説明

車体構造

【課題】 オフセット衝突時に衝撃荷重を効果的に吸収することができる車体構造を提供する。
【解決手段】 車両11の前後方向に伸び、該車両の幅方向に互いに間隔をおいて配置された一対のサイドメンバ12と、該各サイドメンバの前部13を補強するために該前部に支持され、車両11のエンジン23を支持するためのサブフレーム16とを備える。エンジン23のハウジング24の前面24aには、一方のサイドメンバ12が車両11の前方から衝撃を受けたときにエンジン23にその重心Pに関して一方側に作用する衝撃荷重をエンジン23の重心Pに関して他方側へ向けて分散させるためのカバー部材26が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のオフセット衝突時に衝撃荷重を効果的に吸収することができる車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体の前後方向に沿って伸び、車両の幅方向に互いに間隔をおいて配置される一対のサイドメンバと、各サイドメンバの前部に支持され、各サイドメンバを補強するためのサブフレームとを備える車体構造が知られている。サブフレームは、各サイドメンバに沿って配置される一対の側枠部と、車幅方向に沿って配置され、各側枠部をそれぞれの後端部で互いに連結する後枠部とを有し、各側枠部には、例えばエンジンのような車両の駆動源が各側枠部に跨って支持されている。各側枠部は、それぞれ車両が前方から衝撃を受けたときに各サイドメンバと共に圧縮変形する。これにより、車両が正面衝突したときに、衝突による荷重をより確実に吸収することができる。
【0003】
しかしながら、車両がその幅方向の中心から右又は左にずれた位置で衝突するいわゆるオフセット衝突時には、一方の側枠部に衝撃荷重が集中して作用するため、両側枠部で衝撃荷重を受けたときに比べて、一方の側枠部が車両の後方へ向けて移動し易い。一方の側枠部が後方へ移動すると、衝撃荷重を十分に吸収することができず、車室に衝撃を与えてしまう。
【0004】
そこで、オフセット衝突時に車室への衝撃を抑制することができる車体構造が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この車体構造では、オフセット衝突時に一方の側枠部に作用する衝撃荷重の一部を他方の側枠部及び各サイドメンバに分散させるための手段が各側枠部と後枠部との連結部分にそれぞれ設けられている。これにより、車両のオフセット衝突時に一方の側枠部に作用する後方へ向けての力が小さくなるので、一方の側枠部が後方へ移動することを確実に抑制することができる。
【特許文献1】特開2003−127893号(第4−6頁、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的に、サブフレームに支持されたエンジンは、その前面がほぼ車幅方向に沿うように配置されており、車両がオフセット衝突したとき、エンジンには、その前面の車両前後方向でエンジンの重心に対応する位置から車幅方向へずれた位置に衝撃荷重が作用することから、エンジンには、該エンジンをその他方の側枠部への支持点を中心に後方へ回転させる回転モーメントが生じる。このエンジンの回転に伴って、サブフレームの一方の側枠部が後方へ移動するため、一方の側枠部が受けた衝撃荷重を他方の側枠部に適正に分散させることができず、衝撃荷重を効果的に吸収することができない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、オフセット衝突時に衝撃荷重を効果的に吸収することができる車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、車両の前後方向に伸び、該車両の幅方向に互いに間隔をおいて設けられた一対のサイドメンバと、該各サイドメンバの前部を補強するために該前部に取り付けられて、前記車両の駆動源を支持するサブフレームとを備え、一方の前記サイドメンバが前記車両の前方から衝撃を受けたときに、前記駆動源にその重心に関して車幅方向一方側に作用する衝撃荷重を前記駆動源の重心の他方側へ分散させるための荷重分散手段が前記駆動源の前方に設けられていることを特徴とする。
【0008】
上記の構成では、一方のサイドメンバが車両の前方から衝撃を受けたときに、駆動源にその重心に関して車幅方向一方側に作用する衝撃荷重を駆動源の重心の他方側へ分散させるための荷重分散手段が駆動源の前方に設けられていることから、車両がその前方からオフセット衝突したときのように、駆動源にその重心に関して一方側に車両の後方へ向けての衝撃荷重が作用する場合でも、その衝撃荷重が駆動源の重心の他方側へ向けて分散されるので、駆動源に該駆動源を回転させる回転モーメントとして作用する力が従来に比べて小さくなる。これにより、車両のオフセット衝突時に受ける衝撃荷重により駆動源が回転することを従来に比べて確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両のオフセット衝突時に衝撃荷重を受けることによる駆動源の回転が従来に比べて確実に抑制されることから、駆動源を支持するサブフレームが車両後方へ移動することが抑制されるので、車両のオフセット衝突時の衝撃荷重を効果的に吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図示の実施例に沿って説明する。
【実施例】
【0011】
本発明に係る車体構造10は、図1に示すように、車両11の前後方向に伸び、車両11の幅方向に互いに間隔をおいて配置された一対のサイドメンバ12を備える。各サイドメンバ12は、その前端で車幅方向に沿って配置されたフロントバンパーBで互いに連結されている。各サイドメンバ12の前部13には、車両11がその前方から衝撃を受けたとき、その衝撃を吸収するために各サイドメンバ12の伸長方向に沿って圧縮変形可能な図示しない変形部がそれぞれ設けられている。各サイドメンバ12の前部13の後端13bには、それぞれ該後端から車幅方向外方へ伸びるアウトリガー14が設けられており、該各アウトリガーの先端には、それぞれ該先端から車両11の後方へ向けて各サイドメンバ12に平行に伸びるサイドシル15が設けられている。また、各サイドメンバ12の前部13上には、サイドメンバ12を補強するためのサブフレーム16が支持されている。
【0012】
サブフレーム16は、車両11をその下方から見た図である図1に示すように、車両11の前後方向に沿って配置された一対の側枠部17と、該各側枠部をその前端部17aで互いに連結する前枠部18と、各側枠部17をその中間部で互いに連結する中枠部19と、各側枠部17をその後端部17bで互いに連結する後枠部20とを有する。
【0013】
各側枠部17は、図示の例では、それぞれ各サイドメンバ12の前部13の下方を該前部に沿って車両11の前方からその後方へ向けて伸び、更に、屈曲部21を介して車幅方向内方へ向けて伸びる。各側枠部17は、それぞれ車両11が前方から衝撃を受けたときに、各サイドメンバ12の前記各変形部の変形と同時に、その各屈曲部21で車両外方へ向けて屈曲変形可能である。また、各側枠部17の各後端部17bと後枠部20との連結部分には、図示の例では、各側枠部17が車両11の前方から衝撃荷重を受けたときに各連結部分に作用する荷重を各アウトリガー14及び各サイドシル15に分散させるために、各連結部分から車幅方向外方へ且つ斜め後方へ各サイドメンバ12の各前部13の各後端13bに向けて張り出す張出部22がそれぞれ形成されている。サブフレーム16は、その各側枠部17の各前端部17aと各張出部22の各先端部22aとで、各サイドメンバ12の各前部13の前端13a及び後端13bに図示しないボルト及びナットのような締結部材により固定されている。
【0014】
サブフレーム16上には、図1に示すように、車両11の駆動源であるエンジン23が配置されている。エンジン23は、図示しないが従来よく知られたシリンダ及びピストン等を収納するハウジング24を備える。エンジン23は、サブフレーム16の中枠部19の両端部分及び後枠部20の中央部分に設けられたエンジン載置部材25を介して中枠部19及び後枠部20上に載置されている。
【0015】
更に、本発明に係る車体構造10は、一方のサイドメンバ12に車両11の前方から衝撃を受けたときに、エンジン23にその重心Pに関して一方側に作用する衝撃荷重を該エンジンの重心Pに関して他方側へ向けて分散させるための荷重分散手段26を備える。この荷重分散手段26は、図示の例では、エンジン23のハウジング24の前面24aに設けられた板状のカバー部材26で構成されている。
【0016】
カバー部材26は、ハウジング24の前面24aを該前面に近接して覆うカバー部27と、該カバー部の車幅方向の両端から車両後方へ向けてエンジン23のハウジング24の両側面24bに沿って伸び、該両側面に固定される一対の固定部28とを有する。カバー部27は、図示の例では、エンジン23の重心Pを中心とする円C(図1に点線で示されている。)に沿った円弧状をなしている。カバー部材26は、その各固定部28が例えばボルトのような締結部材29によりハウジング24の両側面24bに固定されることにより、ハウジング24に固定されている。
【0017】
車両11が、図1に示すように、その前方から見て右側(図1で見て右側である。)で衝突したとき、すなわちオフセット衝突したとき、車両11の前方からフロントバンパーBを介して受ける衝撃荷重により、前記したように、車両11を前方から見て右側に位置する一方のサイドメンバ12の前記変形部が圧縮変形し、該変形部の変形と同時に、前記一方のサイドメンバ12に沿って配置されたサブフレーム16の一方の側枠部17がその屈曲部21で車両外方へ向けて屈曲変形する。これにより、車両11のオフセット衝突時の衝撃荷重を各サイドメンバ12及びサブフレーム16の変形により吸収することができる。このとき、前記一方の側枠部17と後枠部20との連結部分に作用した荷重の一部は、前記一方の側枠部17から後枠部20を介して他方の側枠部17に伝わる。また、一方の側枠部17と後枠部20との連結部分に作用した荷重の一部は、該連結部分に形成された張出部22を介して前記一方のサイドメンバ12に取り付けられたアウトリガー14及びサイドシル15に伝わる。これにより、車両11のオフセット衝突時に前記一方の側枠部17に集中して作用する衝撃荷重を分散することができる。
【0018】
また、車両11のオフセット衝突時に、サブフレーム16の前記一方の側枠部17が屈曲変形することにより、前枠部18が車両後方へ向けて移動した場合、カバー部27の車両前後方向でエンジン23の重心Pに対応する位置から車幅方向に沿って一方の側枠部17側へずれた位置に当接する。このとき、カバー部27は、前記したように、エンジン23の重心Pを中心とする円弧状をなしていることから、前枠部18からカバー部27に作用する衝撃荷重Fは、エンジン23の重心Pに向かう力f1と、カバー部27の衝撃荷重の作用点における接線方向に沿った力f2と、車両後方へ向かう力f3とに分散される。これにより、車両11のオフセット衝突時に、エンジン23をその他方の側枠部17側のエンジン載置部材25への載置点を中心に後方へ向けて回転させる回転モーメントとして、車両11の前方からカバー部材27を介してエンジン23に作用する力が小さくなる。
【0019】
従って、車両11のオフセット衝突時に受ける衝撃荷重によりエンジン23が回転することを従来に比べて確実に抑制することができるので、エンジン23の後方への回転に伴うサブフレーム16の車両後方への移動が抑制され、これにより、車両11のオフセット衝突時の衝撃荷重を効果的に吸収することができる。
【0020】
本実施例では、車両11のオフセット衝突時にエンジン23にその重心Pに関して一方側に作用する衝撃荷重をエンジン23の重心Pに関して他方側へ向けて分散させるためのカバー部材26のカバー部27が、エンジン23の重心Pを中心とする円弧状をなしている例を示したが、これに代えて、図2に示すように、エンジン23の重心Pを通り且つ車両11の上下方向に直角な平面すなわち車両11を平面的に見て水平な面内でエンジン23の重心Pを中心とする円Cの接線に沿って配置された複数の垂直板29でカバー部27を構成することができる。
【0021】
これにより、車両11のオフセット衝突時には、車両11の前方から受ける衝撃荷重を前記したと同様にエンジン23の重心Pへ向けて分散させることができるので、エンジン23が後方へ回転することを確実に抑制することができる。また、エンジン23の前方に、図2に示すように、該エンジンを冷却するための冷却水との間で熱交換を行うラジエータ30がエンジン23に近接して配置されている場合でも、エンジン23とラジエータ30との間隔に応じてカバー部27の平面板29の角度を適宜調節することにより、カバー部材26が円弧状をなしている場合に比べてカバー部材26の配置に制限を招くことなく、カバー部材26を適正な位置に配置することができる。
【0022】
また、本実施例では、カバー部材26がエンジン23のハウジング24とは別体で形成した例を示したが、これに代えて、例えばカバー部27のエンジン23のハウジング24の前面24aに対向する面を平面に形成し、その車両前方側に位置する面に、エンジン23の重心Pを中心とする円弧面を形成することができる。
【0023】
更に、カバー部材26のカバー部27がエンジン23の重心Pを中心とする円弧状をなしている例を示したが、これに代えて、エンジン23の重心Pに関して一方側に作用する衝撃荷重をエンジン23の重心Pに関して他方側に分散させる分散作用を果たせば、カバー部27の曲率を適宜変更することができる。
【0024】
また、本実施例では、車両11のオフセット衝突時にエンジン23に該エンジンの重心Pへ向けての分力を生じさせるための手段26がカバー部材26で構成された例を示したが、これに代えて、エンジン23のハウジング24の前面24aを、エンジン23の重心Pを中心とする円弧状に形成することができる。この場合、エンジン23の重心へ向けての分力を生じさせるための部材を新たに設ける必要がないことから、部品点数が減少するので、製造コストの削減を図ることができる。
【0025】
また、本実施例では、車両11のオフセット衝突時にエンジン23に該エンジンの重心Pへ向けての分力を生じさせるための手段26がカバー部材26で構成された例を示したが、これに代えて、図3に示すように、例えば図示しない空調装置に用いられるコンプレッサーや、図示しないバッテリを充電すべくエンジンの駆動により発電する発電機等のように、エンジン23の図示しないモータからの出力を受けて駆動するエンジン補機31を、エンジン23の前方で、車両11を平面的に見てエンジン23の重心Pを中心とする円C(図1参照。)に沿って配置することにより構成することができる。
【0026】
図3に示す例では、エンジン23の前記モータの出力軸32に固定されたエンジンプーリー33の中心に、該プーリーと共に回転する出力歯車34が設けられており、該出力歯車の周りに、エンジン補機31と同数の補機用歯車35が配置されている。各補機用歯車35は、出力歯車34に噛合しており、該出力歯車の回転により回転する。
【0027】
例えば、図3に示すように、各エンジン補機31を縦置きにした場合には、エンジン23のプーリー33と各エンジン補機31に設けられた図示しない各プーリーとが捻れの位置に配置されるため、エンジン23の前記モータのプーリー33から従来と同様にベルトを介して動力を伝達することが困難になる。そこで、図3に示すように、ベルトに代えて、複数のフレキシブルシャフト36を用いることができる。各フレキシブルシャフト36は、その一端36aが各補機用歯車35に接続されており、その他端36bが各エンジン補機31の前記各プーリーに接続されており、その軸周りに回転することによりエンジン23の前記モータの動力を各エンジン補機31にそれぞれ伝達することができる。
【0028】
車両11の前記したようなオフセット衝突時に、各エンジン補機31が車両11の前方から衝撃荷重を受けたとき、各エンジン補機31は、前記したように、エンジン23の前方で、車両11を平面的に見てエンジン23の重心Pを中心とする円Cに沿って配置されていることから、図1及び図2に示した例と同様に、各エンジン補機31にはエンジン23の重心Pへ向けての分力が生じる。これにより、各エンジン補機31からエンジン23に該エンジンを後方へ向けて回転させる回転モーメントして作用する力を小さくすることができる。
【0029】
更に、本実施例では、駆動源にエンジン23が用いられた車両に本発明を適用した例を示したが、これに代えて、例えば高電圧バッテリで駆動する駆動モータを備える電気自動車に本発明を適用することができる。この場合、駆動モータの前面に例えば前記したカバー部材を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る車体構造を車両の下方から見た平面図である。
【図2】図1に示す実施例とは別の実施例を概略的に示す平面図である。
【図3】更に別の実施例に係る駆動源を概略的に示す正面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 車体構造
11 車両
12 サイドメンバ
12a 前部
23 駆動源(エンジン)
16 サブフレーム
P 重心
26 荷重分散手段(カバー部材)
27 円弧面(カバー部)
31 補機(エンジン補機)
17 側枠部
18 前枠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に伸び、該車両の幅方向に互いに間隔をおいて設けられた一対のサイドメンバと、該各サイドメンバの前部を補強するために該前部に取り付けられて、前記車両の駆動源を支持するサブフレームとを備え、一方の前記サイドメンバが前記車両の前方から衝撃を受けたときに、前記駆動源にその重心に関して車幅方向一方側に作用する衝撃荷重を前記駆動源の重心の他方側へ分散させるための荷重分散手段が前記駆動源の前方に設けられていることを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記荷重分散手段は、カバー部材であり、該カバー部材は、前記駆動源の重心を中心とする円弧面を有することを特徴とする請求項1に記載の車両構造。
【請求項3】
前記荷重分散手段は、前記駆動源のための複数の補機を、前記車両を平面的に見て前記駆動源の重心を中心とする円に沿って配置することにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項4】
前記サブフレームは、前記各サイドメンバに沿って配置される一対の側枠部と、該各側枠部をその各前端部で互いに連結する前枠部とを備え、前記駆動源は、前記各側枠部に跨って配置されており、前記荷重分散手段は、前記駆動源が前記前枠部から受ける衝撃荷重を分散させることを特徴とする請求項1乃至3に記載の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−256534(P2006−256534A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78720(P2005−78720)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】