説明

車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物

【課題】 ポルフィリンの特性を活かした光機能性材料として有用な物質を提供する。
【解決手段】 ポルフィリンが三次元的に広がったデンドリマー構造から成る化合物、例えば下記の式で表わされる車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物による。下記式中、nは1〜10の整数(好ましくは1〜3の整数)、Xは例えばエステル結合、Zは例えばベンジルエーテル基、Yは例えば水素原子、Mは例えば亜鉛を表わす。この化合物は、可視光領域の光吸収能がきわめて大きく有機溶媒にも優れた溶解性を示す。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光機能性物質として有用な新規の化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界の植物や光合成細菌は太陽光子を捕集し、そのエネルギーを化学エネルギー変換や物質生産に効率よく利用されている。最近、自然界の光捕集アンテナ系を有機色素分子で模倣・構築し、太陽光をエネルギー源とする人工光合成の実現が注目されている。とくに、太陽光全体のエネルギーの約7割を占める可視光の有効利用は持続可能なエネルギー源の開拓と関連して、近年基礎・応用の両面から関心が集まりつつである。
【0003】
光機能性分子を設計し光機能性材料を創製するには、通常では密度の極めて低い太陽光子を効率よく捕捉するために、できるだけ数多くの色素ユニットを分子内に集積化して大きな光吸収断面積を有するようにしなければならない。一方、代表的な有機色素分子であるポルフィリンはπ−共役電子系をもつ大環状有機化合物であり、可視光領域において極大吸収を持つため、太陽光をエネルギー源とする機能性材料の開発に非常に都合の良いモチーフである。さらに、ポルフィリンとその誘導体は光捕集だけでなく、光エネルギー移動や光誘起電子移動、触媒作用等多彩な機能を示す。
【0004】
これまでに、ポルフィリン単一分子とその機能の検討が主になされてきたが、ポルフィリン同士間の相互作用や2分子反応による活性体の失活のため、ポルフィリンの特性を十分に発揮する光機能性材料を得ることができなかった。最近、ポルフィリンを高分子鎖に導入することが試みされている。ポリマー主鎖または側鎖にポルフィリンを導入してポルフィリンの集積化を試みるものである〔Eberspacher, T. A., Collman, J/P.; Chidsey, C.E.D.; Donohue, D.L;
Van Ryswyk, H.; Langmuir, 2003: 19(9);
3814-3821(非特許文献1)、Zhang, Z.; Hou, S.; Zhu, Z.; Liu, Z.; Langmuir: 2000:
16(2); 537-540(非特許文献2)〕。しかし、通常の高分子ではポリマー鎖が絡み合いやすく、色素分子を整列することや空間配置を制御することが困難である。また、ポルフィリンをモノマーユニットそのものとして使用した場合、でき上がったポリマー鎖は硬直な構造のゆえに、分子間の相互作用が格段に強くなり、その溶解性が乏しいばかりか、ポリマー鎖の成長さえ難しくなり、一分子あたりの色素分子の数が非常に限られてしまう欠点が残されている。したがって、ポリマーを利用するこれらの手法も、光捕集や光導電性などにおいて優れた光機能性材料を得るのに充分なものではない。
【非特許文献1】Eberspacher, T. A., Collman, J/P.; Chidsey, C.E.D.; Donohue, D.L;Van Ryswyk, H.; Langmuir, 2003: 19(9); 3814-3821
【非特許文献2】Zhang, Z.; Hou, S.; Zhu, Z.; Liu, Z.; Langmuir: 2000: 16(2); 537-540
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ポルフィリンの特性を活かした光機能性材料として有用な物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、研究を重ねた結果、ポルフィリンが三次元的に広がったデンドリマー構造(樹枝状規則分子を有する高分子構造)から成る新規な化合物の合成に成功することにより、上記の目的を達したものである。
【0007】
かくして、本発明に従えば、下記の式1、式2または式3で表わされることを特徴とするマルチポルフィリンデンドリマー化合物が提供される。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
式1、式2および式3において、nは、1〜10の整数を表わす。Xは、エステル、エーテル、アミド、アルケン、ケトン、アミン、アルコキシ、ビニル、フェニル、チオルエーテル、スルフォン、リン酸、環状チオフィン、環状アミン、または、ペプチドから選ばれる結合を表わす。Zは水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコール鎖もしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、置換もしくは無置換のフェニル基、または、置換もしくは無置換のベンジルエーテル基から選ばれる官能基または原子団を表わす。Yは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコールもしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、または置換もしくは無置換のフェニル基から選ばれる官能基または原子団を表わす。Mは、水素原子、ケイ素原子、または亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウム、コバルト、金、錫、ルテニウム、ロジウムもしくは希土類金属から選ばれる金属原子を表わす。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、可視光領域の光吸収能がきわめて大きく、通常の有機溶媒に優れた溶解性を示すので、各種の光機能性材料として利用されるのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の化合物は、式1、式2または式3においてnが1〜10の整数を表わすような多数のポルフィリンユニットが三次元的に広がったデンドリマー構造から成るものであるが、実用的にはnが1〜3の整数となるような構造のものが好適である。
【0014】
式1、式2または式3において、Xは、ポルフィリンを含む構造単位とコアとなるヘキサフェニルベンゼン構造と結合する部位を表わし、有機化合物でよく知られたエステル、エーテル、アミド、アルケン、ケトン、アミン、アルコキシ、ビニル、フェニル、チオルエーテル、スルフォン、リン酸、環状チオフィン、環状アミン、または、ペプチドなどの各種の結合が適用可能であるが、合成の容易さから好ましいのは、エステル、エーテル、またはアミドから選ばれる結合であり、特に好ましいのはエステル結合である。
【0015】
本発明のマルチポルフィリンデンドリマーを表わす式1、式2または式3において、Zは、デンドリマー構造の外表面に位置するポルフィリンユニットにベンゼン環(フェニル基)を介して結合されている有機基を表わし、得られるマルチポルフィリンデンドリマー化合物の成膜性に寄与する。すなわち、Zとしては、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコール鎖もしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、置換もしくは無置換のフェニル基または、置換もしくは無置換のベンジルエーテル基から選ばれる官能基または原子団が可能であるが、実用上好適なものは、水素原子、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、または置換もしくは無置換のベンジルエーテル基であり、成膜性の点から特に好ましいのは置換もしくは無置換のベンジルエーテル基である。
【0016】
本発明のデンドリマー化合物を表わす式1、式2または式3において、Yは、ポルフィリンの光学的機能を損なわない有機基であり、水素原子、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコールもしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、または、置換もしくは無置換のフェニル基から選ばれる官能基または原子団が適用可能であるが、実用上好ましいのは水素原子またはハロゲン原子であり、特に好ましいのは水素原子(すなわち、無置換)である。
【0017】
本発明のマルチポルフィリンデンドリマー化合物を表わす式1、式2または式3におけるMとしては、ポルフィリンと軸配位子錯体を形成するものとして知られた水素原子、ケイ素原子、または亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウム、コバルト、金、錫、ルテニウム、ロジウムもしくは希土類金属から選ばれる金属原子が適用可能であるが、実用上好ましいのは、亜鉛、鉄、マンガンまたはコバルトであり、特に好ましいのは亜鉛である。
【0018】
式1、式2または式3で表わされる本発明のマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、既知の各種の反応を工夫することによって合成することができる。図1は、本発明のデンドリマー化合物を合成するための一般的な反応スキームを概示するものであり、また、図2および図3は、後の実施例に記述する本発明に従うデンドリマー化合物を例に合成スキームを更に詳細に示すものである。
【0019】
図1に示すように、本発明のマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、一般に、ポルフィリン誘導体からデンドロンの世代を増やす反応(1)(例えば、エステル化反応、アミド化反応、エーテル反応)、およびその後の脱保護反応(2)を繰り返すことにより、ポルフィリン環を含む構造ユニットを合成した後、該構造ユニットをコアユニットであるヘキサ(4−置換フェニル)ベンゼンとのカップリング反応(例えば、エステル反応、アミド反応、エーテル反応)に供することにより合成することができる。なお、図1中、Aはカルボン酸、ベンジルブロマイド、エチニールなどの反応基を表わし、Bはエステル、ベンジルアルコール、三重結合などの保護した官能基を表わし、Cは水酸基、ハロゲンなどの反応基を表わす。また、図1では、図を複雑にしないために、式1の一連の化合物の合成法について示していないが、世代を増やす反応(1)においてポルフィリン誘導体を下記の化合物と反応させた後、式2または式3の化合物の場合と以下同様の反応工程を経て式1の化合物を合成することができる。
【0020】
【化4】

【0021】
本発明のマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、可視の吸収能に優れ、例えば414nmにおけるモル吸光係数は10〜10−1cm−1の大きさに達し、しかもその吸光係数はポルフィリンユニットの数に増大して比例する。これは本発明の化合物は、多数のポルフィリンが車輪状を成して配列されている特異な構造を有しているためと推測される。すなわち、本発明のマルチポルフィリンデンドリマー化合物では、すべてのポルフィリンユニットがデンドリマー構造の外表面において言わば同じ化学・物理環境に配列されているので、従来の直鎖状ポルフィリンポリマーとは著しく異なり、分子間の会合を抑制してポルフィリン本来の性質を発揮させながら巨大な光吸収面積を呈するとともに、そのポルフィリンユニットの数によりその大きさを容易に制御することができるためと理解される。
【0022】
かくして、本発明は、車輪状マルチポルフィリンデンドリマーの構築を通じてポルフィリンの空間配置を制御することにより、巨大な可視光吸収断面積、優れた光捕集能、良好な溶解性など新しいタイプの光機能性材料の創製の手法を確立したものである。以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すため、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
マルチポルフィリンデンドリマー化合物の合成
図2および図3に示す反応スキームに従い、本発明に従う車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物として、6−PZn(図4)、12−PZn(図5)、18−PZn(図6)、24−PZn(図7)および36−PZn(図8)を合成した。なお、6−PZnは式1においてn=1、12−PZnは式2においてn=1、18−PZnは式3においてn=1、24−PZnは式2においてn=2、36−PZnは式3においてn=2に、それぞれ対応するデンドリマー化合物である。
1.試薬等
・反応はすべて乾燥アルゴン下で行った。
・溶剤類は無水のものはそのまま使用した。
クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、メタノール、ベンゼン、トルエン、酢酸亜鉛、水酸化カリウム、塩酸、酢酸、フッ化カリウム、炭酸カリウム、18−c−6および粉末亜鉛は(株)東京化成工業から供給されるものをそのまま使用した。
なお、明細書および図面において、Meはメチル基、Etはエチル基、Buはブチル基、Phはフェニル基、DCCはジシクロへキシルカルボジイミド、DPTSは4−ジメチルアミノピリジニウム−4−トルエンスルホン酸塩を表わすものである。
【0024】
2.測定装置と条件等
H−NMR スペクトル:JEOL社製EX500型NMR(500MHz)を使用し測定した。溶媒はCDClを用い、基準は残存するCHClの7.24ppmのシグナルとした。
・マススペクトル:Applied Biosystems 社製Voyager DE STR型MALDI−TOF/MSを使用した。
・紫外・可視吸収スペクトル:日本分光社製Ubest V−560型分光光度計を使用した。光路長1センチの四面透明石英セルを用いた。
・リサイクル分取型用高速液相クロマトグラフ:日本分析工業社製HPLC−980;カラム1H/2H/3Hの組み合わせで、THFを流出溶媒として使用した。
・ゲルカラムクロマトグラフ:Si−200(200μm)シリカゲルを用いた。
【0025】
<1−(Si)PH−COMeの合成>
アルゴン雰囲気下、3、5−(tert−ブチルジフェニルシロキシ)ベンズアルデヒド(14.27g、0.023mol)、p−ホルミル安息香酸メチル(3.81g、0.023mol)およびジピロールメタン(6.79g、0.046mol)のジクロロメタン混合溶液(4L)に撹拌しながら三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体(1.0mL)を加え、暗所下でさらに1日間撹拌した。反応系にパラークロラニール(17g、0.069mol)を加え、室温下で5時間撹拌し、減圧濃縮した後、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレンから塩化メチレン/ヘキサン(2/1))にかけ、紫色結晶として得られた。収量:7.0g。収率:30%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z1029.51(M)、(計算値M1029.38:C6660Siとして)。
【0026】
<1−PZn−COMeの合成>
18−c−6(0.39g、0.0014mol)、炭酸カリウム(0.43g、3.07mmol)およびフッ化カリウム(0.86g、0.015mol)の存在下、1−(Si)PH−COMe(0.76g、0.75mmol)と3,5−ジメトキシベンジルブロミド(0.88g、3.82mmol)のTHF(20mL)溶液をアルゴン下にて三3日間加熱還流した。反応溶液を濃縮乾固した後、塩化メチレン/水で洗浄、抽出し、有機層をシリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン)にかけた。得られたピンク色の固体を塩化メチレン(5mL)に溶かし、酢酸亜鉛(1.0g、0.0054mol)を加え、混合溶液を24時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し,酢酸エチル/水で洗浄、抽出し、有機層をシリカゲルカラム(塩化メチレンから塩化メチレン/メタノール(90/10;勾配1%メタノール))にかけ、赤色結晶として得られた。収量:0.58g。収率:85%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 916.27(M)、(計算値M916.30:C5242Znとして)。
UV−vis(THF、25℃):414、544、581nm。
【0027】
<1−PZn−COHの合成>
1−PZn−COMe(0.26g、0.284mmol)と水酸化カリウム(0.1g、0.0017mol)のTHF/水混合溶液(10mL/5mL)を60℃にて12時間加熱撹拌した。反応溶液を酢酸で中和し、酢酸エチル/水で洗浄、抽出し、有機層を減圧乾固した。粗生成物をTHF/ヘキサンから再沈し、赤色固体として得られた。収量:0.24g。収率:95%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 900.57(M)、(計算値M902.28:C5140Znとして)。
【0028】
<2−PZn−COCHCClの合成>
DPTS(73.0mg、5mL塩化メチレン)の存在下、1−PZn−COH(0.45g、0.5mmol)と3,5−ジヒドロキシ安息香酸トリクロロエチル(58mg、0.2mmol)のTHF(5mL)溶液を10分間撹拌した後、DCC(154mg、5mL塩化メチレン)を加え、さらに4日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:0.39g。収率:95%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 2053.26(M)、(計算値M2054.03:C11183Cl18Znとして)。
UV−vis(THF、25℃):414、544、582nm。
【0029】
<2−PZn−COHの合成>
2−PZn−COCHCCl(0.39g、0.19mmol)と粉末状亜鉛(0.26mg、3.92mmol)のTHF/酢酸混合溶液(5mL/5mL)を60℃にて6時間加熱撹拌した後、反応混合物を濾過し、亜鉛残査を除去した。ろ液をシリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をTHF/ヘキサンで再沈し、赤色固体として得られた。収量:0.25g。収率68%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 1920.26(M)、(計算値M1922.64:C1098218Znとして)。
【0030】
<4−PZn−COCHCClの合成>
DPTS(22.4mg、4mL塩化メチレン)の存在下、2−PZn−COH(0.25g、0.13mmol)と3,5−ジヒドロキシ安息香酸トリクロロエチル(16.8mg、0.06mmol、2mL THF)の混合溶液を10分間撹拌した後、DCC(46.3mg、4mL塩化メチレン)を加え、さらに3日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:0.26g。収率:94%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 4094.37(M)、(計算値M4094.76:C227167 Cl1638Znとして)。
UV−vis(THF、25℃):415、544、581nm。
【0031】
<4−PZn−COHの合成>
4−PZn−COCHCCl(0.22g、0.055mmol)と粉末状亜鉛(0.62mg、9.34mmol)のTHF/酢酸混合溶液(5mL/5mL)を60℃にて6時間加熱撹拌した後、反応混合物を濾過し、亜鉛残査を除去した。ろ液をシリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をTHF/ヘキサンで再沈し、赤色固体として得られた。収量:0.13g。収率58%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 3962.46(M)、(計算値M3963.37:C2251661638Znとして)。
【0032】
<6−PZnの合成>
DPTS(8.6mg、1mL塩化メチレン)とDCC(43.7mg、2mL塩化メチレン)の存在下、1−PZn−COH(75.5mg、0.09mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(7mg、2mL THF)の混合溶液を5日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:54.5mg。収率:88%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 5938(M+H)、(計算値M5936:C3482582448Znとして)。
UV−vis(THF、25℃):414、544、583nm。
【0033】
<12−PZnの合成>:DPTS(6.1mg、2mL塩化メチレン)とDCC(35mg、5mL塩化メチレン)の存在下、2−PZn−COH(37.7mg、0.019mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(6.9mg、10mL THF)の混合溶液を3日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:21.1mg。収率:89%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 12061(M+H)、(計算値M12058:C69651048108Zn12として)。
UV−vis(THF、25℃):414、545、583nm。
【0034】
<24−PZnの合成>
DPTS(2.86mg、0.94mL塩化メチレン)とDCC(6.05mg、0.85mL塩化メチレン)の存在下、4−PZn−COH(37.7mg、0.0196mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(6.9mg、1.97μmol、10mL THF)の混合溶液を4日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:21.1mg。収率:89%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 24293.09(M+K)、(計算値M24251.37:C1392101496228Zn24として)。
UV−vis(THF、25℃):414、545、583nm。
【0035】
<18−PZnの合成>
DPTS(10mg、2mL塩化メチレン)とDCC(28.5mg、2mL塩化メチレン)の存在下、3−PZn−COH(62.3mg、0.0221mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(1.519mg、2mL THF)の混合溶液を6日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:4.8mg。収率:11%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 17479(M)、(計算値M17459:C100273872156Zn18として)。
UV−vis(THF、25℃):414、545、583nm。
【0036】
<36−PZnの合成>
DPTS(9.8mg、1mL塩化メチレン)とDCC(14mg、2mL塩化メチレン)の存在下、6−PZn−COH(32.1mg、0.00556mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(0.89mg、2mL THF)の混合溶液を6日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:7.8mg。収率:39%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 35202(M+K)、(計算値M35105:C20041470144324Zn36として)。
UV−vis(THF、25℃):414、546、583nm。
【実施例2】
【0037】
マルチポルフィリンデンドリマー化合物の物性評価
実施例1で合成した車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物はいずれも通常の有機溶媒(例えば、クロロホルム、塩化メチレン、THFなど)に優れた溶解性を示した。また、外表面にポリベンジルエーテルデンドロンを持つため,成膜性にも優れていた。
次に、紫外・可視吸収スペクトルや蛍光発光スペクトルの測定から、これらのマルチポルフィリンデンドリマーはポルフィリンユニットの数が増大しても、吸収バンドの位置(図9)や蛍光バンドの位置(表1)がほとんど変わらないことが分かった。一方、これらの化合物はモル吸光係数がポルフィリンユニットの数に比例して増大し、可視光領域において巨大な光吸収断面積を有することが明らかである(表1)。すなわち、本発明の車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物は、多数のポルフィリンユニットを有するが、基底状態や光励起一重項状態において会合による分子間の相互作用がほとんど見られない。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に従う車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物ではすべてのポルフィリンユニットがデンドリマー構造の外表面に位置し、個々のポルフィリンにおいて外部からのアクセスが高い自由度を有しており、光誘起エネルギー移動や光誘起電子移動、触媒反応などにおいて非常に有利な構造となっている。
かくして、本発明のマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、センサ、オプトーキラルシグナリング剤、光触媒、金属ポルフィリン触媒、重合開始剤、光捕集剤、分子導線、金属ナノ微粒子鋳型、無機有機複合材料の鋳型、オプトナノデバイス、太陽電池材料等への各種の用途が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のデンドリマー化合物を合成するための一般的な反応スキームを示す。
【図2】実施例に記述する本発明のデンドリマー化合物24-PZnの合成スキームを示す。
【図3】実施例に記述する本発明のデンドリマー化合物を合成する最後の工程を示す。
【図4】本発明のデンドリマー化合物の1例である6−PZnの化学構造式を示す。
【図5】本発明のデンドリマー化合物の1例である12−PZnの化学構造式を示す。
【図6】本発明のデンドリマー化合物の1例である18−PZnの化学構造式を示す。
【図7】本発明のデンドリマー化合物の1例である24−PZnの化学構造式を示す。
【図8】本発明のデンドリマー化合物の1例である36−PZnの化学構造式を示す。
【図9】本発明のデンドリマー化合物の紫外・可視吸収スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式1、式2または式3で表わされることを特徴とするマルチポルフィリンデンドリマー化合物。
【化1】

【化2】

【化3】

(式1、式2および式3において、nは、1〜10の整数を表し、Xは、エステル、エーテル、アミド、アルケン、ケトン、アミン、アルコキシ、ビニル、フェニル、チオルエーテル、スルフォン、リン酸、環状チオフィン、環状アミン、または、ペプチドから選ばれる結合を表わし、Zは水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコール鎖もしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、置換もしくは無置換のフェニル基、または、置換もしくは無置換のベンジルエーテル基から選ばれる官能基または原子団を表わし、Yは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコールもしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、または置換もしくは無置換のフェニル基から選ばれる官能基または原子団を表わし、Mは、水素原子、ケイ素原子、または亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウム、コバルト、金、錫、ルテニウム、ロジウムもしくは希土類金属から選ばれる金属原子を表わす。)
【請求項2】
nが1〜3の整数を表わすことを特徴とする請求項1に記載のデンドリマー化合物。
【請求項3】
Xがエステル、エーテル、またはアミドから選ばれる結合を表わすことを特徴とする請求項1または2に記載のデンドリマー化合物。
【請求項4】
Zが水素原子、ハロゲン原子、または置換もしくは無置換のベンジルエーテル基を表わすことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のデンドリマー化合物。
【請求項5】
Yが水素原子、またはハロゲン原子を表わすことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のデンドリマー化合物。
【請求項6】
Mが亜鉛、鉄、マンガンまたはコバルトから選ばれる金属原子を表わすことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のデンドリマー化合物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−69915(P2006−69915A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252042(P2004−252042)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】