説明

車輪用軸受装置

【課題】雨水やダスト等の侵入とデフオイルの漏れを防止して封止効果を高め、長期間に亘って信頼性を確保した車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】デファレンシャルと連結する駆動軸D/Sを内部に挿通して車体の下面に支持された車軸管Hと、車輪取付フランジ6を一体に有するハブ輪1と、このハブ輪1と車軸管Hの開口部との間に嵌合された複列の転がり軸受からなる車輪用軸受2とを備えたセミフローティングタイプの車輪用軸受装置において、外方部材4の車体取付フランジ4bのインナー側の側面14とパイロット部15、および車輪用軸受2のインナー側の端面にデフオイルの漏洩を防止するための撥油処理膜16が形成され、この撥油処理膜16がフッ素系撥油剤を溶剤に溶かしたものを吹き付けあるいは浸漬により塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承する車輪用軸受装置、特に、駆動輪を複列の転がり軸受で支承する車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラック等のようにフレーム構造の車体を有する自動車では、駆動輪のアクスル構造として、従来フルフローティングタイプを採用するものが多い。また、最近の駆動輪の支持構造には、組立性の向上、軽量・コンパクト化等を狙って、複列の転がり軸受をユニット化した構造が多く採用されるようになっている。その従来構造の一例として、図6に示すようなセミフローティングタイプの車輪用軸受装置が知られている。
【0003】
この車輪用軸受装置は、軽量・コンパクト化を図ると共に、雨水やダスト等の侵入とデフオイルの漏れを防止したもので、ハブ輪51と複列の転がり軸受52とがユニット化して構成され、駆動軸D/Sに連結されている。複列の転がり軸受52は、内方部材53と外方部材54、および両部材53、54間に転動自在に収容された複列の円錐ころ55、55とを備えている。ハブ輪51は、外周の一端部に車輪WおよびブレーキロータBを取り付けるための車輪取付フランジ56を一体に有し、この車輪取付フランジ56から軸方向に延びる小径段部57が形成されている。また、内周には駆動軸D/Sがトルク伝達可能に内嵌されるようにセレーション58が形成されている。
【0004】
一方、複列の転がり軸受52は、内周に複列のテーパ状の外側転走面54a、54aが形成され、車軸管Hに固定される車体取付フランジ54bが外周に形成された外方部材54と、この外方部材54に内挿され、外周に前記複列の外側転走面54a、54aに対向するテーパ状の内側転走面60aが形成された一対の内輪60、60と、両転走面54a、60a間に転動自在に収容された複列の円錐ころ55、55とを有している。ハブ輪51の外周に形成された小径段部57には一対の内輪60、60が圧入され、小径段部57の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部59により、ハブ輪51に対して内輪60が軸方向へ抜けるのを防止している。そして、一対の内輪60、60の正面側端面が突き合された状態でセットされ、所謂背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受を構成している。
【0005】
ここで、ハブ輪51の開口部にキャップ61が圧入されている。このキャップ61は、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)をプレス加工にて断面略コの字形に形成された鋼板製の芯金61aと、この芯金61aの少なくとも嵌合部に加硫接着等により接合されたゴム等の弾性部材61bとからなる。そして、この弾性部材61bが嵌合面に弾性変形して入り込み、液密に内部を密封している。これにより、デフオイルの外部への流出と、外部から雨水やダスト等が駆動軸内に侵入してデフオイル内に混入するのを完全に防止することができると共に、車両運転時、ハブ輪51に繰返しモーメント荷重が負荷され弾性変形したとしても、このキャップ61がハブ輪51の弾性変形の影響を殆ど受けない(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−297944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
然しながら、このような従来の車輪用軸受装置では、ハブ輪51に装着されたキャップ61によってデフオイルの外部への流出と、外部から雨水やダスト等が駆動軸内に侵入してデフオイル内に混入するのを防止することができるが、繰返しモーメント荷重が負荷された場合、ハブ輪51の弾性変形の影響を受けないものの、キャップ61の弾性変形によって微動して微小すきまが発生したり、微動に伴う弾性部材61bの摩耗やデフオイルの表面張力によりキャップ61を越えて染み出す恐れがある。
【0008】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、雨水やダスト等の侵入とデフオイルの漏れを防止して封止効果を高め、長期間に亘って信頼性を確保した車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、デファレンシャルと連結する駆動軸を内部に挿通して車体の下面に支持された車軸管と、前記駆動軸に結合され、車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有するハブ輪と、このハブ輪と前記車軸管の開口部との間に嵌合され、前記車輪を回転自在に支承する車輪用軸受とを備え、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら一対の内輪と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と一対の内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記車輪用軸受の少なくとも前記車軸管と接触する部位とデフオイルに曝される部位の表面にデフオイルの漏洩を防止するための撥油処理膜が形成されている。
【0010】
このように、デファレンシャルと連結する駆動軸を内部に挿通して車体の下面に支持された車軸管と、車輪取付フランジを一体に有するハブ輪と、このハブ輪と車軸管の開口部との間に嵌合された複列の転がり軸受からなる車輪用軸受とを備えた車輪用軸受装置において、車輪用軸受の少なくとも車軸管と接触する部位とデフオイルに曝される部位の表面にデフオイルの漏洩を防止するための撥油処理膜が形成されているので、雨水等が車輪用軸受に流れ込むのと、デフオイルが外部や軸受内部に漏洩するのを効果的に防止することができる。
【0011】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記撥油処理膜がフッ素系撥油剤を溶剤に溶かしたものを吹き付けあるいは浸漬により塗布されていれば、軸受の組立完了後に形成することもでき、軸受精度に悪影響を及ぼすのを防止することができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明のように、前記撥油処理膜が金属メッキ皮膜の中にPTFE粒子を共析させた複合メッキであれば、撥油効果を備えると共に、低摩擦性で滑り性が良好となり、車輪用軸受と車軸管との接触面の摩耗を抑制することができる。
【0013】
また、請求項4に記載の発明のように、前記撥油処理膜の撥油剤と前記デフオイルとの接触角が50°以上に設定されていれば、撥油性を向上させることができる。
【0014】
また、請求項5に記載の発明のように、前記撥油処理膜の膜厚が5〜20μmの範囲に設定されていれば、嵌合すきまが小さくなって車両の補修時での作業性を低下させることなく、撥油処理としての機能を充分発揮することができる。
【0015】
また、請求項6に記載の発明のように、前記ハブ輪が、外周に軸方向に延びる小径段部が形成され、この小径段部に前記車輪用軸受の内輪が嵌合され、当該小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定されると共に、前記車輪用軸受の外方部材が、外周に前記車軸管に取り付けられるための車体取付フランジと、インナー側の端部に前記車軸管に内嵌されるパイロット部を一体に有し、前記駆動軸が中空に形成され、その外周に形成されたセレーションを介して前記ハブ輪と結合されたセミフローティングタイプの車輪用軸受装置であっても良い。
【0016】
また、請求項7に記載の発明のように、前記外方部材の車体取付フランジのインナー側の側面と前記パイロット部、および前記車輪用軸受のインナー側の端面に前記撥油処理膜が形成されていれば、雨水等が外方部材と車軸管との接触面に流れ込むのと、デフオイルが接触面から外部や軸受内部に漏洩するのを効果的に防止することができる。
【0017】
また、請求項8に記載の発明のように、前記ハブ輪の内径部にキャップが圧入され、このキャップが、断面略コの字形に形成された鋼板製の芯金と、この芯金の少なくとも嵌合部の一部に膨出された弾性部材とからなると共に、前記キャップおよびその嵌合部周辺に前記撥油処理膜が形成されていれば、弾性部材が嵌合面に密着し、液密に内部を密封することができ、デフオイルの外部への流出と、外部から雨水やダスト等が駆動軸内に侵入してデフオイル内に混入するのを防止することができる。
【0018】
また、請求項9に記載の発明のように、前記シールのうちインナー側のシールが、前記外方部材の端部外周に嵌合される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、当該外方部材の端面に密着する鍔部と、この鍔部から軸方向に延びる円筒部と、この円筒部から径方向内方に延び、断面略コの字状に形成された内径部とを備えた芯金と、この芯金の内径部に加硫接着により一体に接合され、前記車軸管の側壁に所定の軸方向シメシロを介して接触するサイドリップと前記内輪の外径に所定の径方向シメシロを介して摺接するラジアルリップとを備えたシール部材で構成されていれば、軸受部の径方向スペース、特に、シールの断面高さが充分に確保でき、シールの設計自由度を高めて密封性を向上させることができると共に、サイドリップがデフオイルの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が装置内に侵入するのを防止すると共に、ラジアルリップがデフオイルの軸受内部への浸入を防止することができる。
【0019】
また、請求項10に記載の発明のように、前記一対の内輪のうちインナー側の内輪の外径に大径部と小径部が形成され、前記大径部にパルサリングが嵌着され、このパルサリングが、強磁性体の鋼鈑からプレス加工により形成され、前記内輪の大径部に外嵌される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向外方に延びる鍔部と、この鍔部から軸方向に延びる円筒部とを備えた支持環と、この支持環の円筒部に加硫接着により一体に接合され、エラストマーに強磁性体粉を混入させ、周方向交互に磁極N、Sが所定のピッチとなるように着磁された磁気エンコーダとで構成されると共に、前記車軸管に垂下した状態で速度検出センサが装着され、前記シールの芯金が非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼鈑からプレス加工にて形成され、この芯金の円筒部に前記速度検出センサが近接または接触されて当該芯金を介して前記磁気エンコーダに所定の径方向すきまを介して対峙されていれば、電波信号が非磁性体からなる芯金を介して送信することができ、検出部にダストや磁性粉が噛み込むのを防止し、磁気エンコーダの損傷を防止して信頼性と検出精度を向上させることができる。
【0020】
好ましくは、請求項11に記載の発明のように、前記芯金の嵌合部にシールリップが加硫接着により一体に接合され、前記車軸管の内周面に接触されていれば、速度検出センサの検出部が密封され、外部から雨水やダスト等が侵入するのを確実に防止することができる。
【0021】
また、請求項12に記載の発明のように、前記速度検出センサの検出部および当該速度検出センサの装着部に前記撥油処理膜が形成されていれば、デフオイルの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が検出部に侵入するのを防止することができる。
【0022】
また、請求項13に記載の発明のように、前記シールのシール部材およびそのリップが接触する部位に前記撥油処理膜が形成されていれば、デフオイルの外部や軸受内部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が侵入するのを防止することができる。
【0023】
また、請求項14に記載の発明のように、前記ハブ輪の加締部と前記駆動軸との間に弾性接触された状態でシールリングが装着され、このシールリングおよびその周辺部に前記撥油処理膜が形成されていれば、セレーションを介してデフオイルが軸受内部に漏洩するのを防止することができる。
【0024】
また、請求項15に記載の発明のように、前記ハブ輪と駆動軸のセレーションに前記撥油処理膜が形成されていれば、セレーションを介してデフオイルが軸受内部に漏洩するのを防止することができる。
【0025】
また、請求項16に記載の発明のように、前記ハブ輪の肩部と前記内輪との当接部および前記ハブ輪の小径段部と前記内輪との嵌合部に前記撥油処理膜が形成されていれば、外部から雨水やダスト等が侵入するのを防止することができると共に、デフオイルが嵌合部に染み出してクリープが発生するのを防止することができる。
【0026】
また、請求項17に記載の発明のように、前記車体取付フランジにボルト孔が形成され、固定ボルトを介して前記車軸管に締結されると共に、前記ボルト孔および固定ボルトのうち少なくとも一方に前記撥油処理膜が形成されていれば、外部から雨水やダスト等の侵入と、デフオイルの外部への漏洩を防止することができる。
【0027】
また、請求項18に記載の発明のように、前記ハブ輪が前記駆動軸のアウター側の端部に突設されたフランジに固定ボルトを介して連結され、このハブ輪と前記車軸管の軸部との間に前記車輪用軸受が装着され、前記一対の内輪が、その正面側端部の内周に装着された連結環によって一体に結合されたフルフローティングタイプの車輪用軸受装置であっても良い。
【0028】
また、請求項19に記載の発明のように、前記車輪用軸受とハブ輪および車軸管との嵌合部に前記撥油処理膜が形成されていれば、外部から雨水やダスト等が侵入するのを防止することができると共に、デフオイルが嵌合部に染み出してクリープが発生するのを防止することができる。
【0029】
また、請求項20に記載の発明のように、前記車輪用軸受のアウター側の端面に前記撥油処理膜が形成されていれば、外部から雨水やダスト等の侵入と、デフオイルの外部や軸受内部への漏洩を確実に防止することができる。
【0030】
また、請求項21に記載の発明のように、前記ハブ輪と前記駆動軸のフランジとの当接面に前記撥油処理膜が形成されていれば、外部から雨水やダスト等の侵入と、デフオイルの外部や軸受内部への漏洩を確実に防止することができる。
【0031】
また、請求項22に記載の発明のように、前記車軸管の内径面と前記駆動軸の外径面に前記撥油処理膜が形成されていれば、デフオイルの外部や軸受内部への漏洩を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る車輪用軸受装置は、デファレンシャルと連結する駆動軸を内部に挿通して車体の下面に支持された車軸管と、前記駆動軸に結合され、車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有するハブ輪と、このハブ輪と前記車軸管の開口部との間に嵌合され、前記車輪を回転自在に支承する車輪用軸受とを備え、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら一対の内輪と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と一対の内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記車輪用軸受にデフオイルの漏洩を防止するための撥油処理膜が形成されているので、雨水等が車輪用軸受に流れ込むのと、デフオイルが外部や軸受内部に漏洩するのを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す足回り周辺の縦断面図である。
【図2】図1の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【図3】(a)は、本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す足回り周辺の縦断面図、(b)は、(a)の要部拡大図である。
【図4】本発明に係る車輪用軸受装置の第3の実施形態を示す足回り周辺の縦断面図である。
【図5】図4の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【図6】従来の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
デファレンシャルと連結する駆動軸を内部に挿通して車体の下面に支持された車軸管と、前記駆動軸にセレーションを介して結合され、車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪と、このハブ輪の小径段部と前記車軸管の開口部との間に嵌合され、前記車輪を回転自在に支承する車輪用軸受とを備え、この車輪用軸受が、外周に前記車軸管に取り付けられるための車体取付フランジと、インナー側の端部に前記車軸管に内嵌されるパイロット部を一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら一対の内輪と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と一対の内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、前記ハブ輪の小径段部に前記車輪用軸受の内輪が嵌合され、当該小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定されたセミフローティングタイプの車輪用軸受装置において、前記外方部材の車体取付フランジのインナー側の側面と前記パイロット部、および前記車輪用軸受のインナー側の端面にデフオイルの漏洩を防止するための撥油処理膜が形成され、この撥油処理膜がフッ素系撥油剤を溶剤に溶かしたものを吹き付けあるいは浸漬により塗布されている。
【実施例1】
【0035】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す足回り周辺の縦断面図、図2は、図1の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0036】
このセミフローティングタイプの車輪用軸受装置は、ハブ輪1と複列の転がり軸受2とがユニット化して構成され、駆動軸D/Sに連結されている。複列の転がり軸受2は、内方部材3と外方部材4、および両部材3、4間に転動自在に収容された複列の転動体(円錐ころ)5、5とを備えている。ここで、内方部材3は、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入された一対の内輪10、10とを指す。ハブ輪1は、アウター側の端部に車輪WおよびブレーキロータBを取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、外周にこの車輪取付フランジ6から軸方向に延びる円筒状の小径段部7と、内周にセレーション(またはスプライン)8が形成されている。そして、駆動軸D/Sがハブ輪1にセレーション8を介して嵌挿されハブ輪1と駆動軸D/Sがトルク伝達自在に、かつ着脱自在に結合されている。
【0037】
一方、複列の転がり軸受2は、図2に示すように、内周に複列のテーパ状の外側転走面4a、4aが一体に形成され、外周に車軸管Hに固定されるための車体取付フランジ4bが一体に形成された外方部材4と、この外方部材4に内挿され、外周に前記複列の外側転走面4a、4aに対向するテーパ状の内側転走面10aが形成された一対の内輪10、10と、両転走面4a、10a間に収容された複列の転動体5、5と、これら複列の転動体5、5を転動自在に保持する保持器11とを備えている。
【0038】
一対の内輪10、10には内側転走面10aの大径側に転動体5を案内するための大鍔10bと、小径側に転動体5の脱落を防止するための小鍔10cが形成されている。そして、一対の内輪10、10の正面側端面が突き合された状態でセットされ、所謂背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受を構成している。また、外方部材4と内輪10との間に形成される環状空間の開口部にはシール12、12が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。さらに、インナー側のシール12においては、ハブ輪1のセレーション8を通してデフオイルが軸受内部に浸入するのも防止している。
【0039】
ここで、ハブ輪1の小径段部7に一対の内輪10、10が所定のシメシロを介して圧入され、小径段部7の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部13により、所定の軸受予圧が付与された状態で、ハブ輪1に対して内輪10、10が軸方向に固定されている。本実施形態では、このような第2世代のセルフリテイン構造を採用することにより、従来のように内輪をナット等で強固に緊締して予圧量を管理する必要がないため、車両への組込性を簡便にすることができ、長期間その予圧量を維持することができると共に、部品点数を大幅に削減でき、組込性の向上と相俟って低コスト化と軽量・コンパクト化を達成することができる。
【0040】
ハブ輪1はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、複列の転がり軸受2が衝合される肩部1aから小径段部7に亙り高周波焼入れによって表面硬さを50〜64HRCの範囲に硬化処理されている(図中クロスハッチングにて示す)。なお、加締部13は、鍛造後の素材表面硬さ25HRC以下の未焼入れ部としている。これにより、耐久性が向上すると共に、加締部13を塑性変形する時の加工性が向上し、微小クラック等を防止してその品質の信頼性が向上する。
【0041】
また、外方部材4は、ハブ輪1と同様、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面4a、4aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。一方、内輪10および転動体5はSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで60〜64HRCの範囲で硬化処理されている。なお、ここでは、転動体5、5を円錐ころとした複列円錐ころ軸受を例示したが、これに限らず転動体にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受であっても良い。
【0042】
本実施形態では、ハブ輪1のアウター側端部の開口部にキャップ9が圧入されている。このキャップ9は、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)をプレス加工にて断面略コの字形に形成された鋼板製の芯金9aと、この芯金9aの少なくとも嵌合部に加硫接着により接合された合成ゴム等の弾性部材9bとからなる。そして、この弾性部材9bが嵌合面に弾性変形して入り込み、液密に内部を密封している。したがって、デフオイルの外部への流出と、外部から雨水やダスト等が駆動軸内に侵入してデフオイル内に混入するのを防止することができる。
【0043】
ここで、外方部材4の車軸管に取り付けられる端部周辺、すなわち、車体取付フランジ4bのインナー側の側面14とパイロット部15、セレーション8を通して流出してきたデフオイルに曝されるインナー側のシール12をはじめ、外方部材4と内輪10のインナー側の端面、そして、キャップ9と、このキャップ9の嵌合面およびその周辺部に撥油処理膜16が形成されている(図中、二点鎖線にて示す)。また、外方部材4が嵌合される車軸管Hのフランジ部17の内周面(図1参照)に、同様の撥油処理膜16が形成されている。これにより、雨水等が外方部材4と車軸管Hとの接触面に流れ込むのと、デフオイルが接触面から外部や軸受内部に漏洩するのを効果的に防止することができる。
【0044】
撥油処理の撥油剤として、フッ素系界面活性剤、フッ素系シランカップリング剤、フッ素系ポリマー等のフッ素系撥油剤が挙げられる。また、撥油処理は、撥油剤を溶剤に溶かしたものをスプレーや浸漬により塗布することによって行われる。この溶剤は揮発性のもの(撥油コーティング)だけでなく、塗料であっても良い(撥油塗料、機能塗装)。すなわち、外方部材4の場合、外側転走面4aの研削加工の直前、また、外方部材4の全加工終了後に洗浄し、撥油コーティング剤や塗料を吹き付けあるいは浸漬し、その後、乾燥させることによって行われる。この際、外方部材4の両端部をゴム等の弾性部材で挟み込みマスキングした状態で吹き付けあるいは浸漬することにより、外方部材4の内部に撥油コーティング剤等が侵入せず、軸受精度や軸受内部に封入したグリースに悪影響を及ぼすことはない。なお、前述したように、マスキングすることにより、軸受の組立完了後に、撥油コーティング剤や塗料を吹き付けあるいは浸漬することができる。
【0045】
さらに、ニッケルメッキ金属皮膜の中にPTFE粒子を共析させる複合メッキを施しても良い。なお、ニッケルメッキ以外にも、例えば、ジンロイメッキや亜鉛、ニッケルメッキを例示することができる。こうした複合メッキを適用することにより、撥油効果を備えると共に、低摩擦性で滑り性が良好となり、外方部材4と車軸管Hの接触面の摩耗を抑制できる。
【0046】
本実施形態では、撥油剤の油との接触角は50°以上に設定されている。この接触角は、例えば、溶剤中における撥油剤の希釈率や、乾燥前の溶剤の付着量、溶剤の乾燥条件等によって調整することが可能であるが、この接触角が180°に近くなる程、油をはじく能力(撥油性)が向上するが、50°未満では撥油効果が低減してしまうので好ましくない。
【0047】
また、撥油処理膜の膜厚は、複合メッキの場合は、下地処理となるニッケルメッキの膜厚が加算されたものとなるが、この膜厚が5〜20μmの範囲に設定されている。なお、外方部材4のパイロット部15と車軸管Hの内径面との嵌合すきまは、10〜100μm(直径)に設定されている。ここで、膜厚が5μm未満と薄くなると撥油処理としての機能を充分発揮できない。また、膜厚が20μmを超えると、車軸管Hの内径との嵌合すきまが小さくなり、車両の補修時に車軸管Hから外方部材4を取り出すことが難しくなって作業性が低下するので好ましくない。
【実施例2】
【0048】
図3(a)は、本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す足回り周辺の縦断面図、(b)は、(a)の要部拡大図である。この実施形態は、前述した第1の実施形態(図1)と基本的にはインナー側のシールとキャップの構成が異なるのみで、前述した第1の実施形態と同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0049】
このセミフローティングタイプの車輪用軸受装置は、図3(a)に示すように、ハブ輪18と複列の転がり軸受19とがユニット化して構成され、駆動軸D/Sに連結されている。複列の転がり軸受19は、内方部材20と外方部材21、および両部材20、21間に転動自在に収容された複列の転動体5、5とを備えている。ここで、内方部材20は、ハブ輪18と、このハブ輪18に圧入された一対の内輪10、22とを指す。ハブ輪18は、アウター側の端部に車輪取付フランジ6を一体に有し、外周にこの車輪取付フランジ6から軸方向に延びる円筒状の小径段部7と、内周にセレーション8が形成されている。そして、駆動軸D/Sがハブ輪18にセレーション8を介して嵌挿されハブ輪18と駆動軸D/Sがトルク伝達自在に、かつ着脱自在に結合されている。
【0050】
一方、複列の転がり軸受19は、内周に複列のテーパ状の外側転走面4a、4aが一体に形成され、外周に車軸管Hに固定されるための車体取付フランジ21aが一体に形成された外方部材21と、この外方部材21に内挿され、外周に前記複列の外側転走面4a、4aに対向するテーパ状の内側転走面10aが形成された一対の内輪10、22と、両転走面4a、10a間に収容された複列の転動体5、5と、これら複列の転動体5、5を転動自在に保持する保持器11とを備えている。
【0051】
外方部材19と内輪10、22との間に形成される環状空間の開口部にはシール12、24が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。さらに、インナー側のシール24においては、ハブ輪18のセレーション8を通してデフオイルが軸受内部に浸入するのも防止している。
【0052】
ハブ輪18はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、複列の転がり軸受19が衝合される肩部18aから小径段部7に亙り高周波焼入れによって表面硬さを50〜64HRCの範囲に硬化処理されている。また、外方部材21は、ハブ輪18と同様、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面4a、4aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。一方、内輪10、22はSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで60〜64HRCの範囲で硬化処理されている。
【0053】
本実施形態では、ハブ輪18のアウター側端部の開口部にキャップ25が圧入されている。このキャップ25は、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)をプレス加工にて断面略コの字形に形成された鋼板製の芯金25aと、この芯金25aの端部から内周面の少なくとも露出した表面に亙って加硫接着により接合された合成ゴム等の弾性部材25bとからなる。そして、この弾性部材25bが嵌合面に弾性接触して液密に内部を密封していると共に、キャップ25のアウター側に止め輪23が装着されている。これにより、キャップ25が微動して抜け出すのを確実に防止することができる。
【0054】
本実施形態では、インナー側のシール24は、(b)に拡大して示すように、外方部材21に嵌合される芯金27と、この芯金27に加硫接着により一体に接合されるシール部材28とを備えている。芯金27は、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)をプレス加工にて形成され、外方部材21のインナー側の端部外周に嵌合される円筒状の嵌合部27aと、この嵌合部27aから径方向内方に延び、外方部材21の端面に密着する鍔部27bと、この鍔部27bから軸方向に延びる円筒部27cと、この円筒部27cから径方向内方に延び、断面略コの字状に形成された内径部27dとを備えている。
【0055】
一方、シール部材28は、芯金27の内径部27dに接合され、車軸管Hの側壁に所定の軸方向シメシロを介して接触するサイドリップ28aと、内輪22の小外径22bに所定の径方向シメシロを介して摺接するラジアルリップ28b、および芯金27の嵌合部27aに接合され、車軸管Hの内周面に接触するシールリップ28cを備えている。これら各リップのうちラジアルリップ28bは、デフオイルの外部への流出と、デフオイルが軸受内部に浸入するのを防止し、また、サイドリップ28aとシールリップ28cはデフオイルの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が装置内に侵入するのを防止している。
【0056】
内輪22は外径に段差部を有し、大径部22aと小径部22bが形成されている。シール24のラジアルリップ28bはこの小径部22bに摺接されている。また、内輪22の大径部22aにパルサリング29が嵌着されている。このパルサリング29は、支持環30と、この支持環30に加硫接着により一体に接合された磁気エンコーダ31とからなる。
【0057】
支持環30は、強磁性体の鋼鈑、例えば、フェライト系のステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS430系等)や、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)の鋼鈑からプレス加工により形成され、内輪22の大径部22aに外嵌される円筒状の嵌合部30aと、この嵌合部30aから径方向外方に延びる鍔部30bと、この鍔部30bから軸方向に延びる円筒部30cとを備えている。
【0058】
磁気エンコーダ31は、支持環30の円筒部30cに接合され、ゴム等のエラストマーにフェライト等からなる強磁性体粉を混入させ、周方向交互に磁極N、Sが所定のピッチとなるように着磁され、ロータリーエンコーダを構成している。なお、ここでは、磁気エンコーダ31をゴム磁石等からなるエラストマー製としたものを例示したが、これに限らず、例えば、フェライト等からなる強磁性体粉を金属バインダーで固めた焼結金属製であっても良い。
【0059】
速度検出センサ32は、車軸管Hに垂下した状態で装着されている。この速度検出センサ32は、ホール素子、磁気抵抗素子(MR素子)等、磁束の流れ方向に応じて特性を変化させる磁気検出素子と、この磁気検出素子の出力波形を整える波形形成回路が組み込まれたICとからなり、前述したシール24の芯金27の円筒部27cに近接または接触されると共に、パルサリング29の磁気エンコーダ31に所定の径方向すきま(エアギャップ)を介して対峙するように装着されている。これにより、軸受部の径方向スペース、特に、シール24の断面高さが充分に確保でき、シール24の設計自由度を高めて密封性を向上させることができると共に、電波信号が非磁性体からなる芯金27を介して送信することができ、検出部にダストや磁性粉が噛み込むのを防止し、磁気エンコーダ31の損傷を防止して信頼性と検出精度を向上させることができる。
【0060】
ここで、外方部材21の車軸管Hに取り付けられる端部周辺、ハブ輪18と複列の転がり軸受19の接触部、車輪用軸受装置と駆動軸D/Sとの係合部、およびインナー側のシール24の周辺部に撥油処理膜16が形成されている(図中、二点鎖線にて示す)。具体的には、(a)に示すように、以下に示す各部位に撥油処理膜16が形成されている。(イ)外方部材21の車体取付フランジ21aと車軸管Hのフランジ部33との当接面。(ロ)車体取付フランジ21aのボルト孔34または車軸管Hのボルト孔35。(ハ)外方部材21のパイロット部36と車軸管Hのフランジ部33との嵌合部。(ニ)ハブ輪18の肩部18aと内輪10との当接部。(ホ)ハブ輪18の小径段部7と内輪10、22との嵌合部。(ヘ)ハブ輪18のセレーション8と駆動軸D/Sとの係合部。(ト)ハブ輪18と駆動軸D/Sとの間に弾性接触された状態で装着されたシールリング38とその周辺部。(チ)インナー側のシール24のサイドリップ28a、ラジアルリップ28b、シールリップ28cと、これら各リップに接触する各部位。(リ)インナー側の内輪22の端面から加締部13に亙る外表面。(ヌ)速度検出センサ32およびその周辺部。これにより、雨水等が外方部材21と車軸管Hとの接触面に流れ込むのと、デフオイルが係合部から外部や軸受内部に漏洩するのを確実に防止することができると共に、デフオイルが嵌合部に染み出してクリープが発生するのを防止することができる。
【実施例3】
【0061】
図4は、本発明に係る車輪用軸受装置の第3の実施形態を示す足回り周辺の縦断面図、図5は、図4の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。なお、前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0062】
このフルフローティングタイプの車輪用軸受装置は、車軸管Hの中にデファレンシャル(図示せず)と連結された駆動軸D/Sが挿通され、車軸管Hの外径面に複列の円錐ころ軸受からなる車輪用軸受39が装着されている。この車輪用軸受39により回転自在に支承されたハブ輪40が、固定ボルト41を介して駆動軸D/Sのフランジ42に連結されている。車輪用軸受39の一対の内輪43、44は連結環45で結合され、車軸管Hの軸部に外嵌されると共に、固定ナット46によって締付固定されている。また、車輪用軸受39の外輪(外方部材)47は、ハブ輪40に内嵌され、その両端をフランジ42とブレーキロータBにより挟持された状態で軸方向に固定されている。
【0063】
一対の内輪43、44のうちインナー側の内輪44の端部内周には環状段部48が形成され、弾性部材からなるシールリング49が装着されている。また、一対の内輪43、44の突合せ部の外周面には弾性部材からなるシールリング50が装着されている。これにより、外部から車軸管H内への泥水の浸入やデフオイルの外部への漏れを防止すると共に、軸受内部へのデフオイルの浸入も防止している。
【0064】
一方、車輪用軸受39は、図5に拡大して示すように、内周に外向きに開いた複列のテーパ状の外側転走面4a、4aが形成された外輪47と、この外輪47に内挿され、外周に前記複列の外側転走面4a、4aに対向するテーパ状の内側転走面10a、10aが形成された一対の内輪43、44と、両転走面間に収容された複列の転動体5、5と、これら複列の転動体5、5を転動自在に保持する保持器11とを有している。一対の内輪43、44の正面側(小径側)端面が突き合された状態でセットされ、所謂背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受を構成している。外輪47、内輪43、44は、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。また、外輪47と一対の内輪43、44との間に形成された環状空間の開口部にはシール12、12が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0065】
ここで、車輪用軸受39とハブ輪40、車軸管Hとの接触部およびその周辺部に撥油処理膜が形成されている(図中、二点鎖線にて示す)。具体的には、以下に示す各部位に撥油処理膜が形成されている。(a)車輪用軸受39とハブ輪40との嵌合部。(b)車輪用軸受39と車軸管Hとの嵌合部。(c)車輪用軸受39のアウター側の端面。(d)ハブ輪40と駆動軸D/Sのフランジ42との当接面。(e)車軸管Hの内径面と駆動軸D/Sの外径面。(f)連結環45。(g)シールリング49とその周辺部。(h)固定ナット46。(j)固定ボルト41。これにより、雨水等がハブ輪40と駆動軸D/Sのフランジ42との当接面から流れ込むのと、デフオイルが外部や軸受内部に漏洩するのを確実に防止することができる。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る車輪用軸受装置は、駆動軸と車軸管の開口部に車輪用軸受が装着され、車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置に適用できる。
【符号の説明】
【0068】
1、18、40 ハブ輪
1a、18a ハブ輪の肩部
2、19 複列の転がり軸受
3、20 内方部材
4、21、47 外方部材
4a 外側転走面
4b、21a 車体取付フランジ
5 転動体
6 車輪取付フランジ
7 小径段部
8 セレーション
9、25 キャップ
9a、25a、27 芯金
9b、25b 弾性部材
10、22、43、44 内輪
10a 内側転走面
10b 大鍔
10c 小鍔
11 保持器
12、24 シール
13 加締部
14 車体取付フランジのインナー側の側面
15、36 外方部材のパイロット部
16 撥油処理膜
17、33 車軸管のフランジ部
22a 内輪の大径部
22b 内輪の小径部
23 止め輪
27a、30a 嵌合部
27b、30b 鍔部
27c、30c 円筒部
27d 内径部
28 シール部材
28a サイドリップ
28b ラジアルリップ
28c シールリップ
29 パルサリング
30 支持環
31 磁気エンコーダ
32 速度検出センサ
34 車体取付フランジのボルト孔
35 車軸管のボルト孔
38、49、50 シールリング
39 車輪用軸受
41 固定ボルト
42 駆動軸のフランジ
45 連結環
46 固定ナット
48 環状段部
51 ハブ輪
52 複列の転がり軸受
53 内方部材
54 外方部材
54a 外側転走面
54b 車体取付フランジ
55 円錐ころ
56 車輪取付フランジ
57 小径段部
58 セレーション
59 加締部
60 内輪
60a 内側転走面
61 キャップ
61a 芯金
61b 弾性部材
B ブレーキロータ
D/S 駆動軸
H 車軸管
W 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デファレンシャルと連結する駆動軸を内部に挿通して車体の下面に支持された車軸管と、
前記駆動軸に結合され、車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有するハブ輪と、
このハブ輪と前記車軸管の開口部との間に嵌合され、前記車輪を回転自在に支承する車輪用軸受とを備え、
この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、
これら一対の内輪と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と一対の内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、
前記車輪用軸受の少なくとも前記車軸管と接触する部位とデフオイルに曝される部位の表面にデフオイルの漏洩を防止するための撥油処理膜が形成されていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記撥油処理膜がフッ素系撥油剤を溶剤に溶かしたものを吹き付けあるいは浸漬により塗布されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記撥油処理膜が金属メッキ皮膜の中にPTFE粒子を共析させた複合メッキである請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記撥油処理膜の撥油剤と前記デフオイルとの接触角が50°以上に設定されている請求項1乃至3いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記撥油処理膜の膜厚が5〜20μmの範囲に設定されている請求項1乃至4いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記ハブ輪が、外周に軸方向に延びる小径段部が形成され、この小径段部に前記車輪用軸受の内輪が嵌合され、当該小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定されると共に、前記車輪用軸受の外方部材が、外周に前記車軸管に取り付けられるための車体取付フランジと、インナー側の端部に前記車軸管に内嵌されるパイロット部を一体に有し、前記駆動軸が中空に形成され、その外周に形成されたセレーションを介して前記ハブ輪と結合されたセミフローティングタイプの車輪用軸受装置である請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記外方部材の車体取付フランジのインナー側の側面と前記パイロット部、および前記車輪用軸受のインナー側の端面に前記撥油処理膜が形成されている請求項6に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記ハブ輪の内径部にキャップが圧入され、このキャップが、断面略コの字形に形成された鋼板製の芯金と、この芯金の少なくとも嵌合部の一部に膨出された弾性部材とからなると共に、前記キャップおよびその嵌合部周辺に前記撥油処理膜が形成されている請求項6に記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記シールのうちインナー側のシールが、前記外方部材の端部外周に嵌合される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、当該外方部材の端面に密着する鍔部と、この鍔部から軸方向に延びる円筒部と、この円筒部から径方向内方に延び、断面略コの字状に形成された内径部とを備えた芯金と、この芯金の内径部に加硫接着により一体に接合され、前記車軸管の側壁に所定の軸方向シメシロを介して接触するサイドリップと前記内輪の外径に所定の径方向シメシロを介して摺接するラジアルリップとを備えたシール部材で構成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項10】
前記一対の内輪のうちインナー側の内輪の外径に大径部と小径部が形成され、前記大径部にパルサリングが嵌着され、このパルサリングが、強磁性体の鋼鈑からプレス加工により形成され、前記内輪の大径部に外嵌される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向外方に延びる鍔部と、この鍔部から軸方向に延びる円筒部とを備えた支持環と、この支持環の円筒部に加硫接着により一体に接合され、エラストマーに強磁性体粉を混入させ、周方向交互に磁極N、Sが所定のピッチとなるように着磁された磁気エンコーダとで構成されると共に、前記車軸管に垂下した状態で速度検出センサが装着され、前記シールの芯金が非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼鈑からプレス加工にて形成され、この芯金の円筒部に前記速度検出センサが近接または接触されて当該芯金を介して前記磁気エンコーダに所定の径方向すきまを介して対峙されている請求項9に記載の車輪用軸受装置。
【請求項11】
前記芯金の嵌合部にシールリップが加硫接着により一体に接合され、前記車軸管の内周面に接触されている請求項10に記載の車輪用軸受装置。
【請求項12】
前記速度検出センサの検出部および当該速度検出センサの装着部に前記撥油処理膜が形成されている請求項9または10に記載の車輪用軸受装置。
【請求項13】
前記シールのシール部材およびそのリップが接触する部位に前記撥油処理膜が形成されている請求項9または11に記載の車輪用軸受装置。
【請求項14】
前記ハブ輪の加締部と前記駆動軸との間に弾性接触された状態でシールリングが装着され、このシールリングおよびその周辺部に前記撥油処理膜が形成されている請求項6に記載の車輪用軸受装置。
【請求項15】
前記ハブ輪と駆動軸のセレーションに前記撥油処理膜が形成されている請求項6に記載の車輪用軸受装置。
【請求項16】
前記ハブ輪の肩部と前記内輪との当接部および前記ハブ輪の小径段部と前記内輪との嵌合部に前記撥油処理膜が形成されている請求項6に記載の車輪用軸受装置。
【請求項17】
前記車体取付フランジにボルト孔が形成され、固定ボルトを介して前記車軸管に締結されると共に、前記ボルト孔および固定ボルトのうち少なくとも一方に前記撥油処理膜が形成されている請求項6または7に記載の車輪用軸受装置。
【請求項18】
前記ハブ輪が前記駆動軸のアウター側の端部に突設されたフランジに固定ボルトを介して連結され、このハブ輪と前記車軸管の軸部との間に前記車輪用軸受が装着され、前記一対の内輪が、その正面側端部の内周に装着された連結環によって一体に結合されたフルフローティングタイプの車輪用軸受装置である請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項19】
前記車輪用軸受とハブ輪および車軸管との嵌合部に前記撥油処理膜が形成されている請求項18に記載の車輪用軸受装置。
【請求項20】
前記車輪用軸受のアウター側の端面に前記撥油処理膜が形成されている請求項18または19に記載の車輪用軸受装置。
【請求項21】
前記ハブ輪と前記駆動軸のフランジとの当接面に前記撥油処理膜が形成されている請求項18に記載の車輪用軸受装置。
【請求項22】
前記車軸管の内径面と前記駆動軸の外径面に前記撥油処理膜が形成されている請求項18に記載の車輪用軸受装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−225154(P2011−225154A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98356(P2010−98356)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】