説明

軌道用鋼製レールの非破壊検査方法

【課題】 軌道用鋼製レールの表面に材質異常部が生じた場合でも、これを目視確認を伴うことなく自動、且つ、高精度に判定することを可能とする方法を提供する。
【解決手段】フラッシュバット溶接により接合された複数の軌道用鋼製レールの表面に生じる材質異常部を渦流探傷プローブ11aから出力される信号に基づいて検出する軌道用鋼製レールの非破壊検査方法において、レール表面1aのレール長手方向に沿って渦流探傷プローブ11aを走査させることにより直線的な渦流探傷検査を行ってから、レール表面1aにおいてレール長手方向に直交する方向Aに渦流探傷プローブ11aを移動させ、その後に渦流探傷プローブ11aから出力される信号レベルのゼロ点調整を行うまでを、レール表面の所定範囲において繰り返し実行することによって、当該所定範囲についての渦流探傷検査を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道用鋼製レール(以下、単に「レール」ともいう。)表面に生じる材質異常部を検出する軌道用鋼製レールの非破壊検査方法に関し、特に、レール溶接工場内又はレール敷設現場においてフラッシュバット溶接により複数のレールを直列に接合する際に、電極とレールの接触面及びその近傍に生じる材質異常部を検出する上で好適な軌道用鋼製レールの非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道用鋼製レールは、鉄道車両の荷重を支持するためのものであり、車両が通過する毎に、大きな繰り返し荷重が加わる。このため、製造時又は溶接時にレール内部又は表面に発生した疵欠陥、或いは、鉄道軌道としての使用中に作用する繰り返し荷重によって生成、成長した欠陥等を看過すると、これら疵欠陥等を起点とした破壊が生じることにより重大な事故につながる恐れがある。
【0003】
また、軌道用鋼製レールの製造、敷設時には、長尺レール製造のために工場溶接、現場溶接が行われるところ、この鋼製レールの溶接時には、溶接時間の短縮、熱影響の低減を目的として、フラッシュバット溶接が多用されている。このフラッシュバット溶接は、互いのレール長手方向端部を突き合わせた二つのレールに対して、これらレールに押し当てた電極から大電流を通電させることによって、各レールの長手方向端部同士を溶接するものである。この電極をレールに押し当てる方式としては、電極をレール柱部の表面に左右水平方向から押し当てる方式と、レール頭部及び脚部の表面に上下垂直方向から押し当てる方式との二通りの方式が採用されている。
【0004】
レール溶接工場内又はレール敷設現場でのフラッシュバット溶接においては、電極とレール間の接触抵抗が不均一なために部分的に電流集中が生じたり、電極とレール表面との間で部分的に放電が生じたりすることによって、レール表面の一部が局所的に大きく加熱される場合がある。この場合、その加熱後の急冷により、局所的に加熱された部位にマルテンサイト組織が生じてしまい、硬度が周辺部に比べ局所的に極めて高い材質異常部が生じてしまう。
【0005】
特に、軌道用鋼製レールは、0.7質量%以上もの炭素量を含むパーライト鋼が使われる場合が多く、元々焼き入れ性が高いものであるため、このような材質異常部が生じやすいものとなっている。
【0006】
このような材質異常部がレール表面に生じた場合、上記の疵欠陥と同様に、その材質異常部への繰り返し荷重が加わった際に、その材質異常部を起点とした破壊が生じることによって重大な事故につながる恐れがある。
【0007】
このようなレール表面の材質異常部は、レール表面の変色を伴うため、溶接オペレータによる目視確認は可能であるが、材質異常部が微小な場合や、特にレールの裏面に材質異常部が生じた場合はこれを見逃す可能性が考えられる。また、電極表面のメンテナンス、電極のレールへの押付け方法、溶接電流の制御方法等により、材質異常部の発生頻度を低減することは可能であるが、皆無にすることは困難である。このような理由や、溶接オペレータの負荷を軽減する観点から、目視確認を伴うことなく自動で軌道用鋼製レール表面の材質異常部を検出する方法の確立が望まれていた。
【0008】
ここで、従来から、軌道用鋼製レールのフラッシュバット溶接後には、非破壊検査が行われているが、その目的は、レールの表面又は内部に生じた疵欠陥の有無を調べるためとなっている。このようなレールの非破壊検査手法としては、レールの形状、材質、検査環境等に応じて、放射線透過試験法、磁粉探傷試験法、超音波探傷法、浸透探傷試験法、渦流探傷試験法等、種々の試験方法が使い分けられている。これらの非破壊検査法の内、磁粉探傷試験法、浸透探傷試験法及び渦流探傷試験法は、主として、表面疵欠陥の検査に適した手法である。一方、放射線透過試験法及び超音波探傷法は、主として、内部疵欠陥の検出に適した手法である。
【0009】
特に、超音波探傷法は、放射線透過試験法に比べて、安全かつ簡便に内部欠陥を検出することができるので、レール溶接工場内及びレールを敷設した後の現場において、レールの内部に形成された割れ、ブローホール、鋳巣等を検出するために頻繁に用いられている。例えば、特許文献1では、レールに超音波探傷法を適用する際に用いられるレール探傷補助具が開示されている。これは、レール溶接工場内の出荷前検査のみならず、現場に敷設した後のレールに対しても適用でき、構造が簡便であり、かつ検査精度、位置精度及び作業効率に優れたものとなっている。このレール探傷補助具は、レール内部の欠陥を超音波探傷により検出するためのプローブを保持するプローブ保持部と、プローブ保持部をレールの長手方向に沿って移動させるスライド部と、スライド部をレールに対して固定する固定部とを備えている。また、スライド部には、プローブの移動量を計測するメジャーが設けられている。さらに、プローブ保持部には、プローブを保持する保持板を上方向に付勢する弾性部材が設けられている。
【0010】
また、渦流探傷法については、特許文献2に、軌道用鋼製レールの継目のように他部材と重なっている部位の検査を容易になし得る渦流探傷プローブ、渦流探傷装置及び渦流探傷方法が開示されている。この特許文献2に開示された渦流探傷プローブは、レールの継目板との隙間に差し込まれて探傷する探傷部と、該探傷部を前記隙間に差し込んで走査させるリード部とを備え、前記探傷部が、プリントコイルからなる探傷コイルを有してなるものであり、その渦流探傷プローブの探傷部をレールの継目板との隙間に差し込んで所定方向に走査しながら探傷をなすものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−188930号公報
【特許文献2】特開2005−221273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の特許文献1に開示されている超音波探傷法及びレール探傷補助具や、特許文献2に開示されている渦流探傷プローブ、渦流探傷装置及び渦流探傷方法は、あくまでレールの表面疵欠陥及び内部疵欠陥を対象とするものであり、切り欠き等の疵欠陥を伴わないような表層のみに形成された焼入組織等の材質異常部の検出には適さないという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、フラッシュバット溶接により直列に接合された複数の軌道用鋼製レールの表面にマルテンサイト組織等の材質異常部が生じた場合でも、これを目視確認を伴うことなく自動、且つ、高精度に検出することを可能とする軌道用鋼製レールの非破壊検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述した課題を解決するために、下記のよう特徴を有するものとなっている。
【0015】
第1の発明に係る軌道用鋼製レールの非破壊検査方法は、フラッシュバット溶接により直列に接合された複数の軌道用鋼製レールの表面に生じる材質異常部を渦流探傷プローブから出力される信号に基づいて検出する軌道用鋼製レールの非破壊検査方法において、前記レール表面のレール長手方向に沿って前記渦流探傷プローブを走査させることにより直線的な渦流探傷検査を行ってから、前記レール表面において前記レール長手方向に直交する方向に前記渦流探傷プローブを移動させ、その後に前記渦流探傷プローブから出力される信号レベルのゼロ点調整を行うまでを、前記レール表面の所定範囲において繰り返し実行することによって、当該所定範囲についての渦流探傷検査を行うことを特徴とする。
【0016】
第2の発明に係る軌道用鋼製レールの非破壊検査方法は、第1の発明において、前記材質異常部の判定対象を、フラッシュバット溶接により接合された軌道用鋼製レールとし、前記渦流探傷検査をすべき所定範囲を、レール長手方向についてはフラッシュバット溶接時に電極とレールとが接触する範囲と、これからさらに溶接部側へ10mm以上30mm以下の間隔を空けた部位までの範囲とを合わせたものとし、前記レール表面において前記レール長手方向に直交する方向についてはフラッショバット溶接時に電極とレールとが接触する範囲とすることを特徴とする。
【0017】
第3の発明に係る軌道用鋼製レール表の非破壊検査方法は、第1又は第2の発明において、レール長手方向に沿っての走査時における前記渦流探傷プローブの移動速度を等速度とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1〜第3の発明によれば、渦流探傷検査時において検査対象となる範囲をレール表面の二次元的な範囲としたうえで、この範囲内に発生する材質異常部を目視確認を伴うことなく自動、且つ、高精度に検出することが可能となる。このため、軌道用鋼製レールの品質管理が容易となり、その使用中に繰り返し荷重が作用した場合に懸念される材質異常部を起点とした破壊による重大事故の発生を未然に防止することが可能となる。また、レール表面に発生した材質異常部の発生範囲や大きさを示す二次元的な分布情報を把握でき、さらにはこれら材質異常部に関する情報の収集、保存、蓄積を容易に行うことが可能となり、ひいては、産業上多大な効果を発揮し得る。
【0019】
第2の発明によれば、レールをフラッシュバット溶接する際に生じ得る材質異常部の大半を確実に検出することが可能となる。また、検査対象となる範囲が過度に広くなるのが抑えられ、検査時間の短縮を図ることが可能となる。
【0020】
第3の発明によれば、渦流探傷検査時において、安定した検出能を得て検出精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を実施するための非破壊検査システムの一例を示すブロック図である。
【図2】探傷検査補助具の動作を説明するための探傷検査補助具の模式的な平面図である。
【図3】(a)は二つのレールのレール長手方向端部同士をフラッシュバット溶接する際の状態を示す斜視図であり、(b)はその正面断面図である。
【図4】フラッシュバット溶接が完了した後のレールの状態を示す斜視図である。
【図5】検査方向をレール長手方向として渦流探傷プローブを走査させる際の走査手順を模式的に示す平面図である。
【図6】検査方向をレール幅方向として渦流探傷プローブを走査させる際の走査手順を模式的に示す平面図である。
【図7】(a)は軌道用鋼製レールをレール幅方向に沿って渦流探傷検査した場合に検出される信号を示す模式図であり、(b)はレール長手方向に沿って渦流探傷検査した場合に検出される信号を示す模式図である。
【図8】(a)は軌道用鋼製レールのレール幅方向端部をレール長手方向に沿って渦流探傷検査した場合に検出される信号を示す模式図であり、(b)はレール幅方向中央部をレール長手方向に沿って渦流探傷検査した場合に検出される信号を示す模式図である。
【図9】渦流探傷プローブを走査させる際の他の走査手順を模式的に示す平面図である。
【図10】材質異常部があると判定された場合に検出される信号を示す模式図である。
【図11】渦流探傷検査後に出力表示される情報の一例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る軌道用鋼製レールの非破壊検査方法の実施形態の一例について、図面を用いて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明を実施するための非破壊検査システム10の一例を示すブロック図である。
【0024】
非破壊検査システム10は、渦流探傷プローブ11aを有し、レール表面1aの渦流探傷検査を行うための渦流探傷装置11と、渦流探傷装置11による渦流探傷検査を補助するための探傷検査補助具20と、探傷検査補助具20の動作を制御するための外部制御装置13と、渦流探傷装置11に接続されたデータレコーダ15と、データレコーダ15に接続された材質異常部判定装置17とを備えている。
【0025】
渦流探傷装置11は、渦流探傷方式に基づいて渦流探傷プローブ11aを用いてレール表面1aの渦流探傷検査を行なう装置である。具体的には、渦流探傷プローブ11aは、レール表面1aに交流磁界を印加することによって渦電流を発生させる励磁コイルと、励磁コイルによって発生したレール表面1aの渦電流による磁界を検出する検出コイルとを備えている。励磁コイルによってレール表面1aに発生した渦電流の大きさは、レール表面1aの材質異常部の有無、分布等によって変化するため、この渦電流の大きさの変化を検出コイルのインピーダンス変化等として検出することによって、レール表面1aの材質異常部を判定することができる。渦流探傷プローブ11aで検出された信号は、渦流探傷装置11においてデジタルデータ化された後、データレコーダ15に送信される。渦流探傷プローブ11a及び渦流探傷装置11は、このような機能を発揮できるものであれば、特にその具体的な構成について限定するものではなく、市販の材質判定用に適したものを使用すればよい。
【0026】
図2は、探傷検査補助具20の動作を説明するための探傷検査補助具20の模式的な平面図である。探傷検査補助具20は、本実施形態において、外側ガイド枠21と、内側ガイドバー23と、プローブ保持装置25とを備えている。
【0027】
外側ガイド枠21は、複数の枠材21aを矩形状に組むことによって構成されている。外側ガイド枠21は、渦流探傷検査時にレール表面1aの検査対象となる範囲がその外側ガイド枠21によって囲まれるように配置されたうえで、レール1又は図示しない他の部材に対して固定される。
【0028】
内側ガイドバー23は、外側ガイド枠21内において十字状をなすように二つ設けられており、その両側のスライド部23aを介して外側ガイド枠21の枠材21aにスライド可能に支持されている。各内側ガイドバー23の一端側のスライド部23aには、モータが内蔵されており、内側ガイドバー23は、モータの駆動によってスライド部23aを介して外側ガイド枠21に案内されて、レール長手方向や、検査対象となるレール表面1aにおいてレール長手方向に直交する方向Aにスライド可能とされている。
【0029】
プローブ保持装置25は、十字状をなしている二つの内側ガイドバー23の交点部23b近傍に設けられており、各内側ガイドバー23に対してスライド部23aを介してスライド可能に支持されている。プローブ保持装置25は、内側ガイドバー23がモータの駆動によって外側ガイド枠21に案内されて、例えば図2(a)に示す方向P1、P2にスライドした際に、図2(b)に示すように、スライド部25aを介して内側ガイドバー23に案内されて、各内側スライドバー23のスライドに応じた方向にスライドすることになる。
【0030】
プローブ保持装置25は、渦流探傷プローブ11aをレール表面1aに押し当てた状態で保持可能とするものである。プローブ保持装置25は、渦流探傷プローブ11aをレール表面1aに安定させて押し当てることができるように、エア圧又はバネ圧を介してこれを押し当てれるように構成されていることが好ましい。また、プローブ保持装置25は、渦流探傷プローブ11aをレール表面1aに対して垂直に押し当てることができる位置調整機能を有することが好ましい。また、プローブ保持装置25は、例えば、エアシリンダ等を内蔵させることによって、レール表面1aに対する法線方向の両側に渦流探傷プローブ11aを駆動可能とするプローブ高さ調整機構を有することが好ましい。
【0031】
探傷検査補助具20は、このように構成されることによって、渦流探傷プローブ11aを保持した状態で、レール表面1aの検査対象となる範囲内において渦流探傷プローブ11aをレール長手方向や方向Aに自在に移動させることを可能としている。このような機能を発揮可能なものであれば、探傷検査補助具20は、上述のような構成に特に限定するものではない。
【0032】
外部制御装置13は、モータによる内側ガイドバー23のレール長手方向の移動速度や移動範囲、更には、モータによる内側ガイドバー23のレール幅方向の移動ピッチ量や移動範囲を設定することによって、渦流探傷プローブ11aの移動条件を制御可能とするものである。なお、この外部制御装置13は、材質異常部判定装置17による制御に基づいて動作可能とされていてもよい。
【0033】
データレコーダ15は、渦流探傷検査によって渦流探傷装置11から出力された信号データを記録するものであり、記録した信号データは材質異常部判定装置17に送信される。データレコーダ15は、市販のものを使用すればよく、特にその具体的な構成について限定されるものではない。
【0034】
材質異常部判定装置17は、データレコーダ15から送信されたデジタルデータとしての信号データを後述するような解析方法に基づき解析することによって、レール表面1aの検査対象範囲についての材質異常部を判定するものである。材質異常部判定装置17は、例えば、後述の解析方法を行なうためのプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)の他に、RAM(Random Access Memory)、ディスプレイ等のハードウェアを有するパーソナルコンピュータ(PC)等のデバイスから構成されるものである。
【0035】
次に、本発明を適用した軌道用鋼製レールの非破壊検査方法の詳細について説明する。
【0036】
本発明は、図3(a)、(b)、図4に示すような軌道用鋼製レール1のレール表面1aに生じる材質異常部を検出するために適用されるものである。以下においては、レール表面1aの検査対象となる範囲が、図3に示すようにフラッシュバット溶接時に用いられる電極33が接触していたレール頭部1c及びレール脚部1eのレール表面1aにおける図4に示すような範囲S0であるとして説明する。
【0037】
本発明において判定対象となる材質異常部とは、レール1をフラッシュバット溶接した際に、レール1の局所的な加熱、急冷によって部分的に生じるマルテンサイト組織のような、硬度が周辺部に比べ局所的に極めて高い部位のことをいう。
【0038】
この材質異常部の大きさは、小さい場合で数mm程度である。また、渦流探傷検査に用いる市販の渦流探傷プローブ11aは、そのプローブ径が数mm程度であるために、渦流探傷プローブ11aを一方向にのみ走査させただけでは検査対象となる範囲内に発生する材質異常部を漏れなく検出することは不可能である。このため、本発明においては、渦流探傷検査時において、レール長手方向や検査対象となるレール表面1aにおいてレール長手方向に直交する方向Aの両方向に渦流探傷プローブ11aを複数回に亘って移動させることによって、レール表面1aの検査対象となる範囲のほぼ全範囲に亘って渦流探傷検査を行なうこととしている。そして、本発明は、これを実現するため、上述したような探傷検査補助具20を用いることとし、レール長手方向や方向Aの両方向に自在に移動可能となるようにしている。
【0039】
ここで、レール表面1aの検査対象となる範囲のほぼ全範囲に亘って行なう渦流探傷検査を効率的に実行できる渦流探傷プローブ11aの走査手順としては、例えば、以下の二種の手順が考えられる。
【0040】
第一の走査手順は、図5に示すように、検査方向をレール長手方向として渦流探傷プローブ11aを走査させて直線的な渦流探傷検査を行った後、そのレール表面1aにおいてレール長手方向に直交する方向であるレール幅方向に所定ピッチ移動させるという動作を繰り返すものである。第二の走査手順は、図6に示すように、検査方向をレール幅方向として渦流探傷プローブ11aを走査させて直線的な渦流探傷検査を行い、その後にレール長手方向に所定ピッチ移動させるという動作を繰り返すものである。
【0041】
ここで、図6に示すように、検査方向をレール幅方向として直線的な渦流探傷検査を行ったところ、図7(a)に示すような信号が検出された。また、図5に示すように、検査方向をレール長手方向として直線的な渦流探傷検査を行ったところ、図7(b)に示すような信号が検出された。なお、何れの場合にも、レール表面1aの検査対象となる範囲には、材質異常部や表面、内面の疵欠陥等が無いものを対象とした。
【0042】
レール幅方向に沿って直線的な渦流探傷検査を行った場合、図7(a)に示すように、レール表面1aの材質異常部等が無いにも関わらず、レール幅方向中央部の信号レベルが低く、レール幅方向端部に向かうに従って信号レベルが高くなるという結果が得られた。このように検査位置によって大きく信号レベルが乱れる場合、後述したような解析方法で材質異常部の判定を行うことが困難になってしまうため、上述した第二の走査手順は好ましくないということがいえる。
【0043】
一方、レール長手方向に沿って直線的な渦流探傷検査を行なった場合、図7(b)に示すように、レール表面1aの材質異常部等が無い部位において、レール長手方向の何れの部位においても安定した信号レベルを得ることができた。
【0044】
この違いは、図3(b)に示すようなレール1のレール長手方向に直交する断面形状が大きく影響しているものと思われる。即ち、レール1は、図3(b)に示すように、そのレール幅方向端部の厚みが薄く、そのレール幅方向中央部の厚みが極めて厚く形成されていることから、図7(a)で示すようなレール幅方向に沿った直線的な渦流探傷検査を行った場合は、検査位置によってその検査面に対する法線方向のレール1の厚みが異なることになる。一方、レール1は、図3(a)に示すように、そのレール長手方向の長い範囲に亘って厚みが一定で形成されていることから、図7(b)で示すようにレール長手方向に沿った直線的な渦流探傷検査を行った場合は、検査位置によらず検査面に対する法線方向のレール1の厚みが一定である。
【0045】
一般に渦流探傷法では、検査対象が存在すると推定される深さ方向の位置に応じて渦流探傷プローブ11aの励磁コイルに流す試験周波数を変化させることは知られている。例えば、レール表面1aを検査したい場合は試験周波数を比較的高くし、逆に、レール表面1aから深さ方向に離れた位置を検査したい場合は試験周波数を比較的低くする。
【0046】
しかしながら、肉厚の異なる試験体について肉厚の変化する方向に直線的な渦流探傷検査を行なう場合に生じる、図7(a)に示すような検査位置による信号レベルの乱れやその対策については知られていない。従って、このような検査位置による信号レベルの乱れに起因する問題を解決するため、本発明においては、渦流探傷プローブ11aによる直線的な渦流探傷検査を実行する際に、図7(b)に示すように,レール長手方向に沿って渦流探傷プローブ11aを走査させることとしている。
【0047】
また、本発明においては、レール表面1aの検査対象となる範囲のほぼ全範囲に亘って行なう渦流探傷検査を実現するため、渦流探傷プローブ11aから出力される信号の処理方法にも特徴を持たせている。
【0048】
図8(a)は、図5における方向R1に沿ったレール長手方向に直線的な渦流探傷検査を行なった場合に検出された信号を示す模式図であり、図8(b)は、図5における方向R2に沿ったレール長手方向に直線的な渦流探傷検査を行なった場合に検出された信号を示す模式図である。なお、何れの検査時においても、レール表面1aの検査対象となる範囲には、材質異常部や表面、内面の疵欠陥が無いもの対象とした。
【0049】
このように、渦流探傷プローブ11aをレール長手方向に走査させて直線的な渦流探傷検査を行うに際して、そのレール長手方向に走査させる場所がレール幅方向中央部である場合と、レール幅方向端部である場合との何れの場合においても、検出された信号レベルは安定した値であった。しかしながら、検出された信号レベルの絶対値は、材質異常部等が無い場合でもレール長手方向に走査させる位置に応じて大きく異なるという結果が得られた。
【0050】
このように検出される信号レベルの絶対値が検査位置に応じて異なる理由は、前述したのと同様であり、検査位置に応じてその検査面に対する法線方向のレール1の厚みが大きく異なる点が影響しているものと思われる。このように検査位置によって信号レベルが乱れる場合、前述したのと同様に、材質異常部等の判定を行なうことが困難となってしまう。
【0051】
従って、本発明においては、渦流探傷プローブ11aを検査対象となるレール表面1aにおいてレール長手方向に直交する方向であるレール幅方向に移動させた後から、レール長手方向に沿って渦流探傷プローブ11aを走査させる前までの間に、渦流探傷プローブ11aから出力される信号レベルのゼロ点調整を行うこととしている。この結果、直線的な渦流探傷検査を行なう位置がレール幅方向の何れの位置であっても、ほぼ一定の信号レベルを得ることができ、これによって、上述したような第一の走査手順を用いた場合でも後述の解析方法により材質異常部の判定を容易に行なうことが可能となる。
【0052】
以上の内容は、検査対象となる範囲がレール頭部1c及びレール脚部1eのレール表面1aである場合について説明したが、フラッシュバット溶接時には、図3(b)に二点鎖線で示すように、レール胴部1dの両側のレール表面1aに電極33を接触させる場合がありえ、レール胴部1dの両側のレール表面1aが検査対象の範囲になり得る。この場合においても、レール胴部1dの高さ方向中央部とレール胴部1dのレール頭部1cやレール脚部1e寄りの部位とで、検査面に対する法線方向のレール1の厚みが多少異なっている。このため、レール高さ方向に直線的な渦流探傷検査を行なうと安定した信号レベルが得られなかったり、レール長手方向に行なう直線的な渦流探傷検査時に検出される信号レベルの絶対値がレール高さ方向の位置に応じて異なる問題が生じ、前述したのと同様に、材質異常部の判定を行なうことが困難となる。
【0053】
このため、本発明においては、レール胴部1dの両側のレール表面1aを検査対象の範囲とする場合において、まず、レール長手方向に沿って直線的な渦流探傷検査を行い、続いて、検査対象となるレール表面1aにおいてレール長手方向に直交する方向であるレール高さ方向に渦流探傷プローブ11aを移動させ、続いて、渦流探傷プローブ11aから出力される信号レベルのゼロ点調整を行なうようにしており、これによって上述の問題を解決することとしている。
【0054】
本発明は、以上のような考え方に基づき案出されたものであり、以下、その手順について更に説明する。
【0055】
まず、図5に示すように、レール表面1aの検査対象となる範囲内のレール長手方向及びその検査対象となるレール表面1aにおいてレール長手方向に直交する方向Aの一端側にある隅角部1f上に、探傷検査補助具20を用いて渦流探傷プローブ11aを配置する。続いて、レール表面1aの長手方向に沿って渦流探傷プローブ11aを走査させることによって直線的な渦流探傷検査を行なう長手方向探傷検査ステップを実行する。続いて、渦流探傷プローブ11aを方向Aに移動させるプローブ移動ステップを実行する。続いて、渦流探傷プローブ11aから出力される信号レベルのゼロ点調整を行なうゼロ点調整ステップを実行する。
【0056】
これらの長手方向探傷検査ステップからゼロ点調整ステップまでの一連のステップは、レール表面1aの検査対象となる範囲のほぼ全範囲が渦流探傷検査されるように、その検査対象となる範囲のほぼ全範囲において繰り返し実行する。ここでいう長手方向探傷検査ステップは、図5中の実線の矢印に沿って行なわれ、プローブ移動ステップは、図5中の点線の矢印に沿って行なわれ、ゼロ点調整ステップは、図5中の丸印の記載位置において行なわれることになる。
【0057】
ここで実行する長手方向探傷検査ステップからゼロ点調整ステップまでの一連のステップの繰り返しは、例えば、図5に示すように、一連のステップを行なう毎に、長手方向探傷検査ステップでの渦流探傷プローブ11aの走査方向を逆向きとしつつ繰り返すことによって行なうようにする手順が挙げられる。また、この他にも、図9(a)に示すように、一連のステップを行なう毎に、長手方向探傷検査ステップの走査開始位置が方向Aの略同一直線上に並ぶように、プローブ移動ステップの移動方向を調整するようにしてもよい。また、この他にも、一連のステップを行なう毎のプローブ移動ステップでの渦流探傷プローブ11aの移動量を図5に示すように所定ピッチとせず、図9(b)に示すように一連のステップを行なう毎に変化させるようにしてもよい。因みに、図9(b)に示す走査手順では、長手方向探傷検査ステップからゼロ点調整ステップまでを、渦流探傷プローブ11aによる移動軌跡が渦巻状を描くように繰り返すことになる。このように、本発明における渦流探傷プローブ11aの走査手順は、検査対象となる範囲のほぼ全範囲が渦流探傷検査できるのであれば、特に限定するものではない。
【0058】
なお、上述の一連のステップの繰り返しを実行するに際して、検査位置によってはレール表面1aに曲率があるため、プローブ移動ステップを実行する毎に渦流探傷プローブ11aがレール表面1aから離間するケースがあり得る。このため、長手方向探傷検査ステップを開始する毎に、プローブ高さ調整機構によって渦流探傷プローブ11aがレール表面1aに一定の圧力で押し当てられるように駆動させることが好ましく、これによって、レール表面1aに曲率があっても安定して検査を実行することが可能となる。
【0059】
ここで行なうゼロ点調整ステップは、渦流探傷装置11に外部制御装置13を接続したうえで、外部制御装置13により行うようにしてもよいし、外部制御装置13でゼロ点調整ステップを実行することが困難である場合等は材質異常部判定装置17によって行なうようにしてもよい。ゼロ点調整ステップを行なう場合、例えば、長手方向探傷検査ステップの開始時における信号レベルをゼロに補正し、次の幅方向移動ステップを行うまでに検出される全ての信号レベルを、当該補正量で修正する処理を行うようにすればよい。この他に、渦流探傷方法で一般に利用されているプリッジ回路内の可変抵抗器のインピーダンスを、ゼロ点調整ステップを行なう毎に変化させてブリッジ回路を平衡状態にするようにしてもよいし、公知の如何なるゼロ点調整手段を適用するようにしてもよい。
【0060】
渦流探傷プローブ11aから渦流探傷装置11に検出された信号は、デジタルデータ化された後、データレコーダ15に記録され、その後にこのデータレコーダ15を経由してデジタルデータとして材質異常部判定装置17に記録される。
【0061】
材質異常部判定装置17で記録された信号データについては、次のような解析処理が実行される。まず、図10に示すように、検出される信号レベルについて、予め材質異常部を判別するためのしきい値V1を設定しておく。そして、渦流探傷プローブ11aにより検出された信号レベルとこのしきい値V1とを比較し、しきい値V1を超える信号レベルが検出された部位に材質異常部が有るとして判定する。図10に示す例では、範囲Raの信号レベルが検出された部位に材質異常部が有るとして判定する。
【0062】
この信号レベルに基づき判定した材質異常部の有無についての情報は、検査対象となる範囲内における渦流探傷プローブ11aの位置情報と対応付けるようにし、これによって、検査対象となる範囲内における材質異常部の発生範囲や大きさを示す二次元的な分布情報を求めることができる。
【0063】
ここで設定するしきい値V1については、材質異常部を有するサンプルを複数用いて事前に渦流探傷検査を行い、その材質異常部の渦流探傷検査時に実際に検出された信号レベルに基づき求めるようにすればよい。ここでサンプルから求められたしきい値V1は、材質異常部判定装置17内において予めテーブル値として記憶しておけばよい。
【0064】
レール表面1aの検査対象となる範囲内の検査終了後には、検査結果として、材質異常部の有無や、これが有る場合は発生範囲や大きさを示す二次元的な分布情報、更には個数等を、図11に示すように、材質異常部判定装置17のディスプレイ17a等に画面出力したり、材質異常部判定装置17等に保存するようにしてもよい。この際に、検査日時、検査体識別ナンバー等も併せて画面出力、保存等してもよい。なお、図11においては、図3(a)において電極33がレール1に対して接触している、図中左側のレール1Aと右側のレール1Bとのレール頭部1c及びレール脚部1eのレール表面1aの計4箇所について検査を行なった後の検査結果を示している。
【0065】
また、検査者に注意喚起を促し安全性を高める観点から、材質異常部があると判定された場合にアラーム表示、アラーム音を同時に出力する機能を材質異常部判定装置17又は他の装置に持たせることが好ましい。また、これら材質異常部の検査結果についての情報を蓄積し、検索可能とするため、材質異常部判定装置17や他の装置にこれらの機能を持たせることが好ましい。
【0066】
このような本発明に係るレール表面1aの材質異常部判定方法によれば、渦流探傷検査時における検査対象となる範囲をレール表面1aの二次元的な範囲としたうえで、この範囲内に発生する材質異常部を目視確認を伴うことなく自動、且つ、高精度に判定することが可能となる。このため、軌道用鋼製レール1の品質管理が容易となり、その使用中に繰り返し荷重が作用した場合に懸念される材質異常部を起点とした破壊による重大事故の発生を未然に防止することが可能となる。また、レール表面1aに発生した材質異常部の発生範囲や大きさを示す二次元的な分布情報を把握でき、さらにはこれら材質異常部に関する情報の収集、保存、蓄積を容易に行うことが可能となる。
【0067】
次に、本発明に係る材質異常部判定方法を適用した場合の検査対象となる範囲の好ましい範囲について説明するため、先ず、フラッシュバット溶接がどのように行なわれるか説明する。
【0068】
図3(a)は、二つのレール1のレール長手方向端部同士をフラッシュバット溶接する際の状態を示す斜視図であり、図3(b)はその正面断面図である。図4は、フラッシュバット溶接が完了した後のレール1の状態を示す斜視図である。
【0069】
二つのレール1をフラッシュバット溶接するに際しては、まず、図3(a)に示すように、二つのレール1のレール長手方向端部同士を突き合せて配置した後、各レール1を挟むように二つの電極33を互いに対向する方向から押し当てる。
【0070】
続いて、各電極33に接続された電源装置31による制御の下、二つのレール33のレール長手方向端部同士を近づけて軽く接触させ、各レール1間に大電流を通電させることによってレール長手方向端部間にフラッシュを発生させて、レール長手方向端部を加熱する。レール長手方向端部同士の接触、加熱をある程度繰り返してレール長手方向端部を十分に溶融させた後に、一方のレール1に対して他方のレール1を圧接させ、これによってフラッシュバット溶接が完了し、レール長手方向端部間に溶接部3が形成される。
【0071】
ここで、本実施形態のようにレール1をフラッシュバット溶接するに際しては、上述したように、電極33とレール1間において部分的な電流集中や放電が生じることに起因して材質異常部が発生する可能性がある。このため、検査対象となる範囲は、電極33とレール1とが接触する範囲S0を少なくとも含むような範囲にすればよい。
【0072】
ここで、この検査対象となる範囲は、図4に示すように、レール長手方向の範囲Saについては、電極33とレール1とが接触する範囲Sa1と、これからさらに溶接部3側へ10mm以上30mm以下の間隔を空けた部位までの範囲Sa2とを合わせたものとすることが好ましい。範囲Sa2を範囲Sa1から溶接部3側へ10mm以上としたのは、電極33の溶接部側端面33aとレール表面1aとの間でも放電が生じる場合があり、検査対象となる範囲がレール長手方向の範囲Sa1のみであると、このような放電により生じる材質異常部を見過ごす可能性があるためである。また、範囲Sa2を範囲Sa1から溶接部3側へ30mm以下としたのは、一般に電極33から溶接部3までの距離は50mm〜100mm程度空けられているが、範囲Sa1から溶接部3側へ30mmを超えて溶接部3に近づきすぎると、溶接部3の熱影響により不可避的に材質が変化してしまう部位と、放電及び電流集中による材質異常部との識別が困難になるためである。また、この場合の検査対象となる範囲のうち方向Aの範囲Sbについては、電極33とレール1とが接触する範囲とすればよい。
【0073】
検査対象となる範囲をこのように調整することによって、レール1をフラッシュバット溶接する際に生じ得る材質異常部の大半を漏らすことなく確実に検出することが可能となる。また、検査対象となる範囲をこのように調整することによって、検査対象となる範囲が過度に広くなるのが抑えられ、検査時間の短縮を図ることが可能となる。
【0074】
また、フラッシュバット溶接時においては、レール頭部1c及びレール脚部1eのレール表面1a、又はレール胴部1dの両側のレール表面1aの二箇所に対して各レール1毎に電極33を押し当てることになる。このため、これら電極33を押し当てた箇所全てを検査対象の範囲とすることが好ましい。
【0075】
また、レール表面1aのレール長手方向に沿って渦流探傷プローブ11aを走査させるに際しては、安定した検出能を得て検出精度を向上させるために等速度で走査させることが好ましい。
【0076】
また、渦流探傷プローブ11aの移動速度は、渦流探傷装置11、渦流探傷プローブ11aの検出能や、レール表面1aの粗さにもよるが、10〜200mm/sec程度とすることが好ましい。また、図5に示すような走査手順で渦流探傷プローブ11aを走査させる場合、プローブ移動ステップ毎の渦流探傷プローブ11aの方向Aへの移動ピッチは、3〜20mm程度とすることが好ましい。
【実施例1】
【0077】
次に、本発明の効果についてその実施例1〜3とともに説明する。なお、以下において説明する実施例1〜3で用いた条件は一例であり、本発明は、これら条件に限定されるものではない。
【0078】
本実施例1においては、下記に説明するような条件の下、レール表面1aについての非破壊検査を行うこととした。この非破壊検査による検査対象としては、フラッシュバット溶接後に少なくとも電極接触範囲内に材質異常部があることが目視確認により確認できるレールを用いることとした。また、本実施例1では、下記の表1に示す他の条件の下、検査を行なうこととした。試験結果は、電極接触範囲内にある材質異常部の総てを検出でき、且つ、目視確認により確認された材質異常部以外も検出してしまう過検出が生じないか否かによって評価することとした。
【0079】
【表1】

【0080】
なお、表1における「検査方向」が「レール長手方向」であるものは、図5に示すような走査手順によって渦流探傷プローブ11aを走査するものとし、「レール幅方向」であるものは、図6に示すような走査手順によって渦流探傷プローブ11aを走査するものとした。また、渦流探傷検査時における検査対象となる範囲は、図4に示すような範囲S0の電極接触範囲に対して、溶接部側へ0〜100mmの範囲Sa2を合わせた範囲にすることとした。また、渦流探傷プローブ11aから検出された信号データに対して上述のような解析処理を実行することによって材質異常部を判定することとした。
【0081】
実施例1の試験結果について説明する。試験No.A−2は、検査方向をレール幅方向として直線的な渦流探傷検査を行なっているため、材質異常部の有無に依らず信号レベルが大きく変動してしまい、材質異常部の検出が不可能であった。試験No.A−3は、プローブ移動ステップ終了後から長手方向探傷検査ステップ開始前までの間にゼロ点調整ステップを行なわなかったため、レール長手方向に直線的な渦流探傷検査を行なう検査位置によって信号レベルが大きく変動してしまい、材質異常部の検出が不可能であった。
【0082】
これに対して、試験No.A−1は、上述した本発明についての各条件を満たしているため、電極接触範囲内にある材質異常部の総てを検出することが可能であった。
【実施例2】
【0083】
次に、実施例2について説明する。本実施例2においては、実施例1の条件と異なり、非破壊検査による検査対象として、フラッシュバット溶接後に電極接触範囲の他に、電極接触範囲より溶接部側にも材質異常部があることが目視確認により確認できるレールを用いることとした。また、本実施例2では、下記の表2に示す他の条件の下、検査を行なうこととした。試験結果は、電極接触範囲とこれより溶接部側にある材質異常部の総てを検出でき、且つ、目視確認により確認された材質異常部以外も検出してしまう過検出が生じないか否かによって評価することとした。
【0084】
【表2】

【0085】
実施例2の試験結果について説明する。試験No.B−2は、検査対象となる範囲が、図4に示すような範囲S0のみであったため、電極接触範囲より溶接部側にある材質異常部の検出が不可能であった。試験No.B−3は、検査対象となる範囲が、図4に示すような範囲S0の電極接触範囲に対して、溶接部側へ100mmの範囲Sa2を合わせたものとなっているため、電極が原因となって生じた材質異常部の他に、溶接部3の熱影響により不可避的に材質が変化してしまう部位も検出される過検出が生じてしまった。
【0086】
これに対して、試験No.B−1は、上述した本発明についての各条件を満たしているため、電極接触範囲とこれより溶接部側にある材質異常部の総てを、過検出が生じることなく検出することが可能であった。
【実施例3】
【0087】
次に、実施例3について説明する。本実施例3においては、下記の表3に示す条件の他は、実施例1の条件と同じ条件の下で非破壊検査を行うこととした。試験結果は、実施例1の条件と同じ条件の下で評価することとした。
【0088】
【表3】

【0089】
実施例3の試験結果について説明する。試験No.C−2は、直線的な渦流探傷検査を行なう際の渦流探傷プローブの移動速度が等速度ではないため、信号レベルが不安定なものとなってしまい、材質異常部のうちの一部について検出が出来なかったり、材質異常部のない部位についても材質異常部があると検出される過検出が生じてしまった。
【0090】
これに対して、試験No.C−1は、上述した本発明についての各条件を満たしているため、電極接触範囲にある材質異常部の総てを、過検出が生じることなく検出することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る軌道用鋼製レールの非破壊検査方法は、例えば、軌道用鋼製レールのフラッシュバット溶接を行う溶接工場又は現地溶接現場において、レール表面に生じる材質異常部の検査時に用いることができる。
【符号の説明】
【0092】
1 : 軌道用鋼製レール
3 : 溶接部
10 : 非破壊検査システム
11 : 渦流探傷装置
11a: 渦流探傷プローブ
13 : 外部制御装置
15 : データレコーダ
17 : 材質異常部判定装置
20 : 探傷検査補助具
21 : 外側ガイド枠
23 : 内側ガイドバー
23a: スライド部
25 : プローブ保持装置
25a: スライド部
33 : 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラッシュバット溶接により直列に接合された複数の軌道用鋼製レールの表面に生じる材質異常部を渦流探傷プローブから出力される信号に基づいて検出する軌道用鋼製レールの非破壊検査方法において、
前記レール表面のレール長手方向に沿って前記渦流探傷プローブを走査させることにより直線的な渦流探傷検査を行ってから、前記レール表面において前記レール長手方向に直交する方向に前記渦流探傷プローブを移動させ、その後に前記渦流探傷プローブから出力される信号レベルのゼロ点調整を行うまでを、前記レール表面の所定範囲において繰り返し実行することによって、当該所定範囲についての渦流探傷検査を行うこと
を特徴とする軌道用鋼製レールの非破壊検査方法。
【請求項2】
前記渦流探傷検査をすべき所定範囲を、レール長手方向についてはフラッシュバット溶接時に電極とレールとが接触する範囲と、これからさらに溶接部側へ10mm以上30mm以下の間隔を空けた部位までの範囲とを合わせたものとし、前記レール表面において前記レール長手方向に直交する方向についてはフラッシュバット溶接時に電極とレールとが接触する範囲とすること
を特徴とする請求項1に記載の軌道用鋼製レールの非破壊検査方法。
【請求項3】
レール長手方向に沿っての走査時における前記渦流探傷プローブの移動速度を等速度とすること
を特徴とする請求項1又は2に記載の軌道用鋼製レールの非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−145108(P2011−145108A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4229(P2010−4229)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】