活用してダッシュクロスメンバ30の補強を行うことができる。
【0047】
さらに、本実施形態に係る車体前部構造では、ステアリングギヤボックス38の長手方向の端部38Aは、新設部品である固定ブラケット42によってダッシュクロスメンバ30の傾斜部34に固定されるため、ステアリングギヤボックス38の長手方向の両端部38A側の構成については特に変更する必要はない。従って、本実施形態によれば、車種への適用の自由度を高めることができる。つまり、ステアリングギヤボックス側の形状や構造に変化を与えると、その車種にしか適用できなくなってしまうが、本実施形態のようにステアリングギヤボックス38側の構成はそのまま維持されるようにすれば、同系統の車種(即ち、ハイマウント式のステアリングギヤボックス38を使いかつ両端部が傾斜されたダッシュクロスメンバ30が採用される車種)であれば、固定ブラケットの形状のみを変えることで対応することができる。従って、複数種類の車種への適用が可能であり、その分、適用の自由度が高いといえる。また、それにより、生産性の向上やコストダウン効果も見込める。
【0048】
また、本実施形態に係る車体前部構造では、ステアリングギヤボックス38とフロントサイドメンバ20の上部20Aとを連結ブラケット48によって連結したので、フロントサイドメンバ20の上部20Aをステアリングギヤボックス38で直接的に支持することができる。その結果、本実施形態によれば、前面衝突した場合や車両走行時における車体の捩じりなどによるフロントサイドメンバ20の変位を効果的に抑制することができる。
【0049】
さらに、本実施形態に係る車体前部構造では、車両正面視でダッシュクロスメンバ30とステアリングギヤボックス38及び固定ブラケット42と連結ブラケット48とによってダッシュパネル14に略三角形状の補強部50を形成したので、ダッシュパネル14のその部位を効果的に補強することができる。その結果、本実施形態によれば、前面衝突した場合に補強部50のキャビン12側への変形(侵入)を抑制することができ、ひいては補強部50と対向する位置にあるブレーキペダル52の後退を効果的に抑止又は抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る車体前部構造では、ステアリングギヤボックス38をダッシュクロスメンバ30の左右の傾斜部34に連結する構成を採っているため、ステアリングギヤボックス38としてラック&ピニオン形式のステアリングギヤボックスを採用した場合には、左右方向へ作用するラック反力を当該反力の作用方向に近い向きで受けることができるというメリットがある。
【0051】
さらに、本実施形態に係る車体前部構造では、前述したように、ダッシュクロスメンバ30の左右の傾斜部34を、ダッシュクロスメンバ30よりも上方側でブレーキブースタ36よりも下側に位置しかつ車両幅方向に沿って延在する長尺状のステアリングギヤボックス38(及び固定ブラケット42)によって連結したので、フロントサイドメンバ20及びフロントピラー26間でのダッシュクロスメンバ30の(車体の捩じり等による)変位を抑制できる効果も得られる。
【0052】
〔本実施形態の補足説明〕
なお、上述した本実施形態では、ステアリングギヤボックス38の両端部38Aを固定ブラケット42を使ってダッシュクロスメンバ30の左右の傾斜部34に固定する構成を採ったが、請求項1記載の「第1の連結手段」にはステアリングギヤボックス38以外の構成、例えばクロスメンバ等も含まれる。
【0053】
また、上述した本実施形態では、ダッシュクロスメンバ30、ステアリングギヤボックス38及び固定ブラケット42、並びに連結ブラケット48を用いて、ダッシュパネル14のブレーキペダル付近に車両正面視で三角形状の補強部50を設定したが、これに限らず、閉鎖多角形状(閉じ形状)を形成することができればよく、必ずしも三角形状である必要はない。
【0054】
さらに、上述した本実施形態では、左右一対のフロントサイドメンバ20の前端部間にはフロントバンパリインフォースが掛け渡されているとして説明したが、車種によってはフロントサイドメンバの前端部とフロントバンパリインフォースとの間に筒状等のクラッシュボックスを設定しており、その場合にはクラッシュボックスも含めてフロントサイドメンバと解釈される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態に係る車体前部構造の全体構成を車両正面視で示す縦断面図である。
【図2】本実施形態に係る車体前部構造の全体構成を車両側面視で示す縦断面図である。
【図3】ステアリングギヤボックスの端部固定構造を拡大して示す要部拡大斜視図である。
【図4】ステアリングギヤボックスとフロントサイドメンバとの連結構造を拡大して示す要部拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
10 エンジンルーム
12 キャビン
14 ダッシュパネル
18 車体前部
20 フロントサイドメンバ
20A 上部
26 フロントピラー
30 ダッシュクロスメンバ
34 傾斜部
38 ステアリングギヤボックス(第1の連結手段)
42 固定ブラケット(第1の連結手段)
48 連結ブラケット(第2の連結手段)
50 補強部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームとキャビンとを隔成するダッシュパネルと、
車体前部の両サイドに略車両前後方向に延在する左右一対のフロントサイドメンバと、
フロントサイドメンバの後方外側でダッシュパネルの両サイドに位置して略車両上下方向に延在する左右一対のフロントピラーと、
ダッシュパネルの前面側に車両幅方向に延在するように配置されて左右のフロントサイドメンバの上部後端側同士を繋ぐと共に、当該上部後端側から車両正面視で斜め上方に延びて当該上部後端側とフロントピラーとを繋ぐダッシュクロスメンバと、
を含んで構成された車体前部構造であって、
前記ダッシュクロスメンバの左右の傾斜部を、ダッシュクロスメンバよりも上方側に位置しかつ車両幅方向に沿って延在する長尺状の第1の連結手段によって連結した、
ことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記第1の連結手段は、ダッシュパネルの前面側にてダッシュクロスメンバよりも上方側に位置されかつ車両幅方向に延在するステアリングギヤボックスを含んで構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記第1の連結手段は、前記ステアリングギヤボックスと、このステアリングギヤボックスの長手方向の端部をダッシュクロスメンバの傾斜部に固定するブラケットと、を含んで構成されている、
ことを特徴とする請求項2記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記第1の連結手段と前記フロントサイドメンバとを連結する第2の連結手段を備えている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の車体前部構造。
【請求項5】
車両正面視で前記ダッシュクロスメンバと前記第1の連結手段と前記第2の連結手段とによってダッシュパネルに閉鎖多角形状の補強部を形成した、
ことを特徴とする請求項4記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−199082(P2006−199082A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11066(P2005−11066)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】