説明

車輪用軸受装置

【課題】ハブ輪と継手外輪の分離が許容されるタイプの車輪用軸受装置において、ボルト部材による固定力を確実に確保し、もってハブ輪と外側継手部材とを安定的な締結状態を維持する。
【解決手段】継手外輪4の軸部11に軸方向に延びる凸部を設け、軸部11をハブ輪1の孔部20に圧入する。この圧入により、ハブ輪1の内径面に凸部に密着嵌合する凹部を凸部で形成し、凸部と凹部との嵌合部位全域が密着する凹凸嵌合構造Mを構成する。この凹凸嵌合構造Mに軸方向の引き抜き力付与による分離を許容した状態で、ハブ輪1と継手外輪4の軸部11とをボルト部材37で固定する。更に、ボルト部材37に設けられた頭部37aの座面37a1が当接されるハブ輪1のボルト受け面20e1に熱処理により硬化層H2を形成し、その表面硬さを管理対象とすると共に50HRC以上の許容値を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において車輪を車体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用軸受装置には、複列の転がり軸受を組み合わせて使用する第1世代と称される構造から、外方部材に車体取付フランジを一体に設けた第2世代に進化し、さらに、複列の転がり軸受の2つの内側軌道面のうち、一方をハブ輪の外周に形成した第3世代、さらには、複列の転がり軸受の2つの内側軌道面のうち、一方をハブ輪の外周に形成すると共に、他方を等速自在継手の外側継手部材の外周に形成した第4世代のものまで開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、第3世代と呼ばれるものが記載されている。第3世代と呼ばれる車輪用軸受装置は、図11に示すように、外径方向に延びるフランジ151を有するハブ輪152と、このハブ輪152に外側継手部材153が固定される等速自在継手154と、ハブ輪152の外周側に配設される外方部材155とを備える。
【0004】
等速自在継手154は、外側継手部材153と、この外側継手部材153のマウス部157内に配設される内側継手部材158と、この内側継手部材158と外側継手部材153との間に配設されるボール159と、このボール159を保持する保持器160とを備える。また、内側継手部材158の中心孔の内周面には雌スプライン161が形成され、この中心孔に図示省略のシャフトの端部に形成した雄スプラインが挿入される。内側継手部材158側の雌スプライン161とシャフト側の雄スプラインとを嵌合することで、内側継手部材158とシャフトがトルク伝達可能に結合される。
【0005】
また、ハブ輪152は、筒部163とフランジ151とを有し、フランジ151の外端面164(アウトボード側の端面)には、図示省略のホイールおよびブレーキロータを装着するための短筒状のパイロット部165が突設されている。パイロット部165は、大径部165aと小径部165bとからなり、大径部165aにブレーキロータが外嵌され、小径部165bにホイールが外嵌される。
【0006】
筒部163のインボード側端部の外周面に嵌合部166が設けられ、この嵌合部166に内輪167が嵌合されている。筒部163の外周面のフランジ151近傍には第1内側軌道面168が設けられ、内輪167の外周面に第2内側軌道面169が設けられている。また、ハブ輪152のフランジ151にはボルト装着孔162が設けられており、フランジ151にホイールおよびブレーキロータを固定するためのハブボルトがボルト装着孔162に装着される。
【0007】
転がり軸受の外方部材155は、その内周に2列の外側軌道面170、171が設けられると共に、その外周にフランジ(車体取付フランジ)182が設けられている。外方部材155の第1外側軌道面170とハブ輪152の第1内側軌道面168とが対向し、外方部材155の第2外側軌道面171と、内輪167の軌道面169とが対向し、これらの間に転動体172が介装される。
【0008】
ハブ輪152の筒部163に外側継手部材153の軸部173が挿入される。軸部173の軸端部にはネジ部174が形成され、このネジ部174よりもインボード側の外径部に雄スプライン175が形成されている。また、ハブ輪152の筒部163の内径面に雌スプライン176が形成され、軸部173をハブ輪152の筒部163に圧入することで、軸部173側の雄スプライン175とハブ輪152側の雌スプライン176とが嵌合する。
【0009】
そして、軸部173のネジ部174にナット部材177が螺着され、ハブ輪152と外側継手部材153とが固定される。この際、ナット部材177の座面178と筒部163の外端面179とが当接し、マウス部157のアウトボード側の端面180と内輪167の端面181とが当接する。これにより、ハブ輪152が内輪167を介してナット部材177とマウス部157とで挟持される。
【0010】
しかしながら、このような構成を採用した場合には、外側継手部材153とハブ輪152は、外側継手部材153の軸部173に設けた雄スプライン175をハブ輪152に設けた雌スプライン176に圧入することで結合されるため、軸部173及びハブ輪152の両者にスプライン加工を施す必要があってコスト高となる。また、圧入時には、軸部173の雄スプライン175とハブ輪152の雌スプライン176の凹凸を合わせる必要があるが、歯面合わせで圧入すれば歯面がむしれ等によって損傷するおそれがあり、大径合わせで圧入すれば円周方向のガタが生じ易い。円周方向のガタがあると、トルク伝達性に劣ると共に異音が発生するおそれがある。このように、スプライン嵌合によって外側継手部材153とハブ輪152とを結合する場合、圧入時の歯面の損傷、及び使用時のガタの発生という問題があり、両問題を同時に回避することは困難であった。
【0011】
また、車輪用軸受装置の補修等を行う場合に、ハブ輪と外側継手部材とが結合されたままの状態では補修困難となるおそれがある。そのため、軸受部分と継手部分とを個別に補修可能とするため、ハブ輪と外側継手部材とを分離可能とすることが望まれ、また、両者の分離後には、両者を再結合(再組立)可能とする必要がある。
【0012】
そこで、本願出願人は、これらの問題に対処するために、特許文献2に開示の車輪用軸受装置を提案するに至っている。詳細には、外側継手部材の軸部とハブ輪の孔部のうち、何れか一方に設けられた軸方向に延びる凸部を他方に圧入し、他方に、凸部により凹部を形成することで凸部と凹部との嵌合部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したものである。この凹凸嵌合構造の構成時には、凹部が形成される部材に予めスプライン部を形成しておく必要がないことから、生産性を向上することができる。また、圧入時の歯面の損傷を回避することができるので、安定した嵌合状態を維持することができる。また、上記の凹凸嵌合構造では、径方向および円周方向でガタが生じる隙間が形成されないので、安定したトルク伝達が可能であると共に異音の発生が防止される。しかも軸部が孔部に対して隙間無く密着し、トルク伝達部位の強度が向上するので、嵌合部長さを短くして軸受装置を軸方向にコンパクト化することができる。
【0013】
さらに、上記の凹凸嵌合構造は、軸部に設けたボルト孔からボルト部材を取り外した状態で軸方向の引き抜き力を付与することによって分離可能とされているため、良好な補修作業性(メンテナンス性)が担保されている。また、補修後には、外側継手部材の軸部をハブ輪の孔部に圧入することによって上記の凹凸嵌合構造を再構成することができる。凹凸嵌合構造の再構成(ハブ輪と外側継手部材の再結合)は、軸部に設けたボルト孔にボルト部材をねじ込むことで行うことができる。そのため、凹凸嵌合構造の再構成時には、圧入用のプレス機等、大掛かりな設備を使用する必要がなくなる。したがって、自動車整備工場等の現場においても、車輪用軸受装置の点検、補修等を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−340311号公報
【特許文献2】特開2009−56869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、特許文献2に開示の車輪用軸受装置では、ボルト孔にボルト部材を螺合した状態でハブ輪と外側継手部材とを締結しているが、この締結による固定力は、ボルト部材の頭部座面がハブ輪に設けられたボルト受け面に正しく当接されて初めて、所期の力を発揮するものである。
【0016】
しかしながら、ハブ輪のボルト受け面の表面硬さが不十分であると、ボルト部材の頭部座面とハブ輪のボルト受け面との当接状態に不具合を来たすおそれがある。すなわち、この場合には、ボルト部材の頭部座面との接触によりハブ輪のボルト受け面に磨耗や圧痕が生じるおそれがある。ハブ輪のボルト受け面に磨耗や圧痕が生じれば、ボルト受け面が削れたり或いは窪んだりするので、ハブ輪のボルト受け面とボルト部材の頭部座面との間に事後的に隙間が形成され、ボルト部材による固定力が低下してしまう。
【0017】
したがって、ボルト部材による固定力を維持する観点からも、ハブ輪のボルト受け面の表面硬さを、ボルト部材の頭部座面との関係から管理する必要があるが、特許文献2ではこの点について言及がなされておらず、改良すべき問題が残っていた。
【0018】
以上の実情に鑑み、本発明は、ボルト部材の頭部座面との接触によりハブ輪のボルト受け面に磨耗や圧痕が生じるという事態を防止することで、ボルト部材による固定力を確実に確保し、もってハブ輪と外側継手部材とを安定的な締結状態を維持することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために創案された本発明に係る車輪用軸受装置は、内周に複列の軌道面を有する外方部材と、車輪に取り付けられるハブ輪を含み、前記外方部材の軌道面に対向する複列の軌道面を外周に有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材の軌道面間に介在した複列の転動体とを有する車輪用軸受と、外側継手部材を有する等速自在継手とを備え、前記外側継手部材の軸部と前記ハブ輪の孔部のうち、いずれか一方に設けられた軸方向に延びる凸部を他方に圧入し、該他方に前記凸部により凹部を形成することで、前記凸部と前記凹部との嵌合部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成すると共に、前記外側継手部材の軸部にボルト孔が設けられ、該ボルト孔にボルト部材を螺合した状態で前記ハブ輪と前記外側継手部材とを締結し、前記ボルト部材を取り外した状態での軸方向の引き抜き力付与により前記凹凸嵌合構造の分離を許容する車輪用軸受装置であって、前記ハブ輪に前記ボルト部材の頭部座面が当接し且つ硬化処理が施されたボルト受け面を設けるとともに、該ボルト受け面の表面硬さを管理対象として設定し、該表面硬さとして50HRC以上の許容値を付与したことに特徴づけられる。
【0020】
なお、ここでいう「凹凸嵌合構造」は、上記の通り、凸部と凹部の嵌合部位全域が密着するものであるが、嵌合部位のごく一部領域に隙間が存在する場合がある。このような隙間は、凸部による凹部の形成過程で不可避的に生じるものであるから、このような隙間があったとしても、「凸部と凹部の嵌合部位全域が密着する」という概念に含まれるものとする(以下、同様)。
【0021】
上記のように、本発明では、ボルト部材の頭部座面が当接するハブ輪のボルト受け面に硬化処理を施すと共に、その硬化処理が施されたハブ輪のボルト受け面の表面硬さを管理対象として設定したことから、この表面硬さを所定範囲に管理しておけば、ボルト部材の頭部座面との関係からも、ボルト受け面の表面硬さを最適なものとすることができる。すなわち、ボルト部材の頭部座面との接触により、ハブ輪のボルト受け面に磨耗や圧痕が事後的に生じるのを防止することが可能となる。したがって、ボルト部材により外側継手部材とハブ輪との安定した締結状態を維持することができ、長期に亘って安定したトルク伝達を行うことが可能となる。また、このような外側継手部材とハブ輪との締結状態の安定化を図ることで、両者の間に事後的に隙間が形成されることを防止することで、ボルト孔を通じてアウトボード側から泥水等の異物が浸入するのを確実に防止することができる。一方、管理対象としてのボルト受け面の表面硬さは、その値が大きくなればなるほどボルト受け面の磨耗や圧痕の発生防止に寄与し得るが、これを余りに厳格に管理しすぎると、硬化処理に特別な配慮が必要となることから、ハブ輪の製作コストが不当に増大するおそれがある。そこで、硬化処理を施したボルト受け面の表面硬さには、50HRC以上の許容値を付与することとした。これにより、ハブ輪のボルト受け面に磨耗や圧痕が生じることを防止して、ボルト部材によるハブ輪と外側継手部材とを安定的な締結状態を維持しつつ、ハブ輪の製造コストが増大するという事態を確実に抑制することができる。
【0022】
上記の構成において、前記硬化処理が、高周波焼入れであることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、加熱効率がよく、硬化処理に要する作業時間が短時間で済むという利点がある。また、部分焼入れが可能であり、焼入れ歪みが少ないという利点もある。
【0024】
上記の構成において、前記外側継手部材の軸部と前記ハブ輪の孔部のうち、一方に設けられた前記凸部の圧入開始側の少なくとも軸方向端部の硬度を、該凸部の圧入により前記凹部が形成される前記他方の凹部形成部の硬度よりも高くすることが好ましい。
【0025】
このようにすれば、凸部を相手側に圧入した際に、相手側の一部を切り出したり、或いは押し出したりすることが容易となることから、相手側に凸部の形状に倣った凹部を正確に形成しやすくなる。すなわち、凸部と凹部の嵌合状態がより緻密なものとなり、凸部と凹部の密着状態をより良好なものとすることができる。
【0026】
上記の構成において、前記外側継手部材の軸部と前記ハブ輪の孔部のうち、凸部が設けられた前記一方に、前記凹部の形成によって生じる前記他方のはみ出し部を収容するポケット部を設けてもよい。なお、ここでいう「はみ出し部」は、凸部によって形成された凹部の容積に相当する量の材料分であって、形成される凹部から押し出されたもの、凹部を形成するために切削されたもの、又は押し出されたものと切削されたものの両者等から構成される。
【0027】
このようにすれば、はみ出し部をこのポケット部内に保持することができるので、はみ出し部が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。したがって、はみ出し部の除去処理を行う必要がなくなるので、当該除去処理を省略して組立作業工数の減少を図ることができ、組立作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【0028】
上記の構成において、前記外側継手部材の軸部と前記ハブ輪の孔部のうち、一方に設けられた前記凸部間の歯底部と、該歯底部と半径方向で対向する前記他方の前記凹部形成部との間に隙間が形成されていてもよい。
【0029】
このようにすれば、圧入時に、隙間の分だけ摩擦力が低減されるので、圧入時の圧入力の軽減を図ることができる。また、外側継手部材の軸心と、ハブ輪の軸心とが多少ずれた状態で圧入を行ったとしても、隙間によって当該ズレを吸収した状態で両者を組付けることができるので、組付作用時の作業管理が容易となる。
【0030】
上記の構成において、前記凸部を円周方向の複数箇所に設け、前記凸部の高さ方向の中間部において、前記凸部の周方向厚さの総和を、隣接する前記凸部との間の溝幅の総和よりも小さくすることが好ましい。
【0031】
このようにすれば、隣接する凸部間の溝に入り込んだ相手側の肉が周方向で大きな厚さを有するため、前記肉のせん断面積を大きくすることができ、捩り強度の向上を図ることができる。しかも、凸部の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。
【0032】
上記の構成において、前記内方部材が、前記ハブ輪と、該ハブ輪のインボード側の端部の外周に圧入される内輪とで構成され、前記ハブ輪の外周および内輪の外周にそれぞれ前記軌道面が形成されていることが好ましい。
【0033】
このようにすれば、ハブ輪の外周および内輪の外周にそれぞれ前記軌道面を形成することができる。これにより、車輪用軸受装置の軽量・コンパクト化を図ることができる。
【0034】
上記の構成において、前記外側継手部材のマウス部のバック面と前記ハブ輪の端面とが非接触、又は100MPa以下の接触面圧で接触していることが好ましい。
【0035】
前者のように外側継手部材とハブ輪とを非接触とすれば、両者の接触による異音の発生を防止することができる。また、後者のように両者を接触させた場合には、上記の接触面圧が大きくなると圧力が付与された接触部でもトルク伝達が行われてしまい、更に大きなトルクが負荷され、接触部がトルク伝達に耐えらなくなったとき、接触部に急激なスリップが生じて異音を発生するおそれがある。したがって、接触面圧を100MPa以下の低面圧とすることで、異音の発生を防止することができる。
【0036】
上記の構成において、前記外側継手部材のマウス部のバック面と前記内方部材との間、又は前記ボルト部材の頭部座面と前記ボルト受け面との間の少なくとも一方をシールすることが好ましい。
【0037】
このようにすれば、凹凸嵌合構造への雨水や異物の浸入が抑制されるので、良好な製品品質を長期間に亘って維持することが可能となる。
【0038】
上記の構成において、前記凹凸嵌合構造の軸方向位置が、前記車輪用軸受の前記軌道面の直下を避けた位置にあることが好ましい。
【0039】
すなわち、外側継手部材の軸部をハブ輪の孔部に圧入すれば、ハブ輪は膨張する。この膨張によって、車輪用軸受の軌道面に外径方向に拡径しようとする力、すなわち、フープ応力を発生させる。そのため、軌道面にフープ応力が発生した場合は、転がり疲労寿命の低下やクラック発生を引き起こすおそれがある。そこで、凹凸嵌合構造を転がり軸受の軌道面の直下を避ける位置に配置することによって、軌道面におけるフープ応力の発生を抑制することができる。
【0040】
上記の構成において、前記外側継手部材と前記ハブ輪とを分離した後に、前記外側継手部材の軸部と前記ハブ輪の孔部のうち、前記一方に形成された前記凸部を前記他方に形成された前記凹部に再圧入して両者を再度結合する際に、前記一方に形成された前記凸部の位相を、前記他方に形成された前記凹部の位相に一致させるためのガイド用凹部を前記他方に形成された前記凹部の圧入開始側に設けてもよい。
【0041】
このようにすれば、再度外側継ぎ手部材の軸部をハブ輪の孔部に圧入する際に、前回の圧入時に形成された凹部に凸部が正確に嵌入していき、凹部を損傷させることがない。そのため、再度、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が生じない凹凸嵌合構造を高精度に構成することが可能となる。
【発明の効果】
【0042】
以上のような本発明によれば、ボルト受け面に硬化処理が施されると共に、その硬化処理が施されたボルト受け面の表面硬さが管理対象として設定されるため、ボルト受け面の表面硬さが最適化され、ボルト部材の頭部座面との接触によりハブ輪のボルト受け面に磨耗や圧痕が生じるという事態を防止することできる。したがって、ボルト部材によるハブ輪と外側継手部材とを安定的な締結状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】車輪用軸受装置の実施形態を示す断面図である。
【図2】(a)は、前記車輪用軸受装置の凹凸嵌合構造の断面図であって、(b)は、(a)に示すX部の拡大図である。
【図3】前記車輪用軸受装置の要部拡大断面図である。
【図4】前記車輪用軸受装置の組立方法を示す断面図である。
【図5】前記車輪用軸受装置における凹凸嵌合構造の分離工程を示す断面図である。
【図6】前記車輪用軸受装置の再圧入方法を示すものであって、(a)は圧入直前状態を示す断面図、(b)は圧入途中を示す断面図、(c)は圧入完了状態を示す断面図である。
【図7】前記車輪用軸受装置の再圧入方法を示す断面図である。
【図8】(a)は、凹凸嵌合構造の凸部の他例を示す断面図であって、(b)は、凹凸嵌合構造の凸部の更に他例を示す断面図である。
【図9】(a)は、凹凸嵌合構造の他例を示す断面図であって、(b)は、(a)に示すY部の拡大図である。
【図10】(a)は、シール部材としてOリングを用いたときの拡大断面図であって、(b)は、シール部材としてガスケットを用いたときの拡大断面図である。
【図11】従来の車輪用軸受装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0045】
図1は、本発明の一実施形態に係る車輪用軸受装置を示す断面図である。同図に示すように、この車輪用軸受装置は、ハブ輪1を含む複列の転がり軸受2と、等速自在継手3とが一体化されてなる。なお、以下の説明において、インボード側とは、車両に取り付けた状態で、車両の車幅方向内側となる側を意味し、アウトボード側とは、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向外側となる側を意味する。
【0046】
等速自在継手3は、外側継手部材としての継手外輪4と、継手外輪4の内側に配された内側継手部材としての継手内輪5と、継手外輪4と継手内輪5との間に介在してトルクを伝達する複数のボール6と、継手外輪4と継手内輪5との間に介在してボール6を保持するケージ7とを主要な部材として構成される。継手内輪5はその孔部内径5aにシャフト8の端部8aを圧入することによりスプライン嵌合してシャフト8とトルク伝達可能に結合されている。なお、シャフト8の端部8aには、シャフト抜け止め用の止め輪9が嵌合されている。
【0047】
継手外輪4はマウス部10と軸部(ステム部とも呼ばれる)11とからなり、マウス部10は一端にて開口した椀状で、その内球面12に、軸方向に延びた複数のトラック溝13が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝13はマウス部10の開口端まで延びている。継手内輪5は、その外球面14に、軸方向に延びた複数のトラック溝15が円周方向等間隔に形成されている。
【0048】
継手外輪4のトラック溝13と継手内輪5のトラック溝15とは対をなし、各対のトラック溝13,15で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール6が転動可能に組み込んである。ボール6は継手外輪4のトラック溝13と継手内輪5のトラック溝15との間に介在してトルクを伝達する。ケージ7は継手外輪4と継手内輪5との間に摺動可能に介在し、外球面7aにて継手外輪4の内球面12と嵌合し、内球面7bにて継手内輪5の外球面14と嵌合する。なお、この場合の等速自在継手3は、ツェッパ型を示しているが、マウス部10の開口側で継手外輪4のトラック溝13を直線状とし、マウス部10の奥部側で継手内輪5のトラック溝15をストレートにしたアンダーカットフリー型等の他の等速自在継手であってもよい。
【0049】
また、マウス部10の開口部はブーツ16にて塞がれている。ブーツ16は、大径部16aと、小径部16bと、大径部16aと小径部16bとを連結する蛇腹部16cとからなる。大径部16aがマウス部10の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド17aにて締結される。また、小径部16bがシャフト8のブーツ装着部8bに外嵌され、この状態でブーツバンド17bにて締結されている。
【0050】
ハブ輪1は、筒部18と、筒部18のアウトボード側の端部に設けられる車輪取り付け用のフランジ19とを有する。筒部18の孔部20は、軸部嵌合孔20aと、アウトボード側のテーパ孔20bと、インボード側に設けられた大径孔20cとを備える。軸部嵌合孔20aにおいて、凹凸嵌合構造Mを介して継手外輪4の軸部11とハブ輪1とが分離可能に結合される。軸部嵌合孔20aと大径孔20cとの間には、テーパ部(テーパ孔)20dが設けられており、軸部嵌合孔20aとテーパ孔20bとの間には、内径方向へ突出する内壁20eが設けられている。
【0051】
ハブ輪1のインボード側の外周面には、小径の段差部21が形成される。この段差部21に内輪22を嵌合することで複列の内側軌道面(インナレース)23,24を有する内方部材が構成される。複列の内側軌道面のうち、アウトボード側の内側軌道面23はハブ輪1の外周面に形成され、インボード側の内側軌道面24は、内輪22の外周面に形成されている。車輪用軸受2は、この内方部材と、内方部材の外径側に配置され、内周に複列の外側軌道面(アウタレース)25,26を有する外方部材27と、外方部材27のアウトボード側の外側軌道面25とハブ輪1の内側軌道面23との間、および外方部材27のインボード側の外側軌道面26と内輪22の内側軌道面24との間に配置され且つ転動体として機能するボール28とで構成される。ハブ輪1と、ハブ輪1の外周に圧入される内輪22とで、内側軌道面23,24を有する内方部材を構成するので、車輪用軸受装置の軽量・コンパクト化を図ることができる。なお、外方部材27の両開口部にはシール部材S1、S2が装着されている。
【0052】
この車輪用軸受2は、ハブ輪1のインボード側の円筒状端部を加締め、加締めによって形成された加締部29で内輪22を押圧することによって軸受内部に予圧を付与する構造である。これによって、内輪22をハブ輪1に固定することができる。ハブ輪1の端部に形成した加締部29で軸受2に予圧を付与した場合、継手外輪4のマウス部10で予圧を付与する必要がない。したがって、予圧量を考慮せずに継手外輪4の軸部11を圧入することができ、ハブ輪1と継手外輪4との連結性(組み付け性)の向上を図ることができる。
【0053】
ハブ輪1の加締部29とマウス部10のバック面10aとは互いに当接している。この場合、継手外輪4の軸部11の位置決めが行われるので、車輪軸受装置の寸法精度が安定すると共に、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを安定化させて、トルク伝達性の向上を図ることができる。このようにハブ輪1の加締部29とマウス部10のバック面10aとを当接させる場合、両者の接触面圧は100MPa以下とするのが望ましい。接触面圧が大きくなると圧力が付与された接触部でもトルク伝達が行われてしまい、更に大きなトルクが負荷され、接触部がトルク伝達に耐えられなくなったとき、接触部に急激なスリップが生じて異音を発生するおそれがあるからである。したがって、接触面圧を100MPa以下とすることで、異音の発生を防止して静粛な車輪用軸受装置を提供することができる。
【0054】
ハブ輪1のフランジ19にはボルト装着孔30が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ19に固定するためのハブボルト31がこのボルト装着孔30に装着される。
【0055】
凹凸嵌合構造Mは、図2(a),(b)に示すように、例えば、軸部11のアウトボード側の端部に設けられた軸方向に延びる凸部32と、ハブ輪1の孔部20の内径面に形成される凹部33とで構成される。本実施形態では、凹部33は、軸部嵌合孔20aの内径面34に形成される。凸部32とその凸部32に嵌合するハブ輪1の凹部33との嵌合部位全域が密着している。軸部11のアウトボード側の端部の外周面に、軸方向に延びる複数の凸部32が周方向に沿って所定ピッチで配設され、ハブ輪1の孔部20の軸部嵌合孔20aの内径面34に、凸部32が嵌合する軸方向の複数の凹部33が周方向に沿って形成されている。凸部32と凹部33とは、周方向全周にわたってタイトフィットしている。
【0056】
この場合、各凸部32は、図2(b)に示すように、その断面が凸アール状の頂部を有する三角形状(山形状)であり、各凸部32の凹部33との嵌合部位は、図2(b)に示す範囲Aである。断面における凸部32の円周方向両側の中腹部から頂部に至る範囲で各凸部32と凹部33が嵌合している。そして、この嵌合状態で、周方向の隣り合う凸部32間において、凹部形成部となるハブ輪1の内径面34よりも内径側に隙間35が形成されている。
【0057】
また、図1に示すように、アウトボード側から軸部11のボルト孔36にボルト部材37が螺着されている。ボルト部材37は、フランジ付きの頭部37aと、先端側の周囲にネジ部37b1を有する軸部37bとからなる。内壁20eには、貫通孔38が設けられ、この貫通孔38にボルト部材37の軸部37bが挿通されて、ネジ部37b1が軸部11のボルト孔36に螺着される。そして、このようにネジ部37b1を螺着させた状態で、頭部37aの座面37a1が、内壁20eのアウトボード側の端面に設けられたボルト受け面20e1に当接している。なお、内壁20eのアウトボード側の端面全体を平坦面として、その一部でボルト受け面20e1を構成してもよいが、この実施形態では、内壁20eのアウトボード側の端面の一部をインボード側に窪ませて凹部を形成し、その凹部の底面でボルト受け面20e1を構成している。また、ボルト部材37の頭部37aの座面37a1は、スプライン等が形成されていない平坦面をなしている。
【0058】
この車輪用軸受装置では、凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物の侵入を防止するために、凹凸嵌合構造Mよりもインボード側、及びアウトボード側がそれぞれシールされている。
【0059】

すなわち、インボード側は、図1に示すように、ハブ輪1の加締部29と、継手外輪4のマウス部10のバック面10aとを接触させることで、シール構造を構成している。そのため、このシール構造により、インボード側から雨水や異物が凹凸嵌合構造Mへ浸入するという事態を防止することができる。なお、ハブ輪1の加締部29と、継手外輪4のマウス部10のバック面10aとの少なくとも一方に、樹脂材等のシール材を別途塗布してもよい。
【0060】
一方、アウトボード側は、ボルト部材37の座面37a1と内壁20eとの間にシール材(図示省略)を介在させて、シール構造を構成している。この場合、シール構造は、ボルト部材37の座面37a1と、内壁20eのボルト受け面20e1との少なくとも一方に、樹脂等のシール材を塗布して構成することができる。なお、ボルト部材37を螺着する際において、ボルト部材37の座面37a1と、内壁20eのボルト受け面20e1とが密着性に優れるものであれば、このようなシール材を省略することも可能である。例えば、ボルト受け面20e1を研削すれば、ボルト部材37の座面37a1との密着性が向上するので、シール材の塗布を省略することが可能となる。密着性が確保される限り、ボルト受け面20e1への研削加工を省略し、鍛造肌や旋削仕上げ状態を、そのまま残すこともできる。
【0061】
また、凸部32と凹部33との間にシール材を介在させてもよい。この場合、例えば、凸部32の表面に、塗布後に硬化して嵌合部位において密封性を発揮できる種々の樹脂からなるシール材を塗布すればよい。
【0062】
上記凹凸嵌合構造Mは、以下の手順で得ることができる。
【0063】
先ず、継手外輪4の軸部11に、公知の加工方法(転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等)を用いて、軸方向に延びた多数の歯を有する雄スプライン39を形成する。そして、図2(b)に示すように、雄スプライン39のうち、歯底39aを通る円、歯先39b、および歯先39bにつながる両側面で囲まれた領域が凸部32となる。
【0064】
雄スプライン39は、モジュールを0.5以下とし、通常使用されるスプラインのモジュールよりも小さい歯とするのが望ましい。これにより、雄スプライン39の成形性の向上を図ることができるとともに、雄スプライン39をハブ輪1の軸部嵌合孔20aに圧入する際の圧入荷重を小さくすることができる。軸部11の凸部32を雄スプライン39で形成することにより、この種のシャフトにスプラインを形成するための加工設備を活用することができ、低コストに凸部32を形成することが可能である。
【0065】
次いで、図1及び図3にクロスハッチングで示すように、軸部11の外径面に熱硬化処理を施して硬化層H1を形成する。硬化層H1は、凸部32の全体および歯底39aも含めて円周方向に連続して形成される。なお、硬化層H1の軸方向の形成範囲は、少なくとも雄スプライン39のアウトボード側の端縁から、継手外輪4のマウス部10の底壁の内径部に至るまでの連続領域を含んだ範囲とする。熱硬化処理としては、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができるが、部分焼入れが容易である等の理由から本実施形態では高周波焼入れを採用している。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。
【0066】
その一方、ハブ輪1の内径側は未焼き状態に維持される。すなわち、ハブ輪1の孔部20の内径面34は熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。継手外輪4の軸部11の硬化層H1とハブ輪1の未硬化部との硬度差は、HRCで20ポイント以上とする。例えば、硬化層H1の硬度を50HRCから65HRC程度とし、未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度とする。ハブ輪1の内径面34のうち、少なくとも軸部嵌合孔20aの内径面34が未硬化部であれば足り、その他の内径面には熱硬化処理を施しても構わない。また、上記硬度差が確保されるのであれば、「未硬化部」とすべき上記領域に熱硬化処理を施してもよい。
【0067】
この際、凸部32の高さ方向の中間部を、凹部形成前のハブ輪1の軸部嵌合孔20aの内径面34の位置に対応させる。すなわち、図2(a)に示すように、軸部嵌合孔20aの内径面34の内径寸法D1を、雄スプライン39の凸部32の最大外径寸法(雄スプライン39の歯先39bをとおる外接円の直径寸法)D2よりも小さく、雄スプライン39の歯底を結ぶ円の直径寸法D3よりも大きくなるように設定する(D3<D1<D2)。
【0068】
次いで、ハブ輪1の軸心と等速自在継手3の継手外輪4の軸心とを合わせた状態で、ハブ輪1の孔部20に継手外輪4の軸部11を圧入する。この際、ハブ輪1の孔部20に圧入方向に沿って縮径するテーパ部20dを形成しているので、このテーパ部20dが圧入開始時のハブ輪1の孔部20と、継手外輪4の軸部11との芯出しを行なう。また、軸部嵌合孔20aの内径寸法D1、凸部32の最大外径寸法D2、および雄スプライン39の歯底の最小外径寸法D3とが、前記のような関係であるので、軸部11をハブ輪1の軸部嵌合孔20aに圧入することにより、この凸部32がハブ輪1のインボード側端面の内径部に食い込み、ハブ輪1の肉を切り込む。軸部11を押し進めることで、ハブ輪1の軸部嵌合孔20aの内径面34が凸部32で切り出され、又は押出されて、内径面34に軸部11の凸部32に対応した形状の凹部33が形成される。また、軸部11の凸部32の硬度をハブ輪1の軸部嵌合孔20aの内径面34よりも20ポイント以上高くしているので、ハブ輪1の内径面34への凹部形成が容易となる。また、軸部側の硬度を高くすることで、軸部11の捩り強度を向上させることができる。
【0069】
この圧入工程を経ることによって、図2(a),(b)に示すように、軸部11の凸部32で、これに嵌合する凹部33が形成される。凸部32が、ハブ輪1の内径面34に食い込んでいくことによって、孔部20が僅かに拡径した状態となり、凸部32の軸方向の移動を許容する。その一方で、軸方向の移動が停止すれば、内径面34が元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部32の圧入時にハブ輪1が外径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部32のうち、凹部33と嵌合する部分の表面に付与される。このため、凹部33は、その軸方向全体に亘って凸部32の表面と密着する。これによって凹凸嵌合構造Mが構成される。
【0070】
また、軸部11の圧入に伴い、ハブ輪1側で塑性変形が生じるため、凹部33の表面には加工硬化が生じる。このため、凹部33側のハブ輪1の内径面34が硬化して、回転トルク伝達性の向上を図ることができる。
【0071】
テーパ部20dは、軸部11の圧入を開始する際のガイドとして機能させることができる。そのため、ハブ輪1の孔部20に対して継手外輪4の軸部11を、芯ずれを生じさせることなく圧入させることができる。
【0072】
このテーパ部20dのアウトボード側には、図3及び図6に示すように、円周方向に沿って所定ピッチでガイド用凹部40が設けられている。このガイド用凹部40に軸部11の凸部32を嵌合させることで、圧入開始時に凸部32の位置決めを行うことができる。なお、ガイド用凹部40に凸部32を嵌合させた状態で、ガイド用凹部40と凸部32との間には、凸部32の円周方向移動及び径方向移動を許容する程度の僅かな隙間が形成される。なお、このガイド用凹部40は、後述するように、継手外輪4とハブ輪1を一旦分離した後に、ハブ輪1に継手外輪4の軸部11を再圧入して両者を再結合する場合にも利用される。この場合、ガイド用凹部40は、再圧入時の凸部32の位相と凹部33の位相を一致させるために利用される。
【0073】
凹凸嵌合構造Mは、極力、軸受2の軌道面23、24、25、26の内径側を避けて配置することが求められる。特にインナレース23、24上における接触角が通る線との交点の内径側を避け、これらの交点の間の軸方向一部領域に凹凸嵌合構造Mを形成することが望まれる。これにより、軸受軌道面におけるフープ応力の発生を抑えることができる。したがって、転がり疲労寿命の低下、クラック発生、及び応力腐食割れ等の軸受の不具合発生を防止することができ、高品質な軸受を提供することができる。
【0074】
継手外輪4の軸部11をハブ輪1の孔部20に圧入する際には、図4に示すように、継手外輪4のマウス部10の外径面に設けられた段差面41に、圧入用治具Kを係合させて、この圧入用治具Kから段差面41に圧入荷重(軸方向荷重)を付与すればよい。なお、段差面41としては周方向全周に設けても、周方向に沿って所定ピッチで設けてもよい。使用する圧入用治具も、これらの段差面41の形状に対応して軸方向荷重を付与できるものであればよい。
【0075】
そして、継手外輪4の軸部11をハブ輪1の孔部20に圧入して上記の凹凸嵌合構造Mを形成した後に、図1に示すように、軸部11のボルト孔36にボルト部材37を螺着する。この状態で、ボルト部材37の頭部37aの座面37a1が、内壁20eのアウトボード側の端面に設けられたボルト受け面20e1に当接し、ボルト部材37による固定力が継手外輪4の軸部11に作用する。この際、ボルト部材37の頭部37aの座面37a1が当接する内壁20eの表面硬さが不適切であると、ボルト部材37の頭部37aの座面37a1とボルト受け面20e1との接触により、当該ボルト受け面20e1に磨耗や圧痕が生じてしまう。そして、このようにボルト受け面20e1に磨耗等が生じると、頭部37aの座面37a1とボルト受け面20e1との間に隙間が形成され、ボルト部材37の固定力が著しく低下するという不具合が生じる。そこで、このような不具合の発生を防止すべく、このボルト受け面20e1に熱硬化処理を施して硬化層H2を形成するとともに、この硬化層H2の表面硬さを管理対象に設定し、その表面硬さとして50HRC以上の許容値を付与した。硬化層H2の形成範囲は、少なくともボルト部材37の座面37a1が直接当接する領域を含んでいる。この実施形態では、硬化層H2の形成領域は、貫通孔38のアウトボード側の開口縁から、ボルト受け面20e1及びテーパ孔20bの連結部に至るまでの連続した領域とされている。これにより、内壁20eのボルト受け面20e1の表面硬さが、頭部37aの座面37a1との関係から最適なものとなり、ボルト受け面20e1に磨耗や圧痕が生じる割合を可及的に低減することができる。そのため、ハブ輪1の内壁20e、特にボルト受け面20e1が削られる等して、ボルト部材37の頭部37aの座面37a1との間に事後的に隙間が形成されるという事態を確実に抑制することができる。したがって、ボルト部材37により継手外輪4とハブ輪1との安定した締結状態を維持することができ、長期に亘って安定したトルク伝達を行うことが可能となる。また、このような継手外輪4とハブ輪1との締結状態の安定化により、両者の間に事後的に隙間が形成されることを防止することで、ボルト孔36を通じてアウトボード側から泥水等の異物が浸入するという事態を抑制することも可能となる。
【0076】
なお、硬化層H2をボルト受け面20e1に形成するための熱硬化処理としては、浸炭焼入れ等の種々の焼入れを採用することができるが、この実施形態では、部分焼入れが容易である等の理由から高周波焼入れを採用している。
【0077】
以上に述べた凹凸嵌合構造Mでは、凸部32と凹部33との嵌合部位全体が密着しているので、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。このため、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生もない。
【0078】
また、凹部33が形成される部材(この場合、ハブ輪1)には、雌スプライン等を予め形成しておく必要がない。したがって、生産性に優れ、かつスプライン同士の位相合わせを必要としないことから組立性の向上を図ることができる。さらに、圧入時の歯面の損傷を回避することができ、安定した嵌合状態を維持できる。また、ハブ輪1の内径側は比較的軟らかいため、ハブ輪1の凹部は、軸部11の凸部32と高い密着性をもって嵌合する。そのため、径方向及び円周方向におけるガタの防止により一層有効となる。
【0079】
また、以上に述べた車輪用軸受装置では、凹凸嵌合構造Mのインボード側およびアウトボード側をそれぞれシールしているので、凹凸嵌合構造Mへの軸方向両端側からの雨水や異物の侵入が防止され、凸部32と凹部33との密着性を長期間安定して維持することが可能となる。
【0080】
ハブ輪1に対して継手外輪4の軸部11を圧入する際には、図3に示すように、凸部32の切り出しまたは押し出し作用で凹部33から材料がはみ出し、はみ出し部42が形成される。このはみ出し部42は、凸部32のうち、凹部33と嵌合する部分の容積に相当する量が生じる。このはみ出し部42を放置すれば、これが脱落して車両の内部に入り込むおそれがある。そこで、同図に示すように、軸部11の外径面に、はみ出し部42を収納するポケット部43を形成し、はみ出し部42をこのポケット部43内に収容するようにしている。詳述すると、このポケット部43は、例えば軸部11の雄スプライン39よりもアウトボード側の外径面に周方向溝44を設けることによって形成することができる。このように、はみ出し部42を収納するポケット部43を設けることによって、はみ出し部42をこのポケット部43内に保持することができ、はみ出し部42が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。これにより、はみ出し部42をポケット部43に収納したままにしておくことができ、はみ出し部42の除去処理を行う必要がなく、組立作業工数の減少を通じて、組立作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【0081】
次に、以上のような凹凸嵌合構造Mによって連結された継手外輪4とハブ輪1を分離する手順、並びに、分離した継手外輪4とハブ輪1を再結合する手順を順に説明する。
【0082】
まず、継手外輪4とハブ輪1を分離する際には、図1に示す状態から、ボルト部材37を取外した後、ハブ輪1と継手外輪4の間に凹凸嵌合構造Mの嵌合力以上の引抜き力を与えてハブ輪1から継手外輪4を引き抜く。この引き抜きは、図5に示すような治具45を用いて行うことができる。治具45は、基盤46と、この基盤46のボルト孔47に螺合する押圧用ボルト部材48と、軸部11のボルト孔36に螺合されるネジ軸49とを備える。基盤46には貫通孔50が設けられ、この貫通孔50にハブ輪1のハブボルト31が挿通され、ナット部材51がこのハブボルト31に螺合される。この際、基盤46とハブ輪1のフランジ19とが重ね合わされて、基盤46がハブ輪1に取り付けられる。
【0083】
このように、基盤46をハブ輪1に取り付けた後、ネジ軸49が内壁20eからアウトボード側へ突出するように、軸部11のボルト孔36にネジ軸49を螺合させる。このネジ軸49ネジ軸49の突出量は、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さよりも長く設定される。また、ネジ軸49と、押圧用ボルト部材48とは、同一軸心上に配設される。
【0084】
その後は、押圧用ボルト部材48をアウトボード側から基盤46のボルト孔47に螺着し、この状態で、矢印方向にボルト部材48を螺進させる。この際、ネジ軸49と、押圧用ボルト部材48とは、同一軸心上に配設されているので、ボルト部材48がネジ軸49をインボード側に押圧する。これによって、継手外輪4がハブ輪1に対してインボード側へ移動して、ハブ輪1から継手外輪4が外れる。
【0085】
また、ハブ輪1から継手外輪4が外れた状態からは、例えば、ボルト部材37を使用して再度、ハブ輪1と継手外輪4とを連結することができる。すなわち、ハブ輪1から基盤46を取外すとともに、軸部11からネジ軸49を取外した状態として、図6(a)に示すように、軸部11の凸部32をガイド用凹部40に嵌合させる。これによって、軸部11側の凸部32と、前回の圧入によって形成されたハブ輪1の凹部33との位相が合う。
【0086】
この状態で、図7に示すように、ボルト部材37をハブ輪1の貫通孔38を介して軸部11のボルト孔36に螺合させ、ボルト部材37をボルト孔36に対して螺進させる。これによって、図6(b)に示すように、軸部11がハブ輪1内へ嵌入していく。この際、孔部20が僅かに拡径した状態となって、軸部11の軸方向の進入を許容し、加締部29の端面29aに継手外輪4のマウス部10のバック面10aが当接するまで進入する。この場合、同時に図6(c)に示すように、凸部32の端面が凹部33の端面に当接する。そして、このように軸方向の移動が停止すれば、孔部20が元の径に戻ろうとして縮径する。これによって、前回の圧入と同様、凸部32の嵌合部位全体が対応する凹部33に対して密着する凹凸嵌合構造Mが再度構成され、継手外輪4とハブ輪1が再結合される。以上に述べたハブ輪1と継手外輪4の分離、および再結合は、図5および図7に示すように、軸受2の外方部材27を車両のナックル52に取り付けたままの状態で行うことができる。
【0087】
1回目(孔部20の内径面34に凹部33を成形する圧入)の圧入では、圧入荷重が比較的大きいので、軸部11の圧入に際しては、プレス機等を使用する必要がある。これに対して、このような再度の圧入では、圧入荷重が1回目の圧入荷重よりも小さいため、プレス機等を使用することなく、安定して正確に軸部11をハブ輪1の孔部20に圧入することができる。このため、現場での継手外輪4とハブ輪1との分離・連結が可能となる。
【0088】
図2(a),(b)に示す雄スプライン39では、一例として、凸部32のピッチと凹部33のピッチとが同一値に設定されている。このため、図2(b)に示すように、凸部32の高さ方向の中間部において、凸部32の周方向厚さLと、隣接する凸部間の溝幅L0とがほぼ同一となっている。
【0089】
これに対して、図8(a)に示すように、凸部32の高さ方向の中間部において、凸部32の周方向厚さL2を、隣接する凸部間の溝幅L1よりも小さくしてもよい。換言すれば、凸部32の高さ方向の中間部において、軸部11側の凸部32の周方向厚さ(歯厚)L2を、ハブ輪1側の突出部分53の周方向厚さ(歯厚)L1よりも小さくする。
【0090】
各凸部32において上記関係を満たすことにより、軸部11側の凸部32の周方向厚さL2の総和Σ(B1+B2+B3+・・・)を、ハブ輪1側の突出部分53の周方向厚さの総和Σ(A1+A2+A3+・・・)よりも小さく設定することが可能となる。これによって、ハブ輪1側の突出部分53のせん断面積を大きくすることができ、捩り強度を確保することができる。しかも、凸部32の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。
【0091】
この場合、全ての凸部32と突出部分53について、L2<L1の関係を満足させる必要はなく、周方向厚さの総和がハブ輪1側の突出部分53における周方向厚さの総和よりも小さくなる限り、一部の凸部32と突出部分53については、L2=L1とし、あるいはL2>L1に設定することができる。
【0092】
図8(a)では、凸部32を断面台形に形成しているが、図8(b)に示すように、インボリュート形状の断面に形成することもできる。
【0093】
以上の実施形態では、軸部11に雄スプライン39を形成することで、軸部側に凸部32を形成した場合を例示しているが、これとは逆に、図9(a),(b)に示すように、ハブ輪1の孔部20の内径面に雌スプライン54を形成することで、ハブ輪1側に凸部32を形成してもよい。この場合、軸部11に雄スプライン39を形成した場合と同様に、例えば、ハブ輪1に雌スプライン54に熱硬化処理を施し、軸部11の外径面は未焼き状態とする等の手段で、ハブ輪1の凸部32の硬度を軸部の外径面よりもHRCで20ポイント以上硬くする。雌スプライン54は、公知のブローチ加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することができる。熱硬化処理としても、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
【0094】
そして、軸部11をハブ輪1の孔部20に圧入すれば、ハブ輪1側の凸部32で、軸部11の外周面に凸部32と嵌合する凹部33が形成され、これによって、凸部32と凹部33の嵌合部位全体を密着させた凹凸嵌合構造Mが構成される。凸部32と凹部33の嵌合部位は、図9(b)に示す範囲Bである。軸部11の外周面よりも外径側で、かつ周方向に隣り合う凸部32間には隙間55が形成される。
【0095】
凸部32の高さ方向の中間部が、凹部形成前の軸部11の外径面の位置に対応する。すなわち、軸部11の外径寸法D4は、雌スプライン54の凸部32の最小内径寸法D5(雌スプライン54の歯先54aをとおる外接円の直径寸法)よりも大きく、雌スプライン54の最大内径寸法D6(雌スプライン54の歯底54bを結ぶ円の直径寸法)よりも小さく設定される(D5<D4<D6)。
【0096】
なお、この場合であっても、圧入によってはみ出し部42が形成されるので、このはみ出し部42を収納するポケット部43を設けるのが好ましい。はみ出し部42は軸部11のインボード側に形成されるので、ポケット部は、凹凸嵌合構造Mよりもインボード側で、かつハブ輪1側に設ける。
【0097】
このように、ハブ輪1の孔部20の内径面に凹凸嵌合構造Mの凸部32を設ける場合、軸部11側の熱硬化処理を行う必要がないので、等速自在継手3の継手外輪4の生産性に優れる、という利点が得られる。
【0098】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、上記の実施形態では、ハブ輪1に直接ボルト受け面20e1を設けた場合を説明したが、ハブ輪1にリング体などの別部材を装着し、この装着した別部材のアウトボード側端面でボルト受け面を形成するようにしてもよい。この場合、別部材により形成されるボルト受け面に少なくとも硬化処理を施すことになるが、別部材全体に硬化処理を施して、50HRC以上の表面硬さを付与してもよい。
【0099】
また、上記の実施形態では、マウス部10のバック面10aをハブ輪1の端部(上記の実施形態では加締部29の端面29a)と接触させた場合を説明したが、両者を非接触としてもよい。すなわち、図10(a),(b)に示すように、ハブ輪1の加締部29の端面29aとマウス部10のバック面10aとの間に隙間を設けてもよい。このようにすれば、マウス部10とハブ輪1の接触が不適切な状態にある場合に生じる異音の発生を確実に防止することができる。また、この場合、同図(a)に示すように、ハブ輪1の加締部29とマウス部10のバック面10aとの間の隙間にシール部材S3を嵌着し、このシール部材S3でインボード側からの雨水や異物の侵入を防止するようにしてもよい。シール部材S3としては、例えば、図10(a)に示すような市販のOリング等を使用することができるが、ハブ輪1の端部とマウス部10の底部との間に介在可能である限り、Oリング以外にも例えば図10(b)に示すようなガスケット等のようなものも使用できる。
【0100】
また、凹凸嵌合構造Mの凸部32の断面形状は、上述した形状に特に限定されるものではなく、半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の断面形状を採用することができ、凸部32の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。
【0101】
また、ハブ輪1の孔部20としては円孔以外の多角形孔等の異形孔であってよく、この孔部20に嵌挿する軸部11の端部の断面形状も円形断面以外の多角形等の異形断面であってもよい。さらに、ハブ輪1に軸部11を圧入する際には、凸部32の少なくとも圧入開始側の端面を含む端部領域の硬度が、圧入される側の硬度よりも高ければよく、必ずしも凸部32の全体の硬度を高くする必要がない。図2(b)および図9(b)では、スプラインの歯底と凹部33が形成された部材との間に隙間35,55が形成されているが、凸部32間の溝の全体を相手側の部材で充足させてもよい。
【0102】
また、凹部が形成される部材の凹部形成面には、予め、周方向に沿って所定ピッチで配設される小凹部を設けてもよい。小凹部としては、凹部33の容積よりも小さくする必要がある。このように小凹部を設けることによって、凸部32の圧入時に形成されるはみ出し部42の容量を減少させることができるので、圧入抵抗の低減を図ることができる。また、はみ出し部42を少なくできるので、ポケット部43の容積を小さくでき、ポケット部43の加工性及び軸部11の強度の向上を図ることができる。なお、小凹部の形状は、三角形状、半楕円状、矩形等の種々のものを採用でき、数も任意に設定できる。
【0103】
また、上述の実施形態では、ガイド用凹部40の底部が、その径方向深さが圧入方向に沿って一定となる平坦面をなす場合を説明したが、その径方向深さが圧入方向(圧入進行方向)に沿って縮径しながら傾斜する傾斜面をなすようにしてもよい。また、ガイド用凹部40の断面形状としては、凸部32が嵌合可能なものであれば、特に限定されるものではなく、凸部32の断面形状等に応じて種々変更できる。
【0104】
また、軸受2の転動体として、ボール28以外にころを使用することもできる。さらに、前記実施形態では、本発明を第3世代の車輪用軸受装置に適用しているが、第1世代や第2世代、さらには第4世代の車輪軸受装置にも同様に適用することができる。なお、凸部32を圧入する場合、凹部33が形成される側を固定して、凸部32を形成している側を移動させても、逆に、凸部32を形成している側を固定して、凹部33が形成される側を移動させてもよい。あるいは、両者を移動させてもよい。等速自在継手3において、内輪5とシャフト8とを前記各実施形態に記載した凹凸嵌合構造Mを介して一体化してもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 ハブ輪
2 車輪用軸受
3 等速自在継手
4 継手外輪
5 継手内輪
6 ボール
7 ケージ
8 シャフト
10 マウス部
10a バック面
11 軸部
20 孔部
20a 軸部嵌合孔
20b テーパ孔
20c 大径孔
20d テーパ部
20e 内壁
20e1 ボルト受け面
22 内輪
23,24 内側軌道面(インナレース)
25,26 外側軌道面(アウタレース)
27 外方部材
28 ボール
29 加締部
32 凸部
33 凹部
34 内径面
36 ボルト孔
37 ボルト部材
37a 頭部
37a1 座面
37b 軸部
37b1 ネジ部
38 貫通孔
40 ガイド用凹部
42 はみ出し部
43 ポケット部
H1 硬化層
H2 硬化層
M 凹凸嵌合構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の軌道面を有する外方部材と、車輪に取り付けられるハブ輪を含み、前記外方部材の軌道面に対向する複列の軌道面を外周に有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材の軌道面間に介在した複列の転動体とを有する車輪用軸受と、外側継手部材を有する等速自在継手とを備え、前記外側継手部材の軸部と前記ハブ輪の孔部のうち、いずれか一方に設けられた軸方向に延びる凸部を他方に圧入し、該他方に前記凸部により凹部を形成することで、前記凸部と前記凹部との嵌合部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成すると共に、前記外側継手部材の軸部にボルト孔が設けられ、該ボルト孔にボルト部材を螺合した状態で前記ハブ輪と前記外側継手部材とを締結し、前記ボルト部材を取り外した状態での軸方向の引き抜き力付与により前記凹凸嵌合構造の分離を許容する車輪用軸受装置であって、
前記ハブ輪に前記ボルト部材の頭部座面が当接し且つ硬化処理が施されたボルト受け面を設けるとともに、該ボルト受け面の表面硬さを管理対象として設定し、該表面硬さとして50HRC以上の許容値を付与したことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記硬化処理が、高周波焼入れであることを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記外側継手部材の軸部と前記ハブ輪の孔部のうち、一方に設けられた前記凸部の少なくとも圧入開始側の軸方向端部の硬度を、該凸部の圧入により前記凹部が形成される前記他方の凹部形成部の硬度よりも高くしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記外側継手部材の軸部と前記ハブ輪の孔部のうち、凸部が設けられた前記一方に、前記凹部の形成によって生じる前記他方のはみ出し部を収容するポケット部を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記外側継手部材の軸部と前記ハブ輪の孔部のうち、一方に設けられた前記凸部間の歯底部と、該歯底部と半径方向で対向する前記他方の前記凹部形成部との間に隙間が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記凸部を円周方向の複数箇所に設け、前記凸部の高さ方向の中間部において、前記凸部の周方向厚さの総和を、隣接する前記凸部との間の溝幅の総和よりも小さくしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記内方部材が、前記ハブ輪と、該ハブ輪のインボード側の端部の外周に圧入される内輪とで構成され、前記ハブ輪の外周および内輪の外周にそれぞれ前記軌道面が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記外側継手部材のマウス部のバック面と前記ハブ輪の端面とが非接触、又は100MPa以下の接触面圧で接触していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記外側継手部材のマウス部のバック面と前記内方部材との間、又は前記ボルト部材の頭部座面と前記ボルト受け面との間の少なくとも一方をシールしたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項10】
前記凹凸嵌合構造の軸方向位置が、前記車輪用軸受の前記軌道面の直下を避けた位置にあることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項11】
前記外側継手部材と前記ハブ輪とを分離した後に、前記外側継手部材の軸部と前記ハブ輪の孔部のうち、前記一方に形成された前記凸部を前記他方に形成された前記凹部に再圧入して両者を再度結合する際に、前記一方に形成された前記凸部の位相を、前記他方に形成された前記凹部の位相に一致させるガイド用凹部を前記他方の前記凹部の圧入開始側に設けたことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−25259(P2012−25259A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165087(P2010−165087)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】