説明

車体前部構造

【課題】オフセット衝突時に衝撃吸収機構に発生する曲げモーメントを減少させ、安定的な衝撃吸収を行い、衝撃吸収能力が向上する車体前部構造を提供する。
【解決手段】車体前部構造は、左右のフロントサイドフレーム24、25及びアッパメンバ26、27を延ばし、フロントフレーム前端部86にアッパ前端部87をフレーム連結部材46、47で接合し、フレーム連結部材46、47に衝撃吸収機構21を接合し、衝撃吸収機構21にバンパビーム14の端部54、55を接合した。衝撃吸収機構21は、閉断面形状で、その外壁91がアッパメンバ26、27のアッパ内壁41に対し直線状に設けられ、衝撃吸収機構21の内壁92が少なくとも長手方向の中央からバンパビーム14までの間の内壁92の前部を車両11の外側へ向けて斜めに曲げた湾曲形状に形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のバンパビームを車体のフロントボデーに衝撃を吸収するように取付けた車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造には、バンパビームとフロントボデーとの間に衝撃吸収装置を設けたものがある。
この構造は、フロントボデーのフロントサイドフレームの前縁にアッパメンバの前縁を板状の連結部材で連結し、連結部材に筒状の衝撃吸収機構を設けたので、車両正面に接触したときの衝撃が角度を持って入力されると、筒状の衝撃吸収機構は倒れることなく衝撃を吸収するというものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、従来技術(特許文献1)は、正面衝突が、例えば左のオフセット衝突の場合、左の衝撃吸収機構は折れるおそれがあり、衝撃吸収性能が不足することが考えられる。
左の衝撃吸収機構には、バンパビームが右の衝撃吸収機構を回動支点にして回動すると車両の内側へ向かう衝撃(荷重)が左の衝撃吸収機構に交差するように入力されるので、
曲げモーメントが発生して、左の衝撃吸収機構は曲がって折れる。その結果、左の衝撃吸収機構は圧縮変形せず、衝撃吸収が十分行われなくなり、衝撃吸収能力が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−125884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、オフセット衝突時に衝撃吸収機構に発生する曲げモーメントを減少させ、安定的な衝撃吸収を行い、衝撃吸収能力が向上し、製造が容易な車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、車両正面の下部側から車両の後方へ向けてフロントピラーの下部まで左右のフロントサイドフレームを延ばし、フロントサイドフレームより車両の外側に、下部側からフロントピラーの中央部までアッパメンバを延ばし、フロントサイドフレームのフロントフレーム前端部にアッパメンバのアッパ前端部をフレーム連結部材で接合し、フレーム連結部材にそれぞれ衝撃吸収機構を接合し、これらの左右の衝撃吸収機構にバンパビームの端部をそれぞれ接合した車体前部構造において、衝撃吸収機構は、車両正面視、閉断面形状で、衝撃吸収機構の外壁がアッパメンバのアッパ外壁にフレーム連結部材を介在させて直線状に設けられ、衝撃吸収機構の内壁が少なくとも長手方向の中央からバンパビームまでの間の内壁の前部を車両の外側へ向けて斜めに曲げた湾曲形状に形成していることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明では、衝撃吸収機構は、内壁を含む内部材と、外壁を含む外部材と、これらの間に設けた隔壁と、を有し、内部材の内壁がフロントサイドフレームのフロントフレーム内壁にフレーム連結部材を介在させて直線状に設けられ、外部材及び隔壁は、車両の車幅方向の中心軸線に平行に形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、外部材と隔壁をそれぞれの第1上接合部及び第1下接合部を接合することによって接合し、第1上接合部及び第1下接合部に近接させて、外部材と内部材をそれぞれの第2上接合部及び第2下接合部を接合することによって接合していることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、第1上接合部及び第1下接合部は、第2上接合部及び第2下接合部より車両の外側に配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明では、衝撃吸収機構は、フレーム連結部材に接合する接合後壁に内部材及び外部材の縁を接触させて、すみ肉溶接を施すことによって縁を接合していることを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明では、外部材及び内部材は、車両正面視、略U字形の多角形を形成するために鈍角に曲げた複数の稜線部を有し、内部材の稜線部は、少なくとも内壁の前部の前稜線部を車両の外側へ向けて斜めに曲げた湾曲形状に形成していることを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明では、外部材は、第1上接合部及び第1下接合部に連ねてガイド端部を内部材から離れる方向へ向けて曲げ形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、フロントフレーム前端部にアッパ前端部をフレーム連結部材で接合し、フレーム連結部材に衝撃吸収機構を接合し、衝撃吸収機構にバンパビームの端部を接合した車体前部構造において、衝撃吸収機構は、閉断面形状で、その外壁がアッパメンバのアッパ外壁にフレーム連結部材を介在させて直線状に設けられ、衝撃吸収機構の内壁が少なくとも長手方向の中央からバンパビームまでの間の内壁の前部を車両の外側へ向けて斜めに曲げた湾曲形状に形成しているので、例えば、車両正面の左にオフセット衝突して、オフセット衝突の衝撃(荷重)が入力されると、バンパビームは右の衝撃吸収機構を支点に車両の内側へ向かって回動し始め、車両の外側へ湾曲した左の衝撃吸収機構の内壁にほぼ平行な状態で荷重が伝わる。その結果、オフセット衝突によって衝撃吸収機構が変形する過程のうち初期時に衝撃吸収機構に起きる曲げモーメントを減少させ、中期の荷重の入力角度に対する中折れ(曲がって倒れるように折れる)を無くし、衝撃吸収機構の潰れ(圧縮)変形を安定化させることができる。従って、衝撃吸収機構は安定的な衝撃吸収を行うことができる。
【0014】
請求項2に係る発明では、衝撃吸収機構は、内壁を含む内部材と、外壁を含む外部材と、これらの間に設けた隔壁と、を有し、内部材の内壁がフロントサイドフレームのフロントフレーム内壁にフレーム連結部材を介在させて直線状に設けられ、外部材及び隔壁は、車両の車幅方向の中心軸線に平行に形成されているので、左にオフセット衝突した衝撃(荷重)で衝撃吸収機構が変形する過程の中期において、衝撃吸収機構の内部材の内壁からフロントサイドフレームのフロントフレーム内壁に荷重を伝達する。
一方、隔壁と外部材からフロントサイドフレームのフロントフレーム外壁及びアッパメンバのアッパ内壁に荷重を伝達する。
その結果、衝撃吸収機構は、長手の中途で折れることなく、圧縮変形を十分行うことができ、衝撃吸収能力が向上する。
【0015】
請求項3に係る発明では、外部材と隔壁をそれぞれの第1上接合部及び第1下接合部を接合することによって接合し、第1上接合部及び第1下接合部に近接させて、外部材と内部材をそれぞれの第2上接合部及び第2下接合部を接合することによって接合しているので、第1上接合部を2枚重ねにすることができる。同様に第1下接合部を2枚重、第2上接合部及び第2下接合部を2枚重ねにすることができる。
その結果、第1上接合部、第1下接合部、第2上接合部、第2下接合部の強度をほぼ均等にすることができ、3つの板材(内部材、外部材、隔壁)をほぼ均等の強度に設定することができる。
従って、オフセット衝突したときの衝撃(荷重)に対して、3つの板材(内部材、外部材、隔壁)をほぼ均等に圧縮変形させることができる。
【0016】
請求項4に係る発明では、第1上接合部及び第1下接合部は、第2上接合部及び第2下接合部より車両の外側に配置されているので、外部材の第1上接合部に隔壁の第1上接合部を重ねて接合し、外部材の第1下接合部に隔壁の第1下接合部を重ねて接合した後に、外部材の第2上接合部に内部材の第2上接合部を接合し、外部材の第2下接合部に内部材の第2下接合部を接合することができ、3つの板材(内部材、外部材、隔壁)の接合作業は容易になる。
【0017】
また、このように3つの板材(内部材、外部材、隔壁)を接合するので、内部材、外部材、隔壁を鋼板を曲げ成形(塑性加工)によって成形することができる。
【0018】
請求項5に係る発明では、衝撃吸収機構は、フレーム連結部材に接合する接合後壁に内部材及び外部材の縁を接触させて、すみ肉溶接を施すことによって縁を接合しているので、オフセット衝突したときの衝撃(荷重)が、縁から接合後壁に直接伝達され、すみ肉溶接で形成したビードに伝わり難く、ビードを含む溶接部の破断が起き難い。その結果、オフセット衝突の初期から内部材、外部材、隔壁は潰れ(圧縮変形し)始める。つまり、衝撃吸収の性能が高まる。
【0019】
請求項6に係る発明では、外部材及び内部材は、車両正面視、略U字形の多角形を形成するために鈍角に曲げた複数の稜線部を有し、内部材の稜線部は、少なくとも内壁の前部の前稜線部を車両の外側へ向けて斜めに曲げた湾曲形状に形成しているので、鋼板を用いて内壁の前部だけを車両の外側へ向けて斜めに曲げた湾曲形状に形成することができる。
【0020】
請求項7に係る発明では、外部材は、第1上接合部及び第1下接合部に連ねてガイド端部を内部材から離れる方向へ向けて曲げ形成しているので、予め隔壁を接合した外部材の第1上接合部及び第1下接合部に内部材の第1上接合部及び第1下接合部をそれぞれ重ねて接合するために、内部材を嵌るときに、ガイド端部は向かって来る内部材の第1上接合部及び第1下接合部を接触しつつ案内する。従って、内部材を挿入する作業は容易になる。
【0021】
ガイド端部を形成するための曲げが、別の稜線部となって稜線部の数が増加し、衝撃吸収できる衝撃の範囲をより大きくすることができる。
特に、例えば、左にオフセット衝突したときに、右の衝撃吸収機構の内部材が支点となってバンパビームは回動し始めるが、この支点にガイド端部を形成するための曲げ(別の稜線部)が近接するので、衝撃吸収機構に発生する衝撃吸収機構を中途から折る力(曲げモーメント)を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例に係る車体前部構造の平面図である。
【図2】図1の2矢視図である。
【図3】実施例に係る車体前部構造の斜視図兼作用図である。
【図4】実施例に係る衝撃吸収機構の斜視図である。
【図5】実施例に係る衝撃吸収機構の内部材、外部材、隔壁の斜視図である。
【図6】図5の6矢視図兼作用図である。
【図7】実施例に係る外部材に内部材を挿入する要領説明図兼作用図である。
【図8】実施例に係る車体前部構造の衝撃を吸収する機構を説明する図である。
【図9】図8の続きを説明する図である。る図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0024】
実施例に係る車体前部構造は、図1〜図3に示すように、車両11の正面12に配置したバンパ13のバンパビーム14を支持している。車両11の車体16のフロントボデー17の左右に衝撃吸収機構21を取付け、この衝撃吸収機構21にバンパビーム14を取付けた構造である。
【0025】
車体16は、フロントボデー17、左右のサイドボデー22を有する。23はサイドボデー22のフロントピラーである。
なお、車両11の前後方向をX軸方向、車両11平面視(図1の視点)で、車両11の車幅方向(Y軸方向)の中心軸線をCとする。
【0026】
フロントボデー17は、左右のフロントサイドフレーム24、25と、このフロントサイドフレーム24、25より車両11の外側(矢印a1の方向)に設けた左右のアッパメンバ26、27と、これらのフロントサイドフレーム24、25とアッパメンバ26、27に接合した左右のダンパハウジング31、32と、を有する。
【0027】
フロントサイドフレーム24、25は、車両11の内側へ向く(矢印a2の方向)フロントフレーム内壁34、これに対向するフロントフレーム外壁35、フロントフレーム天部36を有する。
アッパメンバ26、27は、車両11の内側へ向く(矢印a2の方向)アッパ内壁41、これに対向するアッパ外壁42、アッパ天部43を有する。
【0028】
また、フロントボデー17は、左右のフロントサイドフレーム24、25を接合したフロントクロスメンバ45と、フロントサイドフレーム24、25にアッパメンバ26、27を連結した左右のフレーム連結部材46、47と、フレーム連結部材46、47及びフロントクロスメンバ45に立設した左右のフロントサイドバルクヘッド51と、このフロントサイドバルクヘッド51の上部を支持してアッパメンバ26、27に接続したバルクヘッドアッパフレーム52と、を有する。
そして、バンパビーム14を衝撃吸収機構21で支持している。
【0029】
バンパビーム14は、角管状で、車両11平面視(図1の視点)、湾曲し、両端側(左のビームサイド部54、右のビームサイド部55)が車両11後方(矢印a3の方向)へ向かって曲がっている。
【0030】
具体的には、ビーム中央部56が一直線に形成され、ビーム中央部56に連続して左のビームサイド部54が一直線に形成され、右のビームサイド部55が一直線に形成されている。αはビームサイド部54、55の後退角度である。
【0031】
ビームサイド部54、55は、正面壁58に取付け用のボルト61や工具を通す工具孔62が開けられている。
さらに、正面壁58に対向した裏壁64にボルト61を嵌める孔(図に示していない)を開け、この孔にボルト61を通して、衝撃吸収機構21に裏壁64をボルト61で締結した。
【0032】
衝撃吸収機構21は、図3〜図6に示す通り、筒状の緩衝部材66と、この緩衝部材66の前縁67に取付けた連結前壁68と、緩衝部材66の後縁71に取付けた接合後壁72と、からなる。
【0033】
緩衝部材66の前縁67をバンパビーム14の後退角αに一致させ、角度αb(αb=α)で形成した。
なお、前縁67の角度αbは、車両平面視、車両11の中心軸線Cに直交する線Eに対する角度である。
緩衝部材66は、鋼板製で、内部材75と、外部材76と、中間部材(隔壁)77と、からなる。
【0034】
次に、車体前部構造の主要構成を図1〜図7で説明する。
図4はバンパビーム14を取り外して、連結前壁68にボルト61を3本ねじ込んだ状態を示している。
【0035】
車体前部構造は、車両11正面12の下部81側(図2)から車両11の後方へ(矢印a3の方向)向けてフロントピラー23の下部83(図2)まで左右のフロントサイドフレーム24、25を延ばし、フロントサイドフレーム24、25より車両11の外側(矢印a1の方向)に、下部81側からフロントピラー23の中央部84までアッパメンバ26、27を延ばし、フロントサイドフレーム24、25のフロントフレーム前端部86にアッパメンバ26、27のアッパ前端部87をフレーム連結部材46、47で接合し、フレーム連結部材46、47にそれぞれ衝撃吸収機構21を接合し、これらの左右の衝撃吸収機構21にバンパビーム14の端部(ビームサイド部54、55)をそれぞれ接合した。
【0036】
衝撃吸収機構21は、車両11正面視(図5、図7の視点)、閉断面形状である。そして車両平面視(図6)、衝撃吸収機構21の外壁91がアッパメンバ26、27のアッパ内壁41にフレーム連結部材46、47を介在させて直線状に設けられている。
また、図6に示す通り、衝撃吸収機構21の内壁92が少なくとも長手方向(X軸方向)の中央からバンパビーム14までの間の内壁92の前部113を車両11の外側へ向けて斜めに曲げた湾曲形状に形成している。
【0037】
ここでは、残りの残部(後部)115も湾曲形状に形成している。
「車両11正面視」とは、ここでは、図5の視点や図7の視点とする。
【0038】
また、衝撃吸収機構21は、内壁92を含む内部材75と、外壁91を含む外部材76と、これらの間に設けた隔壁77と、を有する。
【0039】
内部材75の内壁92がフロントサイドフレーム24、25のフロントフレーム内壁34にフレーム連結部材46、47を介在させて直線状に設けられている(図6)。
外部材76及び隔壁77は、車両11の車幅方向(Y軸方向)の中心軸線Cに平行に形成されている。
【0040】
具体的には、外部材76の外壁91及び隔壁77の中間壁157は、車両11平面視(図1、図6の視点)、一直線で且つ、車両11の車幅方向(Y軸方向)の中心軸線Cに平行に形成されている。
【0041】
さらに、衝撃吸収機構21は、図5に示すように、外部材76と隔壁77をそれぞれの第1上接合部(外天中央部95、隔壁天部96)及び第1下接合部(外底中央部97、隔壁底部98)を接合することによって接合する。
【0042】
そして、第1上接合部95、96及び第1下接合部97、98に近接させて、外部材76と内部材75をそれぞれの第2上接合部(外天端101、内天部102)及び第2下接合部(外底端103、内底部104)を接合することによって接合している。
【0043】
第1上接合部95、96及び第1下接合部97、98は、第2上接合部101、102及び第2下接合103、104より車両11の外側に配置されている。
【0044】
衝撃吸収機構21は、フレーム連結部材46、47に接合する接合後壁72に内部材75及び外部材76の縁106、107を接触させて、すみ肉溶接を施すことによって縁106、107を接合している。後で説明する。
【0045】
外部材76及び内部材75は、図5、図7に示す通り、車両11正面視、略U字形の多角形を形成するために鈍角に曲げた複数の稜線部145〜148、135〜138を有する。後で説明する。
【0046】
内部材75の稜線部135〜138は、図5、図6に示す通り、少なくとも内壁92の前部113の前稜線部114を車両11の外側へ向けて斜めに曲げた湾曲形状に形成している。
ここでは、内壁92の残り(残部115)の後稜線部116を湾曲形状に形成した。
【0047】
外部材76は、第1上接合部((外天中央部)95及び第1下接合部(外底中央部)97に連ねてガイド端部117を内部材75から離れる方向へ向けて曲げ形成している。
【0048】
次に、車体前部構造を詳しく説明していく。
車体前部構造では、前述したが、フレーム連結部材46、47に接合後壁72を重ねて接合し、衝撃吸収機構21は接合後壁72と、連結前壁68と、緩衝部材66(内部材75と、外部材76と、隔壁(中間部材)77とからなる。)とで形成した。
【0049】
接合後壁72は、図4〜図6に示す通り、板状で、一端121がフロントサイドフレーム24のフロントフレーム内壁34より車両11の内側へ張り出す。他端122がアッパメンバ26のアッパ内壁41に、車両11正面12側から視て、重なるので、車両正面からの衝撃をアッパ内壁41に確実に伝え、且つ軽量化を図れる。
【0050】
また、フレーム連結部材46に接合後壁72の一端121、他端122に設けた凸部123をスポット溶接の溶接部で取付けている。
そして、一端121側に内部材75が取付けられている。
【0051】
内部材75は、図5、図7に示す通り、断面が略U字形で、開口が車両11の外側(矢印a1の方向)へ向いている。車両11正面視(図7の視点)、上部と下部は中心線Cbを基準に対称である。
そして、開口を内天部102とこの内天部102に平行な内底部104で形成し、内天部102に連ねて内上傾斜壁126が形成され、内底部104に連ねて内下傾斜壁127が形成されている。
【0052】
また、内上傾斜壁126と内下傾斜壁127に連ねて内壁92が形成されている。
内壁92は、平面視(図6の視点)、半径rの円弧である。半径rの中心は車両11の外側に設定されている。円弧の始点131と終点132を通る線133が車両11の中心Cに対し、車両11の外側へ向け傾斜角βだけ傾斜している。
円弧の内壁92に倣って内上傾斜壁126及び内下傾斜壁127が円弧に形成されている。
【0053】
さらに、内部材75は図5、図7に示す通り、次の4個の稜線部、第1内稜線部135、第2内稜線部136、第3内稜線部137、第4内稜線部138を形成している。
第1内稜線部135は、内天部102と内上傾斜壁126の成す内角γ1で形成された角部である。内角γ1は鈍角で、例えば140°である。
【0054】
第2内稜線部136は、内上傾斜壁126と内壁92の成す内角γ2で形成された角部である。内角γ2は鈍角で、例えば135°である。
また、第2内稜線部136は、前稜線部114に後稜線部116を連続させた部位である。
【0055】
第3内稜線部137は、内壁92と内下傾斜壁127の成す内角γ3(γ3=γ2)で形成された角部である。
また、第3内稜線部137は、前稜線部114に後稜線部116を連続させた部位である。
【0056】
第4内稜線部138は、内下傾斜壁127と内底部104の成す内角γ4(γ4=γ1)で形成された角部である。
このような内部材75の内底部104及び内天部102に外方から外部材76が重なる。
【0057】
外部材76は、断面が略U字形で、開口が車両11の内側へ向いている。車両11正面視(図7の視点)、上部と下部は中心線Cbを基準に対称である。
そして、開口を外天部141とこの外天部141に平行な外底部142で形成し、外天部141に連ねて外上傾斜壁143が形成され、外底部142に連ねて外下傾斜壁144が形成されている。
【0058】
また、外上傾斜壁143と外下傾斜壁144に連ねて外壁91が形成されている。
外壁91は、車両11平面視(図6の視点)、一直線で且つ、車両11の車幅方向の中心軸線Cに平行である。
「一直線」とは、言い換えると、平板と同様の形状である。
一直線の外壁91に倣って外上傾斜壁143及び外下傾斜壁144が一直線に形成されている。
【0059】
さらに、外部材76は図5、図7に示す通り、次の4個の稜線部、第1外稜線部145、第2外稜線部146、第3外稜線部147、第4外稜線部148を形成している。
第1外稜線部145は、外天部141と外上傾斜壁143の成す内角θ1で形成された角部である。内角θ1は鈍角で、例えば145°である。
第2外稜線部146は、外上傾斜壁143と外壁91の成す内角θ2で形成された角部である。内角θ2は鈍角で、例えば125°である。
【0060】
第3外稜線部147は、外壁91と外下傾斜壁144の成す内角θ3(θ3=θ2)で形成された角部である。
第4外稜線部148は、外下傾斜壁144と外底部142の成す内角θ4(θ4=θ1)で形成された角部である。
【0061】
外底部142には、開口側の先端から先端近傍までを開口を広げるように外方へ向け(矢印a6の方向)折り曲げた別の稜線部(外底稜線部)151を形成し、この別の稜線部(外底稜線部)151に連続してガイド端部117が形成されている。
外天部141にも、外底部142と同様(対称)に、別の稜線部(外天稜線部)152、ガイド端部117が形成されている。
【0062】
また、外底部142は、別の稜線部(外底稜線部)151に連続して、溶接するための外底端103が形成されている。
外天部141にも、別の稜線部(外天稜線部)152に連続して、溶接するための外天端101が形成されている。
このような外部材76の内部に隔壁(中間部材)77を溶接している。
【0063】
隔壁77は、断面が略U字形で、開口が車両11の内側へ向いている。車両11正面視(図7の視点)、上部と下部は中心線Cbを基準に対称である。
そして、開口を隔壁天部96とこの隔壁天部96に平行な隔壁底部98で形成し、隔壁天部96に連ねて隔壁上傾斜壁155が形成され、隔壁底部98に連ねて隔壁下傾斜壁156が形成されている。
【0064】
また、隔壁上傾斜壁155と隔壁下傾斜壁156に連ねて中間壁157が形成されている。
中間壁157は、車両11平面視(図6の視点)、一直線で且つ、車両11の車幅方向の中心軸線Cに平行である。
一直線の中間壁157に倣って隔壁上傾斜壁155及び隔壁下傾斜壁156が一直線に形成されている。
【0065】
さらに、隔壁77は図5、図7に示す通り、次の4個の稜線部、第1隔壁稜線部161、第2隔壁稜線部162、第3隔壁稜線部163、第4隔壁稜線部164を形成している。
第1隔壁稜線部161は、隔壁天部96と隔壁上傾斜壁155の成す内角ε1で形成された角部である。内角ε1は鈍角で、例えば132°である。
【0066】
第2隔壁稜線部162は、隔壁上傾斜壁155と中間壁157の成す内角ε2で形成された角部である。内角ε2は鈍角で、例えば140°である。
【0067】
第3隔壁稜線部163は、中間壁157と隔壁下傾斜壁156の成す内角ε3(ε3=ε2)で形成された角部である。
第4隔壁稜線部164は、隔壁下傾斜壁156と隔壁底部98の成す内角ε4(ε4=ε1)で形成された角部である。
【0068】
隔壁底部98が外部材76の外底中央部97に重なり溶接によって接合され、隔壁天部96が外部材76の外天中央部95に重なり溶接によって接合されることによって、隔壁77が外部材76に固定される。
外部材76、内部材75に連結前壁68を嵌めている。
【0069】
連結前壁68は、図4に示すように、緩衝部材66の閉断面形状(図5参照)に一致する本体167が形成され、本体167に浅い縁部168が外部材76及び内部材75の外面に重なり嵌る高さで形成されている。本体167には、ボルト61をねじ込むめねじ部171を成している。
【0070】
次に、衝撃吸収機構21の組立て要領を簡単に説明する(図5〜図7)。
組立てに用いる組立て装置(位置決め機構や拘束機構を含む)、スポット溶接装置173、MIG溶接装置174の説明を省略する。
【0071】
まず、図7に示すように、外部材76に隔壁(中間部材)77を組み付け固定する。
外部材76の内側に隔壁(中間部材)77を入れ、外天中央部95に隔壁天部96を重ねる。同時に、外底中央部97に隔壁底部98を重ねる。
【0072】
続いて、これらの重ねた2枚をスポット溶接によって形成されたナゲットを含む溶接部176、177(図5参照)で接合する。これで緩衝部材66を2分割した割り筒部材178が完成する。
【0073】
その次に、割り筒部材178に内部材75を組み付け固定する。
外部材76に向けて内部材75を矢印a7のように移動させ、外部材76の内側に内部材75を嵌め込み、外天端101に内天部102を重ね、外底端103に内底部104を重ねる。
【0074】
その際、外部材76に内部材75の開口側の先端181を当接すると、先端181が外部材76のガイド端部117を滑って内方へ案内される。
引き続き、これらの重ねた2枚をスポット溶接によって形成されたナゲットを含む溶接部183、184で接合する。これで緩衝部材66が完成する。
【0075】
緩衝部材66に連結前壁68を嵌め、連結前壁68の縁部168を溶接によって接合する。溶接の仕様は任意である。
【0076】
最後に、緩衝部材66を接合後壁72に接合する(図5)。
接合後壁72に緩衝部材66の後縁71を接触させ、接触した内部材75の縁106とで形成された隅にMIG溶接を用いてすみ肉溶接を施すことによって形成された溶接部(ビードを含む)186で接合する。
【0077】
同様に、外部材76の縁107とで形成された隅にMIG溶接を用いてすみ肉溶接を施すことによって形成された溶接部(ビードを含む)187で接合する。これで衝撃吸収機構21の組立てが完了する。
【0078】
次に、実施例に係る車体前部構造の作用を説明する。
このように、車体前部構造では、外部材76に内部材75を嵌めるときに、内部材75の開口の縁(内天部102の縁、内底部104の縁)181が外部材76のガイド端部117に当接すると、ガイド端部117に接触しつつ内天部102及び内底部104が移動し位置決めされるので、外部材76に内部材75を挿入する組み付け作業は容易になる。
【0079】
次に、車体前部構造の衝撃を吸収する機構を図8、図9で説明する。
車体前部構造では、車両11の正面12の左側にオフセット衝突すると、衝撃吸収機構21に衝撃(荷重)が伝わり、鋼板製の緩衝部材66が圧縮変形する(図9)ことによって衝撃を吸収する。
【0080】
ここで、図6に示す通り、緩衝部材66は圧縮変形量を3段階に設定している。距離B1までの変形量(範囲)が初期の圧縮変形の範囲、距離B2までの変形量(範囲)が中期の圧縮変形の範囲、距離B3までの変形量(範囲)が後期の圧縮変形の範囲とする。
「中期の圧縮変形」とは、距離B1を超え、B1+B2(以下)まで変形すること。
「中期の荷重」とは、中期の圧縮変形を起こす荷重(衝撃)。
【0081】
具体的には、車両11と障害物(例えば相手車両)191とがオフセット衝突すると、衝撃(荷重)がバンパビーム14に矢印b1のように入力される。そして、バンパビーム14は右の衝撃吸収機構21を回動支点Pとして矢印b2のように回動しつつ左の衝撃吸収機構21に荷重を伝える。左の衝撃吸収機構21には初期の変形(距離B1の範囲)が起き始める。
【0082】
回動するバンパビーム14から荷重が、車両11の外側へ傾斜、湾曲した内壁92に矢印b3のように伝わるので、内壁92にほぼ平行に伝わる。
その結果、内壁92が傾斜、湾曲しない(車両11の中心軸線をCに平行)場合に比べ、車両11の内側へ向かう(矢印b4の方向)緩衝部材66の曲げモーメントを抑制することができる。
【0083】
このように、緩衝部材66に発生する曲げモーメントを抑制するので、図9に示す通り、中期の荷重、言い換えると中期の変形(距離B2の範囲)の荷重の入力角度δに対する緩衝部材66の中折れを無くし、衝撃吸収機構21の潰れ(圧縮)変形を安定化させることができる。従って、衝撃吸収機構21は安定的な衝撃吸収を行うことができる。
【0084】
「中折れ」とは、曲がって、図6に示した距離B2と距離B3の境界やこの境界の近傍や内部材75の前部113と残部115との境界から内壁92が谷折れして、緩衝部材66が倒れる(図8の矢印b4の方向)こと。
なお、車両11の正面衝突のうち、左側のオフセット衝突を一例に説明したが、右側のオフセット衝突のときも、同様の作用、効果を発揮する。
【0085】
また、衝撃吸収機構21では、圧縮変形する過程の中期(距離B2の範囲)において、衝撃吸収機構21の内部材75の内壁92がフロントサイドフレーム24に伝達している荷重は、フロントフレーム内壁34に直線状に設けられた内壁92によって、特にフロントフレーム内壁34に直線状に矢印b5(図3、図6も参照)のように伝わる。
【0086】
一方、圧縮変形する隔壁(中間部材)77からフロントサイドフレーム24に伝わる荷重は、フロントフレーム外壁35に一直線に形成された隔壁(中間部材)77によって、特にフロントフレーム外壁35に直線状に矢印b6(図3、図6も参照)のように伝わる。
【0087】
また、圧縮変形する外部材76からアッパメンバ26に伝わる荷重は、アッパ内壁41に、一直線に形成された外部材76(の外壁91)によって、特にアッパ内壁41に直線状に矢印b7(図3、図6も参照)のように伝わる。
その結果、衝撃吸収機構21(の緩衝部材66)は、長手(X軸方向)の中途(距離B2と距離B3の境界や内部材75の前部113と残部115との境界)で折れることなく、圧縮変形を十分行うことができ、衝撃吸収能力が向上する。
【0088】
さらに、左にオフセット衝突したときに、右の衝撃吸収機構21の内部材75が支点(回動支点)Pとなってバンパビーム14は回動し始めるが、この回動支点Pにガイド端部117を形成するための曲げ(別の稜線部(外底稜線部)151、(外天稜線部)152)が近接するので、衝撃吸収機構に発生する衝撃吸収機構の緩衝部材66を中途から中折りする折る力(曲げモーメント)を低減することができる。
【0089】
尚、本発明の車体前部構造は、実施の形態では車両のフロントボデーに採用されているが、車両のリアボデーにも採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の車体前部構造は、自動車に好適である。
【符号の説明】
【0091】
11…車両、12…車両正面、14…バンパビーム、21…衝撃吸収機構、23…フロントピラー、24…左のフロントサイドフレーム、25…右のフロントサイドフレーム、26…左のアッパメンバ、27…右のアッパメンバ、41…アッパ内壁、46…左のフレーム連結部材、47…右のフレーム連結部材、54、55…バンパビームの端部(ビームサイド部)、72…接合後壁、75…内部材、76…外部材、77…隔壁、81…正面の下部、83…フロントピラーの下部、84…フロントピラーの中央部、86…フロントフレーム前端部、87…アッパ前端部、91…衝撃吸収機構の外壁、92…衝撃吸収機構の内壁、95…外部材の第1上接合部(外天中央部)、96…隔壁の第1上接合部(隔壁天部)、97…外部材の第1下接合部(外底中央部)、98…隔壁の第1下接合部(隔壁底部)、101…外部材の第2上接合部(外天端)、102…内部材の第2上接合部(内天部)、103…外部材の第2下接合部(外底端)、104…内部材の第2下接合部(内底部)、106…内部材の縁、107…外部材の縁、113…内壁の前部、117…ガイド端部、135…稜線部(第1内稜線部)、136…稜線部(第2内稜線部)、137…稜線部(第3内稜線部)、138…稜線部(第4内稜線部)、145…稜線部(第1外稜線部)、146…稜線部(第2外稜線部)、147…稜線部(第3外稜線部)、148…稜線部(第4外稜線部)、C…中心軸線、γ1〜γ4…鈍角(内角)、ε1〜ε4…鈍角(内角)、θ1〜θ4…鈍角(内角)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両正面の下部側から前記車両の後方へ向けてフロントピラーの下部まで左右のフロントサイドフレームを延ばし、前記フロントサイドフレームより前記車両の外側に、前記下部側から前記フロントピラーの中央部までアッパメンバを延ばし、前記フロントサイドフレームのフロントフレーム前端部に前記アッパメンバのアッパ前端部をフレーム連結部材で接合し、該フレーム連結部材にそれぞれ衝撃吸収機構を接合し、これらの左右の衝撃吸収機構にバンパビームの端部をそれぞれ接合した車体前部構造において、
前記衝撃吸収機構は、前記車両正面視、閉断面形状で、前記衝撃吸収機構の外壁が前記アッパメンバのアッパ外壁に前記フレーム連結部材を介在させて直線状に設けられ、前記衝撃吸収機構の内壁が少なくとも長手方向の中央から前記バンパビームまでの間の前記内壁の前部を前記車両の外側へ向けて斜めに曲げた湾曲形状に形成していることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記衝撃吸収機構は、前記内壁を含む内部材と、前記外壁を含む外部材と、これらの間に設けた隔壁と、を有し、
前記内部材の前記内壁が前記フロントサイドフレームのフロントフレーム内壁に前記フレーム連結部材を介在させて直線状に設けられ、
前記外部材及び前記隔壁は、車両の車幅方向の中心軸線に平行に形成されていることを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記外部材と前記隔壁をそれぞれの第1上接合部及び第1下接合部を接合することによって接合し、
前記第1上接合部及び前記第1下接合部に近接させて、前記外部材と前記内部材をそれぞれの第2上接合部及び第2下接合部を接合することによって接合していることを特徴とする請求項2記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記第1上接合部及び前記第1下接合部は、前記第2上接合部及び前記第2下接合部より前記車両の外側に配置されていることを特徴とする請求項3記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記衝撃吸収機構は、前記フレーム連結部材に接合する接合後壁に前記内部材及び前記外部材の縁を接触させて、すみ肉溶接を施すことによって前記縁を接合していることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項記載の車体前部構造。
【請求項6】
前記外部材及び前記内部材は、前記車両正面視、略U字形の多角形を形成するために鈍角に曲げた複数の稜線部を有し、
前記内部材の前記稜線部は、少なくとも前記内壁の前部の前稜線部を前記車両の外側へ向けて斜めに曲げた湾曲形状に形成していることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項記載の車体前部構造。
【請求項7】
前記外部材は、前記第1上接合部及び前記第1下接合部に連ねてガイド端部を前記内部材から離れる方向へ向けて曲げ形成していることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−81844(P2012−81844A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228873(P2010−228873)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】