説明

車輪用転がり軸受装置

【課題】歪みの発生を抑制しながらハブホイールのフランジの接触面に硬化層を良好に形成することができ、フレッティング摩耗や歪みによる異音発生を防止することができる車輪用転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】転がり軸受31が組み付けられるハブホイール20のフランジ22に接してブレーキロータ60が配置される。ブレーキロータ60に接するフランジ22の接触面24には、微小ショット材を高速で噴射して打撃するショットピーニング加工によって表面硬度が高められた硬化層23が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受が組み付けられるハブホイールのフランジに接してブレーキロータが配置される車輪用転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車輪用転がり軸受装置において、ハブホイールのフランジとブレーキロータとの相互の接触面でフレッティングが生じ、これによって、ハブホイールのフランジの接触面にフレッティング摩耗が発生する場合がある。
フランジの接触面のフレッティング摩耗が進行すると、スティックスリップを伴う振動(固着と滑りを繰り返す振動)により異音(ビビリ音)が発生することがある。
ハブホイールのフランジの接触面のフレッティング摩耗を防止するために、フランジの接触面に、高周波焼入れによる硬化層を形成した車輪用転がり軸受装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−36112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1に開示されたものにおいては、高周波誘導電流による急加熱後、冷却液を噴射して急冷する高周波焼入れによって、ハブホイールのフランジの接触面に硬化層を形成するものであるから、フランジに歪みが発生しやすい。そして、フランジに発生する歪みによって、スティックスリップを伴う振動による異音が発生することがある。
【0004】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、歪みの発生を抑制しながらハブホイールのフランジの接触面に硬化層を良好に形成することができ、フレッティング摩耗や歪みによる異音発生を防止することができる車輪用転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、この発明の請求項1に係る車輪用転がり軸受装置は、転がり軸受が組み付けられるハブホイールのフランジに接してブレーキロータが配置される車輪用転がり軸受装置であって、
前記ブレーキロータに接する前記フランジの接触面には、微小ショット材を高速で噴射して打撃するショットピーニング加工によって表面硬度が高められた硬化層が形成されていることを特徴とする。
【0006】
前記構成によると、ショットピーニング加工によって、ハブホイールのフランジに対する歪みの発生を抑制しながらフランジの接触面に、圧縮応力が付与され、かつ表面硬度が高められた硬化層を良好に形成することができる。このため、フレッティング摩耗や歪みによる異音発生を防止することができる。
【0007】
請求項2に係る車輪用転がり軸受装置は、請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置であって、
フランジの硬化層は、粒径が40〜200μmの微小ショット材を100m/秒以上の高速で噴射して打撃するショットピーニング加工によって形成されていることを特徴とする。
【0008】
前記構成によると、フランジの硬化層は、粒径が40〜200μmで噴射速度が100m/秒以上の微小ショット材の打撃によって、表面が瞬間的に発熱して溶融し非常に細かい金属結晶をなすため、表面硬度がより一層高められた硬化層を良好に形成することができ、異音の発生防止に効果が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、この発明を実施するための最良の形態を実施例にしたがって説明する。
【実施例】
【0010】
この発明の実施例1を図1と図2にしたがって説明する。
図1はこの発明の実施例1に係る車輪用転がり軸受装置としての車輪用ハブユニットを示す側断面図である。図2はハブホイールのフランジの接触面に形成された硬化層の表面の凹凸を拡大して示す説明図である。
図1に示すように、車輪用転がり軸受装置としての車輪用ハブユニットは、ハブホイール20と、転がり軸受としての複列のアンギュラ玉軸受31とを一体状に有してユニット化されている。
ハブホイール20は、筒軸状をなすハブ軸21と、ハブ軸21の一端部寄り外周面に形成されたフランジ22とを一体に有している。
【0011】
ハブ軸21の外周には複列のアンギュラ玉軸受31が組み付けられている。すなわち、ハブ軸21の外周に沿って設けられた両軌道面33、34に対し所定の隙間をもって外輪40が配置され、この外輪40の内周面に形成された両軌道面41、42と、ハブ軸21の両軌道面33、34との間に転動体としての複数個の玉51、52がそれぞれ組み込まれ、これら各複数個の玉51、52が保持器55、56によって保持されることでアンギュラ玉軸受31が構成されている。
なお、図1に示すように、この実施例1においては、ハブ軸21の外周面に設けられた両軌道面33、34のうち、ハブ軸21のフランジ22側に位置する軌道面33は、ハブ軸21の外周面が研削加工されることによって形成され、ハブ軸21の先端側の軌道面34は、ハブ軸21の先端寄り外周面に嵌込まれ、かつかしめ部27によって固定された内輪32の外周面に形成されている。
【0012】
また、ハブホイール20は、ハブ軸21の内孔にシャフト(例えば、ドライブシャフト)がスプライン嵌合されて挿通された後、シャフト先端の雄ねじ部にナットが締め付けられることで、トルク伝達可能に連結されるようになっている。
また、外輪40の外周面の軸方向中央部にはフランジ43が一体に形成され、車輪用ハブユニットは、フランジ43において、車体側部材、例えば、車両の懸架装置(図示しない)に支持されたナックル、又はキャリアの取付面にボルトによって連結される。
【0013】
ハブホイール20のフランジ22には、ブレーキロータ60を間に挟んで車輪(図示しない)を取り付けるための複数本のハブボルト25が所定ピッチで固定されている。
ブレーキロータ60に接するフランジ22の接触面24には、微小ショット材を高速で噴射して打撃するショットピーニング加工によって表面硬度が高められた硬化層23が形成されている。
この実施例1において、フランジ22の硬化層23は、粒径が40〜200μmの微小ショット材を100m/秒以上の高速で噴射して打撃するショットピーニング加工によって形成されている。
また、微小ショット材としては、玉状で粒径が略均一な二硫化モリブデンを用いることが好ましい。
【0014】
上述したように構成されるこの実施例1に係る車輪用転がり軸受装置としての車輪用ハブユニットにおいて、フランジ22の接触面24に形成された硬化層23は、ショットピーニング加工によって、圧縮応力が付与され、かつ表面硬度が高められている。
すなわち、ショットピーニング加工によって、フランジ22に対する歪みの発生を抑制しながら、表面硬度が高められた硬化層23を良好に形成することができ、フレッティング摩耗や歪みによる異音発生を防止することができる。
また、この実施例1においては、粒径が40〜200μmで噴射速度が100m/秒以上の微小ショット材の打撃によって、フランジ22の接触面24の表面が瞬間的に発熱して溶融し、非常に細かい金属結晶をなす硬化層23を形成することができる。このため、硬化層23の表面硬度をより一層高めることができ、異音の発生防止に効果が大きい。
【0015】
また、フランジ22の硬化層23の表面には微小ショット材の打撃によって、図2に示すように、無数の微小ディンプル24aによる非常に細かな凹凸(ミクロプール)が形成される。このため、フランジ22の硬化層23表面の無数の微小ディンプル24aに、例えば、二硫化モリブデンを主成分とする個体潤滑剤、四フッ化エチレン樹脂を主成分とする個体潤滑剤等やグリース等の潤滑剤を保持することができる。これによって、フレッティング摩耗を長期間にわたって抑制することができる。
【0016】
また、微小ショット材としては、球状で粒径が略均一な微小ショット材を用いることが望ましく、さらに、二硫化モリブデンよりなる微小ショット材を用いることが最適である。
二硫化モリブデンよりなる微小ショット材を用いることで、フランジ22の硬化層23表面に付着する二硫化モリブデンが固形潤滑剤として機能するため、フレッティング摩耗の低減効果が大きく、耐久性に優れたものとなる。
【0017】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではない。
例えば、前記実施例1においては、転がり軸受として、複列のアンギュラ玉軸受31が採用された場合を例示したが、複列の円すいころ軸受けを用いてもこの発明を実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施例1に係る車輪用転がり軸受装置としての車輪用ハブユニットを示す側断面図である。
【図2】同じくハブホイールのフランジの接触面に形成された硬化層の表面の凹凸を拡大してして示す説明図である。
【符号の説明】
【0019】
20 ハブホイール
21 ハブ軸
22 フランジ
23 硬化層
24 接触面
24a 微小ディンプル
25 ハブボルト
31 アンギュラ玉軸受(転がり軸受)
32 内輪
40 外輪
51、52 玉(転動体)
60 ブレーキロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受が組み付けられるハブホイールのフランジに接してブレーキロータが配置される車輪用転がり軸受装置であって、
前記ブレーキロータに接する前記フランジの接触面には、微小ショット材を高速で噴射して打撃するショットピーニング加工によって表面硬度が高められた硬化層が形成されていることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置であって、
フランジの硬化層は、粒径が40〜200μmの微小ショット材を100m/秒以上の高速で噴射して打撃するショットピーニング加工によって形成されていることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−56100(P2008−56100A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235614(P2006−235614)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】