説明

車載用レーダ装置

【課題】車両中心軸と走査中心軸との軸ズレ補正処理に要する演算による通常の検出処理への影響を低減し、軸ズレ補正処理を高精度に実行可能な車載用レーダ装置を得る。
【解決手段】車両とターゲットとの距離、ターゲットに対する車両の相対速度、並びにターゲットの位置および方向の少なくとも1つをターゲット情報として検出する車載用レーダ装置1であって、車両の後進状態を検出する車両後進検出部11と、車両の後進距離を検出する後進距離検出部12と、車両の後進時に、車両の旋回情報および後進距離に基づいて、車両の実旋回角度を取得する旋回角度取得部13と、車両の後進時に、ターゲット情報に基づいて、車両の推定旋回角度を算出する旋回角度推定部14と、車両の後進時に、実旋回角度と推定旋回角度との差に基づいて、車両の車両中心軸と車載用レーダ装置1の走査中心軸との軸ズレを補正する軸ズレ補正処理部16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載され、電磁波を送受信してターゲットまでの距離等を検出する車載用レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される車載用レーダ装置は、自車両(例えば、自動車)の周辺を監視するために用いられる。車載用レーダ装置は、電磁波を自車両の周辺に放射し、ターゲットで反射した電磁波を受信して、受信した電磁波に基づいて、自車両とターゲットとの距離、ターゲットに対する自車両の相対速度、またはターゲットの位置もしくは方向を検出している。
【0003】
また、車載用レーダ装置が用いられるアプリケーションとしては、オートクルーズ制御を実現する自動速度制御システムや、ターゲットとの衝突可能性を検出して運転者に警告を促すとともに、衝突回避不可能と判断した場合には、車両に乗っている人を守るように制御するといったプリクラッシュセーフティシステムが既に知られている。
【0004】
これらの用途に用いられる車載用レーダ装置は、自車両の前方に存在するターゲットの位置および方向を検出する場合、一般的にステアリング舵角が零となる直進走行時における自車両の進行方向を基準としている。そのため、自車両の進行方向である車両中心軸と、車載用レーダ装置の走査中心軸とを互いに一致させる必要がある。
【0005】
しかしながら、車載用レーダ装置の車体組み付け誤差や経年変化等によって、自車両の進行方向である車両中心軸と車載用レーダ装置の走査中心軸との間に不一致(軸ズレ)が発生すると、車載用レーダ装置がターゲットの位置および方向を誤って検出し、車載用レーダ装置のアプリケーションを誤動作させる恐れがあるという問題があった。
【0006】
そこで、上記の問題を解決するために、走行する自車両の前方に存在する障害物(ターゲット)を検出する障害物検出手段による先行車両の検知状態に基づいて、自車両の直進状態を判定する直進状態判定手段と、直進状態判定手段により自車両が直進状態にあると判定された場合において、自車両の進行方向に対する障害物検出手段による検出方向の偏差に基づいて、検出角度補正を行う補正手段とを備えた障害物検知装置(車載用レーダ装置)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、車両用障害物検出装置(車載用レーダ装置)によって検出された障害物(ターゲット)までの距離および角度に基づいて、自車両に対する障害物の相対速度を算出し、この相対速度から障害物が移動物体であるか停止物体であるかを判断する物体認識手段と、物体認識手段により算出された複数の異なる静止物体の相対移動ベクトルの大きさおよび方向が同じである場合に、自車両が直進走行状態であると判定する直進判定手段と、自車両が直進走行状態である場合に、相対移動ベクトルが車両用障害物検出装置の照射中心軸となす角を車両進行軸の偏向量として算出する偏向量算出手段と、偏向量に基づいて、車両用障害物検出装置で検出された障害物の角度を補正する角度補正手段とを備えた車両用障害物検出装置の中心軸偏向量補正装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、自車両や先行車が道路の中心を走行しておらず、かつ走行中の道路が曲っている場合であっても、正確な環境認識ができるように、自車両から先行車までの距離および方向を検出する距離・方向検出手段(車載用レーダ装置)と、自車両に設置されたカメラで得られた画像から、先行車の道路上の横方向位置を検出する先行車横方向位置検出手段と、同じくカメラ画像から、自車両の道路上の横方向位置を検出する自車横方向位置検出手段と、同じくカメラ画像から道路曲率を検出する道路曲率検出手段と、先行車と自車両との位置関係および道路曲率からレーダ中心軸方向を推定する中心軸方向推定手段と、中心軸の方向を補正する中心軸補正手段とを備えたレーダ中心軸自動補正装置が提案されています(例えば、特許文献3)。
【0009】
すなわち、特許文献1および2では、先行車両の検知状態に基づいて自車両の直進状態を判定し、自車両の進行方向(車両進行軸)に対する障害物検出手段による検出方向(照射中心軸)の偏差を用いて、検出角度の補正が実行されている。つまり、自車両の進行方向である車両中心軸と車載用レーダ装置の走査中心軸との軸ズレ補正処理は、自車両の直進走行時に実行される。
【0010】
また、特許文献3では、自車両に設置されたカメラで得られた画像から、先行車の道路上の横方向位置を検出することにより、自車両がカーブを走行している場合においても、レーダ中心軸の自動補正を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−290398号公報
【特許文献2】特許第4038944号公報
【特許文献3】特開平9−218265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1〜3のものでは、自車両の進行方向である車両中心軸と車載用レーダ装置の走査中心軸との軸ズレ補正処理は、自車両の通常走行時において、自車両とターゲットとの距離、ターゲットに対する自車両の相対速度、またはターゲットの位置もしくは方向を検出するという通常の検出処理に加えて実行される。そのため、車載用レーダ装置の演算量が多くなって、処理負荷および処理時間が増大するという問題がある。
【0013】
また、車両中心軸と走査中心軸との軸ズレ補正処理を実行する際に、必ずしも、車載用レーダ装置が高精度に物体を検出することができる範囲内にターゲットが存在し、かつ軸ズレ補正処理に十分な時間を確保することができるとは限らないという問題もある。
【0014】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、車両中心軸と走査中心軸との軸ズレ補正処理に要する演算による通常の検出処理への影響を低減するとともに、軸ズレ補正処理を高精度に実行することができる車載用レーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係る車載用レーダ装置は、車両に搭載され、電磁波を車両の周辺に放射し、ターゲットで反射して受信された電磁波に基づいて、車両とターゲットとの距離、ターゲットに対する車両の相対速度、並びにターゲットの位置および方向の少なくとも1つをターゲット情報として検出する車載用レーダ装置であって、車両の後進状態を検出する車両後進検出部と、車両の後進距離を検出する後進距離検出部と、車両が後進状態にある場合に、車両の旋回情報および後進距離に基づいて、車両の実旋回角度を取得する旋回角度取得部と、車両が後進状態にある場合に、ターゲット情報に基づいて、車両の推定旋回角度を算出する旋回角度推定部と、車両が後進状態にある場合に、実旋回角度と推定旋回角度との差に基づいて、車両の車両中心軸と車載用レーダ装置の走査中心軸との軸ズレを補正する軸ズレ補正処理部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る車載用レーダ装置によれば、軸ズレ補正処理部は、車両が後進状態にある場合に、旋回角度取得部によって取得された車両の実旋回角度と、旋回角度推定部によって算出された車両の推定旋回角度との差に基づいて、車両の車両中心軸と車載用レーダ装置の走査中心軸との軸ズレを補正する。
これにより、従来は車両の直進走行時に実行されていた軸ズレ補正処理を、車両の後進・旋回時、例えば駐車場に車両を駐車させる際に実行することができる。そのため、通常の検出処理と軸ズレ補正処理とを区別して、車両中心軸と走査中心軸との軸ズレ補正処理に要する演算による通常の検出処理への影響を低減することができる。
また、車両の後進・旋回時に軸ズレ補正処理を実行するので、車載用レーダ装置が比較的高精度に物体を検出することができる範囲内にターゲットを確保することができる。さらに、車両の後進および旋回の動作は、一般的に低速で行われるので、軸ズレ補正処理に十分な時間を確保することができる。そのため、軸ズレ補正処理に適した走行環境を容易に確保することができ、軸ズレ補正処理を高精度に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の形態1に係る車載用レーダ装置を示すブロック構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る車載用レーダ装置が搭載された車両を、駐車場において、後進させて駐車させる様子を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る車載用レーダ装置の出力によるターゲット位置の遷移状態を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る車載用レーダ装置における、ターゲット検出距離と検出距離誤差との関係を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係る車載用レーダ装置のアンテナパターンを示す説明図である。
【図6】図5に示したアンテナパターンの角度0度付近を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明に係る車載用レーダ装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
【0019】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る車載用レーダ装置1を示すブロック構成図である。図1において、車載用レーダ装置1は、自車両に搭載され、電磁波を自車両の周辺に放射し、ターゲットで反射して受信された電磁波に基づいて、自車両とターゲットとの距離、ターゲットに対する自車両の相対速度、並びにターゲットの位置および方向の少なくとも1つをターゲット情報として検出する。
【0020】
車載用レーダ装置1は、車両後進検出部11、後進距離検出部12、旋回角度取得部13、旋回角度推定部14、記録部15および軸ズレ補正処理部16を備えている。ここで、車両後進検出部11、後進距離検出部12、旋回角度取得部13、旋回角度推定部14、記録部15および軸ズレ補正処理部16は、CPU(Central Processing Unit)とプログラムを格納したメモリとを有するマイクロプロセッサ(図示せず)で構成されている。
【0021】
車両後進検出部11は、自車両の後進状態を検出する。具体的には、車両後進検出部11は、例えば、車載ネットワーク等を介して、自車両のシフトレバーのポジションがリアに切り替わったことを、シフトレバーECUからのシフトレバーのポジション情報として検出した場合に、自車両の後進状態を判定する。なお、車両後進検出部11は、自車両に設けられた車輪速センサの逆転を検出した場合に、または車載用レーダ装置1で検出されたターゲット情報に基づいて、自車両の後進状態を判定してもよい。
【0022】
後進距離検出部12は、自車両の後進距離を検出する。具体的には、後進距離検出部12は、例えば、オドメータの出力、車速と観測時間との積算値、または車輪速センサによって得られる自車両の車輪の回転速度の時間積分値等に基づいて、自車両の後進距離を算出する。
【0023】
旋回角度取得部13は、自車両が後進状態にある場合に、自車両の旋回情報および後進距離検出部12で検出された自車両の後進距離に基づいて、ある観測期間における自車両の実旋回角度を取得する。ここで、自車両の旋回情報とは、例えば、自車両に設けられたハンドル角度センサ、ヨーレイトセンサ、Gセンサ、GPS、トー角センサ等からの出力を指している。
【0024】
具体的には、旋回角度取得部13は、車両後進検出部11で自車両の後進状態が検出された場合に取得開始し、取得開始から時間t,t,・・・,tにおける自車両の旋回角度θ(t),θ(t),・・・,θ(t)を取得して記録部15に記録する。また、旋回角度取得部13は、これら旋回角度を時間tからtまで積算し、総旋回角度(実旋回角度)θVTotalを算出して記録部15に記録する。総旋回角度θVTotalは、次式で表される。
【0025】
θVTotal=θ(t)+θ(t)+・・・+θ(t
【0026】
旋回角度推定部14は、自車両が後進状態にある場合に、車載用レーダ装置1で検出されたターゲット情報に基づいて、自車両の推定旋回角度を算出する。具体的には、旋回角度推定部14は、車載用レーダ装置1が検出した少なくとも1つ以上のターゲットのうち、自車両旋回状態に応じて検出結果が相対移動するターゲットを停止物として捉える。
【0027】
また、旋回角度推定部14は、その停止物の位置情報を、旋回角度取得部13と同様に時間tからtまで記録部15に記録するとともに、検出した停止物(ターゲット)の位置情報から、遷移角度θt(n−n−1)を各々求めて積算した総遷移角度(推定旋回角度)θTotalを算出して記録部15に記録する。ここで、自車両旋回状態に応じて検出結果が相対移動するターゲットを用いるのは、停止したターゲットを用いるためである。
【0028】
以下、図2、3を参照しながら、旋回角度推定部14の動作について詳細に説明する。図2は、この発明の実施の形態1に係る車載用レーダ装置1が搭載された自車両2を、駐車場において、後進させて駐車させる様子を示す説明図である。また、図3は、この発明の実施の形態1に係る車載用レーダ装置1の出力によるターゲット位置の遷移状態を示す説明図である。
【0029】
図2において、車載用レーダ装置1の出力上、自車両2が駐車スペース3への駐車を開始してから車載用レーダ装置1により検出されるターゲット4は、図3に示されるように、時間t,t,t,・・・,tにおいて、距離y(t)および水平方向x(t)で遷移する。
【0030】
このとき、旋回角度推定部14は、時間t,t,t,・・・,tにおける距離y(t)および水平方向x(t)から、各々遷移角度θt(1−0),θt(2−1),・・・,θt(n−n−1)を次式のように算出する。
【0031】
【数1】

【0032】
また、旋回角度推定部14は、これら遷移角度を積算し、総遷移角度θTotalを算出して記録部15に記録する。総遷移角度θTotalは、次式で表される。
【0033】
θTotal=θt(1−0)+θt(2−1)+・・・+θt(n−n−1)
【0034】
なお、図3では、簡単のためにターゲットを1つとしたが、本来、駐車場では、自車両の周りには複数のターゲットが存在する。そのため、自車両の正面方向に次々とターゲットが入れ替わるので、車載用レーダ装置1は、時間tからtまでの間で、設定する第1ターゲットを逐次切り替えて、それら遷移角度θt(n−n−1)を積算してもよい。
【0035】
記録部15は、旋回角度取得部13で取得された自車両の旋回角度θ(t),θ(t),・・・,θ(t)および算出された総旋回角度θVTotal、並びに旋回角度推定部14で算出された遷移角度θt(1−0),θt(2−1),・・・,θt(n−n−1)および算出された総遷移角度θTotal等、軸ズレ補正処理に必要なデータを記憶する。
【0036】
軸ズレ補正処理部16は、車両が後進状態にある場合に、実旋回角度(総旋回角度θVTotal)と推定旋回角度(総遷移角度θTotal)との差に基づいて、自車両の進行方向である車両中心軸と車載用レーダ装置1の走査中心軸との軸ズレを補正する。
【0037】
具体的には、軸ズレ補正処理部16は、車両後進検出部11によって自車両の後進状態が検出された場合に、旋回角度取得部13および旋回角度推定部14を開始し、総旋回角度θVTotalまたは総遷移角度θTotalの何れかが所定の角度またはそれ以上の角度になったところで、旋回角度取得部13および旋回角度推定部14の動作を終了する。
【0038】
続いて、軸ズレ補正処理部16は、取得した総旋回角度θVTotalと総遷移角度θTotalとを比較して、その差分に基づいて、車載用レーダ装置1の軸ズレ角度として、車載用レーダ装置1のターゲット検出位置をオフセットさせて補正する。
【0039】
この発明の効果が発揮されるシーンは、駐車場における自車両の駐車時を想定したもので、その利点は、車載用レーダ装置1が比較的高精度に物体を検出することができる範囲内にターゲットを確保することができること、車両の後進動作は、一般的に低速で行われるので、軸ズレ補正処理に要する時間を確保することができること、および車載用レーダ装置1本来の検出処理と軸ズレ補正処理とを区別することができることにある。
【0040】
ここで、車載用レーダ装置1のターゲット検出距離に対する検出距離誤差は、図4に示されるように、近距離で小さく、遠距離で大きくなる。すなわち、検出距離誤差は、ターゲット検出距離に依存する。そのため、ターゲットまでの距離によって軸ズレ補正精度も異なる。したがって、自車両の駐車時であれば、比較的検出精度の高い範囲内のターゲットを軸ズレ補正処理に用いることができるので、ターゲットの検出距離誤差も小さく、結果的に良好な条件で軸ズレ補正処理を実行することができる。
【0041】
なお、このとき、車載用レーダ装置1としては、長いターゲット検出距離を必要としないので、この間に車載用レーダ装置1の送信電波の電力を下げることにより、車載用レーダ装置1の消費電力を低減することができる。
【0042】
以上のように、実施の形態1によれば、軸ズレ補正処理部は、車両が後進状態にある場合に、旋回角度取得部によって取得された車両の実旋回角度と、旋回角度推定部によって算出された車両の推定旋回角度との差に基づいて、車両の車両中心軸と車載用レーダ装置の走査中心軸との軸ズレを補正する。
これにより、従来は車両の直進走行時に実行されていた軸ズレ補正処理を、車両の後進・旋回時、例えば駐車場に車両を駐車させる際に実行することができる。そのため、通常の検出処理と軸ズレ補正処理とを区別して、車両中心軸と走査中心軸との軸ズレ補正処理に要する演算による通常の検出処理への影響を低減することができる。
また、車両の後進・旋回時に軸ズレ補正処理を実行するので、車載用レーダ装置が比較的高精度に物体を検出することができる範囲内にターゲットを確保することができる。さらに、車両の後進および旋回の動作は、一般的に低速で行われるので、軸ズレ補正処理に十分な時間を確保することができる。そのため、軸ズレ補正処理に適した走行環境を容易に確保することができ、軸ズレ補正処理を高精度に実行することができる。
【0043】
なお、上記実施の形態1では、総旋回角度θVTotalまたは総遷移角度θTotalの何れかが任意の角度になったところで、軸ズレ補正処理部16が旋回角度取得部13および旋回角度推定部14の動作を終了すると説明した。しかしながら、これに限定されず、軸ズレ補正処理部16は、車載ネットワーク等を介して、シフトレバーECUからのシフトレバーのポジション情報を取得し、自車両のシフトレバーがパーキングおよびニュートラルの何れかに切り替えられたこと、サイドブレーキもしくはフットブレーキが掛けられたこと、またはクラッチが踏み込まれたことを検出して、旋回角度取得部13および旋回角度推定部14の動作を終了してもよい。
【0044】
また、上記実施の形態1では、自車両が後進状態にある場合と説明したが、駐車スペース3(図2参照)に自車両が正面から駐車する場合であっても、自車両を前進させた後に車両方向を整えるために一旦後進することが多いことから、上記実施の形態1と同等の効果を期待することができる。
【0045】
実施の形態2.
図5は、この発明の実施の形態2に係る車載用レーダ装置1のアンテナパターンを示す説明図である。また、図6は、図5に示したアンテナパターンの角度0度付近を拡大して示す説明図である。
【0046】
上記実施の形態1では、旋回角度取得部13が、自車両に設けられたハンドル角度センサ、ヨーレイトセンサ、Gセンサ、GPS、トー角センサ等からの出力である自車両の旋回情報に基づいて、総旋回角度θVTotalを算出すると説明した。しかしながら、これに限定されず、自車両の旋回情報に代えて、車載用レーダ装置1の走査角度に対するアンテナパターンを既知情報として記録部15に記録しておき、旋回角度取得部13が、時間tからtまでの間に、車載用レーダ装置1が検出した少なくとも1つ以上のターゲットの遷移角度θt(n−n−1)と反射波レベルの相対利得の変化量ΔGとに基づいて、総旋回角度θVTotalを算出してもよい。
【0047】
車載用レーダ装置1のアンテナパターンは、図6に示されるように、アンテナ指向性によってレーダ正面方向(角度0度)で最大相対利得Gとなり、角度±θ特性を有するので、反射波レベルの相対利得の変化量ΔGに基づいて、ターゲットに対して自車両の旋回角度を検出することができる。
【0048】
これにより、上記実施の形態1における総旋回角度θVTotalを算出することができるので、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、ハンドル角度センサ、ヨーレイトセンサ、Gセンサ、GPS、トー角センサ等、他の車両センサの精度有意差に左右されず、車載用レーダ装置1の性能のみで完結して軸ズレ補正処理を実行することができる。
【0049】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3に係る車載用レーダ装置1は、実施の形態1、2の車載用レーダ装置1に加えて、レーダの走査範囲を変更するレーダ走査範囲変更手段をさらに備えている。
【0050】
具体的には、レーダ走査範囲変更手段は、例えば電磁波を送信または受信するための複数の素子アンテナからなるアレーアンテナであって、デジタルビームフォーミング(DBF)によって、信号処理上でアンテナパターンを広げたり狭めたりといった調整を行うことができる。
【0051】
ここで、レーダ走査範囲変更手段は、軸ズレ補正処理部16が軸ズレ補正処理を実行している間に、DBFによりアンテナパターンを広げたり狭めたりすることによって、車載用レーダ装置1のレーダの走査範囲を変更する。このとき、車載用レーダ装置1は、軸ズレ補正処理部16が軸ズレ補正処理を実行している間は、自車両衝突等の危険度を決定する閾値を引き下げて、運転者への警報レベルを引き上げてもよい。
【0052】
車載用レーダ装置1の検出性能は、ターゲットからの反射波レベル(S/N比)に依存して決定される。一方、車載用レーダ装置1のアンテナパターンは、図5からも明らかなように、車載用レーダ装置1の走査中心からの角度(絶対値)が大きくなるにつれて利得が低下する。
【0053】
したがって、ターゲットが自車両から同一距離にある場合であっても、自車両の正面から脇に存在するターゲットほどS/N比が低いので、このようなターゲットほど自車両衝突等の危険度を検出することが困難となる。
【0054】
そこで、この問題を解決するために、軸ズレ補正処理部16が軸ズレ補正処理を実行している間に、車載用レーダ装置1の自車両衝突等の危険度を決定する閾値を引き下げ、運転者への警報レベルを引き上げる構成とすることにより、自車両の正面から脇に存在するターゲットの検出性能を改善することができる。
【0055】
このことは、特に、駐車場のような、自車両の正面よりもむしろ脇からのターゲットとの衝突危険性を運転者に警報する必要がある場合に有効となる。
これにより、自車両の駐車時等、周囲に接触または衝突の可能性が高いターゲットが存在する場合においても、走行環境に合わせて運転者への警告を促すことができる。
【0056】
実施の形態4.
上記実施の形態1、2では、軸ズレ補正処理部16が、車両後進検出部11によって自車両の後進状態が検出された場合に、総旋回角度θVTotalと総遷移角度θTotalとの差に基づいて、軸ズレ補正処理を実行すると説明した。
【0057】
しかしながら、車両後進検出部11によって自車両の後進状態が検出された場合に、この検出結果に基づいて、フェール判定、キャリブレーションまたは汚れ検知といった2次的機能の処理が併せて実行されてもよい。
【0058】
具体的には、フェール判定は、車載用レーダ装置1の経年劣化等により、車載用レーダ装置1の検出性能が低下したことを判定する。また、キャリブレーションは、車載用レーダ装置1の経年劣化や温度特性により、車載用レーダ装置1のターゲット検出性能が低下することを補正し、レーダ特性を良好な状態に保つ。また、汚れ検知は、車載用レーダ装置1の正面方向、例えばレドームやレーダを格納する部位等に付着した汚れによる検出性能の低下を知らせる。
【0059】
これにより、車載用レーダ装置1が実行している通常の検出処理と2次的機能の処理とを区別することができるので、車載用レーダ装置1が通常の検出処理を実行している場合に、2次的機能が実施されることによる処理負荷および処理時間の増大を抑制することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 車載用レーダ装置、2 自車両、3 駐車スペース、4 ターゲット、11 車両後進検出部、12 後進距離検出部、13 旋回角度取得部、14 旋回角度推定部、15 記録部、16 軸ズレ補正処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、電磁波を前記車両の周辺に放射し、ターゲットで反射して受信された電磁波に基づいて、前記車両と前記ターゲットとの距離、前記ターゲットに対する前記車両の相対速度、並びに前記ターゲットの位置および方向の少なくとも1つをターゲット情報として検出する車載用レーダ装置であって、
前記車両の後進状態を検出する車両後進検出部と、
前記車両の後進距離を検出する後進距離検出部と、
前記車両が前記後進状態にある場合に、前記車両の旋回情報および前記後進距離に基づいて、前記車両の実旋回角度を取得する旋回角度取得部と、
前記車両が前記後進状態にある場合に、前記ターゲット情報に基づいて、前記車両の推定旋回角度を算出する旋回角度推定部と、
前記車両が前記後進状態にある場合に、前記実旋回角度と前記推定旋回角度との差に基づいて、前記車両の車両中心軸と前記車載用レーダ装置の走査中心軸との軸ズレを補正する軸ズレ補正処理部と、
を備えたことを特徴とする車載用レーダ装置。
【請求項2】
前記旋回角度取得部は、時間t,t,・・・,tにおける自車両の旋回角度θ(t),θ(t),・・・,θ(t)を取得し、前記旋回角度を時間tからtまで積算して前記実旋回角度θVTotalを算出し、
前記旋回角度推定部は、前記車載用レーダ装置が検出した少なくとも1つ以上のターゲットのうち、自車両旋回状態に応じて検出結果が相対移動するターゲットを停止物として捉え、前記停止物の位置情報から、時間tからtまでの遷移角度θt(n−n−1)を各々求めて積算した前記推定旋回角度θTotalを算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の車載用レーダ装置。
【請求項3】
前記車載用レーダ装置の走査角度に対するアンテナパターンをあらかじめ記録する記録手段をさらに備え、
前記旋回角度取得部は、前記車両の旋回情報に代えて、前記車載用レーダ装置が検出した少なくとも1つ以上のターゲットから到来する反射波レベルの変化量に基づいて、前記総旋回角度を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の車載用レーダ装置。
【請求項4】
前記車載用レーダ装置のレーダの走査範囲を変更するレーダ走査範囲変更手段をさらに備え、
前記レーダ走査範囲変更手段は、前記軸ズレ補正処理部が軸ズレ補正処理を実行している間に前記走査範囲を変更する
ことを特徴とする請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の車載用レーダ装置。
【請求項5】
前記車載用レーダ装置は、前記軸ズレ補正処理部が軸ズレ補正処理を実行している間は、車両衝突の危険度を決定する閾値を引き下げて、運転者への警報レベルを引き上げることを特徴とする請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の車載用レーダ装置。
【請求項6】
前記車両後進検出部は、前記車両のシフトレバーのポジションがリアに切り替えられたことを検出した場合に、前記車両の後進状態を検出することを特徴とする請求項1から請求項5までの何れか1項に記載の車載用レーダ装置。
【請求項7】
前記車両後進検出部は、前記車両に設けられた車輪速センサの逆転を検出した場合に、前記車両の後進状態を検出することを特徴とする請求項1から請求項5までの何れか1項に記載の車載用レーダ装置。
【請求項8】
前記車両後進検出部は、前記ターゲット情報に基づいて、前記車両の後進状態を検出することを特徴とする請求項1から請求項5までの何れか1項に記載の車載用レーダ装置。
【請求項9】
前記車載用レーダ装置は、前記車両が前記後進状態にある場合に、送信電波の電力を通常時よりも低下させることを特徴とする請求項1から請求項8までの何れか1項に記載の車載用レーダ装置。
【請求項10】
前記軸ズレ補正処理部は、前記実旋回角度または前記推定旋回角度が所定の角度またはそれ以上の角度になった場合に、前記旋回角度取得部および前記旋回角度推定部の動作を終了することを特徴とする請求項1から請求項9までの何れか1項に記載の車載用レーダ装置。
【請求項11】
前記軸ズレ補正処理部は、前記車両のシフトレバーがパーキングおよびニュートラルの何れかに切り替えられたこと、サイドブレーキもしくはフットブレーキが掛けられたこと、またはクラッチが踏み込まれたことを検出した場合に、前記旋回角度取得部および前記旋回角度推定部の動作を終了することを特徴とする請求項1から請求項9までの何れか1項に記載の車載用レーダ装置。
【請求項12】
前記車載用レーダ装置は、前記車両が前記後進状態にある場合に、前記車載用レーダ装置の検出性能が低下したことを判定するフェール判定を実行することを特徴とする請求項1から請求項11までの何れか1項に記載の車載用レーダ装置。
【請求項13】
前記車載用レーダ装置は、前記車両が前記後進状態にある場合に、前記車載用レーダ装置のターゲット検出性能が低下することを補正し、レーダ特性を良好な状態に保つキャリブレーションを実行することを特徴とする請求項1から請求項12までの何れか1項に記載の車載用レーダ装置。
【請求項14】
前記車載用レーダ装置は、前記車両が前記後進状態にある場合に、前記車載用レーダ装置の正面方向に付着した汚れによる検出性能の低下を知らせる汚れ検知を実行することを特徴とする請求項1から請求項13までの何れか1項に記載の車載用レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−154630(P2012−154630A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11028(P2011−11028)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】