説明

車載動力伝達装置

【課題】CVT22のベルト切れ時に、エンジン12の動力を用いた退避走行を行えないこと。
【解決手段】動力分割機構20は、1の遊星歯車機構にて構成される。動力分割機構20のサンギアSには、CVT22を介してモータジェネレータ10が機械的に連結されるとともに、CVT22、クラッチC1、ギアG2α,G2βを介してキャリアCが機械的に連結されている。また、リングギアRには、ギアG5,G6およびディファレンシャルギア24を介して駆動輪14が機械的に連結されている。こうした構成において、クラッチC1を締結状態とすることで、サンギアSおよびキャリアC間で動力循環が生じて且つ、クラッチC2を締結状態とすることで動力循環を解消する。CVT22のベルト切れ時には、クラッチC1,C2の双方を締結することで、エンジン12の動力を駆動輪14に伝達可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結される無段変速装置とを備える車載動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車載動力伝達装置としては、例えば下記特許文献1に見られるように、一対の遊星歯車機構と無段変速装置を組み合わせたものも提案されている。詳しくは、この動力伝達装置は、一対の遊星歯車機構同士の機械的な連結態様を変更するための低速用クラッチと高速用クラッチとを備えている。これにより、低速時には、低速用クラッチを締結状態として且つ高速用クラッチを解除状態とすることで、入力軸を回転させた状態で出力軸の回転をゼロにできるいわゆるギアードニュートラル状態を実現している。ここで、ギアードニュートラル状態は、出力軸に機械的に連結される動力分割用回転体以外の回転体の動力の符号に相違するものがあることが実現のための条件となる。ただし、この場合には、動力の符号が互いに相違するもの同士で動力循環が生じ、エネルギ利用効率が低くなる。これに対し、高速時には、低速用クラッチを解除状態として且つ高速用クラッチを締結状態とすることで、エンジンから入力軸に加えられるトルクよりも無段変速装置に加えられるトルクを小さくすることができ、無段変速装置の伝達効率の向上等が図れるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−308039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記伝達装置において、無段変速装置に異常が生じた場合には、エンジンの動力を出力することができなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結される無段変速装置とを備える新たな車載動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結される無段変速装置とを備える車載動力伝達装置において、前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、前記第1の回転体、前記第2の回転体および前記第3の回転体は、共線図上において回転速度が一直線上に並ぶものであり、前記駆動源の動力を他の動力分割用回転体を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと前記無段変速装置を介して動力が流動する動力循環が生じる循環用経路と、前記無段変速装置の動力伝達に異常が生じる状況下、前記動力分割用回転体同士の機械的な連結および前記動力分割用回転体と他の部材との機械的な連結のいずれか一方を変更することで、前記第2の回転体と前記第3の回転体との回転速度の比を前記無段変速装置を用いることなく固定する固定制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、固定制御手段によって、第2の回転体および第3の回転体の回転速度比を固定することができるため、これらいずれか一方に駆動源から動力を伝達することができるなら、第3の回転体の回転速度や第3の回転体の動力を制御することができる。このため、駆動輪の回転速度や動力を制御することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記第2の回転体および前記第1の回転体を前記無段変速装置を介して機械的に連結させる駆動輪側経路と、前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記第1の回転体および前記第2の回転体間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段とをさらに備え、前記固定制御手段は、前記無段変速装置の動力伝達に異常が生じる状況下、前記駆動輪側動力伝達規制手段を操作することで、前記循環用経路および前記駆動輪側経路の双方による動力伝達を行う双方経路利用手段を備えることを特徴とする。
【0010】
上記発明では、双方経路利用手段によって第1の回転体および第3の回転体の回転速度の比を固定することができ、ひいては第2の回転体および第3の回転体の回転速度の比を固定することができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結される無段変速装置とを備える車載動力伝達装置において、前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、前記第2の回転体および前記第3の回転体を前記無段変速装置を介して機械的に連結することで前記駆動源の動力を他の動力分割用回転体を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じる循環用経路と、前記第2の回転体および前記第1の回転体を前記無段変速装置を介して機械的に連結させる駆動輪側経路と、前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記第1の回転体および前記第2の回転体間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段と、前記無段変速装置の動力伝達に異常が生じる状況下、前記駆動輪側動力伝達規制手段を操作することで、前記循環用経路および前記駆動輪側経路の双方による動力伝達を行う双方経路利用手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
上記発明では、双方経路利用手段を備えることで、例えば第1の回転体および第3の回転体の回転速度の比を固定することができ、ひいては無段変速装置を介すことなく第2の回転体および第3の回転体の回転速度の比を固定することができる。また例えば、第2の回転体および第3の回転体のいずれか一方から他方への動力が流動する状況下、流動する動力の一部を第1の回転体に流出させることができる。このため、無段変速装置の許容トルクを超えるような状況下において上記双方の動力伝達を行うなら、無段変速装置のトルクを低減することもできる。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記循環用経路を介した前記第2の回転体と前記第3の回転体との動力の伝達および遮断を切り替える循環用動力伝達規制手段をさらに備え、前記双方経路利用手段は、前記無段変速装置の動力伝達に異常が生じる状況下、前記循環用動力伝達規制手段および前記駆動輪側動力伝達規制手段の双方を動力伝達側に操作することを特徴とする。
【0014】
上記発明では、循環用動力伝達規制手段を伝達状態として且つ駆動輪側動力伝達規制手段を遮断状態とすることで、第2の回転体および第3の回転体を介した動力循環を生じさせて且つ、循環用動力伝達規制手段を遮断状態として且つ駆動輪側動力伝達規制手段を伝達状態とすることで、動力循環を解消することなども可能となる。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項2または4記載の発明において、前記駆動源は、前記無段変速装置と前記第2の回転体との間に機械的に連結されていることを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記無段変速装置の動力伝達に異常が生じたか否かを判断する異常判断手段を備え、前記双方経路利用手段は、前記異常判断手段によって異常が生じたと判断される場合に、前記循環用経路および前記駆動輪側経路の双方による動力伝達を行うことを特徴とする。
【0017】
上記発明では、無段変速装置の動力伝達に異常が生じた場合であっても、駆動輪の回転速度や動力を制御することができる。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記駆動源は、前記無段変速装置の一対の軸のうち前記第2の回転体側に機械的に連結される内燃機関と、前記無段変速装置の一対の軸のいずれかに機械的に連結される回転電機とを備えることを特徴とする。
【0019】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記第3の回転体と前記内燃機関の回転軸との間の動力の伝達および遮断を切り替える起動用動力伝達規制手段をさらに備えることを特徴とする。
【0020】
上記発明では、起動用動力伝達規制手段を備えることで、第3の回転体の動力を用いて内燃機関を起動させることができる。
【0021】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記起動用動力伝達規制手段は、前記3の回転体と前記内燃機関の回転軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段を備えることを特徴とする。
【0022】
上記発明では、締結手段を備えることで、内燃機関を始動させる以前において第3の回転体から内燃機関の回転軸へと動力が伝達されることを回避することができ、ひいては、内燃機関の始動処理以前に回転軸に回転力が付与されることに起因する無駄なエネルギ消費を回避することができる。
【0023】
請求項10記載の発明は、請求項8または9記載の発明において、前記起動用動力伝達規制手段は、前記内燃機関側である出力側に対する前記3の回転体側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構を備えることを特徴とする。
【0024】
内燃機関の燃焼室における燃焼開始に伴ってトルクが生成されると、内燃機関の回転軸の回転速度が急上昇する。ここで、燃焼開始に伴うトルクの急上昇は非常に短い時間で発生するため、燃焼開始を検出して内燃機関と第3の回転体との機械的な連結を解除することは非常に困難であるか不可能である。そして、この回転変動が第3の回転体に伝達される場合には、動力伝達装置にトルク脈動が生じるおそれがある。一方、上記一方向伝達機構によれば、内燃機関の回転軸の回転速度が上昇し一方向伝達機構の出力側の回転速度が入力側の回転速度を上回る際には、内燃機関の回転軸から第3の回転体への動力の伝達が生じない。上記発明では、一方向伝達機構のこうした機能を利用することで、内燃機関の燃焼室における燃焼開始に伴ってトルク脈動が生成される際、このトルク脈動が第3の回転体を介してドライバに体感されることを好適に回避することができる。
【0025】
請求項11記載の発明は、請求項8〜10のいずれか1項に記載の発明において、前記変速装置の一対の回転軸のうち前記第2の回転体側と前記内燃機関との間の動力の伝達および遮断を切り替える伝達用動力伝達規制手段をさらに備えることを特徴とする。
【0026】
上記発明では、伝達用動力伝達規制手段を備えることで、内燃機関の停止時において、これが第2の回転体につれまわされることを回避することができ、ひいてはエネルギの浪費を回避することができる。
【0027】
請求項12記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記無段変速装置は、ベルト式のものであり、前記ベルトを緩めることで前記無段変速装置を介した動力の伝達を停止させる伝達停止制御手段をさらに備え、前記双方経路利用手段は、前記伝達停止制御手段による停止制御がなされる場合、前記循環用経路および前記駆動輪側経路の双方による動力伝達を行うことを特徴とする。
【0028】
上記発明では、無段変速装置による動力の伝達を停止させることで、無段変速装置に過度のトルクがかかる事態等を回避することができ、しかもそれにもかかわらず、双方経路利用手段によって、駆動輪の回転速度や動力を制御することができる。
【0029】
請求項13記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記駆動源は、前記無段変速装置と前記第2の回転体との間に機械的に連結されており、前記第3の回転体を固定する固定手段をさらに備え、前記固定制御手段は、前記固定手段を操作することで前記第3の回転体を固定することを特徴とする。
【0030】
上記発明では、第3の回転速度を固定するため、駆動源によって第2の回転体の回転速度を操作することで第1の回転体の回転速度を制御することができ、ひいては駆動輪の回転速度を制御することができる。
【0031】
請求項14記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記無段変速装置にかかるトルクが大きくなることで前記動力伝達効率が低下する状況となるか否かを予測する低下状況予測手段をさらに備え、前記双方経路利用手段は、前記低下状況予測手段によって低下する状況であると予測される場合、前記駆動輪側動力伝達規制手段を、その一対の回転体の回転速度を相違させることで動力伝達効率が中間値となるように操作することを特徴とする。
【0032】
上記発明では、第2の回転体および第3の回転体のいずれか一方から他方への動力が流動する状況下、流動する動力の一部を第1の回転体に流出させることができる。このため、無段変速装置の許容トルクを超えるような状況下において、無段変速装置のトルクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態における車両発進時の動力伝達態様を示す図。
【図3】同実施形態にかかるEV走行時の動力伝達態様を示す図。
【図4】同実施形態にかかるエンジン始動時の動力伝達態様を示す図。
【図5】同実施形態にかかるエンジン走行時の動力伝達態様を示す図。
【図6】同実施形態にかかる動力伝達装置のギア比と伝達効率とを示す図。
【図7】同実施形態にかかるフェールセーフ処理の手順を示す流れ図。
【図8】同実施形態にかかるフェールセーフ処理時の動力伝達態様を示す図。
【図9】第2の実施形態にかかるCVT保護処理の手順を示す流れ図。
【図10】第3の実施形態にかかるCVT保護処理の手順を示す流れ図。
【図11】第4の実施形態にかかるシステム構成図。
【図12】第5の実施形態にかかるシステム構成図。
【図13】第6の実施形態にかかるシステム構成図。
【図14】上記第1の実施形態における定量的な説明に用いる図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる車載動力伝達装置の第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0035】
図1(a)に、本実施形態にかかるシステム構成図を示し、図1(b)に、このシステムにおける動力分割装置のスケルトン図を示す。
【0036】
図示されるモータジェネレータ10は、3相交流の電動機兼発電機である。このモータジェネレータ10は、内燃機関(エンジン12)とともに、車両走行用の動力発生装置としての機能を有する。一方、動力分割機構20は、これらモータジェネレータ10、エンジン12、および駆動輪14間の動力を分割する装置である。
【0037】
動力分割機構20は、1の遊星歯車機構からなり、動力分割用回転体としてのサンギアS,キャリアC、およびリングギアRを備えている。そして、動力分割機構20のサンギアSには、無段変速装置(CVT22)を介して、モータジェネレータ10の回転軸10aが機械的に連結されている。また、サンギアSには、CVT22、クラッチC2、ギアG5を介してリングギアRが機械的に連結されている。このため、モータジェネレータ10も、クラッチC2およびギアG5を介してリングギアRに機械的に連結されている。すなわち、モータジェネレータ10とリングギアRとは、互いに連動して回転するための機械的な結合経路として、動力分割機構20を構成するほかの動力分割用回転体を備えない経路を有している。ちなみに、CVT22として、本実施形態では、機械式のものを想定している。詳しくは、金属ベルトやゴムベルトを用いたベルト式のものを想定している。また、ギアG5は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。さらに、クラッチC2は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。なお、入力側、出力側は、それぞれエネルギの入力側とエネルギの出力側とを意味するが、この関係は、固定されたものではなく変化しうるものである。
【0038】
動力分割機構20のリングギアRには、駆動輪14が機械的に連結されている。詳しくは、リングギアRには、ギアG5、G6およびディファレンシャルギア24を介して駆動輪14が機械的に連結されている。ここで、ギアG6は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であるが、入力側と出力側とで回転速度の符号を同一に保つ手段(正転ギア)である。
【0039】
動力分割機構20のキャリアCには、ギアG2α、ギアG2β、クラッチC1およびCVT22を介してサンギアSが機械的に連結されている。ここで、ギアG2αおよびギアG2βは、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且ついずれも入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。また、クラッチC1は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。なお、クラッチC1とクラッチC2とは、その入力側および出力側のいずれか一方が同一の1の回転軸に直結されている。
【0040】
上記キャリアCには、さらに、ワンウェイベアリング26およびクラッチC3を介してエンジン12のクランク軸(回転軸12a)が機械的に連結されている。ワンウェイベアリング26は、回転軸12a側(出力側)に対するキャリアC側(入力側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構である。換言すれば、出力側の回転速度の方が入力側の回転速度よりも大きくならない限り、入力側によって出力側がつれまわされるようにするものである。一方、クラッチC3は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。詳しくは、本実施形態では、ノーマリーオープン式のものを用いている。
【0041】
エンジン12の回転軸12aは、さらに、ワンウェイベアリング28を介してサンギアSが機械的に連結可能とされている。ここで、ワンウェイベアリング28は、サンギアS側(出力側)に対する回転軸12a側(入力側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構である。換言すれば、出力側の回転速度の方が入力側の回転速度よりも大きくならない限り、入力側によって出力側がつれまわされるようにするものである。このため、エンジン12は、ワンウェイベアリング28、CVT22,クラッチC2およびギアG5を介してリングギアRに機械的に連結されている。
【0042】
なお、ギアG2α,G2β,G5,G6は、実際には、複数の歯車を備えて入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であってもよい。
【0043】
制御装置40は、上記動力伝達装置を制御対象とする制御装置である。詳しくは、制御装置40は、クラッチC1,C2,C3やCVT22を操作することで動力伝達態様を制御する処理や、エンジン12の制御量を制御する処理、さらには、電力変換回路42を操作することでモータジェネレータ10の制御量を制御する処理を行う。
【0044】
特に、制御装置40は、クラッチC1が締結状態であって且つクラッチC2が解除状態であるモード1と、クラッチC1が解除状態であって且つクラッチC2が締結状態であるモード2とのいずれかの状態を実現する処理を行う。以下では、「モード1」に特有の処理を説明した後、「モード2」に特有の処理について説明し、次に「モード1からモード2への切替」処理について説明し、最後に「フェールセーフ処理」について説明する。
「モード1」
図2に、本実施形態にかかるモータジェネレータ10による車両の発進処理について説明する。ここで、図2(a)に、発進時における動力伝達経路を示し、図2(b)に、このときの動力分割機構20の共線図を、エンジン12の回転速度とともに示す。なお、図2(b)において、リングギアRの回転速度の負方向を前進と定義しているが、これは、ギアG5がカウンタギアであるためである。また、共線図において、矢印は、トルクの向きを示すものである。
【0045】
図示されるように、この場合には、上記クラッチC3を解除状態とし、エンジン12を停止状態とする。この場合、動力分割機構20が備える動力分割用回転体の回転速度は、モータジェネレータ10の回転速度と、CVT22の変速比とによって制御される。すなわち、共線図において、サンギアSの回転速度、キャリアCの回転速度、およびリングギアRの回転速度は、一直線上に並ぶ。このため、サンギアSの回転速度とキャリアCの回転速度とを定めることで、残りの回転体であるリングギアRの回転速度が一義的に定まることとなる。
【0046】
ここで、本実施形態では、モード1において、図2(c)に示すように、動力分割機構20を構成するリングギアR以外の回転体であるサンギアSおよびキャリアCの動力(パワー)の符号が互いに相違し、サンギアSおよびキャリアC間で動力循環が生じる。すなわち、キャリアCから出力される動力がギアG2α,G2βおよびCVT22を備える経路を介してサンギアSに流動する。この動力循環が生じる場合、モータジェネレータ10を稼働した状態で、駆動輪14の回転速度をゼロとするギアードニュートラル状態を実現したり、回転速度の符号を反転させたりすることができる。そして、特に駆動輪14の回転速度を極低速にすることで、駆動輪14に付与されるトルクを高トルクとすることができる。このため、モータジェネレータ10を大型化することなく、モータジェネレータ10による発進に際して高トルクが生成可能となる。ちなみに、各動力分割用回転体の動力の符号は、当該動力分割用回転体が動力分割機構20の外部に対して仕事をする場合を正と定義する。また、駆動輪14に付与されるトルクが高トルクとなる定量的な説明については、本明細書最後部の<備考>における「モード1における高トルクの生成について」の欄を参照のこと。
【0047】
なお、モータジェネレータ10の出力の絶対値がゼロではないにもかかわらずリングギアRの回転速度をゼロとするためには、上記動力循環が生じることが条件となる。これは、キャリアCとサンギアSとの間のループ経路において動力循環状態が実現されないにもかかわらずリングギアRの回転速度がゼロとなるなら、エネルギ保存則の観点から、モータジェネレータ10の動力は、動力分割機構20内において熱エネルギとして全て消費されなければならないこととなるためである。
「モード2」
図3(a)に、モード2において、特にモータジェネレータ10のみによって車両を走行させるいわゆるEV走行時の動力伝達経路を示し、図3(b)に、その際の共線図を示す。なお、この際、クラッチC3は、解除状態とされている。
【0048】
図示されるように、この場合には、動力分割機構20を介すことなく、クラッチC2およびギアG6を介してモータジェネレータ10および駆動輪14間で動力が伝達される。これは、キャリアC、サンギアSおよびリングギアRのトルクが互いに比例関係にあることから(本明細書最後部の<備考>の式(c1),(c2)参照)、キャリアCにトルクが加わらない場合、サンギアSおよびリングギアRについてもトルクが加わらないためである。
【0049】
この状態では、モータジェネレータ10の動力がCVT22を介すことなくダイレクトに駆動輪14に伝達されるため、動力損失を低減することができる。
【0050】
図4(a)に、モード2におけるエンジン12の始動時の動力伝達経路を示し、図4(b)に、その際の共線図を示す。
【0051】
図示されるように、クラッチC3が締結状態とされることで、動力分割機構20を介したトルクの伝達が可能となる。すなわち、ワンウェイベアリング26によって、エンジン12を起動するための起動用回転体(キャリアC)の回転エネルギが、エンジン12の回転軸12aに伝達される。図4(c)に、動力分割機構20の各回転体の動力等の符号を示す。図示されるように、この場合、サンギアSの動力の符号とリングギアRの動力の符号とが互いに相違し、サンギアSおよびリングギアR間で動力循環が生じる。すなわち、リングギアRから出力される動力がサンギアSに流入する。このため、モータジェネレータ10や駆動輪14の出力の絶対値がゼロではない場合であっても、キャリアCの回転速度をゼロや極低速とすることや、キャリアCの動力の絶対値を小さい値にすることができる。このため、エンジン12の回転軸12aが停止している際にクラッチC3を締結状態に切り替えたとしても、ワンウェイベアリング26の出力側に対する入力側の回転速度差を極めて小さくすることができる。このため、クラッチC3の締結状態への切替に起因して動力分割機構20に振動が生じる事態を好適に抑制することができる。
【0052】
なお、クラッチC3を締結状態とするのは、エンジン12の回転速度がエンジン12を安定して稼動状態に保つための最小回転速度以下である場合とすることが望ましい。それ以外の場合には、回転中のエンジン12において燃焼制御を開始すればよい。
【0053】
図5(a)に、モード2におけるエンジン12による車両走行時の動力伝達経路を示し、図5(b)に、その際の共線図を示す。
【0054】
図示されるように、エンジン12の回転速度が上昇し、ワンウェイベアリング28の入力側の回転速度が出力側の回転速度となることで、ワンウェイベアリング28を介してエンジン12の駆動力がワンウェイベアリング28の出力側に出力される。ただし、この場合、クラッチC3を解除状態とすることで、動力分割機構20を介すことなく、モータジェネレータ10およびエンジン12と駆動輪14との間で動力が伝達される。ここで、エンジン12の出力は、その回転速度がCVT22によって変速された後、駆動輪14に伝達される。
【0055】
なお、エンジン12による走行時においては、モータジェネレータ10を、必ずしも電動機として機能させる必要はなく、例えば発電機として機能させてもよい。また、これに代えて、モータジェネレータ10の駆動を停止させることで、無負荷状態としてもよい。
「モード1からモード2への切替」
図6(a)に、エンジン12から駆動輪14までのトータルのギア比と、CVT22のギア比との関係を示し、図6(b)に、モータジェネレータ10から駆動輪14までのトータルのギア比と、CVT22のギア比との関係を示す。ここで、aからbまでのトータルのギア比とは、「(bの回転速度)/(aの回転速度)」のことであり、変速比の逆数である。
【0056】
図示されるように、モード1において、CVT22のギア比を連続的に変化させていくことで、駆動輪14の反転(後退)から速度ゼロを経て高速側へと変化させることができる。そして、所定のギア比となることで、モード2へと切り替える。これにより、エンジン12に関してはトータルのギア比の可変領域を拡大することができる。
【0057】
すなわち、図6(a)に示すように、モード1においてCVT22のギア比を変化させることで、エンジン12から駆動輪14までのトータルのギア比を増加させることができる。そして、モード切替点Pにおいてモード2に切り替えるとともにCVT22のギア比の変化方向を逆方向に切り替える(折り返し処理)ことで、トータルのギア比を更に増加させることができる。
【0058】
この設定は、CVT22のギア比の変化に対するトータルのギア比の変化速度の符号を、モード1とモード2とで互いに逆とする設定によって実現されるものである。この条件は、CVT22のギア比を独立変数としトータルのギア比を従属変数とする関数のCVT22のギア比による微分値について、モード1およびモード2のそれぞれにおける値の符号が互いに逆となる条件である。これを実現する手段は、上記ギアG2α、G2β、G5である。詳しくは、これらのギア比の積の符号によって、折り返し処理が実現可能か否かが定まる。なお、折り返し処理が可能となる条件については、この明細書の最後部における<備考>の「折り返し処理について」の欄において導出してある。
【0059】
また、本実施形態では、モード切替を、モータジェネレータ10やエンジン12の回転速度を入力回転速度とし駆動輪14の回転速度を出力回転速度とするトータルのギア比が変化しない条件で行っている。この場合、クラッチC1によって連結される一対の回転体の回転速度と、クラッチC2によって連結される一対の回転体の回転速度とが互いに等しい条件で切替がなされることとなる。このため、クラッチC1,C2の双方を締結状態とする状態を経由してモード1およびモード2間の切替を行うことができることから、駆動輪14にトルクが伝達されない期間が生じるいわゆるトルク抜けを回避することができる。
【0060】
トルク抜けを回避することを可能とする手段は、先の図1に示したギアG2α,G2β、G5である。すなわち、動力分割機構20のサンギアS,キャリアCおよびリングギアRの回転速度は、全てが等しいか全てが相違する。ここで、本実施形態では、サンギアSおよびリングギアRの回転速度の符号が共線図上互いに逆となる設定のため、回転速度がゼロとなる場合以外には、サンギアS、キャリアCおよびリングギアRの回転速度は全て相違する。このため、CVT22のみでは、クラッチC1によって連結される一対の回転体の回転速度とクラッチC2によって連結される一対の回転体の回転速度とが互いに等しい状態を実現することはできない。このため、動力分割機構20のリングギアRおよびクラッチC2間のギアG5と動力分割機構20のキャリアCおよびクラッチC1間のギアG2α、G2βとの少なくとも一方が、キャリアCの回転速度とリングギアRの回転速度との差を補償する手段として必要である。ちなみに、トルク抜けを生じさせないためのギアG2α,G2β、G5とCVT22とのギア比の条件は、この明細書の最後部の備考欄における「トルク抜けの生じない切替条件」の欄において導出されている。
【0061】
上記のように、本実施形態では、モード1とモード2との切替を行うことで、トータルのギア比の可変領域を拡大することができるため、CVT22を小型化することが可能となる。さらに、モード2においては、基本的に動力循環が生じないため、モード1のみとした場合と比較して、入力エネルギと出力エネルギとの比である動力伝達効率を高くすることもできる。図6(c)に、エンジン12についてのトータルのギア比と伝達効率との関係を示す。図示されるように、モード1においては伝達効率が非常に低い領域が存在するものの、モード2においては伝達効率は十分に高いものとなっている。なお、図6(c)では、モード2への切替直前におけるモード1の伝達効率がモード2の伝達効率よりも高くなっているが、このことは、モード1のみとした場合にモード2に切り替える場合と比較して伝達効率を高くできることを意味しない。
【0062】
このように、本実施形態では、モード1を採用することで、伝達効率は低いものの、駆動輪14に付与するトルクを大きくすることができることから、モータジェネレータ10の小型化が可能となる。そして駆動輪14の回転速度が所定以上となる領域においてモード2に切り替えることで、伝達効率を向上させるとともに、トータルのギア比の可変領域を拡大できるというメリットを有する。しかも、モード2に切り換えた場合、動力分割機構20は、駆動輪14へ駆動力を伝達させる上で必要がなくなるのであるが、利用されなくなったキャリアCを用いてエンジン12に初期回転を付与することが可能となる。このため、エンジン12の起動のための手段を、モード2において利用されない部材を流用して構成することができる。
「フェールセーフ処理」
上記構成によれば、CVT22のベルトが切れる等CVT22を介した動力の伝達ができなくなる異常が生じる場合には、モード2において走行が可能であるものの、この場合、エンジン12の動力を利用することができない。そこで本実施形態では、以下の処理によって、CVT22を介した動力伝達が不可能となった場合であっても、エンジン12による走行を可能とする。
【0063】
図7に、本実施形態にかかるフェールセーフ処理の手順を示す。この処理は、制御装置40によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0064】
この一連の処理では、まずステップS10において、CVT異常フラグがオンであるか否かを判断する。ここで、CVT異常フラグは、CVT22のベルト切れ等、CVT22を介した動力の伝達が不可能となる異常が生じていることを示すものである。ステップS10において否定判断される場合、ステップS12において、CVT22の変速比に異常があるか否かを判断する。ここでは、CVT22のプライマリプーリやセカンダリプーリの速度が、CVT22の操作量と他の回転体の回転速度との関係から想定される値に対し、所定値以上乖離している場合に変速比異常ありと判断すればよい。もっとも、CVT22の操作量を用いることなく、CVT22のギア比の可変範囲とCVT22以外の回転体の現在の回転速度とから想定される速度範囲から所定以上乖離している場合に変速比に異常ありと判断してもよい。そしてステップS12において肯定判断される場合、ステップS14において、CVT異常フラグをオン操作する。
【0065】
上記ステップS10において肯定判断される場合や、ステップS14の処理が完了する場合には、ステップS16において、エンジン12の動力を利用する要求があるか否かを判断する。ここでは、例えば退避走行において必要な動力としてモータジェネレータ10の動力では不足する場合や、モータジェネレータ10の電力供給源(バッテリ等)の残存容量が少ない場合等において、エンジン12の動力を利用する要求があると判断すればよい。そして、ステップS16において否定判断される場合、ステップS18において、クラッチC1を解除状態として且つクラッチC2を締結状態とすることでモード2とし、モータジェネレータ10の単独の動力で退避走行を行う。
【0066】
これに対し、ステップS16において肯定判断される場合、ステップS20において、図8に示すように、クラッチC1,C2の双方を締結状態とする。これにより、動力分割機構20のキャリアCとリングギアRとの双方にトルクを加えることができるため、エンジン12の動力をサンギアSを介して伝達させることができる。
【0067】
続くステップS22においては、エンジン12の停止中であるか否かを判断する。そして、エンジン12が停止中である場合、ステップS24においてクラッチC3を締結状態とすることで、エンジン12の回転軸12aに初期回転を付与し、エンジン12を起動させる。ちなみに、エンジン12の回転軸12aの回転速度が自立燃焼可能な速度である場合、クラッチC3を締結状態とすることなく、燃焼制御を開始すればよい。
【0068】
なお、上記ステップS24,S18の処理が完了する場合や、ステップS12,S22において否定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0069】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0070】
(1)CVT22を介した動力伝達が不可能となる異常が生じる場合、クラッチC1,C2の双方を締結状態とした。これにより、エンジン12の動力を利用した退避走行を行うことができる。
【0071】
(2)エンジン12とサンギアSとの間に、出力側であるサンギアS側に対する入力側であるエンジン12側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させるワンウェイベアリング28を備えた。これにより、入力側の回転速度が出力側の回転速度に一致することでエンジン12のトルクがサンギアS側に付与されるようになるため、サンギアS側に対するエンジン12の駆動力の付与を簡易に開始することができる。
【0072】
(3)モード1およびモード2の切替を行なった。これにより、モータジェネレータ10、エンジン12、および駆動輪14のそれぞれと動力分割用回転体との機械的な連結を、これらの駆動状態に応じてより適切なものとすることができる。
【0073】
(4)モータジェネレータ10(エンジン12)の回転速度の符号を特定の符号に固定した場合、モード1において、キャリアCの動力とサンギアSの動力との符号が互いに逆となって且つ、モード2において、サンギアSの動力とリングギアRの動力とがゼロとなるようにした。これにより、モード1において、駆動輪14に機械的に連結される回転体以外の回転体間で動力循環が生じるため、ギアードニュートラル状態を実現することが可能となる等のメリットがある。また、モード2では、動力循環が生じないため、動力伝達効率を向上させることなどができる。しかも、これらの切り替えに際し、モータジェネレータ(エンジン12)の回転速度の符号を反転させる必要もない。
【0074】
(5)モード1、モード2の双方で、共通のCVT22を利用可能とした。これにより、部品点数を低減することができる。
【0075】
(6)エンジン12から駆動輪14までのトータルのギア比を従属変数としCVT22の変速比を独立変数とする関数について、モード1およびモード2のそれぞれにおける上記独立変数による上記関数の1階の微分値同士の符号が互いに逆となるように設定した。これにより、折り返し処理が可能となり、トータルの変速比の可変領域を拡大することができる。さらに、このようにギア比を拡大することができることから、CVT22自体を小型化することも可能となる。
【0076】
(7)モード1とモード2との間の切替に際し、キャリアCとリングギアRとの回転速度の差を補償する手段(ギアG2α、G2β、G5)を備えた。これにより、モード1とモード2との切り替えに際し、トルクの伝達が中断される事態を好適に回避することができる。
【0077】
(8)エンジン12の起動用回転体(キャリアC)とエンジン12との間の動力の伝達を遮断するための電子制御式のクラッチC3を備えた。これにより、エンジン12を始動させる以前において起動用回転体(キャリアC)からエンジン12へと動力が伝達されることを回避することができ、ひいては、エンジン12の始動処理以前に回転軸12aに回転力が付与されることに起因する無駄なエネルギ消費を回避することができる。
【0078】
(9)出力側であるエンジン12側に対する入力側である起動用回転体(キャリアC)側の相対的な回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させるワンウェイベアリング26を備えた。これにより、エンジン12の燃焼室における燃焼開始に伴ってトルクが生成されることでエンジン12の回転軸12aの回転速度が急上昇する場合であっても、この際、起動用回転体へとエンジン12のトルクが伝達されない。これは、ワンウェイベアリング26の入力側の回転速度よりも出力側(エンジン12側)の回転速度の方が高くなることで、ワンウェイベアリング26の出力側から入力側への動力伝達ができない状態となるためである。そしてこれにより、起動用回転体を介してドライバにトルク脈動が体感されることを好適に回避することができる。
【0079】
(10)1つの回転軸にクラッチC1およびクラッチC2を直結させた。これにより、クラッチC1およびクラッチC2を近接配置することができ、ひいては動力伝達装置自体の小型化が容易となる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0080】
本実施形態では、CVT22に信頼性が低下する懸念が生じるような大きなトルクが加わることを回避する処理を行う。
【0081】
図9に、上記処理の手順を示す。この処理は、制御装置40によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0082】
この一連の処理では、まずステップS30において、モード1であるか否かを判断する。この処理は、CVT22に加わるトルクが大きくなる状況であるか否かを判断するためのものである。すなわち、変速比がローである場合、低速高トルクであるため、CVT22に加わるトルクも大きくなると考えられる。ステップS30において肯定判断される場合、ステップS32において駆動輪14に加わると予測されるトルクが規定トルクTth以上となるか否かを判断する。ここでのトルクの予測は、例えば自身に加わる加速度を検出する加速度センサ等に基づく路面の傾斜角の検出値等に基づき行えばよい。また、上記規定トルクTthは、CVT22に信頼性が低下する懸念が生じるような大きなトルクが加わる下限値以下の値に設定される。
【0083】
そしてステップS32において肯定判断される場合、ステップS34において、CVT22のベルトを緩める処理を行う。これは、プライマリプーリおよびセカンダリプーリの双方の溝幅を広げることによって実現することができる。続くステップS36においては、エンジン12の停止中であるか否かを判断し、停止中である場合には、ステップS38においてエンジン12を起動させる。これは、クラッチC3を締結して、キャリアCの回転力によってエンジン12に初期回転を付与することで行うことができる。
【0084】
上記ステップS38の処理が完了する場合や、ステップS36において否定判断される場合には、ステップS40において、クラッチC1,C2の双方を締結状態とする。これにより、先の図8に示した経路によって、エンジン12およびモータジェネレータ10の動力を駆動輪14に伝達させることができる。
【0085】
なお、上記ステップS40の処理が完了する場合や、ステップS30、S32において否定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0086】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(10)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0087】
(11)CVT22に信頼性を低下させる懸念が生じるような大きなトルクが加わると予測される場合、CVT22のベルトを緩めることでCVT22を介した動力の伝達を停止させ、クラッチC1,C2を締結状態としてエンジン12とモータジェネレータ10との協働で駆動輪14を駆動した。これにより、CVT22を保護することができる。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第2の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0088】
図10に、本実施形態にかかるCVT22の保護処理の手順を示す。この処理は、制御装置40によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図10において、先の図9に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0089】
この一連の処理では、ステップS32において肯定判断される場合、ステップS50において、クラッチC2を半クラッチ状態とする。これにより、キャリアCからクラッチC1を介してサンギアSへと流動する動力の一部がクラッチC2を介して駆動輪14に直接伝達される。これにより、CVT22に加わるトルクを低減することができる。
【0090】
なお、この場合、クラッチC2およびギアG5,G6間に、クラッチC2側の回転速度を低下させるギアを備えることが望ましい。これは、半クラッチC2時におけるクラッチC2の動力の伝達率は、クラッチC2の一対の回転軸の回転速度の差が小さいほど大きくなることによる。このため、上記設定によれば、CVT22に大きなトルクが加わると想定される駆動輪14の低速度回転時において、モータジェネレータ10の回転速度と駆動輪14の回転速度との差を低減することができる。このため、半クラッチ状態におけるクラッチC2の一対の回転軸の回転速度の差を低減することが容易となり、ひいてはクラッチC2を介した動力伝達率を大きくすることが容易となる。
【0091】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(10)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0092】
(12)CVT22に信頼性を低下させる懸念が生じるような大きなトルクが加わると予測される場合、クラッチC2を半クラッチ状態に操作した。これにより、CVT22を保護することができる。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0093】
図11(a)に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。なお、図11(a)において、先の図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0094】
本実施形態では、モータジェネレータ10をもCVT22およびサンギアS間に機械的に連結する。また、本実施形態では、キャリアCを固定するブレーキ50を備える。これにより、CVT22を介した動力伝達が不能となる異常時において、ブレーキ50によってキャリアCを固定することができることから、クラッチC1、C2の双方を解除することで、図11(b)に示すように、サンギアSの回転速度を制御することによって、駆動輪14の回転速度を制御することができる。
【0095】
なお、駆動輪14を反転させる場合には、モータジェネレータ10のみを用いてこれを反転駆動させればよい。また、エンジン12を起動させる場合には、モータジェネレータ10の回転力によってエンジン12に初期回転を付与すればよい。
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0096】
図12に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。なお、図12において、先の図1に示した部材と対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0097】
図示されるように、本実施形態にかかる動力分割機構20は、第1遊星歯車機構20aおよび第2遊星歯車機構20bを備えて構成されている。ここで、第1遊星歯車機構20aのリングギアRと第2遊星歯車機構20bのキャリアCとは、機械的に連結されており、また、第1遊星歯車機構20aのサンギアSと第2遊星歯車機構20bのサンギアSとは、機械的に連結されている。そして、第2遊星歯車機構20bのリングギアRには、モータジェネレータ10の回転軸10aが機械的に連結されている。また、第1遊星歯車機構20aのリングギアRおよび第2遊星歯車機構20bのキャリアCには、ギアG6およびディファレンシャルギア24を介して駆動輪14が機械的に連結されている。
【0098】
また、第1遊星歯車機構20aのキャリアCは、ワンウェイベアリング26およびクラッチC3を介してエンジン12のクランク軸(回転軸12a)に機械的に連結可能とされている。第1遊星歯車機構20aのサンギアSおよび第2遊星歯車機構20bのサンギアSとエンジン12の回転軸12aとの間には、ワンウェイベアリング28が設けられている。第1遊星歯車機構20aのサンギアSおよび第2遊星歯車機構20bのサンギアSは、CVT22、クラッチC1およびギアG3を介して、モータジェネレータ10の回転軸10aに機械的に連結されている。ここで、ギアG3は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ、入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。
【0099】
また、第1遊星歯車機構20aのサンギアSおよび第2遊星歯車機構20bのサンギアSは、CVT22、クラッチC2およびギアG4を介して、第1遊星歯車機構20aのリングギアRおよび第2遊星歯車機構20bのキャリアCに機械的に連結されている。
【0100】
こうした構成によっても、クラッチC1を締結状態として且つクラッチC2を解除状態とするモード1において、動力循環を生じさせることができる。すなわち、この場合、第2遊星歯車機構20bのサンギアSから出力される動力がCVT22、クラッチC1およびギアG3を介して第2遊星歯車機構20bのリングギアRに入力される。このため、第2遊星歯車機構20bのキャリアCの極低速回転時(駆動輪14の極低速回転時)において、駆動輪14に高トルクを付与することができる。また、クラッチC1を解除状態として且つクラッチC2を締結状態とするモード2において、動力循環を生じず且つトータルのギア比を大きくすることができる。ちなみに、この動力分割機構20においては、第1遊星歯車機構20aを介した動力伝達は、クラッチC3の締結時にのみ行われる。
【0101】
そして、このシステムにおいても、CVT22を介した動力伝達が不可能となる状況下、クラッチC1,C2の双方を締結状態とすることで、第2遊星歯車機構20bのリングギアRおよびキャリアCの回転速度の比を固定することができ、この際、サンギアSを介してエンジン12の動力を駆動輪14に伝達することができる。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0102】
図13に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。なお、図13において、先の図1に示した部材と対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0103】
図示されるように、本実施形態では、動力分割用回転体として、第1遊星歯車機構20aのサンギアS,キャリアCおよびリングギアR、ならびに第2遊星歯車機構20bのサンギアS,キャリアCおよびリングギアRの6つの回転体を備え、これらにより動力分割を行なう。
【0104】
上記モータジェネレータ10は、第1遊星歯車機構20aのサンギアSに機械的に連結されるとともに、ギアG3を介して第2遊星歯車機構20bのキャリアCに機械的に連結され、またCVT22を介して第2遊星歯車機構20bのサンギアSに機械的に連結されている。ここで、ギアG3は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であるが、入力側と出力側とで回転速度の符号を同一に保つ手段(正転ギア)である。
【0105】
一方、駆動輪14は、ディファレンシャルギア24およびギアG7を介して第1遊星歯車機構20aのリングギアRに機械的に連結されている。ここで、ギアG7は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ、入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。
【0106】
また、第1遊星歯車機構20aのキャリアCと第2遊星歯車機構20bのリングギアRとは、ギアG5およびクラッチC1を介して機械的に連結されている。また、第1遊星歯車機構20aのキャリアCと第2遊星歯車機構20bのサンギアSとは、クラッチC2およびギアG4を介して機械的に連結されている。ここで、ギアG4,G5は、いずれも入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ、入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。
【0107】
さらに、上記第2遊星歯車機構20bのリングギアRには、ワンウェイベアリング26およびクラッチC3を介してエンジン12の回転軸12aが機械的に連結されている。また、エンジン12の回転軸12aは、ワンウェイベアリング28を介して第2遊星歯車機構20bのキャリアCに機械的に連結されている。
【0108】
こうした構成によっても、クラッチC1を締結状態として且つクラッチC2を解除状態とするモード1において、動力循環を生じさせることができる。すなわち、この場合、第1遊星歯車機構20aのキャリアCから出力される動力が、クラッチC1、第2遊星歯車機構20bのリングギアR、第2遊星歯車機構20bのサンギアS、CVT22を介して第1遊星歯車機構20aのサンギアSに入力される。一方、クラッチC1を解除状態として且つクラッチC2を締結状態とすることで、上記動力循環の生じないモード2を実現することができる。
【0109】
そして、このシステムにおいても、CVT22を介した動力伝達が不可能となる状況下、クラッチC1,C2の双方を締結状態とすることで、第2遊星歯車機構20bのリングギアRおよびサンギアSの回転速度の比を固定することができ、これにより、第1遊星歯車機構20aのキャリアCの回転速度を、これら第2遊星歯車機構20bのリングギアRやサンギアSの回転速度に応じた値とすることができる。これにより、第2遊星歯車機構20bのキャリアCと第1遊星歯車機構20aのサンギアSとを介してエンジン12やモータジェネレータ10の動力を駆動輪14に伝達することができる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0110】
「CVT22の動力伝達の異常検出手法について」
CVT22のベルト切れ等の検出手法としては、CVT22のプライマリプーリやセカンダリプーリの回転速度が想定外となることに基づくものに限らない。例えばベルトの回転を検出するセンサを備えて、プーリの回転に対してベルトの回転が所定以上遅い場合にベルト切れと判断してもよい。
【0111】
CVT22の動力伝達の異常検出手法としては、CVT22のベルト切れを検出するものに限らない。例えばCVT22の入力軸および出力軸の一方が折れる異常を検出するものであってもよい。これは、例えば軸の両側の回転速度に基づき検出することができる。
【0112】
「CVT22のベルトを緩める処理の実行条件について」
CVT22のベルトを緩める処理の実行条件としては、上記第2の実施形態において例示したものに限らない。例えば、モード2において、モータジェネレータ10単独で走行するときを条件としてもよい。すなわち、この場合、CVT22や遊星歯車機構20による動力伝達が理論的にはゼロであるものの、実際には僅かながらCVT22等によってモータジェネレータ10の動力が消費される。このため、この動力の損失を低減すべく、CVT22のベルトを緩める処理を実行してもよい。
【0113】
「駆動輪側経路について」
駆動輪側経路としては、モード2において利用される経路に限らない。例えばモード2において利用される経路とは別に、クラッチC1を締結状態としつつ、動力循環が生じる経路の動力の一部を駆動輪14側に逃すべく半クラッチを使用するための専用の経路を設けてもよい。この場合、この経路には、モータジェネレータ10側の回転速度を十分に減速させることができるように専用のギアを設けることが望ましい。
【0114】
「起動用動力伝達規制手段について」
エンジン12を起動すべくエンジン12と動力分割機構20の起動用回転体との間のトルクの伝達および遮断を行う起動用動力伝達規制手段としては、クラッチC3およびワンウェイベアリング26を備えて構成されるものに限らない。例えば、クラッチC3のみを備えるものであってもよい。この場合、例えばエンジン12の回転軸12aに初期回転を付与した後、エンジン12の燃焼開始に先立ちクラッチC3を遮断するなら、エンジン12における燃焼開始時に急増するトルクが動力分割機構20に伝達されることを好適に回避することができる。また例えばワンウェイベアリング26のみを備えるものであってもよい。
【0115】
また、ワンウェイベアリング26の入力側にクラッチC3を設けてもよい。
【0116】
さらに、エンジン12の回転軸12a側(出力側)に対する動力分割機構20の起動用回転体側(入力側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構としては、ワンウェイベアリング26に限らず、例えばワンウェイクラッチであってもよい。また、入力側によって出力側が滑ることなくつれまわされるものに限らず、滑りつつも動力が付与されるものであってもよい。
【0117】
「伝達用動力伝達規制手段について」
エンジン12のトルクを駆動輪14に付与すべく出力側(動力分割機構20の伝達用回転体側)に対する入力側(エンジン12側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達する一方向伝達機構としては、ワンウェイベアリング28に限らず、例えばワンウェイクラッチであってもよい。また、入力側によって出力側が滑ることなくつれまわされるものに限らず、滑りつつも動力が付与されるものであってもよい。
【0118】
さらに、一方向伝達機構とクラッチとを併用したり、クラッチのみを用いたりしてもよい。
【0119】
「動力循環(モード1)の利用について」
上記各実施形態では、駆動源(モータジェネレータ10等)の回転速度の符号を固定しつつ駆動輪14の回転速度を正、ゼロ、負に切り替えるために動力循環を利用したが、これに限らない。例えば、駆動源の回転速度の符号を一定に保った状態における駆動輪14の回転速度をゼロを境とする一方向の領域に限ってもよい。この場合、モータジェネレータ10を反転させることで駆動輪14の回転速度の符号を反転させることができる。もっともこれに代えて、動力分割用回転体と駆動源や駆動輪14との機械的な連結態様を変更することでモータジェネレータ10の回転速度の符号を反転させること無く駆動輪14の回転速度の符号を反転させてもよい。これは例えば、先の図1に示した構成において、サンギアSとCVT22との間にクラッチを設けるとともに、サンギアSを固定する手段を備えることで行うことができる。
【0120】
このように、CVT22のギア比を操作することで駆動輪14の回転速度の符号が反転するような利用をしない場合、モード1におけるCVT22のギア比の操作に対するトータルギア比の変化量を小さくでき、CVT22の耐量を低減できることが発明者らによって見出されている。
【0121】
「動力分割機構について」
動力分割機構としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、先の図1や、図12、図13に例示した構成において、サンギアS、キャリアCおよびリングギアRを入れ替えてもよい。この場合であっても、遊星歯車機構とモータジェネレータ10、エンジン12、駆動輪14との間に介在するギアの設定によって、上記各実施形態と同様の効果を奏することが可能となる。
【0122】
「動力分割用回転体について」
上記実施形態では、動力分割用回転体を構成する遊星歯車機構として、サンギアSとリングギアRの回転速度の符号が互いに相違する場合にキャリアCの回転速度がゼロとなりうるものを採用したが、これに限らない。例えば、サンギアSとリングギアRとの回転速度の符号が同一である場合にキャリアCの回転速度がゼロとなり得るものを用いてもよい。この遊星歯車機構は、いわゆるダブルピニオンを有する遊星歯車機構(例えば特開2001−108073号公報参照)によって実現できる。
【0123】
また、遊星歯車機構を構成するものにも限らず、例えばデフギアを構成するものであってもよい。
【0124】
「変速装置の種類について」
機械式の無段変速装置としては、ベルト式のものに限らず、例えばトラクションドライブ式のものであってもよい。また、機械式のものに限らず、油圧式のものであってもよい。更に、無段変速装置にも限らず、有段変速装置であっても、例えば、有段変速装置による動力伝達が不能となる異常時には、クラッチC1,C2の双方をオンとすることは有効である。
【0125】
「そのほか」
・上記第3の実施形態に示した処理時において、モータジェネレータ10単独では動力が不足すると判断される場合等においては、エンジン12の動力を加えてもよい。
【0126】
・車両としては、ハイブリッド車に限らず、例えば、車載主機としてモータジェネレータ10のみを備える電気自動車であってもよい。この場合であっても、例えば先の図11に示したようにモータジェネレータ10を接続するなら、フェールセーフ処理として、クラッチC1,C2の双方をオン状態とすることは有効である。また、例えば先の図1に示したようにモータジェネレータ10を接続する場合であっても、CVT22の保護処理として、クラッチC1のオン状態時にクラッチC2を半クラ状態とすることは有効である。
【0127】
・モード1とモード2との間の切り替えに際し、トルク抜けが生じる設定であっても上記第1の実施形態の(1)等の効果を得ることはできる。この場合、クラッチC1,C2のうち解除状態から締結状態へと切り替える側において、締結力を漸増させることで半クラッチを利用すればよい。もっとも、フェールセーフ処理時等、モード切替に伴うショック等よりも迅速なモード切替の優先度の方が高い状況下にあっては、モード1とモード2とでトータルギア比が相違するCVT30のギア比において、上記締結力の漸増処理を行うことなく強制的にモード切替を行なってもよい。
【0128】
・回転電機としては、3相の交流回転電機に限らず、例えばブラシ付DCモータや誘導モータ等であってもよい。
<備考>
上記第1の実施形態に記載の構成について、様々な関係を導出する場合、図14に示す一般的な構成において導出すれば足りる。ここで、ギアG1は、CVT22に対応している。ちなみに、図14に示す構成と第1の実施形態に示す構成との相違は、第1の実施形態にはギアG4が無く、ギアG2a、G2bを有する点である。図の構成は、第1の実施形態の構成を一般化したものであるにもかかわらず、ギアG2a,G2bをギアG2にまとめることとしたのは、クラッチC1およびキャリアC間に介在するギアをギアG2として一般化することができるためである。すなわち、この図の構成から第1の構成にいたるには、第1の実施形態のギアG2a,G2bのトータルのギア比を図14の構成のギアG2のギア比r2として且つ、ギアG4のギア比r4を「1」とすればよい。なお、ギア比ri(i=1〜6)は、図中、aの回転速度に対するbの回転速度の比である。
【0129】
ここで、動力分割機構20のリングギアRの歯数Zrに対するサンギアSの歯数Zsの比Zs/Zrを比ρとし、リングギアR、サンギアSおよびキャリアCのトルクをそれぞれトルクTr,Ts、Tcとして且つこれらの回転速度を回転速度wR,wS,wCとすると、以下の式が成立する。
【0130】
Tr=−Tc/(1+ρ) …(c1)
Ts=−ρTc/(1+ρ) …(c2)
ρwS−(1+ρ)wC+wR=0 …(c3)
「モード1における高トルクの生成について」
モータジェネレータ10を駆動源とする場合、図中、IN2が供給動力となる。今、モータジェネレータ10のトルクをトルクTmとし、先の図2(c)に示した関係からエネルギ保存則を立てると、以下の式が成立する(ただし、ギアG1、G2の質量を無視する理想化を行っている)。
【0131】
wC・(Tc+Tm/r2)=−wSTs …(c4)
上記の式(c1)および式(c2)を用いて上記式(c4)からトルクTs,Tcを消去することで、下記の式(c5)を得る。
【0132】
Tr=Tm/r2{(1+ρ)−ρ(wS/wC)} …(c5)
上記の式(c5)によれば、比「wS/wC」を「(1+ρ)/ρ」に近似させることで、リングギアRのトルクTrは、非常に大きなものとなり得ることがわかる。換言すれば、駆動輪14に伝達されるトルクが非常に大きなものとなり得ることがわかる。
【0133】
「モード1のトータルのギア比について」
1.駆動源がエンジンの場合
モード1においては、サンギアSの回転速度wSと、キャリアCの回転速度wCとの間には、以下の式(c6)にて表現される関係がある。
【0134】
wC=r1・r2・wS …(c6)
一方、ギアG6の出力側の回転速度wG6bは、以下の式(c7)にて表現できる。
【0135】
wG6b=r6・r5・wR …(c7)
上記の式(c6)、(c7)を上記の式(c3)に代入することで以下の式(c8)を得る。
【0136】
wG6b=r6・r5・{r1・r2・(1+ρ)−ρ}wS …(c8)
したがって、トータルのギア比は、以下の式(c9)となる。
【0137】
(トータルギア比)=r6・r5・{r1・r2・(1+ρ)−ρ} …(c9)
2.駆動源がモータジェネレータ10の場合
この場合、入力軸がギアG1の出力側となるため、上記の式(c8)の右辺のwSをギア比r1で除算したものを用いることで、以下の式が導出できる。
【0138】
(トータルギア比)=r6・r5・{r2・(1+ρ)−ρ/r1} …(c10)
「モード2のトータルギア比について」
モード2においては、駆動源がエンジンの場合、ギアG1,G4,G6の経路を考えることで、トータルギア比は、以下の式(c11)となる。
【0139】
(トータルのギア比)=r1・r4・r6 …(c11)
「トルク抜けの生じない切替条件」
ギアG1の回転速度wG1bが、ギアG2の回転速度wG2aとギアG4の回転速度wG4aとの双方と一致することが条件となる。これは、以下の式にて表現することができる。
【0140】
wC/r2=wS・r1=wR・r5/r4 …(c12)
上記の式(c12)において、例えばサンギアSおよびリングギアRの回転速度wS,wRをキャリアCの回転速度wCで表現して且つ、上記の式(c3)に代入することで以下の式(c13)を得る。
【0141】
r1=ρr5/{r2r5(1+ρ)−r4} …(c13)
すなわち、CVT22(ギアG1)のギア比r1が上記の式(c13)の右辺の値をとりうる設定とすれば、上記(c13)の条件成立時においてトルク抜けを回避した切替を行うことができる。
【0142】
「折り返し処理について」
これは、トータルのギア比を従属変数としギア比r1を独立変数とする関数をギア比r1によって微分した値についてのモード1とモード2との積が負であることを条件とすればよい。
【0143】
上記の式(c9)および式(c11)を用いる場合には、これは以下の式(c14)に示す条件となる。
【0144】
{r6・r5・r2・(1+ρ)}・{r4・r6}<0
すなわち、r5・r4・r2<0 …(c14)
ちなみに、上記第1の実施形態では、ギアG5やギアG2a、G2bをカウンタギアとしたため、ギア比r2>0、ギア比r5<0であり、またギアG4を除いたため、ギア比r4=1であり、この条件を満たす。
【符号の説明】
【0145】
20…動力分割機構、S…サンギア(動力分割用回転体の一実施形態)、C…キャリア(動力分割用回転体の一実施形態)、R…リングギア(動力分割用回転体の一実施形態)、C1…クラッチ(循環用動力伝達規制手段の一実施形態)、C2…クラッチ(駆動輪側動力伝達規制手段の一実施形態)、C3…クラッチ(起動用動力伝達規制手段、締結手段の一実施形態)、26…ワンウェイベアリング(起動用動力伝達規制手段、一方向伝達機構の一実施形態)、28…ワンウェイベアリング(伝達用動力伝達規制手段、一方向伝達機構の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結される無段変速装置とを備える車載動力伝達装置において、
前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、
前記第1の回転体、前記第2の回転体および前記第3の回転体は、共線図上において回転速度が一直線上に並ぶものであり、
前記駆動源の動力を他の動力分割用回転体を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと前記無段変速装置を介して動力が流動する動力循環が生じる循環用経路と、
前記無段変速装置の動力伝達に異常が生じる状況下、前記動力分割用回転体同士の機械的な連結および前記動力分割用回転体と他の部材との機械的な連結のいずれか一方を変更することで、前記第2の回転体と前記第3の回転体との回転速度の比を前記無段変速装置を用いることなく固定する固定制御手段とを備えることを特徴とする車載動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2の回転体および前記第1の回転体を前記無段変速装置を介して機械的に連結させる駆動輪側経路と、
前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記第1の回転体および前記第2の回転体間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段とをさらに備え、
前記固定制御手段は、前記無段変速装置の動力伝達に異常が生じる状況下、前記駆動輪側動力伝達規制手段を操作することで、前記循環用経路および前記駆動輪側経路の双方による動力伝達を行う双方経路利用手段を備えることを特徴とする請求項1記載の車載動力伝達装置。
【請求項3】
駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結される無段変速装置とを備える車載動力伝達装置において、
前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、
前記第2の回転体および前記第3の回転体を前記無段変速装置を介して機械的に連結することで前記駆動源の動力を他の動力分割用回転体を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じる循環用経路と、
前記第2の回転体および前記第1の回転体を前記無段変速装置を介して機械的に連結させる駆動輪側経路と、
前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記第1の回転体および前記第2の回転体間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段と、
前記無段変速装置の動力伝達に異常が生じる状況下、前記駆動輪側動力伝達規制手段を操作することで、前記循環用経路および前記駆動輪側経路の双方による動力伝達を行う双方経路利用手段とを備えることを特徴とする車載動力伝達装置。
【請求項4】
前記循環用経路を介した前記第2の回転体と前記第3の回転体との動力の伝達および遮断を切り替える循環用動力伝達規制手段をさらに備え、
前記双方経路利用手段は、前記無段変速装置の動力伝達に異常が生じる状況下、前記循環用動力伝達規制手段および前記駆動輪側動力伝達規制手段の双方を動力伝達側に操作することを特徴とする請求項2記載の車載動力伝達装置。
【請求項5】
前記駆動源は、前記無段変速装置と前記第2の回転体との間に機械的に連結されていることを特徴とする請求項2または4記載の車載動力伝達装置。
【請求項6】
前記無段変速装置の動力伝達に異常が生じたか否かを判断する異常判断手段を備え、
前記双方経路利用手段は、前記異常判断手段によって異常が生じたと判断される場合に、前記循環用経路および前記駆動輪側経路の双方による動力伝達を行うことを特徴とする請求項5記載の車載動力伝達装置。
【請求項7】
前記駆動源は、前記無段変速装置の一対の軸のうち前記第2の回転体側に機械的に連結される内燃機関と、前記無段変速装置の一対の軸のいずれかに機械的に連結される回転電機とを備えることを特徴とする請求項6記載の車載動力伝達装置。
【請求項8】
前記第3の回転体と前記内燃機関の回転軸との間の動力の伝達および遮断を切り替える起動用動力伝達規制手段をさらに備えることを特徴とする請求項7記載の車載動力伝達装置。
【請求項9】
前記起動用動力伝達規制手段は、前記3の回転体と前記内燃機関の回転軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段を備えることを特徴とする請求項8記載の車載動力伝達装置。
【請求項10】
前記起動用動力伝達規制手段は、前記内燃機関側である出力側に対する前記3の回転体側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構を備えることを特徴とする請求項8または9記載の車載動力伝達装置。
【請求項11】
前記変速装置の一対の回転軸のうち前記第2の回転体側と前記内燃機関との間の動力の伝達および遮断を切り替える伝達用動力伝達規制手段をさらに備えることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の車載動力伝達装置。
【請求項12】
前記無段変速装置は、ベルト式のものであり、
前記ベルトを緩めることで前記無段変速装置を介した動力の伝達を停止させる伝達停止制御手段をさらに備え、
前記双方経路利用手段は、前記伝達停止制御手段による停止制御がなされる場合、前記循環用経路および前記駆動輪側経路の双方による動力伝達を行うことを特徴とする請求項5記載の車載動力伝達装置。
【請求項13】
前記駆動源は、前記無段変速装置と前記第2の回転体との間に機械的に連結されており、
前記第3の回転体を固定する固定手段をさらに備え、
前記固定制御手段は、前記固定手段を操作することで前記第3の回転体を固定することを特徴とする請求項1記載の車載動力伝達装置。
【請求項14】
前記無段変速装置にかかるトルクが大きくなることで前記動力伝達効率が低下する状況となるか否かを予測する低下状況予測手段をさらに備え、
前記双方経路利用手段は、前記低下状況予測手段によって低下する状況であると予測される場合、前記駆動輪側動力伝達規制手段を、その一対の回転体の回転速度を相違させることで動力伝達効率が中間値となるように操作することを特徴とする請求項3記載の車載動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−72791(P2012−72791A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216464(P2010−216464)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】