説明

車輪用転がり軸受装置

【課題】シール部材に泥水が達して溜まることを抑制し、シール部材の早期摩耗を防止することができる車輪用転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】ハブフランジ13を有する内輪部材11と、外輪部材30と、内・外輪の両部材11、30の間に配設される転動体35、36と、内輪部材11の外周面と外輪部材30の内周面との間の環状空間に密封状に配設されるシール部材40と、外輪部材30の一端部外周面とハブフランジ13との間の隙間を覆ってシール部材40を保護する覆い部材50とを備える。覆い部材50は、外輪部材30の一端部外周面に嵌込まれる固定筒部51と、固定筒部51の先端から径方向外方へ延出された径方向張出部52と、径方向張出部52の先端からハブフランジに接近する位置まで突出された覆い部53とを備える。覆い部53の先端には、径方向内方へ曲げられた折返し部54が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車輪用転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪用転がり軸受装置において、例えば、図3に示すように、径方向外方へ延びるハブフランジ113を有する内輪部材111と、この内輪部材111の外周に配設される外輪部材130と、内・外輪の両部材111、130の間に転動可能に配設される転動体135、136と、内輪部材111のハブフランジ113が形成される近傍の外周面とこれに対向する外輪部材130の一端部内周面の間の環状空間に密封状に配設されるシール部材140と、外輪部材130の一端部外周面とハブフランジ113との間の隙間を覆ってシール部材140を保護する覆い部材150とを備えたものが知られている。
また、覆い部材150は、外輪部材130の一端部外周面に嵌込まれて固定される固定筒部151と、この固定筒部151の先端からハブフランジ113に向けて徐々に拡径されてテーパ状に形成されたテーパ筒部152と、このテーパ筒部152の先端からハブフランジ113に接近する位置まで突出された円筒状の覆い部153とを備えている。
なお、従来、特許文献1に開示されている転がり軸受に用いられる密封装置において、スリンガーおよびリップシールに囲まれる環状空間に含油シール(例えば、油を含ませたスポンジ)を配置し、含油シールに含まれる油と、浸入してくる泥水とを分離させることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−83981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図3に示す従来の車輪用転がり軸受装置においては、例えば、車両走行時に車輪が跳ね上げる泥水が、覆い部材150の覆い部153上部と、ハブフランジ113との間の隙間から流下して浸入すると、浸入した泥水のうち、一部の泥水は、ハブフランジ113に接した後、ハブフランジ113の回転による遠心力の作用を受けて外部へはね飛ばされる。
また、一部の泥水は、覆い部材150の覆い部153及びテーパ筒部152の内周面を伝って内部に流下することが想定される。
そして、泥水がシール部材140に達して溜まり、この泥水の泥成分によってシール部材140が早期に摩耗される恐れがある。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、シール部材に泥水が達して溜まることを抑制し、シール部材の早期摩耗を防止することができる車輪用転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係る車輪用転がり軸受装置は、径方向外方へ延びるハブフランジを有する内輪部材と、この内輪部材の外周に配設される外輪部材と、前記内・外輪の両部材の間に転動可能に配設される転動体と、前記内輪部材のハブフランジが形成される近傍の外周面とこれに対向する前記外輪部材の一端部内周面との間の環状空間に密封状に配設されるシール部材と、前記外輪部材の一端部外周面と前記ハブフランジとの間の隙間を覆って前記シール部材を保護する覆い部材とを備えた車輪用転がり軸受装置であって、
前記覆い部材は、前記外輪部材の一端部外周面に嵌込まれて固定される固定筒部と、
前記固定筒部の先端の少なくとも上半部から径方向外方へ延出された径方向張出部と、 前記径方向張出部の先端から前記ハブフランジに接近する位置まで突出された覆い部とを備え、
前記覆い部の先端には、径方向内方へ曲げられた折返し部が形成されていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によると、車両走行時に車輪が跳ね上げる泥水が覆い部材の覆い部上部と、ハブフランジとの間の隙間から流下して浸入すると、浸入した泥水のうち、一部の泥水は、ハブフランジに接した後、ハブフランジの回転による遠心力の作用を受けて外部へはね飛ばされる。
また、一部の泥水は、覆い部材の覆い部先端の折返し部を伝って流下する。すなわち、折返し部が水切り作用をなす。
そして、折返し部を伝って流下した泥水は、ハブフランジに接した後、ハブフランジの回転による遠心力の作用を受けて外部へはね飛ばされる。
このため、泥水がシール部材まで達することを抑制することができ、泥水の泥成分によってシール部材が早期に摩耗されることを防止することができる。
なお、請求項1において、固定筒部の先端の少なくとも上半部とは、車輪用転がり軸受装置が車体に装着された状態で、固定筒部の円周のうち、上側に位置する半円部のことを言う。
【0008】
請求項2に係る車輪用転がり軸受装置は、請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置であって、
覆い部材の径方向張出部と、覆い部と、折返し部とから構成された空間部には吸水性部材が配設されていることを特徴とする。
【0009】
前記構成によると、折返し部を伝って流下した泥水は、吸水性部材に吸着されるため、泥水がシール部材まで達することをより一層良好に抑制することができ、シール部材の早期摩耗の防止に効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施例1に係る車輪用転がり軸受装置を示す縦断面図である。
【図2】同じく車輪用転がり軸受装置の外輪部材の一端部外周面に覆い部材が取り付けられた状態を拡大して示す縦断面図である。
【図3】従来の車輪用転がり軸受装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0012】
図1に示すように、車輪用転がり軸受装置は、内輪部材11と、外輪部材30と、これら内輪部材11と外輪部材30との間に複列をなして転動可能に配設されかつ保持器37、38によって保持された複列の転動体(図1では玉)35、36と、シール部材40と、覆い部材50とを備えている。
内輪部材11(ハブホイールとも呼ばれることもある)は、ハブ軸14と、このハブ軸14の一端寄り外周面から径方向外方に延出されたハブフランジ13とを一体に備えている。
また、ハブフランジ13は、その基端部13aは厚肉に形成された段差状に形成され、基端部13aの内径部がアール面13bをもって内輪部材11の一方(ハブフランジ13に近い方)の内輪軌道面18の内輪肩部19に連続している。さらに、ハブフランジ13の段差部13cは、アール面又は湾曲面に形成されている。
また、ハブフランジ13には車輪を締め付けるための複数のハブボルト12が所定ピッチで配設されている。
【0013】
外輪部材30の外周面には固定フランジ31が一体に形成され、車輪用転がり軸受装置(車輪用ハブユニット)は、固定フランジ31において、車体側部材、例えば、車両の懸架装置(図示しない)に支持されたナックル、又はキャリアの取付面にボルトによって締め付けられる。
【0014】
図2に示すように、シール部材40は、内輪部材11の一方(ハブフランジ13に近い方)の内輪軌道面18の内輪肩部19と、この内輪肩部19の外周面に対向する外輪部材30の一端部内周面との間の環状空間に装着されてこの環状空間を密封する。
このシール部材40は、芯金41と弾性シール体46とを備える。芯金41は、外輪部材30の一端部内周面に圧入されて固定される筒状部42と、この筒状部42の一端から径方向内方へ曲げ加工された環状部43と、この環状部43の内径端から斜め内方へ曲げられたテーパ部44と、このテーパ部44の先端から径方向内方へ曲げられた内径端部45とを備えている。
弾性シール体46は、芯金41の一側面の環状部43と、テーパ部44と、内径端部45との外側面に接着されて一体状をなしている。
そして、弾性シール体46は、内輪部材11のハブフランジ13の基端部13aのアール面13bに摺接するリップ47と、内輪肩部19の外周面に摺接するリップ48、49とを備えている。
【0015】
図2に示すように、覆い部材50は、外輪部材30の一端部外周面とハブフランジ13との間の隙間を覆ってシール部材40を保護する。
覆い部材50は、外輪部材30の一端部外周面に嵌込まれて固定される円筒状の固定筒部51と、固定筒部51の先端(ハブフランジ13側に位置する端部)から径方向外方へ延出された径方向張出部52と、径方向張出部52の先端(外径端)からハブフランジ13の段差部13cに僅かな隙間を隔てて接近する位置まで突出された円筒状の覆い部53とを備えている。
そして、覆い部53の先端(ハブフランジ13側に位置する端部)には、径方向内方へ曲げられた円環状の折返し部54が形成されている。
【0016】
また、この実施例1において、覆い部材50の径方向張出部52と、覆い部53と、折返し部54とから構成された空間部Sにはスポンジゴム等の多孔質材よりなりかつ吸水性を有する吸水性部材60が配設されている。
また、空間部Sの容積を積極的に広くして多くの吸水性部材60を収納可能とすると共に、吸水性部材60の保持力を高めるために、図2に示すように、径方向張出部52は、その基端から先端に向けてハブフランジ13とは遠ざかる方向へ徐々に拡径されたテーパ状に形成されている。
【0017】
この実施例1に係る車輪用転がり軸受装置は上述したように構成される。
したがって、車両走行時に車輪が跳ね上げる泥水が、覆い部材50の覆い部53上部と、ハブフランジ13の段差部13c(アール面又は湾曲面)との間の隙間から流下して浸入すると、浸入した泥水のうち、一部の泥水は、ハブフランジ13の段差部13cに接した後、ハブフランジ13の回転による遠心力の作用を受けて外部へはね飛ばされる。すなわち、折返し部54が水切り作用をなす。
また、一部の泥水は、覆い部53先端の折返し部54を伝って内部に流下する。
そして、折返し部54を伝って流下した泥水は、ハブフランジ13の段差部13cに接した後、ハブフランジ13の回転による遠心力の作用を受けて外部へはね飛ばされる。
このため、泥水がシール部材40まで達することを抑制することができ、泥水の泥成分によってシール部材40が早期に摩耗されることを防止することができる。
【0018】
また、この実施例1において、覆い部材50の径方向張出部52と、覆い部53と、折返し部54とから構成された空間部Sにはスポンジゴム等の多孔質材よりなりかつ吸水性を有する吸水性部材60が配設されている。
これによって、仮に、覆い部材50の折返し部54の内径端54aを伝って泥水が浸入したとしても、この泥水は、吸水性部材60に吸着される。このため、泥水がシール部材40まで達することをより一層良好に抑制することができ、シール部材40の早期摩耗の防止に効果が大きい。
【0019】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、前記実施例1においては、覆い部材50の径方向張出部52は、テーパ円筒状に形成され、覆い部53は円筒状に形成され、折返し部54は円環状に形成される場合を例示したが、これに限定するものではない。
例えば、覆い部材50の径方向張出部52は、固定筒部51の先端の少なくとも上半部(車輪用転がり軸受装置が車体に装着された状態で、固定筒部51の円周のうち、上側に位置する半円部)から径方向外方へ延出されてもよい。
また、覆い部53においても、径方向張出部52の先端の少なくとも上半部からハブフランジ13に接近する位置まで半円筒状に形成されてもよい。
さらに、折返し部54においても、覆い部53の先端の少なくとも上半部から径方向内方へ曲げられた半円環状に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0020】
11 内輪部材
13 ハブフランジ
30 外輪部材
35、36 転動体
40 シール部材
50 覆い部材
51 固定筒部
52 径方向張出部
53 覆い部
54 折返し部
60 吸水性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向外方へ延びるハブフランジを有する内輪部材と、この内輪部材の外周に配設される外輪部材と、前記内・外輪の両部材の間に転動可能に配設される転動体と、前記内輪部材のハブフランジが形成される近傍の外周面とこれに対向する前記外輪部材の一端部内周面との間の環状空間に密封状に配設されるシール部材と、前記外輪部材の一端部外周面と前記ハブフランジとの間の隙間を覆って前記シール部材を保護する覆い部材とを備えた車輪用転がり軸受装置であって、
前記覆い部材は、前記外輪部材の一端部外周面に嵌込まれて固定される固定筒部と、
前記固定筒部の先端の少なくとも上半部から径方向外方へ延出された径方向張出部と、 前記径方向張出部の先端から前記ハブフランジに接近する位置まで突出された覆い部とを備え、
前記覆い部の先端には、径方向内方へ曲げられた折返し部が形成されていることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置であって、
覆い部材の径方向張出部と、覆い部と、折返し部とから構成された空間部には吸水性部材が配設されていることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−52770(P2013−52770A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192644(P2011−192644)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】