軌道状態解析方法及び軌道状態解析装置並びに軌道状態解析プログラム
【課題】車両が走行する軌道の状態を検出する軌道状態解析方法及び軌道状態解析装置並びに軌道状態解析プログラムに関し、簡単な構成で、かつ、安価に、精度よく軌道の状態を検出できる軌道状態解析方法及び軌道状態解析装置並びに軌道状態解析プログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、車両が走行する軌道の状態を解析する軌道状態解析方法であって、車両に発生する音響を取得する音響取得手順と、音響取得手順で検出された音響信号を解析して、軌道の状態を解析する解析手順とを有することを特徴とする。
【解決手段】本発明は、車両が走行する軌道の状態を解析する軌道状態解析方法であって、車両に発生する音響を取得する音響取得手順と、音響取得手順で検出された音響信号を解析して、軌道の状態を解析する解析手順とを有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軌道状態解析方法及び軌道状態解析装置並びに軌道状態解析プログラムに係り、特に、車両が走行する軌道の状態を検出する軌道状態解析方法及び軌道状態解析装置並びに軌道状態解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道などの軌道交通システムでは、安全性や乗客の乗り心地は軌道の精度に依存していた。軌道の精度は、軌道建設時の精度の確保や建設後の維持管理が重要となる。軌道建設時の精度の確保や建設後の維持管理ために、通称、ドクターイエローと呼ばれる電気・軌道総合検測車が開発されている。
【0003】
この電気・軌道総合検測車は、電気・軌道の保全に利用できるデータを精度よく得るために、大掛かりな測定システムを用いて高精度の検測を行なっていた。また、電気・軌道総合検測車は、運転手、検測員の随行、営業車両とは別に、営業車両が走行する軌道を走行させる必要があるため、運行計画が必要であり、高価で、かつ、機動性に欠けていた。このため、亜幹線や地方交通線まで、くまなく走行させることには限界があった。
【0004】
軌道の状態を測定する測定システムとしては、地上に設置した測定器によって、車両の通過時に車両の走行状態を検出するとともに、車両を撮像した画像情報とを一括して遠隔地に転送して、蓄積し、蓄積したデータから軌道や車両の経時変化を解析するシステムがある(特許文献1参照)。このようなシステムでは、測定器を設置する手間がかかり、また、装置も大掛かりな構成であり、特定の場所の軌道の状態しか検出できなかった。
【0005】
また、検測車の軸箱に加速度センサを設け、加速度センサにより測定した加速度データを連続ウェーブレット変換し、その結果によって、レール波状磨耗を検出するシステムがあった(特許文献2参照)。このシステムでは、検測車が必要であり、運転手、検測員の随行、軌道を走行させるための運行計画が必要であり、高価で、かつ、機動性に欠ける。また、営業車両を用いる場合であっても、軸箱に加速度センサを設定する必要があり、軸箱から車内に配線を行なう必要があり、大掛かりな構成となっていた。
【0006】
さらに、車両基地内の走行レールの一部に継ぎ目を持たせ、このレールの継ぎ目を一定の速度で通過させ、地上設備により台車や車体に発生する音を検知し、異常があるか否かを判定するシステムがあった(特許文献3参照)。このシステムでは、測定器を設置する手間がかかり、また、装置も大掛かりな構成であり、特定の場所の軌道の状態しか検出できなかった。
【特許文献1】特開2000−182580号公報
【特許文献2】特開2000−136988号公報
【特許文献3】特開2003−114637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の軌道状態を検出するためのシステムは、いずれも、測定システムが大掛かりで高価な構成となってしまい、亜幹線や地方交通線まで、くまなく設置することはできない。
【0008】
また、加速度データを連続ウェーブレット変換し、その結果によって、レール波状磨耗を検出する場合には、処理が複雑であるため、測定システムが大掛かりになってしまう。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、簡単な構成で、かつ、安価に、精度よく軌道の状態を検出できる軌道状態解析方法及び軌道状態解析装置並びに軌道状態解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、音響検出手段が搭載された車両が軌道上を走行して、該軌道の状態を解析する軌道状態解析方法であって、音響検出手段で検出された音響を取得する音響取得手順と、音響取得手順で検出された音響信号を解析して、軌道の状態を解析する解析手順とを有することを特徴とする。
【0011】
また、音響検出手段は、台車近傍、あるいは、車体の内部に搭載されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明は、取得された音響信号をフーリエ変換し、その所定時間毎のピーク値に基づいて軌道の状態を検出することを特徴とする。また、本発明は、軌道の状態として波状磨耗の状態を解析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両に発生する音響を取得し、取得した音響信号を解析して、軌道の状態を解析することにより、簡単な構成でき、軌道状態を解析することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔第1実施例〕
〔システム構成〕
図1は本発明の一実施例の概略図を示す。
【0015】
本実施例の軌道状態検出装置111は、例えば、鉄道など軌道112上を走行する車両113に搭載されて、車両113の騒音を検出し、検出された騒音から軌道112のレール波状磨耗などの異常状態などを検出する。レール波状摩耗は、レール上の曲線内軌に発生する波高が0.1mm程度、波長が5〜10cm程度の微小な磨耗で軌道材料の損傷や騒音を引き起こす原因となるものである。
【0016】
車両113は、例えば、旅客営業車両であり、台車121、及び、車体122から構成されている。台車121は、軌道112上で回転する車輪131が回転可能に取り付けられており、サスペンション132を介して車体122に取り付けられている。
【0017】
図2は軌道状態検出装置111のブロック構成図を示す。
【0018】
軌道状態検出装置111は、マイクロフォン141、インタフェース142、コンピュータシステム143、位置速度検出装置144から構成されている。
【0019】
マイクロフォン141は、台車121又は車体122の内部に設けられ、車両113の走行音を含む騒音を検出する。マイクロフォン141で検出された音響信号は、インタフェース142に供給される。
【0020】
インタフェース142は、マイクロフォン141とコンピュータシステム143とのインタフェースをとっており、マイクロフォン141で取得した音響信号をディジタルデータに変換してコンピュータシステム143に入力する。
【0021】
コンピュータシステム143は、例えば、パーソナルコンピュータシステムから構成されており、処理装置151、入力装置152、記憶装置153、表示装置154から構成されている。
【0022】
処理装置151は、記憶装置153にインストールされた軌道状態解析プログラムに基づいてデータ処理が実行されており、インタフェース143から供給される音響データ及び位置・速度データを記憶装置153に記憶するとともに、記憶された音響データ及び位置・速度データに基づいて、例えば、波状磨耗などの軌道状態の解析を行なう。記憶装置153は、ハードディスクドライブ、メモリ、ディスクドライブなどから構成されており、軌道状態解析プログラムがインストールされているとともに、音響データが記憶される。また、記憶装置153は、処理装置151の作業用記憶領域としても用いられる。
【0023】
入力装置152は、キーボード、マウスなどから構成されており、処理装置151に対してデータ入力や各種コマンドの入力を行なう装置である。表示装置154は、CRT、LCDなどから構成されており、処理装置151により実行された軌道状態解析プログラムの解析結果などを表示する。
【0024】
位置速度検出装置144は、車両113の位置及び速度を検出するための装置であり、例えば、GPS測位システムなどから構成されている。
【0025】
〔処理〕
図3は本発明の一実施例の軌道状態解析プログラムの処理フローチャートを示す。
【0026】
処理装置151は、ステップS1−1で音響データを取得すると、ステップS1−2で解析処理を実行する。解析処理は、取得した音響データを窓フーリエ変換して、その結果からレール波状摩耗の状態を解析する。
【0027】
処理装置151は、ステップS1−3で表示装置154に解析結果を表示する。
【0028】
〔解析処理〕
ここで、ステップS1−2での解析処理の詳細について説明を行なう。
【0029】
図4は解析処理の処理フローチャート、図5、図6は解析処理の各処理により得られる信号波形図を示す。
【0030】
処理装置151は、まず、ステップS2−1で位置速度検出装置144から現在の車両の位置と速度を取得する。位置速度検出装置144は、車両の位置及び速度を検出するものであり、例えばGPSを用いた測位装置などを用いることが可能である。
【0031】
処理装置151は、ステップS2−2で車両が走行中か否かを判定する。車両が走行中か否かは、例えば、ステップS2−1で取得した車両位置及び速度情報から判定できる。
【0032】
処理装置151は、ステップS2−3でマイクロフォン141からの音響信号から音響データを取得する。処理装置151で取得する音響データは、マイクロフォン141からの信号をサンプリングした音響波形データである。
【0033】
処理装置151は、ステップS2−4で取得した音響データを記憶装置153に蓄積する。次に、処理装置151は、ステップS2−5で蓄積データの時間がウィンドウ幅より大きいか否か、(蓄積データ)≧(ウィンドウ幅)を判定する。
【0034】
処理装置151は、ステップS2−5で蓄積データの時間が設定したウィンドウ幅以上であれば、ステップS2−6でウィンドウ幅の音響データを記憶装置153から読み出す。例えば、図5(A)に示すような音響波形がウィンドウで切り出される。
なお、このとき、処理装置151は記憶装置153の読み出されたウィンドウ幅よりも過去の蓄積データを削除する。
【0035】
次に処理装置151は、ステップS2−7で読み出した音響データに対して窓関数をかける。なお、窓関数を使用しない場合、この処理は省略できる。
【0036】
処理装置151は、ステップS2−10で取り出した音響波形データに対して高速フーリエ変換(FFT)を行う。図5(A)に示す音響波形に高速フーリエ変換を行なうことにより図5(B)に示すようなスペクトル波形が得られる。
【0037】
処理装置151は、ステップS2−9で高速フーリエ変換されたデータに対してスムージング処理を行なう。スムージング処理により、高速フーリエ変換を行ったスペクトル波形が平滑化される。なお、スムージング処理は、例えば、移動平均処理などである。例えば、図5(B)に示すスペクトル波形にスムージング処理を行なうことにより図5(C)に示すようなスペクトル波形が得られる。
【0038】
次に、処理装置151は、ステップS2−10でピーク検索を行なう。ピーク検索により、波状摩耗のとり得る周波数帯域でスペクトルが最大となる点、ピークを検索し、ピーク高とピーク周波数を取得する。例えば図6(A)に示すようにスムージング処理を施したスペクトル波形において波状磨耗のとり得る周波数帯域100〜200Hzで、ピーク検索を行なうことにより、ピークPmax、ピーク周波数fpeakが得られる。
【0039】
処理装置151は、ステップS2−11で、ステップS2−10で取得したピーク周波数とステップS2−1で取得した車両速度からピーク周波数の波長を計算する。なお、ここで、ステップS2−1で取得した車両速度からピーク高を補正してもよい。
【0040】
次に処理装置151は、ステップS2−12で、取得した車両の位置、ピーク高、波長等の計測値・解析値を記憶装置153に記録する。例えば、上記のようにスペクトルを逐次計算し、時々刻々変化するピーク高Pmaxを出力することにより、図6(B)に示すような波形が得られる。
【0041】
処理装置151は、ステップS2−13で測定処理が終了するまで、ステップS2−1〜ステップS2−12を繰り返す。
【0042】
以上のようにして、記憶装置153に記憶された測定値・解析値により波状磨耗を検出することが可能となる。例えば、図6(B)に示す波形において閾値を設定し、閾値より大きいピーク高の部分を波状磨耗と判定し、また、その閾値より大きいピーク値の時刻を特定することによりその発生位置を特定できる。
【0043】
〔解析結果〕
次に上記解析処理により行なった解析結果について説明する。
【0044】
図7は、波状磨耗を含むR247の曲線区間の軌道を走行したときの床下騒音を示す図である。
【0045】
図7において17秒から20秒付近において波状摩耗特有の騒音が生じているが、時系列信号から確認することはできない。
【0046】
図8は図7の17秒から20秒のPSD波形図を示す。
【0047】
図8に示されるPSD波形は、フーリエ変換によって得られたパワースペクトルの単位周波数当りの密度であり、約200〔Hz〕にピークが見られる。これは、波状摩耗に対応する周波数であり、パワースペクトルのピークを評価することにより波状摩耗を検出できることがわかる。
【0048】
次に、営業運転を行っている車両113の室内の騒音を、マイクロフォン141で取得し、解析を行なった結果をについて説明する。なお、ここで、マイクロフォン141は、単一指向性のものを用い、床上約1mの高さで下に向けて配置している。
【0049】
図9は波状摩耗特有の騒音が生じた曲線を含む車内騒音の波形図を示す。
【0050】
この場合、10秒から15秒付近において振幅の増加が見られ、波状磨耗によるものと思われる。
【0051】
図10は0から25秒の間のPSDの結果を示す図である。
【0052】
図10に示されるように130Hz付近に小さなピークが見られ、対象の区間に波状摩耗が含まれていることがわかる。図9に示される時系列データでは、ジョイントノイズを含んでおり、騒音レベルによって波状摩耗を判別することは困難である。
【0053】
図11はピーク値の時間変化を示す図である。
【0054】
図11に示されるようにピーク値の時間変化ではジョイントノイズは除去され、より明瞭に波状摩耗が検出できる。これらの結果から車内騒音から波状摩耗を検出することにより、レール波状磨耗を確実に検出できることがわかる。
【0055】
本実施例によれば、マイクロフォンにより車両の内部或いは外部の騒音を検出し、検出した騒音をコンピュータシステムに入力するだけで、レール波状磨耗の解析が可能であるので、簡単な構成で、システムを構築できる。また、車両の騒音をレコーダに記録し、後にコンピュータシステムで解析を行なうことも可能であり、容易に適用することができる。このとき、レコーダとして特別なものは必要なく、単に、音声を録音できるものであればよいので、簡単に、かつ、安価に実施できる。
【0056】
さらに、信号の処理としては窓フーリエ変換を行ない、そのピーク値の時間変化を求めるだけであるので、高速に信号処理を行なえ、リアルタイムにレール波状磨耗の検出を行なうことができる。また、解析結果に時間情報が含まれるため、レール波状磨耗が発生している位置も容易に認識することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施例の概略図である。
【図2】軌道状態検出装置111のブロック構成図である。
【図3】本発明の一実施例の軌道状態解析プログラムの処理フローチャートである。
【図4】解析処理の処理フローチャートである。
【図5】解析処理の各処理により得られる信号波形図である。
【図6】解析処理の各処理により得られる信号波形図である。
【図7】R247の曲線区間を走行したときの床下騒音を示す図である。
【図8】図7の17秒から20秒のPSD波形図である。
【図9】波状摩耗特有の騒音が生じた曲線を含む車内騒音の波形図である。
【図10】0から25秒の間のPSDの結果を示す図である。
【図11】ピーク値の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
111 軌道状態解析装置、112 軌道、113 車両
121 台車、122 車体
131 車輪、132 サスペンション
141マイクロフォン、142 インタフェース、143 コンピュータシステム
144 位置速度検出装置
151 処理装置、152 入力装置、153 記憶装置、154 表示装置
【技術分野】
【0001】
本発明は軌道状態解析方法及び軌道状態解析装置並びに軌道状態解析プログラムに係り、特に、車両が走行する軌道の状態を検出する軌道状態解析方法及び軌道状態解析装置並びに軌道状態解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道などの軌道交通システムでは、安全性や乗客の乗り心地は軌道の精度に依存していた。軌道の精度は、軌道建設時の精度の確保や建設後の維持管理が重要となる。軌道建設時の精度の確保や建設後の維持管理ために、通称、ドクターイエローと呼ばれる電気・軌道総合検測車が開発されている。
【0003】
この電気・軌道総合検測車は、電気・軌道の保全に利用できるデータを精度よく得るために、大掛かりな測定システムを用いて高精度の検測を行なっていた。また、電気・軌道総合検測車は、運転手、検測員の随行、営業車両とは別に、営業車両が走行する軌道を走行させる必要があるため、運行計画が必要であり、高価で、かつ、機動性に欠けていた。このため、亜幹線や地方交通線まで、くまなく走行させることには限界があった。
【0004】
軌道の状態を測定する測定システムとしては、地上に設置した測定器によって、車両の通過時に車両の走行状態を検出するとともに、車両を撮像した画像情報とを一括して遠隔地に転送して、蓄積し、蓄積したデータから軌道や車両の経時変化を解析するシステムがある(特許文献1参照)。このようなシステムでは、測定器を設置する手間がかかり、また、装置も大掛かりな構成であり、特定の場所の軌道の状態しか検出できなかった。
【0005】
また、検測車の軸箱に加速度センサを設け、加速度センサにより測定した加速度データを連続ウェーブレット変換し、その結果によって、レール波状磨耗を検出するシステムがあった(特許文献2参照)。このシステムでは、検測車が必要であり、運転手、検測員の随行、軌道を走行させるための運行計画が必要であり、高価で、かつ、機動性に欠ける。また、営業車両を用いる場合であっても、軸箱に加速度センサを設定する必要があり、軸箱から車内に配線を行なう必要があり、大掛かりな構成となっていた。
【0006】
さらに、車両基地内の走行レールの一部に継ぎ目を持たせ、このレールの継ぎ目を一定の速度で通過させ、地上設備により台車や車体に発生する音を検知し、異常があるか否かを判定するシステムがあった(特許文献3参照)。このシステムでは、測定器を設置する手間がかかり、また、装置も大掛かりな構成であり、特定の場所の軌道の状態しか検出できなかった。
【特許文献1】特開2000−182580号公報
【特許文献2】特開2000−136988号公報
【特許文献3】特開2003−114637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の軌道状態を検出するためのシステムは、いずれも、測定システムが大掛かりで高価な構成となってしまい、亜幹線や地方交通線まで、くまなく設置することはできない。
【0008】
また、加速度データを連続ウェーブレット変換し、その結果によって、レール波状磨耗を検出する場合には、処理が複雑であるため、測定システムが大掛かりになってしまう。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、簡単な構成で、かつ、安価に、精度よく軌道の状態を検出できる軌道状態解析方法及び軌道状態解析装置並びに軌道状態解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、音響検出手段が搭載された車両が軌道上を走行して、該軌道の状態を解析する軌道状態解析方法であって、音響検出手段で検出された音響を取得する音響取得手順と、音響取得手順で検出された音響信号を解析して、軌道の状態を解析する解析手順とを有することを特徴とする。
【0011】
また、音響検出手段は、台車近傍、あるいは、車体の内部に搭載されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明は、取得された音響信号をフーリエ変換し、その所定時間毎のピーク値に基づいて軌道の状態を検出することを特徴とする。また、本発明は、軌道の状態として波状磨耗の状態を解析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両に発生する音響を取得し、取得した音響信号を解析して、軌道の状態を解析することにより、簡単な構成でき、軌道状態を解析することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔第1実施例〕
〔システム構成〕
図1は本発明の一実施例の概略図を示す。
【0015】
本実施例の軌道状態検出装置111は、例えば、鉄道など軌道112上を走行する車両113に搭載されて、車両113の騒音を検出し、検出された騒音から軌道112のレール波状磨耗などの異常状態などを検出する。レール波状摩耗は、レール上の曲線内軌に発生する波高が0.1mm程度、波長が5〜10cm程度の微小な磨耗で軌道材料の損傷や騒音を引き起こす原因となるものである。
【0016】
車両113は、例えば、旅客営業車両であり、台車121、及び、車体122から構成されている。台車121は、軌道112上で回転する車輪131が回転可能に取り付けられており、サスペンション132を介して車体122に取り付けられている。
【0017】
図2は軌道状態検出装置111のブロック構成図を示す。
【0018】
軌道状態検出装置111は、マイクロフォン141、インタフェース142、コンピュータシステム143、位置速度検出装置144から構成されている。
【0019】
マイクロフォン141は、台車121又は車体122の内部に設けられ、車両113の走行音を含む騒音を検出する。マイクロフォン141で検出された音響信号は、インタフェース142に供給される。
【0020】
インタフェース142は、マイクロフォン141とコンピュータシステム143とのインタフェースをとっており、マイクロフォン141で取得した音響信号をディジタルデータに変換してコンピュータシステム143に入力する。
【0021】
コンピュータシステム143は、例えば、パーソナルコンピュータシステムから構成されており、処理装置151、入力装置152、記憶装置153、表示装置154から構成されている。
【0022】
処理装置151は、記憶装置153にインストールされた軌道状態解析プログラムに基づいてデータ処理が実行されており、インタフェース143から供給される音響データ及び位置・速度データを記憶装置153に記憶するとともに、記憶された音響データ及び位置・速度データに基づいて、例えば、波状磨耗などの軌道状態の解析を行なう。記憶装置153は、ハードディスクドライブ、メモリ、ディスクドライブなどから構成されており、軌道状態解析プログラムがインストールされているとともに、音響データが記憶される。また、記憶装置153は、処理装置151の作業用記憶領域としても用いられる。
【0023】
入力装置152は、キーボード、マウスなどから構成されており、処理装置151に対してデータ入力や各種コマンドの入力を行なう装置である。表示装置154は、CRT、LCDなどから構成されており、処理装置151により実行された軌道状態解析プログラムの解析結果などを表示する。
【0024】
位置速度検出装置144は、車両113の位置及び速度を検出するための装置であり、例えば、GPS測位システムなどから構成されている。
【0025】
〔処理〕
図3は本発明の一実施例の軌道状態解析プログラムの処理フローチャートを示す。
【0026】
処理装置151は、ステップS1−1で音響データを取得すると、ステップS1−2で解析処理を実行する。解析処理は、取得した音響データを窓フーリエ変換して、その結果からレール波状摩耗の状態を解析する。
【0027】
処理装置151は、ステップS1−3で表示装置154に解析結果を表示する。
【0028】
〔解析処理〕
ここで、ステップS1−2での解析処理の詳細について説明を行なう。
【0029】
図4は解析処理の処理フローチャート、図5、図6は解析処理の各処理により得られる信号波形図を示す。
【0030】
処理装置151は、まず、ステップS2−1で位置速度検出装置144から現在の車両の位置と速度を取得する。位置速度検出装置144は、車両の位置及び速度を検出するものであり、例えばGPSを用いた測位装置などを用いることが可能である。
【0031】
処理装置151は、ステップS2−2で車両が走行中か否かを判定する。車両が走行中か否かは、例えば、ステップS2−1で取得した車両位置及び速度情報から判定できる。
【0032】
処理装置151は、ステップS2−3でマイクロフォン141からの音響信号から音響データを取得する。処理装置151で取得する音響データは、マイクロフォン141からの信号をサンプリングした音響波形データである。
【0033】
処理装置151は、ステップS2−4で取得した音響データを記憶装置153に蓄積する。次に、処理装置151は、ステップS2−5で蓄積データの時間がウィンドウ幅より大きいか否か、(蓄積データ)≧(ウィンドウ幅)を判定する。
【0034】
処理装置151は、ステップS2−5で蓄積データの時間が設定したウィンドウ幅以上であれば、ステップS2−6でウィンドウ幅の音響データを記憶装置153から読み出す。例えば、図5(A)に示すような音響波形がウィンドウで切り出される。
なお、このとき、処理装置151は記憶装置153の読み出されたウィンドウ幅よりも過去の蓄積データを削除する。
【0035】
次に処理装置151は、ステップS2−7で読み出した音響データに対して窓関数をかける。なお、窓関数を使用しない場合、この処理は省略できる。
【0036】
処理装置151は、ステップS2−10で取り出した音響波形データに対して高速フーリエ変換(FFT)を行う。図5(A)に示す音響波形に高速フーリエ変換を行なうことにより図5(B)に示すようなスペクトル波形が得られる。
【0037】
処理装置151は、ステップS2−9で高速フーリエ変換されたデータに対してスムージング処理を行なう。スムージング処理により、高速フーリエ変換を行ったスペクトル波形が平滑化される。なお、スムージング処理は、例えば、移動平均処理などである。例えば、図5(B)に示すスペクトル波形にスムージング処理を行なうことにより図5(C)に示すようなスペクトル波形が得られる。
【0038】
次に、処理装置151は、ステップS2−10でピーク検索を行なう。ピーク検索により、波状摩耗のとり得る周波数帯域でスペクトルが最大となる点、ピークを検索し、ピーク高とピーク周波数を取得する。例えば図6(A)に示すようにスムージング処理を施したスペクトル波形において波状磨耗のとり得る周波数帯域100〜200Hzで、ピーク検索を行なうことにより、ピークPmax、ピーク周波数fpeakが得られる。
【0039】
処理装置151は、ステップS2−11で、ステップS2−10で取得したピーク周波数とステップS2−1で取得した車両速度からピーク周波数の波長を計算する。なお、ここで、ステップS2−1で取得した車両速度からピーク高を補正してもよい。
【0040】
次に処理装置151は、ステップS2−12で、取得した車両の位置、ピーク高、波長等の計測値・解析値を記憶装置153に記録する。例えば、上記のようにスペクトルを逐次計算し、時々刻々変化するピーク高Pmaxを出力することにより、図6(B)に示すような波形が得られる。
【0041】
処理装置151は、ステップS2−13で測定処理が終了するまで、ステップS2−1〜ステップS2−12を繰り返す。
【0042】
以上のようにして、記憶装置153に記憶された測定値・解析値により波状磨耗を検出することが可能となる。例えば、図6(B)に示す波形において閾値を設定し、閾値より大きいピーク高の部分を波状磨耗と判定し、また、その閾値より大きいピーク値の時刻を特定することによりその発生位置を特定できる。
【0043】
〔解析結果〕
次に上記解析処理により行なった解析結果について説明する。
【0044】
図7は、波状磨耗を含むR247の曲線区間の軌道を走行したときの床下騒音を示す図である。
【0045】
図7において17秒から20秒付近において波状摩耗特有の騒音が生じているが、時系列信号から確認することはできない。
【0046】
図8は図7の17秒から20秒のPSD波形図を示す。
【0047】
図8に示されるPSD波形は、フーリエ変換によって得られたパワースペクトルの単位周波数当りの密度であり、約200〔Hz〕にピークが見られる。これは、波状摩耗に対応する周波数であり、パワースペクトルのピークを評価することにより波状摩耗を検出できることがわかる。
【0048】
次に、営業運転を行っている車両113の室内の騒音を、マイクロフォン141で取得し、解析を行なった結果をについて説明する。なお、ここで、マイクロフォン141は、単一指向性のものを用い、床上約1mの高さで下に向けて配置している。
【0049】
図9は波状摩耗特有の騒音が生じた曲線を含む車内騒音の波形図を示す。
【0050】
この場合、10秒から15秒付近において振幅の増加が見られ、波状磨耗によるものと思われる。
【0051】
図10は0から25秒の間のPSDの結果を示す図である。
【0052】
図10に示されるように130Hz付近に小さなピークが見られ、対象の区間に波状摩耗が含まれていることがわかる。図9に示される時系列データでは、ジョイントノイズを含んでおり、騒音レベルによって波状摩耗を判別することは困難である。
【0053】
図11はピーク値の時間変化を示す図である。
【0054】
図11に示されるようにピーク値の時間変化ではジョイントノイズは除去され、より明瞭に波状摩耗が検出できる。これらの結果から車内騒音から波状摩耗を検出することにより、レール波状磨耗を確実に検出できることがわかる。
【0055】
本実施例によれば、マイクロフォンにより車両の内部或いは外部の騒音を検出し、検出した騒音をコンピュータシステムに入力するだけで、レール波状磨耗の解析が可能であるので、簡単な構成で、システムを構築できる。また、車両の騒音をレコーダに記録し、後にコンピュータシステムで解析を行なうことも可能であり、容易に適用することができる。このとき、レコーダとして特別なものは必要なく、単に、音声を録音できるものであればよいので、簡単に、かつ、安価に実施できる。
【0056】
さらに、信号の処理としては窓フーリエ変換を行ない、そのピーク値の時間変化を求めるだけであるので、高速に信号処理を行なえ、リアルタイムにレール波状磨耗の検出を行なうことができる。また、解析結果に時間情報が含まれるため、レール波状磨耗が発生している位置も容易に認識することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施例の概略図である。
【図2】軌道状態検出装置111のブロック構成図である。
【図3】本発明の一実施例の軌道状態解析プログラムの処理フローチャートである。
【図4】解析処理の処理フローチャートである。
【図5】解析処理の各処理により得られる信号波形図である。
【図6】解析処理の各処理により得られる信号波形図である。
【図7】R247の曲線区間を走行したときの床下騒音を示す図である。
【図8】図7の17秒から20秒のPSD波形図である。
【図9】波状摩耗特有の騒音が生じた曲線を含む車内騒音の波形図である。
【図10】0から25秒の間のPSDの結果を示す図である。
【図11】ピーク値の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
111 軌道状態解析装置、112 軌道、113 車両
121 台車、122 車体
131 車輪、132 サスペンション
141マイクロフォン、142 インタフェース、143 コンピュータシステム
144 位置速度検出装置
151 処理装置、152 入力装置、153 記憶装置、154 表示装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響検出手段が搭載された車両が軌道上を走行して、該軌道の状態を解析する軌道状態解析方法であって、
前記音響検出手段で検出された音響を取得する音響取得手順と、
前記音響取得手順で検出された音響信号を解析して、前記軌道の状態を解析する解析手順とを有することを特徴とする軌道状態解析方法。
【請求項2】
前記解析手順は、前記音響取得手順で取得された音響信号をフーリエ変換し、その所定時間毎のピーク値に基づいて軌道の状態を検出することを特徴とする請求項1記載の軌道状態解析方法。
【請求項3】
前記音響検出手段は、台車近傍に搭載されていることを特徴とする請求項1記載の軌道状態解析方法。
【請求項4】
前記音響検出手段は、前記車体の内部に搭載されていることを特徴とする請求項1記載の軌道状態解析方法。
【請求項5】
前記解析手順は、前記軌道の状態として波状磨耗の状態を解析することを特徴とする請求項1記載の軌道状態解析方法。
【請求項6】
車両が走行する軌道の状態を解析する軌道状態解析装置であって、
前記車両に搭載され、音響を検出する音響検出手段と、
前記音響検出手段で検出された音響信号を解析して、前記軌道の状態を解析する解析手段とを有することを特徴とする軌道状態解析装置。
【請求項7】
前記解析手段は、前記音響検出手段で検出された音響信号をフーリエ変換し、その所定時間毎のピーク値に基づいて軌道の状態を検出することを特徴とする請求項6記載の軌道状態解析装置。
【請求項8】
前記音響検出手段は、台車近傍に搭載されていることを特徴とする請求項6記載の軌道状態解析装置。
【請求項9】
前記音響検出手段は、前記車体の内部に搭載されていることを特徴とする請求項6記載の軌道状態解析装置。
【請求項10】
前記解析手段は、前記軌道の状態として波状磨耗の状態を解析することを特徴とする請求項6記載の軌道状態解析装置。
【請求項11】
コンピュータに、
軌道上を走行する車両に搭載されている音響検出手段により検出された音響信号を取得する音響取得手順と、
前記音響取得手順で取得された音響信号を解析して、前記軌道の状態を解析する解析手順とを実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項12】
前記解析手順は、前記音響取得手順で取得された音響信号をフーリエ変換し、その所定時間毎のピーク値に基づいて軌道の状態を解析することを特徴とする請求項11記載のプログラム。
【請求項13】
前記解析手順は、前記軌道の状態として波状磨耗の状態を解析することを特徴とする請求項11記載のプログラム。
【請求項1】
音響検出手段が搭載された車両が軌道上を走行して、該軌道の状態を解析する軌道状態解析方法であって、
前記音響検出手段で検出された音響を取得する音響取得手順と、
前記音響取得手順で検出された音響信号を解析して、前記軌道の状態を解析する解析手順とを有することを特徴とする軌道状態解析方法。
【請求項2】
前記解析手順は、前記音響取得手順で取得された音響信号をフーリエ変換し、その所定時間毎のピーク値に基づいて軌道の状態を検出することを特徴とする請求項1記載の軌道状態解析方法。
【請求項3】
前記音響検出手段は、台車近傍に搭載されていることを特徴とする請求項1記載の軌道状態解析方法。
【請求項4】
前記音響検出手段は、前記車体の内部に搭載されていることを特徴とする請求項1記載の軌道状態解析方法。
【請求項5】
前記解析手順は、前記軌道の状態として波状磨耗の状態を解析することを特徴とする請求項1記載の軌道状態解析方法。
【請求項6】
車両が走行する軌道の状態を解析する軌道状態解析装置であって、
前記車両に搭載され、音響を検出する音響検出手段と、
前記音響検出手段で検出された音響信号を解析して、前記軌道の状態を解析する解析手段とを有することを特徴とする軌道状態解析装置。
【請求項7】
前記解析手段は、前記音響検出手段で検出された音響信号をフーリエ変換し、その所定時間毎のピーク値に基づいて軌道の状態を検出することを特徴とする請求項6記載の軌道状態解析装置。
【請求項8】
前記音響検出手段は、台車近傍に搭載されていることを特徴とする請求項6記載の軌道状態解析装置。
【請求項9】
前記音響検出手段は、前記車体の内部に搭載されていることを特徴とする請求項6記載の軌道状態解析装置。
【請求項10】
前記解析手段は、前記軌道の状態として波状磨耗の状態を解析することを特徴とする請求項6記載の軌道状態解析装置。
【請求項11】
コンピュータに、
軌道上を走行する車両に搭載されている音響検出手段により検出された音響信号を取得する音響取得手順と、
前記音響取得手順で取得された音響信号を解析して、前記軌道の状態を解析する解析手順とを実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項12】
前記解析手順は、前記音響取得手順で取得された音響信号をフーリエ変換し、その所定時間毎のピーク値に基づいて軌道の状態を解析することを特徴とする請求項11記載のプログラム。
【請求項13】
前記解析手順は、前記軌道の状態として波状磨耗の状態を解析することを特徴とする請求項11記載のプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−145270(P2007−145270A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345348(P2005−345348)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(301028761)独立行政法人交通安全環境研究所 (55)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(301028761)独立行政法人交通安全環境研究所 (55)
【Fターム(参考)】
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