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車載型環境負荷ガス測定装置及び測定方法
説明

車載型環境負荷ガス測定装置及び測定方法

【課題】 外部電源が無い場所や移動しながらでも、環境負荷ガスを高感度に検出する。
【解決手段】 バッテリーボックス20と環境測定装置30をワンボックスカー10に載せる。環境測定装置30は、一つのフレームにより車内に固定される。環境測定装置30は、バッテリー21又は外部電源からの電力の供給を受けて動作する。環境測定装置30では、レーザー発生部31で発生した紫外光35を真空紫外光発生部33で真空紫外光37に変換してイオン化部38に導入する。イオン化部38には大気ガス導入部50で取り込まれた測定対象ガスも導入する。イオン化部38に導入された測定対象ガスは真空紫外光37によりイオン化され、飛行時間型質量分析部34でイオン73の質量スペクトルを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空紫外レーザーを照射することにより、大気中に含まれる複数の環境負荷ガスの成分分子を同時にイオン化し、飛行時間型質量分析計にて環境負荷分子をリアルタイムで測定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷ガスの大気中への放出が大きな社会問題となっており、車の排ガス規制を始めとする法規制も年々厳しくなっている。環境問題への対策は緊急の課題であるが、有効な対策を打つためには、環境負荷ガスの成分分子を正確にかつ迅速に測定することが重要であり、そのための有効な方法が求められている。
一般に、大気中の環境負荷の成分分子を測定するための有機化合物の検出や同定には、質量分析(MS)が用いられている。質量分析は、原子、分子等を何らかの方法でイオン化し、真空中でイオンを運動させ、電磁気力を用いてイオンを質量電荷比(m/z)ごとに分離して質量スペクトルを記録するものである。その中でも特に有機化合物の測定法としてはガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)法が一般的に用いられている。GC/MS法は、大気中の環境負荷ガスの成分分子を高感度に検出できる。しかし、GC/MS法は、測定に長時間を要するため、有害分子が発生した際に、有害分子を迅速に検出することが困難である。また、GC/MS装置は、据え置き型が一般的であるため、複数の箇所へ移動して測定したり、移動しながら測定したりすることは不可能である。
【0003】
そこで、近年、短時間で測定でき、且つ、持ち運びも容易な、半導体センサーを始めとするハンディータイプのガス分析装置の開発が盛んに行われている。しかし、このような半導体センサー等のハンディータイプのガス分析装置は、特定の分子しか検出できず、未知分子の特定が困難である。また、このようなハンディータイプのガス分析装置の検出感度はppmレベルが限界である。しかし、大気中の環境負荷分子の測定のためには、ppbレベルの検出感度が必要である。このため、このようなハンディータイプのガス分析装置は、十分な性能を有しているとは言い難い。
【0004】
そこで、半導体センサーでは特定することが出来ない分子も識別可能な車載型装置の開発も行われている。特許文献1では、レーザーを使った車載型ガスセンサによるガス漏洩検知システムが開示されている。しかし、このガス漏洩検知システムでは、検出感度の下限が数十ppmレベルであるため、検出感度が不十分である。また、特許文献1には、駆動電源を電源ソケットから供給すると記載されている。しかし、電源ソケットからの電気供給量は、装置を起動するには不十分であり、動作が不安定となる可能性が高い。ところが、特許文献1にはその対策について一切記載されていない。
【0005】
一方、小型GC/MS装置を車に搭載して環境負荷ガスの成分分子を測定する方法も提案されている。しかし、この小型GC/MS装置では、1回の測定に7分程度の時間がかかる。このため、環境負荷ガスの成分分子を、秒単位のリアルタイムで測定することができない。また、この小型GC/MS装置では、装置を動かす電源が必要となる。このため、電源が確保出来る箇所でしか測定できないという制約がある。
現在、大気中の有機分子を高感度で測定する方法としては、袋等に大気ガスを採取し、それを実験室に備え付けの装置を用いて測定する方法が一般的である。しかし、この方法では、リアルタイムで有機分子を測定することが不可能であり、測定分子が袋に吸着することによる感度の低下等が問題となる。
以上の様に従来の分析法は、環境負荷ガスの成分分子を測定するには性能不足と言わざるを得ない。特に、測定のリアルタイム性を持たせるために、測定現場へ迅速に装置を移動させての測定や走行しながらの測定でも、外部電源からの電源供給無しで、発生分子を高感度に測定出来る方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−42965号公報
【特許文献2】特開2003−22777号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N. Kanno and K. Tonokura,Appl. Spectrosc. 61, 896-902 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、環境負荷ガスの成分分子の有効な測定法が望まれており、特に高感度性とリアルタイム性とを低コストで実現可能な測定法の開発が重要な課題である。
以上の従来技術の問題点に鑑み、本発明は、自走により低コストで測定場所へ迅速に移動でき、外部電源が無い場所や走行しながらでも、環境負荷ガスを高感度に検出することを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者は、車載型環境負荷ガス検出装置を特殊改造車に搭載し、GC/MS装置等の一般的なガス分析装置と同等の感度(ppbオーダ)で、走行しながらの大気中の微量有機分子をモニタリング可能な装置を発明した。
すなわち、第1の発明は、
大気中の環境負荷ガスをリアルタイムに測定する車載型環境負荷ガス測定装置であって、大気を導入する導入機構と、前記環境負荷ガスの成分分子の質量を測定する環境測定装置と、前記導入機構と前記環境測定装置とに電力を供給するバッテリーと、少なくとも前記環境測定装置を車内で固定する1つのフレームと、を含み、前記測定装置は、真空紫外光を発生する真空紫外光発生部と、前記真空紫外光発生部から発生した真空紫外光を前記環境負荷ガスに照射することにより、当該環境負荷ガスの成分分子をイオン化するイオン化部と、前記イオン化した分子の質量数を測定する飛行時間型質量分析部と、を有することを特徴とする車載型環境負荷ガス測定装置。
第2の発明は、
大気中の分子の吸着を防ぐために前記導入機構を加熱する加熱機構を更に有し、前記導入機構は、大気吸入口から大気が流入され、流入された大気をピンホールから排出して前記イオン化部に導入する導入管と、前記導入管から前記イオン化部に大気を吸引するポンプと、を有することを特徴とする第1の発明の車載型環境負荷ガス測定装置。
第3の発明は、
前記ピンホールの口径が10μm〜20μmであることを特徴とする第2の発明の車載型環境負荷ガス測定装置。
第4の発明は、
第1の発明の車載型環境負荷ガス測定装置を用いた環境負荷ガス測定方法であって、前記導入機構から前記イオン化部に大気を導入する工程と、前記真空紫外光を発生する工程と、前記大気中の環境負荷ガスに前記真空紫外光を照射することにより、当該環境負荷ガスの成分分子を一括してイオン化する工程と、前記飛行時間型質量分析部により前記該環境負荷ガスの成分分子の質量数を測定する工程と、を有することを特徴とする環境負荷ガス測定方法。
第5の発明は、
第2の発明の車載型環境負荷ガス測定装置を用いた環境負荷ガス測定方法であって、前記加熱機構により前記導入管を加熱して前記導入管への分子の吸着を防ぎつつ当該大気を前記導入管に吸入する工程と、前記導入管に吸引された大気を、前記ピンホールを通して連続的に前記イオン化部に導入する工程と、前記真空紫外光を発生する工程と、前記大気中の環境負荷ガスに前記真空紫外光を照射することにより、当該環境負荷ガスの成分分子を一括してイオン化する工程と、前記飛行時間型質量分析部により前記該環境負荷ガスの成分分子の質量数を測定する工程と、を有することを特徴とする環境負荷ガス測定方法。
第6の発明は、
車で走行しながら大気中の環境負荷ガスをリアルタイムに測定することを特徴とする第4又は第5の発明の環境負荷ガス測定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大気中に含有される環境負荷ガスの成分分子を、走行しながら高感度に測定することが出来るため、広範囲の環境負荷ガスの成分分子を、オンサイト・リアルタイムに測定することが可能となる。また、通常のGC/MS装置等のガス分析装置を、測定箇所まで輸送して、オンサイト・リアルタイム測定するのと比べて、輸送費がガソリン代程度で済むため、コスト的にも圧倒的に優れている。また、測定箇所までの移動時間も、装置の梱包、移動、設置等の作業が不要なため、圧倒的に短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車載型環境負荷ガス測定装置の全体の概略構成の一例を模式的に示す図である。
【図2】バッテリーボックスの概略構成の一例を模式的に示す図である。
【図3】環境測定装置の概略構成の一例を模式的に示す図である。
【図4】真空紫外光発生部の概略構成の一例を模式的に示す図である。
【図5】イオン化部と飛行時間型質量分析部の概略構成の一例を模式的に示す図である。
【図6】大気ガス導入部の大気吸引口付近の概略構成の一例を模式的に示す図である。
【図7】大気ガス導入部全体の概略構成の一例を模式的に示す図である。
【図8】化学工場の周辺の1箇所の測定箇所で測定した、ベンゼン、トルエン、キシレンの濃度と測定開始からの経過時間との関係を示す図である。
【図9】化学工場の周辺を時速10kmで5分間走行しながら測定した、ベンゼン、トルエン、キシレンの濃度と測定開始からの経過時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、車載型環境負荷ガス測定装置の全体の概略構成の一例を模式的に示す図である。本実施形態では、車載型環境負荷ガス測定装置は、ワンボックスカー10内に取り付けられる。図1(a)は、ワンボックスカー10内を、その上方から見た図であり、図1(b)は、ワンボックスカー10内を、その側方から見た図である。
図1に示すように、車載型環境負荷ガス測定装置は、バッテリーボックス20と、環境測定装置30と、電源コード41〜43と、大気ガス導入部50と、電源コネクター60と、を有する。
【0013】
図2は、バッテリーボックス20の概略構成の一例を模式的に示す図である。図2(a)は、バッテリーボックス20内を、その上方から見た図であり、図2(b)は、バッテリーボックス20内を、その側方から見た図である。
図2において、バッテリーボックス20は、バッテリー21と、インバーター22と、バッテリーチャージャー23と、ブレーカー24と、支え板25a、25bと、を有する。
バッテリーボックス20は、6台のAC100Vのバッテリーと、1台のDC12Vのバッテリーと、2台のDC24Vのバッテリーの、計9台のバッテリー21を有する。尚、図2(a)に示すバッテリー21aの下に2台のバッテリーがある。図2(b)に示すように、バッテリー21b、21c、21dは、支え板25bの上に取り付けられている。
【0014】
インバーター22は、バッテリー21からの直流電力を交流電力に変換し、当該交流電力を、電源コード41を介して環境測定装置30に出力するものである。
また、バッテリーボックス20は、100Vのバッテリー用のバッテリーチャージャー23aと、12Vのバッテリー用のバッテリーチャージャー23bと、24Vのバッテリー用のバッテリーチャージャー23cとを有する。図2(b)に示すように、バッテリーチャージャー23a、23b、23cは、支え板25aの上に取り付けられている。
充電時に、電源コード42から、ブレーカー24を介してバッテリーチャージャー23に電力が供給され、バッテリーチャージャー23は、自身に対応する電圧のバッテリー21を充電する。バッテリー21に充電された電力は、インバーター22を介して、又は、インバーター22を介さずに直接に、電源コード41を通して、環境測定装置30、データ処理装置、及び出力・表示装置に送られる。
【0015】
環境測定装置30は、微量有機分子を含有する大気(測定対象ガス)を装置内へ導入するための取り込み部と、レーザー発生部と、ミラーと、真空紫外発生部と、イオン化部と、飛行時間型質量分析部と、を具備し、これら全ては、同一のフレームに固定される。また、本実施形態では、環境測定装置30で測定された測定対象ガスの信号(イオン信号)を入力し、データ処理するデータ処理装置と、データ処理の結果を表示する出力・表示装置もこのフレームに固定されている。
フレームは、ワンボックスカー10の内部に取り付けられている。また、フレームの底部とワンボックスカー10の床との間には、長距離走行時及び悪路輸送時に装置に与えるダメージを抑えるための緩衝機構が設けられている。本実施形態では、緩衝機構は、アルミ板、発泡スチロール、及びゴム板を有している。具体的に、フレームの底部の下にアルミ板が、アルミ板の下に発砲スチロールが、発砲スチロールの下にゴム板が、ゴム板の下にワンボックスカー10の床が配置されている。
また、環境測定装置30は、装置の環境を維持するためのスポットクーラー及び除湿機を備えている。
【0016】
図3は、環境測定装置30の概略構成の一例を模式的に示す図である。
図3では、環境測定装置30に含まれる、レーザー発生部31と、ミラー32と、真空紫外光発生部33と、飛行時間型質量分析部34と、を示している。
本実施形態では、真空紫外光発生部33から発生する真空紫外光の波長の範囲として、100nm〜150nmの範囲を使用できる。ただし、装置の大きさ及び出力の関係から、118nmの波長の真空紫外光を用いるのが最も好適である。
【0017】
図4は、真空紫外光発生部33の概略構成の一例を模式的に示す図(断面図)である。
図4において、真空紫外光発生部33は、合成石英レンズ33aと、MgF2製レンズ33bと、真空チャンバー33cと、Xeガス導入管33dと、を有する。
真空紫外光発生部33は、波長が118nmの真空紫外光を発生させるために、以下の様に構成することができる。即ち、Xeガス36を適切な圧力で封入したガスセルに、レーザー発生部31で発生(発振)した紫外光(紫外レーザー光)35(Nd:YAGレーザーの3倍波(355nm))を、ミラー32を介して導入し、紫外光35を、その焦点で再度3倍波に変換して、118nmの波長の真空紫外光(真空紫外レーザー光)37を発生(発振)させる。Nd:YAGレーザーのパルス幅は、ns〜fsオーダーが好適であり、Nd:YAGレーザーの最も好適なパルス幅は5nsである。レーザーの繰り返し数は多いほど良いが、この繰り返し数は、真空紫外光の発生の元となる紫外光レーザーの繰り返し数に依存する。このため、市販の紫外光レーザーを用いる場合、繰り返し数は、10Hz〜30Hzが一般的である。本発明者らが鋭意検討した結果によれば、安定性と感度とを両立させる点で、繰り返し数は20Hzが最も好適である。
【0018】
ここで、Nd:YAGレーザーの3倍波である紫外光35が直接イオン化部に入射すると、測定分子が分解する可能性が高い。その対策としては、紫外光35と真空紫外光37との屈折率の違いを利用し、集光レンズであるMgF2製レンズ33bの角度と位置とを調整することにより、紫外光35を分離して真空紫外光37のみがイオン化部へ入射する様に、光学系を設計することが有効である。
光子エネルギーεと紫外レーザー光の波長λとの関係は、以下の(1)式で表される。
ε=hc/λ ・・・(1)
但し、hはプランク定数、cは光速度である。
したがって、あるターゲット分子のイオン化ポテンシャルをIPとすると、光子エネルギーεは以下の(2)式及び(3)式を満たすように設定される。
IP<ε ・・・(2)
IP<hc/λ ・・・(3)
これらの条件を満たすとき、目的とするターゲット分子をイオン化することが可能となる。つまり、真空紫外レーザーの光子エネルギーより低いイオン化ポテンシャルを有する分子は、全て一括して検出することが可能となる。
【0019】
図5は、イオン化部38と飛行時間型質量分析部34の概略構成の一例を模式的に示す図である。
イオン化部38と飛行時間型質量分析部34は、例えば、ロータリーポンプと二つのターボ分子ポンプ(ファイファーバキューム社製)を用いて、大気圧から真空状態にされる。測定対象ガスを導入していない状態では、真空度としては、イオン化部38が1×10-4Pa以下、飛行時間型質量分析部34が9×10-5Pa以下が好ましい。
図6は、大気ガス導入部(導入機構)50の大気吸引口付近の概略構成の一例を模式的に示す図(断面図)である。
大気ガス導入部50の大気吸引口は、例えば、ワンボックスカー10の右後方側面に設置される。大気ガス導入部50は、大気吸引口から流入された大気をイオン化部38に導入するポンプを有する。このポンプとして排気速度が70L/s程度の小型ポンプを用いた場合でも、外気を乱れなくそのままの状態でイオン化部38に導入し測定するため、大気ガス導入部50は、粉塵用フィルターを有し、採取した測定対象ガスのうち、7μm以上の粉塵を粉塵用フィルターで除去し、粉塵用フィルターを通った測定対象ガスを、口径が10μm以上20μm以下の極小ピンホールである、測定対象ガスの噴き出し口50aから、真空槽であるイオン化部38に連続的に導入する。大気ガス導入部50からイオン化部38へ大気を導入する際は、イオン化部38が1.2×10-1Pa以下、飛行時間型質量分析部34が1.0×10-2Pa以下の真空度であるのが望ましく、最適な真空度は、イオン化部38が1.0×10-1Paであり、飛行時間型質量分析部34が7.0×10-3Paである。
【0020】
図7は、大気ガス導入部50全体の概略構成の一例を模式的に示す図(断面図)である。
加速電極である2枚の平板電極の間にガスを噴き出す噴き出し口があり、噴き出し口から導入後にイオン化された分子を平板電極で直角方向に曲げて飛行時間型質量分析部に導入する垂直導入型の大気ガス導入部がある。これに対して、図7に示す例では、特許文献2に記載の、電極自体が噴き出し口を兼ねており、イオン化した分子を曲げずに噴き出し口と同軸で飛行時間型質量分析部に導入する直噴型の大気ガス導入部を示している。大気ガス導入部としては、これら垂直導入型と直噴型とのいずれかを用いることができる。
【0021】
図7に示すように、直噴型は、出鼻電極50b(の測定対象ガスの噴き出し口50a)と、イオン引き込み電極50c(のイオンの引き込み口50d)とが相互に対向するように直線上に配置される。このため、イオン化効率及び、イオンの飛行時間型質量分析部34への導入効率が高い。従って、測定対象ガスを高感度に測定することを必要とする場合には、直噴型の大気ガス導入部50を用いることが好ましい。ここで、真空紫外光を用いた質量分析装置には、非特許文献1に記載の装置もある。しかし、非特許文献1では、垂直導入型の大気ガス導入部を用いているため、直噴型の大気ガス導入部に比べて測定対象ガスの測定感度が劣っている。さらに、非特許文献1には、環境測定装置を車に搭載するための記述が一切なされていない。
これに対し、本実施形態の環境測定装置による測定対象ガスの測定では、測定対象ガスの調整は不要であり、測定車(ワンボックスカー10)が進入可能な、任意の場所でサンプリングと測定とが可能である。
【0022】
出鼻電極50bの測定対象ガスの噴き出し口50aからイオン化部38に導入された測定対象ガス71は、真空紫外光37が照射されることによりイオン化点72で光イオン化され、イオン73となる。イオン73は、出鼻電極50bとイオン引き込み電極50cとの間の電位差により、イオン引き込み電極50cのイオンの引き込み口50dを通って飛行時間型質量分析部34へ加速しながら進入する。
図5において、飛行時間型質量分析部34は、MCP(マルチチャンネルプレート)検出部34aと、リフレクトロン34bとを有する。
リフレクトロン34bにより、イオン73(イオン化された分子)は折り返されてMCP検出部34aで検出され、イオン73の信号は電流量として出力される。イオン化した測定対象ガスをパルス的に加速し、MCP検出部34aで検出するまでの時間差を検出することで質量スペクトル(質量数)を得る。つまり、イオン73が受ける電荷量が一定条件下であれば質量電荷比が大きいものほど飛行時間が遅くなることを利用し、質量スペクトルを得る。
出力・表示装置及びデータ処理装置は、プリアンプと、ピコメータと、市販のノート型パーソナルコンピューター(ノートPC)とを用いて構成される。MCP検出部34aで検出されたイオン73の信号は、プリアンプ(例えばortec社製VT120)により増幅され、ピコメータを介して、ノートPCに入力され、ノートPCにインストールされている専用プログラムを実行することにより表示、記録される。イオン73の信号は、通常10秒程度の時間枠で平均化される。データ処理装置が有するプログラム(ノートPCにインストールされている専用プログラム)は、本装置のガス測定のための専用プログラムであり、連続するガスの質量情報を1秒毎に取り込むことが可能であり、1秒毎の質量スペクトルが得られる。本発明者らが鋭意検討した結果によれば、1秒毎の質量スペクトルの1分間の平均をとることにより、ベンゼンで2ppb以下(S/N=3)の検出感度が得られる。
【0023】
環境測定装置30を一つのフレームに固定しないで走行しながらの測定を行ったところ、イオン73の信号強度のふらつきが大きくなり、10分程度で光学系が狂い、測定対象ガスの測定が出来なくなった。そのため、走行時の衝撃から装置全体を保護するための方策としては、本発明者らが鋭意検討した結果によれば、装置架台底部にそれぞれ1.5cm程度の厚みのゴム製シート、発泡スチロール材、アルミ板を下から順に配置し、これらを装置架台に固定する構造とし、3層構造で環境測定装置30をガードする。
【0024】
また、環境測定装置30本体を一つのフレームに固定することにより、振動が起こった際も装置全体が動く構造にすることにより、環境測定装置30が備える光学系の位置関係がずれるのを防ぐことが可能となり、走行しながらの測定も可能となる。この際に使用するフレームとしては、ステンレス製で一体型の直方体の枠組み構造が好ましく、枠組みの厚みは4cm以上であることが好ましい。このフレームに、レーザー発生部31と、ミラー32と、真空紫外光発生部33と、飛行時間型質量分析部34と、イオン化部38とを、ステンレス製の専用冶具でしっかりと固定する。
【0025】
さらに、フレームが車両内で移動しないように、フレームの4か所以上を幅4cm以上のバンドで固定することが好ましく、フレームの下部4隅と上部4隅とを当該バンドで固定するのが好適である。また、バッテリーボックス20も車両内で固定される。環境測定装置30と共にバッテリーボックス20もフレームを使って固定してもよい。
万が一、光学系のズレや装置のトラブルにより、環境測定装置30の調整が必要となった場合でも、環境測定装置30に付随のキャスターで環境測定装置30を車外に運び出すことも可能なため、車外の広い場所へ移動しての調整も容易である。路面が良好の場合、時速40kmの速度で走行しながら広範囲の測定をすることが可能ではあるが、測定精度を維持することと装置へのダメージを防ぐこととの観点から、走行しながらの測定を行う場合の車(ワンボックスカー10)の速度は、時速10km程度が最も好適である。
【0026】
バッテリー21による装置の稼働時間を長くするためには、車内の配置スペースに応じて、なるべく高容量のバッテリーを多数設置することが好ましい。本発明者らが鋭意検討した結果によれば、図2に示したように、9台のバッテリー(例えばGSユアサ社製の鉛蓄電池)と、3台のバッテリーチャージャーと、1台のインバーターと、コネクター部との構成により、3時間以上のバッテリー駆動が可能である。
バッテリー21からの電源は、環境測定装置30を改造することなく安定に動作することを可能にするために、DC12V、DC24V及びAC100Vを使用できることが好ましい。DC24V及びDC12Vの電源は、バッテリー21から直接、又はバッテリー21からコネクター部を介して環境測定装置30に供給される。AC100Vの電源は、DC24Vをインバーター22でAC100Vに変換することにより得られ、これがコネクター部を介して環境測定装置30に供給する。また、車(ワンボックスカー10)の外装に電源コネクター60を装備し、車内のバッテリーボックス20に配線すれば、バッテリー21を車内に設置したままで充電可能となる。
【0027】
また、前述した仕様のバッテリー21を車載する場合、バッテリー21のみでの稼働時間は3時間程度であるが、電源の供給がない場所で、さらに長時間の測定が必要な場合もある。その際は、まず、外部電源を供給可能な場所へ測定車を移動し、車の外装に装備されている電源コネクター60を介して得られる外部電源を使用して、電力消費が最も大きいイオン化部38と飛行時間型質量分析部34とを最適な真空状態にする工程を実施する。引続き、外部電源を使用して、大気から導入するガスの一部をロータリーポンプで吸引することにより、ガスの流量を調整し、イオン化部38と飛行時間型質量分析部34の真空度を、前述した最適な真空度に調整する工程を実施する。
【0028】
次に、バッテリーモードへの切り替え工程を実施する。バッテリーモードへの切り替えの際は一旦電源を切る必要がある。環境測定装置30のパネルとバッテリー21のパネルとで、電源の供給の切り替え(環境測定装置30が使用する電源の、外部電源からバッテリー21への切り替え)が可能である。よって、30秒程度で電源の供給の切り替えが可能である。電源の供給の切り替え後は、1分程度で最適状態に復旧する。この状態で、外部電源を電源コネクター60から切り離し、測定車を、外部電源が無い測定箇所へ移動して、バッテリー駆動による測定を行う。以上のように、環境測定装置30が行う工程のうち、電力消費が大きい工程で外部電源を使用することにより、全工程をバッテリーのみで行う場合よりも1.5時間長い、4.5時間の測定時間を確保できる。
【0029】
外気温が低い場合等には、大気ガス導入部50(大気吸入口及び導入管)は、温度の低下により、ナフタレン等の高沸点分子を分子吸着し易くなる。このため、高沸点分子の検出ができない場合や、高沸点分子の測定感度が低下する場合がある。そこで、高沸点分子を大気ガス導入部50からロス無く環境測定装置30に導入するために、大気吸入口からイオン化部38までのガス導入経路(導入管)を、内蔵ヒーターで加熱することが有効である。加熱温度の範囲は30〜80℃であるが、加熱温度は、バッテリー21の電力消費が大きくなり過ぎず、且つ、常温でガスの状態で存在する分子が導入管へ吸着しない60℃が最も好適である。
【0030】
100Vの外部電源を電源コネクター60に接続し、車内のバッテリー21と電源コネクター60とを相互に繋ぐ専用の電源コード(充電用ケーブル)42を介してバッテリー21を充電することが出来る。充電時の外部電源の電流範囲は5A〜30Aであるが、15Aが最も好適である。また、スイッチ1つで、バッテリー21から環境測定装置30への回路(電源供給モード)と、外部電源からバッテリー21への回路(充電モード)とを切り替えることが可能な機構を具備していることが望ましい。
また、風の変化が少なく且つ測定車の排気ガスの影響が無視出来る場合、走行しながら測定対象ガスの測定が可能となるので、測定対象ガス(分子)の強度が強くなる方向に測定車を移動させていくことにより有機分子の発生源も明らかに出来る。
【0031】
以上のように本実施形態では、バッテリーボックス20と環境測定装置30をワンボックスカー10に載せる。環境測定装置30は、一つのフレームにより車内に固定される。環境測定装置30は、バッテリー21又は外部電源からの電力の供給を受けて動作する。環境測定装置30では、レーザー発生部31で発生した紫外光35を真空紫外光発生部33で真空紫外光37に変換してイオン化部38に導入する。イオン化部38には大気ガス導入部50で取り込まれた測定対象ガスも導入する。イオン化部38に導入された測定対象ガスは真空紫外光37を照射することによりイオン化され、飛行時間型質量分析部34でイオン73の質量スペクトルを測定する。このように、大気中に含有される環境負荷ガスを、走行しながら高感度に測定出来るため、広範囲の環境負荷ガスを、オンサイト・リアルタイムに、ありのままの状態で測定することが可能となる。また、通常のGC/MS装置等のガス分析装置を、測定箇所まで輸送して、オンサイト・リアルタイム測定するのと比べて、輸送費がガソリン代程度で済むため、低コストで環境負荷ガスの測定ができる。また、測定箇所までの移動時間も、装置の梱包、移動、設置等の作業が不要なため、圧倒的に短縮される。以上のように、本実施形態では、自走により低コストで測定場所へ迅速に移動でき、外部電源が無い場所や走行しながらでも、環境負荷ガスを高感度に検出することができる。
【実施例】
【0032】
以下では、車載型環境負荷ガス検出装置による、オンサイト・リアルタイム測定の実施例を示すが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
<バッテリー駆動>
本実施例では、大気中に含まれるベンゼン、トルエン、キシレンの濃度を、化学工場の周辺の電源の供給がない場所で、バッテリー駆動により測定した。本実施例の車載型環境負荷ガス検出装置は、図1に開示の如く構成される。前述した最適な方法で、大気ガス導入部50の大気吸引口から連続的に大気を導入し、測定を行った。図8は、化学工場の周辺の1箇所の測定箇所で測定した、ベンゼン、トルエン、キシレンの濃度と測定開始からの経過時間との関係を示す図である。図8に示す通り、この測定箇所では、ベンゼン、トルエン、キシレンの濃度が短時間で変動していることを確認できた。また、バッテリー駆動により連続的に3時間以上の測定が可能であった。
【0034】
(実施例2)
<測定感度(検知可能濃度)>
実施例1の装置及び方法により、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクロロベンゼンの10ppb標準ガスを測定し、いずれのガスについてもS/N=3以上で検出できることを確認した。また、ベンゼン、トルエン、キシレンの場合には、S/N=3且つ2ppb以下の検出が可能であった。
【0035】
(実施例3)
<走行時の測定感度>
実施例1の装置を用い、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクロロベンゼンの10ppb標準ガスからの配管を、大気ガス導入部50の大気吸引口に接続し、車両を時速10kmで1時間走行させながらそれらのガスを測定した。その結果、いずれの物質も走行中の検出感度は非走行時と同じ一定値であり、走行による光学系の誤差は生じないことが分かった。
以上の様に、本実施形態の車載型環境負荷ガス検出装置及び測定方法を用いれば、電源の供給がない箇所や走行しながらでも、大気中の有機分子成分を、高感度で、同時且つリアルタイムに測定することが可能である。
【0036】
(比較例1)
真空紫外発生部33、イオン化部38、及び飛行時間型質量分析部34を、それぞれ別のフレームに固定し、それ以外は実施例3と同じ方法で走行しながらの測定を行った。その結果、走行開始から1分後には光学系に狂いが生じ、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクロロベンゼンの信号が観測出来なくなった。
【0037】
(実施例4)
<走行時の測定>
本実施例では、走行しながら化学工場の周辺の環境負荷ガスのモニタリングを行った。モニターしたのは、ベンゼン、トルエン、キシレンである。図9は、化学工場の周辺を時速10kmで5分間走行しながら測定した、ベンゼン、トルエン、キシレンの濃度と測定開始からの経過時間との関係を示す図である。図9に示すように、走行しながらでも光学系のズレなく、3種類の分子の発生状況を測定できた。
【0038】
尚、以上説明した本発明の実施形態及び実施例は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 ワンボックスカー(測定車)
20 バッテリーボックス
21 バッテリー
22 インバーター
23 バッテリーチャージャー
24 ブレーカー
25 支え板
30 環境測定装置
31 レーザー発生部
32 ミラー
33 真空紫外光発生部
34 飛行時間型質量分析部
35 紫外光
36 Xeガス
37 真空紫外光
38 イオン化部
41〜43 電源コード
50 大気ガス導入部
60 電源コネクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中の環境負荷ガスをリアルタイムに測定する車載型環境負荷ガス測定装置であって、
大気を導入する導入機構と、
前記環境負荷ガスの成分分子の質量数を測定する環境測定装置と、
前記導入機構と前記環境測定装置とに電力を供給するバッテリーと、
少なくとも前記環境測定装置を車内で固定する1つのフレームと、を含み、
前記測定装置は、真空紫外光を発生する真空紫外光発生部と、前記真空紫外光発生部から発生した真空紫外光を前記環境負荷ガスに照射することにより、当該環境負荷ガスの成分分子をイオン化するイオン化部と、前記イオン化した分子の質量数を測定する飛行時間型質量分析部と、を有することを特徴とする車載型環境負荷ガス測定装置。
【請求項2】
大気中の分子の吸着を防ぐために前記導入機構を加熱する加熱機構を更に有し、
前記導入機構は、大気吸入口から大気が流入され、流入された大気をピンホールから排出して前記イオン化部に導入する導入管と、前記導入管から前記イオン化部に大気を吸引するポンプと、を有することを特徴とする請求項1に記載の車載型環境負荷ガス測定装置。
【請求項3】
前記ピンホールの口径が10μm〜20μmであることを特徴とする請求項2に記載の車載型環境負荷ガス測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車載型環境負荷ガス測定装置を用いた環境負荷ガス測定方法であって、
前記導入機構から前記イオン化部に大気を導入する工程と、
前記真空紫外光を発生する工程と、
前記大気中の環境負荷ガスに前記真空紫外光を照射することにより、当該環境負荷ガスの成分分子を一括してイオン化する工程と、
前記飛行時間型質量分析部により前記該環境負荷ガスの成分分子の質量数を測定する工程と、を有することを特徴とする環境負荷ガス測定方法。
【請求項5】
請求項2に記載の車載型環境負荷ガス測定装置を用いた環境負荷ガス測定方法であって、
前記加熱機構により前記導入管を加熱して前記導入管への分子の吸着を防ぎつつ当該大気を前記導入管に吸入する工程と、
前記導入管に吸引された大気を、前記ピンホールを通して連続的に前記イオン化部に導入する工程と、
前記真空紫外光を発生する工程と、
前記大気中の環境負荷ガスに前記真空紫外光を照射することにより、当該環境負荷ガスの成分分子を一括してイオン化する工程と、
前記飛行時間型質量分析部により前記該環境負荷ガスの成分分子の質量数を測定する工程と、を有することを特徴とする環境負荷ガス測定方法。
【請求項6】
車で走行しながら大気中の環境負荷ガスをリアルタイムに測定することを特徴とする請求項4又は5に記載の環境負荷ガス測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−252893(P2011−252893A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128832(P2010−128832)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】