説明

車載内燃機関の制御装置

【課題】低μ路での車両の制動過程においてアイドル回転速度を低下させる処理を行う場合に、車両の停止性や暖房性能を好適に確保することが可能な車載内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の駆動力はトルクコンバータを介して駆動輪に伝達される。電子制御装置にて、内燃機関のアイドル回転速度を目標アイドル回転速度に制御する制御が行われる。電子制御装置は、低μ路での車両の制動過程において、機関回転速度Neがトルクコンバータに設けられたタービンインペラのタービン回転速度Ntよりも高いとの条件が満たされるときに(ステップS110、S120:YES)、機関回転速度Neとタービン回転速度Ntとの速度差αに基づいて目標アイドル回転速度Niの低下量Nαを可変設定する(ステップS130、S140)。そして設定された低下量Nαをもって目標アイドル回転速度Niを低下させる(ステップS150)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車載内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、多段式の自動変速機を備える車両にあっては、内燃機関の出力軸に接続されるポンプインペラと自動変速機の入力軸に接続されるタービンライナとを備えるトルクコンバータを介して内燃機関の駆動力が自動変速機に伝達され、最終的には駆動輪に伝達される。
【0003】
こうしたトルクコンバータを備える車両にあっては、冷間時等、路面の摩擦係数が低い低μ路での制動過程において、駆動輪に働く制動力が減少して車両の停止性が悪化するおそれがある。こうした現象の発生は次の理由による。すなわち、車両の制動中にあって徐々に低下していく機関回転速度は上記タービンライナの回転速度よりも高くなっており、これによりポンプインペラとタービンライナとの間に回転速度差が生じてタービンライナの軸トルクは増大する。そのため、アクセルペダルが操作されていなくても、増大されたタービンライナの軸トルクが駆動輪に伝達され、この伝達されたタービンライナの軸トルクの分だけ、駆動輪に対する制動力が相対的に減少してしまうためである。こうした問題を避ける目的で、例えば特許文献1に記載の装置では、低μ路での車両制動中には、自動変速機の状態をニュートラル状態にすることで制動中でのタービンライナの軸トルクの増大を抑えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8‐74992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記文献のごとく車両制動中に自動変速機の状態をニュートラル状態にしてしまうと、エンジンブレーキを有効に活用することができなくなるため、場合によっては低μ路での車両停止性が低下してしまうおそれがある。
【0006】
そこで、制動中におけるタービンライナの軸トルクを低下させる別の方法として、制動過程でのアイドル回転速度を低下させる処理を行うことにより、ポンプインペラとタービンライナとの間の回転速度差を小さくするといった方法が考えられる。こうした方法であれば、低μ路での制動過程においてエンジンブレーキを活用することが可能である。しかし、この場合には新たに以下のような不都合の発生が懸念される。
【0007】
すなわち、車両が低μ路を走行している状況としては外気温が低い状況などが挙げられる。こうした外気温が低い状況下では機関冷却水を昇温させて車室内の暖房性能を確保するといった要求がある。しかしながら、上述のようにアイドル回転速度を低下させてしまうと、エンジンの発熱量が減少するため、暖房性能が低下してしまうおそれがある。従って、制動中でのタービンライナの軸トルクを低下させるためにアイドル回転速度を低下させる場合には、その回転速度の低下を適切に行う必要がある。
【0008】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものでありその目的は、低μ路での車両の制動過程においてアイドル回転速度を低下させる処理を行う場合に、車両の停止性や暖房性能を好適に確保することが可能な車載内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の出力軸に接続されるポンプインペラと自動変速機の入力軸に接続されるタービンライナとを備えるトルクコンバータを介して内燃機関の駆動力が駆動輪に伝達される車両に適用されて、内燃機関のアイドル回転速度を目標アイドル回転速度に制御する車載内燃機関の制御装置において、低μ路での車両の制動過程において機関回転速度がタービンライナの回転速度よりも高いとの条件が満たされるときには、目標アイドル回転速度を低下させるとともに、その目標アイドル回転速度の低下量を機関回転速度とタービンライナの回転速度との速度差に基づいて可変設定する低下量設定手段を備えることをその要旨とする。
【0010】
機関回転速度が上記タービンライナの回転速度よりも高いときにはタービンライナの軸トルクが増大する。また、機関回転速度とタービンライナの回転速度との速度差が大きいときほどタービンライナの軸トルクも大きくなる。
【0011】
そこで同構成では、上記低下量設定手段により、低μ路での車両の制動過程において機関回転速度がタービンライナの回転速度よりも高いとの条件が満たされるときには、目標アイドル回転速度を低下させるようにしており、これによりポンプインペラとタービンライナとの回転速度差が小さくなってタービンライナの軸トルクが低下し、車両停止性が向上するようになる。さらに、上記低下量設定手段により、目標アイドル回転速度を低下させるときの低下量を機関回転速度とタービンライナの回転速度との速度差に基づいて可変設定するようにしている。そのため、タービンライナの軸トルクの大きさに応じて目標アイドル回転速度の低下量を大きくしたり小さくしたりすることができ、低下量を大きくしたときには車両の停止性を優先して確保することができる。また、低下量を小さくしたときには暖房性能を優先して確保することができる。
【0012】
従って、同構成によれば、低μ路走行中の車両を制動する際にアイドル回転速度を低下させる処理を実行する場合にあって、車両の停止性や暖房性能を好適に確保することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置において、低下量設定手段は、速度差が大きいときほど低下量を大きくすることをその要旨とする。
上記構成によれば、機関回転速度とタービンライナの回転速度との速度差が大きく、タービンライナの軸トルクが比較的大きいときには、目標アイドル回転速度の低下量が大きくされる。したがって、車両の停止性を好適に確保することができる。また、機関回転速度とタービンライナの回転速度との速度差が小さく、タービンライナの軸トルクが比較的小さいときには目標アイドル回転速度の低下量が小さくされる。したがって、暖房性能を好適に向上させることが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、内燃機関の出力軸に接続されるポンプインペラと自動変速機の入力軸に接続されるタービンライナとを備えるトルクコンバータを介して内燃機関の駆動力が駆動輪に伝達される車両に適用されて、内燃機関のアイドル回転速度を目標アイドル回転速度に制御する車載内燃機関の制御装置において、低μ路での車両の制動過程において機関回転速度がタービンライナの回転速度よりも高いとの条件が満たされるときには、目標アイドル回転速度を低下させるとともに、その目標アイドル回転速度を低下させるときの低下速度を駆動輪の回転速度の低下速度に基づいて可変設定する低下速度設定手段を備えることをその要旨とする。
【0015】
上述したように、機関回転速度が上記タービンライナの回転速度よりも高いときにはタービンライナの軸トルクが増大する。そこで同構成では、上記低下速度設定手段により、低μ路での車両の制動過程において機関回転速度がタービンライナの回転速度よりも高いとの条件が満たされるときには、目標アイドル回転速度を低下させるようにしており、これによりポンプインペラとタービンライナとの回転速度差が小さくなってタービンライナの軸トルクが低下し、車両停止性が向上するようになる。
【0016】
ここで、車両の制動過程において駆動輪の回転速度の低下速度が小さいときには、車両が停止しにくい状態であるといえる。そのため、この場合には機関回転速度を速やかに目標アイドル回転速度にまで低下させてポンプインペラとタービンライナとの回転速度差を早期に小さくし、タービンライナの軸トルクをできるだけ早く低下させることにより車両の停止性を向上させることができる。一方、駆動輪の回転速度の低下速度が大きいときには、車両が停止しやすい状態であるといえる。そのため、この場合には機関回転速度を緩やかに目標アイドル回転速度にまで低下させることにより機関からの発熱を有効利用することができる。そこで、同構成では、上記低下速度設定手段により、目標アイドル回転速度を低下させるときの低下速度を駆動輪の回転速度の低下速度に基づいて可変設定するようにしている。そのため、駆動輪の回転速度の低下速度に応じて目標アイドル回転速度の低下速度を大きくしたり小さくしたりすることができ、この目標アイドル回転速度の低下速度の変更に応じて実際の機関回転速度の低下速度も大きくなったり小さくなったりするようになる。従って目標アイドル回転速度の低下速度を大きくしたときには車両の停止性を優先して確保することができる。また、目標アイドル回転速度の低下速度を小さくしたときには暖房性能を優先して確保することができる。
【0017】
このように、同構成によっても、低μ路走行中の車両を制動する際にアイドル回転速度を低下させる処理を実行する場合にあって、車両の停止性や暖房性能を好適に確保することが可能となる。
【0018】
なお、同構成において駆動輪の回転速度を検出する際には、駆動輪自体の回転速度を検出したり、自動変速機の出力軸の回転速度を検出したりすればよい。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の車載内燃機関の制御装置において、低下速度設定手段は、駆動輪の回転速度の低下速度が小さいときほど目標アイドル回転速度の低下速度を大きくすることをその要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、駆動輪の回転速度の低下速度が小さく、車両の停止性が十分でないときには、目標アイドル回転速度の低下速度が大きくされる。この場合には、目標アイドル回転速度の低下速度が大きくされることにより、実際の機関回転速度も速やかに目標アイドル回転速度にまで低下するようになり、ポンプインペラとタービンライナとの回転速度差が早期に小さくなって、タービンライナの軸トルクが早期に低下することで車両の停止性を向上させることができる。また、駆動輪の回転速度の低下速度が大きく、車両の停止性が十分に得られているときには、目標アイドル回転速度の低下速度が小さくされる。この場合には、目標アイドル回転速度の低下速度が小さくされることにより、実際の機関回転速度も緩やかに目標アイドル回転速度にまで低下するようになる。従って、機関からの発熱をより有効的に利用することが可能となり暖房性能を好適に確保することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、内燃機関の出力軸に接続されるポンプインペラと自動変速機の入力軸に接続されるタービンライナとを備えるトルクコンバータを介して内燃機関の駆動力が駆動輪に伝達される車両に適用されて、内燃機関のアイドル回転速度を目標アイドル回転速度に制御する車載内燃機関の制御装置において、低μ路での車両の制動過程において機関回転速度がタービンライナの回転速度よりも高いとの条件が満たされるときには、目標アイドル回転速度を低下させるとともに、その目標アイドル回転速度の低下量を機関回転速度とタービンライナの回転速度との速度差に基づいて可変設定する低下量設定手段と、目標アイドル回転速度を低下させるときの低下速度を駆動輪の回転速度の低下速度に基づいて可変設定する低下速度設定手段とを備えることをその要旨とする。
【0021】
上記構成によれば、請求項1に記載の低下量設定手段による作用効果と、請求項3に記載の低下速度設定手段による作用効果とを得ることができる。すなわち、目標アイドル回転速度の低下量と低下速度とを併せて可変設定することができるため、車両の停止性や暖房性能をより適切に確保することが可能となる。
【0022】
なお、同構成においても、機関回転速度とタービンライナの回転速度との速度差が大きいときほど目標アイドル回転速度の低下量を大きくするとともに、駆動輪の回転速度の低下速度が小さいときほど目標アイドル回転速度の低下速度を大きくするといった態様を採用することが望ましい。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の車載内燃機関の制御装置において、車両は後輪駆動車であることをその要旨とする。
一般に、後輪駆動車の場合には、駆動輪である後輪に設けられたブレーキの制動力が、前輪に設けられたブレーキの制動力よりも小さくされており、上述したような低μ路での車両停止性の悪化が生じやすい傾向にある。この点、同構成によれば、そうした後輪駆動車において上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の構成が適用されるため、各請求項の構成による作用効果がより顕著に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる車両の駆動系の概略構成を示す模式図。
【図2】同実施形態における低下量設定制御の処理手順を示すフローチャート。
【図3】低下量設定制御が実行されたときの機関回転速度、目標アイドル回転速度、及びタービン回転速度の各変化を示すタイミングチャート。
【図4】第2の実施形態における低下速度設定制御の処理手順を示すフローチャート。
【図5】低下速度設定制御が実行されたときの機関回転速度、目標アイドル回転速度、及び駆動輪回転速度の各変化を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
以下、この発明にかかる車載内燃機関の制御装置を、後輪駆動車に搭載された内燃機関を統括的に制御する電子制御装置に具体化した第1の実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。図1は、本実施形態にかかる電子制御装置100と、その制御対象である内燃機関10と、同内燃機関10が搭載された車両の駆動系の概略構成を示す模式図である。
【0026】
図1に示すように、内燃機関10は、トルクコンバータ20を介して自動変速機30に接続されている。トルクコンバータ20の内部はオイルで満たされており、その中には、内燃機関10の出力軸であるクランクシャフト13に接続されたポンプインペラ21と、自動変速機30の入力軸31に接続されたタービンライナ22とが互いに対向するように配設されている。また、図1に示すように、ポンプインペラ21とタービンライナ22との間には、これらの間でオイルの流れを整流するステータ23が設けられている。
【0027】
こうした内燃機関10の運転時は、同内燃機関10の運転に伴ってクランクシャフト13とともにポンプインペラ21が回転する。このポンプインペラ21の回転に伴ってトルクコンバータ20内でオイルが流動し、このオイルの流動によってタービンライナ22に回転力が伝達される。また、このとき、オイルはステータ23の整流作用によってポンプインペラ21からタービンライナ22へ、そしてタービンライナ22からステータ23を通じてポンプインペラ21へ向かって流動するようになり、この整流作用によってトルクコンバータ20に入力された回転力が増大されて自動変速機30側へ出力される。こうしたトルクコンバータ20による入力トルクの増大作用は、ポンプインペラ21の回転速度がタービンライナ22の回転速度よりも高いときに得られるものである。そして、ポンプインペラ21とタービンライナ22との回転速度差が大きいときほど、換言すれば機関回転速度とタービンライナ22との回転速度差が大きいときほど、ポンプインペラ21に入力される軸トルクに対してタービンライナ22の軸トルクは増大される。
【0028】
自動変速機30は、図示しない複数のギアの組み合わせによって駆動力の伝達経路が変更されることにより、変速比が変更される多段式の変速機である。自動変速機30の出力軸32は、プロペラシャフト40及びディファレンシャル41を介して駆動輪である右後輪43RR及び左後輪43RLが取り付けられたドライブシャフト42に接続されている。これにより、内燃機関10から伝達された駆動力は、自動変速機30を通じて変速されて、これらプロペラシャフト40、ディファレンシャル41、そしてドライブシャフト42の順に伝達された後、右後輪43RR及び左後輪43RLへ伝達される。また、車両の車輪である右前輪43FR、左前輪43FL、右後輪43RR、及び左後輪43RLには、それぞれブレーキ45が設けられている。
【0029】
内燃機関10及び自動変速機30には、機関運転状態を検出する各種センサが設けられている。例えば、水温センサ60は内燃機関10のウォータジャケット内の機関冷却水の温度である冷却水温THWを検出する。クランクシャフト13の近傍に設けられたクランク角センサ61は内燃機関10の回転速度である機関回転速度Neを検出する。そして、右前輪センサ65、左前輪センサ66、右後輪センサ67、及び左後輪センサ68によって、右前輪43FR、左前輪43FL、右後輪43RR、そして左後輪43RLの各車輪速度がそれぞれ検出される。また、自動変速機30の入力軸31の近傍には、入力軸31の回転速度を検出する入力軸回転速度センサ62が設けられており、その検出信号によってタービンライナ22の回転速度であるタービン回転速度Ntが検出される。さらに、自動変速機30の出力軸32の近傍には、出力軸32の回転速度を検出する出力軸回転速度センサ63が設けられており、その検出信号によって車速SPが検出される。
【0030】
電子制御装置100は、これら各種センサの検出信号を読み込み、各種演算処理を実行し、その結果に基づいて車両の制御を行う。例えば、電子制御装置100は、内燃機関10の燃料噴射制御や点火時期制御等といった各種の機関制御や自動変速機30の変速制御等を統括的に行う。
【0031】
また、電子制御装置100は、以下のような各種制御や処理も実行する。
電子制御装置100は、入力軸回転速度センサ62の出力値に基づいてタービンライナ22の回転速度であるタービン回転速度Ntを検出する。
【0032】
また、電子制御装置100は、内燃機関10のアイドル運転時における機関回転速度(以下、アイドル回転速度と称する)を目標アイドル回転速度Niに制御するために、アイドルスピードコントロール制御(以下、「ISC制御」と称する)を実行する。こうしたISC制御において、目標アイドル回転速度Niは、例えば水温センサ60から出力される冷却水温THWや内燃機関10の外部負荷の状態(オルタネータやエアーコンディショナのコンプレッサ等の稼働状態)等に基づいて設定される。
【0033】
また、電子制御装置100は、車両が低μ路を走行中であるか否かを判定する低μ路判定を行う。この低μ路判定では、右前輪センサ65、左前輪センサ66、右後輪センサ67、及び左後輪センサ68からの出力値に基づいて、従動輪である前輪の回転速度(従動輪回転速度SPDs)と駆動輪である後輪の回転速度(駆動輪回転速度SPDd)との回転速度差が常時算出され、その回転速度差に基づいて車輪のスリップ率が算出される。そして、車両の発進時や加速時等において、上記スリップ率が閾値を超えた場合には、右後輪43RRや左後輪43RLといった駆動輪がスリップしているとして、車両は低μ路を走行中であると判定される。
【0034】
ところで、こうしたトルクコンバータ20を備える車両にあっては、冷間時等、路面の摩擦係数が低い低μ路での制動過程において、駆動輪に働く制動力が減少して車両の停止性が悪化するおそれがある。こうした現象の発生は次の理由による。すなわち、車両の制動中にあって徐々に低下していく機関回転速度は上記タービンライナ22の回転速度よりも高くなっており、これによりポンプインペラ21とタービンライナ22との間に回転速度差が生じてタービンライナ22の軸トルクは増大する。そのため、アクセルペダルが操作されていなくても、増大されたタービンライナ22の軸トルクが駆動輪に伝達され、この伝達されたタービンライナ22の軸トルクの分だけ、駆動輪に対する制動力が相対的に減少してしまうためである。こうした問題を避けるべく、上述したように、低μ路での車両制動中に、自動変速機30の状態をニュートラル状態にすることで制動中でのタービンライナ22の軸トルクの増大を抑えるようにすると、エンジンブレーキを有効に活用することができなくなり、場合によっては低μ路での車両停止性が低下してしまうおそれがある。
【0035】
そこで、制動中におけるタービンライナ22の軸トルクを低下させる別の方法として、制動過程でのアイドル回転速度を低下させる処理を行うことにより、ポンプインペラ21とタービンライナ22との間の回転速度差が小さくするといった方法も考えられる。しかし、この場合には、上述したような新たな不都合の発生が懸念される。
【0036】
すなわち、車両が低μ路を走行している状況としては外気温が低い状況などが挙げられる。こうした外気温が低い状況下では機関冷却水を昇温させて車室内の暖房性能を確保するといった要求がある。しかしながら、上述のようにアイドル回転速度を低下させてしまうと、内燃機関10の発熱量が減少するため、暖房性能が低下してしまうおそれがある。従って、制動中でのタービンライナ22の軸トルクを低下させるためにアイドル回転速度を低下させる場合には、その回転速度の低下を適切に行う必要がある。
【0037】
そこで、本実施の形態においては、低μ路での車両の制動過程においてアイドル回転速度を低下させる処理を行う場合に、車両の停止性や暖房性能を好適に確保するべく、以下の低下量設定制御を実行するようにしている。なお、この低下量設定制御が上記低下量設定手段を構成している。
【0038】
この低下量設定制御では、上述のように車両の停止性が悪化していると想定されるときに、目標アイドル回転速度を低下させるとともに、その目標アイドル回転速度の低下量を適切に設定するようにしている。この低下量設定制御は、電子制御装置100を通じて行われるものであり、例えば所定時間毎の時間割り込みにて周期的に実行される。
【0039】
図2に、上記低下量設定制御の処理手順を示す。この図2に示すように、本実施形態の低下量設定制御においては、まず、停止性向上要求があるか否かが判定される(ステップS110)。
【0040】
ここで、停止性向上要求があるとされる条件としては、例えば上記低μ路判定によって車両が低μ路を走行中であると判定されているときに、車両が制動過程にある状態等が挙げられる。こうした条件が満たされることによって、車両の停止性が悪化するおそれのある状況にあると判断される。
【0041】
停止性向上要求はないと判定される場合には(ステップS110:NO)、上述のような車両の停止性の悪化が懸念される状況にないとして、本処理は一旦終了される。一方、停止性向上要求があると判定される場合には(ステップS110:YES)、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntより高いか否かが判定される(ステップS120)。そして、機関回転速度Neがタービン回転速度Nt以下であると判定される場合には(ステップS120:NO)、タービンライナ22の軸トルクの増大は、車両の停止性の悪化が懸念される程度に大きくはないと判断されて、本処理は一旦終了される。
【0042】
一方、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntより高いと判定される場合には(ステップS120:YES)、タービンライナ22の軸トルクの増大が、車両の停止性の悪化が懸念される程度に大きいものであると判断され、次に、機関回転速度Neとタービン回転速度Ntとの速度差αが算出される(ステップS130)。
【0043】
そして、算出された上記速度差αに基づき、目標アイドル回転速度Niの低下量Nαが設定され(ステップS140)、その設定された低下量Nαをもって目標アイドル回転速度Niが低下される(ステップS150)。
【0044】
ここで、機関回転速度Neとタービン回転速度Ntとの速度差αが大きいときほどタービンライナ22の軸トルクも大きくなる。そのため、上記速度差αが大きく、タービンライナ22の軸トルクが比較的大きいときには、車両の停止性を優先して確保すべく、目標アイドル回転速度Niの低下量Nαが大きくされる。また、上記速度差αが小さく、タービンライナ22の軸トルクが比較的小さいときには、暖房性能を優先して確保すべく、目標アイドル回転速度Niの低下量Nαが小さくされる。
【0045】
こうしてステップS150にて目標アイドル回転速度Niが低下された後、本処理は一旦終了される。
次に、上記低下量設定制御が行われるときの機関回転速度Ne、目標アイドル回転速度Ni、及びタービン回転速度Ntの変化について、その一例を図3に示すタイミングチャートを参照しつつ詳しく説明する。
【0046】
まず、車両が制動過程にあって、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高く、かつその速度差αが大きい場合における各値の推移について説明する。ここで、速度差αが大きくなる場合としては、例えば以下のような状況が挙げられる。
【0047】
例えば、車両の運転者によってアクセル操作が行われて同車両が加速状態にされた直後においては、スロットル開度が開き側に制御される等により機関回転速度Neが増大する。その一方、タービン回転速度Ntは内燃機関10からタービンライナ22に伝達される出力を受けて増大するため、加速直後においては内燃機関10の出力が速やかに伝達されず、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高く、かつその速度差αが大きくなりやすい。こうして車両が加速状態にされた直後において、さらに運転者によるブレーキ操作がなされて車両が制動過程となると、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高く、かつその速度差αが大きい状態にて、機関回転速度Ne及びタービン回転速度Ntの低下が開始される。
【0048】
上述のように車両が加速状態にされた直後に制動過程になると、図3に実線にて示すように、機関回転速度Ne及びタービン回転速度Ntは低下し始める(図3の時刻t1)。ここで、車両が制動過程にあり、かつ低μ路判定がなされているといった停止性向上要求があり、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高いと判断されると、機関回転速度Neとタービン回転速度Ntとの速度差α(実線の双方向矢印で図示)が算出される。そして、車両が加速状態にされた直後に制動過程にされた場合には、上述したように速度差αは大きくなっており、タービンライナ22の軸トルクが比較的大きくなっているため、目標アイドル回転速度Niの低下量Nαも大きな値に設定される。そして、図3に示す時刻t2から時刻t3にかけて、低下量Nαが設定される前の目標アイドル回転速度Niから、低下量Nαにて低下された目標アイドル回転速度Niに向けて目標アイドル回転速度Niが徐々に低下されていく。
【0049】
ここで、目標アイドル回転速度Niを徐々に低下させていく理由は次の通りである。例えば、目標アイドル回転速度Niを急激に低下させると、スロットル開度も急激に閉弁側へ制御されるため吸気量が急減する。こうした場合において、特に車両の運転者によるブレーキ操作がさらにされると、機関回転数も急激に低下し、ひいてはエンジンストールが発生するおそれがある。こうしたエンジンストールの発生を回避するため、目標アイドル回転速度Niを徐々に低下させるようにしている。
【0050】
そうして目標アイドル回転速度Niが低下量Nαをもって低下された後、同目標アイドル回転速度Niに機関回転速度Neも収束する(時刻t4)。
次に、車両が制動過程にあって、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高く、かつその速度差αが小さい場合における各値の推移について説明する。ここで、速度差αが小さくなる場合としては、例えば以下のような状況が挙げられる。
【0051】
例えば、車両がある程度の時間、定速走行している場合には、タービン回転速度Ntと機関回転速度Neとはほぼ同じになっているため、機関回転速度Neとタービン回転速度Ntとの速度差αは小さくなっている。こうした車両の定速走行中に、運転者によるアクセル操作の解除等によってエンジンブレーキが発生し、車両が制動過程となると、機関回転速度Neとタービン回転速度Ntとの速度差αが小さい状態のまま同機関回転速度Ne及び同タービン回転速度Ntの低下が開始される。
【0052】
上述のようにある程度の時間、車両が定速走行した後に制動過程になると、図3に一点鎖線にて示すように、機関回転速度Ne及びタービン回転速度Ntは低下し始める(図3の時刻t1)。ここで、車両が制動過程にあり、かつ低μ路判定がなされているといった停止性向上要求があり、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高いと判断されると、機関回転速度Neとタービン回転速度Ntとの速度差α(一点鎖線の双方向矢印で図示)が算出される。そして、車両が定速走行状態から制動過程にされた場合には、上述したように速度差αは小さくなっており、タービンライナ22の軸トルクが比較的小さくなっているため、目標アイドル回転速度Niの低下量Nαも小さな値に設定される。そして、図3に示す時刻t2から時刻t3にかけて、低下量Nαが設定される前の目標アイドル回転速度Niから、低下量Nαにて低下された目標アイドル回転速度Ni(一点鎖線にて図示)に向けて目標アイドル回転速度Niが徐々に低下されていく。
【0053】
そして、目標アイドル回転速度Niが低下量Nαをもって低下された後、同目標アイドル回転速度Niに機関回転速度Neも収束する(時刻t5)。
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0054】
(1)低下量設定制御により、低μ路での車両の制動過程において機関回転速度Neがタービンライナ22の回転速度であるタービン回転速度Ntよりも高いとの条件が満たされるときには、目標アイドル回転速度Niを低下させるようにしており、これによりポンプインペラ21とタービンライナ22との回転速度差が小さくなってタービンライナ22の軸トルクが低下し、車両停止性が向上するようになる。さらに、上記低下量設定制御では、目標アイドル回転速度Niを低下させるときの低下量Nαを機関回転速度Neとタービン回転速度Ntとの速度差αに基づいて可変設定するようにしている。そのため、タービンライナ22の軸トルクの大きさに応じて目標アイドル回転速度Niの低下量Nαを大きくしたり小さくしたりすることができ、低下量Nαを大きくしたときには車両の停止性を優先して確保することができる。また、低下量Nαを小さくしたときには暖房性能を優先して確保することができる。
【0055】
従って、本実施形態によれば、低μ路走行中の車両を制動する際にアイドル回転速度を低下させる処理を実行する場合にあって、車両の停止性や暖房性能を好適に確保することが可能となる。
【0056】
(2)機関回転速度Neとタービン回転速度Ntとの速度差αが大きく、タービンライナ22の軸トルクが比較的大きいときには、目標アイドル回転速度Niの低下量Nαが大きくされる。したがって、車両の停止性を好適に確保することができる。また、機関回転速度Neとタービン回転速度Ntとの速度差αが小さく、タービンライナ22の軸トルクが比較的小さいときには目標アイドル回転速度Niの低下量Nαが小さくされる。したがって、暖房性能を好適に向上させることが可能となる。
【0057】
(3)一般に、後輪駆動車の場合には、駆動輪である後輪に設けられたブレーキの制動力が、前輪に設けられたブレーキの制動力よりも小さくされており、上述したような低μ路での車両停止性の悪化が生じやすい傾向にある。この点、本実施形態によれば、そうした後輪駆動車において上記(1)、(2)の作用効果がより顕著に発揮される。
【0058】
(第2の実施形態)
以下、この発明にかかる車載内燃機関の制御装置を、後輪駆動車に搭載された内燃機関を統括的に制御する電子制御装置に具体化した第2の実施形態について、図4及び図5を参照して説明する。
【0059】
なお、本実施形態においては、上記第1の実施形態で説明した低下量設定制御の代わりに、後述する低下速度設定制御を実行するようにしており、この点のみが第1の実施形態と異なっている。そこで、以下ではそうした相違点を中心に、本実施形態にかかる制御装置を説明する。なお、その低下速度設定制御が上記低下速度設定手段を構成している。
【0060】
この低下速度設定制御でも、上記第1の実施形態における低下量設定制御と同様に、低μ路での車両の制動過程において機関回転速度Neがタービンライナ22の回転速度であるタービン回転速度Ntよりも高いとの条件が満たされるときには、目標アイドル回転速度Niが低下される。
【0061】
ここで、車両の制動過程において駆動輪である後輪の回転速度(駆動輪回転速度SPDd)の低下速度が小さいときには、車両が停止しにくい状態であるといえる。そこで、本実施形態においては、低下速度設定制御により、上述した目標アイドル回転速度Niを低下させることに加え、さらに目標アイドル回転速度Niを低下させるときの低下速度を駆動輪回転速度SPDdの低下速度に基づいて可変設定するようにしている。
【0062】
図4に、低下速度設定制御の処理手順を示す。なお、この低下速度設定制御も、電子制御装置100を通じて行われるものであり、例えば所定時間毎の時間割り込みにて周期的に実行される。
【0063】
同図4に示すように、本実施形態の低下速度設定制御においては、まず、停止性向上要求があるか否かが判定される(ステップS210)。ここでの判定処理は、上記ステップS110と同一である。そして、停止性向上要求はないと判定される場合には(ステップS210:NO)、車両の停止性の悪化が懸念される状況にないとして、本処理は一旦終了される。
【0064】
一方、停止性向上要求があると判定される場合には(ステップS210:YES)、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntより高いか否かが判断される(ステップS220)。そして、機関回転速度Neがタービン回転速度Nt以下であると判定される場合には(ステップS220:NO)、車両の停止性の悪化が懸念される状況にないとして本処理は一旦終了される。
【0065】
一方、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntより高いと判定される場合には(ステップS220:YES)、タービンライナ22の軸トルクの増大が、車両の停止性の悪化が懸念される程度に大きいものであると判断され、次に、駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが算出される(ステップS230)。ここで、本実施形態では、駆動輪回転速度SPDdとして、上述した出力軸回転速度センサ63の検出値(自動変速機30の出力軸32の回転速度)を用いるようにしているが、この他上記の右後輪センサ67及び左後輪センサ68からの出力値を用いることも可能である。
【0066】
そして、上記算出された低下速度βに基づいて目標アイドル回転速度Niの低下速度NSが設定され(ステップS240)、その設定された低下速度NSをもって目標アイドル回転速度Niが低下される(ステップS250)。なお、このときには予め設定された低下量Nβの分だけ目標アイドル回転速度Niは低下される。
【0067】
ここで、上述したように、駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが小さいときには、車両が停止しにくい状態であるといえる。そのため、上記低下速度βが小さい場合には、機関回転速度Neを速やかに目標アイドル回転速度Niにまで低下させてポンプインペラ21とタービンライナ22との回転速度差を早期に小さくすべく目標アイドル回転速度Niの低下速度NSが大きくされる。こうして大きく設定された低下速度NSをもって目標アイドル回転速度Niを低下させることにより、タービンライナ22の軸トルクをできるだけ早く低下させ、車両の停止性を優先して確保することができる。また、駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが大きいときには、車両が停止しやすい状態であるといえる。そのため、上記低下速度βが大きい場合には、機関回転速度Neを緩やかに目標アイドル回転速度Niにまで低下させるべく目標アイドル回転速度Niの低下速度NSが小さくされる。こうして小さく設定された低下速度NSをもって目標アイドル回転速度Niを低下させることにより、機関からの発熱を有効利用して暖房性能を優先して確保することができる。
【0068】
こうしてステップS250にて目標アイドル回転速度Niが低下されると、本処理は一旦終了される。
次に、上記低下速度設定制御が行われるときの機関回転速度Ne、目標アイドル回転速度Ni、及び駆動輪回転速度SPDdの各変化について、その一例を図5に示すタイミングチャートを参照しつつ詳しく説明する。
【0069】
まず、車両が制動過程にあって、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高く、かつ駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが大きい場合における各値の推移を図5に実線にて示しつつ説明する。
【0070】
同図5に実線にて示すように、車両の運転者によってブレーキ操作が行われる等により車両が制動過程になると、機関回転速度Ne及び駆動輪回転速度SPDdは低下し始める(図5の時刻t1)。ここで、車両が制動過程にあり、かつ低μ路判定がなされているといった停止性向上要求があり、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高いと判断されると、駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが算出される。そして、駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが大きく、車両の停止性が十分に得られている場合には、目標アイドル回転速度Niの低下速度NSは小さな値に設定される。そして、図5の時刻t2から時刻t3にかけて、低下量Nβが設定される前の目標アイドル回転速度Niから低下量Nβの分だけ低下された目標アイドル回転速度Niに向けて目標アイドル回転速度Niが低下速度NSにて緩やかに低下されていく。このときには、低下速度NSが小さい値に設定されているため、実際の機関回転速度Neの低下速度も小さくなり、同機関回転速度Neも緩やかに目標アイドル回転速度Niに収束していく(時刻t4)。
【0071】
次に、車両が制動過程にあって、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高く、かつ駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが小さい場合における各値の推移を図5に一点鎖線にて示しつつ説明する。
【0072】
同図5に一点鎖線にて示すように、車両の運転者によってブレーキ操作が行われる等により、車両が制動過程になると、機関回転速度Ne及び駆動輪回転速度SPDdは低下し始める(図5の時刻t1)。ここで、車両が制動過程にあり、かつ低μ路判定がなされているといった停止性向上要求があり、機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高いと判断されると、駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが算出される。そして、駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが小さく、車両の停止性が十分でない場合には、目標アイドル回転速度Niの低下速度NSは、低下速度βが大きいときに設定される低下速度NSよりも大きな値に設定される。そして、図5の時刻t2から時刻t5にかけて、低下量Nβが設定される前の目標アイドル回転速度Niから低下量Nβの分だけ低下された目標アイドル回転速度Niに向けて目標アイドル回転速度Niが低下速度NSにて速やかに低下されていく。このときには低下速度NSが大きな値に設定されているため、実際の機関回転速度Neの低下速度も大きくなり、同機関回転速度Neも速やかに目標アイドル回転速度Niに収束していく(時刻t6)。
【0073】
以上説明した本実施形態によれば、上記第1の実施形態にて得られる(3)に記載の効果とともに、以下の効果が得られるようになる。
(4)機関回転速度Neがタービンライナ22の回転速度であるタービン回転速度Ntよりも高いときにはタービンライナ22の軸トルクが増大する。そこで本実施形態では、低下速度設定制御により、低μ路での車両の制動過程において機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高いとの条件が満たされるときには、目標アイドル回転速度Niを低下量Nβの分だけ低下させるようにしており、これによりポンプインペラ21とタービンライナ22との回転速度差が小さくなってタービンライナ22の軸トルクが低下し、車両停止性が向上するようになる。
【0074】
ここで、車両の制動過程において駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが小さいときには、車両が停止しにくい状態であるといえる。そのため、この場合には機関回転速度Neを速やかに目標アイドル回転速度Niにまで低下させてポンプインペラ21とタービンライナ22との回転速度差を早期に小さくし、タービンライナ22の軸トルクをできるだけ早く低下させることにより車両の停止性を向上させることができる。一方、駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが大きいときには、車両が停止しやすい状態であるといえる。そのため、この場合には機関回転速度Neを緩やかに目標アイドル回転速度Niにまで低下させることにより機関からの発熱を有効利用することができる。そこで、本実施形態では、低下速度設定制御により、目標アイドル回転速度Niを低下させるときの低下速度NSを駆動輪回転速度SPDdの低下速度βに基づいて可変設定するようにしている。そのため、駆動輪回転速度SPDdの低下速度βに応じて目標アイドル回転速度Niの低下速度NSを大きくしたり小さくしたりすることができ、この目標アイドル回転速度Niの低下速度NSの変更に応じて実際の機関回転速度Neの低下速度も大きくなったり小さくなったりするようになる。従って目標アイドル回転速度Niの低下速度NSを大きくしたときには車両の停止性を優先して確保することができる。また、目標アイドル回転速度Niの低下速度NSを小さくしたときには暖房性能を優先して確保することができる。
【0075】
このように、本実施形態においても、低μ路走行中の車両を制動する際に目標アイドル回転速度Niを低下させる処理を実行する場合にあって、車両の停止性や暖房性能を好適に確保することが可能となる。
【0076】
(5)駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが小さく、車両の停止性が十分でないときには、目標アイドル回転速度Niの低下速度NSが大きくされる。この場合には、目標アイドル回転速度Niの低下速度NSが大きくされることにより、実際の機関回転速度Neも速やかに目標アイドル回転速度Niにまで低下するようになり、ポンプインペラ21とタービンライナ22との回転速度差が早期に小さくなって、タービンライナ22の軸トルクが早期に低下することで車両の停止性を向上させることができる。また、駆動輪回転速度SPDdの低下速度βが大きく、車両の停止性が十分に得られているときには、目標アイドル回転速度Niの低下速度NSが小さくされる。この場合には、目標アイドル回転速度Niの低下速度NSが小さくされることにより、実際の機関回転速度Neも緩やかに目標アイドル回転速度Niにまで低下するようになる。従って、機関からの発熱をより有効的に利用することが可能となり暖房性能を好適に確保することができる。
【0077】
尚、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・第1の実施形態では、冷却水温THWや内燃機関10の外部負荷の状態に基づいて設定された目標アイドル回転速度Niを、速度差αに基づいて算出された低下量Nαの分だけ低下させるようにした。この他、冷却水温THW、内燃機関10の外部負荷の状態、及び速度差α等に基づき、低下量Nαが反映された目標アイドル回転速度Niを直接設定するようにしてもよい。
【0078】
・第2の実施形態において、停止性向上要求があり、かつ機関回転速度Neがタービン回転速度Ntよりも高いときには、低下量Nβが反映された目標アイドル回転速度Niを直接設定するようにしてもよい。
【0079】
・第1の実施形態で説明した低下量設定制御と、第2の実施形態で説明した低下速度設定制御とをともに行うようにしてもよい。この場合には、目標アイドル回転速度Niの低下量Nαと低下速度NSとが併せて可変設定されるようになるため、車両の停止性や暖房性能をより適切に確保することが可能となる。
【0080】
・上記第2の実施形態においては、駆動輪回転速度SPDdの低下速度βに基づいて目標アイドル回転速度Niの低下速度NSを設定するようにしていた。この他、駆動輪回転速度SPDdの代わりに、自動変速機30の出力軸やタービンライナ22の回転速度について低下速度βを算出し、その低下速度βに基づいて目標アイドル回転速度Niの低下速度NSを設定してもよい。ここで、タービン回転速度Ntと駆動輪の回転速度との関係については、自動変速機30にて設定されている変速比に応じて変動する。そのため、タービン回転速度Ntの低下速度を用いて目標アイドル回転速度Niの低下速度NSを設定する場合は、検出されたタービン回転速度Ntを、自動変速機30の現在の変速比に応じた駆動輪の回転速度に相当する回転速度に補正し、その補正された回転速度に基づいて駆動輪の低下速度に相当する低下速度βを算出することが望ましい。
【0081】
・上記第1及び第2の実施形態においては、車両が低μ路を走行中であると低μ路判定がなされる条件として、従動輪回転速度SPDsと駆動輪回転速度SPDdとの回転速度差に基づいて算出された車輪のスリップ率が閾値を超えることが採用されていた。この他、低μ路判定がなされる条件として、外気温や機関水温が所定温度よりも低いことや、駆動輪回転速度と実際の車速との速度差が所定速度以上であること等を採用してもよい。
【0082】
・後輪駆動車に搭載された内燃機関を統括的に制御する電子制御装置に本発明を適用したが、前輪駆動車や四輪駆動車に本発明を適用してもよい。こうした形態においては、上記第1の実施形態における(1)及び(2)の効果と、第2の実施形態における(4)及び(5)の効果に準じた効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0083】
10…内燃機関、13…クランクシャフト、20…トルクコンバータ、21…ポンプインペラ、22…タービンライナ、23…ステータ、30…自動変速機、31…入力軸、32…出力軸、40…プロペラシャフト、41…ディファレンシャル、42…ドライブシャフト、43FL…左前輪、43FR…右前輪、43RL…左後輪、43RR…右後輪、60…水温センサ、61…クランク角センサ、62…入力軸回転速度センサ、63…出力軸回転速度センサ、65…右前輪センサ、66…左前輪センサ、67…右後輪センサ、68…左後輪センサ、45…ブレーキ、100…電子制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の出力軸に接続されるポンプインペラと自動変速機の入力軸に接続されるタービンライナとを備えるトルクコンバータを介して前記内燃機関の駆動力が駆動輪に伝達される車両に適用されて、前記内燃機関のアイドル回転速度を目標アイドル回転速度に制御する車載内燃機関の制御装置において、
低μ路での車両の制動過程において機関回転速度が前記タービンライナの回転速度よりも高いとの条件が満たされるときには、前記目標アイドル回転速度を低下させるとともに、その目標アイドル回転速度の低下量を機関回転速度と前記タービンライナの回転速度との速度差に基づいて可変設定する低下量設定手段を備える
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記低下量設定手段は、前記速度差が大きいときほど前記低下量を大きくする
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項3】
内燃機関の出力軸に接続されるポンプインペラと自動変速機の入力軸に接続されるタービンライナとを備えるトルクコンバータを介して前記内燃機関の駆動力が駆動輪に伝達される車両に適用されて、前記内燃機関のアイドル回転速度を目標アイドル回転速度に制御する車載内燃機関の制御装置において、
低μ路での車両の制動過程において機関回転速度が前記タービンライナの回転速度よりも高いとの条件が満たされるときには、前記目標アイドル回転速度を低下させるとともに、その目標アイドル回転速度を低下させるときの低下速度を前記駆動輪の回転速度の低下速度に基づいて可変設定する低下速度設定手段を備える
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記低下速度設定手段は、前記駆動輪の回転速度の低下速度が小さいときほど前記目標アイドル回転速度の低下速度を大きくする
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項5】
内燃機関の出力軸に接続されるポンプインペラと自動変速機の入力軸に接続されるタービンライナとを備えるトルクコンバータを介して前記内燃機関の駆動力が駆動輪に伝達される車両に適用されて、前記内燃機関のアイドル回転速度を目標アイドル回転速度に制御する車載内燃機関の制御装置において、
低μ路での車両の制動過程において機関回転速度が前記タービンライナの回転速度よりも高いとの条件が満たされるときには、前記目標アイドル回転速度を低下させるとともに、その目標アイドル回転速度の低下量を機関回転速度と前記タービンライナの回転速度との速度差に基づいて可変設定する低下量設定手段と、
前記目標アイドル回転速度を低下させるときの低下速度を前記駆動輪の回転速度の低下速度に基づいて可変設定する低下速度設定手段とを備える
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記車両は後輪駆動車である
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−180754(P2010−180754A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24162(P2009−24162)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】