説明

車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法

【課題】外輪部材に対する旋削加工の旋削取代を小さくする製造法を取りながら素材使用量の減少を図りコスト低減を図るとともに、玉の肩乗上げ防止性能を確保する。
【解決手段】内輪部材10と外輪部材60との間に車内側及び車外側の複列の玉55、56が同等の配設ピッチ円上に転動可能に配設される。外輪部材60は、車内側列及び車外側列の複列の玉55、56に対応する車内側及び車外側の外輪軌道面70、71が形成される。車内側軌道肩部72の肩エッジ部73の内径寸法Bは、車外側軌道肩部75の肩エッジ部76の内径寸法Aよりも大きく設定される。車外側肩エッジ部76と車内側肩エッジ部73とを繋ぐ中心孔65は、車外側から車内側に向けて徐々に大径に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用転がり軸受の製造方法は、例えば、特許文献1に開示されている。
これにおいては、図6に示すように、外方部材202が丸棒材から所定の旋削取代を残した状態で鍛造加工により形成され、この鍛造工程で、複列の外側転走面202a、202aの肩部217、217が、複列の外側転走面202a、202aとなるべき部分の軸方向中央部に向って漸次縮径するテーパ状に形成される。そして、両テーパ部の略中間に円板部218が設けられると共に、この円板部218が打ち抜き加工によって削除され、その後、旋削加工により所定の寸法に形成される。
そして、旋削加工された製品としての外方部材(外輪部材)202も、複列の外側転走面202a、202aの肩部217、217から軸方向中央部に向って漸次縮径するテーパ状に形成されている。
このため、特許文献1の発明によれば、鍛造工程により形成される外方部材202の形状と、旋削工程により形成される製品としての外方部材202の形状との差異が小さくなるので、旋削工程おける外方部材202に対する旋削加工の旋削取代が小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−45699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種、内方部材(内輪部材に相当する)と、外方部材202(外輪部材に相当する)との間に、車内側及び車外側の複列の玉が同等の配設ピッチ円上に転動可能に配設された車輪用転がり軸受装置においては、玉が外輪軌道肩部の肩エッジを乗り上げないようにする、いわゆる「玉の肩乗上げ防止性能」を確保することが必要とされる。この玉の肩乗上げ防止性能を確保するためには、過去の使用実績から、外側転走面202a(図6の右側に位置する車外側外輪軌道面)の円弧の中心0’を通る鉛直線L1’と、肩部217の肩エッジ部P’と円弧の中心0’とを結ぶ線L2’とがなす角度θ’が、70度〜85度の範囲に設定することが要求されている。
【0005】
特許文献1の発明では、外方部材に対する旋削加工の旋削取代が小さくなるだけであり、車外側列の玉と車内側列の玉に要求される肩乗上げ防止性能の違いを考慮した素材使用量の減少を図りコスト低減を図る設計はなされていない。
【0006】
而して、本発明が解決しようとする課題は、車輪用転がり軸受の外輪部材の対する旋削加工の旋削取代を小さくする製造法を取りながら素材使用量の減少を図りコスト低減を図るとともに、玉の肩乗上げ防止性能を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法は、内輪部材と外輪部材との間に車内側及び車外側の複列の玉が同等の配設ピッチ円上に転動可能に配設される車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法であって、後工程の旋削工程での旋削取代を有する外輪部材の鍛造品形状に鍛造で形成する鍛造工程と、該鍛造工程で形成された外輪部材の鍛造品形状から旋削取代分を旋削して外輪部材の製品形状とする旋削工程とを少なくとも有し、前記鍛造工程では、前記外輪部材の鍛造品形状が、旋削後に車内側外輪軌道面となる箇所における旋削前の内径が、旋削後に車外側外輪軌道面の肩部となる箇所における旋削前の内径よりも大きい形状に鍛造されると共に、旋削後に車外側外輪軌道面の肩部となる箇所と旋削後に車内側外輪軌道面の肩部となる箇所とを繋ぐ中心孔の径が、車外側から車内側に向けて徐々に大きくなる形状に鍛造され、前記旋削工程では、前記外輪部材の鍛造品形状から外輪部材の製品形状に、車内側外輪軌道面の肩部の内径が車外側外輪軌道面の肩部の内径よりも大きくなるように旋削されると共に、車外側外輪軌道面の肩部と車内側外輪軌道面の肩部とを繋ぐ中心孔の径が、車外側から車内側に向けて徐々に大きくなるように旋削され、更に、車外側外輪軌道面の断面の形状である円弧の中心を通る鉛直線と、車外側外輪軌道面の肩エッジ部とを結ぶ線とがなす角度が70度から85度の範囲内に旋削されることを特徴とする。なお、「旋削取代」とは、精度を要する外輪部材の製品形状箇所を鍛造で形成する際に製品形状より大きく形成して旋削により精度良く形成するために必要とされる旋削加工代を言う。
【0008】
本発明の製造方法では、鍛造工程にて、鍛造により形成される外輪部材の鍛造品において、旋削後に車内側外輪軌道面の肩部となる箇所における旋削前の内径が、旋削後に車外側外輪軌道面の肩部となる箇所における旋削前の内径よりも大きくなるように、外輪部材の素材が鍛造される。
そして、本発明の製造方法では、旋削工程にて、旋削加工がなされた外輪部材において、車内側外輪軌道面の肩部の内径が車外側外輪軌道面の肩部の内径よりも大きくなるように、外輪部材の鍛造品が旋削される。
このため、外輪部材の鍛造品の形状と、旋削加工がなされた外輪部材の形状と、の差異が小さくなる。この結果、旋削加工の旋削取代が小さくなる。
【0009】
次に、本発明の製造方法の外輪部材の製品形状は、車外側列の玉と車内側列の玉に要求される肩乗上げ防止性能の違いを考慮して、車内側の外輪軌道面の軌道肩部の肩エッジ部の内径寸法が、車輪外側の外輪軌道面の軌道肩部の肩エッジ部の内径寸法よりも大きく設定され、前記車外側の肩エッジ部と前記車内側の肩エッジ部とを繋ぐ中心孔が、車外側から車内側に向けて徐々に大きくなる形状とされる。これにより、鍛造加工により形成される鍛造品形状も製品形状に旋削取代を加えた形状として形成される。このため、本発明の場合の鍛造品形状及び製品形状のいずれの場合も、車外側の肩エッジ部と車内側の肩エッジ部とを繋ぐ中心孔は、車外側から車内側に向けて徐々に大径に形成されるものであり、従来一般的な形状である車外側の肩エッジ部と車内側の肩エッジ部とを繋ぐ中心孔を円筒面に形成するものと比較して、車外側から車内側に向けて徐々に大径に形成した分だけ外輪部材の素材使用量の減少を図ることができる。そして、この素材使用量の減少に対応する材料費等のコスト低減を図ることができる。
【0010】
なお、本発明者が着目した、車外側列の玉と車内側列の玉に要求される肩乗上げ防止性能の違いについて説明すると、車両が旋回するときに発生するモーメント荷重が車外側列の玉に作用することにより、その車外側列の玉の接触角が、車両が旋回しないときの接触角よりも大きくなる。このため、車両が旋回するときは、車外側列の玉は車外側軌道肩部に肩乗り上げしやすい。このことから、前述の車外側外輪軌道面の円弧の中心を通る鉛直線と、車外側軌道肩部の肩エッジ部と円弧の中心とを結ぶ線とがなす角度も車外側列の肩エッジ部の角度を車内側列の肩エッジ部の角度より大きく設定するのが好ましいものである。逆の見方をすれば、車内側及び車外側の複列の玉が同等の配設ピッチ円上に配設される場合でも、前記肩エッジ部の角度を車外側列の角度より車内側列の角度を小さく設定することができて、車外側列と車内側の軌道肩部の肩エッジ部の内径寸法を異ならせて、車外側列より車内側の軌道肩部の肩エッジ部の内径寸法を小さく設定することが可能なものである。本発明者はこの点に着目して、本発明の製品形状とすることを着想したものである。
【0011】
また、本発明の外輪部材の製造方法によれば、前述の車外側外輪軌道面の円弧の中心を通る鉛直線と、車外側軌道肩部の肩エッジ部と円弧の中心とを結ぶ線とがなす角度θは、過去の使用実績から要求される70度〜85度の範囲で形成されるので、車外側列の玉の肩乗上げ防止性能を確保することができる。なお、「玉の肩乗上げ防止性能」とは、本明細書では、玉が外輪軌道肩部の肩エッジを乗り上げないことを意味する。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明の製造方法によれば、車輪用転がり軸受の外輪部材の対する旋削加工の旋削取代を小さくする製造法を取りながら素材使用量の減少を図りコスト低減を図るとともに、玉の肩乗上げ防止性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に係る車輪用転がり軸受装置を示す縦断面図である。
【図2】同じく外輪部材を示す縦断面図である。
【図3】同じく外輪部材に対応する外輪鍛造品を示す縦断面図である。
【図4】本発明の実施例2に係る外輪部材を示す縦断面図である。
【図5】同じく外輪部材に対応する外輪鍛造品を示す縦断面図である。
【図6】従来の外輪部材を示す縦断面図ある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例1を図1〜図3にしたがって説明する。図1〜図2は本発明の製造方法により制作される最終製品形状の車輪用軸受装置の一例を示すものであり、図1は全体を示し、図2は外輪部材の1/2断面を拡大して示す。
図1に示すように、車輪用軸受装置(車輪用ハブユニットと呼ばれることもある)は、
ハブホイールとしての内輪部材10と、この内輪部材10の軸部11外周面に環状空間を保って配設された外輪部材60と、これら内外輪の両部材10、60の間に同等の配設ピッチ円上に転動可能に配設された車内側列及び車外側列の複列の玉55、56とを備え、複列のアンギュラ玉軸受を構成している。
【0016】
内輪部材10は、軸部11と、軸部11の一端部外周面に形成されたフランジ部20とを一体に有する。
また、この実施例1において、内輪部材10の軸部11は、フランジ部20側が大径で先端側が小径に形成された段軸状に形成されている。また、内輪部材10の軸部11の大径部12の外周面には車外側内輪軌道面51が形成されている。
また、軸部11の小径部13の外周面には内輪体45が嵌め込まれ、軸部11の先端部が径方向外方へかしめられてかしめ部14が形成されることによって、小径部13の外周面に内輪体45が固定される。この内輪体45の外周面には車内側内輪軌道面50が形成されている。
【0017】
また、内輪部材10のフランジ部20の外側面(車幅方向外側面)の中心部には、軸部11よりも大径の嵌合軸部30が形成され、この嵌合軸部30には、フランジ部20側にブレーキロータ用嵌合部が形成され、先端側にブレーキロータ用嵌合部よりも若干小径の車輪用嵌合部が形成される。
また、内輪部材10のフランジ部20には、ブレーキロータを間に挟んで車輪を締め付け固定するハブボルト25が圧入固定されている。
【0018】
外輪部材60は、内輪部材10の軸部11の外周面に環状空間を保って配設される。
この外輪部材60の内周面には、内輪部材10の車内側及び車外側の内輪軌道面50、51に対応する車内側及び車外側の外輪軌道面70、71が軸方向へ所定間隔を保って形成されている。
そして、内輪部材10の車内側及び車外側の内輪軌道面50、51と、外輪部材60の車内側及び車外側の外輪軌道面70、71との間には、車内側列及び車外側列の複列の玉55、56が保持器57、58によって保持された状態で転動可能に配設されている。
また、外輪部材60の外周面には、車体側部材、例えば、車両の懸架装置(図示しない)に支持されたナックル、又はキャリアの取付面にボルトによって締結される固定フランジ61が一体に形成されている。
【0019】
車両が旋回するときに発生するモーメント荷重が車外側列の玉56に作用することにより、車両が旋回するときの車外側列の玉56の接触角が、車両が旋回しないときの車外側列の玉56の接触角よりも大きくなる。このため、車両が旋回するとき、車外側列の玉56は車外側軌道肩部75に肩乗上げしやすくなる。この玉が外輪軌道肩部の肩エッジに乗上がるのを防止することができる性能を「肩乗上げ防止性能」と称する。
このようなことを考慮して、車外側列の玉56の肩乗上げ防止性能を確保するため、図2に示すように、外輪部材60の車外側外輪軌道面71の円弧の中心0と通る鉛直線L1と、車外側軌道肩部75の肩エッジ部76と円弧の中心0とを結ぶ線L2とがなす角度θを、70度〜85度の範囲に設定されている。
【0020】
また、外輪部材60の素材使用量すなわち重量を削減するために、車内側外輪軌道面70の車内側軌道肩部72の肩エッジ部73の内径寸法Bは、車外側外輪軌道面71の車外側軌道肩部75の肩エッジ部76の内径寸法Aよりも大きく設定されている。そして、車外側軌道肩部75の肩エッジ部76と、車内側軌道肩部72の肩エッジ部73とを繋ぐ中心孔65は、車外側から車内側に向けて徐々に大径に形成されている。
なお、この実施例1においては、車外側軌道肩部75の肩エッジ部76と、車内側軌道肩部72の肩エッジ部73とを繋ぐ中心孔65は、車外側から車内側に向けて徐々に大径に形成されるテーパ孔に形成されている。
【0021】
この実施例1に係る車輪用転がり軸受装置は上述したように構成される。
したがって、車外側外輪軌道面71の円弧の中心0と通る鉛直線L1と、車外側軌道肩部75の肩エッジ部76と円弧の中心0とを結ぶ線L2とがなす角度θを、70度〜85度の範囲に設定することによって、車外側列の玉56の肩乗上げ防止性能を確保することができる。
そして、車外側軌道肩部75の肩エッジ部76と車内側軌道肩部72の肩エッジ部73とを繋ぐ中心孔65が、車外側から車内側に向けて徐々に大径に形成されていることにより、中心孔65が車外側の肩エッジ部76の内径Aの大きさで円筒面に形成される場合に比べて、中心孔65が車外側から車内側に向けて徐々に大径に形成された分だけ素材使用量すなわち重量を削減することができて、材料費のコスト低減を図ることができると共に、装置全体としての重量軽減を図ることができる。
【0022】
また、車外側軌道肩部75の肩エッジ部76と、車内側軌道肩部72の肩エッジ部73とを繋ぐ中心孔65が、テーパ孔に形成される場合には、旋削加工をストレート形状で行うことができて、中心孔65の旋削加工が容易となる。
【0023】
次に、前記実施例1に係る車輪用転がり軸受装置に用いられる外輪部材の製造方法を説明する。
実施例1の外輪部材の製造方法は、鍛造工程と、旋削工程と、熱処理工程と、研磨工程とを備える。なお、本実施例では、鍛造工程は第1工程としての鍛造加工と、第2工程としての打抜加工を含めたものとして説明する。第1工程の鍛造加工のみで所定の鍛造品形状に加工できる場合は、第2工程の打抜加工は省くことができる。
先ず、鍛造工程(鍛造工程の第1工程)において、熱間鍛造又は冷間鍛造によって丸棒材を鍛造加工し、外輪部材60に対応する形状の外輪鍛造品80を製作する。
図3に示すように、鍛造加工によって外輪部材60に対応する外輪鍛造品80を製作する際、外輪鍛造品80の両端部には、中間連結壁90を間に残して車内側凹部85と、車外側凹部87とがそれぞれ形成される。
また、車内側凹部85の内周壁面は、車内側外輪軌道面70の内周側に旋削取代70aを確保してテーパ面88(鍛造型の抜き勾配よりも大きい角度をもつテーパ面)に形成される。
また、車外側凹部87の内周壁面は、車外側外輪軌道面71の内周側に旋削取代71aを確保し、かつ鍛造型の抜き勾配をもつ円筒面に近い形状に形成される。
次に、打抜工程(鍛造工程の第2工程)において、外輪部材60の中心孔65の内周面に旋削取代82を確保して外輪鍛造品80の中間連結壁90をポンチによって打ち抜き加工する。
【0024】
その後、旋削工程において、車内側外輪軌道面70の旋削取代70aと、車外側外輪軌道面71の旋削取代71aと、中心孔65の旋削取代82と、その他の旋削取代84とをぞれぞれ旋削加工する。
次に、熱処理工程において、車内側及び車外側の外輪軌道面70、71を熱処理(焼き入れ処理)する。
最後に研磨加工おいて、車内側及び車外側の外輪軌道面70、71を研磨加工することで、外輪部材60が製作される。
【0025】
前記した各工程を経ることで製品となる外輪部材60を容易に製造することができる。
特に、鍛造工程において、外輪鍛造品80の車内側凹部85の内周壁面が、車内側外輪軌道面70の内周側に旋削取代70aを確保するテーパ面88に形成される。これによって、車内側凹部85の内周壁面が円筒面に形成される場合と比較すると、内周壁面の円筒面はテーパ面の最小径で形成されることからテーパ形状分だけ材料を少なくすることができて、外輪鍛造品80を材料歩留まりよく形成することができると共に、旋削取代、特に、車内側外輪軌道面70の旋削取代70aを小さく削減することができる。この結果、材料コストや旋削コストの低減を図ることができる。
【実施例2】
【0026】
次に、この発明の実施例2を図4と図5にしたがって説明する。
この実施例2においては、外輪部材160の車外側軌道肩部175の肩エッジ部176と、車内側軌道肩部172の肩エッジ部173とを繋ぐ中心孔165の形状を変更したものである。
すなわち、図4に示すように、外輪部材160の車外側軌道肩部175の肩エッジ部176と、車内側軌道肩部172の肩エッジ部173とを繋ぐ中心孔165は、車外側から車内側に向けて徐々に大径に形成されると共に、車外側軌道肩部175の肩エッジ部176近傍と、車内側軌道肩部172の肩エッジ部173近傍とがそれぞれ円筒面165a、165b(軸方向に0.3mm以上の筒長をもつ円筒面)に形成されている。
【0027】
また、車外側の円筒面165bと車内側の円筒面165aとを繋ぐ面は、一定のテーパ角度をもつテーパ孔165c又はテーパ角度が徐々に変化する湾曲テーパ面165d(図4の二点鎖線参照)に形成されている。
この実施例2のその他の構成は実施例1と同様にして構成される。
また、前記した外輪部材160は、実施例1で述べた外輪部材の製造方法と同様にして、鍛造工程(含む、打抜工程)と、旋削工程と、熱処理工程と、研磨工程との順を経て製造される。
【0028】
前記したように、この実施例2においては、図4に示すように、外輪部材160の車外側軌道肩部175の肩エッジ部176と、車内側軌道肩部172の肩エッジ部173とを繋ぐ中心孔165のうち、車外側軌道肩部175の肩エッジ部176近傍と、車内側軌道肩部172の肩エッジ部173近傍とがそれぞれ円筒面165a、165bに形成される。
このため、図5に示すように、打抜工程において、外輪鍛造品180の中間連結壁190を打ち抜き加工した後の、外輪部材160の中心孔165の内周面の旋削取代182を小さく削減することが可能となる。そして、外輪部材160の中心孔165の内周面の旋削取代182を小さくした分だけ旋削加工が容易となる。
【0029】
なお、この発明は前記実施例1及び2に限定されることなく、その他、種々の形態で実施することができるものである。
【符号の説明】
【0030】
10 内輪部材
50 車内側内輪軌道面
51 車外側内輪軌道面
55 車内側列の玉
56 車外側列の玉
60 外輪部材
65 中心孔
70 車内側外輪軌道面
71 車外側外輪軌道面
72 車内側軌道肩部
73 肩エッジ部
75 車外側軌道肩部
76 肩エッジ部
80 外輪鍛造品
85 車内側凹部
87 車外側凹部
90 中間連結壁




【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪部材と外輪部材との間に車内側及び車外側の複列の玉が同等の配設ピッチ円上に転動可能に配設される車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法であって、
後工程の旋削工程での旋削取代を有する外輪部材の鍛造品形状に鍛造で形成する鍛造工程と、該鍛造工程で形成された外輪部材の鍛造品形状から旋削取代分を旋削して外輪部材の製品形状とする旋削工程とを少なくとも有し、
前記鍛造工程では、前記外輪部材の鍛造品形状が、旋削後に車内側外輪軌道面となる箇所における旋削前の内径が、旋削後に車外側外輪軌道面の肩部となる箇所における旋削前の内径よりも大きい形状に鍛造されると共に、旋削後に車外側外輪軌道面の肩部となる箇所と旋削後に車内側外輪軌道面の肩部となる箇所とを繋ぐ中心孔の径が、車外側から車内側に向けて徐々に大きくなる形状に鍛造され、
前記旋削工程では、前記外輪部材の鍛造品形状から外輪部材の製品形状に、車内側外輪軌道面の肩部の内径が車外側外輪軌道面の肩部の内径よりも大きくなるように旋削されると共に、車外側外輪軌道面の肩部と車内側外輪軌道面の肩部とを繋ぐ中心孔の径が、車外側から車内側に向けて徐々に大きくなるように旋削され、更に、車外側外輪軌道面の断面の形状である円弧の中心を通る鉛直線と、車外側外輪軌道面の肩エッジ部とを結ぶ線とがなす角度が70度から85度の範囲内に旋削されることを特徴とする車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法であって、
前記鍛造工程として、
先ず、外輪部材の製品形状における軸方向両端部相当位置に、車内側凹部と車外側凹部とを中間連結壁を間に残して鍛造にて形成する第1工程を有し、該第1工程で鍛造形成される前記車内側凹部の内周壁面は、車内側外輪軌道面の内周側に旋削取代を確保し、かつ鍛造型の抜き勾配をもつ円筒面に近い形状に形成され、前記車外側凹部の内周壁面は、車外側外輪軌道面の内周面に旋削取代を確保してテーパ面に形成され、
前記第1工程後、製品形状の外輪部材の中心孔の内周面位置に旋削取代を確保して前記中間連結壁を打ち抜き加工して前記外輪部材の鍛造品形状とする第2工程とを有することを特徴とする車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法であって、
前記旋削工程における、車外側外輪軌道面の肩部と車内側外輪軌道面の肩部とを繋ぐ中心孔の径が車外側から車内側に向けて徐々に大きくなる旋削加工は、車外側から車内側に向けて徐々に大径に形成されるテーパ孔形状の旋削加工であることを特徴とする車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法であって、
前記旋削工程における、車外側外輪軌道面の肩部と車内側外輪軌道面の肩部とを繋ぐ中心孔の径が車外側から車内側に向けて徐々に大きくなる旋削加工は、前記車外側外輪軌道面の肩部の肩エッジ部近傍と、前記車内側外輪軌道面の肩部の肩エッジ部近傍とがそれぞれ円筒面に旋削加工され、該車外側の円筒面と車内側の円筒面とを繋ぐ面は、一定のテーパ角度をもつテーパ孔又はテーパ角度が徐々に変化する湾曲テーパ面に形成される旋削加工であることを特徴とする車輪用転がり軸受の外輪部材の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−87920(P2013−87920A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231535(P2011−231535)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】