説明

車椅子

【課題】非舗装地や不整地等においても安定した走行が可能となり、車椅子搭乗者の自力による生活範囲を広げることができる車椅子を提供する。
【解決手段】大径の後輪11と小径の前輪12とを本体フレーム8の左右に備え、前記左右の後輪11を手動で回転させ走行する車椅子1において、前記左右の後輪11と前記前輪12の間に、前記後輪11の回転を、前記前輪12の周速が前記後輪11の周速と略同速度になるように増速して伝動する増速伝動機構20をそれぞれ設ける。該増速伝動機構20に、後軸からの前進方向回転を前輪に伝達する一方向回転クラッチを介在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体の左右にそれぞれ大径の後輪と小径の後輪とを備え、手動で後輪を回動して走行する車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、機体の左右にそれぞれ大径の後輪と小径の後輪とを備え、手動で後輪を回動して走行する車椅子は、その前輪が、略垂直に配置された支持軸の下端部に回転自在に支持されたキャスターアームを介し、該キャスターアームに水平方向に支持された前輪軸に回転自在に支持されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、機体の左右にそれぞれ大径の後輪と小径の前輪と、後輪および前輪の外周と同時に接触する駆動輪とを有し、手動で駆動輪を回動して、駆動輪と後輪および前輪の摩擦力により、後輪と前輪を同時に同方向に回転させて走行するようにした車椅子が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3060403号公報(第2頁、図2)
【特許文献2】特開2005−308198号公報(第2−3頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前者の従来技術では、支持軸に対してキャスターアームと前輪が回転自在に支持されているだけであるため、走行中に前輪の向きが左右に振れて安定しないだけでなく、前輪が小石や小さな段差に当たった場合、前輪が引っ掛り車椅子の走行の安定性が損なわれることがある。
【0006】
また、後者の従来技術では、車椅子搭乗者の体重の一部を後輪および前輪と駆動輪との接触圧に利用しているため、搭乗者ごとにばね圧等を調整しなければならず、作業が煩雑になる。また、駆動輪と後輪および前輪の摩擦を利用して走行するため、駆動力の伝動負荷が大きくなり、車椅子搭乗者の自力による生活範囲を狭めることになる。
【0007】
前記の事情に鑑み、本発明は、非舗装地や不整地等においても安定した走行を可能にして、車椅子搭乗者の生活範囲を広げることができるようにした車椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、請求項1に係る本発明は、大径の後輪(11)と小径の前輪(12)とを機体(8)の左右に備え、前記左右の後輪(11)を手動で回転させ走行する車椅子(1)において、
前記左右の後輪(11)と前記左右の前輪(12)の間に、前記後輪(11)の回転を、前記前輪(12)の周速が前記後輪(11)の周速と略同速度になるように増速して伝動する増速伝動機構(20)をそれぞれ設けた、
ことを特徴とする車椅子にある。
【0009】
請求項2に係る本発明は、前記各増速伝動機構(20)内に、前記後輪(11)からの前進方向の回転を前記前輪(12)に伝達する一方向回転クラッチ(47)を設けた、
ことを特徴とする請求項1記載の車椅子にある。
【0010】
請求項3に係る本発明は、前記各前輪(12)と該前輪(12)を支持する車軸(46)との間に、前記後輪(11)からの前進方向の回転を前記前輪(12)に伝達する一方向回転クラッチ(47)を設けた、
ことを特徴とする請求項2記載の車椅子にある。
【0011】
なお、前記した括弧内の符号等は、図面を参照するためのものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明によれば、後輪と前輪を略同じ周速で回転駆動させ走行することができるので、非舗装地や不整地等においても安定した走行が可能となり、車椅子搭乗者の自力による生活範囲を広げることができる。
【0013】
請求項2に係る本発明によれば、増速伝動機構内に、前進方向の回転を前記前輪に伝達する一方向回転クラッチを配置することにより、車椅子の旋回操作や後進操作並びに介助車による車椅子の押し作業を容易に行うことができ、車椅子の操作性を低下させることなく走行安定性を向上させることができる。
【0014】
請求項3に係る本発明によれば、前輪と該前輪を支持する車軸との間に、前進方向の回転を前記前輪に伝達する一方向回転クラッチを設けたので、車椅子の製造を容易にすることができ、かつ旋回操作や後進操作を容易に行うことができ、車椅子の操作性を低下させることなく走行安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1乃至図7は、本発明の実施の形態を示すもので、図1は、本発明による車椅子の側面部分断面図、図2は、図1の平面部分断面図、図3は、図1の正面部分断面図、図4は、図1の前輪駆動部の拡大断面図、図5は、図1の前輪駆動部の拡大正面図、図6は、車椅子の前進時の動力伝達状態を示す側面図、図7は、車椅子の後進時の動力伝達状態を示す側面図である。
【0017】
図1乃至図3に示すように、車椅子1は、座シート2、背シート3、レッグレスト5、フットレスト6及びハンドグリップ7等が配置された本体フレーム8を有しており、該本体フレームの両側には、それぞれ、走行操作用のハンドリム10が付設された大径の後輪11と、キャスタとしての小径の前輪12が配置されている。
【0018】
前記左右の後輪11と前輪12の間には、それぞれ、前記後輪11の回転を、前記前輪12の周速が前記後輪11の周速と略同速度になるように増速して伝動する増速伝動機構20が設けられている。なお、前記前輪12は、前記増速伝動機構20を介して前記本体フレーム8に支持されている。
【0019】
前記増速伝動機構20は、増速部21と伝動部30からなり、前記増速部21は、ブラケット22を介して前記後輪11に一体に固定された大径のギヤ23と、ブラケット25を介して前記本体フレーム8に回転自在に支持されたスプロケット軸26の一端に、前記ギヤ23と噛合うように固定された小径のギヤ27とにより構成される。
【0020】
前記伝動部30は、図1ないし図5に示すように、前記スプロケット軸26に固定されたスプロケット31と、前記本体フレーム8に固定されたプレート32に回転自在に支持されたスプロケット軸33に固定されたスプロケット35と、前記各スプロケット31とスプロケット35の間に掛け渡されたチェーン36を備えている。なお、前記スプロケット軸33には、ベベルギヤ37が固定されている。
【0021】
また、前記伝動部30は、前記プレート32に軸心を垂直方向に向けて固定されたフレームパイプ38に回転自在に支持された上動力伝達軸40を有し、該上動力伝動軸40の一端には、前記ベベルギヤ37と噛合うベベルギヤ41が固定されている。
【0022】
前記上動力伝達軸40の下部には、ギヤ42が装着されている。また、前記上動力伝達軸40の下端には、軸受43を介して下方に向けて開口する逆U字状のキャスターアーム45が回転自在に支持されている。前記キャスターアーム45の下端部に回転自在に支持された車軸46に、前記後輪11からの前進方向の回転を前記前輪12に伝達する一方向回転クラッチ47を介して前記前輪12が支持されている。なお、前記車軸46には、ベベルギヤ48が固定されている。
【0023】
ブラケット50を介して前記キャスターアーム45に一体に固定されたフレームパイプ51には、下動力伝達軸52が回転自在に支持されている。該下動力伝達軸52の上端には、前記ギヤ42と噛合うギヤ53が固定され、下端には、前記ベベルギヤ48と噛合うベベルギヤ55が固定されている。
【0024】
前記の構成で、図6に示すように、車椅子1の搭乗者がハンドリム10を廻して、あるいは介助者により押されて、後輪11を矢印A方向に回転させると、車椅子1は前進方向(矢印B方向)へ走行する。このとき、後輪11と一体に固定されたギヤ23も後輪11と同時に矢印A方向に回転する。このギヤ23の回転はギヤ27とのギヤ比により増速されてスプロケット軸26に伝達され、スプロケット31、チェーン36およびスプロケット35を介して前輪12の上方に配置されたスプロケット軸33へ伝達され、スプロケット軸33を回転させる。
【0025】
スプロケット軸33の回転は、ベベルギヤ37およびベベルギヤ41を介して上動力伝達軸40へ伝達され、さらに、上動力伝達軸40からギヤ42およびギヤ53を介して下動力伝達軸52へ伝達され下動力伝達軸52を回転させる。下動力伝達軸52の回転は、ベベルギヤ55およびベベルギヤ48を介して車軸46に伝達され、車軸46を回転させる。車軸46の回転は、一方向回転クラッチ47を介して前輪12に伝達され、前輪12をその周速が後輪11の周速と略同速度になるように矢印a方向に回転駆動する。
【0026】
即ち、後輪11を回転させることにより、同時に前輪12を回転駆動することができるので、車椅子1の前進走行時には、前輪12(車椅子1)が進行前方に有る小石や小さな段差に当たっても、前輪12が小石や段差に引っ掛ることなく、これらの障害物を容易に乗り越えることができる。
【0027】
また、フレームパイプ51がキャスターアーム45と一体に固定されているので、上動力伝達軸40の軸心を中心としてキャスターアーム45が回転してもギヤ42とギヤ53との噛合いが外れることはなく、後輪11からの動力を前輪12へ確実に伝達することができる。
【0028】
キャスターアーム45が上動力伝達軸40の軸心を中心として回転自在に支持されているので、キャスターアーム45、即ち前輪12の方向変更が容易である。また、車軸46に一方向回転クラッチ47を介して前輪12を支持しているので、前輪12の周速を後輪11の周速より大きくすることができ、車椅子1の円滑な旋回操作を行うことができる。
【0029】
よって、室内や舗装された区域だけでなく、凹凸の有る非舗装地や不整地等においても安定した走行が可能となり、車椅子搭乗者の自力による生活範囲を広げることができる。また、車椅子の旋回操作や後進操作を容易に行うことができ、車椅子の操作性を低下させることなく走行安定性を向上させることができる。
【0030】
一方向回転クラッチ47を車軸46にのみ設けた場合、介助者が押す際に増速伝動機構20を空転するので、伝達負荷となる。増速伝動機構20の上流側に更に一方向回転クラッチを設けると、前記伝達負荷を低減することができる。
【0031】
図7に示すように、車椅子1の搭乗者がハンドリム10を押して、あるいは介助者により引かれて、後輪11を矢印C方向に回転させると、車椅子1は後進方向(矢印D方向)へ走行する。このとき、後輪11と一体に固定されたギヤ23も後輪11と同時に矢印C方向に回転する。このギヤ23の回転はギヤ27とのギヤ比により増速されてスプロケット軸26に伝達され、スプロケット31、チェーン36およびスプロケット35を介して前輪12の上方に配置されたスプロケット軸33へ伝達され、スプロケット軸33を回転させ、後輪11の回転は、前記と同様にして車軸46に伝達される。
【0032】
このとき、車軸46の回転方向が後進方向(矢印c方向)であるため、一方向回転クラッチ47の作用により前輪12に回転力が伝達されることはない。したがって、前輪12は、後進方向(矢印c方向)に自由に回転することになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による車椅子の側面部分断面図である。
【図2】図1の平面部分断面図である。
【図3】図1の正面部分断面図である。
【図4】図1の前輪駆動部の拡大断面図である。
【図5】図1の前輪駆動部の拡大正面図である。
【図6】車椅子の前進時の動力伝達状態を示す側面図である。
【図7】車椅子の後進時の動力伝達状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 車椅子
8 機体(本体フレーム)
11 後輪
12 前輪
20 増速伝動機構
46 車軸
47 一方向回転クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径の後輪と小径の前輪とを機体の左右に備え、前記左右の後輪を手動で回転させ走行する車椅子において、
前記左右の後輪と前記左右の前輪の間に、前記後輪の回転を、前記前輪の周速が前記後輪の周速と略同速度になるように増速して伝動する増速伝動機構をそれぞれ設けた、
ことを特徴とする車椅子。
【請求項2】
前記各増速伝動機構内に、前記後輪からの前進方向の回転を前記前輪に伝達する一方向回転クラッチを設けた、
ことを特徴とする請求項1記載の車椅子。
【請求項3】
前記各前輪と該前輪を支持する車軸との間に、前記後輪からの前進方向の回転を前記前輪に伝達する一方向回転クラッチを設けた、
ことを特徴とする請求項2記載の車椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−236703(P2007−236703A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64730(P2006−64730)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000147693)株式会社石井製作所 (17)
【Fターム(参考)】